ジュネット中尉の安全運転で特に何の問題も無く街に到着した。前日の地獄のようなドライブのお陰もあり予定していた時間よりも早く到着する事ができたのは怪我の功名と言った感じか?
現地到着後、昼食の時間まで各自自由行動となり女性陣は揃って買い物に出かけて、ジュネット中尉も入用の物があると一人で行ってしまったので絶賛一人ぼっち中だ。
まぁいい機会だしこの自由時間を利用して宇宙世紀の街並をじっくり堪能しよう。なんだかんだで完全にフリーな時間って今までなかったもんなぁ。
それから少し街中を歩き、面白そうな店に入っては何か良さそうな物はないか見て回る。昔ながらの民芸品などもありこういうのはいつの時代も変わらないんだなぁと感嘆しながら散策していると何処からともなく声を掛けられた。
「ねえねえ!お兄さん、その制服って連邦軍のでしょ!」
それは小学生くらいの子供達で、どうやら俺の制服を見て連邦軍だと思い声をかけたのだろう。憧れでもあるのか男の子達は目を輝かせながら俺を見ているが一緒にいる女の子達はやっぱり軍人は怖いのか少し後退りしている。
「あぁ、今はお休みで遊びに来てるけど連邦軍の軍人だよ。」
「うわぁー!本物だぁー!」
数人の子供達が俺を取り囲み四方八方から質問を浴びせてくる。やれ「パイロットなの?何に乗ってるの?」とか「ジオンって怖いの?」とかあれこれ聞いてくるので返答が間に合わない。
「あー、ちょっと待って。一斉に質問されたら返事ができないよ。」
子供達を落ち着かせ順番に答えていく。流石にMSパイロットやってるよとは機密的に言えず取り敢えず戦闘機乗りと嘘をついたがそれ以外の質問には丁寧に答えていく。
「ねぇ、早く戦争終わらないかなぁ?」
一人の少女が悲しそうな顔をしながら質問をしてくる。
「あのね、お友達のお父さんね。兵隊さんになって今も戦ってるんだって。お家に帰って来なくてお友達がねすっごく泣いてるの。早く戦争が終わったら帰って来れるんだって。ねえお兄さん、いつになったら戦争終わりそう?」
大人達が、いや一部の軍人達が勝手に始めた戦争だ。子供達からしたら親や友達と離れ離れになったり最悪今生の別れになったりもするだろう。子供達からしたら早く終わって欲しいって思うのは当然だ。
「うーん、偉い人達が戦争やめて仲良くしよう!って言ってくれたらすぐに終わるんだけどね、でもみんな怒ってるから中々上手く行かないんだ。」
「変なの!みんなで手を繋いだらすぐ仲良くなれるのに、ね!」
「うん!」
子供達はみんなで手を取り笑い合った。確かにそうだ、上にいる人間達が利権だとか既得権益を維持しようとして、それに反発する人がいて喧嘩になって。スケールが大きくても実際はそんな小さな尺度で語れる戦争なのだ。
スペースノイドの独立、連邦の支配からの脱却、そんな事も最初から連邦政府が話し合いで解決できたらこんな戦争なんて最初から起こらなかったのかもしれない。
原作でもしばしば腐敗した高官達が出てきたりしてたけどそれを正す事ができたら……。そんな風に考えていると子供達とは別の、聞き慣れた声が入ってきた。
「あら?ジェシーじゃないですか?」
「あっ、アーニャ。それにクロエ曹長やララサーバル軍曹も。」
見ると両手に色々と抱え込んだ三人がいた。どんだけ買い物してるんだよ。
「シショー……なんでこんな小さな子供達と一緒に……?」
おいおい、なんか目つきが失礼な感じがするんだが。まさか昨日のロリコン疑惑が未だに効いているのか?
「あぁ、散歩してたら子供達に声をかけられてね。そうだよねみんな!?」
子供達に確認を取らせることで俺の身の潔白とロリコン疑惑を払拭させる、なんかやり方が汚い気がするけど仕方ない。
「うん!お兄ちゃんと早く戦争が終わると良いなって話てたの!」
「へぇー、シショーもいいことを言うんですね。」
「おいおい、普段は悪いことしか言ってないみたいじゃないか!」
「ははは!すまないねシショー!」
ララサーバル軍曹の笑い声に釣られて子供達も笑い出す、結果的にオーライか。
「そうですね、早く戦争が終わってこの子達が平和に暮らせる世界にしないと。」
未来を見据えて遠くを見つめるアーニャ、子供達がせめて平和に暮らせるように少しでも頑張らないとな。
「お姉ちゃんみたいな子供も連邦軍に入ってるの?」
「うんー?お姉ちゃんは子供じゃないですよー?」
いつぞやの風景を思い出して堪らず吹き出した、クロエ曹長も吹き出すのを我慢して口を抑えている。
「えー!ウソだー!俺の兄ちゃんとおんなじくらいの背してるもん!」
「あのね〜?お姉ちゃんは15歳なんだよー?君のお兄ちゃんは何歳かな?」
「10歳!」
流石に今の一言で三人とも大笑いしてしまった、アーニャの方を見つめると今までになく青筋を立てて笑っている。顔は笑っているが絶対に心は煮えくりかえってるなこれ。
「三人とも、後でお話しがあるので覚えていてくださいね?ねぇ?」
「はい……。」
後で説教コースだろう、そんな事を思いながら子供達と別れを告げて昼食の場へと向かった。
「さて、三人とも何か言い残すことはありますか?」
「……。」「……。」「……。」
「い、一体何があったんだ?」
レストランに集まった俺達の怯えた表情を見てジュネット中尉が困惑していた。
「ジュネット中尉は気にしないで大丈夫です。」
「りょ……了解。」
触らぬ神に祟りなし、そう直感したジュネット中尉は俺達から少し椅子をずらし外を眺めている。逃げたなコンチクショウ……!
「いやー隊長、あれは仕方ありませんって。」
「な!に!が!仕方ないんですか!」
基本的に身長関連の話題がNGなのか普段は温厚な方のアーニャもこれにはムキになる。
「だってさ、身長の話で子供のお兄ちゃんと一緒の背丈だって言われてさ『私は15歳だけど貴方のお兄さんは何歳?』って聞いて『10歳!』って即答が来たんだよ?思わず笑っちまうよこんなの。」
「ブッ……!」
横からジュネット中尉が吹き出した、そりゃそうなるよね。
「ジュネット中尉!?貴方もですか!?」
「す、すまない。悪気は無かったんだが……。」
「もう!なんなんですかみんなして!」
ぷんぷんと怒るアーニャであったが、そういうムキになるところが原因じゃないかなと思ってしまう。実際本当に成長するかは別として成人するまでまだ時間あるんだしそんなに悲観しなくても良いと思うが。
「まぁまぁ隊長も怒ってばかりいるとカルシウムが足りなくなりますよ!カルシウムってのは身長伸ばすのに必要なもんだから怒って消費してたら勿体ないよ!」
「えっ?そうなんですか……?」
幾らなんでも必死すぎる……まぁララサーバル軍曹の誘導を間に受けてこのまま沈静化してくれると助かるが。
「怒ると身長に悪い……。」
ブツブツと呟きながら急激に大人しくなっていく、どうやら何とかなりそうだ。流石に何回もこんな事になるのも面倒なので身長に関してはもう弄らないようにしよう、そう思いながらみんなで昼食を取った。
それからみんなで部隊で必要になりそうな日用品などを購入しジープに積み込んで帰路へ着こうとしたら先程の子供達が見送りに来ていた。
「お兄ちゃん!お姉ちゃんバイバイ〜!」
「バイバイ〜!」
大声で俺達に手を振る子供達、みんなにこやかな顔で手を振り返す。
「また会いに行きます!」
「元気にしてるんだよ!」
子供達は俺達が見えなくなるまで手を振っている、俺達もまた子供達が見えなくなるまで手を振り続けた。
「次にあの子達と会う時は平和な世界になっていると良いですね。」
「……あぁ。」
せめてあの子達が戦場に行くことのない、そんな平和な世界にさせたいと願い。俺達は街を後にした。
そして基地に戻ってから数日が過ぎたある日の事である、俺達第774独立機械化混成部隊は司令室に呼び出された。
「第774独立機械化混成部隊よ。集合したようだな。」
「司令、本日はどのような御用件で?」
アーニャが司令官へ質問をする、本来独立部隊である俺達は殆ど自由行動で動いてるためこうやって司令室に呼び出される事は非常に稀なことだった。
「それについてはこちらから話そう。」
声がした方へ振り返るとそこには……。
「コーウェン准将!?」
「今は昇進して少将だがね、久しぶりだなアンダーセン少尉。」
あのコーウェン准将……っと今は少将か。彼が俺達を呼び出したってことは……?
「突然の話であるが、君達第774独立機械化混成部隊に現在試作段階へ移行した新型量産機の実動試験を伴った敵基地攻略作戦をお願いしにやって来たのだ。」
そう言って少将は俺達に新型量産機と思われるデータが入った端末を渡してきた。それを確認して俺は驚愕する。
(これは……ジム!?)
見覚えのあるシルエットと端末に表示されたデータからジムで間違いはなさそうだ。ただエネルギーCAP技術はもう少しで完成予定だからか基本装備はビームスプレーガンから100mmマシンガンになっているが。
それとは別にもう一つ、其処には俺の知らないMSのデータが表示されていた。
「一機はV作戦で現在開発中のMSをコストダウンした量産機『ジム』だ。コストダウンしたとは言え汎用性はザクより遥かに勝る。そしてもう一機は君達が鹵獲した敵MSを解析し、陸戦対応に基本性能を特化させ更に戦局に応じて装備を換装出来る様に拡張を持たせたMS『メガセリオン』。これらを君達に運用してもらいたい。」
俺の知らないMS、それは確実に本来の歴史とは違う流れに突入したのだと俺を実感させるのだった。