機動戦士ガンダム 紺碧の空へ   作:黄昏仮面

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第20話 キャスバル暗殺④

 

 新サイド5、EC社支社。

 そこでアルベルト・ビストはモニターの前でかつてない程に絶句していた。

 その彼を見つめていたアレクサンドラ・リヴィンスカヤも、普段の快活な彼からは見受けられないその表情に目前で起こっているゼノン・ザビと名乗る男の言っている事が本当の異常事態なのだと確信を更に深めていた。

 

「有り得ない……まさか……父さん……貴方が……!?」

 

「……これは、偽物ではなく本物の宇宙世紀憲章なのですね?アルベルト……?」

 

 ゼノン・ザビと名乗る男が提示したオリジナルだと言う宇宙世紀憲章、ビスト財団から譲り受けたとする代物だと言う彼と、それに対する元関係者であるアルベルトの反応を見るに、本物であると推測できた。

 

「アレクサンドラさん……。……あぁ、この教団が言っている月のビスト家、僕がかつていた場所。何故ビスト家がアナハイムと密接な関係にあり、かつ多大な影響力を持っていたのか。その答えがこれなんだ……『ラプラスの箱』祖父がそう名付けた、オリジナルの宇宙世紀憲章……これがあったからビスト家は成り上がる事ができた。」

 

 ゼノン・ザビの演説を聞きながらも、アルベルトは話を進める。

 

「宇宙世紀元年、宇宙ステーション『ラプラス』で行われた初代連邦政府首相リカルド・マーセナスは、棄民として宇宙へ上げられたスペースノイド達の贖罪の意味を込めて、この条文を入れたのだろうと聞いている。」

 

 私達が知らない条文、そこには宇宙に適応した新人類が現れた時に優先的に政治に参加できるようにと書かれている。

 しかし、はっきりと言えば曖昧な表現だ。

 何を以て新人類と判定するのか、その基準などは誰が決めるというのだろうと。

 時の首相が条文に書き記す内容としては、正直に言えば夢物語に近いだろう。

 

「重要なのは、この石碑に書かれた条文の内容そのものじゃない。あのラプラスでの悲劇が起こった後で再建されたレプリカにこの条文が記されていなかったのが問題だったんだ。」

 

「そうですわね……。何故消されているのか、そこは気になりますわ。」

 

「簡単な話だよ。今現在でもスペースノイドに反感を抱く者は多数にわたる。それは宇宙世紀元年でも同じだった、極右勢力にとってこんな条文は自分達の既得権益を損ねる可能性もあったんだ。」

 

「だから……消されたと、このゼノン・ザビが言っているように息子であるジョルジュ・マーセナスによって……?」

 

「あぁ。この男が言っている事は殆ど真実だ。彼らは自分達に不都合な条文を、夢物語を語る男諸共消し去った、そのはずだった。」

 

 アルベルトは、かつて自分の父から聞いたビスト家の歴史を思い返す。

 

「しかし、オリジナルは失われず貴方の曽祖父様に見つかったと言うことですの?」

 

「あぁ、当時僕の曽祖父サイアム・ビストはただの羊飼いだった。金の為にテロに参加し、その手で彼らを葬った張本人の一人だったんだ。」

 

「なんですって……。」

 

「テロ実行に雇われた曽祖父は実行犯諸共消し去ろうとしたテロの首魁、ジョルジュ・マーセナスの手の者によってラプラスの爆発に巻き込まれた。その時吹き飛ばされた彼が見つけた物、それがオリジナルの宇宙世紀憲章だったんだ。」

 

 その話が本当なのであれば、彼が何故月の一大勢力であるアナハイムと縁が出来たのか、何となく理解できた。

 

「その後曽祖父は裏社会へ身を投じ、この宇宙世紀憲章を利用し今の地位を築いた。ビスト家という家名もその時得たものなんだ。」

 

「この宇宙世紀憲章の由来はよく分かりましたわアルベルト、しかし何故その宇宙世紀憲章がこのような謎の人物に渡されたのか、サイアム・ビスト氏は何を思って渡したのか、貴方は分かりますの?」

 

「……恐らく、恐らくだけどこのラプラスの箱を渡したのは曽祖父じゃない。僕の父であるカーディアス・ビストだ。」

 

「それは……何故そう思いますの?」

 

「曽祖父は存命だ。だけどその身体は老衰している、彼は自分の命を箱を託すに値する者に受け継がせる為にコールドスリープを繰り返しながら生きているんだ。そんな彼がこんな世界が混迷に陥るようなやり方で箱を解放する訳がない。」

 

「でも、確証はないのでしょう……?」

 

「アレクサンドラさん、僕は確かに確証を持っていない。だけど父ならやりかねないとも思ってるんだ。」

 

 その瞳は揺らぎなく輝いている、決して根拠のない妄想と言うわけではないようだ。

 

 しかし、今はそれよりも大事な事がある。

 

「……!そうだ、アレクサンドラさん!このラプラスの箱の存在に心が傾いてはいたけれど!」

 

「っ!そうですわ!?ニュータイプ教団と言えば……アーニャ様とジェシー様が極秘裏に調査をしている筈の教団ではなくて!?」

 

 軍の極秘任務ではあったが、もしもの場合に備えて私とアルベルトには語ってくれていた任務がニュータイプ教団と呼ばれる教団の調査任務であったはずだ。

 

「二人は……大丈夫なのか……!?」

 

 嫌な予感が過ぎる、二人の身に何かが起こっていないか。

 そう思っていると私のオフィスに慌ただしく入ってくる社員がいた。

 

「た……!大変ですアレクサンドラ様!」

 

「どうしたのですか!?その様に慌てて……!?」

 

 異常な様相で室内に入ってきた男性、その顔はかなり青ざめている。

 

「緊急事態です……!社長の私邸に軍服を着た者達が突如突入して……!」

 

「……!?どういう事ですの!?」

 

「館の……!館の者達はみな、その者達によって攻撃を受け……!」

 

 息も絶え絶えになりながら呼吸を何とか落ち着かせようとしている彼の言葉に、こちらも顔が青ざめる。

 

「ここは一年戦争からの中立のコロニーなのでしてよ……?そんな横暴が……!?それに、お嬢様は……お嬢様達はどうなっているのです!?」

 

 ここにある私邸には二人の御息女である双子の姉妹がいる、彼女達の生死がどうなっているのか、他の者達には悪いがそちらの方が気になっている。

 

「それが……お嬢様達はその軍人達に拉致されたと……!なんとか逃げ延びた執事が息絶える前にそう……!」

 

 血の気が引き、貧血を起こしフラッとした身体をアルベルトが支える。

 

「アレクサンドラさん……!?しっかりするんだアレクサンドラさん!……アレクサンドラ!」

 

「お嬢様達が……そんな……。」

 

 あまりのショックと受け入れ難い現実に脳がまるでセーフティをかける様に、その意識を閉ざす。

 

「アレクサンドラ!……キミ!その軍人達は今どうしているんだ!?」

 

 意識を失ったアレクサンドラに代わり、現状を何とかしようとアルベルトは男に問いただす。

 そもそも軍服とはどの勢力の軍服であるのか、ジオンなのかそれとも連邦なのかすらも分からない。

 

「あ……それが……っ。」

 

「頼む!今はキミの情報だけが頼りなんだ!しっかりしてくれ!」

 

「あっ……はい!軍服……そう!連邦軍服を着た男達は軍用車両に乗り港外へ向かうルートを取ったと……!」

 

「……っ!」

 

 急ぎ外線を使ってアマテラスへと緊急の連絡を入れる。

 

「アマテラスか!?こちらEC社のアルベルト・ビストだ!フィーリウス隊に繋いでくれ!」

 

 現在アマテラスは一年前の試験運用を終え、軍が購入するか否かの判断待ちの状況となっており、デラーズ紛争中のようにテスト航行を名目に軍から出航していたクルーなどはもう解散しており、最低限の人員とパイロット隊が待機しているのみとなっている。

 

「こちら、フィーリウス。如何されましたかアルベルト主計補佐。」

 

「フィーリウス君か!非常事態だから聞き漏らさず聞いてくれ!現在コロニー港外に向かっている連邦軍車両が無いかを確認後その車両の拿捕を行ってくれ!」

 

「……?主計補佐、その命令の意図が読み取れません、それに我々には連邦軍を拿捕する権限はありませんが……。」

 

「非常事態だと言った!アンナさんの子供達が連邦軍に拉致された!原因は不明だが正式な手続きあってのものではない!既に私邸にいた者にも死傷者が出ている!」

 

「……!?了解しました、ガイウス!バネッサ!MSの準備を!……アルベルト主計補佐、報告はまた後ほど。」

 

「頼んだぞ!」

 

 彼らの実力なら仮に連邦がMSを出してきても切り抜けは出来るだろう、だが二人の子が犠牲になるかもしれないリスクを考えると下手な手も打てない。

 

「後は……!」

 

 EC社の融通が効く範囲でやれる事をやらなければ、連邦軍が信用できないとなればコロニー関係の公的機関、EC社の軍関連企業、傭兵、金さえ払えば動いてくれるものならなんでも使わなければ。

 

「これも……箱を解放したから起こった事なのですか……!父さん……!だとしたら僕は貴方を……!」

 

 ビスト家の呪いがこの様に解放された事を叔母や曾祖父は知っているのだろうか、そうだとしたらビスト財団そのものを僕は許しはしないだろう。

 

そう思っていると、あのギレンに似たクローンを名乗る男は演説を終えていたのかモニターは停波していた。その画面を少し見つめた直後、また映像が切り替わる。

 

 これは……連邦軍服を着た将校か……?

 

 

 

《連邦政府に属する市民の方々へ、私は地球連邦軍中将ジョン・コーウェンと申します。ゼノン・ザビと名乗る男の演説の直後、それに乗ずる形で同じような行動を起こす私に不信を感じる方々もいるでしょうが、先ずは話を聞いて頂きたい。》

 

《先程の、ギレン・ザビに酷似した男、ゼノン・ザビと名乗る男が開示した、オリジナルの宇宙世紀憲章。あれは間違いなく本物であると、月のアナハイム・エレクトロニクス社や連邦政府高官からも裏付けが取れました。これは私が独断で行っている演説ではない事をまず理解して頂きたい。》

 

 ジョン・コーウェン……?確かデラーズ紛争の折にアナハイム側のガンダム開発計画の責任者だったと記憶している、その男が何故?

 

《我々、いや……今は亡きレビル将軍を始めとする連邦軍の改革派は一年戦争、そして昨年のエギーユ・デラーズのテロ活動など、所謂スペースノイドがそれまでの怨恨や憎悪を起因として起こした行動に悲憤を抱いていた。地球連邦政府の中の、旧時代の保守的な思想を持った一部の権力者達が自身の既得権益のみを重視し続けた結果、スペースノイドの反感は高まり、挙句にはコロニー落としという人類史を顧みても例を見ない惨劇を引き起こす結果に至った。》

 

《しかし!それもこの真の宇宙世紀憲章が秘匿されていなければ起こり得なかった可能性もあるのです!》

 

 あんなのは所詮は時の首相が条文に添えた単純な希望、曖昧な表現で効力を成さないような子供じみた希望だ。

 あの当時、これが公開されていた所で何の意味も為さなかっただろう。

 だが、()()()()()()()()()()()()()()()()

 ジオン・ズム・ダイクンが提唱したジオニズム、そして起こってしまった一年戦争。

 それらがあのラプラスの箱の存在をただのスキャンダルから、『呪い』に変えてしまったのだ。

 あれさえ公開されていればジオニズム信仰も始まることはなく、コロニー落としも起こらなかったのではと、そう大勢の人に認識される土台が確実に積み上げられているのだ。

 

《この様な事実を隠していた一部の連邦政府高官達、そしてその庇護を受けて寄生して生きている企業や財団の存在が、この腐敗した連邦政府を産んでしまった。その事実に我々は強く憤慨しているのだ!人類の半数が死亡するという凄惨な戦争がもしかしたら発生しなかった可能性があった!スペースノイドに対する迫害や差別、空気や水にすら多額の税を課しそれに反すれば命を奪うという高圧的な態度が彼らを追い詰めたのは最早周知の事実である!》

 

 まるで演説している自分に酔っている、そんな感覚を覚えさせるようなパフォーマンスだと思うアルベルトを他所にジョン・コーウェン中将は話を続ける。

 

《かつてレビル将軍は、そのような軍高官達をジャブローのモグラと揶揄する程に忌み嫌っていた!それは私も同様です、一年前のデラーズ・フリートの蜂起も本来なら早期に対応する事が出来た!しかし自身の利を優先する俗物的な一部将校らの動きにより一時は地球にコロニーが再び落下する可能性すらあったのだ!その際私は彼らにより一時的に本来の権限を奪われた、その時思ったのです!このままでは地球は、いや地球連邦……宇宙世紀に生きる者全てが彼らによって食い潰されてしまうと!》

 

 本来の権限を奪われた?確かに地球周回軌道での最終局面では彼が本来指揮できる筈の第三艦隊は後方に回されたと後から知ったが、それは既にソーラ・レイなど戦略兵器によるコロニー阻止が確実視されていたからだった筈と聞いている。

 彼は……その全てを事実として話していない。

 これは虚実を織り混ぜている、かつて自分もそう言った手合いの人間を多く見ている、権力に擦り寄ろうとする者のやり方だ。

 

《だからこそ!今ここに私、ジョン・コーウェン中将を始めとする地球連邦軍の清廉派による地球連邦政府と軍の改革を今ここに宣言する!我々は地球連邦軍から独立し『()()()()()』として活動し、権力という欲望に染まった官僚達を是正するとこの世界の人々に誓おう!私の意志に賛同する者は地球独立軍に集うのだ!》

 

 これは……今現在起こっている事を単純に繋げてしまえばだが……ジョン・コーウェンという男が地球連邦軍から独立したという事は、おそらくは連邦軍から一定数の離反者が出ているという事だ。

 目測もなく一大勢力である連邦から独立するなど、そんな甘い考えで動く筈がない。何処かしらの支援を受けて確実な生活が保障された中で事を起こしている筈だ。

 そして……それはラプラスの箱をニュータイプ教団という存在に託したビスト財団も関わっているだろう、彼らは実利を重視する、となれば政敵となるものを排除したがる筈だ。

 ……つまりは、今起きているアンナさん達の子を拉致した者達も……。

 

 そこまで考えるとアルベルトはかつてない程に怒りを込み上げる、全身が異様なほど火照り、握りしめた拳からは血が流れている。

 

「父さん……!」

 

 真実を知るには材料が足りなさ過ぎる、だが直感で父が暗躍している事を感じ取れるのだ、その直感は信じて良いものだと誰かに後押しされるようにそう感じるのだ。

 

「あの子達に何かあれば……僕は絶対に許さないぞ父さん……!」

 

 願わくば、何も起こらない事を願う。

 フィーリウス達が彼女達を拉致した賊軍を見つけ、何事もなく救出するという最良の展開を望むが、恐らくそのような都合の良い話にはならないだろうと感じる。

 彼らは計画性を以て行動しているだろう、だからこそ……。

 

 

ーーー

 

 

「聞こえますか!この通信が届く全ての連邦軍人へ!私は地球連邦軍准将、アンナ・フォン・エルデヴァッサー!誰か応答を!」

 

 声を枯らしながら、アーニャはなおも叫び続ける。

 飛び飛びになりながらも徐々に意識が回復していく、肉体の消耗は激しいがサイド8の独自技術とはいえ、強化措置を施した強化人間体である俺の身体はある程度まで意識を回復させることができた。

 

「アーニャ……。」

 

「ジェシー!良かった……!」

 

 アーニャは涙を流して俺の無事を喜ぶ、だがそれも束の間すぐに軍人の顔に戻る。

 

「ジェシー……この付近の連邦軍は恐らくは……。」

 

「あぁ……、そもそもこの中東方面の司令官はコーウェンだ、彼が連邦を裏切るなら自分の手駒くらいは抑えているだろうな……。」

 

 コクピットに入っていた応急医療セットを取り出し、既にアーニャが施していた応急処置を更に補うように治療する。

 元々用意してあったものなのか、それともあの教団の男が用意したのか……それは分からないが今はそれを考えている場合ではない。

 

 モルヒネを注射し意識はぼんやりするものの痛みは何とか抑えられてきた。

 今はこの状況を何とか解決しなければ。

 

「機体は……使えそうかアーニャ?」

 

「……ええ、軍の主力機として欲しいくらいです。……軽く触った感触ですが、連邦機とジオン機のハイブリッド機ですよこれは。意固地になってジオンの技術を極力使わない連邦とは違いこの機体はジオン側の技術も多分に使われています。」

 

「それを製造出来る工廠は限られてる……。」

 

「えぇ、両方のMS開発技術を持っているアナハイムか、或いは連邦のMS技術をリバースエンジニアリングしたジオン側の機体でしょう。」

 

「クソ……!」

 

 そんなMSが一定数量産されていると言う事実とコーウェンの離反、そしてそれを機に台頭しようとするであろう月やアクシズの勢力、宇宙はかなり早めの戦国時代へと突入するだろう。

 

『ふむ、この機体で間違いないのだな?』

 

『ハッ、広域通信が発せられた機体はこれです。』

 

 通信機から声が伝わる、この声は……!

 

「コーウェン……!」

 

『おや?その声はアンダーセン少佐か、エルデヴァッサー准将と一緒だとはな。』

 

 ……?なんだ?この違和感は、コーウェンは俺が特務に参加していると知らなかったのか?

 

『エルデヴァッサー准将がハンナ・エリシュと名乗っていたのは先程の通信から分かったが、まさか君もとはな。余程ジャミトフは念には念を入れたかったのだろう、私の方が一枚上手だった様だがな。』

 

「どういう……事だ……!」

 

『何も聞いていないのかね?ジャミトフは私を疑っていたのだろう、ニュータイプ教団を探らせ、私との繋がりを露呈させる為に動いていた。その為に君達二人を派遣したのではないのかね?』

 

「だがジャミトフは教団本部の調査をお前に預けたんじゃないのか!?」

 

『まさか。奴がそんな事をする訳がないだろう?私が抑えたのは指揮管制機(ノーマッド)の方だ。ジャブロー内にいる我々の内通者から偽りの伝令を与え指揮権を奪って奴との繋がりを絶ったのだよ。君達二人やジャン()()はまんまと騙されてくれた。』

 

「ジャン……少佐?」

 

「ジャミトフは奴の正義感を利用しかつて協力関係にあった私の告発者に選ぶ為に特務に選んだのだろうが、詰めが甘かったようだな。」

 

「何が目的なのですコーウェン中将!連邦を私物化するつもりなのですか!?」

 

 アーニャの怒号、それを鼻で笑うコーウェン。

 

『ゼノンや私の演説を聞いていなかったようだな、既に私は地球連邦軍から独立し、地球独立軍として新たな勢力を築いたのだよエルデヴァッサー。『箱』の開示で世界は地球連邦政府を見放すだろう。』

 

 箱……やはりラプラスの箱を利用して何かするつもりなのか……?

 

「お前達は……サイアム・ビストからあのオリジナルの宇宙世紀憲章を得て、何をするつもりなんだ……!」

 

『……。一つだけ聞く、君達二人は私やゼノンが先程世界に発信した演説を聞いていないのだな、本当に?』

 

「……?あぁ、俺は気を失っていたしアーニャはお前の裏切りを広域通信で発し続けていた、残念だがお前らがどんなご高説を吐いたかは知る由もない。」

 

『……、つまりはだアンダーセン。お前はビスト財団が連邦政府の高官の中でも一握りの人間にしか教えていない、エルデヴァッサー家ですら知りようが無いオリジナルの宇宙世紀憲章の存在を知っていたと言うことか……?』

 

 しまった、状況が状況だからつい口走ったが宇宙世紀の一大スキャンダルの存在を俺が知っているのは確かにおかしい、アーニャにもその存在は伝えてはいるがそれまでは確かにアーニャはその存在を聞いたことすら無かったと言っていた。

 

「だったらどうした?褒めてでもくれるのか?」

 

 ここは挑発的になるしか無いだろう、箱が開示された今では最早その存在を知っていたか否かは重要ではないはずだ。

 

『あぁ、流石だと褒めてやりたいと思っているのだよ、素直にな。()()()()()()だからこそなのだろう?デラーズ紛争の時もそうだった、君達ニュータイプの活躍こそが、私をこの状況に至らしめる程に嫉妬と屈辱を与えてくれたのだからな。』

 

 奴の感情が昂っているのが分かる、デラーズ紛争では俺達の活躍とは裏腹に、2号機の強奪された責任など降格には至らなかったが僻地送りにされた経緯があるのでそのせいだろう。

 

『未来を予知し、それを変えるだけの力を持つ新人類ニュータイプ。その力を私は手に入れる、君達によってな。』

 

「……?どういう事だ。」

 

『ニュータイプの確保が私にとっての課題だった。自然発生したニュータイプは連邦軍によってその悉くが監視対象として保護されている。ホワイトベース隊などは手を出すには今は困難だった。』

 

「……。」

 

『だが、少し考えれば簡単にニュータイプの素養のある人間がいたではないか。一年戦争を潜り抜けたエースパイロット、デラーズの計略を看破したニュータイプの二人、()()()()()()()()()()()()は産まれながらのニュータイプだと言い切れよう。』

 

「……!!!!!」

 

 息を呑む、貧血から来る冷や汗とは違う、文字通り血の気が引くような感覚に襲われる。

 

「お前……!まさか……!」

 

『新サイド5、君達の私邸にいる子供達は私達が無事に保護させてもらっている。新たな時代の救世主としてな。』

 

「……!」

 

 アーニャも俺も、その言葉に完全に堪忍袋の緒が切れた。

 

「あの子達に少しでも手を出してみなさい!貴方を絶対に許しはしませんジョン・コーウェン!!!」

 

 今まで聞いた事の無いアーニャの怒号、張り裂けそうなくらいの声量でコーウェンにぶつける。

 

『ハハハハハ!冷静沈着なキミのその姿を見れただけでも儲け物だよエルデヴァッサー。安心したまえ、ニュータイプだと思われている内は丁重に扱わさせてもらうつもりだ。』

 

 そのセリフは、ニュータイプで無ければあの子達に何があるか分からない、そう伝えている。

 

「コーウェン……!俺は貴方を連邦軍の中でも良識のある、腐った連邦軍を正す側の人間だと思っていた……!」

 

『その通りだよアンダーセン、私は腐った連邦を正す為に地球独立軍を掲げた。』

 

「それは違う……!連邦を変えるつもりなら、その立場からでも変えれた筈だ、だがお前はカルトやアナハイムと手を組み、その権力にしがみつき新たな権力の頂点に立とうとしているただのゲスだ!かつての清廉さのカケラも無くなったな!」

 

『あまり私を怒らせない事だアンダーセン、君達の子供の身柄は私が抑えている事を忘れては困るな。』

 

「くっ……!」

 

『まぁ、それも君達には関係の無いことになるか。教団のあった湖畔を見るといい。』

 

 サイサリスの核攻撃により、殆ど干上がった湖がその本来の姿を見せる。

 そこには……。

 

「打ち上げ……台だと……?」

 

 ジャブローでも見たことのある、宇宙船を宇宙に上げるための発射台、それが干上がった岩盤に擬態されていたのか機械によって徐々に岩盤部分がパージされ発射台の外観へと変化していく。

 

 そして、かつて教団本部と思われていた施設もまた、その本来の姿を表していた。

 

「宇宙船……!」

 

 大きさからして巡洋艦クラスか、教団施設内がやたら区画整理されていると思ったが中身が艦艇の類だったと言うのならその意味が理解できた。

 

『ノアの方舟を知っているかな?彼らにとっての希望の舟、新世界を信じる無垢な信者どもを信じさせるには十分なものだ。』

 

「お前達が……あれを……!?」

 

『元々はザビ家が建設していたようだがな、少々手を加えさせてもらった。』

 

「デラーズ・フリートが中東にコロニー落としをしようとしたのもこれが目的だったのか!」

 

『その通りだよ、当初はそこからギレン・ザビの解放をするつもりだった様だが仔細までは把握していない。それよりも見たまえ、彼らの旅立ちを。』

 

 奴らの船のブースターが点火する。勢い良く打ち上げられた船は白煙と共に宇宙へ離昇して行った。

 

『さて、我々の役目も終えた。後は宇宙で邪魔になるニュータイプの指導者を無事排除できるかだが……。おっとちょうど今任務が遂行されたようだ。』

 

「ニュータイプの指導者……?まさか……!」

 

『あぁ、君達の盟友キャスバル・レム・ダイクンだよ。ジオン・ダイクンの遺児は最早必要ない、新たなニュータイプ論の妨げになるだけだ。』

 

「そんな……キャスバル代表……。」

 

 アーニャが苦悶に満ちた表情になる。

 この奸計によって多くの希望が絶たれてしまった、宇宙世紀をより良くしようという未来が、俺達の希望が。

 

 ジョン・コーウェン、いや……この絵図を作った連中全てを俺は……俺達は許さないだろう。

 

『さて、そろそろお別れだ二人とも。運が良ければ、また会えるかも知れないな。君達が本物のニュータイプなら、問題ないとは思うが。』

 

 恐らく、恐らくは先程まで核を撃ち込んでいたサイサリスのバズーカは此方を向いているのだろう。

 それに勘づいたアーニャは急ぎ機体を入り組んだ崖のある山岳地形へと向かわせる。

 湖だけを干上がらせた威力から戦略核ではなく戦術核レベルだとは思うが、それでも危険なのには変わりない。

 

「ジェシー!耐ショックの姿勢を!」

 

「くっ──」

 

 壮絶な音と共に核の炎と衝撃が襲い掛かる。

 

 そして、俺達の意識はそこで途絶えた。

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