機動戦士ガンダム 紺碧の空へ   作:黄昏仮面

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第13話 敗戦、地に塗れて

 数日に渡るヴァイスリッターの起動調整が終わり、ララサーバル軍曹も訓練もそれなりの成果になった事もあり俺たちは再び戦地へとデータ収集の為飛び立っていた。

 新型も受領し、部隊員の補充もあり士気は今までよりも高かった。何より結果を出せている事自体が知らず知らずに自信を付けさせていたのだ。

 

ーーーだからこそ、油断をしていた。それは夜間での航行の最中だった、森林地帯を通過した際に突如地上からミサイルが放たれミデアに直撃したのだ。

 

「くっ!地対空ミサイル直撃!高度保てません!」

 

 叫びながらミデアを維持するクロエ曹長、高度計は少しずつだが確実に下がり始めていた。

 

「パイロットはスクランブル発進の準備だ!ミデアはこのまま不時着させるしかない!」

 

 ジュネット中尉の指示に俺とアーニャ、ララサーバル軍曹がMSへと向かおうとする、しかし制御が不安定になっているミデアの挙動で思うように進めない。

 

「くっ……何とかMSに乗り込まないと……!このままでは危険です!」

 

「だけどこう揺れてちゃMSコンテナまで行くのに一苦労だよ!」

 

「這ってでも行くしかない!このままじゃ不時着した所を狙い撃ちされるぞ!」

 

 発進できずミデアがMS諸共纏めて撃破されては堪ったもんじゃない、文字通り縋り付きながらコンテナまで移動する。

 コクピットにワイヤーを伸ばし何とか搭乗できた。

 

「クロエ曹長!ハッチは開けられるか!?」

 

「何とかやってみます!」

 

 クロエ曹長はハッチを開けようとするがエラーの文字が表示され、思わず計器を叩きつける。

 

「ダメです!此方からでは解除できません!MSで無理矢理こじ開けてください!」

 

「くっ!」

 

 俺はヴァイスリッターのヒートサーベルを取り出し、出力を上げてハッチを切りつける。

 数箇所切れ目をつけてから脆くなった部分を蹴り付け無理矢理ハッチをこじ開けた。

 

「よし!行けるぞ!」

 

「待ってください少尉!この高度じゃMSが耐えられるかまだ分かりません!もう少しだけ待って!」

 

 クロエ曹長の言葉でストップがかかる、確かに高高度からの着陸と言うのはまだ試した事がないのでどれくらいの高度ならMSに負荷が掛からないかと言う保証がない状態で降下するのは危険だ……しかし。

 

「でもアタイらのMSだけでも降ろしてミデアを軽くしないとセンセー達だって危ないだろ!?」

 

 クロエ曹長はヴァイスリッターの調整をこなして以来ララサーバル軍曹から『センセー』と渾名がつけられ尊敬されるようになった、その話は一先ず置いて確かにミデアを軽くすればそれだけ安定は増す、しかし。

 

「馬鹿言わないで!MS運用が私達の役目なのにそのMSやパイロットを危険に晒す訳には行かないでしょ!」

 

 自身の身の安全よりもMSとパイロットを優先する、それは部隊の存在意義として間違っていない事だ、だが。

 

「馬鹿言ってるのはソッチだよ!仲間を守れないんじゃパイロットやってる意味がないんでね!シショー!お先に失礼します!」

 

 そう言うとララサーバル軍曹はブーストを吹かせ降下する、今の高度ならブーストを吹かせ続ければギリギリ行けるか……!?

 

「俺も同意見だ!ヴァイスリッター降下するぞ!」

 

「あぁもう……!少佐!貴方だけは残ってくださいよ!」

 

「しかし……!」

 

「しかしもだってもありません!降下によるダメージもそうですけど指揮官機が狙い撃ちされたらダメです!貴方だけはギリギリまで待ってください!」

 

「くっ……了解です。」

 

 歯痒いが言い返せない、せめて二人の身の安全を祈るだけだった。

 

 

「ララサーバル軍曹!まだブーストを吹かせられるか!?」

 

「ギリギリ……ってとこだね……!シショー!敵は見えるかい!?」

 

「ダメだ!夜で視界が確保できないしミノフスキー粒子のせいでレーダーも効かない!」

 

 最悪の状況である、敵に奇襲されるのがこれ程まで恐怖に感じるとは……。

 

「……っ!ヤバイよシショー!照明弾だ!」

 

 突如周りが明るくなり俺達の機体が光に晒される、いけない……!この状況は!

 

「シールドを構えろララサーバル軍曹!狙い撃ちにされるぞ!」

 

 言った直後に前方からの砲撃と銃撃の嵐がやってくる、精度は高くないがこう火力を集中されていたらいつかは当たる……!

 

「くそ……!火器は装備できなかったから防御に徹するしかないのか……!」

 

 ララサーバル軍曹はザニーヘッドの頭部バルカン砲で牽制を与えているが此方は同じザニータイプの頭部でもバルカン砲は積んでいなかった、それが今はかなり悔やまれる。

 

「そろそろ地面ですよシショー!ブースト全開でえええ!」

 

「くっ……うおおおお!」

 

 出力を最大まで上げて着地するがかなりの衝撃を受ける、コクピットシートを固定していなかったら全身を打ち付けていただろう。

 

「ララサーバル軍曹!大丈夫か!?」

 

「ちぃ……すまないシショー!脚部をちょっとやられたみたいだ!小破してる!」

 

 足下を見ると左脚部から煙が上がっている、これではまともな戦闘は無理だろう。

 

「一旦下がるぞ!ミデアの護衛に回らないと!援護するから先に行くんだ!」

 

「……っ!了解!」

 

 ミデアはゆっくりと降下して行っている、何とか不時着は出来そうだ。そう思っているとアーニャのザニーが降下して行くのが見えた。安全な高度まで達したみたいだ。

 

「後はこのまま……敵を撤退させられれば!」

 

 森林地帯に隠れながら移動し敵の行軍を確認する、此処は連邦の勢力圏内の筈だが敵の火力は偵察と言うには高すぎるものだ。恐らくここで隠れて敵の通過を狙っていた部隊なのだろう。ゲリラ戦略はジオンの得意とする分野だ。

 

「シショー!ミデアが!」

 

 ミデアの方角を確認すると不時着したミデアから炎と煙が出ているのが見えた、クロエ曹長達は無事なのだろうか。

 

「急がないと……!敵もミデアを狙いに来るぞ……!」

 

「何とか動いておくれよザニーヘッド!」

 

 可能な限りの最大戦速でミデアへと向かう、道中敵のMSが見えた。

 

「ザクだ!ララサーバル軍曹下がってろ!」

 

「あいよ!……手が出せないのがもどかしいね全く!」

 

 敵が此方を捕捉しマシンガンを乱射してくる、シールドを構え防御すると共に逆の手でシールドからヒートサーベルを取り出す。

 

「通らせてもらうぞ!」

 

4基のスラスターを左方向に稼働させ一気に相手の死角へと回る、敵に隙が出来たところをヒートサーベルで貫く。

 

「ザク撃破!ララサーバル軍曹!これを使え!」

 

 敵が落としたザクマシンガンをララサーバル軍曹に渡す、残弾数が心許ないが無いよりはマシだろう。

 

「有難いねえ!これで援護できるよ!」

 

 ミデアへと更に前進しようやく到着するとホバートラックとアーニャのザニーが待っていた。

 

「クロエ曹長!ジュネット中尉!無事か!?」

 

《こちらは何とか無事だ、クロエ曹長もな。武器コンテナも何とか牽引した、装備して撤退戦の準備を……!ソナーに感有り!1時の方角からMSが3機だ!機種不明!》

 

 言われた方向を確認すると確かにMSが3機、ザクが2機に……あれは!?

 

「あの青いのはなんだい!?新型か!?」

 

「あの形状……!まさか!?」

 

「もう量産されていたか……グフ!」

 

 青いMSグフ、プロトタイプがあったから量産されていてもおかしくはないと思っていたが……。

 

「敵は3機編成……!こちらもケッテを組んで対応します!私とララサーバル軍曹で火力支援を行いますのでジェシー!貴方が近接戦闘で対応してください!ホバートラックはこの位置では危険です!下がってください!」

 

「了解!」

 

《すまない!後方に下がる!》

 

 敵を撹乱する為に前方に突出する、ザクの一機がこちらを牽制するが残り2機は此方に構いもせずにアーニャ達を狙う。

 

「コイツら……!」

 

 不味い、ザニーヘッドは小破しているしザニーは防御力に難がある。グフの機動性が相手ではかなりの不利だ。

 

「くそ!邪魔だぁ!」

 

 ザクへ攻撃を仕掛けようとするが近づくとそれに反応して後方に下がって行く。かと言って此方がグフの方角へ行こうとすると今度は接近して邪魔をしてくる。この部隊……練度が高い!

 

「だからって……いい加減に……舐めるなぁ!」

 

 スラスターの出力を上げて切り込みをかける、瞬間的な速さなら此方の方が上手だ!ヒートサーベルでザクを切り倒し行動不能にさせるとグフへと移動を開始する。しかし既にグフはアーニャ達を捉えていた。

 

「隊長は逃げな!此処はアタイが……!」

 

「ララサーバル軍曹!」

 

 グフのヒートサーベルに対抗しようもザニーヘッドもヒートホークを構えるがその瞬間構えた腕部が切り落とされる。

 

「やらせない!」

 

 アーニャは装備した100mmマシンガンでグフを攻撃する、数弾が着弾しグフは一旦後退するがその後ザニーへ狙いをかける。

 

「アーニャ!逃げろ!」

 

 ヴァイスリッターのスラスターを最大出力で稼働させるがグフまでギリギリ届かない、ザニーに狙いをつけたグフのヒートサーベルが一閃を繰り出し……。

 

「きゃあぁぁぁ!」

 

 ザニーの頭部を切り落とす、コクピットはギリギリ避けられたがこれ以上は危険だ!

 

「やめろおおおおお!」

 

 次の攻撃を繰り出す瞬間に間に合いギリギリの所で攻撃を止めるがその瞬間をもう一機のザクは見逃さなかった。

 

「シショー!ザクが!」

 

 ザクバズーカを構えたザクがこちらに照準を合わせ、それを放ってくる。

 

「くっ!うわぁぁぁ!」

 

 咄嗟に左腕部で防御するがシールドごと大破する、幸い武器を持っていた右腕部はまだ無事だがこれ以上は防御しきれない。

 

「舐めんじゃないよ!」

 

 痺れを切らしたララサーバル軍曹がザニーヘッドの残った腕についているザクだった物のスパイクショルダーで体当たりをかける、上手くメインカメラに当たり更に転倒までさせた。

 

「ハァ……ハァ……ざまぁ見な……!」

 

 しかしその瞬間を見逃さないとグフは今度はザニーヘッドに狙いをかける、だが此方もそれは見逃さない!

 

「いつまでもやらされっぱなしでいられるかぁ!」

 

 残った右腕のヒートサーベルをグフに振り下ろす、何とか間に合いグフの左腕部を損傷させた。

 

「……。」

 

 しばしの沈黙、此方も相手も攻撃の決め手を欠けている。それを相手も察したのかゆっくりと後退し中破したザクを連れ下がっていく。

 

「て、撤退したのか……?」

 

「みたいですね……。まだ油断は禁物ですが……取り敢えずは。」

 

「助かったぁ〜!」

 

 しかし敵がいつ体制を整えて再攻撃してくるか分からない、今は一刻も早く撤退しなければ。

 

《大丈夫か!機体の損傷は!?》

 

「こちらは私とララサーバル軍曹の機体が大破、ジェシーのヴァイスリッターが中破です……。」

 

《少佐とララサーバル軍曹の機体はここに置いていくしかありません、OSの情報だけ抜き取るので時間をください。後機密保持のため、自爆の準備もお願いします。》

 

「……分かりました。」

 

 残念だがこの状態では撤退すら安全に行えないだろう。ここで処理して行く他ない。

 急ぎ準備に取り掛かる、クロエ曹長が可能な限りの蓄積されたデータの保存を。俺達が自爆シークエンスの準備を。

 

 準備が終わり、アーニャとララサーバル軍曹をホバートラックに乗せ、連邦勢力下の地域を確認した後その方角へ向けて撤退を開始する。

 自爆処理は撤退後30分で発動するように設定し敵への陽動も兼ねて逃げやすくする。

 

 そして撤退を始め30分が経った。

 

 ドゴォーンと大きな音が響き渡る、俺達のMS……そしてかつての愛機だったザニーヘッドが消えていったのだ。

 

「畜生……初めての出撃だったのに機体を失くしちまうなんて……。」

 

 落ち込むララサーバル軍曹だったがジュネット中尉からフォローが入る。

 

「気に病むな、機体は所詮消耗品だ。パイロットの命と比べたら幾らでも替わりはある。だがパイロットは違う、優秀なパイロットが1人でも死ねばそれは代えが利かない重大な損失なんだからな。」

 

「その通りです、こうやって生き残れたことにまずは感謝しましょう。」

 

「そうだな、今はまず生き残こることが大事だ。敵に見つからないように何とか味方に助けて貰えるといいけど……。」

 

 幸い夜間なのと索敵能力に優れたホバートラックが同行しているから自爆での敵の誘導もあるし余程敵が大戦力でもない限りは安心だろう。

 だが初めての敗戦は今までの成功で浮かれていた自分達を打ちのめすには十分なものだった。一歩間違えれば死ぬ、そんな危機的な状況がこれほど早く襲ってくるなんて……。

 

 悔しさを噛みしめながら俺達は撤退し、数日に渡る後退の末にようやく味方部隊との連絡が通じて何とか全員生還を果たしたのであった。

 


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