機動戦士ガンダム 紺碧の空へ   作:黄昏仮面

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第23話 目指すべき未来へ

 暗い、暗い闇の中を漂っている。手を伸ばしても何にも届かず、辺りを見回しても何も見えず。

 俺は死んだのか?これが死後の世界?このまま永遠にこの暗闇の中にいるのだろうか。結局、ガンダムの世界を変えようなんて烏滸がましい事だったのか、史実と違う道を見て何を得るつもりだったのだろうか。

 

 そうだ、彼女の描く未来が見たいと思ったのだ。アンナ・フォン・エルデヴァッサー、生粋の貴族という割にはいつもは普通の女の子である彼女、やたら身長を気にしてはムキになったりと正直上官としては子供っぽい……いや実際にまだ子供みたいなものだが。

 それでも芯の強い所があって父親や祖父の理想を引き継ぎたいと強く願っていた、地球から宇宙を目指してより良い未来へ向かう為にと……綺麗な惑星である地球を残そうと……。あぁ、そうだ。そんな明るい未来を彼女が創るところが見たいなぁと思っていたのだ。

 

 そう思っていると暗闇の中に一筋の光が見えた、暖かい光だ。そう思って手を伸ばした。

 

 

 

「あぁ……っ!」

 

 声、声が聞こえた。まるで何かに驚いたような。目を開こうと思ったが目蓋が重い、重いというか張り付いてるような感覚だ。

 

「ドクター!今すぐ来てください!彼が……彼が目覚めたんです!」

 

 聞き覚えのある声だ、慌てふためくこの声はいつも聞き慣れた彼女の声だ。

 

「あ……アー……ニャ……?」

 

「そうです……!私です!あぁ良かった……。」

 

 ふと手に温もりがある事に気づく、彼女の両の手だろうか。目を開こうとしても力が全く入らない。目覚めたと言っていたがどのくらい眠っていたのだろう、身体が碌に動かない辺りそこそこの日数は経っているのか?

 

「エルデヴァッサー少佐、あまり騒ぐと他の患者にも迷惑ですので……失礼しますよ。」

 

 医者らしき声と共に目を冷たいガーゼのようなもので拭かれた、少し楽になった……これなら目も開けられそうだ、と目を開く。

 

「っ……眩しい……な。」

 

 窓を通して差し込む太陽の光がいつもより眩しく感じる、横に目をやるとそこには少し窶れた顔をしたアーニャがいた。

 

「ひどい顔をしてるな……ちゃんと休んでるのか……?」

 

「彼女に感謝するといいアンダーセン少尉。君が眠っていた一月の間、彼女は殆ど休まず君の看護をしていたのだからな。ナース達も仕事させて貰えないと愚痴を言うくらいにはな。」

 

 医者の言葉に「そうか……一月も……ありがとうな……。」とアーニャに感謝を述べた後ふと気づく。

 

「ひ……一月!?っっっ!」

 

 驚いて起き上がろうとしたら身体に激痛が走る。

 

「無理に身体を動かさない方が良い、治療はしてあるが運び込まれた時の君はとても危険な状態で今もまだ万全とは言えないんだ。」

 

 医者の言葉に俺はハッとする。そうだ、俺はあのブルーディスティニー1号機に乗ってEXAMが暴走した状態で乗り続けていたんだった。

 

「俺の身体……どうなって……?」

 

「今は殆ど癒えているが此処に運び込まれた時は多数の骨折に内臓のダメージ、それに薬物投与による肉体の拒否反応とハッキリ言って死んでもおかしくはない状態だったのだよ。いや逆に生きてるのがおかしいと言えるレベルか。自分の生命力の強さに感謝するべきだな。」

 

 聞いててゾッとするような言葉を羅列していく医者、確かにそれで五体満足なら運が良かったとしか言いようがない。

 その後、医者は点滴を変えてから部屋を去っていった。

 

「アーニャ……みんなは……?」

 

 辺りを見回すが部隊のメンバーはアーニャしかいない、基地で待機しているのだろうか?

 

「部隊のメンバーは全員敵拠点攻略の為に一時的にですが他の部隊の援軍に向かいました、もう数週間前のことです。」

 

「敵拠点攻略……?」

 

 頭の整理が追いつかない、取り敢えず順を追って説明を聞くべきか。

 

「アーニャ、俺が眠っていた一月の間に何があったか教えてくれ。」

 

「ジェシー……貴方はまだ万全とは言えないんです、今は無理せずに……。」

 

「気になるんだアーニャ、頼む。」

 

 俺を心配してかなるべく余計な気を使わせないようにとしてくれているのだろう、優しさはありがたいが今は逆に何も知らないほうが精神的に良くない。

 

「それでは……貴方が気を失ってからの話にしましょうか。私達は貴方を連れてすぐこの場所、戦場の近くだったオーガスタの医療施設に運び込みました。」

 

「オーガスタ……。」

 

 テスト地が北米なのもありオーガスタに運ばれるのはまぁおかしくはない、オーガスタと言えばあのニュータイプ研究所のオーガスタ研究所が有名だが此処はどうやら普通の病院っぽいし強化とかはされていないはず……だよな?

 

「貴方の手術の後、私は独断での新型機破壊の指示を出した事で命令違反により指揮権を剥奪され第774独立機械化混成部隊は一時解散になりました……ごめんなさい。」

 

「あれは俺が……!」

 

「いえ、貴方は悪くありません。最終的に指示を出したのは私でしたから。そもそも貴方の言う通りに最初からしていればこんな事にならなかったんです。」

 

 精神的に疲れているのか酷く憔悴しながら謝ってくる、元々気にし易い性格だから支えてくれるはずの仲間がいないせいで余計に気落ちしている。

 

「気にするな……なんて言えないな。アーニャの酷い顔を見ればどれだけ気にしてたか分かるし。」

 

「私……そんな酷い顔をしています?」

 

「あぁ、最初は別人かと思ったよ。悪いが……話を続けてくれるか?」

 

「えぇ。命令違反自体は機体の暴走と貴方の重症という結果がありましたから、指揮権はすぐに戻ってきました。ただ私自身がまともに指揮を取れる状態ではないとジュネット中尉に言われ……ゴップ叔父様の勧めもあり貴方が目覚めるまで側にいる事にしました。」

 

 あの真面目なジュネット中尉から言われるって事は相当狼狽えていたのだろうか、要するにアーニャが指揮を取れる状況じゃなくなったから部隊のみんなは他の部隊の援軍として出向してるって感じなのか。

 

「貴方が眠っている間に情勢も色々と変わりました。」

 

 ん、そうか……一月眠っていたとなると今は9月上旬か。それなら色々と史実より前倒しになってる今の状況なら戦線も拡大しているだろう。

 

「あ……そういえばホワイトベースってどうなってるんだ……?」

 

「ホワイトベース?なぜ貴方がその情報を……?」

 

 あっ、声に出ていたか。

 

「いや、ジャブローにいた時に宇宙港で見つけてさ。V作戦のMSを回収するとか言っていたから気になっててさ。」

 

「そうですか……あのホワイトベースは新型機受領の為にサイド7に向かいました、しかし敵に尾行されていたらしくコロニーは攻撃されて正規兵が殆ど全滅状態という悲惨な状況だったみたいです。」

 

「それで……どうなったんだ?」

 

 気になるのはこの一点だ、アムロはどうなったんだ?

 

「幸い新型のRX-78ガンダムは近くにいた民間人が動かして敵のザクを撃破したと聞いています。その後ホワイトベースはルナツーに向けて進路を取っていたのですが……。」

 

「何かあったのか?」

 

「その時ルナツーはジオンの海兵隊による奇襲を受けている最中でした、其処にホワイトベースとそれを追ってきた赤い彗星率いる部隊との交戦でルナツーは何とか守りきる事は出来ましたが壊滅的打撃を受けてしまいました。」

 

 そう言えば原作だとシーマ様がルナツー攻撃して、その数日後にホワイトベースが来たんだったか。それが色々と前後してるから早い段階で奇襲とホワイトベース隊のルナツー寄港が重なってしまったのだろう。

 

「ルナツーの状況からそのまま駐屯することが出来なくなったホワイトベースはその後最低限の補給を経て、ジャブローへの大気圏突入を予定していたホワイトベース隊でしたが此処でも赤い彗星の強襲を受けてしまいました。ガンダム2機が迎撃に当たりましたが途中1機が母艦に着艦できずMS単機での大気圏突入をすることに……」

 

「ちょっと待て……!?ガンダムが2機?」

 

「え?えぇ、そうですけど……?」

 

 アムロの2号機以外も回収されてたって事か……、やっぱり色々と内容が変わっているな。

 

「すまないアーニャ、そのガンダムのパイロットって名前は分からないのか?」

 

「すみません、そこまでは私も分からないです。先日貴方のお見舞いに来てくださった方から直接聞いたもので詳しくは……。」

 

「ん?俺のお見舞い?誰が来たんだ?」

 

「マチルダ・アジャンという中尉の女性でした、貴方とはお知り合いだと言っていましたけど。」

 

 えっ……?マチルダ・アジャンってあのマチルダさんだよな?以前ウッディ大尉とは会ったことがあるけど出任せで知り合いと言っただけで実際に知り合いな訳は……どうなんだ?ジェシー・アンダーセン本人の記憶から探ろうとするが過去の出来事はそこまでわからないんだよな……。

 

「まぁ良いか……それでホワイトベースとガンダムはどうなったんだ?」

 

「えぇ、幸いパイロットの機転で無事に大気圏突入に成功したまでは良かったのですが突入ポイントがズレたせいで北太平洋上にホワイトベースは降下したのです。」

 

 ……北米じゃない?ガンダムが2機いたせいで微妙に降下ポイントがズレたのか?

 

「無事に機体を回収し終えたホワイトベースは進路を東南アジア方面に取り移動中……、ここまでが今までのホワイトベース隊の進軍状況です。」

 

 ……となると北米に降りなかった事でガルマを倒さずに進んでいるって状況か。太平洋上からジャブローに進路を取らず東南アジア方面へ移動となると考えられるのは。

 

「アーニャ、もしかしてオデッサ奪還は近いのか?」

 

「えぇ、現在レビル将軍による進行作戦が発令中で各地から部隊の招集が掛けられています。北米戦線もそれに伴いキャリフォルニアベースの牽制と攻略を検討した二正面作戦になる可能性が高いです。」

 

 二正面作戦か……オデッサの方はホワイトベース隊がいるなら何とかなるだろうが問題はキャリフォルニアベース攻略の方だな、原作ではジャブロー攻略作戦の失敗で損失したMSが多かった事やオデッサ攻略で地球上からの撤退が始まった事での制圧だ、それが前倒しになった場合は勿論の事だが戦力はそのままだしガルマだって生きてる、兵の士気は高いだろう。

 

「って事はみんなキャリフォルニアベース攻略に向かっているのか?」

 

「えぇ、現在は殆ど小競り合いみたいなものですが本格的にオデッサ攻略作戦が発動すればそれに乗じた形で進軍する筈です。」

 

 ホワイトベース隊がまだ東南アジアならオデッサ攻略作戦迄はまだ時間がある、それなら……。

 

「よし……なら退院の準備だな。早くみんなと合流しないと。」

 

「な……、馬鹿な事を言わないでください!まだ貴方は完治していないんですよ!?」

 

「みんなが戦ってるのに俺だけ寝てる場合じゃないだろ、少し身体が鈍ってるだけだ、すぐ元に……。」

 

「駄目です!」

 

 俺が言い切る前にアーニャは怒り声を上げる。

 

「私は……私はこれ以上貴方が無理をして欲しくないと思っています……それがエゴだとは分かっています!私が貴方を戦いに誘ったんですから……でも……!」

 

「大丈夫だ、アーニャ。俺は死ぬつもりは無いさ。」

 

「けど……!」

 

「俺が目覚める前に夢を見てみたんだ、暗闇の中で何も見えないし聞こえない。死んだんじゃないかって思った、けどその時思ったんだよ。アーニャの描く未来を見てないじゃないかって、みんなで宇宙に上がって変わっていこうって明るい未来をさ。そう思ったら光が差して、その光を手に取ろうとしたら目が覚めたんだ。」

 

「……。」

 

「だからさ、そんな未来を見るまで俺は死なないしお前の傍にいてずっとお前を守るよ。ジャブローで騎士の誓約を交わしたんだから、俺はそれを破らない。」

 

「絶対に……絶対に死んだら駄目なんです……。絶対ですよ……?」

 

「あぁ、誓うよ。」

 

「……分かり……ました……。」

 

 そう言うとアーニャは糸が切れたように倒れ込む、慌てて身体を支えて異常が無いかを確認するが……。

 

「ん……寝てるのか……?」

 

 すーすーと息を吐きながら眠っている、どうやら今までの疲れがドッと出たのだろう。それ程まで無理をさせていたようだ。

 

「ごめんな……そしてありがとう。」

 

 感謝してもしきれない、ここまで俺の為に懸命になってくれたのだ。その信頼に応えなくては。

 

「どうやら話は終わったようだな。」

 

 突然ドアの方から声がして驚きとともに振り返る、其処にはあの男が立っていた。

 

「ゴ……!ゴップ将軍!?」

 

「騒ぐな、フロイラインが起きてしまうだろうが。」

 

 騒ぐなと言う方が無茶だ、いきなり病室に連邦軍大将閣下が現れて驚かずにいられるか。

 

「君は相当なたらしだなアンダーセン少尉、あんな風に言われたら普通はプロポーズか何かと勘違いしてしまうぞ。」

 

「まさか……聞いてたんですか!?」

 

「勿論だろう、連邦軍大将だぞ私は。」

 

 いや、連邦軍大将は理由にならんだろう。勢いで納得しかけたけどさ……。

 

「君が目覚めたとドクターから連絡が入ったのでな、近くにいたので寄らせてもらったよ。」

 

「ゴップ将軍が前線近くまで何故……?」

 

「君達に用があった、と言うのは間違いではないが物のついでだな。コーウェン少将のキャリフォルニアベース攻略に対しての補給や支援の打ち合わせで近くまで来ていた。」

 

 コーウェン少将がキャリフォルニアベース攻略に参加しているのか……?確かゲームではオデッサ攻略のMS部隊の指揮官として参加していたと記憶してたが……いや、もう歴史の流れが変わっているんだ、原作のオデッサでは虎の子だったMS部隊も量産機開発が進んだ今では違うのだろう。

 

「君のことだ、目が覚めればすぐに戦いに戻ろうとすると思ってな。」

 

「引き止めに来たんですか?」

 

「まさか、そんなわけ無かろう。君が戦うと決めたとなるとフロイラインもまた戦線に戻る。そうなる前に『アレ』を渡しておこうと思っていたのだよ。」

 

「アレ?」

 

「君が馬鹿みたいに眠ってくれていたおかげで完成が間に合った新型機だ。General order Projectによる2機目の機体。GOP-002 フィルマメント、アンナ・フォン・エルデヴァッサー少佐専用機として開発させたものだ。」

 

「つまり……娘が心配だから新型機持って来たよ、みたいな親心ですか?」

 

「ふっ、そう訳されると否定は出来んがね。」

 

 俺達二人は少し笑い合い、そして再確認する。

 

「守ると誓ったなら守りきるのだぞ、その為の新型機だ。」

 

「分かっています、俺だって死ぬつもりはありません。」

 

 目指すべき未来の為に、まだこんな所で死んじゃいられない。俺の戦争はまだまだこれからなのだから。


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