機動戦士ガンダム 紺碧の空へ   作:黄昏仮面

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第21話 狂宴、戦慄のブルー

「敵残存MS無しっと、簡単な任務だったなユウよぉ?」

 

「フィリップ少尉、まだ何処かに敵が潜んでるかもしれないんですよ?」

 

「馬鹿言ってんじゃねえよサマナちゃん。自分らの基地がこんなになってまで潜んでたらソイツはタダのチキン野朗だっての。」

 

「……。」

 

 敵の気配はない、固定砲座も殆ど撃破し敵基地は最早抵抗は不可能だろう。フィリップの言う通り基地が壊滅してから動くMSも流石にいない。

 

「どうだモーリン、データは取れたか。」

 

「はい、ユウ少尉。新型ジムとメガセリオン用のジェットパックも不具合なく充分なデータが取れました。」

 

 今回俺達は敵基地を上空からの強襲、以前何処かの部隊がパラシュート降下で襲撃したのに対してこちらは大型のジェットパックを装備しての突入となった。

 元々はメガセリオン用に開発された装備で俺を除く二人がメガセリオンに搭乗、俺は新たに開発中のジムの改良型であるジム・コマンドの試験運用も兼ねて同装備を携行しての任務となった。

 

「どうよユウ?そのジムの性能は?」

 

「悪くはない、機動性もメガセリオンと同等にまで追い付いたと言う感じだ。何よりビーム兵器が標準装備と言うのは単純に素晴らしいな。」

 

 エネルギーCAP技術の確立により戦艦並とは行かないがそれでもMSを簡単に撃破できるレベルのビーム兵器が使えるようになったのは今後ジオンと戦うにあたり大きなアドバンテージとなるだろう。

 メガセリオンにしても何れは実弾装備からビーム兵器への転用が始まる筈だ。そうなれば機動性と攻撃力を兼ね備えたバランスの良い量産機へと更に進化するだろう。

 

「さてとぉ、後は味方に任せて俺たちは帰るとするか?」

 

「……ん?待ってください!所属不明のMSが作戦エリアに侵入!高速でこちらへ向かって来ます!は……速い……!こんな速度で向かってくるMSがいるなんて……!」

 

「どう言う事だ、詳しく説明しろモーリン!」

 

「それがこちらも詳しくは……!ただ異常な速度でMSがそちらに向かっています!気をつけてください!」

 

「気をつけろって言ってもモーリンちゃんよぉ!」

 

「お喋りはそこまでだフィリップ!来るぞ!」

 

 ジムのセンサーにも所属不明機の反応が現れる、確かに異常な速度だ。こんなスピードで迫ってくるMSが開発されているなんて連邦でもジオンでも聞いたことがない。

 

「なっ……!?」

 

 上空から猛スピードで蒼いMSが落下してきた、問題はその形状だ……このMSは。 

 

「こ、これ連邦軍のMSですよ!?少数配備されている陸戦型ガンダムです!」

 

「じゃあコイツは味方なのかよ!?」

 

「待て!様子がおかしい。」

 

 こちらを確認しているのに通信も何もない、味方部隊なら何かしらの応答くらいする筈だが……。そう思っている所に蒼いMSはこちらに向かって攻撃をしてきた。

 

「発砲!?味方じゃないのか!」

 

「どうすんだよユウ!コイツは友軍じゃないのか!?」

 

「IFFも作動していない、仮に友軍だとしても味方に攻撃をしてくるMS相手に何もしない訳にはいかない。各機、散開して攻撃力を奪う。敵の武装を狙うんだ。」

 

 仮に友軍だとしたら攻撃をして来ているとは言え撃破したくはない。ただこの異常なMS相手にそんな上手く攻撃が出来るか……?

 

『ナゼ……コロス……!ナゼ……コロシタ……!』

 

「……っ!?パイロットの声か?」

 

 蒼い MSはこちらの射撃を通常なら不可能な挙動で回避していく、こんな動きをしていて中のパイロットは平気なのか?

 

 

 

ーーー

 

 何回目かの嘔吐、吐き出している物に血が混じっていた。なんとか少し回復した意識が再び薄れていく中で俺は必死に抵抗を試みるが……。

 

『コロス……!コロス……!』

 

 マリオンの意識か、それとも殺された兵士の怨念か。様々な思念が俺の中で混ざり俺の意識を殺戮へと誘う。

 

「殺……す……、ぐっ……!」

 

 『敵』の攻撃に俺の身体の安全なんて無視した動きを取るブルーディスティニー1号機、脳味噌と内臓がバラバラになるんじゃないかと思うくらいの衝撃がコクピット内に響く。今生きてる事すら奇跡に近い。

 目の前には3機のMS、2機はメガセリオンで1機はジムか。だが見た目が微妙に違う、バリエーション機のジムか。

 彼らに何とか俺を撃破して貰いたいが機体性能の差があり過ぎる、後はパイロットの腕に賭けるしかない。頼むからモルモット隊の人達であって欲しい。

 

『戦ウノハ駄目……!殺スノハ駄目……!』

 

「なら……戦うのをやめろ……マリオン……!」

 

 システムに囚われている彼女に語りかけるも反応はない。システムに導かれてシステムとマリオンを理解したユウや、彼女……いやシステムを支配しようとしたニムバスとは違い、俺は単純に中身を知っているだけに過ぎないのだ。

 そんな中途半端な彼女の理解なんかでシステムを止めるなんて無理な話なのか……。

 

 

ーーー

 

「反応が鈍い!仕掛けるぞ!」

 

「おうよ!当たりやがれ!」

 

 一斉射撃で蒼いMSに攻撃を仕掛ける、しかし実弾はシールドで塞がれジム・コマンドのビームガンは的確に回避される。

 

「くっ……全く直撃しないですよユウ少尉!このままじゃ弾とエネルギーが無くなりますよ!どうしますか!?」

 

 それなら相手の方も同じだろう、とふと思った。あんな戦闘機動とエネルギー消費を考えていない攻撃ではいつかは止まるはずだ。そう思っていると通信が入った。

 

《こちら連邦軍第774独立機械化混成部隊、現在広域通信でそちらの部隊に通信をしている、聞こえているか!》

 

 味方からの通信だ、もしかしたらこのMSが所属している部隊か?

 

「こちら第11独立機械化混成部隊ユウ・カジマ少尉だ。単刀直入に質問させてもらうが現在連邦軍製と思われるMSと交戦中だ。これはそちらの部隊のMSか?」

 

《その通りだ、現在そのMSはパイロットの制御を無視した暴走状態に陥っている。何とか殺さずに止めて欲しい!》

 

「殺さずぅ!?こっちは直撃コースで何度も狙われてるってのにそりゃねぇぞ!」

 

《変わってくださいジュネット中尉!……お願いします!殺さないで……!彼を……彼を止めてください!お願いします!》

 

 聞こえて来たのは女性の声、モーリンよりも幼く聞こえるその声はかなりの必死さを含んでいた。

 

「……やれるだけやってみよう。」

 

「おいおい正気かよユウ!?」

 

「暴走していると言っても味方機である事が判明したんだ、撃破する訳にはいかない。だが正直勝てる気はしない。そちらの部隊へ、何か策はないのか?」

 

《おい、変わってくれ。……よし聞こえるか、俺はそのMSの担当をしているアルフ・カムラ技術大尉だ。先程も言った通り現在ブルーは暴走状態だ、通常の限界を越えた状態で動いている。つまりこのままの状態が続けば機体はオーバーヒートで動かなくなる筈だ!》

 

「おいおい、つまりコイツが動かなくなるまで耐え凌げって事かよ無茶言うぜ全く。」

 

「だがやるしかない、それに既にかなりの時間が過ぎているんだ恐らく後10分もしない内に停止する筈だ。」

 

「こっちのエネルギーも保ってそんな所ですね、やれるだけやりましょうフィリップ少尉!」

 

「あぁ分かったよ、こっちの腕前をあちらさんにも見てもらうとするか!」

 

 

 

ーーー

 

「ユウ・カジマ……本当にいてくれたか……。」

 

 ホバートラックから受信した広域通信が耳に入り少し安堵する、どうやら本当にいてくれたみたいだ。だが状況は楽観出来るほどではない、依然として機体は動いているのだ。

 

《ジェシー!応答してください!ジェシー……!ジェシー……!》

 

 聞こえて来たのはアーニャの声だ、涙声で声が少し枯れている。ずっと叫んでいたのだろうか。

 

「……っ、……カハッ!」

 

 声を出そうと思ったが出て来たの血の方だった。身体の方は大分ガタか来ている、生きて帰れるのだろうか。

 

「帰れるか……じゃない……帰るんだ……!」

 

 仲間の元へ、みんなの所に……!

 

「帰るんだ……帰ル……!」

 

 再びシステムの殺戮衝動に心が駆られて行く、これが最後の気力の踏ん張り所だ。

 

《帰ってきてジェシー……私の所に帰って来てください!》

 

 そうだ、帰るんだ。彼女の所へ、俺がいるべき場所へ……!

 

『コロセ!敵ヲコロセ!』

 

「黙れEXAM……、俺は帰らなきゃ行けないんだ……だから……。」

 

 1号機はジムへ向けて猛スピードで突っ込んで行く、互いにビームサーベルで斬り付け合うつもりだ。だからここで動きさえ止めれば……!

 

「こんなシステムに……この衝動に……!塗り潰されてたまるかあぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 一瞬、刹那の瞬間だがシステムの呪縛が外れた。俺は掴んでいたビームサーベルを手放した。ジムはその隙を見逃さず脚部を一閃し1号機は制御を失い転倒、そのまま機能を停止した。

 その光景を見て、支え続けていた精神は遂に糸が切れ意識が闇に飲み込まれていく。その時一瞬だけ声が聞こえたような気がした。

 

『ごめんなさい……貴方の帰るべき場所へ帰って……。』

 

「マリオン……。」

 

 それはEXAMではなく、本物の彼女のように感じた。

 

 

ーーー

 

「止まったのか……?」

 

 ほんの一瞬の隙だった。最初は見間違えたかと思うほどだったが蒼いMSは突如ビームサーベルを捨てた。そこにビームサーベルを脚部へと斬りつけ転倒させる、これでもう戦闘行動は不可能だろう。

 

「やりましたねユウ少尉!」

 

「ったく、生きた気がしなかったぜ。」

 

「パイロットの安否を確認する。」

 

 あんな挙動で動いていた機体だ、暴走状態だと言うなら中のパイロットの意思を無視していると想定されるだろう。下手をしたら命が危ないかもしれない。

 そう思っていると上空からミデアが着陸してきた、俺達が使っているミデアではない。だとすると先程の部隊のものだろうか。着陸したミデアから少女が蒼いMSへと駆け出して行く。

 

「ジェシー!聞こえていますかジェシー!開けてください!」

 

 応答がない、つまりパイロットは意識不明かそれ以上の状態である可能性が高い。

 

「待て、強制的にコクピットハッチを開く。」

 

 外部から非常用の開閉装置を使いコクピットハッチを開く、其処には血塗れのコクピットとパイロットが横たわっていた。

 

「あぁ……ジェシー……!ジェシー!」

 

「下手に触るな!無理に動かすと危険だ!」

 

 彼女をどかせパイロットに近づく、虫の息だが呼吸はしている。どうやらまだ生きているようだ。

 

「誰か手を貸してくれ、ゆっくりと運び出す必要がある。」

 

 応援を呼び、フィリップと共に彼を機体の腕に抱かせサマナにゆっくりとミデアに運ばせた。

 

「すまない、我々の指揮官は現在判断能力が非常に鈍っている。こちらから感謝を伝えさせてもらう。」

 

 俺より少し年上の男性がそう発言した、指揮官とはあの小さな少女なのか?

 

「構わない、あの機体は一体なんなんだ?」

 

「それについては知る必要は無い。」

 

 話していた男性とは別の男が話を遮った、見た目からしてメカニックだろうか。

 

「知る必要が無いとは?」

 

「そのままの意味だ、これは極秘任務なのでな。公に内容を晒すことはできないんだ。」

 

「こっちは死にかけたんだぜ!?ユウがあの機体を止めてくれなきゃ俺達は今頃お陀仏だってのに言えないだと!?」

 

「ほう……彼がブルーを止めたのか。」

 

 男はまるで見定めているかのようにマジマジとこちらを見ている、何が狙いだ……?

 

「君なら彼と違いブルーを使いこなせるかもしれないな。どうだ?この機体に乗ってみたいとは思わないか?」

 

 はっきり言って狂言だ。あれだけ暴走していた機体を勧めてくるなんて理解できない。だがあのMSの強さは他とは比べ物にならないくらい強力だと言うのは確かに思ったことだった。誰にも止められない力……それは俺が心の奥底で求めていた物だった。彼はそれを見抜いたのか?

 

「……考えておこう。」

 

 そう返事をし、狂気とも言えるあのMSとの初めての邂逅は終わりを告げた。

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