機動戦士ガンダム 紺碧の空へ   作:黄昏仮面

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第17話 敵基地強襲作戦

《これが最後の確認になる、各機準備は良いか?》

 

「こちらエルデヴァッサー 、機体パイロット共にスタンバイ完了です。」

 

「こっちも準備万端だよ!」

 

「こちらも異常なし、後は降下するのを待つだけだ。」

 

 現在時刻は0845、降下予定時刻まであと15分を切っている。これがミデアとの最後の通信になるだろう。

 

《これより第774独立機械化混成部隊は敵基地にパラシュート降下による奇襲をかける、敵基地は戦略上重要拠点では無いためMSの数は多いが警備は手薄との情報が入っている。なので敵が上空からの強襲に気付いても対空砲による迎撃は間に合わず、仮に迎撃が間に合ってとしても想定された火力よりも下回ると予想されている。》

 

「予想で物を言われてもねぇ、降りた途端蜂の巣なんてのは嫌だよアタイは!?」

 

《安心しろララサーバル軍曹、既にメガセリオンの狙撃兵装を装備した小隊が狙撃ポイントで待機している。仮に敵拠点の対空迎撃が通常通り稼働してたとしても彼らが無力化する手筈だ。》

 

「そういう事は早く言っておくれよ、肝が冷えたじゃないか。」

 

 悪態を吐くララサーバル軍曹であったが味方からの援護があると聞くと一転安心したようだ、確かに対空迎撃で蜂の巣にされたら何の為の降下作戦なのかわからないからな。

 

《降下5分前。機内の減圧が完了した、後部ハッチを開くぞ。》

 

 ゆっくりと後部ハッチが開く、開いた先には一面の青空が広がっていた。

 

「綺麗ですね……。」

 

「あぁ、状況が状況じゃなければずっと見ていたいくらいだが……。」

 

《降下1分前、パイロットは降下準備に入れ。》

 

 固定ロックを解除し後部まで移動する、いよいよ降下となると流石に緊張するな……。

 

《降下10秒前、全て正常オールグリーン!》

 

「各機、降下準備!」

 

 アーニャの声で降下準備に移る、いよいよ作戦が始まる……!

 

《カウント5,4,3,2,1,0!鳥になって来い、幸運を祈る!》

 

「全機!出撃!」

 

「了解!」

 

 ジュネット中尉の言葉通り、俺達は鳥になった。

 

 

 

「ヒャッホォォォォォ!」

 

 雄叫びを上げながら降下するのはララサーバル軍曹、相変わらずのテンションで何よりだ。こちらはこちらで叫んでいる余裕はないくらいビビっているのに。

 

「ア、アーニャ!本当に大丈夫なんだよなこれ!?」

 

「信じるしかありませんよジェシー!疑っても待っているのは墜落だけですからね!?」

 

 そりゃそうだ!こうなったら覚悟を決めて降下するだけだ。下を確認すると敵基地が見えてきた。

 

「敵基地視認!対空迎撃はまだされていない!」

 

「そうじゃないとこんなのやってらんないからねぇ!絶好のチャンスだよ!」

 

「二人とも!そろそろ目標高度に達します!パラシュート展開の準備を!」

 

 計器を見てあらかじめ設定された高度までの数値を確認する、目標高度から少しでも展開するのが遅れたら安全に着地できる保証がなくなるし、かと言って早く開いたら敵の良い的だ、目を離さず目標高度に達するのを確認!そして……!

 

「パラシュート展開!」

 

 物凄い勢いでパラシュートが展開される、ブースターを起動させ勢いにセーブを掛けると共にスラスターで細かな姿勢制御と目的地点への方向転換をさせる。

 そして基地全体に警報が鳴り響く、どうやら俺達の存在に気づいたようだ。

 

「気付くのが遅かったな!そろそろ地面だ、みんな衝撃に備えろ!」

 

 ブーストを全開にし着地の衝撃を最小限に抑える、それと同時にパラシュートパックを破棄し武装コンテナから装備を取り出すとミサイルランチャーを基地に発射する。

 

「よし!これで味方部隊への狼煙代わりになるだろう!」

 

「まずはMS部隊の出撃を抑えます!整備ハンガーへ向かいましょう!」

 

「了解!」

 

 三機で密集して敵の砲撃を掻い潜りながら整備ハンガーを目指す、その最中他方からの砲撃音が響き続ける。どうやら他の部隊も攻撃を開始したみたいだ。

 

「隊長!前方にザクと青い奴だ!」

 

「押し通ります!迎撃準備!」

 

 前回はグフの機動性に辛酸を舐めたが今回は同じようには行かせない!弧を描くように俺はザクから距離を置き牽制に移る。

 

「よし、ザクは釣ったぞララサーバル軍曹!」

 

「よっしゃあ!目に物見せてやるよ!」

 

 近接装備のメガセリオンで出撃しているララサーバルがグフへ突撃する、フィンガーバルカンを避けながら一気に距離を詰めビームダガーで攻撃すると装甲を削られたグフは堪らず後方にブーストして距離を取った。だがーーー

 

「着地点さえ分かれば……!」

 

 アーニャのジムのハイパーバズーカが直撃しグフは爆散する、その間に俺はヴァイスリッターでザクを攻撃し無力化させた。

 

「よし!このまま突き進むぞ!」

 

 敵は混乱状態にあるのか抵抗らしい抵抗もなく優勢のまま制圧が進んで行く。

 

「おっ!アンタらが774部隊か!援護に回るぜ!」

 

 進軍方向へ同じく進んでいた援軍と出くわした、MS部隊同士での共闘がここまで嬉しいなんて思わなかった。今まで俺達だけだったもんなぁ。

 

「駄目ですよ隊長、この部隊の人たちはベテランなんだからもっと丁寧に喋らないと!」

 

 聞こえてきたのは若い青年の声だった、どうやらメガセリオンに搭乗しているパイロットのようだ。

 

「黙ってろグリム伍長!戦場にベテランもクソもあるかってんだ!」

 

 隊長に怒られたグリムと呼ばれた伍長は「すみません」と謝るとこちらに通信をしてきた。

 

「貴方達の噂は聞いています、ご一緒出来て光栄です!」

 

「嬉しいことを言ってくれるなぁ、だけど今は作戦行動中だから集中しよう。まだ完全に制圧出来てないんだ。」

 

「あっ、そうですね。つい興奮してしまって!」

 

 緊迫した空気が少し和んだその時だった、突如前方から大爆発が起きる。

 

「な、なんだ!?」

 

「これは……!?爆弾か何か……!?全機防御態勢に移り後退を!」

 

 シールドを構え後退して距離を置こうとしたその時だった。コクピット内に警報音が鳴り響く。

 

「ロックオンされた!?各機散開しろ!狙われてるぞ!」

 

 ブーストを吹かせ回避行動に移るが何機かは反応が間に合わず立ち止まってしまう。

 

「止まっては駄目です!回避を!回避行動を取ってください!」

 

 アーニャの声も虚しく不意を突かれた三機の仲間がバズーカの直撃を受ける。

 

「あぁっ!隊長!みんな!」

 

「行っちゃダメだよ!ここは引くんだ!」

 

 俺達と共に回避できたのはどうやら先程通信をして来たグリム伍長と呼ばれた青年だけのようだ、他の機体からは応答が途絶え煙幕から安否も確認できない。

 

「煙幕が晴れたら反転攻勢を掛けます、各機攻撃準備を。敵も同じ事を考えている筈です、油断をしないように!」

 

「了解!」

 

 バズーカ砲で発生した煙幕が徐々に晴れ敵MSが姿を現した……其処には三機のグフ、内一機はサンドカラーをしたカスタム機であった。間違いない……コイツはエースだ!

 

「全機攻撃態勢!気をつけてください……あの機体他とは違います!」

 

 こちらの動きに呼応するように敵も攻撃を仕掛けてくる、一機が弾幕を張りこちらを分散させると二機のグフが手薄になったララサーバル軍曹のメガセリオンに攻撃を仕掛ける。

 

「こなくそー!やられてたまるかってんだ!」

 

 ヒートサーベルを取り出してグフに近接戦闘を仕掛ける、こちらも敵機の分散を狙い火器を構えるが位置取りが悪いのと援護に入っているグフが邪魔で手を出せない。

 

「グリム機!援護に入ります!」

 

 上手く相手の射線を躱したグリム伍長がララサーバル軍曹の援護に入る、敵は一旦後退し陣形を整えて再度砲撃に移った。

 

「クソ……!トリプルドムならぬトリプルグフがこんなに厄介だなんて……!」

 

 黒い三連星が相手で無いのが救いだがこのグフのパイロット達の練度もかなり高い。他のMS相手だと何処かしらで付け入る隙が発生した時に叩けるのだがコイツらは互いに隙を埋めあって間髪なく攻撃を仕掛けてくるので息を吐く暇すらないのだ。

 

「一か八か……突撃するしかないか?」

 

ヴァイスリッターの出力を最大にして突撃を掛ければ敵の隙を作る事はなんとか可能だろう。そこをみんなが抑えてくれれば……!

 

「アーニャ!ヴァイスリッターで突撃を掛ける!敵の隙をついて攻撃出来るか!?」

 

「そんな……危険ですジェシー!」

 

「このままじゃジワジワ削られるだけだ!それにまだ基地も制圧出来てないんだ、時間をかけてたらこっちが危ない!」

 

「くっ……分かりました、無茶はしないでください……!」

 

「分かってる!」

 

 ヒートサーベルを構え、出力を上げグフに近づく。相手のグフもヒートサーベルを構えこちらに斬りかかろうとする瞬間、ヴァイスリッターの出力を最大に上げて上空へ飛翔する。敵はこちらを一時見失い上空だと気づき攻撃を仕掛けようとするが、そこで最大の隙が出来た。

 

「今だ!」

 

「全機!一斉射!」

 

 砲撃と銃撃の嵐が敵を襲う、二機のグフは爆散し残るはカスタム機のグフだけだ。

 

「これで終わらせてやる!」

 

 着地と同時にグフに向けヒートサーベルを振りかざすが敵も対応しこちらと鍔迫り合いを起こす。流石はエースだ、隙をついたのに的確に対応を返してくる。

 グフは出力を上げこちらを圧倒してくる、着地後の攻撃というのもあり姿勢制御が甘いこちらの方が分が悪い。チャンス一転こちらがピンチになった、その時だ。

 

「当たれぇ!」

 

 メガセリオンのバズーカ砲がグフを直撃、爆発する前に距離を置く。

 

「助かった!ありがとう!」

 

 機体を確認するとグリム伍長のメガセリオンだ、上手く援護してくれたおかげで何とか勝つことができた。正直エース相手にアムロやシャアみたいな立ち回りなんて出来るわけないので卑怯と言われようが多勢で圧倒するべきなんだよな。と言うか物量で押してなんぼなのが連邦軍だし。

 

「隊長達は……!」

 

 そうだった、攻撃を受けた小隊メンバーは助かっているのか?そう思って辺りを見回すと大破したジムとメガセリオンを発見する。

 

「隊長!応答してください!みんなも!誰か生き残ってないんですか!?」

 

 グリム伍長の必死の呼び掛けも虚しく応答は無かった、俺はアーニャに援護を頼むとヴァイスリッターを使い無理矢理コクピットハッチをこじ開ける。……、全ての機体を確認し大きく息を吐いてからグリム伍長に通信を入れる。。

 

「すまないグリム伍長……みんな死んでいる。」

 

 コクピットの中はどれも悲惨な事になっており、とてもじゃないが寝食を共にしたであろうグリム伍長に見せられるものではなかった。

 

「そんな……。」

 

「……ッ。残念ですがグリム伍長、まだ作戦行動中です。我々にはまだ仲間の犠牲に悲しんでいる暇はありません。良いですね……?」

 

 自分も辛いだろうに心を鬼にして作戦継続を促す。

 

「了解です……!隊長達の犠牲を無駄にしない……為に……!」

 

 怒りを飲み込みながら頷くグリム伍長、彼らの犠牲を無駄にする訳にはいかない、まだまだ攻撃を続けなければ。

 俺達は急ぎMS整備ハンガーへと向かい攻撃を開始する。その後は呆気なく、整備ハンガーは誘爆が誘爆を引き起こし崩壊していく。敵機の出撃を抑えるための攻撃だったが正直言ってやり過ぎてしまったがもう後の祭りだ、敵機体を鹵獲でも出来ればと思っていたがこれはもう無理だろう。まぁ新型でもいない限り今更ザクやグフを鹵獲しても大きな意味はないか。

 

《こちら連邦軍第3独立MS小隊、基地中枢の制圧が完了した。ジオンの残存勢力は速やかに投降せよ。捕虜の扱いは南極条約に則る。繰り返す、こちらはーーー》

 

 基地内のスピーカーから味方部隊の基地制圧の放送が入る。どうやら大局は決したみたいだ。敵の残存部隊は逃げ惑う者、投降するもの、抵抗する者と一時混乱状態に陥ったがやがて沈静化した。俺達の勝利である。

 

「勝った……か。」

 

 結果で言えば圧倒的勝利であろう、30機程のMSで敵基地を数機の犠牲だけで制圧できたのだから。だがそれは上層部の書類上での話であって下っ端の俺達にとっては苦い勝利だった。

 

「隊長……みんな……うぅぅっ……!」

 

 遺体収納袋に包まれた仲間を前に泣き続けるグリム伍長、会話したのはものの数分だけだったが俺達もまた悲しみに包まれていた。

 

「全く……やるせないね。戦争だから誰かが死ぬのは分かるしアタイ達も大勢殺してきたけどさ……。」

 

 ララサーバル軍曹の言葉に俺は頷く、殺して殺されてを繰り返し見てはいるがやはり味方が殺されてなんとも思わないと言う事はない。敵は殺しても喜べて仲間が殺されたら悲しむ、それはおかしな話ではあるのだろうけど。悲しいものは悲しいのだ。

 

「それでも戦い続けるしかありません、犠牲になる人が少しでも減るようにと……。」

 

 大勢の人間が犠牲にならないように、この犠牲を無駄にしないようにと。自分達に納得させて進まなければならない。そう思っていた時だ。

 

「見事な勝利だったな、フロイライン。」

 

 長らく聞いていなかった声、その声の主は……。

 

「ゴップ将軍!?」

 

「叔父様!?どうして此処に!?」

 

 ジャブローのモグラが穴の中から出てきたのか!?と言うか大将がこんな前線に来て大丈夫なのか?いや、レビル将軍とかは率先して前線にいたけどさ。

 

「なに、自慢の部隊が大活躍すると聞いてな。年甲斐もなくはしゃいで見学に来たのだよ。」

 

 はしゃいでってそんな子供の運動会じゃあるまいし……。

 

「君も頑張っているようだなアンダーセン少尉よ、無理を通して新型を造らせた甲斐があったと言うものだ。」

 

「ヴァイスリッターに込められた将軍の意志を無碍には出来ませんからね。」

 

「ふん、一人前の台詞を言うにはまだ早いと思うがね。戦争はまだまだ激化していくぞ。今回の件で特にな。」

 

「敵も我々がMSを量産し始めたと知れば次世代機の開発を始めてもおかしくはありません、そう言いたいのでしょう叔父様?」

 

「その通りだ、敵がまだ我々への対策が出来ていない内に反転攻勢をかけて勢力圏の奪還を目指す。今回私が赴いたのもそれが理由の一つだ。」

 

 ん?敵が連邦軍のMSの対策が出来ていない内に攻撃をかけるってのは分かったが、どうしてそれが此処に来た理由の一つになるんだ?そう疑問に思っているとゴップ将軍が口を開いた。

 

「第774独立機械化混成部隊は本日より極秘でのMS運用試験部隊としての任を解き、これより独立遊撃部隊として活動してもらう。」

 

 それは、これまで以上の激戦を予想させる一言だった。


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