機動戦士ガンダム 紺碧の空へ   作:黄昏仮面

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第16話 ジェイ・ジャン

 

「……見張りはいねぇ、進んで大丈夫そうだ。」

 

「了解。」

 

 エイジス、そしてハンナと言った若手二人と分かれ、この俺ジェイ・ジャンはファズ大尉と共に敵施設の深くへと進行する。

 

「こんな場所とは言え、見張りが少な過ぎる。キナ臭えな。」

 

「敵もまさか侵入者がいるとは思わんだろう、気にし過ぎだ。」

 

 自分からしたら油断しているのはどっちだ、とも言いたくなる。

 言いたい事は分かる、侵入経路も少ないこんな所に拠点があるとなると確かに見張りに労力を割く必要性は無い。

 だが連中の『敵』は俺達連邦だけか?こんな怪しい連中を裏切るかもしれない味方はいないとでも?

 そういう意味でもお人好しが過ぎる警備だ、油断しないに越した事はないだろう。

 

「待て、足音が聞こえる。」

 

 大尉の言葉で進みを止め、息を止める。

 数秒後、通路を銃を構えた兵が二人通過する。

 

「チャンスだな。」

 

「あぁ。跡を付ければ警備の詰所くらいには行き着くか?」

 

 そこなら情報収集するのも最適だろう、下手に動き回るよりも安全でもある。

 時間的にもまだ深夜だ、今のように見張りが少ない状態ならやりやすい。

 

「慎重になジャン中尉、俺達は最悪見つかっても何とかなるがエイジス達はそうもいかん。」

 

「言われなくても問題無く熟すさ、こんな素人に毛の生えたレベルの連中の相手なんざ朝飯前だ。」

 

「諜報部なら、か?」

 

「……テメェ。」

 

「そう殺気立つな、あくまで勘だ。ここ数日での感触だがお前と俺は同じ匂いがする。」

 

「同じ匂いねぇ、諜報部特有のってか?」

 

「人を騙すのが得意な奴特有のだ。お前も俺も染み付いた任務の匂いが取り切れていないのは分かるだろう、あの二人と違ってな。」

 

 違いねぇ、そう心の中で思いながらも今このタイミングでこんなことを言ってくる大尉の真意を探る。

 ここで俺を苛立たせてもメリットは無い、それは俺の素性を当てた所で同じだ。

 となるとコイツの真意は……。

 

「そう手の内を読もうとしないでもいいジャン中尉、お前も俺も主任務とは別の任務があるんだろう?それの邪魔だけはするなと言うことだ。」

 

 ……、似た者同士って言う訳だ。

 特務とは言っても単純にこの教団を探るだけが本当の任務ではない、それは大尉も俺も、恐らくはあの若手二人もそうだろう。

 

「ハッ、そういう事かよ。俺らも大変だな、同じ連邦だってのに手の内を明かせねえってのはよ。」

 

「時勢が時勢だ。そして同じ連邦だからとて仲間とも言い切れないのが現実なのは良く分かってるだろう。」

 

「……まぁな。」

 

 仲間を疑うな、と以前この男は言っていた。

 だが現実は何処の誰が『敵』と繋がっていてもおかしくはない。

 

 

 かつては自分がそうだったように。

 

 

---

 

 

 宇宙世紀0079年、俺は後に一年戦争と呼ばれる戦いの始めの頃()()()()()()に所属していた。

 宇宙移民者の独立の為、地球連邦政府の圧政から解放される為、大義名分は色々あった。

 若かった、それだけの話だ。理想に酔い、現実から目を背け、本当に見るべきものから逃げていただけだった。

 それに気付いたのは、俺達スペースノイドにとっての地球であったスペースコロニー、その住人を毒ガスで殺戮し、地球へと落下していく光景を目にした時だった。

 

 これが──この光景が本当に自分達に必要なのか……?

 連邦寄りだったとは言え、同じスペースノイドを、そしてスペースコロニーを使用した大量殺戮。

 この行いで、本当にスペースノイドの独立が勝ち取れるのか?滅びへの一歩を踏み出しているのではないか。

 

 既に虐殺に関与した人間がこう思うのは偽善だろう。

 だが俺はロボットではない、人間だ。そういう矛盾を孕んだ感情を持つのは人として当たり前の事だ。

 

 このままでは世界は良い方向には進まない、そう思ってからは早かった。

 幸い、俺が所属していた艦隊には同じ部隊では無かったがルウム戦役で名を上げた黒い三連星も乗っていた。

 そして彼らはそのルウム戦役で連邦のレビル将軍を捕え、彼を本国へ移送するという計画が立てられた時、これはチャンスだと感じた。

 将軍を連れ、本国へ向かう輸送艇の護衛任務に志願した。彼ほどの人物ならば恐らくはジオン国内、軍内のスパイが何かしらの行動を起こすだろうと踏んでだ。

 

 思った通り、軍内のスパイが将軍を救助する為に動いた。俺はそれに便乗して彼らの護衛に回る形で連邦に寝返った。

 

 まぁ、これも同じく若さ故の先を見ない行動であったのだが。

 

 将軍救出に助力した事、その際現時点で新兵器であったザクも入手出来たこと、エース級とは言えないがMS操縦の慣熟の済んでいるパイロットが手に入ったこと。

 かなりの芝居があっただろうがレビル将軍からの俺の評価は高かった、そしてそれを俺は真に受けた。過度な評価、待遇で俺は正しく正義を行なっていると増長し、裏切ったのは正当なものであったと確信し、ジオン国内の情報提供などを進んで引き受けたりもした。

 

 そう言った経緯もあってか、MSの基本的な操縦方法や機体の概要などのデータを提供した後は自ずとレビル将軍直属のジオン公国に対する諜報員となっていた。

 反ザビ派へのアプローチや交渉、裏切りの手引きは勿論のこと、表には出せないような際どいことまでやった。

 

 それが正義だと信じていたからだ。

 

 しかしそれに影が見え始めたのがオデッサの作戦以降からだ。

 あの戦いで連邦軍高官であったエルラン中将はジオンへ寝返った、その兆しがあることは俺も将軍も気づいていた、だが確信を得られるまでの情報が集まらず俺が東奔西走している最中、レビル将軍はマ・クベ大佐の南極条約違反の水爆使用により帰らぬ人となった。

 

 上は最初俺がマ・クベと内通していてエルランを手引きしたのでは無いかと疑った、まぁ確たる証拠も無ければ俺が連邦に貢献したことの大きさと、俺が寝返る理由も無ければ、裏切っていたなら軍から逃げている筈と考えればすぐに疑いは晴れた。

 

 だが、飼い主を失った俺の扱いは微妙な物だった。

 放逐させるほど無碍には扱えない、かと言ってレビル将軍直属の暗部を引き取るにはリスクが高い、宙ぶらりんな状況の中でやり甲斐のない日々が続いた。

 その時、俺を拾い上げてくれたのが当時のコーウェン少将だ。レビル閥の後継となるべく動いていた彼と飼い主を失って途方にくれていた俺達は互いに必要とされる関係となった。

 

 星一号作戦へ向けた数々の工作、第13独立部隊の情報をジオン側に敢えて伝わるように流し、ズム・シティの反ザビ家派だったアンリ・シュレッサー准将の率いる首都防衛大隊への手回しに協力したり、秘密裏に和平に動いていたデギン公王の使者とのコンタクトを取り……。

 幾つかの行動は成果が実らなかったり、ギレン・ザビの方が策略が上回っていた事もあり無為に帰したが、それでもやれる事はやった。

 そしてア・バオア・クー攻略戦、ソーラ・レイ攻略戦での奮闘もあり、一年戦争と呼ばれた戦いは連邦軍の勝利で終わった。

 

 燃え尽きた、文字通りに。

 あの戦い以降は諜報活動にまともに従事する事もなく、コーウェン少将も一線から離れた俺を無理に引き込もうとはしなかった。

 退屈とは言わないが刺激のない数年を過ごしただただ腐った、この特務の依頼が来た時にこの作戦が終わったら軍を引退してどこかでのんびり過ごそうと思っていた所だ。

 

 

ーーー

 

 だが、この潜入の直前『彼』は再び俺を必要としてくれた。

 かつて使用していた暗号回線で俺に連絡を取り、今回の任務の真意を俺に伝えてくれたのだ。

 

『久しぶりだなジャン()()。』

 

「今は中尉として活動しております閣下。星一号作戦の折にティアンム提督の戦死の報告をしたのが最後でありました。」

 

『うむ、君には一年戦争で充分過ぎるほどの活躍をして貰ったからな。戦争後はリスクの高い任務からは遠ざけておきたかったが、余計なお世話だったみたいだな。』

 

「いえ、この特務があるまでは腐っておりました。そんな私に閣下は何か御用なのですか?」

 

 指揮管制機(ノーマッド)を通さず直接自分に連絡をしてくる、懐かしい感覚を肌に感じた、表には出さない任務だと。

 

『うむ……。君の任務、ニュータイプ教団と呼ばれるカルト団体の調査だが、私には信頼出来る人物が必要なのだ。……今の連邦軍内部の腐敗は君も知っているだろう。』

 

「ハッ。認めたくはありませんが、今の連邦軍は迷走を続けています。離反者が増えるのも当然の結末かと。」

 

 一年戦争の起こった原因でもある。

宇宙移住者に対する苛烈な対応、空気や水といった生きる事に必要な物にすら多額の税を強いることで多くの反感と怨嗟を産んだこと。

 それがあの戦争を経てなお変わらず、コロニー落としで悪化した地球環境にも目を向けず、今なお地球に残った富裕層の為に政治を行う、そんな馬鹿げた行いには外だけではなく内からも反感を産むのは当然だ。

 一兵卒からすれば野盗に身を投じた方が好き放題出来ると感じるのすらいるだろう、だからこそ今の現状がある。

 

『この様な現状だ。信頼できる者は例え特務隊ですら限られる。』

 

「なら、私も同じ事かと。」

 

『君は信頼できる。それは疑いようはない。』

 

 昔から愚直な方だとは思っていたが、この俺をここまで信頼していたと思うと少し込み上げてくるものがあった。

 信頼には応えたい、かつてレビル将軍に対してそうであったように、と心に昔の感覚が呼び覚まされている。

 

「それで、閣下が私に期待している事とは何でしょうか?」

 

『そう難しい話では無い。君達が教団を探っていたように我々も同じく数年かけて教団を調査していた。だが碌な結果は得られていないし、この頼みもまた確証を得られるかはまだ明らかではないのだが。』

 

「何かあるのですね?」

 

『うむ。捕らえた教団の人間が彼等の本拠には、彼等を支援する連邦軍高官の名前を記したデータがあるとの情報を得た。これの入手を君に頼みたい。』

 

 奴等を支援する軍高官か……有り得なくはない、あのエルラン中将もジオンに通じていたし腐敗した軍の中には不法な利益を得て財を得ようとする輩がいてもおかしくはない。

 

「閣下はそれを得てどうなさるおつもりで?そもそもデータを得たのであればそれは軍内で共有されて然るべきでは?」

 

『それは駄目だ。教団のシンパがどれだけ軍に潜んでいるか分からない現状、下手に扱ってしまえば軍内部でテロを強行する者が出て来かねない、秘密裏に捜査し確証と信頼出来る者達を集め安全な場を得てから粛正せねば。』

 

 間違ってはいない、既得権益が害されると分かればどんな手段に出るか人間分かったものではない。

 だが目の前の彼がそれをしないと言う保証もまた無いのだが……。

 

『今は一方面軍の司令でしかない私だが、レビル将軍の意志を再び掲げる為にはこのチャンスを逃す訳にはいかないのだ。この混迷を極めた世を()()させる為にも。』

 

「……閣下の意志は分かりました。期待に応えられるかは分かりませんが精一杯任務に従う所存であります。」

 

『うむ、恐らくは敵のデータベースにて管理されているだろうから可能であれば入手出来るだけのデータは全て集めてもらいたい。新生ジオンにも通じるものが見つかるだろうからな。』

 

「了解であります。」

 

『頼んだぞ、ジャン少佐。』

 

 通信が切れる、「ふぅ」と溜息を吐き頭を整理する。

 連邦内部の腐敗からこの教団が生まれたかもしれない可能性、それに寄生する形で連邦上層部や富裕層が益を得ている可能性、全てはそれを狙ったキシリア率いる新生ジオンの陰謀という可能性。

 全て合わさっている可能性すらもある、中々に今の時代は腐り切っていると感じた。

 

 だが、やるべき事は一つ。

 それに繋がる真相が入ったデータを奪取すること、単純明快かつ効果は大きい。

 腐敗した政治家達を一網打尽に出来れば今よりはマシな世界になるだろう。

 

 ……どうせ最後の任務だと思っていたのだ、最後くらい昔のように責務を全うする覚悟を見せてやるか、と自分に言い聞かせた。

 

 

ーーー

 

 

「どうやらあそこが詰所のようだな。」

 

 大尉が示す方角には如何にもな部屋があった、離れた距離から小型の望遠レンズでガラスの向こうを覗くと幾つものモニターがあり殆ど室内を映していた。

 

「見る限り、通路は殆ど映しちゃいねぇな……?」

 

「あぁ。格納庫らしい通路は見えるが、俺達が通ってきた通路の映像は写っていないみたいだな。脱走者などいないと思っている証拠だ、イスカが此処から逃げ出せたのも納得が行く。」

 

 確かに、地下という絶対に逃げ出せない状況では通路の警備に人間を割り振る必要性はあまりないのだろう。こちらとしては好都合だが……。

 

「さて、どうするよ?」

 

「慌てず行こう。まずは観察だ、部屋に戻ったという事は警備が入れ替わるかもしれん。それが無くともこの警備の緩さだ、居眠りなどしてくれれば対処も簡単で済む。」

 

「アリだな。確かにこれだけ緩けりゃ眠りこけるアホがいてもおかしかねぇ。」

 

 一時間と少しと言った所か、結局見張りはウトウトしながら眠りに落ちる。

 その隙を見逃さず中へ侵入し、見張りを数人気絶させ一人を残す。尋問の始まりだ。

 

「だ……誰だお前達……!?」

 

「騒ぐな。死にたくなければな。」

 

 ナイフを突き立て脅迫する、見張りが数回頷くのを確認すると抵抗の意思は無いと判断し質問に入る。

 

「次の見張りの交代はいつだ。」

 

「こ、交代はない……夜が明ければここに居る連中全員の勤務時間は終わりだ、また夜になるまでは休みだ……。」

 

「夜だけ監視をしているのか?日中はしていないと?」

 

「こんな場所だ……、日中に問題が起きれば誰かが対応する……。夜となれば話は別と言うだけだ……。」

 

 確かに、監視はともかく警備くらいは日中にもいるだろう。目の届かない夜中だけ監視だけと言うのはこの場所なら有り得なくもないか。

 

「警備が緩いのは分かった、データベースにアクセスしたい。ここの端末から可能か。」

 

「可能……だと思う、監視カメラの映像はそこに保管される……だから……。」

 

「分かったよ、それだけ分かりゃ上等だ。」

 

 急所に攻撃を当て気絶させる。

 騒がれないよう最小限の対応を済ませた後、ハッキング用の機器を取り付ける。

 

「どの程度でデータ収集は終わるジャン中尉。」

 

「容量にもよるが半日前後って所か。どうする?一度アイツらに連絡を入れるか?」

 

「……いや、エイジス達の状況が分からない中で無闇に通信を入れるべきではないな。場合によっては危険に晒すことになるかもしれん。明日の合流時間まではまだ一日以上ある、データ次第で合流を早める時に一度連絡をしよう。」

 

「了解だ。いずれにせよこの見張り連中の事もある、交代が無いのなら誰かが来る可能性は低いかもしれんが0じゃあ無さそうだしな。そのプランで行こう。」

 

 その間に少しでも情報を集めようと監視カメラの過去の映像を遡る、教団の事が少しは分かれば良いが……。

 

「何か見つかりそうか中尉?」

 

「何とも……だな。見たところカルト信者ばかりだ。」

 

 何日分かの映像を見るが教団の服を着た連中が行ったり来たりの映像、これなら監視が雑になるのも当然か……、そう思っていると。

 

「待てジャン中尉、少し映像を戻してくれ。」

 

 大尉に言われ数分程度映像の時間を戻す、そこには金髪の男が映っていた。

 

「これは……。いや……有り得ない……。」

 

 大尉が言葉を濁す、その男の顔を見た時、俺も驚いた。

 

「キャスバル……レム・ダイクンだと……!?」

 

 かつて赤い彗星と呼ばれ、後にダイクンの遺児と名乗りネオ・ジオンを立ち上げた男だ。父親の面影を残す顔付き……いや、何だこの違和感は?

 

「ギレン・ザビに似た教祖といいコイツ……クローンの集まりだとでも言うのか?」

 

 大尉も疑問を抱いている。

 戦争末期、諜報部にはジオンのキシリア派がクローン兵を利用しているという情報があった。その研究資料も確か一部押収されていると聞いてはいたが……。

 

「この映像だけじゃ何も分からねえ……。だがホンモノだとしてもニセモノだとしても、相当厄介だぞこりゃあ……。」

 

 本人であれば地球連邦に対する造反だ、だが一年戦争時に連邦と共闘しデラーズ紛争においても連邦側についたネオ・ジオン共和国が造反する利点はあるのか……?全てがカモフラージュである可能性も無くはない、時間をかけて徐々に崩壊させていく計略であるのかもしれない。

 いや、常に動向が見張られている彼がここまで来るのはそもそも困難だ、惑わされてはいけない……だが……。

 仮にクローンであるとしたら、これも相当厄介だ。

 見分けの付かない人間が大量に増えてしまえば、それを利用したテロなど動作も無くなる、ここにいるのも本国に影武者を残している可能性やその逆もあり得る事になる、何が正しく何が間違っているのか判別が付かなくなる人間も増えるだろう。

 

「……ジャン中尉、一度データが収集出来たらお前だけでもアッガイで離脱しろ。ここのデータは最優先で持ち帰るべき必要があると見た。」

 

「……確かに……な。」

 

 映像ですら多大な影響を与えている、ここに隠されているデータにはそれよりも恐ろしい内容があってもおかしくはない。

 

「エイジス達は俺が回収する、中尉はデータが取れ次第アッガイでコーウェン中将の元へ向かいその後にまた援護に戻るようにしてくれれば助かる。」

 

「構わねえが……リスクは高いぞ大尉。」

 

「それは承知の上だ、エイジス達もな。だが漸く目の前に今まで影すら見えなかった組織の全容が見えてきた所だ。このデータが上に届かなければ今までの全てが無駄になる。」

 

 それはそうだ。良いように手玉に取られていた現状を打開できる。

 ……非情だがやるしかないか。

 

「了解した。データが収集出来次第俺は先にアッガイで離脱する。何が起ころうが最優先でだ。」

 

「それで良い、これ以上世界を混迷にさせる訳には行かない。」

 

 早くデータを収集しろ……。

 そう感じながら半日と言う短い時間の刻一刻が過ぎて行くのを酷く長く感じながら待つのであった。

 

 

---

 

 

 それから数時間、日が昇ったであろう時間が過ぎてから監視カメラに映る信者共が忙しなく動き始めるのを見つけた。

 

「大尉、連中の様子がおかしい。慌ただしく動き始めた。」

 

「ふむ……どうやら何処かに向かっているようだ。時間的に朝のミサと言った所か……?」

 

 一時間が切り替わるキリの良い時間ではある、恐らくは宗教的な行事なのだろう。

 こちらにとっては好都合だ。

 

「もうすぐデータの収集も終わる、俺はそれが片付き次第戻る。それでいいか?」

 

「あぁ頼む。俺は引き続き何か得られないか調査して可能であればエイジス達に連絡して合流する。」

 

「了解だ!」

 

 付近を警戒し、来た道を引き返す。

 入り組んだ構造で無く、内部は艦船のように分かりやすく区画整理されている為戻るのが楽で助かる。

 

 10分程の時間で潜水装備を隠した場所まで戻ってきた。

 着替えを済ませ記録媒体を防水加工されたケースに入れ、潜水艦ドックまで辿り着く。

 見張りは全くいない、結局イスカという少女が簡単に脱走できたのもこう言う状況だったからなのだろう、タイミングさえ分かれば脱出は容易だ。

 

 それから水中へと潜り、アッガイの場所へと辿り着く。

 これで……残った奴らに何が起ころうと全てが水泡に帰すことはない。俺達はやり遂げたのだ。

 

 出来る限りステルスで、かつ急ぎ浮上する、そしてコーウェン中将らが待機している駐屯地へ向かう。

 

「コーウェン中将!こちらジェイ・ジャン!敵対勢力の持つデータを入手、至急合流を願います!」

 

『ジャン少佐か!良くやった!今からそちらに合流する!』

 

 わざわざこちらに向かって……、相変わらず行動力のある人だと感心すると同時に施設に残してきた大尉達を想う。

 

「これで……俺らのやってきた行動に少しは意味も出る。だから早く戻って来やがれよ……。」

 

 それぞれがそれぞれの思惑があるだろうが、混迷して行く世の中を改善したいという気持ちは各々に確かにあった。

 信じられる者が少なくなってきた連邦軍ではあるが、奴らのような人間がまだ残っているのなら未来は早々諦めたものではない、だからこそ無事に帰還することを祈る。

 

 そう感傷に浸りながら移動しているとミデアが数機上空を通過する。

 

「これは……。」

 

 その内の一つがこちらへと直下してくる。

 恐らくは……。

 

「ジャン少佐!そちらの機体を確認した!今降下する!」

 

「閣下……!」

 

 頼れる将校、そして頼れるパイロット。

 それらの人材が必要とされる世がまだ残っている、その中に一度は燻った俺がまた入る事は出来るだろうか、……いや入らなければならない、今度こそ平和の道へと歩む為に。

 

 着陸したミデア、ハッチが開きそこからコーウェン中将が足早に降りてくる。

 それを確認すると俺もまたアッガイから降り、走って将軍のもとへ向かう。

 

「閣下!これが我々が手に入れた敵の情報です!」

 

 手に入れた情報を収めたデータ端末を渡す、将軍は安心したようにそれを受け取る。

 

「助かったぞ少佐……本当に助かった。」

 

「ハッ!それで閣下、あの上を通過したミデアは?ファズ大尉らの回収でありますか?」

 

「ん?あぁ、あれか。あれは祝砲だよ。」

 

「はぁ?祝砲?」

 

 意味の分からない答えに思わず困惑する。

 次の瞬間だった。

 

「私が支配する新たな世界のな。」

 

 鼓膜が破れるような大きな音が響く。一瞬、身体の全てが吹き飛ばされるような衝撃が襲い、俺は倒れる。

 

「ガ──」

 

 口から赤い液体を吐き出す、頭がまだ何が起こったのか理解しない。

 

「君の任務は全て終わったジャン少佐、よくやってくれた。」

 

「何──ゼ──」

 

「何故?勿論ここで見た事、そして何を得たか知る者は排除しなけれはならない、それだけだよ少佐。」

 

「────」

 

「閣下!ファズ()()からの通信が届きました、ゼノン・ザビが行動を開始したとの事。それとサイサリスが配置につきました。」

 

「良し、手筈通り核攻撃を開始せよ。それと電波ジャックの準備もだ、教団の演説が終わり次第我ら()()()()()も世界に向け演説を行う。」

 

「了解です!」

 

 コーウェンは一度血を吐き倒れた男の姿を見て、動かない事を確認した後ミデアに乗る。

 

「念には念を、ガソリンでも撒いて処理しておけ。」

 

「ハッ。」

 

 ミデアは浮上し、何処かへと飛び立つ。

 どのくらいの時が経っているのかすらもう分からない、地面にはとてつもない衝撃音が響き、燃料の匂いが立ち込める。

 

『ガ──ガガ──こちら連邦軍特殊部隊ハンナ・エリシュ……いえ、地球連邦軍准将アンナ・フォン・エルデヴァッサー!この通信が聞こえている全ての連邦軍兵士へ!コーウェン中将は地球連邦軍を裏切りました!繰り返します、ジョン・コーウェン中将は地球連邦軍を裏切りニュータイプ教団というテロ組織を手を結びました!全軍へ!この通信が聞こえている全ての兵士へ!どうか……どうか正しい道を……正しいと思う行動を────!』

 

 声が聞こえる、ハンナ少尉……いや、アンナ・フォン・エルデヴァッサーと名乗ったのか……?あのペズンの……?

 

「おい、早く火をつけちまえ。」

 

「あぁ。」

 

 意識が消えていく──、誰か……この世界を……人類の未来を……。

 

 炎に包まれ、ジェイ・ジャンの意識もまた炎の中に消えていった。

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