「敵襲!敵襲ーーー!」
味方のそんな大声と共に駐屯地に警報が響き渡る、ミノフスキー粒子の濃度が高いのだから常に警戒は怠るなと言っていたのにこれだ。ウチの石頭の中尉が此処にいたら索敵を怠らず早期に敵を発見していただろうに。
「カルラさん、敵襲ですよ!」
「分かってるよグリム、アンタの準備は大丈夫なのかい?」
「はい、敵がいつ来ても良いようにオムツ持参で待機してましたから!」
ウチの部隊の面々は何というか生真面目なのが多い、隊長からしてそうだがシショーを始め機体で寝食を共にしたりどれだけコクピットで過ごせるかテストしたりと自分から苦行を重ねに行ってる姿は以前父と見た映画にいたシュケンシャというオボーサンを思い出した。
「アンタもシショー達に似てきたね!帰ったらシショー達に報告しといてやるよ!さっ目の前の敵を倒しに行くよ!」
「了解!」
味方に先駆けて前線へと移動する、少しでも時間を稼ぎ味方部隊の出撃の時間を稼がなければならない。その為にメガセリオンの兵装はそれを見越して普段から使い慣れている近接装備ではなく中距離向けの兵装に変えているのだ。
「グリム!3時方向にザクだよ!」
「分かりました!当たれぇ!」
グリムのメガセリオンのビームスプレーガンがザクに命中する、最近配備されたばかりの装備で射撃センスの良いグリムには中々合った装備だった。ザク程度なら一撃で仕留められる威力は見てて気持ちが良い。
「カルラさん!真正面に敵です!」
「あいよ!」
こちらもこちらでヒートサーベルからビームサーベルに武装が変更されている、正面のザクに勢いよく振りかざし一気に戦闘不能に持ち込んだ。
「第一波はこれだけかい!?司令部はさっさと現状報告と指示出してくれなきゃ困るってのに何してんだい!」
愚痴が溢れるが言っても仕方がない事だとは分かっている、しかしこのまま手をこまねいている暇はないのだから早急に指示くらい出してくれと苛つきながら敵の反応がないか索敵を続けた。
ーーー
「敵の奇襲だと!?」
「はい、第三駐屯地から援軍要請が入っています!ミノフスキー濃度が高く詳しい情報は不明です!」
「くそっ!」
思わずデスクを叩きつけた、敵の奇襲に備えが無かったとは言わないが一番層の薄い所を一番初めに的確に突いて来るとは少し相手を舐めすぎていたか。
「手筈通り第五、第六駐屯地から援軍を向かわせろ!本陣は現状維持だ、こちらもいつ敵が奇襲を仕掛けてくるか分からんぞ、警戒を厳にして敵を近寄らせるな!」
「了解です!」
この奇襲があくまで陽動なのは分かっている、だが本命を何処にぶつけてくる気だ……?この本陣を攻めるには相手もそれなりの兵を要するしこちらも精鋭で固めてあり防備は一番強固だ。だとすれば敵は何処を狙う……?
ーーー
「こちらの第一波はどうやら敵に勘付かれたようだな。」
ザク十数機による敵の防御の薄い陣地に対する奇襲攻撃、既に敵に対しては型落ちになっているザクとは言えある程度の戦果を見込んでいたが敵の方が一枚上手だったようだ。
「あぁ、だが計算の内さ。敵が浮き足立っている所を一気に攻め込むぞシャア。」
「まさか君も出るつもりかガルマ?」
「当たり前だろう。兵達が前線で戦っているのに後ろでのんびりと尻で椅子を磨いている程私は臆病ではない。」
「それは臆病では無いさガルマ、むしろ無闇に司令官が前線に立つことが蛮勇だ。君は下がって兵を鼓舞するだけで良いんだ。」
「しかし。」
「私が君の目となり耳となり腕となり足となる。そういう風に人を使う事もこれからは必要になるんだガルマ。もっと他人を頼るべきだ。」
自分でも何故こんな事を言っているのか少し理解に苦しんだ、前線へと押しやって敵に撃墜でもされてくれれば溜飲も下がる筈だと言うのに。
「分かった。シャア、君の判断に任せよう。だが私もガウから常に指揮は取る、君は前線の兵と連携して敵を叩くんだ。」
「了解した、当初の手筈通り連邦軍の中枢に挨拶をしてくるとしよう。彼らの準備は問題ないのか?」
「あぁ、クルスト・モーゼスの所在を知るチャンスだと言ったら是非赤い彗星のお供をさせてくれと言ってきたよ。」
「なら着いてきてもらうとしよう、君から頂いたグフの性能も試したいしな。」
機動性を重視したカスタム仕様のグフ、赤く染められたその機体はガルマから私にと送られたものだった。S型のザクも悪くはないがやはり陸戦用に拵えた機体は思いの外乗り心地がよい。
「アズナブル少佐、私はジェイソン・グレイ少尉です、あの有名な赤い彗星のお供が出来て光栄です。」
私の機体の隣に音も立てずに灰色の機体が寄り添う、どうやらガルマの言っていた事もあながち嘘では無さそうだ。ニュータイプという存在かはともかくとしてパイロットとしての腕前はベテラン相手でも引けを取らないだろう。
「君がキシリア様管轄のニュータイプ研究所のパイロットか、
「連邦がつけた渾名です、あまり良い気はしませんが……。それとこの2機のドムが私の僚機になります。名前はマルグリットとヘルミーナ、以後お見知りおきください。」
「よろしくお願いします。」「よろしくお願いします。」
無機質とも言えるくらい感情が篭っていない声をした少女が二人、フラナガン機関というのはこういう年端の行かない少女も研究の対象にし実戦に参加させているのか?
「驚いたな、この子達のような少女がドムを動かしているのか。」
「少佐達のようなベテランのパイロット達のデータがあればこそです、新兵の我々でも苦もなく操縦できるOSがあったからこそ戦えるのですから。」
「お世辞はやめてくれ、君達の実力はそれを差し引いても余りあるものだろう?まぁ良い、君達の探しているクルスト・モーゼスという男の情報を得るために今から敵陣へ奇襲を掛ける、着いてこい。」
スピードを上げて敵本陣へと向かう、ニュータイプと呼ばれる力が本物かどうか見極めさせてもらうとしよう。
ーーー
「おい!あの煙はなんだ!?」
ミデアで上空を移動中に味方陣地と思われる方角から黒煙が上がっているのを確認する。
「分かりませんよ!ミノフスキー粒子の濃度も高いんだ!通信だって拾えない!」
ミデアの操縦士からは碌な返事が返ってこなかった、だが何れにせよあの方角で戦闘が起こっていることは確かだ。それを察知したアーニャはミデアの操縦士に声をかける。
「敵との遭遇戦に突入している可能性があります、接近して味方の救援を行いましょう。」
「冗談はよしてくれ!もしも敵だったら狙い撃ちにされちまうよ!」
「ならメガセリオン用のジェットパックで降下します、可能な限りの接近をした後貴方達は空域を撤退してください。」
アーニャの指示で急ぎヴァイスリッターとフィルマメントにメガセリオン用のジェットパック換装の準備に移る、移動しながらの換装は整備士泣かせだがグダグダ言っていられない。もしも戦闘が始まっているのなら事態は一刻を争う状況になっている可能性もあるのだ。
「ジェシー、戦況がどうなっているかは分かりませんが半日前の最後の通信では戦地に於いては異常無しの報告が入っています。つまり戦闘行為が発生しているのであれば敵の強襲、或いは奇襲による突発的な攻撃である可能性が非常に高いです。」
「つまり戦場は混乱している可能性があるって事だろ?」
ミノフスキー粒子も戦闘濃度だ、通信すら取りにくい状況では指揮系統が混乱している可能性が高い。部隊レベルか個人レベルでの判断で動いている所も多い筈だ。
「えぇ、そんな状況で降下すれば下手をすれば仲間から撃たれる危険性もあります。それを認識しておいてください。」
目視で戦闘をする以上はっきりと仲間が判別出来なければIFFが味方機だと認識する前に撃たれる場合もある、それでもだ。
「だが仲間を守れるなら行かなきゃならないよな?」
「えぇ、貴方ならそう言うと思っていました。」
にこりと笑うアーニャ、そして真剣な眼差しになり。
「私も同じです、私達で助けられる命があるなら行かなければなりません。」
「エルデヴァッサー少佐!前方から更に爆発が起こりました!これはMSの爆発ですよ!」
あちこちから次々と火の手が上がっている、これはかなりの規模の戦闘が始まっているみたいだ。
「ジェットパックへの換装は!?」
「完了してます!いつでも発進できますよ!」
「機体へ急ぎましょう。」
「あぁ!」
俺達は急ぎ機体へと乗り込みに行く、どうか無事でいてくれ……みんな!
ーーー
「状況はどうなっている!」
「第二防衛ラインが突破されました!味方機からの通信では4機のMSが次々と味方を撃破しているとの事です!」
「たった4機のMSでだと……!?第二防衛ラインは12機からなるジムとメガセリオンで構成されているのだぞ!それが物の数分で突破されたと言うのか!?」
「味方からの通信更に入りました!て……敵の機体は赤……!赤い彗星だと思われます!それと灰色の3機のMSが確認されていると!」
灰色のMS……!ここ最近兵の間で噂話となっていた
「いかん!急ぎビッグ・トレーを後退させろ!敵を近寄らせるな!」
恐らくは精鋭による本陣の強襲が奴らの狙いだ、だとすると狙われているのは我々だ。他の駐屯地への攻撃は陽動……しかし此処で我々が討たれれば陽動から追撃戦に移り変わる、そうなれば我が軍は総崩れだ。それだけは避けねばならない。
「コーウェン少将!敵MSが此方に接近しています!」
「なんだと!?」
速い……速すぎる……!敵は此方のMSを相手にせず一気に此方まで駆け抜けて来ていると言うのか!?
「直掩機を呼び戻せ!取り付かれたら最後だぞ!」
「駄目です!間に合いません!」
馬鹿な……、そう思っていると前方に灰色のMSが3機此方を捉えていた。
「連邦軍の司令官だな、そちらに亡命したクルスト・モーゼスの居所を吐け。さもなくば殺すだけだ。」
クルスト・モーゼス……?あの博士の居所を探りにわざわざ奇襲を掛けたと言うのか……!舐めたことを……!
「答える気はない!貴様らジオンに情報を吐き出すほど我々は愚かではない!」
「ならば……死ねぇ!」
敵が射撃姿勢に入る、回避運動は間に合わない……こんなところで無様にやられると言うのか……!そう思った時、前方からメガ粒子の光がビッグ・トレーと敵機の間を焼き払う、敵は堪らず後退しこちらは何とか生きながらえる事ができた。
「なんだ!?何が起きた!」
「少将!飛行体接近!これは……可視光通信!み……味方からの援護射撃のようです!」
「何処の部隊だ!通信を読み上げろ!」
「第774独立機械化混成部隊、戦闘に参加す!繰り返します!第774独立機械化混成部隊、戦闘に参加す!」
それは、奇跡という他ないタイミングだった。