機動戦士ガンダム 紺碧の空へ   作:黄昏仮面

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第01話 ジャブローの誓い①

 あれから数日が経ち4月になり軍部ではレビル将軍により史実通り『V作戦』が発動され連邦軍によるMS開発が着手される事になった。

 それに伴いジャブローにいるパイロット候補となっている者はセイバーフィッシュやTINコッドなどの戦闘機からMSへの転向に向けての準備を告知されているが、ワクワクしている俺に対して他のパイロット達の反応はやや渋いものだった。

 

 理由は簡単である、「じゃあこれシミュレーション用の機械ね」と言われ置かれた装置なのだが今現在の連邦軍にはMSのノウハウなんて全く無く、開戦時に鹵獲出来たザクを解析して多分こんな感じで動くと思うよレベルで作り上げたシロモノだからである。

 

 恐らく実際の操縦性の再現度の半分にも満たないだろうシミュレーターに歴戦の戦闘機乗りは難色しか示さなかった、そもそもMSは戦車等と同じく上空攻撃には弱く今現在でも地上ではある程度の優位を保っているからである。

 だが俺は知っている、航空戦力の優位もドップやMSの乗ったドダイなどで簡単に覆されるし何よりこれからの時代戦闘機は殆ど役に立つ事はない。なので出来はともかくとしてMS操縦の感覚は付けておかないと生き残るのは難しいだろう。

 

「とは言っても……確かにこれは微妙なもんだな……!」

 

 下手な挙動をすればすぐに転倒だの姿勢制御に難が有り過ぎてMS新兵が扱うにして難易度が高い、まぁ本来RX計画やV作戦での成果と学習型コンピューターで培われたデータが搭載されたシミュレーターによって連邦兵は短期間でジオンのベテラン並の実力を持ったわけだしMS開発初期の段階でそれを求めるのは酷だな。

 

「ふぅ…今日はここまでにしておくか。……ん?」

 

 何度目かのシミュレーションを終えて装置を後にしようとした時、周りがヤケにザワいついている事に気付いた。

 

「ですから!どうかお願い致しますゴップ叔父様……いえ!ゴップ将軍!」

 

 聞こえるのは声色からして女性、そしてゴップ将軍と言えば……あの『ジャブローのモグラ』で有名な原作では無能そうに見えて実は設定的にはかなり有能なゴップ将軍か!?

 

「そうは言ってもなフロイライン・エルデヴァッサー、簡単に兵を与えると言うのは私でも難しい事でな。」

 

「お願いします!どうか私に父や祖父の無念を晴らす為の機会を……!」

 

「やれやれ…困ったものだな…。」

 

 ふぅ、と溜息を吐くゴップ将軍の隣にいるのは何と今の俺より少し幼く見える小さな女の子だった。

 しかし軍服の階級章を見るに佐官クラスっぽい、それとかなりの美少女だ。と言うかガンダム世界に来て初めて女性を見たがみんなこんな可愛いのか?

 

「なぁ、彼女は一体誰なんだ?」

 

 俺は近くにいた同じパイロット候補生に話しかけた。

 

「あ?知らないのか、あの貴族の御令嬢は最近ずっとああやって将軍に兵をねだってるんだぜ。」

 

「貴族の令嬢?」

 

「宇宙世紀が始まる前から貴族やってるっていう化石みたいな家柄らしい、正式な名前は長々とし過ぎて俺も分からんが軍ではアンナ・フォン・エルデヴァッサーと呼ばれてる。驚くことに階級は少佐なんだぜ。」

 

「何処らへんが驚くことなんだ?」

 

「見て分からんか?あの子はまだ歳も15くらいらしいぞ、士官学校を飛び級で卒業したとか聞いたがありゃ多分賄賂か何か渡してるな。」

 

 15歳で少佐なら確かにおかしい、ジオンみたいに戦功を上げて階級が上がったとかならともかく連邦でそう言った事例は少ないし何より女性士官で……。

そう思っていると同僚は溜息を吐き、続けて喋り出した。

 

「ちょうどジオンとの開戦当初、不運にもあの子の一族はシドニーで会談していたらしい。それで『アレ』に巻き込まれた訳さ。」

 

「コロニー落とし……。」

 

 ジオンによるブリティッシュ作戦で『アイランド・イフィッシュ』が地球に落下した事で、軌道が逸れたとは言えシドニーを始め地球に大きな傷跡を残したガンダム史における一大事件、あれに巻き込まれたとあっては確かに復讐に燃えているのも納得できる。

 彼女は尚もゴップ将軍に対し懇願を続けていた。

 

「私も考え無しに兵をお貸し下さいと言っている訳ではありません、戦局は今後MS同士の戦闘を主軸にしたものに変遷して行く筈なのです!ですからそれを踏まえたドクトリン確立の為のデータ収集をさせて欲しいのです!」

 

「君が言っている事の有用性は認識しているさフロイライン。しかしだね、それを君が行う必要は無いとは思わないか?君にまで何かあったら私は盟友であった君のお父上達に顔向けが出来んよ。」

 

「元々血塗られた家系です!今更血に汚れることや死を恐れたりなどしません!」

 

 埒の明かない二人の話しが続き、いつの間にかその騒々しさに釣られたのか周りのギャラリーも増え始めている。

 復讐心もあるのだろうが言ってる内容はそこそこ興味を引くものだった、要は兵を貸して欲しいのはMS戦のデータ収集の為で早期に戦術理論を確立させるのが目的といった話だ。

 

 MS不要論がこの時期では主流だからまだそう言ったMS運用の為のテスト部隊ってのもまだ編成されてない、と言うかこの時期ってまだ鹵獲ザクとかザニーとかしか無かったっけ?オリジンだとガンキャノンの初期型みたいなのもいたけどザクの相手にならなかった記憶がある、どうやってデータ取りするんだろう。

 

「このままでは何の解決にもならんな。ではこうしようフロイライン、いやエルデヴァッサー少佐。今私達二人の会話に集まっている野次馬……いやギャラリーかな。彼らはレビルのV作戦で戦闘機からモビルスーツへの転向が予定されている者達だ。彼らの中から君の部隊に参加したいと言う志願兵がいたらその者を配属させる。」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「しかしだ、もし誰一人として君の部隊に参加しようと思う者がいなかったら君は除隊し自分の家へと戻りたまえ。それが条件だ。」

 

 そう言ってゴップ将軍は俺たちギャラリーへと眼圧をかける、これは遠回しに「もしも参加したら後は分かるよな?」的な意味合いが含まれているのだろう。

 そしてこの威圧感、腐っても連邦軍大将の貫禄だ。ジャブローのモグラなんて不相応な渾名だと言わんばかりに周りがピリピリしだした。

 

「……っ、わかりました。」

 

 彼女もその威圧に押された側らしい、覚悟を決めた顔をしているが不安は拭えていないのか汗が顔を伝っていた。

 

「皆様、私はアンナ・フォン・エルデヴァッサー少佐です。私は今後必要になってくる連邦内でのMS運用、その戦闘ドクトリンを確立させる為の部隊を必要としています。」

 

 流石貴族と言うべきか、こんな状況でも臆せず堂々と彼女は自分の意見を語る。

 

「この戦争、物量や人的資源から見ても連邦軍が勝つのは明白です。しかし現在我が軍はMS開発という点でジオンよりもかなり遅れを取っています。これを縮める事が出来れば早い段階で我々は反転攻勢に転じる事が可能なんです!その為には実戦でのデータが必要不可欠なのです!」

 

 聞いてて中々面白いなこれ、確かに連邦軍はガンダムやジムが開発されてから数ヶ月でジオンを倒す事が出来た訳だけどそれが早い段階で確立されればそれだけ戦局が変わるのも早くなるし。

 

「ですからどうか……!私に力を貸して頂きたいのです……!お願いします……!」

 

 頭を下げて懇願する彼女であったが周りは困ったような反応であった、ゴップ将軍の威圧もあるし出世なども考えたらここで手を挙げるべきではないって感じだ。

 俺も俺でどうするべきか考える、原作介入する気は満々だったがパイロットとして戦ったとして、アムロ並の活躍でもしない限り一兵卒に歴史を変えるなんてこと早々無理だろうし原作キャラの将校を頼って戦うにしてもコネも何も無いし、下手すれば介入する前に死亡なんて事も有り得そうなのだ。

 

 だから今のこの状況、結構面白いんじゃないだろうか?この子は原作には出番無さそうだし恐らく通常の『史実』でも同じことがあったのならこの場面で誰からも反応を貰えず除隊してそのまま歴史からフェードアウトして行ったのだろう。

 ならば、もしここで俺が手を挙げて彼女と戦うと言ったならば?見た感じかなりの慧眼だし貴族と言うなら政界や軍閥でのコネもあるだろう、実際このゴップ将軍に叔父様とか言ってる訳だし。

 彼女の持っているコネクションに俺の微妙な原作知識が役に立つような事になれば連邦軍の早期勝利なんかも見えてくるのでは……?

 

 そうなれば、やる事は一つしかないんじゃないか?

 

「さて、どうやら誰も手を挙げる者はいないようだね。」

 

「……っ!」

 

 っと、危ない考え込んでたら話が進みそうになってるし、彼女は彼女でめっちゃ泣きそうになってるし。

 色々考えたが取り敢えず自分の気持ちに素直になって動くとするか、極論から言えば理屈なんて関係なくこの子は美少女でめっちゃタイプなんで力になりたいってのが生の感情として出ているし。

 よし……覚悟を決めて動くか!

 

「待ってくださいゴップ将軍!」

 

 俺のその一言だけで周りの全員が一気にどよめく、言ってる俺も周りの反応にビビるがそんな場合ではない。

 

「俺……いや!自分が彼女の部隊に志願します!」

 

「っ……!」

 

 俺の言葉に泣きそうになっていた彼女の頬に少し涙が伝う。そしてゴップ将軍は眼光を鋭くし俺に威圧をかけてくる。

 

「……一応聞いておくが冗談ではないだろうね?」

 

 ここで気圧されては何の意味もない、俺は堂々とゴップ将軍に対して言葉を返す。

 

「勿論であります!先のルウムでもそうでありましたがMSの脅威は我らが侮れる物ではありません!なので先んじて敵を制する事が可能なのであれば少佐の言は理想的な発想でありますから!」

 

「中々口が回ると見える。階級章を見るに君は少尉だね、名前は何と言うんだい?」

 

「ハッ!ジェシー・アンダーセン少尉であります閣下!」

 

「アンダーセン……?まさかあのアンダーセンの倅か!?」

 

 どうやらジェシー君の父親はゴップ将軍にも知られているらしい、まぁ異名とかあったし武勲もかなりあったんだろうか。

 

「やれやれ、親が親なら子も子の様だな……しかし困ったものだな。大勢に言った手前今更撤回などしたら私のメンツも立たん。よろしいエルデヴァッサー少佐よアンダーセン少尉を補佐に就けて部隊を編成させることは許可する。」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

 血の気を引いていた彼女が見る見る内に生気を取り戻していく。

 

「二言は無いよ、さっきも言ったようにここで撤回する方が問題だからね。だが色々と条件もある。ここでは人も多い、そうだな1500に私のオフィスに二人で来たまえ。そこで詳しく話す事にしよう。」

 

「了解しました!」「了解しました!」

 

 将軍に対して敬礼をし、ゴップ将軍は「やれやれ…」と呟きながらオフィスへと去っていった。ギャラリーもギャラリーで「アイツもう出世望めないな。」的なことを俺の顔を見ながら去っていった、いやもうどうにでもなれって感じだが。

 

「あの……!」

 

 ふと横を見るとエルデヴァッサー少佐が隣にやってきていた、こうやってみるとホント小柄だなぁと思うと同時にやはりとても美少女だ。

 ハマーン様みたいな桃色の髪にプルみたいな小柄なスタイルとかなり俺のストライクゾーンに突き刺さった、……いやロリコンじゃないぞ?

 

「ありがとうございました、私……誰からも助けてもらえないと思っていたので。」

 

 邪な感情を出しているのが無粋なくらい礼儀正しく話しかけてくるエルデヴァッサー少佐にこちらもかしこまった感じで返答をする。

 

「い、いえ。少佐の言っている事は理に適ってましたからね。俺……いや自分も今後はMSが主軸になって行くと感じてましたから今の内から訓練始めてましたし。」

 

「あぁ!もしかしてこの数日『出来の悪いシミュレーターなのにアホみたいにどっぷり利用してる奴がいる』と話題になっている方がいると聞いていましたが貴方だったりするのですか!?」

 

 えっ?確かに他のパイロット候補から見たらアホほどやってたけど、周りからそんな風に言われてたのか?

 

「えぇと……多分間違いないんじゃないですかね。」

 

 不名誉だけど少佐の笑顔が可愛いから許す。ただこっちも疑問と言えば疑問がある、今の内に聞いておくか。

 

「ええとエルデヴァッサー少佐。」

 

「私のことはアーニャと呼んでください、父と祖父が私を呼ぶ時にそう呼んでいました。私を救って頂いた貴方にもそう呼んでもらたいのです。」

 

 アンナの愛称でアーニャか、ロシア系の血も混ざっているんだろうか?貴族だし……って頭が脱線してきたな。

 

「じゃあ……アーニャ少佐?」

 

「階級も、二人の時は必要ありません。」

 

「じゃあアーニャさん。一つだけ疑問に思ってることがあるんだけど、この部隊でMSを運用テストして行くってのがさっきの話の要約だと思うんだけど、肝心のMSはどうするんだい?」

 

「その点に関しては問題ありません、鹵獲したザク、もしくは現在運転試験用に使われているザニーと言うMSがあるのですがそれらをどんな手段を用いても手に入れます。」

 

「どんな手段もって……。」

 

「ご心配なさらず、悪どいやり方と言うわけではありませんから。貴族という地位以外にも我が家は軍需産業とも関わりが根強くありますから。」

 

 繊細そうに見えて中々強かな所が垣間見える、先見性やこう言った面をみるにミライさんやセイラさんみたく芯の強い女性なんだろう。ガンダムの世界って割と女傑多いし。

 

「これから、よろしくお願い申し上げます。ジェシー・アンダーセン少尉。」

 

「おっと、上官が自分を階級呼びしなくて良いと言ってるのに部下には階級付けて呼ぶのはナンセンス。俺のこともジェシーと呼び捨ててください。」

 

「分かりました、ジェシー。」

 

 そう言って二人は握手を交わす。後に宇宙世紀の歴史を大きく変えて行く事になる二人の出会いが、連邦軍最大拠点である南米ジャブローで幕を開いたのであった。




メインヒロインとなるアンナ・フォン・エルデヴァッサーちゃん登場回前編です。

宇宙世紀以前から貴族として続いていた家系で軍需産業と深く関わりを持っていたので連邦内にもかなり融通の聞く家柄だったのですがブリティッシュ作戦でのコロニー落としで偶然にもシドニーに集まっていた一族の重要人物達は全滅。

残った彼女も飛び級で士官学校を卒業した優秀な人間ではあるのだけど発言力がまだ少なく、史実では誰からも賛同を得られず軍を除隊し関わりのある軍需産業もMS開発に大きく関わることが出来ず衰退。
その後アナハイムとかあの辺りに吸収されて表舞台からは退場したという設定です。

そんな彼女がジェシー君との出会いでどう変わって行くのか、期待して頂けると幸いです。

あとゴップ将軍なんですが本来原作だとゴップ提督だったりオリジンだと将軍だったり呼称が色々違うと思うんですがこの作品では将軍の呼称で通したいと思います。

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