機動戦士ガンダム 紺碧の空へ   作:黄昏仮面

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第24話 再び戦場へ

GOP-002 フィルマメント

 

 アンナ・フォン・エルデヴァッサー少佐専用機としてゴップ将軍の要請により開発された新型機、現在開発プランが提出されているジム・スナイパーカスタムの設計の一部を流用しメガセリオンのオプションパックとの連動も視野に入れたMSである。

 指揮官機としての機能を優先して通信アンテナの出力を向上させている、更にコクピット周辺の装甲の一部にルナ・チタニウムを使用し生存率の向上を図っている。

 兵装はメガセリオンの各種オプションパックが使用可能だがエルデヴァッサー少佐の得意とする狙撃能力を重視し現在試作テスト中であるR-4型ビームライフルを配備して実戦使用のテストと実用性の確認を行うものとする。

 また、混戦において狙撃装備は味方への誤射や敵接近による対処が困難な為専用のバイザーを装備し狙撃補佐をすると共に学習型コンピューターを搭載しAMCなどの精密動作の最適化を目指す。

 

 

 

「何というか過保護って感じのMSだな。」

 

 これでコアブロックシステムとか付いてたら完璧だったんだろうが流石にコスト的に無理だったんだろう、ここまでやれた事すら称賛だ。そもそもMSの量産が始まった時点でGOP計画なんてのは終わるかと思っていたが……どうやら指揮官機のテストプランとして前々から考案されていたらしい。実際はアーニャの為に生存率の高いMSを用意したかったのだろう、あの人の親心が見える。

 

「指揮官機としては破格の性能ではありますが……。」

 

「まぁこれで安心して戦えるって感じはするな、テストしてみるか?」

 

「えぇ、貴方のリハビリにも丁度良さそうですしね。」

 

 現在地は北米オーガスタ基地、病院を退院した俺はリハビリに励んでいた。思っていた以上に身体機能は低下しており今までは何ともなかった基礎訓練ですら息が上がりランニングもかなりの苦痛であった。幸いオーガスタ基地では新型のノーマルスーツを開発しているとの事でMS操縦時の負担はかなり軽減されているのが幸いか。

 さて、ヴァイスリッターの操縦を思い出すのにもこのアーニャとの模擬戦は有用だろう、新型機がどれだけやれるのかも見ものだ。

 

「よし……久々だなヴァイスリッター、ちゃんと動いてくれよ。」

 

 機体を起動させ、取り敢えず基本動作を確認する。流石にMSの操縦に関しては身体に染みついているからと言うのもあるが運転自体は問題ないようだ。問題があるとすれば戦闘機動時の負荷くらいか。

 

「それでは行きますよジェシー、無理があるようでしたらすぐに言ってくださいね。」

 

「了解、……行くぞ!」

 

 ブースターを起動させ一気に距離を詰める、それを見越してかアーニャのフィルマメントは後方へ移動し模擬弾を発射する。

 

「させるかっ……!」

 

 スラスターを使い左右を跳ねるように移動させ射線から外れるのだが少し違和感があった。

 

「反応速度が遅くなってる……?」

 

 ほんの誤差の範囲だろうが少し動きが鈍く感じた、とは言え戦闘に問題が出るレベルではないのでそのまま継戦する。離れていた距離を再び詰めて接近戦へ移行する。

 

「遠距離戦が得意なら懐さえ潜り込めれば!」

 

「甘いですよジェシー!」

 

 こちらが懐に入りマシンガンで狙いを付けた直後に、あろう事か逆に急接近しサーベルを構えてこちらに振りかざした。

 ピピピピピとアラームが鳴りモニターで撃破判定が下される。こちらのマシンガンの発射先はフィルマメントの急接近によりコクピット周辺という一番装甲が厚い所に集中した為こちらは撃破判定は下されず、俺の負けとなった。

 

「流石にやるなぁ、狙撃装備の機体だから近距離は苦手だと思っていたが。」

 

 よく考えるとジムスナイパー自体が狙撃もできる万能機体って位置付けだもんな、それが基になっているなら当然強い筈だよなぁ。

 

「やはり少しブランクがありますねジェシー、反応速度に少し鈍い所がありましたよ?」

 

「うーん……ヴァイスリッターって何か調整したか?少し挙動が遅く感じてさ。」

 

 思ったことを素直に伝える。寝ている間に弄られでもしていたらそれこそ実戦で命取りになるし。

 

「調整?日頃のメンテナンスなら整備士の皆さんがしてくれていますがOS周りや機体のポテンシャルを弄るような事はしていない筈ですが?」

 

「うーん、そうか……。」

 

 なら気のせいと言う事だろう。何せ一ヶ月ぶりの搭乗だ、何かしらおかしく感じてしまうのだろう。

 

「こちらの基地で調整してもらいますか?クロエ曹長では無いので細かな所は無理でしょうけど少しくらいなら何とかなる筈ですが。」

 

「いや、やめておこう。そんなに気になる事じゃないし何より勝手に機体を弄らせたってバレたら怒るぞあの人。」

 

 ヴァイスリッターはワンオフ機だけあってクロエ曹長専任みたいな所があり基本的に自分が関わっている状態で無いとメンテナンスはともかく機体調整なんかは許してくれないのだ。以前勝手に自分向けにOSを調整しようとしたら滅茶苦茶怒られた事がある、まぁあれは弄った結果機体の挙動がどうなるか分かって無かった俺にも原因はあるが。

 

「貴方が問題ないのでしたら良いですが、実戦までに気になる所は見てもらった方が良いと思いますよ?」

 

「あぁ、そうするよ。すまないがそれの確認も含めて後数戦手合わせしてもらえるか?」

 

 結局数回の模擬戦の中で思ったが機体にはそこまで問題は無かった、システムや姿勢制御に問題がある訳でもない。

 ただ少し違和感、と言うよりは痒いところに微妙に手が届かない感覚だ。これは恐らく最後に乗っていたのが陸戦型ガンダム、それもブルーディスティニーだったのが原因だろう。あの機体のポテンシャルはヴァイスリッターを上回っているから物足りなく感じてしまうのだろう。

 

「いっそリミッターを外し……いや、普通に怖いからやめておくか。」

 

 クロエ曹長特製のリミッターだ、一度解除したらあの人じゃないと再調整は難しいし何より勝手に解除したと知られたら雷が落ちるし……。

 

「ジェシー、貴方に問題が無ければ明後日の早朝から戦線に向けて移動を開始します。よろしいですか?」

 

「あぁ、早くみんなの所に戻りたいな。」

 

「えぇ、ですが先ずは身体を万全に整えてからですよ。情け無い姿を見せたらそれこそみんなが悲しみますからね?」

 

「分かってる、その為に一日空けてくれたんだろ?ノーマルスーツの調整と身体の方もちゃんと休めておくよ。」

 

 そして翌日に軽めの運動と最終調整を済ませたパイロットスーツでのヴァイスリッターの試運転をし、充分に身体を休めてから出発日に備えるのだった。

 

 

ーーー

 

 レビル将軍によるオデッサ攻略作戦に伴い、MS機動部隊によるキャリフォルニアベースへの牽制、或いは攻略に向けた二正面作戦が発令された。本命はオデッサ攻略の方であるのでこちらのキャリフォルニアベース攻略部隊はあくまで敵の援軍や別働隊の進軍を避ける為の行動となるが敵の情勢によっては本格的な攻撃も視野に入れている。

 オデッサ攻略部隊はレビル将軍を総大将にエルラン中将を補佐とした陸上戦力の大半を注ぎ込んだ編成だ。

 こちらのキャリフォルニアベース攻略部隊はゴップ将軍を総大将として、私……ジョン・コーウェンが率いる部隊となる。しかしゴップ将軍は武闘派では無く、後方支援が担当なので実質私が攻略部隊の要である。

 こちらもオデッサに負けず劣らずの戦力ではあるがキャリフォルニアベース攻略となると賭けになるレベルだ、なので戦線の見極めが非常に重要となる。

 

 敵兵の練度は高い、統率するガルマ大佐のカリスマもありジオンの兵達の士気はかなり高く投降より死を選ぶ者すらいる。それに加えてあの赤い彗星も援軍に来ていると言う情報もあるのだ、逆にこちら側の兵士はその事実に慄き士気が下がっている。

何か対抗手段は無いかと思案するが現状維持以外では特にやりようがない、どうせオデッサ攻略さえ上手く行けばジオンは地上での優位を失うのだ、無理にこちらから打って出る必要はない……時勢さえ変われば向こうから勝手に撤退して行くだろう、そう思っていた。

 

 

ーーー

 

「と、いう感じで敵は消極的な行動に留まると私は見ている。君はどう思うシャア?」

 

「同感だよガルマ、しかし君の考え通りだとすればオデッサは落ちると言うことだが?」

 

「マ・クベは良くやっているが連邦軍の物量は我々の何倍もある、時間稼ぎは出来ても一時的なものだ。何れは陥落するだろう。」

 

 いやはやと驚く、ここ最近のガルマは随分と多角的に物事を見るようになった、理由はやはり恋だろうか?ニューヤーク市長の娘と良い仲だと言っていたがそれが生粋の坊やだった彼を良い方に刺激したのだろう、ギレンやドズルと言った偉大な兄に対抗しようとしてか今迄の彼とは似ても似付かなくなった。

 

「だがどうする?このままだと我々もやがて宇宙に出戻る羽目になる、指を加えて見ている訳にも行かんだろう。」

 

「だからこそ、敵が油断している今が狙い目だ。強襲を仕掛けて敵の気勢を削ぐと同時に北米の地盤を固めておくんだ、幸いキャリフォルニアベースにはオデッサと違い採掘資源は無いものの軍事拠点としての価値は遥かに巨大だ、ここさえ死守出来ればオデッサ陥落後、各方面の残存兵力の集結地として希望を残す事ができる。そうした兵力を集めることが出来れば連邦とて迂闊に此方には手が出せなくなるだろう。宇宙だってドズル兄さんやキシリア姉さんの軍がいるんだ、此方に意識を集中させていては意外な所から攻撃されるかもしれないな。」

 

「流石は地球方面軍司令官ガルマ・ザビ大佐だな、親の七光りでは無かったと言うべきかな?」

 

「ははっ、今まで通りガルマで構わないよシャア。正直地球に来るまでは親の七光りだったさ、だが自分の目と耳で感じる機会が多くなったことが影響を与えたのかもしれない。」

 

 確かに地球という環境と頼る者がいない状況で本来眠っていた才能が目覚めたのかもしれない、そしてそれは私の復讐と言う宿願へどう影響を及ぼすのか……。

 

「この作戦にはキシリア姉さんの管轄しているフラナガン機関から出向しているパイロット達も参戦させる事にする、彼らはクルスト・モーゼスという裏切り者の研究者を探しているようだからな。流石にあれだけの敵だ、何処かに彼の所在を知っている者がいてもおかしくはあるまいさ。」

 

「フラナガン機関……確かニュータイプの研究をしている所だったか?」

 

 正直怪しげな研究所というイメージしか無い、父の提唱したニュータイプが人殺しの道具として見られていると言うのはあまり気分の良いものではなかった。

 

「正直ニュータイプという存在については懐疑的だが彼らの実力は保証するよ、こちらに配属されてからの彼らの戦績はずば抜けたものだからね。それがMSに乗って数ヶ月も経たないとくれば更に驚きだ。」

 

「君がそこまで言うとは……実力は本物と言うことかな?」

 

「兵達の中では赤い彗星に負けずとも劣らないかもしれないと噂も立っているぞ?」

 

 事実かどうかは別として手合わせくらいはしてみたいと純粋に思っている自分がいた、V作戦のMSと戦ってからというもの自分の腕が鈍っているのでは無いかと少し不安ではあった。相手がザクのマシンガンすら効果的ではない装甲だったとは言え数度の戦いで落としきれなかった事は単純に不満であったのだから。

 

「そうかも知れんな、今の私は連邦のMSすら落とせず地に落ちた彗星のようなものだ。」

 

「おいおい、冗談を真に受けるなんて君らしくも無いな。あの連邦のMSとの戦いのデータは見たが現在確認されているMSより遥かに性能が良かったのだから仕方ないだろう?あれが北米に降下していたら私はジオン十字勲章物だと喜んで討伐に向かっていただろうさ。」

 

 もしそうなっていたら私の悲願成就の為に犠牲になってもらっていただろう、彼が父の死の真相を何も知らなかったとしても私の復讐の炎が燃えていればザビ家と言うだけで万死に値するのだから……。

 だが今の私にはそれが少し惜しいと言う感情もまたあった、彼は唯一とも言える友人であるし、他のザビ家の人間とは違い謀略や他者を圧するやり方を嫌い真正面から行動を起こすタイプであった。

 それは以前なら坊やだと罵るレベルのものであったが今の彼はそのひたむきさに心を打たせるくらい真剣に物を考えている、それが周りの将兵や私にすら心強さというものを与えているのだから人の変革というものを見せつけられているような気持ちにさせてくれるのだ。

 

「だが残念ながら木馬と白いMS達はオデッサ方面に向かってしまっているからな、マ・クベのお手並み拝見と言ったところだな。」

 

「なら我々はこの戦線を突破して姉上や兄上の鼻を明かしてやるとするさ、協力してくれるな、シャア?」

 

「あぁ、勝利の栄光を君に。」

 

 そう言って互いにワイングラスで乾杯をする。各々の思惑が蠢きながら事態は刻一刻と変化していくのだった……。


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