機動戦士ガンダム 紺碧の空へ   作:黄昏仮面

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第14話 悪意の萌芽 前編

 

「見えた、あれが件の潜水艦だ。」

 

 夜も更けてきた真夜中、難民キャンプの人間を乗せていると思われる小型潜水艦がモニターに映る。

 現在俺達はアッガイ2機に乗り込み俺とアーニャが1機、ファズ大尉にジャン中尉そしてイスカを含めた3人がもう1機に乗り込み水底に近い岩礁に身を潜めていた。

 

 コーウェン中将からの指示があったその日の夜にはアッガイが到着し、その日の深夜に俺達はひっそりと湖に侵入し潜水艦が浮上してくるまで待機していた。

 後はこれを追い、進入路を見つけ忍び込むだけだが……問題は上手く行くかだ。

 

「しっかりサポートを頼むぞアーニャ、俺はジオンのMSなんてシミュレーション以外はザニーヘッドのコクピットだったザクのしか分からないからな。」

 

「安心してください、アッガイはザクのパーツの流用が多い機体ですから操縦系もそこまで変わりありません。クロエがこの前シミュレーションしてくれた時にも機体のデータを使いましたし、そこまで難しい操縦は求められていませんよ。極力音を立てないようにすれば問題ありません。」

 

「だと良いんだがな……。」

 

 通信がオフになってることを確認してからアーニャと話している。

 イスカが他2人と同じになったのは潜水するのにベテラン2人のアシストが必要だからと判断されたからだがそちらも心配だ……。

 

「あまり緊張していても仕方ありませんよジェシー。成るようにしか成りません。」

 

「分かっているよ。だが今までが今までだ、警戒するに越した事はないだろ?」

 

「それはそうですが……、ふぅ……やはり今言っておくべきでしょうね。ジェシー?」

 

「どうした?」

 

「イスカさんに先日軍用のテレビを見せたのですが、その時サイド8のニュースをしていたのです。宙域内で許可無く軍事行動を行った連邦軍部隊に非難するという内容だったのですが……。その時イスカさんはキャスバル代表の顔を見て驚き、恐怖していました。」

 

「キャスバルを?何故だ?」

 

「それが……ギレン・ザビに似た男と共に彼女の父母を殺したのが彼だと……。」

 

「まさか……そんな訳が無いだろ。」

 

「私もそう思いましたが彼女の怯え方は普通ではありませんでした、なので気をつけるべきは……。」

 

「キャスバルに似せた人間か或いはクローンがいるかもしれない……か?」

 

 あり得ない話ではない、シャアのクローンや偽物なんてのは原作を知ってれば然程驚く内容じゃない、アフランシやフロンタルみたいなのが既にいるわけなんだから。

 この時代でもダイクンの遺児となれば幾らでも利用価値はあるわけだしな。

 

「はい、もしもこの教団がクローンや精神操作を用いて整形で別人に成りすませる、そのような非人道的な行為をしている可能性も有り得るかもしれません。そうであればあのガンダムの事も含め教団の存在は易々と見逃せる存在ではなくなります。」

 

 人為的にクローンや強化人間を作ったり、連邦の量産機以上の性能を持つガンダムを造ったり、前者はまだ不確定だが後者の時点で危険度は跳ね上がってる、前者もかなり可能性が高いし……。

 何よりあのキシリアが関わっている可能性が高いんだから原作のアクシズとか以上にやりたい放題してる可能性が高いもんな、一年戦争物で何か新作出るたびにアイツ直属のヤバい連中とMSが出てくるわけだし。

 

「あと数時間もしない内に奴らの魂胆は見えてくる。それさえ見えれば幾らでも対処は考える事ができるが……。」

 

 上手くいくか、それだけが不安だ。

 今の今まで底の知れない連中に良いように出し抜かれてる。

 

『エイジス、ハンナ少尉、聴こえているか?潜水艦は人員の収容が完了したようだ。潜航を開始した、我々も少し離れて追跡を開始する。極力音を立てず進行する、動きを俺にトレースして着いてこい。』

 

「了解です。」

 

 ファズ大尉達のアッガイが潜行する、それにオートで動きを合わせて俺のアッガイも動く。

 余計な音は立てたくないので下手な操作をしなくて良いのは助かる。

 

「しかし……結構な深さだな。」

 

「えぇ、コロニーの破片の落着の影響もあるのでしょうがそれにしても思った以上に深いですね。」

 

 要塞としての側面もあるだろうから深さを拡張しているのかもしれないが……。

 潜水艦はそれなりの深さまで潜った所で入り口らしき所へ入り込む。

 

『好都合だな、地下ドックは空洞になっていて常時開放されているタイプらしい。これより機内の加圧を行い、その後に潜水による侵入を開始する。』

 

「了解。」

 

 潜水装備に着替え、準備をする。

 ここからが正念場だ……奴らの目的を掴み、それを阻止する……。

 

『これより作戦を開始する。』

 

 アッガイのコクピットハッチはエレベーター式となっており、独特な機体の降り方をすると共に潜水を開始する。

 明かりを照らせない都合上、目視で確認できる潜水ドックの光を目標に泳ぐ。

 俺やアーニャはともかくイスカは大丈夫だろうか?

 ベテラン2人に任せているからあまり心配し過ぎるのもいけないしこっちはこっちでちゃんとやることをやらなきゃな。

 それから数分、ファズ大尉達の後を追う。イスカはどうやら大尉の背中に掴まっているようだ。

 

 明かりもようやく間近となり、ファズ大尉のハンドサインを確認し、再度慎重を期すようにチェックをしてからドック内に潜入する。端の方でゆっくりと浮上し、サーマルゴーグルで他に人がいないか確認する。

 

「良し、付近に監視カメラらしき物も見当たらない。全員上陸しろ。」

 

 ファズ大尉の命令に従い陸に上がる。普通なら監視カメラくらいあっても良さそうだと思ったが場所が場所だからな、まさか向こうも敵がここまで侵入するとは思ってなさそうだ。

 

「この近くには監視カメラはないよ、ただ見張りがまだいるかも。気をつけて。」

 

 イスカの言葉に頷き辺りを見回す、潜水艦が接岸してから俺達がここに来るまでそれなりの時間がかかっているのでその間に難民たちは降ろしたみたいだ。

 時間も深夜だし、いるとしても潜水艦の人員と此処を持ち場にしてる人間だけだろう。

 

「ステルスで忍び込む、音を極力立てるな。」

 

「了解。」

 

 小声で話しながら動き始める、作り自体は連邦にもある地下用ドックと似た物だ、ある程度は何処に人がいそうかくらいは察知できる。

 

 辺りを警戒し、敵がいない事を確認しながら進む。漸くドックの出口と思わしき場所まで着くとイスカが俺達にストップをかける。

 

「待って、ここから先は何処に人がいてもおかしくない。この服装だと見つかったら危ないよ。」

 

「どうする、何か良い手はあるのかイスカ?」

 

「この近くに信徒の人の僧衣とかが置いてあるリネン室があるよ、そこで着替えて成りすまそう?そうしたら動きやすくなると思う。」

 

 脱走を考えていただけあって、流石にここら辺の地理は熟知しているようだ。

 彼女を利用することに思う所もあるが、今は助かったと思って聞き入れるしかない、俺達は音を潜めリネン室へと向かう。

 

「……どうやら誰もいねぇみてぇだな。今のウチに変装しちまおう。俺が見張っておくからさっさと済ませな。」

 

 ジャン中尉が周辺の警戒をしてる間に、サイズの合う教団の一般信者が着るような装束を着る。

 都合のいいことに一般信者は顔を隠す顔布のようなものもあるらしい。イスカに確認してもらって一般信徒に成りすませたことを確認すると警戒していたジャン中尉と代わり全員の変装を終える。

 

「一旦打ち合わせをしたい。どこか都合の良い個室のようなものはあるか?」

 

 ファズ大尉がイスカに確認するとイスカは頷き指を差した。

 

「あっちに倉庫がある、真夜中だし人は来ないと思う。ついてきて。」

 

 慣れた動きで俺達を誘導し倉庫へ導くイスカ、これで一息つける。

 

「良し、今の所は敵に気付かれる事なく動けているな。だがこの先はそうも行かないだろう。気をつける事はあるかイスカ?」

 

 大尉の言葉にイスカは少し考え込むと思った事を口にする。

 

「多分余程変な動きとかしなきゃ大丈夫だと思う、今日ここに連れて来られた人達を教団の人も多分まだ何人いて名前が誰なのかすら記録しきれてないんじゃないかな。だからもし見つかってもその人達と同じ所から来たって言えば誤魔化せると思う。」

 

「けどその手が上手く使えるのはジャン中尉と大尉だけですよ、俺やハンナ少尉はキャンプの人には顔を知られてる。もしキャンプの人に見つかった場合は誤魔化せない。」

 

「ふむ……。」

 

 大尉は少し考えると上手く纏めたのか再度計画を話す。

 

「よし、これからはリスクは高まるが二手に別れ行動する。俺とジャン中尉は物理的に機密情報にアクセスする為に情報端末、或いは機密書類などを探す役割だ。俺達二人は顔も知られていないし何かあっても逃げるくらいはやり切れるだろうからな。」

 

 確かに下手に顔が知られてる可能性のある俺とアーニャ、そして教団に関わりの深いイスカは下手に動いて見つかるリスクがある行動はしない方が良いだろうな。

 

「そしてエイジス、ハンナ少尉、イスカ。この三人で映像記録を担当するんだ、基地構造、人員構成、幹部の人間の細かな情報を端末に記録、これらを隠れてやってくれ。イスカの記憶を頼りに監視カメラなどに気をつければ何とかなるだろう、最悪の場合は騒ぎを起こしてでも逃げろ。」

 

「了解……。」

 

 こっちは完全隠密行動って訳か。イスカを危険に晒さないように動くには最適解ではある。

 

「各自時計合わせ、何があってもここに明日の1000(ヒトマルマルマル)には合流出来るようにしろ。それが困難な場合は危険ではあるが非常時用の無線を使え。」

 

 ここで無線を使用すると言うことは敵に気づかれる恐れもあると言うことだ、文字通り非常時用になるだろう。そうならない事を祈る。

 

「大丈夫か?イスカ?」

 

 彼女に語りかけるとニコッと笑い返してくる。

 

「うん。不謹慎だけど何か物語の冒険譚みたいでワクワクしてる。」

 

「遊びじゃない事は忘れるなよ?下手すれば命が関わってくるんだからな。」

 

「分かってるよ。」

 

「よし、それでは作戦開始だ。各員健闘を祈る。」

 

 倉庫から出て大尉達と別れるとイスカが俺達の手を引く。

 

「こっち、監視カメラがないところは分かってるから。」

 

 見知った場所なら長年の経験があるのだろう、ここから脱走する時に得た知識で俺達を案内してくれるようだ。

 

「何処へ向かってるんだ?」

 

「私が使ってた部屋、誰も使って無かったらだけど、あそこには結局使わなかった幹部用のアクセスキーがあるの。」

 

「アクセスキー?」

 

「うん、セキュリティロックがされてるのを開けるやつだよ。前に盗んだんだけど潜水艦で逃げられるのが分かったから使わずにそのまま置いてある。」

 

「そんなものが使えるのですか?もし紛失していたのがバレていて使用したらアラートが鳴るような事があれば終わりですよ?」

 

 アーニャの問いにイスカは答える。

 

「大丈夫だよ、幾つも保管してある中から盗んだやつだからあの人達も気付いてない筈。逃げる前にも何回か試しに使ったけど問題無かったし。」

 

「不正確じゃ困るぞ?本当に大丈夫なのか?」

 

「問題ないよ、信用して。それに他にも抜け道はあるから。」

 

 

 なんとも言えないが今は信じる他ないか……。

 イスカに着いていき、彼女が以前住んでいた部屋に辿り着く。

 教団のアジトとは言え、ここまで監視カメラがないのは居住区だからか?こんな所じゃ警戒せずとも脱走の心配は無いと思うだろうからな……実際イスカには逃げられたが。

 

「着いた、中に入って。」

 

 中に入ると一人部屋としてはかなりの大きさと広さだ。流石に形だけとは言え前身となった教祖の娘としてそれなりの待遇をしてきたと言うことだろう。

 

「このクローゼットの中に隠してあるんだよ。無駄に大きいから隠し場所にはうってつけだったんだ。」

 

 部屋の広さに応じた物だからか確かに家具類も贅沢な物が多いな、このクローゼットなんかは確かに何人か入れそうだ……そう思った直後だ。

 

「……!ジェ──エイジス中尉!誰かの足音が聞こえます!」

 

「なに……!?」

 

 耳を澄ますと確かに誰かがこちらに向かっていると思われる足音が聴こえる。

 

「隠れよう!ここに入って!」

 

 イスカに誘導されそのままクローゼットに入る、ありがちなシチュエーションではあるが3人入っても問題ないレベルというのはやはり教壇の財力の誇示でもあるのだろうか?

 

「……。」

 

 声を殺し様子を見る、ここでバレたら何の成果もないどころか生きて帰れる保証すらない頼むから入ってくるんじゃないぞ……!

 

 しかしその思いを裏切るように足音は部屋の前まで来る、そして……。

 

「……音が聞こえたような気がしたが……。」

 

 男の声だ、足音があちこちに移動しているのを聞く限り部屋の中をうろついているようだ。

 この部屋にアクセスできる人間、恐らくは幹部クラス……もしもニュータイプであれば気づかれる可能性も……。

 心臓が高鳴るのを何とか抑えるよう静かに呼吸を整える。

 

「気のせいか。イスカ・リオーネ、此処にいる筈もない。」

 

 この声……よくよく聞いたらあの基地の戦いでガンダムに乗っていた男の声に似ている。

 もしかしたら奴が……?

 

「【刻】は近いぞ()()()()()()。【我々】の世界へ至る刻が……。」

 

 刻……?やはりコイツはニュータイプか強化人間なんじゃ……、だが俺達の存在には気づいていないのか言葉の後に男は部屋から出て行った。

 数分待ち、完全に気配が無くなったのを確認してからクローゼットから出る。

 生きた心地のしない数分だった。

 

「ふう……何とかやり過ごせたな……。──イスカ?」

 

「……。」

 

 何処か遠い目をしているイスカ、何か考えているのか?

 

「イスカ?」

 

「えっ?なに、どうかした?」

 

「いや、さっきの男だが……。」

 

「さっきの……、うん、さっきの声……間違いない、アイツだ……。」

 

「アイツ?」

 

「教団の兵隊、その中でもリーダーみたいなやつ。」

 

 MS部隊のまとめ役って感じか……?それならガンダムに乗っていた可能性も高くなる、奴があの基地にいたガンダム乗りの可能性は深まったが……。

 

「2人とも、今はゆっくり話している余裕はありませんよ。また誰か来る可能性があります、深夜と言え人の見回りは多い可能性があります……今のように。」

 

 アーニャがそう発言する。確かに夜間のパトロールをしている人間がいてもおかしくない規模の施設だ、ここでゆっくりしている余裕はないだろう。

 

「一度身を隠そう、深夜帯では教団の活動の記録できる部分は限られている。一旦夜が明けるまで待機できる場所はないかイスカ?」

 

「うーん……それなら……。」

 

 少し考えてから心当たりが浮かんだのか何度か彼女は頷く。

 

「大きめの通気孔がある所へ行こう、入り口さえ開ければ後はある程度の場所はそこから行けると思う。」

 

「人が入れるのか?」

 

「うん、こんな場所でしょ?空気を入れるのに大きな通路みたいになってるんだ。そこから逃れればって思った事もあったけど、上を登れるようにはなってなくて諦めたんだ。けど隠れるには打ってつけだよ。」

 

「なら其処に行きましょう。」

 

 通気孔か……、この規模と深さなら確かに大きな工場とかのよりもっと大きな広さで作らないと窒息していくだろうし良い案だな。

 理論的には殆どの場所に通じてる可能性も高い、隠れて映像記録を残すにはうってつけだな。

 

「こっちだよ、着いてきて。」

 

 再びイスカの先導で施設を走る。脱走する為とはいえこの記憶力は頼りになるな……。

 危険に晒したくないという心配はあるが彼女がここにいて良かったと感じる。俺達だけではここまで手際良く動けてなかっただろう。

 

 先程手に入れたアクセスキーでドアを何ヶ所か抜け、普段から人の出入りが少ないのが分かるくらい人の気が感じられない通路の角に着いた。

 イスカの言うように人が余裕で通れるくらいには大きい。

 

「ボルト、外せる?」

 

「あぁ、ツールがある。手早く済ませよう。」

 

 スパイ道具みたいな特注仕様のツールを使い素早くボルトを外す、施設自体も古くないから痕跡が残るような外れ方をしなくてラッキーだ。

 中に入り内側からツールを使い再度ボルトを入れ、これで最初から何もなかった状況にし通気孔の中に侵入する。

 一年戦争以降に作られている筈だからそこまで中も埃が溜まっていないのでスムーズに移動する、ある程度人に感知されないだろうというところがまで来て一旦立ち止まり計画を練る。

 

「さて、ここなら見つかる心配もなく作戦を練れるな。どうするハンナ少尉?」

 

「そうですね……。イスカさん、この場所から教団幹部の部屋などに続くルートなどは分かりますか?」

 

「……ううん、分からない。迷路みたいで複雑って言うのもあるけど、私も時間をかけて色々探索したけどあの人達のいる場所自体が多分セキュリティが高いからかな?多分こことは別の通気孔から繋がってるんだと思う。」

 

「ふむ……それならば集会などが行われる場所は?人が集まる所であれば何処でも構いません。」

 

「それなら教祖が信者に信仰を説くところがあるよ、ここにいる人全員集めても大丈夫なくらい。私が知ってる所だとそこが一番広い。」

 

 ここにどれだけの人間がいるかは分からないが規模からして下手をすれば数千人いてもおかしくない可能性もある。そこなら何か情報が手に入るかもしれない。

 

「では一旦その部屋の近くまで行き、人が集まるかを確認しましょうか。難民キャンプの人達に彼らが信仰をさせようとするならば人を集めてもおかしくはありまけんし。」

 

「そうしよう。イスカ、案内してもらえるか?」

 

「任せて。」

 

 何度かイスカが道を再確認しながらも、無事にその集会所まで辿り着く。

 隙間から中を覗くと確かにかなりの広さの場所だ。

 

「エイジス中尉、イスカさん。ここで一度休憩を挟みましょう、まだ夜も深いですし人が集まるにしてもまだ数時間以上あります。体力を温存しておくに越した事はありません。」

 

「そうだな。そうしよう。」

 

 肝心な時に逃げる体力が無かったからいけないし無駄に起きておく必要もない、何かここでやるとしたら流石にスピーカーなどの音響機器を使わなければ音も届かないだろうし、その音があれば気づくだろう。

 そうして俺達は一度仮眠を取った。

 

 そして朝、日の出から約二時間後くらいか、人の声が集まっていくのが聞こえる。

 

「エイジス中尉、起きていますか?」

 

 アーニャの声に半覚醒していた頭をパッと覚醒させる。

 

「あぁ、大丈夫だ。……人が集まってきたな。」

 

 中を覗くと普通の服装の人が数百人、恐らくはキャンプの人達だろう。中には数度顔を合わせた事のある人もいる。

 その後ろから教団の服を着た人間がゾロゾロ入ってきている、どうやら何かを行うのは確実のようだ。

 

「この並び方……、多分教祖が出てくるよ。前の方に新しい信徒を置いて後ろには信者が逃げないように見張ってる、気味の悪い演説をする時の配置。」

 

 教祖による演説か……、ギレン似の奴が出てくるなら映像記録としては十分なものになる。その演説の内容も含めて。

 記録用の端末を取り出し記録の準備をする、俺たちのいる通気孔はこの部屋の上部に位置し、この場所からなら邪魔される事もない特等席だ。

 

「……!来ましたよエイジス中尉!」

 

 アーニャの声に反応し壇上を見るとそこにはギレンにそっくりの男が現れた。

 やはりギレンの血縁者か或いはクローン……そう思わせる容姿だ。

 

「……?な……、これは……アー……いやハンナ少尉、あれは……!」

 

 ギレンに遅れて現れた『女性』、その姿を確認した俺とアーニャは驚愕する。

 

「セシリア……セシリア・アイリーン……!?そんなバカな……!?ありえません……!」

 

 そう、有り得てはいけないのだ。

 ギレンに似た人物の横にいるのはガンダムを知る者にとってはそこまで違和感はない、彼女はギレンの側近も側近だったのだから。

 

 だが彼女は史実でも、この歴史の中においても一年戦争後に連邦軍に身柄を確保されている。

 そして、今現在彼女が軍から身柄を解放されたと言う情報は入っていないし簡単に身柄を解放される立場でもない。

 

 それが意味する事に俺とアーニャは驚いているのだ。

 

「連邦軍の中に……いえ、連邦政府の中に彼女を秘密裏に解放した者がいる……そんな……。」

 

 アーニャはショックを受けている、俺も同様だ。

 ニュータイプ教団。その存在とこの施設の規模、そしてガンダム。

 それらは彼らだけで作り上げるには無理難題なものばかりだ。

 

 だが……だが連邦軍や連邦政府が彼らを支援していたら?

 そう考えると身の毛もよだつほど寒気に襲われる。

 

 連邦政府の腐敗、それは史実においても同様であったが、それ以上に今腐敗していたら……そう考えるのが怖いのだ。俺もアーニャも。

 

 

 そして、俺達の考えはそう遠くない内に答えが出るのであった。

 目の前の男によって……。

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