機動戦士ガンダム 紺碧の空へ   作:黄昏仮面

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第26話 北米戦線の激闘(中編)

「くっ……外しましたか。」

 

 ジェットパックでの降下の最中にアーニャのフィルマメントはあろう事か狙撃を敢行した、学習型コンピュータが環境データを取り込み現時点での狙撃の最適化を図ってくれたおかげで何とかビッグ・トレーには当たらずに済んだが見てるこっちは肝が冷えた。

 

「あれで充分牽制になった筈だ、アーニャ!次弾までの時間は!?」

 

「チャージまで後30秒です!ジェシー!貴方は先に降下して全力で時間稼ぎをしてください!」

 

「あぁ!味方が駆けつけてくれれば後は数で押せる筈だ、それまでは俺が何とかする!」

 

 しかし見えている敵はどれも通常とは違うカラーリングのしてある機体ばかり……しかも赤とくればシャアの可能性が高い、それに灰色のドムが2機とグフ……いやあれはイフリートか!?こちらもエース級かもしれない。

 

「私はギリギリまで上空から支援します……絶対に、絶対に死んだら駄目ですからね!」

 

「分かってるよ。大丈夫だ、やれるだけやってみるさ!」

 

 ジェットパックの出力を上げてビッグ・トレーへ向けて降下して行く、外付けのブースターのような物だから使い切りさえしなければ気兼ねなく飛ばせるのはかなり便利だ。幸い敵はこちらを正確に迎撃できる装備はないので一気に敵機まで駆け抜ける、そして着陸寸前にアーニャからの再度の射撃が敵機に向けて放たれた。これをチャンスだと感じた俺はジェットパックの切り離しに移る。

 

「ジェットパックにはこういう使い方もあるんだ!」

 

 ウッソくんよろしく切り離したジェットパックを敵機に向けて射出する、その後まだ推進剤の入っているジェットパックに対して射撃を行い大爆発を引き起こす。直撃には至らないがこれで敵は混乱した筈だ、メインスラスターでゆっくりと着地し辺りを見回して敵がどうなっているか確認することにした。

 

 

ーーー

 

「ええい!冗談ではない!」

 

 突飛な発想をしてくる敵だ、まさか装備を爆弾に見立てて攻撃してくるなど今まで戦ってきた敵からは想像もできない戦い方だ、それに上空からのビーム攻撃も油断できない、高高度から落下しながらの攻撃など精度は普通落ちる筈だが的確な位置に狙撃をしてくる厄介な相手だ。

 

「……そろそろ潮時ということか。」

 

 奇襲の醍醐味は如何に敵が混乱している最中に大きく痛手を与えられるかだ、しかし既に事態は敵に鎮静化させるだけの余裕を与えてしまっている。深追いすれば逆にこちらが痛手を負ってしまう危険性を孕んでいる。

 

「グレイ少尉、ここは一度撤退し態勢を整え直しガルマ大佐と連携して敵を叩く。……グレイ少尉?」

 

 応答が無い、直撃は受けていない筈だが……?

 

「見つけた……。」

 

「どうしたグレイ少尉、応答しろ。」

 

「見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけたァァァァァ!」

 

 異様とも言える叫び声が響き渡る、このザラッとするような感覚は殺意か……?

 

「アズナブル少佐、貴方は撤退を。お兄さん……いえ、グレイ少尉は前にいた部隊の人を殺した相手を見つけたみたいです。気持ち悪いくらいのプレッシャーを放っているので誰の声も届かないと思います。」

 

 マルグリットと呼ばれる少女がそう説明する、彼の経歴は知らないが仇を見つけて殺意が抑えられないと言うことか……私も人の事は言えないが。

 

「だからと言ってグレイ少尉を見捨てる訳には行かんな、退路を確保しておこう。君達は彼を連れて引き返せるか?」

 

「正直言って難しい、こんなグレイ初めて。だけど連れて帰る、死なせたくないもの。」

 

「最悪の場合気絶させてでも連れ帰らせます、少佐はガルマ大佐との合流を。」

 

 彼女らの言葉を信用するしかないようだ、私とて果たすべき目的を成し遂げる前に死ぬ訳にはいかない。彼には彼の復讐があるように私には私の復讐があるのだ。

 そう思っていた矢先、敵の白い機体が私目掛けて突撃をしてきた。

 

「ちぃ!やってくれる!」

 

ーーー

 

「うおぉぉぉぉ!」

 

 ヴァイスリッターの出力を全開にして赤いグフへと攻撃をかける、シャアかジョニー・ライデンか分からないが此処で逃す訳には行かない。普通なら倒せるとは思えないが全力を出して少しでも足止めさえ出来れば駆けつけてくる筈の味方と共に挟撃できる筈だ。それならエースと言えど多勢に無勢となり倒せる筈だ!

 

「頼む!何とか頑張ってくれよヴァイスリッター!」

 

 ヒートサーベル同士の鍔迫り合いをさせながらドムの射線にグフを入れるような形で移動する、これで攻撃に躊躇いが起きる筈……と思っていた。

 

「見つけたぞ白いMS!貴様がぁぁ!」

 

 いつの間にか灰色のイフリートがまるで幽霊のようにいきなり接近していた、慌ててスラスターを全開にし回避するがそれに動じずイフリートは更に追撃をかけてくる。

 

「隊長の!ブライアンの!仲間達の怨みを晴らしてやる!」

 

「っ!なんだ……!?この異様な感覚は!」

 

 まるでEXAMを起動させた時のような感覚だ、怒り……殺意……そんなドロドロした感情が俺の中に入ってくる。

 

「ジェシー!危ない!」

 

 降下が完了したアーニャのフィルマメントが援護射撃をしてくれた、先程とは違い安定した姿勢からの攻撃だ、これは回避出来ないだろうと思っていたが……。

 

「そんな攻撃が当たるかぁ!」

 

「なっ……!あの距離でビームを避けただと!?」

 

 イフリートはまるで攻撃がそこに来ると分かっていたかのように綺麗に避けた、こんな異次元の動きが出来るパイロットがいるなんて……まさか!?

 

「コイツ……ニュータイプか!?」

 

 予知めいた回避行動、それにこの異様な動きはエースパイロットの熟練の技とかそういうレベルではない。あり得るとしたらアムロやシャアみたいなニュータイプ能力を持った持ち主の可能性が高い。

 

「グレイ、援護する!」

 

 イフリートの隙を埋めるかのようにドムはこちらに攻撃を仕掛けてくる、ヤバイ……コイツら練度だけじゃなくてコンビネーションも上手いぞ……!

 ヴァイスリッターの出力を全開に保ったままこちらも回避に専念する、これじゃあ流石に時間稼ぎは難しいか……!?

 

「ジェシー!……やらせない!」

 

 アーニャのフィルマメントが狙撃から近接戦闘へとシフトし俺を援護する、こちらもコンビネーションだけならエースにだって劣るつもりはない。俺達だってMS運用当初からずっと戦術を練りながら戦ってきたのだ。

 

「アーニャ!コイツらの連携は完璧に近い、互いの隙を常に埋め合うように動いている!」

 

「このままではこちらが不利です!ビッグ・トレーから遠ざけるように森林地帯へ行きましょう!」

 

「了解だ!」

 

 相手を誘導させるように森林地帯へ移動を開始する、途中赤いグフがドムに促されるように戦線から離れて行くのを確認した。何とか足止めしたかったがそんな事を言ってられる状況じゃ無くなっている。

 

「逃げるんじゃない!俺と戦えぇ!」

 

「コイツ……しつこいぞ!」

 

 執拗にこちらを付け狙ってくるイフリート、まるで俺に対してだけ攻撃を仕掛けているみたいだ……いや実際にそうだ。ドムは俺達2機に攻撃を仕掛けてくるがこのイフリートはフィルマメントには一切攻撃してこない、回避だけは異質なレベルで行ってくるが。

 

「この……!」

 

段々と攻撃が捌き切れなくなってきた、直撃こそないものの小さなダメージが段々と蓄積されていく。

 

「ジェシー!そこで大きく後退を!」

 

「分かった!」

 

 ヴァイスリッターを一気に後方へ下がらせる、そこにフィルマメントのビームが森林を薙ぎ払って行く。木々は大きく倒れて行き敵の視界を崩していった。

 

ーーー

 

木々が次々と倒れ白い機体への道を塞いで行く、機体にダメージこそ無いものの敵が追えなくなった。

 

「クソっ!卑怯なことばかり……!」

 

「グレイ……!後退して!」

 

「アズナブル少佐からの指示です、一旦後退しましょうお兄さん。」

 

 ヘルミーナとマルグリットが後退を催促してくる、馬鹿な事を言うな!目の前にあの白い機体がいると言うのに。

 

「仇が目の前にいるのに下がれるか!」

 

「このままじゃ増援がやってきて敵討ちする前に倒されますよお兄さん、一旦後退してガルマ大佐達と再度攻撃した方が倒せるチャンスはあります。」

 

「ちぃ……っ!」

 

 悔しいが言ってる事は確かだ、だがせっかくのチャンスだと言うのにクルスト博士の居場所も白い機体を倒す事も出来ずに無様に引き下がるプライドが許さない。

 

「せめてあの白い機体を援護していたヤツだけでも!」

 

 白い機体は射線から外れたがあの狙撃機はまだ狙える、せめて一太刀浴びせてから撤退でも遅くはない筈だ。

 

「確かにあの機体をそのままにするのは危険ですね、行きますよヘルミーナ。」

 

「分かったわ姉さん。」

 

 俺達3機は一気に狙撃機へ接近する、遠距離戦に秀でていても接近戦ではこちらが有利だ!

 

 

ーーー

 

「アーニャ!下がるんだ、敵が近づいている!」

 

 俺はアーニャのお陰で敵の猛勢を避けられたが今度は逆にアーニャが狙われる事態になった、急いで駆けつけたいが薙ぎ払われた木々はこちらの行く手も遮っている為時間がかかる。

 

「速い……!」

 

 フィルマメントはビームライフルで攻撃を仕掛けるがその悉くが回避されて行く、急がないとアーニャが危険だ。だが今のままでは到底間に合わない!

 

「ヴァイスリッター!頼む……もっと早く!」

 

「こいつで終わりだ!」

 

 敵のイフリートが二刀のヒートサーベルでフィルマメントに連撃を仕掛けて行く、アーニャは何とかシールドとビームサーベルで防ごうとするが有効打が与えられず押されている。このままでは撃破されてしまう、そんな予感が俺の脳裏を過った。

 

「俺が……俺が守るんだ!」

 

 そうだ……初陣の時も、ブルーが暴走して重体になっていた時も、彼女は俺を守ってくれていた助けられていた。だからこそ今度は俺が守らなければ、その為の白き騎士のMS(ヴァイスリッター)なのだから。

 その瞬間、俺の意識は深く深く研ぎ澄まされヴァイスリッターに掛けられていたリミッターを解除すると共に封じられていた出力をフル稼働させて敵機へ迫って行った。

 

 

ーーー

 

「グレイ!避けて!」

 

 これで終わりだとコクピットへ向けてヒートサーベルを振り下ろした直後、ヘルミーナの声と共に異様なプレッシャーを感じ攻撃を中断し回避に移る。そこには先程まで姿形も見えなかったあの白いMSが俺目掛けて超スピードで攻撃を仕掛けていた、ヘルミーナの声に気付かなければ直撃を受けていただろう、

 

「やっとその気になったか!白いMS!」

 

 このまま纏めて沈めてやると脚部ミサイルを撃ち込むが奴は上空へ飛びマシンガンで此方に反撃をしてくる、それを回避しながらこちらもジャイアント・バズを構え放つ。上空であれば回避も困難だ、これで此方の勝ちだと思っていたら胸部にあるスラスターが各々違う方向へブーストしまるで捻り込むように機体はジャイアント・バズを回避した。

 

「コイツ……!さっきまでとは動きが違う!」

 

「お兄さん!もうダメです!撤退しましょう!」

 

 マルグリットからの再度の撤退要請、悔しいがここが限界か……白い奴もその仲間も打ち倒す事すら出来ず……!

 

「次こそ……次こそは絶対に殺してやる!」

 

 アズナブル少佐と合流する為、俺達は一斉にジャイアント・バズを発射し煙幕代わりにして後退していく。隊長達を殺してから更に成長していると言うのか……そう腹立たせながら悔しさだけが胸をこみ上げていた。


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