機動戦士ガンダム 紺碧の空へ   作:黄昏仮面

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第15話 悪意の萌芽 後編

 

 男は壇上に立ち辺りを見回す、そうすると最初はざわついていた民衆も次第に静まり返った。

 ギレン・ザビに似ている。落ち着く前にはその様な声も聞こえていた、彼らも思う所は同じのようだ。

 

「只今から、教祖ゼノン・ザビ様からこの地へお越し頂いた皆様へご挨拶があります。ご清聴の程よろしくお願いします。」

 

 セシリア・アイリーンがそう発言する、()()()()()()だと?ザビ家の人間である事を大々的に吹聴するつもりなのか?

 隣にいるアーニャも食い入るように壇上に立つ男を見ている、今から何を喋るつもりなのか……。

 

『人類が増えすぎた人口を宇宙に移民させるようになってすでに半世紀が過ぎました。地球のまわりの巨大な人口都市は人類の第二の故郷となり、人々はそこで子を産み、育て、そして死んでいった。』

 

 ……聞いた事のある言葉だ。

 

『宇宙世紀はこの様に増え過ぎた人口を宇宙へと追いやった歴史を持つ。最初は宇宙開拓時代だと、宇宙へ移民し新時代へと至ろうと。しかし実際に蓋を開けば地上にいた富裕層は変わらず地球に固執し多くの市民を過酷な宇宙に放り出しておきながら、自分達だけは変わらず既得損益を謳歌していた、謂わば宇宙世紀と言うのは一部の特権階級が地球を我が物にする為に増えた人口を宇宙へ口減しする為の棄民政策であった事は此処にいる方々も少なからず察している事でしょう。』

 

 間違ってはいない、ガンダムの物語の中でその問題は常に纏わりついている。

 そもそもの発端である一年戦争もそうだ。元を正せばラプラス事件から。

 

『人の世に争いは絶えない、それは人類史において不変の事実でもあります。古代の王朝は大陸に覇を唱える為に何千年にも渡り血を流し続け、抑圧された民衆は王政に異を唱え革命を起こし民主主義社会を創った、そして我が祖に当たるギレン・ザビもまた地球連邦政府のやり方に異を唱え、一年戦争と呼ばれる人類の半数を滅ぼすほどの戦争を引き起こした。』

 

 祖に当たる……?独特な言い回しだな、とは感じる。

 今のところ過去の歴史を準えて連邦を批判しているだけに感じるがこれだけではないだろう。

 

『既にお気づきになられてる者も多いでしょう。私の姿に、ギレン・ザビに酷似した男の存在に。そしてゼノン・ザビと名乗る私に。不信を抱く者の感情を多く感じます、それは当然の反応です。彼は先の戦争の主犯、人類の半数を抹殺した虐殺者なのですから。』

 

 その言葉と共にセシリア・アイリーンが心配して駆け寄る、恐らくはそういう事前のやり取りだろう、芝居臭さが目についた。

 

『大丈夫だ、心配するな。……ゼノン・ザビとは名乗ってはいますが、私は彼を否定する存在です。信じては貰えないでしょうが、しかし私の生まれを話すことで少しでも皆様の信用を得られればと思います。』

 

 生まれ……。先程の言い回しも気になるが強調すると言うことは何かしらの要因がやはりあるのだろう。

 

『かつてジオン公国と呼ばれた国家は、サイド3という地球から一番遠いサイドにて発足しました。それはジオン・ズム・ダイクンが0058年に樹立したジオン共和国を、デギン公王がダイクンを謀殺させると同時にジオン公国と名を変えたことで生まれた独裁国家であるのは既に周知の事実だと思います。』

 

『そして、独裁者や独裁国家というものはどの歴史においても非人道的な行いをする事は珍しくはない。私の存在もそう……、私は禁断の技術により生み出された()()()()という忌まわしき存在であるのです。』

 

 民衆がざわつく。俺達も予測はしていたが実際にクローンであると言うのならプルシリーズのように複数人同様の存在がいてもおかしくはないとも言える。

 だが奴の言葉を100%信用する訳にもいかない、こんな事は口から出任せで何とでも言える、重要なのは奴が何を伝えようとしているか、何を企んでいるかだ。

 

『成長を急速化させる為に調整された胚を用いて作成された私は常人より早いスピードで成長し、今貴方達が私に想像している年齢の恐らく半分程の年数でこの姿に至りました。加齢のスピードは年々落ちてはいますがおそらくは常人ほど長くは生きれないでしょう。』

 

 ……20代後半くらいと思っていたが仮にこの言葉が本当だとしたら10代そこらと言うことか……?

 そうなると一年戦争より前にギレン達は彼らを作った事になる、考えとしてはあり得なくはない。グレミーなどもギレンのクローン説がある。

 

『しかし、私は自身の生まれを恨んではいない。何故なら彼らはギレン・ザビの完璧なクローンを、そして更に最高の素養を持たせようとした事で私はニュータイプへと変革するに至ったのであるのですから。』

 

「ニュータイプ……、自分がそうであるとやはり言うんだな。」

 

 ニュータイプ教団と名乗るからには自身がそうであるか、それに準じた能力がないと信用されないだろう。

 本物か偽物かは別として、説得力を持たせるだけの何かが無ければここまで信者を集める事など出来ない筈だが……。

 

『ニュータイプ。ジオン・ズム・ダイクンがその存在を予言し、先の戦争においてもアムロ・レイなどニュータイプの可能性がある者達は連邦軍の勝利に大きく影響した事はご存知でしょう。しかし、そもそもニュータイプとは何を示すものであるのか、それを知るものは少ないでしょう。』

 

『ダイクンが言ったような宇宙に適応した新人類?厳密にはそれは違う、アムロ・レイはその生まれの殆どが地球暮らしであった。ジオン・ズム・ダイクンの提唱したニュータイプ論はあくまでサイド3という辺境のサイドに追いやられた国民に自分達は棄民ではなく優れた人類であるという誇りを持たせる為に利用した側面もある。』

 

『我々も教団とは名乗ってはいますが、救いの神が最後の刻に我々を救済するなどと言った今までの歴史に残っている古き宗教ではありません。一人一人の心の内に存在する魂を自己研鑽する為の存在、それが我らが神なのです。』

 

『先程の話に戻りますがニュータイプと言うのは曖昧な定義による超存在などではないのです。我々は科学的根拠に基づいてニュータイプという存在について研究を重ねていました、我々を生み出したジオン公国にはニュータイプを研究する為の機関もありました。それにより我々はニュータイプという存在が【サイコ・ウェーブ】という特殊な感応波を発生させる存在だという事を知りました。それがミノフスキー粒子に干渉する事で思念の増幅や敵意の感知と言ったような一種のエスパー能力に似たものを発生させる事が分かりました。そしてサイコ・ウェーブというものは大なり小なり人が持ち得るものなのです。』

 

『つまり、誰しもが研鑽を積み感応波を高める事でニュータイプとして変革に至る事が可能なのです。ジオン公国はサイド3にいる自分達のみがニュータイプに至れると考え優性人類生存説を唱えた、それは大きな間違いだったのです。』

 

 コイツは……ニュータイプの性質を完全に理解している……!?

 フラナガン機関で情報を集めたのか……?それとも他から……?

 

『我々は我々の努力によりニュータイプという存在へ変革に至れる、それによって腐敗した連邦政府を打倒、いえ改革させる。旧人類、そして地球に寄生する俗物を駆逐し世界をより良い方へ。その為の布石が既に地球連邦、そして新生ジオン公国からも始まっているのです。そして……『月』からも。』

 

「……!?月ですって……!?」

 

 アーニャが驚く、俺もそうだ。

 地球連邦から……これは恐らく内部で敵に通じる連中の事だろう、だが新生ジオン……キシリア率いるアクシズのジオン残党……それに()だって!?

 奴等の影響力は……一体……!?

 

『まもなく、まもなく我々の同志により第一の変革の矢が放たれる。連邦政府瓦解の第一の矢です。皆様にも見せましょう、その変革の一つを──』

 

 その言葉と共に何か機械の可動する音が聞こえる。

 これは──

 

 奴の言葉と、機械の音が聞こえるのと同時に俺……いや、俺やその周りにいた人間全てが異空間のような場所へ移る……これはサイコミュによる同調……?さっきの機械音はサイコミュだったのか……!?

 サンダーボルトの世界のレヴァン・フウ僧正がやったようにここに居る全員に(とき)を見せようとしているのか!?

 

【なんだここは……!?】【これが……ニュータイプって人の力なの……!?】【一体何が……?】

 

「ジェシー……!これは……!?」

 

 同じ空間に放り込まれたアーニャがまた驚く、これは……過去にマルグリットと邂逅した時と同じ……!

 

『今から見せましょう。我々の未来を──』

 

 奴の言葉と共に、周りの景色が変わる……。

 

 そこには教団の服を着た信徒、そしてゼノン・ザビらが地球、コロニー、そして月へと場面を移しながら大勢の人間を感化させ、恒久和平へと導く光景がまるでそれを共に体験するかのような高揚感と共に駆け巡る。

 ──だが、この不快な感覚。この様な光景など本当は望んですらいないと言った感情を感じる。

 ……そう、これは刻を見ているんじゃない、都合のいい光景を見させられているだけだ……!

 

 そして、その不快なプレッシャーを退けるような感情の強さを持つと同時に、俺とアーニャだけまた別の空間へと移る。

 

『ほう、私の感応波を退けたか。』

 

「貴様……!ゼノン・ザビとか言っていたな……!お前の本当の目的はなんだ!?今のは……!」

 

 今のは、そう『見せていた』だけの光景。

 本当の思惑は別の所にある、そう感じた。

 

『本当の目的?聞いていたのだろう?人類全てをニュータイプへと導く、それが私の目的だ。』

 

 先程の喋り方と打って変わってまるでギレンのような喋り方へとゼノン・ザビは口調を変える。

 

「それは……違う筈だ……!お前の見せた光景にはそれを拒絶する意志が見えた!」

 

『私の【意志】などに関わらず、だよ。私の内心では世界は変わらん、そして良い方向にもな。』

 

「ゼノン・ザビ……!貴方は……!」

 

 割り込むようにアーニャが喋る、ニュータイプ同士の共振による空間だからか彼女の考えが少しながら俺にも伝わる、そしてそれは恐らく奴にも。

 

『優れたニュータイプ能力を持っているようだな女。お前の想像通り、私はただの道化だよ。だが連邦政府を化かすには充分な道化だがね。』

 

 アーニャはコイツの裏に誰かがいるという事を感じ取ったようだ、だがそれが一体誰であるのか、そして敵であろう俺達二人に相対しているにも関わらずこの余裕の現れは……!

 

()()()()()()()()()は優秀なニュータイプを連れて帰ったようだな。これから起こる喜劇をとくと眺めるが良い。』

 

 イスカリオテのユダ……?聖書の話か……?いや……イスカリオテ……?

 

「まさか……、──ッ!」

 

 奴の言葉の意味に気付くと同時に腹部に強烈な痛みを感じ、奴の空間から現実に引き戻される。

 

「ジェシー!」

 

「くっ……。」

 

 腹部を刺されている、そして刺した相手は……。

 

「イスカ……キミは……。」

 

「──。」

 

 虚な目、まるで生気を感じない人形のようになっている彼女。

 一体何故……。

 

「──()が来た。」

 

 イスカのその言葉と共に建物内に大きな衝撃が走る。

 まるで外部から攻撃を受けたかのような……っ。

 

「この衝撃は──!?……っ!それよりもジェシー……!早く止血をしなくては……!」

 

 俺に駆け寄り人形のように動かなくなったイスカからナイフを取り上げるとアーニャは失血部の止血を始める。幸い応急処置用の医療用パッチを持ち合わせていたのと深く刺された訳ではなく致命傷には至らないのが救いか……。

 だが何故イスカがこんな真似を……そして今何が起きているのか……それを懸念していると気配もなく突然金髪の男が現れた。

 

「安心してください、殺すつもりはありません。」

 

 その姿を見て、俺とアーニャは驚く。

 目の前の金髪の男の姿にだ。

 

「そんな……キャスバル……?いや、違う……。」

 

「えぇ、私はキャスバル・レム・ダイクンではありませんよ。見間違うのも無理はありません。」

 

「お前も……クローンか……。」

 

 その言葉に無表情だった男の顔が少し歪むのが分かった。

 

「いけませんね。私を()()のように扱ってくれるのは。」

 

「……ぐァァァァっ!」

 

 刺された傷口に指を押し込まれる。どうやら奴のタブーに触れたようだ、クローンではないとしたら整形……?いや、このコンプレックスの持ち方は……。

 

「ジェシー!……貴方は何が目的なのですか!何故イスカさんはこのような事を……!まさか貴方達が……!」

 

「洗脳したとでも?いいえ、それは違います。元々彼女はそういう風に()()()()()されたいただけのこと。……まぁ実質洗脳と変わりませんがね。」

 

「プログラムだと……?」

 

「えぇ、優れたニュータイプ能力を持つものをここへ呼び寄せる為の撒き餌。我々はこの刻を邪魔されたくありませんでしたからね。」

 

「意味が……分からない……!」

 

「ふむ、ゼノンの感応波を退けたからと言って読心などの能力は無いという事ですか。良いでしょう、今から始まる喜劇の解説でもして差し上げましょう。」

 

「喜劇ですって……?」

 

「えぇ。……その前に気になる事があります。何故そちらの男性の方は腹部を刺されており、全身に汗をかいているにも関わらず顔だけは一滴も汗をかいていない。変装でもしているのですか?」

 

「くっ……。」

 

 顔を掴まれ変装用のラバーマスクに手を掛けられる。

 正体が……バレる……。

 

「ほう……、イスカリオテは想定以上の仕事をしたようですね。連邦の白騎士(ヴァイスリッター)ジェシー・アンダーセンとは。となると隣の女性は……。」

 

 アーニャも最早意味がないとマスクをとる。

 

「ペズンの魔女、アンナ・フォン・エルデヴァッサー。なるほど、我々の動向を探るよう連邦の上層部から頼まれでもしたのですか。」

 

「その通りだ……と言った所で然程意味は無いんだろ……?聞かせろ、お前達の狙いは一体なんだ……!」

 

「なぁに。難しい話ではありません。一年戦争という人類の半数が犠牲になった戦争、人類はこの戦争を経て何を感じ何を思ったか。……答えは簡単です、もうあんな戦いは懲り懲りだ、戦争など無い平和な世界で暮らしたい。まぁ大なり小なり気持ちの差異はあるでしょうが誰しもそんなものでしょう。」

 

 それはそうだろう、戦争なんてやりたくてやっている人間なんていない。民間人なら尚更だ。

 

「そんな時世で人が求めるものといえば救い、救済です。何故自分だけがこんな目に遭わなくてはいけない、救われたい、助かりたいとね。」

 

「だから……こんな教団を立ち上げたのか……?」

 

「いいえ、違います。そもそも貴方達もこんな教団が人類全てを救済するなど本当は思ってはいないのでしょう?それは我々も同じこと。これはただの茶番ですよ、連邦政府を崩壊させる為のね。」

 

 奴らの真意はハナから人類をニュータイプへの革新に導くつもりなどない、それは分かっている。

 それだったらもっと真っ当なやり方を目指すだろうし、こんなMSや策謀など用意する必要もないからだ。

 

「ジオン残存勢力も、反連邦派の連邦軍人も、月の勢力も今や形骸となった連邦政府など捨て、地球圏の覇権を握りたいというのが本質です。しかし仮にも世界を掌握する政府ですから、革命を起こすのにも理由が必要なのですよ。」

 

 奴の言葉にアーニャがハッと何かを察する。

 

「まさか、この教団の本当の目的は!?」

 

「えぇ、貴女の思っている通りですよ。世界を反連邦へと意識統一させる為の存在、それがニュータイプである必要があっただけ。だからこそ我々はニュータイプ教団などと馬鹿げた名前を掲げていたのです。そして我々を利用することで『箱』の存在はかつてない程に地球圏に影響を与える。」

 

 待て……、今コイツなんて言った……?『箱』だと……?

 

「ま、まさか……『ラプラスの箱』を……!」

 

「……。やはり貴方達は()()()()()が恐れるだけはある人間のようですね。まさか箱の存在を知っていようとは。」

 

「コーウェンだと……!?どういう事だ……!」

 

「分からないのですか?先程の衝撃は爆発による衝撃ですよ、今この場において此処を爆撃するような軍は連邦軍しかいないではありませんか。そしてそれを率いているのは誰か。此処に貴方達を送り込んだ者は誰か。認めたくはないでしょうがお分かりになるでしょう?」

 

 まさか……コーウェン中将が?そう思っていると更に施設に衝撃が走るのが分かる。

 

「本来であれば彼の手を借りずとも一年前に事は起きていたのですが、貴方達に阻止されてしまいましたのでね。」

 

「一年前……?まさかエギーユ・デラーズがコロニーの落下ポイントを中東にしていたのは……!」

 

「そうですアンナ・フォン・エルデヴァッサー。貴方が阻止したデラーズ・フリートのコロニー落としの本来の目標、それはこの付近だったのですよ。」

 

「何故……!?コロニーがここに落着すれば貴方達の命は……!?」

 

「だからこそ、被害が最小限となる場所に拠点を作ったと言うわけです。上手く湖のみ干上がって欲しくてね。連邦からの反撃もあればポイントもズレ、更に都合が良くなるはずでしたが。貴方達に阻止されてしまいました。」

 

 恐らくはデラーズが蜂起する前から決まっていた事なのだろう。

 これは数年前から謀られていた陰謀、俺達はそうと知らずに……。

 

「しかしお気付きになりませんか?この地底、貴方達もその深さは実際に見ておいででしょう?何故ここにこれ程の衝撃が走っているのでしょうねぇ?」

 

 本来ならコロニー落としで剥き出しにするつもりだった場所だ。

 そこにこれほどの衝撃を与えられるものは……。

 

「核……か!」

 

「御名答。」

 

 彼は持っていた端末から外の映像と思われるホログラムを映し出す、そこにはガンダム試作2号機サイサリスが複数機、核バズーカを構え上空からこの地へと発射していた。

 

「コーウェン中将はサイサリスを量産させていたのか……!」

 

「えぇ、戦略核レベルの核弾頭発射に耐えられるMSとなるとあのガンダムが都合が良かったので。アナハイムも快諾してくれました。」

 

「貴方は……、いえ……貴方達は本当に連邦政府を崩壊させるつもりなのですか!?地球まで汚染させて……!この様な横暴が許されるとでも!?」

 

「今更ではありませんかアンナ・フォン・エルデヴァッサー。連邦政府の腐敗や地球環境の崩壊はもう以前から始まっていたではありませんか。貴方達は目を背けていただけで。」

 

「くっ……。」

 

「あぁ、貴方達二人がここにいたとなるとあの難民キャンプを襲わせた離反兵も貴方達が撃破したと言う訳ですね。あの旧式でよくやれたと思いましたが、貴方達二人であったなら驚きもしませんね。」

 

「やはり……あの襲撃は貴様らが……。」

 

「えぇ。使える駒の回収をと思いね。」

 

「この……下衆野郎が……!」

 

 力を振り絞り金髪の男に体当たりをする。よろけ、倒れた隙にアーニャの手を引き脱出を図る。

 

「待ってくださいジェシー!まだ彼らの本当の目的が──」

 

「奴らの……!奴らの話をこれ以上聞いていたら惑わされるぞアーニャ……!本当の目的は聞かなくてもすぐに分かるさ……!その為に連中はこの行動を起こしたんだ……!」

 

 刺された腹部の痛みに耐えながら何とか走る。

 奴らの真の目的、それはまだ分からないがこんな事までして起こそうとしている何かだ、労せずとも自ずと判明するだろう。

 今はここから逃げ出さなければならない、奴らだけじゃない……おそらくはコーウェン中将、そして他の連邦軍兵士、そして奴らの言っていた月の勢力。

 これはもう陰謀という類ではない。連邦政府に対する反乱の最中なのだ。

 

「急げアーニャ……アッガイに戻らなければ……。」

 

「無理です……!今の貴方の身体では……辿り着くまでに力尽きてしまう……。何とか……何とかしないと……。」

 

 だが医務室のような場所に寄っている余裕は恐らくもう無い、それに奴がこちらを追いかけて来れば手下に先回りさせているだろう。

 

「なら……MSがあるような格納庫を探すんだアーニャ……。イスカが持っていたアクセスキー……あれを使えば恐らく軍用施設に入れる……。」

 

 敵に操られていたイスカの言葉を信用するのはどうかとも思ったが、あの時のイスカには俺達を騙す意図は無かった筈だと、どうしても信じたかった。

 

「……それしか、手はないようですね。」

 

 アーニャは何とか俺を支えながらそれでも足早に歩みを進める。

 そしてそれまで進んできたルートとは別の道を辿り、アクセスキーの必要な扉まで辿り着く、幸いゼノン・ザビの演説を聞くために信徒はいなくなってるようで見張りもいないのは幸いだ。

 

「この先がそうとは限りませんが……。」

 

「賭けるしかない……。行こう。」

 

 アクセスキーを使い扉を開けると、それまでとは別の大きな空間に辿り着く。

 恐らくは目的とした場所に近いと思った。

 

「格納庫……ですね。」

 

「あぁ、せめて水陸用MSでもあれば救いだな。」

 

 立地的に非常時用でそういったMSがあってもおかしくはない、核攻撃の最中ではあるが止んだ隙に何とか逃げ出せれるだけの性能があれば……。

 それか浸水覚悟でアッガイのあった場所まで戻りアッガイで逃げるかだ。

 

「クッ……。」

 

「ジェシー……、大丈夫ですか……?」

 

「あぁ……、今は無理をしてでも進まなきゃならない。悪いが援護を頼むぜ准将閣下。」

 

 軽口を言って安心させようとしたが、流石に見栄張りだとバレている。

 このままでは本当に危険な状態になりかねない。早くMSを見つけて逃げなければ……と思いながら辺りを探していると一つのMSが目に付いた。

 

「ガンダム……。」

 

 以前、敵の基地で戦ったガンダム。ガンダムレギオンと言っていたか。

 それが数機、見える範囲でだが置かれている。まだ数があると見ても良いだろう。

 

「ジェシー……。」

 

「あぁ、これで逃げるぞ。」

 

 性能は認めたくないが現行機の中でも高い、そしてこれを奪えさえすれば後で機体の検証も可能になる。

 そうなればこの機体のルーツを探ることも可能だ、誰の差し金で作られた物かはっきりするだろう。

 問題は──

 

「安心しろ。宙間戦闘を考慮した装甲になっている、水中でも多少は問題はない。」

 

「な──!」

 

 振り返るとそこにいたのは仮面の男、先程の金髪の男とはまた別人だがコイツもまた金髪だ。

 そしてこの声はイスカの部屋で聞いた……。

 

「お前は……あの時の……。」

 

「その声、あの基地にいた男か。イスカリオテが連れて来たのがお前達とはな。」

 

 イスカリオテ……イスカの事か。

 突然現れたこの男の言葉……とてもじゃないが信用出来るものではない。

 アーニャもそう感じているのか警戒を続けている。

 

「気になるか?欺瞞があると、当然の考えだな。だが──警戒は無意味だ。そして仮に私の言葉が欺瞞であったとしてもお前達が打てる手はない筈だが。」

 

 それはそうだ、この男の言葉を信じず別のMSを探す時間はもう無い。

 俺達のやれることはもうこのガンダムで逃げる事しかないのだ。

 

「このまま貴方が私達を見逃すメリットがあるとは思えません、何故私達を見逃そうとするのですか……!?」

 

「メリットなら……ある、以前言った筈だ。この機体こそが『我ら』を新世界に導くとな。」

 

「新世界……?」

 

「そう。お前達も見た筈だ、感じた筈だ。世界はこれから混沌へと誘われる、そしてそのカオスの先に訪れる新世界、その為にこの機体はある。」

 

 言っている意味が分からない、だがこの男はそれを信じていると断言するかのように喋り続けている。

 

「必要なのだよ。この世界を是正する為の力が、その依代となるのがガンダム、そしてニュータイプなのだ。」

 

「生憎だが……カルトの与太話を聞いているほど俺達は暇じゃない……!」

 

「だろうな、だがいずれ分かる。私の言葉の意味がな。」

 

「……行きましょうジェシー、言葉を信じはしませんが、このまま此処にいるのは危険です。」

 

 人の気配が近づいているのが分かる、恐らくは俺達を追っている信徒だろう。

 俺達に打てる手はもうない。

 

「いずれ……ケリはつける。」

 

「待っていよう、変革の訪れた世界でな。」

 

 昇降機を使いガンダムへと乗り込む。

 アーニャは俺をサブシートに固定させ起動の準備を進める。

 

「機体のOSは……連邦軍機のもの……っ!こんな……、こんなことが……っ!」

 

 連邦軍、連邦政府に対する明確な反乱意思を目に焼き付けさせられている。

 今までは、遠い道のりになるだろうが着実に歩みを進めて未来をより良くして行けると言うビジョンがあった。アーニャが連邦議会議員となり、キャスバル達と共に地球と宇宙の垣根を越えて未来を改善していくというビジョンが。

 

 だが、その願いは打ち砕かれた。今起きている事はそんな未来など訪れはしないと唾を吐きかけられ、糞を塗られているようなものだ。

 またこの世界は混迷に陥るだろう。

 

「だが……まだ諦めるな……アーニャ。」

 

 意識が徐々に遠のいて行く、思った以上に血を流してしまった。

 

「ジェシー……!?くっ……!」

 

 アーニャは急ぐように機体を出口である水路へと飛び込ませる、そこで俺の意識は途切れた。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「行ったか。」

 

 仮面の男がそう呟く、刻は訪れた、これから世界がどう変わるのか、形は分からないが誰も想像し得ないものとなる事だけは判明している。

 それがこの男にとっては心底嬉しいものであった。

 

 世界は変わらなければならない、そうで無ければ自分達のような存在が生み出された意味がない。

 男は仮面を取る。その仮面の下の素顔は

 

 かつてカール・フォン・エルデヴァッサーと呼ばれた、アンナ・フォン・エルデヴァッサーの父親と酷似した素顔であった。

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