EXAMシステム、知る人ぞ知るニュータイプ抹殺の為に作られた狂気のシステム。パッと見ただけでは機体の性能を大幅に上げるOSなだけに見えるが実際はニュータイプの動きを再現したシステムであり敵のニュータイプを察知するとその抹殺の為にパイロットの意志を無視して暴走するという悪魔のようなシステムでもある。しかし暴走と言ってもそれが博士の意図したものであるから始末に負えない。
しかも困ったことに多数の人間の殺気や死といったものにも反応して暴走する、こちらは完全に意図されてない暴走で敵味方関係なく無差別攻撃をするといった危険な物だ。
俺はジャブローで割り当てられた待機所で、そんなシステムを開発した人間と会ったというアーニャとクロエ曹長から話を聞いた。
「見た感じ機体の性能をフルに活かす為の新型のOSって感じでしたけど?」
クロエ曹長からの感想だ、クルスト博士から現在開発している機体……恐らくBD-1号機の図面を見たと言っていたのでどうだったか質問したのだ。
「肝心のシステムに対応させる為の機体がジムやメガセリオンでは性能を引き出せないだろうと言っていたのは驚きました。現在小数配備されている陸戦型ガンダムなら何とか行けそうだと言っていましたね。」
元々陸戦型ジムで試作したら納得のいく性能が出なかったので陸戦型ガンダムの胴体を使ったんだったか、どうやら今回も同じ経緯を辿っているみたいだ。問題は最初からジム頭では無く完全に陸戦型ガンダムでの開発になる点か。恐らくは原作とは違い既に複数の量産機が配備された事によりEXAMを載せるMSを選定がし易くなったのが原因だろう。
「それでですね、そのEXAMというシステムを搭載したMSが完成次第テストパイロットを私達の部隊から頼まれて欲しいと要請がーーー
「駄目だ!」
アーニャが言葉を終える前に俺の怒号が遮った、アーニャを含め全員が驚く。
「ど、どうしたんだいシショー?いきなり大声をあげて。」
「あ、あぁすまない……だがその機体のテストパイロットを俺達の中から選ぶのは嫌だ。」
パイロットへの負荷がえげつないで済むならまだ良い、だが下手をすればパイロットが脳死しようが暴走を続けるマシンだ。そんなのに俺の仲間達を乗せたくなんてない。
「ジェシー、これは上層部からの命令ですよ?理由も無く拒否は出来ません。」
「くっ……。」
暴走する可能性のある危険なシステムだから駄目だ!と言えれば良いのだが現時点でそんな事を言っても何の根拠もない。原作の知識ってこういう時周りと共有できないのもあるからそれが辛いな。
「そりゃあジオンの亡命者が作ったシステムってんじゃあシショーが信用出来ないってのも分かるけどねえ。シショーが駄目なら私が乗ろうかい?」
「だから駄目だって言ってるだろ!」
再度の怒号、いつも陽気なララサーバル軍曹もこれには少し困惑していた。
「ジェシー、本当にどうしたんですか?いつもの貴方らしくないですよ?」
「なぁアーニャ、どうしても俺達じゃないといけないのか?」
正直誰にもこんなMSに乗って欲しくはない、ユウ・カジマのような精神力のある人間などが乗りこなせるならそっちに乗って欲しい。
「先程も言いましたがこれは上層部からの命令です、断れば命令違反になりますよ?」
「何とか……ならないんだな?」
「えぇ、何が問題なのですか?教えてくださいジェシー。」
「……上手く言えない。」
実はそのシステムはNTの少女を人柱に作られてるんだ、とか人の死に反応して暴走するんだ、とか言っても信用される訳ないし気でも狂ったかと思われるだろう。実際気が狂ってるのはクルスト博士の方だが。
こうなると誰かが乗らなければならない、だけど俺が乗らず誰かを乗せるなんて事はさせたくない。もしも仲間が暴走してそれを撃てるか?嫌だ、そんな事はしたくない。
それなら……答えは一つしかない。
「絶対に乗らなきゃいけないなら俺が乗る、他の誰かが乗るのは絶対駄目だ。それなら良いかアーニャ?」
「え、えぇ……。」
一応の納得は貰ったがやはりみんな困惑している、けどそうでもしないと誰かを乗せかねない。これだけは絶対に阻止しなければ。
願わくば完成しないように早めにニムバス辺りが来てくれないかと思ったが幾ら時系列が狂っても流石に情報無しに博士の場所は見つけられないだろうし難しいだろう、あわよくば事故に見せかけてEXAMを壊すか?いや……流石に大勢の目がある中でそれは難しいか。
後は俺がEXAMを制御するか……嫌、無理だろう流石に俺にはそこまでの主人公補正みたいなのはないだろう。此処に憑依してきてからそんなチートとか無双だとか兆候は全く無かったし。だけどシステム起動時にだけ何とか精神保つのに集中してればギリギリなんとかなるか?無意識のうちにシステムに取り込まれるよりも事前に心構えしておけば最悪の事態だけは何とか免れるかもしれない。
気が遠くなりながらも俺は悪魔のシステムとの邂逅に目を背けられなかった。
それから一週間、システムの基礎自体が完成していた事と最初から陸戦型ガンダムを使用することで開発遅延も無く、RX-79BD-1 ブルーディスティニー1号機が完成した。こうなると2号機3号機と見た目も性能もほぼ同じだ。
俺達第774独立機械化混成部隊は先日奪還した北米近くの基地からミデアで移動し人目のつかない夜を待ち起動実験に移る。
基本的な操作は物凄く快適だ、と言うか初めてガンダムに乗ってるんだなと今更思った。このガンダムじゃ無ければ普通に嬉しいのだが……。
「それではブルーのEXAMシステム起動実験に移る、準備はいいかジェシー・アンダーセン少尉。」
アルフ・カムラ技術大尉の確認の声だ、ブルーディスティニーに関わっているのだからやはりこの人もいた。こんな形で出会いたくは無かったが。
「はい……EXAMシステムの起動に移ります。」
大きく深呼吸。大丈夫、大丈夫だと自分に言い聞かせてシステム起動の工程を踏む。そして、ゲームで良く聞いたあの機械音声が聞こえてきた。
『EXAMシステム スタンバイ』
「よし、次はシステム起動時の動作試験だ。手順通りに動いてくれ。」
言われた通りあらかじめ用意されていた指示の通りに機動させる、暴走さえしなければ確かに優れたシステムだ。ただでさえ優れた動きをする陸戦型ガンダムが更に機動を増し柔軟に動いていく。
その時だった、遠方から爆発音がなり響く。
「何事ですか!?」
「どうやら近くで戦闘が行われているみたいだな。」
戦闘だって!?細心の注意をしていたんじゃなかったのか?
《こちらホバートラック、味方部隊の通信を傍受した。どうやら味方のMS小隊が敵基地を襲撃している模様。》
ジュネット中尉からの通信が入る、まさかモルモット隊か?それに敵基地襲撃?俺はあのゲームはプレイした事ないけどGジェネとかのシナリオで確かそんな展開があったような……そして、それが意味する事は……?
『ヤメテ……!』
「!?」
突如金槌か何かで頭を殴られたような衝撃に襲われる、脳に大勢の人の声が直接響き渡る。これは悲鳴、怒号、恐怖……色々な感情が波になって襲いかかってくる。
「ぐっっっ!カムラ大尉……!システムを……システムを止めてくれえええええ……!」
「どうした少尉!何があった!?」
「何が起こったんですか!?」
「分からん!だが機体がオーバーヒートしている……!危険だ!」
「クロエ曹長!システムの停止を!」
遠隔操作でのシステムの強制停止ボタンが押される、しかし機体は依然そのまま暴走状態であった。
「ララサーバル軍曹!グリム伍長!事前の手筈通り機体頭部の破壊を!」
「なんだと!?機体頭部にはEXAMが積まれているんだぞ!」
「ジェシーが言っていました!もしも何か異常な事態が発生したら機体の頭部を撃てと!」
こうなる事を予期して、事前にアーニャ達に機体に何かしらの非常事態が発生したら機体頭部を破壊してくれと頼んでいたのだ。みんなは半信半疑だったが現状の異常さに流石に危機感を募らせた。
「やめろエルデヴァッサー少佐!それは命令違反だぞ!」
「ここでは私が上官です!各機!責任は私が取ります!頭部の破壊を!」
「あいよ!」「了解!」
ララサーバル軍曹とグリム伍長のメガセリオンがブルーディスティニー1号機の頭部に狙いをつける。
「痛かったらごめんよシショー!」
「仲間を撃つなんて偲びないですが……すみません少尉!」
頭部をロックオンし、メガセリオンのバズーカ砲を発射する。暴走と言っても直立不動の状態の機体だ、これで何とかなる……そう思っていた。
「っ……!」
味方から放たれたバズーカ砲を見て、アーニャ達は俺を信じてEXAMを破壊してくれるのだと喜んだ。しかし。
『乱暴シナイデ……!』
機体は突如躍動し異常なスピードでバズーカを回避する。
「止まれ……!マリオン……!」
恐らくシステムに取り込まれているだろう少女の名を口にするが反応はない。それどころか暴走した機体は仲間に攻撃を仕掛けようとする。
「くそ……っ!止まれ……!トマレエエエエ!」
『乱暴ナ人ハ嫌イ!』
必死にコクピット内で機器を操作するも虚しく、1号機はララサーバル軍曹のメガセリオンへ猛スピードで移動するとビームサーベルで一気に袈裟斬りをする。
「なっ……!あぁっ……!?」
「カルラさん!?止まってください少尉ぃぃい!」
グリムのマシンガンによる射撃すらまさに紙一重と言うレベルで躱していく、徐々に間合いを詰めてグリム機もビームサーベルで滅多斬りにしてしまう。
幸いというべきはどちらの機体もコクピットは無傷という点だ、だがそれすら現状に何の意味も為さない。
「く……ソ……!止まレよ……!」
1号機は動かなくなった二機にトドメを刺さんと言わんばかりにゆっくりと歩を進める、俺は最後の手段に取っておいた奥の手を使用する為に意識が呑まれそうになりながらも手元から小さなケースを取り出す。
出てきたのは注射器、入っているのは所謂覚醒剤というやつだ。こんな物は本当は使いたく無かったが完全にシステムに呑まれる事態を想定して最悪の手段として残しておいたのだ。
残った意識でなんとか注射器を腕に刺す、激痛と同時に少しだけ感覚が回復する。
「マリオン……敵は、コイツらは敵じゃない……!」
俺の大事な仲間達だ、下衆と言われようが誰も死なせたくはない。
「敵意を……敵意を出している奴らは……!あっちだ……!」
敵基地を襲撃しているMS部隊、そして襲われているジオン兵達の殺意と敵意。それらが渦巻く戦場へと誘う、EXAMのバグとも言える仕様を利用した。
1号機は俺の体をお構い無しに高速機動で敵基地への方向へ進軍する、俺の意識もそこで完全にシステムに呑まれたのだった。