機動戦士ガンダム 紺碧の空へ   作:黄昏仮面

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第3部 紺碧の双子編
第1話 絶望の宇宙で


 

 0087年3月、小惑星ペズン周辺宙域

 ビームライフルの光と、爆発による輝きが数年前まで戦闘とは無縁だった宙域を照らしている。

 

「ジムⅡ部隊は攻撃ラインを一度下げろ!メガセリオンⅡ部隊がその穴をカバー、脱出艇の撤退路を確保しろ!」

 

 野生味溢れる金髪の男が部下達に的確に指示を与える。

 数十機からなるMS部隊が味方の撤退を支援している、これは撤退戦だ。

 

 そこに白で彩られた、しかしその多くは傷跡や機体を継ぎ接ぎしたかのような異形のMSが現れる。

 

「ヤザン大尉、状況は?」

 

「デミ・ヴァイス、中隊長か!敵の新型が現れるまではこちらが優勢だったが、今は損耗が激しすぎるな。正直もう戦線は持ち堪えられん。」

 

 そこには恐れではなく、諦観が混じっていると中隊長と呼ばれた男は感じた、敵に恐れを抱くような人物ではない、だが状況は最早改善不可なのだと。

 

「手筈通りプランDを進行する、現時点を持ってペズンは放棄する。大尉は部隊を率いてジュネットやベアトリス、セレナらのリング・ア・ベル本隊と合流しろ。」

 

「中隊長、アンタはどうするつもりだ。」

 

「……俺は新型を引き付ける、奴らの狙いは俺達の持つ第二世代のデータだ。旧式とは言えガンダムタイプが的になれば敵はこちらに狙いを付けるはずだ。」

 

「だが貴官を失う訳にはいかない、今の連邦にはアンタが必要だと思うが?」

 

「……死ぬつもりはないさ。」

 

 そこに真紅のガンダム、ガンダムルベドが現れる。

 

「私も残ります、大尉は少佐の指示通りにプランDの進行を。」

 

「総司令!?それは聞けない冗談だな。」

 

 ヤザンの焦る声、当然の反応だ。司令級の二人が部下を残し殿を務めるというのだ、当たり前だろう。

 

「このままではどちらにせよ敵相手に全滅するだけです大尉、それなら私達が残った方がまだ囮として役に立ちます。」

 

「クッ……。了解した。」

 

 ヤザンは機体を反転させ、部下の撤退を支援する。

 

 残された二人は、接近する大勢の敵に対して息を吐く。

 

「来るぞアーニャ、金に踊らされた私兵軍団が。」

 

「……それはこちらでも言われてる事ですよジェシー。リング・ア・ベル隊は今やEC社の私兵部隊、そう言うスペースノイドの方も増えてるらしいです。」

 

「間違っちゃいないな……。だが、それでも俺達は止まるわけにはいかない。……来るぞ!」

 

 敵のジムタイプが迫る。

 デミ・ヴァイスは唸りを上げるかのような軋む音を立て敵機へ向かう。

 かつてガンダムアルベドと呼ばれた機体は、その多くが損壊し今やかつての彼の愛機、ヴァイスリッターに組み込まれる形となり現存しているに過ぎない。

 それも今ではルベドも含め、1.5線級のレベルの性能が有るか無いかだ。

 

 それでも二機はそれを物とも言わせず敵の新型ジムを蹴散らしていく、それは機体の性能ではなく、積み重ねた物の重さだろう。

 

『馬鹿な……!あんなロートルで!』

 

「機体の性能だけが全てじゃないんだよ!」

 

 サーベルが敵を一機、二機と切り捨てて行く、撃ち漏らした敵をルベドのビームライフルが貫く。

 そこには容赦も慈悲もない、敵を仕留める為の最短で最適な動きのみが行われていた。

 

 そこに敵の新たな通信が入る。

 

『全機下がれ!これ以上無駄な被害を増やすな!』

 

『隊長様の指示に従いな、死んでも金は出やしないぜ?』

 

 その言葉と共に発せられたビームライフルが回避行動を取ったデミ・ヴァイスの左腕を意図も容易く貫く、更に撤退中の味方機をも的確に貫いて行った。

 

「全機下がれ!下がれ!敵の()()()()だ!お前らでは死ぬぞ!盾は総司令と中隊長が引き受けた!全軍撤退を急げ!」

 

 ヤザンが味方部隊に怒鳴り上げる通信が響く、ジェシー・アンダーセンは右腕に残ったサーベルで敵のガンダムに突撃する。

 

「ガンダム……!」

 

 剣戟はいとも容易く回避されサーベルの軌道だけが空間を斬るだけに留める。

 援護とばかりに放たれたルベドのビームライフルもまた、まるで放たれる位置を見越していたと言わんばかりに最小限の動きで回避される。

 

 二人はその感覚を、遠い昔に一度味わっている。

 

「この感覚……!」

 

 ジェシーは歯を噛み締める、嫌な予感と死を覚悟する予感が脳裏を過ぎる。

 

「それでも!」

 

 デミ・ヴァイスは胸部のスラスターも使い常人ではまず不可能と言える戦闘機動でガンダムに迫る、彼の強化された肉体であればこその機動だ、並のパイロットであればまず反応不可能な機動。しかし……。

 

『視える……!』

 

 ビームサーベルの一振り一振りが難なく回避される、当たる事はおろか擦りすらしない、まるで新兵がベテランにいなされるかのようだ。

 

「クソ……!」

 

 それでも追撃を続ける、でなければ部下を死なせるだけだ。

 だが無情にも、どの攻撃も擦りすらしない。

 白と青で彩られた新型のガンダム、そのもう傍らにいる別のガンダムは自身は出る幕すら無いと言わんばかりに傍観を決めている。

 完全に子供扱いだ。

 

「クソォォォ!!!」

 

 エースと呼ばれる実力があった、彼等を英雄と呼ぶ者すらいた、だがその二人の攻撃は当たらない、それは弱いとか強いというレベルを超えた圧倒的な『格』の違いであった。

 

『もうよしてくれジェシーさん、アンナさん。貴方達を墜としたくはないんだ。』

 

 接触回線、デミ・ヴァイスの機体は強引に掴まれサーベルを持っていた右腕もへし折られる。

 

「何故だ……何故()()()が!」

 

『俺達にもやらなくちゃならない事がある、悲しいけどこれが戦争なんだジェシーさん。』

 

 中継された通信、もう一機のガンダムからだろう。

 これもまた彼らにとっては聞き覚えのある声だった。

 

「許さない……!例え敵がお前達だろうと!地球独立軍がした行為を!」

 

 デミ・ヴァイスは頭部を敵機に叩きつける。

 武器は最早無い、攻撃としても敵の装甲には無意味に近い、だがそれでもと言い続けるように。

 

「すまない……ジェシーさん。」

 

 ガンダムは掴んでいた手を離すとサーベルで頭部も破壊する、脚部も一瞬の間に切り刻み最早大局は決したも同然だった。

 

「何故だ……!何故なんだ……!()()()ォォォ!」

 

 返答は無く、少しの空白を経てデミ・ヴァイスのコクピットは貫かれ機体は爆散する。

 

「ジェシーーー!」

 

 アンナ・フォン・エルデヴァッサーの慟哭が宇宙(そら)に響く。

 悲しむ暇も無く、ガンダムルベドもまたビームライフルで次々とパーツが射抜かれて行く。

 

「ジェシー……みんな……ごめんなさい……。」

 

 ガンダムルベドは完全に機能を停止し、沈黙した後爆散する。

 

『……。』

 

 アムロと呼ばれたパイロットは何を呟くわけでも無く、ただこの宇宙を虚空を見るようにしている。

 

『仕方なかったんだアムロ、俺達がやらなきゃ()()()は……。』

 

『分かっているさ()()……。──全部隊へ我が軍はこれより小惑星ペズンの攻略を──、!?』

 

 ペズンの制圧を命じようとした矢先、小惑星ペズンは大きく光を放ち爆発する。

 

『やられたな、流石に俺達に情報の一つでも渡すのが嫌だったみたいだぜ。』

 

『……いずれにせよ今回の任務はリング・ア・ベル隊の鎮圧がメインだ。コーウェンもそこまでとやかく言わないだろう。全部隊へ、母艦に帰投しろ。作戦は終了した!』

 

 アムロの一声で独立軍の部隊は母艦へと引き上げる、結果だけ見れば一定の敵の撃破、そして連邦主力の将校二人の戦死と上々の成果と言えるだろう。

 独立軍の艦隊は本拠地である月へと進路を取る、後に残されたのは多くの機体の残骸とペズンのデブリのみとなった。

 

 

 

 宇宙は未だ平和とは程遠い争いと謀略に満ちた混沌を生み出していた。

 

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