難民キャンプに着いてから夜を挟み調査2日目、実質初日ではあるが昨日も少しは情報を手に入れたので2日目で良いだろう。
俺はアーニャと一旦別れ、仕事があるという場所まで向かっていた、別れて行動するのはリスクがあるがアーニャも軍人だ、下手な人間相手には負けたりはしないだろうしあまり心配し過ぎて操作が滞っては本末転倒だ、ここはちゃんと割り切って任務に当たろう。
10分程歩いて辿り着いたのは山岳地帯に繋がる森林だ、並べられている木材を見る限りどうやら木材の伐採をしているっぽいな。
ただ気になるのはどうやってそれをしているかだ、重機は殆ど見当たらない割にこの辺の区画は最低限ではあるがそれなりの整地がされている。
気になっていると答えはすぐに分かった。
「モビルスーツか……。」
ノーマッドの航空写真からでは確認出来なかったがどうやら崖をくり抜いたスペースにモビルスーツが置かれていたようだ。しかも2機もある。
それにしても……問題はその機体だ。
「ザニーか。とんだ骨董品が出て来たもんだなぁ……。」
懐かしい機体だ。生産数なんて全くないと思っていたがこんな所にまで眠っていたとは……恐らくは何処かに乗り捨てられたか廃棄された機体を引き取ったのだろう、武装は無いしあちこちにガタが来ているが作業で使うなら問題無いレベルだろう。
「あぁ!?乗り手が来ねえとはどう言う事だ!」
「はあ、どうやら昨日出来の悪い
「くたばってます、じゃねえだろ!モビルスーツが動かさなきゃ意味ねえだろうが!」
怒鳴り散らす声が響き渡る。これだけ声が大きいと何が起きたかも簡単に分かるのは有り難いが……どうやら本来このザニーを動かしてた乗り手が使い物にならなくなったみたいだ。しかしこれはある意味チャンスだな。
「すいません、俺新入りなんですけど前にモビルワーカーなら動かした事あるんですが……。」
俺は現場長らしきガタイの良い親方にそう告げる。彼は一旦俺を品定めするように見回すと「ふむ……」と呟き表情を和らげた。
「モビルスーツとモビルワーカーじゃ、細かい所が違うと思うが試すならタダだしな。試しに動かして見るか兄ちゃん?」
「ハイ!」
許可は貰えた、後は乗りながら抜き取れる情報があればそれを抜き取りたいが……。
「まずはシステムの起動からだな。しっかし本当に懐かしいよなぁ。」
機体を起動させている最中にコクピット周りを見渡す。アーニャが用意したザニーの頭部を付けたザニーヘッド、思えばあれが俺の最初の愛機だったんだよなぁ。
コクピット周りも、ザクを真似ただけあってザニーとは殆ど差がないし、ザニーヘッド搭乗時でもアーニャのザニーにも何度か乗せてもらってテストしたこともあるし見知った内部だ。
あの頃の懐かしさを感じているとモニターが点々と点き始める。
こりゃ酷い、メインモニターはメインカメラがオンボロなのか少し欠落して見えない箇所がある。まぁ作業に使う分には許容レベルだが……。
『システム立ち上がりました、動かすのに少し時間をください。』
「おう!」
拡声器で親方にそう告げる、ぶっちゃければ今すぐにでも動かすのは簡単だがあまりにもあっさり動かしたら怪しまれるし少しの時間でも調べられる事はある。
「まずは……っと。」
まずは機体に使われているOSの確認だ。これなら時間も掛からず確認できるし、この期待がいつ頃軍で使われなくなりここに流れついたのかとかも分かる。
もしもテロリスト組織が製造したものであれば使用しているOSの規格が違うタイプの物になっている可能性だってある。ザニー自体が簡単な構造なので非正規品を造る事はある程度の技術があれば難しくないからだ。
まぁザニー自体が存在がザクの非正規品みたいな側面もあるが……。
っとそんなことを考えていると機体の基本データが表示される。
そこからOSの仕様を確認すると……。
「連邦製OS……しかも
これが比較的最新のOSだったり非正規のOSであれば入手経路から何か得られただろうがこれでは多分本当に廃棄されていたか不必要になった機体を譲られたかのどっちかだろう、ますます俺の中でこの難民キャンプとニュータイプ教団というところの繋がりは薄れていく。
まず彼らは自給自足で生活しているので宗教的な救いを求めているようには見えない、そして彼らから何かを提供されているようにも感じない……それも初期に連邦政府から渡された資金でやりくりしてる様に見えるのが一因だ。
このザニーだって今連邦から離脱してニュータイプ教団と繋がった連中がいれば最低限の整備だって行えているだろう。
決めつけるのは時期尚早かもしれないが、平和そうに暮らしている彼らを邪魔したくないという気持ちもある。世界が少しでもマシになればこんな所で厳しく生きる必要性も無くなるはずだ。
その為に俺達がやらなきゃいけない事は危険分子の排除、そして宇宙世紀の確執とも言えるアースノイドとスペースノイドの差別との戦い……未来を生きる者達が憂いのない世界にする為に……。
「おーい!まだ動かせねえかぁー!?」
親方から急かす声が聞こえる、長く考え事をするのはいつもの悪い癖だな。
『すいません!多分いけます!』
ゆっくりとザニーを動かす、オンボロもオンボロに見えるが腐ってもモビルスーツだな、戦闘機動はギリギリとできるかと言った感じだが、普通に作業に使う程度な余裕だろう。
『動かせました!作業指示をお願いします!』
その後指示に従って木を引き抜いたり邪魔になる岩石をどかせたりと普段のMSとは違う使い方で仕事をする。
違う使い方、……いや、これが本来モビルスーツのあるべき姿なんだろうな。
戦うだけに使うのではなく、誰かの役に立つ為に、人間の代わりに動くことがあるべき姿なのかもしれない。
それから数時間経ってひと段落した事もあり休憩に入る、その時だ。
「ん……?」
視線を感じる、何か強い感情をこちらに向けているような……。
その方向へ顔を向けると1人の少女が物陰からこちらを見ていた。
「……!」
俺の視線に気付くと走って去って行く。
「なんだ……?」
このキャンプの誰かの子供か?いや、それにしては少し違和感を覚えた。
「変な感覚だな、まるで戦場にいる時みたいな渦巻いた感情を感じたのは気のせいか?」
いや、気のせいじゃないとも言えないか。
ここにいる人達の背景は色々あるだろう。憎しみや恐怖、絶望などの負の感情だって持ってる人達は多い。モビルスーツともなれば大切な誰かの命を奪っている可能性も高いし敵意を持ってても不思議ではない。
「おーい兄ちゃん!助かったぜ!これは今日の給料だ、作業効率も良かったし報酬は少し上乗せしたぜまたよろしくな!」
「ありがとうございます!」
取り敢えず今日の作業は終わりみたいだ。
一応モビルスーツがある事とその機体の状況は有用な情報だろう。後はアーニャの方がどんな情報を手に入れたかだな……。
ーーー
「ふぅ……収穫は全くありませんね。」
ジェシーと別れ、キャンプのバザーの探索を始めて、はや半日が経つが実りは少ない。
碌に確信のないまま行われている調査、大きな成果など最初から期待してはいなかったがここまで何もないと、この様な難民を生み出している自分達の無能さばかり噛ましめるばかりだ。
宗教という存在が薄れている宇宙世紀、かつてのキリスト教やイスラム教、仏教などの宇宙世紀以前は主だっていた信仰は、今や極一部の信者が残っているくらいだ。
宇宙世紀になって以降、神の存在が宇宙にすら存在しないと実感した者は多く、そして先の大戦によるコロニー落としで救いなど何処にも存在しないと体感した人達には信仰は無縁な存在になっている。
しかし、だからこそ『神』に縋るのでなく、『神』に成ろうとする新興宗教はこの時代にこそ有用と言えるだろう。
あくまで私の私見、或いは私がその様な宗教を立ち上げて「ニュータイプ教団」と名乗り活動するのであれば、人々をニュータイプという一種の求道者に至らせる事で神に等しい新人類へと誘うよう動くだろう。
それで無くても、戦争で貧困になった人々に慈悲を持って接すれば、籠絡は容易い。人はいつだって救われたいのだから。
「……?」
何か不思議な感覚に襲われる。色々な感情が混ざったような……?
辺りを見回すと、こちらを見つめている少女がいた。
「……!」
私の視線に気付くと少女は駆け足で去って行く。
「ま、待ってください……!」
早足で少女の後を追うが、器用に人混みを駆けて逃げて行く少女に距離を離されて見失ってしまう
「あの子は一体……?」
何か異質な気配を感じる少女だった。もしかしたら何かの手掛かりになるかとも思ったが……。
「……一筋縄ではもしかしたらいかないのかもしれませんね。」
何かがあるのかもしれない、心の中にそう感じた。
ーーー
その日の夜、難民キャンプの顔役達は週に何回かの集会を開いていた。
それは今後の活動やこのキャンプの運営に問題が無いかを話す程度の、真っ当な話し合いの場であった。
「取り敢えず今月も無難にやり過ごせそうだな。」
「あぁ、少しばかり食料品を集めるのには手間がかかるがな。金はあっても物がねぇとなると、やはり畜産にも手を伸ばさなきゃならない。」
「家畜を多少買い足すか。昔は牛なんかは農耕にも使っていたらしいし多少の労働力にもなるかもしれないしな。」
各々はそれぞれ思い思いに喋る。
連邦政府からは見捨てられはしたが、それでもここでの生活は世を捨てて暮らすには十分だと感じる者が多かった。
争いの続いた日々を少しでも忘れられる、働く事に精一杯で辛い現実から目を背けられる。
動機はそれぞれだが不満を持つ者は少なかった。
「そういや昨日入ってきた新顔だが男の方はモビルワーカー乗りだったみたいでな、林業で使ってるポンコツを無難に乗りこなしてたぞ。ありゃ役に立ちそうだ。」
「良かったじゃねえか。これで木材加工でも出来りゃそれを売って金にも出来るんだがなぁ。あれもこれも揃えようと思うと金が厳しくなるのが辛いところだな。」
「金……か。連邦から貰った金も有限じゃねえしな。下手な資金運営は出来ないよなぁ。」
いずれは街にする、それくらいの長期運営を目指した考えでみんなは動いている。
だからこそ限りある資金は大事にしなければ……そう考えていると一人の男がテントの幕を開ける。
「これは……
「ええ、先程。支援金の方が募りましたので。」
神父と呼ばれた男は大きなケースを顔役達の前に差し出す。
「そんな……受け取れませんよ神父様。俺達にはこれを受け取る資格はありゃしません。」
「その様な事は仰らず。我が神は万人に救いの手を差し出すのです。教えに恭順する、しないは関係ありません、必要な者に救いを与えるのがその使徒たる我々の責務なのです。」
「しかし……。」
「では、言い方を変えましょう。貴方達に投資する、その様に考えてみては如何でしょう。私達が支援し、貴方達は復興していく。状況が良くなった時に我々の教えに共感する者が出れば信徒になって頂く、或いは街となった時に隅にでも教会を建てて頂くと言うのでもよろしいです。それならば問題ないでしょう?」
男は淀みなく、そして大きな声で無いにも関わらず力強さを感じるような声でそう彼らに告げる。
「それならば……。」
一応の建前を得たことで、彼らもまた納得をする。
「では、お受け取りください。我らが神もそれを喜ぶでしょう。あぁ、それと。」
「どうかなされたので?」
「このキャンプで身寄りのない女の子を見かけはしませんでしたか?私のような髪の色をした。」
顔役達は顔を合わせる、しかし誰もが頭を横に振った。
「ここらの子供で親といないで生きてくのは無理があるでしょうし、そんな子がいたら俺達の誰かが気づいてると思うので多分おらんでしょうな。その子がどうかしたので?」
神父の男はニコリと笑い答えた。
「いえ、近くの街で行方不明の少女がいると聞いたので。もしかしたらと思いまして。……それでは私はこれで失礼します。」
「待ってください神父様。もう夜も遅い、出歩くのは危険です。泊まって行かれては?」
「まだ他に立ち寄る所もありますので、またの機会に。」
こんな夜も遅くに何処へ、と男達は感じたが無理に止める理由もない為そのまま見送る事にした。
「それでは……皆様
そして神父と呼ばれた男は暗闇に消えて行った。
ーーー
「それで、何か収穫はあったかアーニャ?」
一日もそろそろ終わる、夕飯を食べ終わった後で俺たちは各々の活動報告に入っていた。
「あまり……昨日とは別の所も探索しましたがやはり宗教的なシンボルはおろか祈りを捧げるような事をする人もあまりいませんね。やはりニュータイプ教団とは関係のないキャンプの可能性が高いですね、ジェシーの方はどうでしたか?」
「俺の方も大した結果は無かったよ。だがここにはオンボロながらMSが2機、それもザニーがあった。」
「MSが?ノーマッドの航空写真からでは確認出来ませんでしたが……。」
「あぁ、上手く隠れてたみたいで岩肌を切り抜いたようなスペースに置いてあったんだよ。作業用に使ってるみたいでな、たまたま正規の乗り手が休んでたからモビルワーカー乗りって事にして乗らせてもらった。」
「OSなどの仕様は?非正規のものであれば何処から手に入れたか問い詰めればそこから糸口が掴めるかもしれません。」
「いや、俺も確かめたが一年戦争の頃のOSだった。恐らく廃棄されたか不要になったのを譲られたかだろう。中身もかなりガタが来てた、整備も殆ど碌にされてないよ。」
「……となると本当に行き詰まりですね。まだ調査が始まって数日ですが、早めに切り上げて別の場所を捜索した方が良いのかもしれません。」
「そうだな。ここの人達は過酷な生活の中でも自立して生きている。それを俺達が不必要に関わって何かあればそれこそ迷惑になる……。」
いずれ連邦政府を通してちゃんと救済するにしても、今はまず彼らの脅威にも成りかねない教団の調査を優先しなければならない。
そう思った直後だった。
ドドドドド────!
「……!?なんだ!」
「これは……MS用のマシンガンの音!?」
聞き慣れた、と言うには少しおかしいが、今まで何度も聞いてきた音だ。
だが問題は……!
「逃げろー!全員起きるんだ!敵だ!敵襲だ!」
大声で叫びながら走り回り声を掛ける男性達、どうやら此処が攻撃されているのは間違いないようだ……!
「アーニャ!フォズ大尉達に緊急通信を!」
「分かりました……!…………っ!ダメです!電波妨害されています、これは……!」
「ミノフスキー粒子が散布されていると言うことか!?……だがノーマッドは何をしている!ここに接近しているMSがいたなら気づく筈──っ!」
そこまで声が出て、スパイがいる可能性を疑った。
もしもこれが俺達諸共始末するための偽の作戦指示だったとしたら……。
「ジェシー!今はそれよりも避難を先にしなければなりません!早く動きましょう!」
「あぁ……!だが!ここの人達も護らなければいけない!こっちだアーニャ!」
暗闇の中、目的地へと向かいひたすら走る。その最中にも銃撃が鳴り止まずあちこちで悲鳴が聞こえる。
「クソ……!これ以上好きにはさせない……!」
「ジェシー、一体どこへ……!……っ、ここは……!」
鎮座しているザニーが2機。そう、俺が朝いた場所だ。
「これで敵を引き付ける!いいなアーニャ!?」
「え、えぇ!心許ない機体ではありますがそうも言ってられる状況ではありませんからね……!」
急いでザニーへと乗り込む為にコクピットハッチへと駆け上がりコクピットハッチを開く、そこには既に灯りが入っていた。
「……!誰……!」
「君は……!?女の子!?」
休憩する前に俺を見ていた女の子だ、どうやらコクピットの中でスイッチを弄り回してなんとか動かそうとしていたみたいだ。
「そこを退くんだ!これは俺が動かす!」
「嫌だ!これは私が……!」
「俺は軍人だ!良いからそこを退くんだ!」
今からではコクピットの外へ降ろすのも危険だ、シートに座ると同時に女の子を俺の上に乗せてベルトを閉める。
「……っ!」
「少しキツイかもしれないが我慢してくれ!アーニャ、そっちはどうだ!」
「待ってください……!今起動しました!」
ゆっくりと起き上がるザニー、モニターが映り込むと光学カメラが敵を捉える……それは……!
「クソ……!メガセリオン初期型にジム……!コイツら連邦を離反した連中か……!」
一部の部隊が丸ごと離反したとすらジャミトフも言っていた、既に何度も宇宙でも地上でも同じように離反した者達と戦っている……だが……!
「虐殺を許すわけにはいかない!」
越えては行けないラインがある、兵士としてではなく、人間として。
それを越えてしまった者達には罪に対する罰を与えなければならない。
「行くぞアーニャ!此処の人達を護る!」
「えぇ!」
「ジェシー・アンダーセン!ザニー、発進する!」