RGM-79 ジム、ガンダムシリーズを見た事がある人なら誰もが知っているだろうMSだ。本編では初登場からシャアのズゴックに貫かれるというやられ役を披露してしまいすっかりそのイメージが定着されていたりするが実際はその汎用性や信頼性から次々とバリエーションや後続機が開発され続けた傑作機である。
ガンダムの量産化を目指しただけあって一部性能ではガンダムに引けを取らない部分もあり一年戦争末期に配属されたジムスナイパーⅡなんかはガンダムより高性能と言われたこともある。
そのMSと並びに立っているこの俺の知らない新型量産機……コーウェン少将は『メガセリオン』と名付けていたが詳しく見てみると中身はこんな感じだ。
元々プロトタイプグフを参考に開発されたこのMSは陸戦に特化されている仕様をそのままに連邦軍の技術で更に安定性を高めていて装甲から何まで完全に連邦製である。同じプロトタイプグフを素体に造られたヴァイスリッターとは一部構造が似ており、四基のスラスターは無いが背面のランドセルに二基のスラスターが装備されており基本装備もヒートサーベルとなっている。
見るべき特徴としては機体性能よりもその拡張性であり現在はテストモデルである三つのオプションパックの装備を前提としたMSである。
近距離攻撃に特化したショートレンジオプションパックでは現在試作中であるビームダガー、そしてアサルトショットガンを装備し敵MSとの戦闘を前提として白兵戦仕様となっている。
そして中距離攻撃、支援用のミドルレンジオプションパックでは100mmマシンガン、地上用ハイパーバズーカ、ミサイルランチャー等の火器支援を基本的に担当するがこの仕様なら近距離攻撃も卒なくこなせるだろう。
遠距離攻撃用のロングレンジオプションパックは遠距離による火器支援と狙撃対応と言った長距離に対応したものとなっており、ボルトアクションライフルを参考に開発し連邦陸軍で使われていた75mm砲を転用したスナイパーライフルと用途に応じて弾頭が変えられる180mmキャノン砲、それらの狙撃を安定させる為の展開式シールド装甲などスナイパー仕様となっている。
こういったタイプのMSはグリプス戦役末期に開発されたゼク・アインやガンダムF90みたいな本来もっと先に実装される開発形態の筈だが、先日俺と話をした時のアイデアをそのまま採用したらしく試作段階ではあるもののMS単機での拡張性は破格の物である。
「どうかね、少尉の意見を参考に開発したのだがね。」
「正直驚いてますよ、まさか自分の言ったアイデアからここまで完成度の高いMSに出来るなんて……。」
しかも本来なら開発されることないMSだ、俺にとってはその事の方が驚きである。ジムにしてもそうだが本来今の時期に開発されているのはガンダムの規格に合わなかった部品から製造からされた陸戦型ジムや陸戦型ガンダムである。それにしたって後一ヶ月か二ヶ月は先の話の筈なのに今の時点で試作段階とは言え二機の量産機を開発するなんて……。
「へぇ……シショーがアイデア出したのかいこのMSは。」
「作戦内容に応じて武装を変更し対応する……確かに面白い設計思想ですね。これなら作戦を立案する際にも幅広く戦術を取り入れられますね。」
「君達第774独立機械化混成部隊にはそれぞれ一機ずつジムとメガセリオンを配備する。これを受領し友軍のMS部隊と共にMS実働試験を伴った敵基地への強襲を仕掛けてもらいたい。」
「友軍もジムやメガセリオンで出撃するんですか?」
「そうだ、テスト部隊は多い方が良いのでね。シミュレーションで良い成績を出しているパイロットばかりだが実際の出撃は今回が初めてとなる。」
新兵を伴っての敵基地攻略か……、攻める場所にもよるが厳しい戦いになりそうだな。
「それで君達には基地攻略の先駆けとして敵基地上空からのパラシュート降下で強襲をかけてもらいたいのだ。」
「えっ。」
思わず間の抜けた声が出てしまった、パラシュート降下ってあの08小隊でやったあれだよな?
「非公式な記録となるが人類初のMSによるHALO降下だ。誇るべき偉業となるだろう。」
「あの、テストとかはしてるんですよね?」
なんかもうやる前提みたくなってるんだがそれなら流石にテストくらいはしている筈だよな?
「その点なら安心したまえ、君達が奇襲を受けた際に取れたデータから耐久面などを考慮し被害の出ない高度からパラシュートを展開させられるように設計してある。シミュレーションでも問題無かった。」
と言うことはつまり……。
「ぶっつけ本番……と言うわけですか?」
「そうなるな、君達の奇襲と同時に四方から合計6つの小隊が攻め入る手筈になっている、編成は後程知らせるが何か質問はあるかね?」
「愚問ではありますが一つだけ。何故我々第774独立機械化混成部隊がパラシュート降下の要員に選ばれたのですか?」
アーニャの質問、確かにそれもそうだ。非公式な記録になるなら別の部隊にやらせて公式の記録にしてそれこそレビル派の部隊にでもやらせれば功績が残るだろうに。
「エルデヴァッサー少佐の意見もごもっともだ、本来なら我々の部隊から選出すべきであったのだがゴップ閥の活躍を妬む者もまたいるのだが、彼らは君達をこの危険な作戦に投入させる事であわよくばと狙っているのだよ。」
「なんだいそりゃ、つまりアタイ達に死にに行けと命じてるようなもんじゃないか!」
「ララサーバル軍曹、口を慎みなさい。」
アーニャが怒るララサーバル軍曹を制止する。まぁ彼女の怒りも分かる、つまり俺達が活躍すると困る連中がいて、この作戦での失敗か或いは戦死を狙っていると言うことだ。心良く思う訳がない。
「いや、良いのだよ。実際私も苦言を呈したくらいだからな。今は派閥がどうこうと言っている場合ではないと言うのに。」
その喋り方には本当に俺達の身を案じるように嘆かわしさが込められていた。それを察したのかララサーバル軍曹も「申し訳ありませんでした。」と畏まり敬礼をするのだった。
「困難な任務となるが君達ならやり遂げられると信じている、だからこそ私も敢えてこのような任務を通したのだ。仮に大成功でもしたら君達の活躍は不動のものとなるだろう。」
「閣下のご期待に応えられるよう我ら第774独立機械化混成部隊奮闘致します!」
アーニャの敬礼と同時に部隊全員で敬礼をする、コーウェン少将もそれに返礼した。
「作戦の決行は7日後だ、それまでに機体の慣熟と調整を済ませておくように。」
『了解!』
作戦決行日までの間に慣熟訓練を済ませておかないとな……、コーウェン少将と別れを済ませた部隊の面々は急ぎ整備ハンガーへと向かうのであった。
「ふむふむ……あー成る程!こう言う事かぁ。」
ジムとメガセリオンの調整しながらクロエ曹長が目を輝かせながらそんな事を呟く。何がそう言う事なのかはメカニックではないので分からないが。
「機体周りはザニーよりも遥かに良いですね、これならザクに苦戦することは少なくなるかもしれません。」
ジムのコクピットを弄りながら感心するアーニャ、正直言ってこのジムはアムロの実戦データとかを取り入れてないので完成度としては少し劣ると思っていたが俺達のデータも含め各地で戦っていた試験部隊のデータもありそれなりの水準を保っている。
「アタイはこのメガセリオンってのが気に入ったね、シショーのヴァイスリッターには劣るけど中々の機動性してるじゃないか!」
ララサーバル軍曹はどうやらこのメガセリオンが気に入ったようだ、まぁこの人の性格なら近接戦闘とか多くなるだろうし機動性に優れたこちらを気に入ったのも分かる。
「少尉のヴァイスリッターもメガセリオンと規格が似通ってたのが幸いしましたね。予備パーツで何とか行けそうですよ。」
元々同じ機体を基にしているからかヴァイスリッターとメガセリオンのパーツ周りは細部は違うがかなり似たもの同士だ、兄弟機と言っても差し支えないだろう。ただ見た目が白のヴァイスリッターに対してメガセリオンは青を基調としたカラーリングになっているので左腕部だけブルーのキメラになっている。
何というかキメラな機体と縁があるな俺。
「どうしましょう?カラーリングは白にしときましょうか?」
俺の嘆きに気がついたのかカラーリングの修正を申し出てくるクロエ曹長、どうしようか悩んでいると。
「そのままで良いんじゃないかい?一部だけカラーリングが違うって何かエースパイロットみたいでシショーがカッコよく見えないかい?」
ほう……と思わず感心する、確かに完全白のカラーリングもそれはそれで格好良いがこれはこれで確かに面白いかもしれない。一部のカラーリングが違うことで敵にも左腕部に何かあるのかも?と心理的な効果が見込めるかもしれないし。
「格好良いかは別として相手の意表を突くのに使えるかもしれないしカラーリングはこのままで行こう。」
「了解です、整合性チェックするのでそれが終わったらテストお願いしますね。」
その後ジムとメガセリオンに誰が乗るかと言う話になり、アーニャとララサーバル軍曹は綺麗に意見が分かれたのもありアーニャがジムへ、ララサーバル軍曹がメガセリオンへ搭乗する事が決まった。
ジムの安定性とメガセリオンにも劣らない汎用性の高さが気に入ったアーニャと機動性に優れた近距離装備も搭載できるメガセリオンを気に入ったララサーバル軍曹といった感じだ。メガセリオンの兵装は基本的に実弾装備ばかりなのでジムにも転用できるのが有り難かった、これでアーニャの得意な狙撃装備も搭載できる。
数日の慣熟訓練と機体調整の後、シミュレーターでパラシュート効果のシミュレーションを行いながら本番への期限まで可能な限りの訓練をしミッション前日、ミデアで目標空域への移動を始める。到着までの間に最後の休息を済ませ身体を万全の状態で待機させておく。後はやれることをやるだけだ。
そして作戦当時の夜明け前、