『邪魔になりそうな奴は殺せ!物資には手をつけるなよ!』
一機のジムは隊列から離れ、避難民に向けてバルカン砲を放つ、響き渡る悲鳴に下卑た笑いを浮かべながら進軍していく。
『ヒャハッ!女は殺すなよ!後で楽しませてもらうからなぁ!』
逃げ惑う人々を弄ぶように行く先を踏みつける。
最早彼らにかつて持っていた信念や矜恃などは無い、あるのはただ欲望だけだった。
『さぁて、まずは一匹!やらせてもらうぜ!』
逃げる人の群れに向け、ジムが恐怖を与える為にわざとらしく大きく足を上げる。
今から踏みつけるぞと煽る様に。
だからこそ、隙を狙われる。
ーーー
「やめろぉぉぉ!!!」
ジムの軸足となっている方の足に向け移動し蹴りを入れる、ジムは大きくバランスを崩し横転した。
『な、なんだぁ!?』
「この……屑共が!」
ジムが横転したと同時に、武器代わりに持っていた大きな丸太をメインカメラへ大きく振りかざす。丸太は砕け散るが、敵のメインカメラも損傷した。
「アーニャ!」
ジムの持っていたマシンガンをアーニャへと投げ渡す。
本来このままでは武器の認証システムにより旧型のザニーでは古い認証システムの為新しい装備はそのままでは使用出来ないがアーニャはマニュアル操作で安全装置を解除し手動操作に変更するとマシンガンを放ちジムの片腕と片足の関節部を即座に破壊する。
「ジェシー!パターン3-7-1で動きます!」
「了解!」
それはリング・ア・ベル隊独自の戦闘パターンのコードだ、MS運用試験部隊としての側面も持っている俺達は様々な環境、隊列、行動パターンを構築しそれを頭の中に全て入れている。
このパターンは……。
「お嬢ちゃん!舌を噛むなよ!今から暴れ回るからな!」
「──ッ!」
攻撃役が突出して、敵を牽制してる最中に援護役が仕留める。それが大雑把ではあるが今の指示だ。
少女がしっかりと歯を噛み締めるのを確認すると、目前に確認できるMSの数を数える。
「ジムが三機、……機種識別不能、そしてメガセリオンが二機……!」
本来であれば先程倒したジムも含めたジム四機が迎撃用、機動性に優れたメガセリオン二機が突撃用の残党殲滅用の部隊であったのだろう。
その布陣は現在の地上軍の部隊運用のパターンの一つだ、となれば……!
「先ずはメガセリオンに仕掛ける!」
少し不安定な挙動をするザニーに不安を感じながらも暗闇に乗じて敵のサーチライト外へと回り込む。
『なんだ!?カルロがやられた!何処かに敵がいるぞ!』
『敵だと!?
敵の動きが此方を捉えようとする動きに変わった、早急に対処しなければこの機体ではやられてしまう。
奇襲というアドバンテージを活かせ……!ジェシー・アンダーセン!
「うおおおおお!!!」
比較的大きな木を引き抜き、敵のメガセリオンへ向けて投擲する。
こんな戦法は実戦では初めてだがクロエが用意したシミュレーションで武器の使用が困難な場合のMSのゲリラ戦を想定した戦闘を何度か経験していたおかげで何とか上手く立ち回る事ができている……!
問題は……、これが上手く敵に通用するかどうかだ!
『クッ……!何だ!?』
放った木はMSに対しては殆ど無力だ、先程みたいに脆いカメラなどの部分を狙えればチャンスはあるが基本的に胴体にヒットした所で機体に目立った被害は与えられない。
……だが、それは攻撃している方の認識では、だ。
対MS戦闘中、しかも夜間で視界が不明瞭な状況で死角から機体に衝撃が与えられたら基本的にパイロットは何かしらの有効打を与えられたと感じるだろう、これはどちらかと言うと心理戦の類いだ。
そして、案の定と言うべきか、得体の知れない攻撃を受けたメガセリオンは必要以上に大きく動く。
その隙は見逃さない──!
「これで……!」
バランスを崩したメガセリオンを先ほどのジムの要領で再度薙ぎ倒すように押し倒す。
人型である故に柔道のような体勢を崩す技は近接戦、それも地上戦なら有効だ。
その瞬間をアーニャは見逃さずにまた追い討ちをかける。
「……凄い、これなら……!」
少女が小さく囁いたが何を言ったかまでは聞こえなかった。
これで敵の二機は無力化、そしてこちらはマニュアル操作になるが遠距離用の武器を手に入れた。
『ダニーがやられた!……よし!敵が見えたぞ!』
「チッ……!」
こちらを補足された。遅かれ早かれではあるが、奇襲と言うアドバンテージを活かせるだけ活かしておくにはせめて後一機は墜としたかったが……!
『機体識別完了!……なんだぁ?敵が使ってるMS、ザニーとかいう数年前に使われてた骨董品も骨董品のオンボロじゃねえか!?』
『ケッ、こんな雑魚に二機もやられたのかよ。一気に畳み掛けるぞ!』
フォーメーションを変え、敵は俺に狙いを定めた。
「こちら地球連邦軍所属エイジス・ガルド中尉!難民キャンプを攻撃中の部隊に告げる、民間人の虐殺をやめろ!」
広域通信で呼び掛ける。通じるとは思えない、奴らはもう軍人ではない。まともな理性を持ち合わせていればこんな行動を起こす筈がないのだ。
それを示すように、ジムがこちらへ向けてマシンガンを放つ。
「ジェシー……!彼らに言葉が通じるとは思えません!」
「それでも……問いかける事に意味はある……!」
奴らが理性の無い獣だと言うのなら、俺だって容赦なくやれる。
本当に正しい力の使い方を見せなければならないのだ。
「アーニャ!援護してくれ!」
ザニーは機体が軋む音を鳴らしながらも、避難する民を庇うために前進させる。
「今はまだ牽制射のみです!もう少し前進しなければ落ちた薬莢が避難民に当たってしまいます!」
「くっ……!」
市街戦を想定している装備ではない為、このまま使用すれば危険だ……。
それはアニメでも描写されていたし実際に自分の目でも確認しているので危険性は熟知している。
「なら!無茶をさせてもらう!」
数年前とは言え、それこそ気が遠くなるほど耐久テストをさせた機体だ。
オンボロなのを考慮しても機体を維持可能な戦闘機動は大体分かっている。
「うおおおお!」
小刻みに歩行とスラスターを使い分け、旧式とは思わせないような機動を取る。
『クソ!オンボロの癖にちょこまかと!』
ジムのパイロットはこちらの動きにイラついたのか急接近しようと距離を詰めてきた。
それならばと戦線を非戦闘員のいない森林地帯の方へ誘導するように動く。
「……人がいない所を選んでる……?……ッ!」
「口を閉じてるんだ!本当に舌を噛むぞ!」
またブツブツと何かを言い始めた女の子を制するように注意する。
彼女を乗せたままと言うのも考慮しなければならないのが辛い、簡単に死ぬ訳にも行かなくなるわけだからな……!
『接近しちまえばそんな機体なんざぁ!』
「……馬鹿め!」
俺が何の考えも無しに誘導してると思っているのか?来てまだ数日も経ってはいないがここがどんな立地をしているかくらいは探っているんだ!
『これで──ッ!?なんだ!?』
ジムが大きく足元を崩す、腐葉土に足を捕られたからだ。
ここは水源にも近く、他の場所よりぬかるみに嵌りやすい。姿勢制御をオートで頼っていれば簡単に捉えられる。
「喰らえ!」
マシンガンの連射で脚部と腕部の繋ぎ目を正確に射抜く。
これで残りは二機、ジムとメガセリオンのみだ。
『不用意に相手の誘いに乗るな!機体性能はこちらの方が上なんだぞ!』
間合いを取られ射撃にシフトされる、こうなると此方が不利になるが……。
「やらせはしません!」
アーニャは弾数を調整するようにバースト射撃でジムに攻撃を仕掛ける。
致命打にはなっていないが全弾命中した事により敵は怯んだ。
『クソ!なんだコイツら!?精度が半端ねえ!』
『やはり遠距離じゃダメだ!一気に叩いてやる!』
メガセリオンが此方へ向けて急接近する、マシンガンで射撃するがシールドで防がれる。
堅実な対応をされれば機体性能でこちらが不利……だが……!
「俺は一人じゃない!」
「そう!私がいます!」
俺の攻撃中に即座に闇に紛れて隠れていたアーニャが側面を突く形でマシンガンで攻撃する、メガセリオンは完全に不意を突かれて爆散した。
『クソが……!何なんだよテメェら!今の連邦にマジで忠誠でも尽くそうって腹か!?夢見すぎなんだよ!』
ジムのパイロットの声が鳴り響く、コイツらもコイツらで何かしらの背景があって野盗紛いに成り下がったのかもしれない、だが……。
「誰かがやらなきゃ世界は変えられない!だから!」
『ヒーローにでもなるつもりか!?おめでてぇんだよ!命あっての物種なんだ!』
「ヒーローになんてなるつもりはない!だが市民を護る、それが連邦軍人であり力を持つ者の責任だ!」
『くせぇんだよ!死にやがれ!』
ジムはバーニアを吹かせ一気に接近する、外見からでは暗闇のせいもあり判別できなかったがこの推力……ジム改だったか!
サーベルを振り翳され回避行動に移るが左腕を持っていかれる、幸いマシンガンを持ってるのは右腕の方だったので絶望的とは言わないがそれでも致命的な状況である。
ジムは再度サーベルを振りこちらに斬りかかる、回避しようにも反応が間に合わない───
「飛んで!右!」
「───!」
その言葉と共に反射的に機体を右に飛ばす、そして射線が出来た事でアーニャが、そして俺も同時にマシンガンを放ちジムを無力化させた。
『クソ……!?』
「もう抵抗しても無駄だ!お前達の目的を吐いてもらうぞ!」
奴らがここを襲うのは幾ら何でも都合が良すぎる、事前情報も無しにこのキャンプを見つけるのは立地的に有り得ないからだ。
『こ、殺さないでくれ!何でも喋───』
︎︎その言葉と共にここを襲った全ての機体が爆散していく。これは───
「自爆……いえ、これは……!」
「消された……んだろうな……!クソ……!」
︎︎恐らくは此処を襲ったのは何者かに指示された結果だろう。それも自爆装置など仕組まれた事に気づかずに。
非正規部隊と化した連中の機体をメンテナンスできるような連中……それは……。
コイツらはきっと……俺達が追い求めていた相手に近い筈だった。
「クソ……!」
悪態しか出ない、全てが敵に出し抜かれているような苛立ちすら覚える。
この作戦が始まって以降まともな結果が見えていないのもあるし、この先の未来において碌でもない存在になり得る連中の尻尾すら見えていないのだ。
「ジェシー、今は他にやるべきことが……。」
「……っ、そうだな。市民の救助を始めよう。」
「ジェシー……、アーニャ……?」
っと忘れていた。今の俺の膝の上には女の子がいるんだったな。
……忘れ過ぎていて普通にアーニャと呼んで通信していたが大丈夫だろうか?まぁこんな女の子が俺達のことなんて知っているわけもないか。
「さっきは助かったよお嬢さん。怪我はないか?」
「……ううん、大丈夫。強いんだね二人とも。」
「……強くはないさ、強かったらもっと上手くみんなを護れた……。」
外は未だに嘆きの声が響き渡っている。大切な人を無くした人達の声が。
俺達が本当に強かったなら、こんな嘆きはあるわけがないのだ。
「……私達も救助に当たりましょう。」
「あぁ。」
暗闇の中で、それこそ闇雲にただひたすら救助にあたる。
そして要救助者への対応も完了し、朝日の光が差し込み始めて漸くひと段落という時に、顔役の一人がこちらに向け声をあげた。
「そのMSに乗っているヤツ!今すぐここから降りてこい!」
怒号だが、冷静さはある程度保っている。これなら降りても問題ないだろうと思い俺とアーニャは機体から降りた。
「……っ。お前たちだったか。」
俺とアーニャは昨日の今日で入ってきた人間だ、そんな人間が旧式のMSを動かして敵を撃退した。
いや、それ以外でも俺達がきて間も無く襲撃があったのだ。彼が俺達に感じているものは馬鹿でも分かる。
「……自分達は連邦軍特務部隊に所属するエイジス・ガルド中尉、そしてハンナ・エリシュ少尉であります。」
「その連邦の特務部隊様がなんで……なんでここを訪れてたんだ……!?この惨劇は!お前達が来たことによって起きたのか!?えぇ!?」
「……それは……分かりません。」
あの部隊が何故ここを襲ったのか、どんな理由があったのかすら分からない。
彼の言うように俺達がここにいる事によって奴らが現れたのか、それとも最初からここが狙われていたのか、今となっては知る由がないのだから。
「俺達がなんでこんなところにいると思っている!連邦が!お前達が無能だからだろうが!!!ジオンによって奪われた故郷を追われて!そして連邦から見捨てられてやっと行き着いたこの場所すらお前達連邦が奪うのか!?」
「……っ。」
彼らの悲痛に胸が締め付けられる。
俺達連邦軍、そして連邦政府の無能さが彼らが此処にいる原因なのだから。
それを変えたい、変える為に俺達は動いている。そんな事を言ったところで彼等には関係ないのだ。
「クソ……っ!助けてくれたオメェらにこんな事を言うのは間違いだって分かってる……!だがよ……!クソ……!」
「当然の批判です、貴方達の怒りは……私達も分かります……痛いほどに……っ。」
アーニャは拳を強く握り涙を堪えている。
現状を分かっているからこそ、変えて行かなければと分かっているからこそ、この有様が悔しいのだ。それは俺も同じなのだから……。
「此処から……出て行ってくれ、お前達が何の目的で来たか聞きたくもないし聞いちまったら俺達はお前達に何をするか分からねえ。頼むからもう俺達を放っておいてくれ……!」
「……分かりました。しかし手当てや治療が必要な方々もまだいます、その人達の救助は我々から軍に報告し早急に対応させて頂きます。」
アーニャはそう告げると顔役の男も渋々頷く。
「分かった、分かったからもう俺達を放っておいてくれ……。」
「……、行きましょうエイジス中尉。」
「あぁ……。」
彼らがいつ復讐心を俺達に向けるか分からない、そうなってしまっては俺達にも危険が及ぶ。
そう思っていると、 MSのバーニアの噴出光が見えた。あれは……。
「エイジス中尉!ハンナ少尉!無事か!」
「ファズ大尉……。」
メガセリオン改と後続にジャン中尉のジム改らしい機影も見える。
「救援が遅れてすまなかった。お前達が攻撃を受けたと思われる時間の直前に俺達も敵対勢力の奇襲を受けていた。敵を処置した後でノーマッドからお前達の事を知らされ駆けつけたが……どうなっている?」
「詳しくは後で報告します、今は……。」
新たに駆けつけたMS達に明確に殺意を放つ群衆の視線を感じる。
それを察した大尉は俺達にMSの手に乗るように指示する。
「お嬢ちゃん、君ともここでお別れだ。両親の所に戻るんだ。」
先程ザニーで居合わせた少女、咄嗟の一声は助かったがこれ以上一緒にはいられない。
「待って……!私も連れて行って!私はここの人間じゃないの。私、貴方達が探してる人達のことで助けになれると思うから!何かを探してるんでしょ!?」
「……何?」
突然声をあげてそう発言した少女に驚く。
この子は何を……、いや……そもそも彼女は何者なんだ……?
「ジェ……いえ、エイジス中尉。この子は……。」
アーニャも何かを察したのか、となると現状藁にも縋りたいくらい情報が欲しいのが現実だ。身元も分からない少女の言葉を信じるのもどうかと思うが……。
「どうしたエイジス!?」
「ファズ大尉、情報提供者も一人同行させます。よろしいですか?」
「情報提供者……?その女の子の事か?」
「えぇ、何か知っているみたいです。……行きましょう。」
ファズ大尉の機体の手のひらに乗り、俺達は元いたミデアへと戻る。
辛い現状を目の当たりするしか出来なかった……、だがここから何かの糸口が見出せれば……。
ーーー
連邦軍同士の内輪揉めが終わり、ここを護った連邦軍人がいなくなったのを確認してから数時間後、司祭平服を着た男は再びキャンプを訪れた。
怒り、憎しみ、悲しみ、様々な負の感情が入り混じっている。
「皆様!大丈夫ですか!?」
大きな声を出し、彼らに駆け寄る。
「し、神父様……。」
「真夜中に轟音が響き渡り、急ぎ戻ったのですが……一体何が……?」
何も存ぜぬと言った顔で困惑すると彼らは涙ながらに語り始めた。
「連邦の愚連隊がここを襲って……。ここを調べてた同じ連邦軍人がオンボロのMSを動かして撃退して……。」
MSの方へ目を向ける。
既に朽ちかけ、普通の動作すら怪しいと言えるレベルの旧型のMSだ。
しかし戦闘後だと言うのに大きな損傷も無ければ機体がオーバーヒートした様子も無い。これを動かしていたパイロットは相当の技量があるか経験を積んでいる。
「……面白い。」
誰にも聞かれない様に小さな声で喋る。
先の報告に合わせてここでの報告も
だがまずは……。
「皆さま……ここは最早この様な状況です、一度我らが教団に身を任せては如何でしょうか。教団であれば怪我人の救助も可能です。」
「しかし……連邦からも救援を出すとさっきまでいた軍人が……。」
「何を言っているのですか!貴方達をこの様な目に遭わせたのは連邦なのでしょう!?彼らの庇護を受けるなど……!いえ……そもそも本当に救助をしてくれるかすら……!」
私の発言に同調するように「そうだそうだ!」と声を上げる者が数人現れる。
怒りで我を忘れている彼らには冷静な判断など最早出来ないだろう
「そうだ……!連邦になんて最早頼るものか!……神父様、本当によろしいのですね?」
「えぇ、我らが神は例え信徒で無かろうと区別など致しません。同胞達には既に連絡をつけています、まずは移動を開始しましょう。」
そう言うと彼らは最低限の荷造りを初める。
後は成るように成るだけだ、羊は羊としてその生涯を終えるのみだ。
「さぁ、行きましょう皆さん。新天地へ。」
天使のような微笑みで、悪魔は笑った。