機動戦士ガンダム 紺碧の空へ   作:黄昏仮面

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いつも視聴してくださってありがとうございます、お陰様でUAも8000以上になり驚いております。
お気に入りに登録してくださった方、毎話誤字脱字の報告をしてくださる方、感想をくださる方、感謝してもしきれません。
今後もマイペースではありますが頑張って投稿して行くので今後ともよろしくお願いします。

本編は今回ジオン回となります。





第18話 狂気の芽生え

 宇宙世紀0079年6月某日、サイド6のパルダコロニーに新設された『フラナガン機関』と呼ばれる研究所に俺はいる。

 ニュータイプと呼ばれる一種のエスパー能力に似た力を持つ人間の存在が認知され、その研究の為に俺と同じように適性があると見込まれた年齢性別を問わない多くの人間が此処に招集された。

 適性と言っても一纏めに出来るものでなく、回避行動に優れた者、人の敵意を察知する者、相手の心を読む者など人によって得意な能力は異なる。人の敵意は読めても心までは読めなかったり、或いは回避行動が上手く出来なかったりとニュータイプ適性がある人間全員が同じような能力を持っているということではないらしい。

 

「ジェイソン・グレイ少尉、次のテストの準備が出来ましたので研究室にお入りください。」

 

 職員の声に従い研究室に入る、元々曹長だった俺だがフラナガン機関に配属されると同時に昇格した。功績も挙げていないのにおかしな話だが民間人上がりのニュータイプ適性持ちの人間も階級を与えられている為戦力として扱うにあたって他の部隊の士官に邪魔されない為の措置なのだろう。

 

「脳波を調べます、そのままの状態で待機してください。」

 

 何度目かの脳波チェック、曰くニュータイプは独特の脳波を出しておりニュータイプ同士で念話みたいな事が出来ているのはその脳波のおかげと言う事らしい。それの軍事利用が出来ないかと研究者達は躍起になっているが経過は芳しくないらしい。

 脳波チェックを済ませた後は様々な身体検査、投薬検査などを行う。まるでモルモットだがこれもニュータイプとして連邦を倒す為のものと考えれば我慢できる。

 

「お疲れ様でした、本日の検査は以上です。自室に戻ってよろしいですよ。」

 

「了解、失礼します。」

 

 職員に別れを告げ、自室へと足を運ぶ。一人で住むには勿体ないくらいの広さの部屋だ、余計なストレスを溜めない為の措置なのだろう待遇は悪くない。ただ一人部屋の筈が部屋には既に客が二人もいた。

 

「グレイ、遅い。」

 

「ヘルミーナがカンカンですよ、お兄さん。」

 

 其処にいるのは俺が初めて会ったニュータイプの双子の少女、姉のマルグリットと妹のヘルミーナだ。初対面以降なにかと二人の面倒を見る事が多くなり今では勝手に部屋に入り込んで好き勝手している。

 

「遅いと言われてもな、検査だし仕方ないだろ?」

 

「言い訳は嫌い。」

 

 姉の方はそうでもないのだが妹のヘルミーナは俺に対して拗ねる事が多い、今まで姉しか遊び相手がいなかった反動か、やたらと俺に絡んでくる。

 だが彼女達の生い立ちを知れば仕方のない事かもしれない、何と彼女らは見た目に反して俺と年齢はそう変わらないのである。俺が19歳で彼女らは17歳だと言っていた、だが見た目からはとてもそうは見えないのだ。よくてジュニアスクールの高学年にしか見えない。

 その原因が虐待による栄養失調による発育不良だと知り、彼女達がこの年になるまで殆ど他人と関わる事が無かったとも聞いた。他人とのコミュニケーションに飢えているのだろう。

 

「グレイ、失礼な事考えてる。」

 

「おっと、無闇に心は読むなよヘルミーナ。何度も言っているが必要な時だけ心は読め、無闇矢鱈に心を読んでると自分の中だけで終わっていくぞ。」

 

 最初に会ってから一週間と数日、最初の内はテレパシーで会話する事もあったが彼女達はそれに慣れすぎていて会話するという普通のコミュニケーションが苦手なのであった。人として普通の生活を送らせたいと思う老婆心から極力心を読まず、思った事は口に出して自分の感情を吐き出してくれと頼んだのだ。

 

「安心してお兄さん、この子は言いつけ通り心を読んでないですよ。お兄さんの顔を見て言ったんです。」

 

「姉さん、余計なことは言わない。」

 

 感情豊かになったと言えばそうだろう、最初に会った時は人形のようだったが今では世話の焼ける妹達といった所だ。

 

「それはすまなかったなヘルミーナ、お詫びに菓子でも持ってこようか?」

 

「子供扱いは嫌。」

 

「実際子供だろう、少し待ってろ。職員に言ってなにか貰ってくる。」

 

「一緒に行く。」「私も行くわ。」

 

 結局三人一緒に部屋から出ることに、職員がいる部屋はそこそこの距離だが散歩がてらに丁度良い。そう思いながら歩いていると道中で広間に人だかりが出来ていた、何か騒いでいるようだが。

 

「何かあったのか?」

 

 見知った顔の少女がいたので話し掛ける、彼女も俺達と同じニュータイプの素養があるパイロット候補の人間だ。名前はマリオンと言ったか。

 

「グレイさん、それにマルグリットさんやヘルミーナさんも。……あれを見てください。」

 

 マリオンが指を差した方向に目を向ける、そこにはモニターに映し出されたMSの姿があった。

 

「これは……ジオンのMSじゃない……!?」

 

「味方の基地が襲撃された際に広域通信でなりふり構わず監視カメラの映像を味方に送ったみたいで、連邦軍のMSらしいです。」

 

 映像を食い入るように見つめる、敵のMSはザクをいとも容易く打ち破り生産が開始されたばかりのグフが相手でも引けを取らずにいる。こんなMSを量産しているとすればかなり脅威だ、そう思っていたら一瞬気になる映像が映った。

 

「すまない、今の映像少し戻せるか?」

 

 この映像を持ってきたと思われる職員にそう頼み少し前のシーンに戻す。

 そこには味方のザクのマシンガンを左右にジグザグと躱しながら接近し一気に切りつける白い機体があった、この動き……多少の差異はあるが俺の隊長だった人物が得意とした戦い方だ。敵の砲撃に対して左に避け相手が左から狙いをつければ右に飛び距離を詰める。この白い機体はそれと似たような動きをしているのだ。

 それが意味すること……つまりは……。

 

「あの時の連邦軍のパイロットか……!?なぁ、この映像は何処の基地からの映像なんだ!?」

 

「北米と南米の境だったか、中米のどこかの基地らしいが。」

 

 曖昧な答え方をした職員だがその情報だけで確信を持った、あの白い機体は隊長と仲間を殺した機体に乗っていた奴だ……!俺の中に復讐心が滾って来るのがわかる。

 

「なにを騒いでいるんだ?」

 

 研究者の一人がざわつきに気付き同じくモニターを眺める。

 

「これは……連邦軍のMSか!」

 

 食い入るように研究者は連邦のMSの動きを確認していく、ブツブツと何かを呟きながら映像を見終わるとマリオンに気付いたのか彼女に話し掛ける。

 

「いたのかねマリオン、この映像を見たな?敵のMSは脅威だ、EXAMの完成を急がねばならんな、手伝ってもらえるか?」

 

「はい、博士!」

 

 博士と呼ばれた男と共に俺達に一礼してこの場を去って行くマリオン、その時その男からポツリと消えるような言葉が聞こえた気がした。

 

「これでは連邦のMSの方が優秀では無いか……EXAMを完成させる為には……。」

 

 その言葉の真意が明らかになるのはこれから数ヶ月先の話であり、この時の俺はまだ気付かずにいた。何より俺自身もこの白い機体への復讐心で一杯であったから余計に気を割いてる余裕など無かった。

 

「お兄さん、その不快なプレッシャーを早く抑えてもらえませんか。周りの子が怯えています。」

 

 マルグリットの声で我に帰る、連邦への殺意を周りに撒き散らしていたようだ。周りからすれば抑制の効いていない俺の意識は毒でしかないだろう。

 

「あぁ、すまない。敵意が抑えきれなかった。」

 

「『敵』を見つけたんだね、グレイ。」

 

 ヘルミーナの言葉に「あぁ。」と頷く、ニュータイプとしての直感だと信じたいがあの白い機体は間違いなく隊長達を殺した奴だ、当面の敵として認識するには十分だ。

 

「何とか地球に戻りたいな……。」

 

 サイド6から地球では距離があり過ぎる、何よりあの白い機体のパイロットがいつまで中米にいるかすら分からないのだ。時間がかかれば下手をすれば誰かに討ち取られるかもしれない。それでは復讐が出来ないのだ。

 

「だったら強くなるしかないよ、グレイ。」

 

「私達も協力しますよ、お兄さん。」

 

 二人が協力を申し出る、現在ニュータイプ試験用のMSが順次開発中でそれのパイロットとなる事が出来れば地上に転属願いを出す事が可能かもしれない、いやそれ以外でもパイロットとして優秀な成績さえ出せれば何とでもなる筈だ。

 

「そう言ってくれると助かるよ二人とも。だけど何でわざわざ俺の為に?」

 

「家族だから。」「家族同然だからですよ。」

 

 二人して同じことを言う、俺の事を家族として見てくれているという事か。兄妹はいなかったが妹がいたらこんな感じなんだろうなと思った。

 そんな事を思っている俺を見ながらマルグリットがクスクスと笑っていた。何が面白いのかその時の俺は分からなかった、この笑みの意味を知るのは戦争の末期になる。

 

今はこの連邦の白い機体を倒す事が俺の目標となっていた。


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