機動戦士ガンダム 紺碧の空へ   作:黄昏仮面

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今回はライバル(予定)となるジオン軍人の導入回、ジェシーくんやゴップ叔父さんは出番なしです。




第12話 ジオンで目覚める者達

 それは、難しくない任務の筈だった。

 事前に数日に渡り道中の見回りがされて、安全だと報告を受けた。更に護衛はザク2機とマゼラアタック1輌で編成された部隊だ、例え道中連邦と鉢合わせでも戦車が相手なら楽なものだと。隊長も俺も……いや、基地の全員がそう思っていたからだ。

 

 しかし、現れたのは戦車では無かった。見たことのない連邦のMSとザクの胴体をしたMS、2機のMSが俺たちの前に現れて同僚だったブライアンを殺し、そして隊長も殺された。

 俺は戦闘の最中にマゼラトップで撤退し、基地に救援を求めたが救援が来た時にはもう連邦は影も形も無く隊長の使っていたザクは敵に鹵獲されていた。積荷であった試作MSのコンテナと一緒に。

 

 その後俺に待っていたのは仇討ちの為の出撃ではなく、スパイ容疑の尋問であった。何故?そんな風に思っていたら尋問官に鞭で叩かれた、「貴様が連邦に通じて敵に情報を送っていたのではないのか!」と言っていた。そんな事をする理由も意味もないのに。

 それから数日に渡り無意味な尋問が続いた、スパイ映画などでよく見る尋問シーンさながらのやり方なんてのもあった。流石に自分がされるとは夢にも思わなかったが。

 

 何の情報も出る訳が無く、俺は治療すらされずに懲罰房に閉じ込められた。これでは連邦の捕虜にされていた方が遥かにマシではないか。そう思いながらも痛みで思考が上手く回らずただひたすら暗闇の中で俺は蹲っていた。

 

 それから何時間?それとも何日?何週間?気が遠くなるような時間が流れているのではないかと思うくらい虚無の時間が続いた。何も見えず、何も聞こえず、まるで宇宙空間にいるかのようにすら思える暗闇の中でいつしか俺は暗闇と同化しているのでは無いかと思うくらい溶け込んでいた。

 

 そんな中でふと思うことがあった。

 

「なんで……なんで連邦の連中は隊長の遺体を綺麗にしてくれたんだ……?」

 

 攻撃された地点に戻った時、残されていたのはブライアンの大破したザクと、綺麗なシートに包まれ家族の写真が手向けられていた隊長の遺体だった。

 血塗れであったであろう傷痕も出来るだけ綺麗に拭いたのか血の跡は少なかった、敵はなんでそんな事をしたんだろう。

 

 なんで、なんで隊長は殺されなきゃいけなかったんだろう。

 

 死にたくなんて無かったろうに、家族の元に帰りたかったろうに……

 シニタクナイ、シニタクナイと……

 

『死にたくない』

 

「!?」

 

 声が聴こえた、俺以外誰もいない部屋から。

 

『帰りたい……』『家に帰してくれ!』『置いて行かないでくれ!』

 

 複数人の声、何処から聴こえているんだ!?

 

「誰だ!?誰かいるのか!」

 

 問いかけてるが誰も返事をしない、誰かいるのかと部屋を手探りで探すが誰もいない。俺が聞いているのは誰の声なんだ?

 

『助けてくれ!』『こんな所で死ぬのは嫌だ!』

 

「なんなんだ……!?なんなんだよこれは!?」

 

 次第に、声だけでは無く頭の中に何かが流れ込んでくる。そして誰かの死ぬ瞬間がフラッシュバックのように襲いかかってくる。

 

「うわぁぁぁぁ!」

 

 それは戦車の砲撃であったり爆撃機の爆弾であったり、数え切れない程の死の瞬間だった。痛み、苦しみ、恐怖と言った絶望がひたすら俺に流れ込んでくる。

 

「誰か……誰か止めてくれええええええ!」

 

俺の意識は、そこで途切れた。

 

 

 

 

「それで……彼についてどう思うフラナガン博士。」

 

 混濁した意識の中、誰かの声が聞こえる。

 

「懲罰における拷問での肉体的な怪我と疲労、そして宇宙空間にも似た閉鎖された空間で精神が極限状態に至った事で他者の思念が読み取れるようになったのかもしれませんな。彼が発狂したと思われる時間帯に近くで連邦との小競り合いがあり少なくない死傷者が出ています、彼らの思念を感じ取ったのかも知れません。」

 

「この様な症例でもニュータイプとして変革する事があり得るのか?」

 

「テストモデルが少ないのもありますので確実とは言えませんが戦闘下などの極限状態で相手の声が聞こえたと言った症例や思念が入り込んできたと言う症例もあります。本来宇宙環境の中で目覚めるべき力が何かしらの極限状態に置かれた事で目覚めさせられた、と言ったところでしょうな。」

 

 話しているのは二人か……、一人は女性のものでもう一人は男性のもの。女性の声には何故か聞き覚えがあった。

 

「つまりそう言った環境下を作ることで人為的にニュータイプへと覚醒させる事も可能であるのか?」

 

「適正の有無もあるでしょうから確実では無いでしょう、無理にそう言った環境に置かせても適正が無ければ廃人になりかねません。」

 

「ふむ……。」

 

 何の話をしているのか少し興味があったがそれよりも鈍重な身体と疲れた心が休みを求めているのか、急激な睡魔に襲われ俺はまた眠りに落ちた。

 

「それで、彼をどう致しますかキシリア閣下。」

 

「スパイ容疑があると基地の司令官は言っていたが調べてみれば何の根拠もないデタラメの内容だったからな。恐らくグフのプロトタイプを鹵獲された責任から逃げようと一兵士に罪を擦りつけたのであろうが、この場合怪我の功名と言ったところか。彼にも適正があると判断した、連邦への憎悪もこの件でより大きなものとなったであろうし博士の元で実験の対象とさせるのも悪くないな。」

 

「おぉ!それではキシリア閣下!?」

 

「うむ、博士主導でニュータイプの研究を推し進めてもらう。差し当たりサイド6など連邦に勘繰られ難い場所に研究所を設けてそこで優秀な兵士となるニュータイプの育成を行なってもらうとするか。」

 

「ハハッ!有り難きお言葉!ご期待に沿えられるよう精進します!」

 

 彼の知らぬ所で、人知れず大きな欲望が蠢くのだった。

 

 

 

 再度の目覚め、何故か身体が軽い。まるで宇宙にいるかのように。

 

「おぉ、目覚めたかな。ジェイソン・グレイ曹長。」

 

 俺に語りかけて来たのは年配の男性だった、どこか聞いたことのある声をしている。

 

「ここは……。」

 

「宇宙だよグレイ曹長、君は今サイド6へと向かっている。」

 

 宇宙?サイド6?話が掴めない。

 

「意味が……分かりません。」

 

「あぁ、寝たきりだったからだね。君は突然気を失って今まで昏睡状態だった。覚えはあるかね?」

 

 気を失った所までは何となく覚えてはいるがどれだけ昏睡していたのだろう。身体が思うように動かないところをみると1日2日の話ではなさそうだ。

 

「俺は……殺されるんですか?」

 

「殺す?どうして?」

 

「新型機を敵に鹵獲されました。」

 

 護送中なのでは無いかと思っていたのだが男性の反応からそうでは無さそうに見えた。

 

「そうだな、自己紹介をしておこう。私はフラナガン・ロムと言って研究者をやっている。」

 

「研究者?」

 

「ニュータイプという言葉を知っているかな?今世の中ではメガ粒子を避けたり人の思念を読み取ったりとエスパーにも似た能力を持つ人が増えているのだがね。君もその適正があると認められたのだよ。」

 

「ニュータイプ……。」

 

 聞いたことはある、我らが指導者だったジオン・ズム・ダイクンの思想に進化した人類が登場するだろうとそれがニュータイプと呼ばれる者達だと言う内容があった筈だ。

 

「今サイド6にてその研究をする為の施設が建造中でね。君もその施設の職員として働いてもらいたいのだよ。この研究が上手くいけば君も連邦へ復讐ができるかも知れない。」

 

 連邦への復讐……俺の中に流れ込んできた多くの人達の無念、憎悪、そう言った感情が俺に連邦を倒せ、連邦軍人を殺せと心の中で蠢くのを感じた。

 

「そこに行けば……連邦に復讐が?」

 

「あぁ、可能だとも。」

 

 ドクンと心臓が強くなった、隊長やブライアンの怨みも連邦にやられた同胞達の怨みも晴らせるのかと。

 

『ドクター、あの人目が覚めたのね?』

 

 聞こえて来たのは同時に同じセリフを言ってきた少女の声、声がした方を見ると容姿が似た少女が2人そこにいた、双子なのだろうか。

 

「あぁ、目が覚めたよ。君と同じ力を持った人だ。」

 

「面白いね姉さん。」「そうね、面白いわ。」

 

 何が面白いのだろうか、自分と同じ能力を持っていると言われた事にか?

 

「違うよ。」「違うわ。」

 

 心が見透かされたかのように俺を見て言葉を発する双子に俺は驚いた。

 

「おや、まさか彼の心を読んだのかね?」

 

「えぇ。」「そうね。」

 

 本当に心を読んだのか!?どうやって?

 

「難しくない。」「私達を見て。」

 

 言われた通り彼女達を見る、その瞬間だった。

 

「!?」

 

 押しつけられるような感覚と共に彼女達の記憶が流れ込んでくる、そこには両親に虐待され暗い部屋で寄り添うように互いを庇う2人の姿が見えた。

 

「な……!?君達は……!こんな……!」

 

「大丈夫。」「意識を止めて。」

 

 次々と流れ込む記憶に押し潰されそうになった所を彼女の言葉でシャットダウンする。これがニュータイプという力なのか!?

 

「こんな……こんな事が……。」

 

 白い髪の綺麗な少女達、だが俺が見た記憶の映像では彼らの髪は別の色だった。つまり虐待のせいで髪の色素が抜け落ちたのだろう。よく見ると身体には傷痕がまだ残っている箇所もある。

 

「優しいんだね。」「優しいのね。」

 

 哀れんだ俺の心をまた読んだのか彼女達はそう呟く。

 

「おおぉ!素晴らしい!ニュータイプ同士の共鳴は近しいもので無くても可能なのだな!これは素晴らしいぞ!」

 

 フラナガンと呼ばれる研究者はこの一連の流れに狂喜している、何が素晴らしいのだ。こんな苦痛な目に遭わされてこんな能力に目覚めた彼女達の何が。

 

(大丈夫、今は辛くないよ。)

 

 ハッと彼女達を見る、フラナガンを見る限り聞こえているようには見えない。つまり俺の心に直接語りかけてきたのだ。

 

(お兄さんも同じだもの。私達と同じ。同じ仲間。)

 

 同類が出来たことを素直に喜んでいるのだろう、今まで2人でしか分かり合えなかった力を同じように持つ人間に出会えたことが。

 

(あぁ、仲間だ。)

 

(ありがとうお兄さん。)

 

 そうフラナガンに聞かれないように心の中で話し、俺たちは後にフラナガン機関と呼ばれるニュータイプ研究所となる場所に向かうのであった。


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