機動戦士ガンダム 紺碧の空へ   作:黄昏仮面

29 / 110
第28話 遠ざかる平和と一筋の光明

 

 コーウェン少将の衝撃的な発言から数日が経ち、この北米戦線にも詳しい情報がどんどん流れてきた。

 オデッサ戦線は大軍を有する連邦軍が圧倒し、有利な状況で進軍して行った。しかしエルラン中将がジオンに内通しており、それに呼応する形で味方である連邦軍に攻撃を仕掛けて戦線は混乱に陥った。更に敵はそれを追撃するような形で黒い三連星を投入、エルラン中将が率いていた方面の軍は壊滅的な打撃を受けるもホワイトベース隊の活躍により黒い三連星の『三人全員』を撃破、エルラン中将は撤退しジオンと合流するもオデッサ基地は盛り返した連邦軍により徐々に敗戦の色を帯びてきた。

 

 そして戦況が完全に連邦軍に傾くとオデッサ基地の司令官であるマ・クベ大佐は凶行に及んだ。

 『南極条約』に違反されている原水爆の使用違反を無視した水爆ミサイルを使用すると脅しを掛けてきたのだ、しかしレビル将軍は臆する事なく進撃を指示し、なおも攻撃を続けた。それがマ・クベの逆鱗に触れたのかは定かではないが彼は水爆ミサイルを発射してしまった。

 必死の迎撃も虚しく、ミサイルはレビル将軍のビッグ・トレーを巻き込む形で爆発を引き起こし彼を戦死に至らしめた。その後総大将を討ち取られた怨みを晴らすかのように連邦軍はオデッサ基地を制圧、しかしマ・クベ大佐は既に宇宙へ撤退した後だった。

 

 その後の宇宙に撤退出来ず取り残されたジオン地上軍もまた、問題を引き起こした。ジオンの欧州方面軍司令官であるユーリ・ケラーネ少将もまたアジア方面への撤退戦の最中に核兵器を使用したと報告が入ったのだ。捕虜にしたジオン兵は味方には気化爆弾だと言っていたと証言したようだがMSを蒸発させる程の熱量を持った攻撃だ、核攻撃で間違いないと判断されている。

 

 

 俺は報告書を見て大きく溜息を吐いた。最悪だ、最悪の事態だ。まさかレビル将軍がオデッサで戦死するとは夢にも思っていなかったのだ。しかし……ガンダムの歴史を知っていれば仕方のない出来事の積み重ねの結果だった。

 エルラン中将の裏切り、これは本来Gファイターの飛行訓練をしていたアムロとセイラがジオンの艦艇から連邦の艦艇へと帰還した偵察機を発見して露呈するって流れだった筈だが、今回ホワイトベース隊にはGファイターもそれに代用されるコアブースターも配備されていない。理由は簡単だ、補充する必要が無かった。パイロットは充分に足りているのだ。

 

 ホワイトベース隊の資料を提供してもらい中身を確認すると、ガンダム3号機に搭乗するアムロ・レイ、ガンダム2号機に搭乗するカイ・シデン、ガンキャノンに搭乗するハヤト・コバヤシ、そしてガンタンクに搭乗するリュウ・ホセイ。彼らの活躍は著しくオデッサ方面へ向かう迄に数々の敵を討ち倒していた。兵の欠員もなく新たにMSを配備する必要性もなかった。

 

「そもそも……ランバ・ラルとも戦っていないんだからなぁ……。」

 

 ガルマが死んでいないので、仇討ちの為にランバ・ラル隊が派遣されている事もない。つまり誰も犠牲になる要因が無かったのだ。セイラさんも戦う必要性がないから出撃させてもらえないだろう。

 報告書にも書いてある「黒い三連星全員の撃破」も頭を捻らせる要因だ、これはつまり補給にマチルダさんが行っていないからと言うのとそもそも黒い三連星達もホワイトベース隊を脅威と認識していなかったからと言うのもあるだろう、原作と違い名のある人間を撃破している訳ではないのでマ・クベから脅威認定されていなかったのかもしれない。彼らはオデッサ戦線でホワイトベース隊と激突、アムロとカイのコンビネーションで何とか倒す事が出来たようだが流石にエース相手に全くの無傷とは行かず、かなりの損傷をしたようだ。

 

それが遠因となり核ミサイルの撃破が出来なかったという事か……いや、そもそもエルランの裏切りを阻止できなかった時点でそれに対応しなければならないから余力がそもそも無かったのだろう。どちらにせよこの事態は原作を知る人間からしたら最悪の状況に陥っていた。

 

「どうなるんだ……これから……。」

 

 北米戦線のガルマ率いるジオン兵は撤退して行った、理由は分からないが恐らく報復攻撃を恐れての撤退だろう。ジオンが南極条約を無視して核兵器を使用したとなれば此方もまた同じように核兵器が使用出来るのだ。血で血を洗う泥沼の戦いになって行くことは止められないだろう……。

 これじゃあガンダムSEEDの終盤と同じだ、撃たれたから撃ち返し、殺されたから殺して、そうやって最後の最後には誰もいなくなってしまう。

 

「俺が……俺が余計な事をしなければ……。」

 

 結局の話、俺が史実とは違う事をした結果がこういう悲劇に繋がったのではないか?MS量産が早まり史実よりも早く物事が進み、その結果ホワイトベース隊の進路も彼らの成長具合も変わり原作通り不発に終わらせる事が……。

 それにレビル将軍の戦死が物凄くショックだ、連邦軍最大の良心でありホワイトベース隊への理解も高く、俺の中でも未来を変えられるなら彼を生存させ未来を変えるというビジョンがあったのでよりにもよって史実より先に死なせる事になったのは俺が遠因だろう。

 

「いや……、もう考えてもどうしようもないか。」

 

 最早事実として起こっていることは変えようが無い、今はこの先どうして行くかだが……。

 

「……アーニャの所へ行こう。」

 

 俺一人で考えていても仕方がない、未来を見つめる意志の強さは彼女の方があるし少しでも彼女の力にならなければ。

 

 

 

「アーニャ、今大丈夫か?」

 

「ジェシーですか?どうぞ。」

 

 駐屯地で割り当てられた宿舎のアーニャの部屋に入る、色々な書面と資料が乱雑に置かれており彼女もまた色々と考えているのが窺えた。

 

「軍部は大混乱だろうな。」

 

「えぇ、オデッサ方面軍は再編や戦後処理で当分まともに機能はしないでしょうね。レビル将軍やエルラン将軍がいなくなって指揮を取るべき人間が殆どいなくなってしまっては軍隊として成り立ちませんから。」

 

「それもあるがジオンの核攻撃もだろ、南極条約に違反してしまっては条約は意味を為さなくなる。報復もあり得るんだろ?」

 

 これが一番の懸念だ、互いに戦略兵器の使用が解禁されれば犠牲は今迄の比では無くなる。

 

「少なくても連邦軍が報復で戦略兵器を使用する事は恐らくありませんよジェシー。」

 

「……?どうしてだ?」

 

「この戦争の後の問題ですよ、幾らジオンが南極条約に違反したとは言え我々が同じ土俵に立ち、同じような事をすれば戦後に待っているのは市民からの批判です。地球で核兵器を連邦軍が使用したとなれば地球市民からの反発は防げませんし、環境汚染も甚大になり人が住めないような土地が幾つも出来てしまいます。そうなれば地球連邦軍の存在を疎む者すら出てきてしまうでしょう?」

 

 言われてみると確かにそうか、オデッサは幾ら被害甚大とは言っても奪還は出来ているので地上でのジオンのアドバンテージはこの北米戦線以外は最早殆ど無い、それにもう無駄に重力戦線を維持していても仕方がないし早々に宇宙へ上がって行くだろう。そんな中で無理に地上で大量破壊兵器を使用してもあまりメリットは無いのか。

 

「だけど宇宙では?敵拠点を攻撃するのに戦術核なんかは有効だろう?」

 

「確かにそうです、ソロモンやア・バオア・クー攻略に使用出来れば少ない犠牲で攻略出来るでしょう。しかし他サイドのスペースノイドの人間は地球連邦軍に少しでも反抗すれば我々のサイドにも核攻撃してくるかもしれない、という恐怖感を与えてしまいます。それは反乱を孕むものですから第二、第三のジオンを産んでしまう可能性もあります。なので連邦軍は不用意にはそう言った兵器の使用は控えるでしょうね。抑止力として誇示する分には良いですが、私自身もその使用を良しとする様な風潮にはしたくありませんね。」

 

 アーニャの言も尤もだ、だがそれは地球連邦軍の側の意見であるし何より強行派がもしも使用を容認すれば……?それに……。

 

「だがアーニャ、ジオンはもう二発も核兵器を使用しているんだ。連中はそれこそ使用を容認して行くんじゃないか?」

 

「そうですね……。そもそもジオン軍……、いえザビ家の人間自体が軍閥としてバラバラに動いているという側面があります。ギレン・ザビとキシリア・ザビは不仲だと聞きますし、何より本来デギン公王が指導者で在らねばいけませんがその執政は殆どギレン・ザビによる物です。つまり指揮系統というものがザビ家内ですら一本化されていません。なのでそれぞれの派閥が独自で使用すると行った局面すら起こり得る……それが心配です。」

 

 ジオン軍の指揮系統はそれこそ軍事に覚えがあれば理解できない部分も多い、ギレンの統括する総帥府、ドズルの指揮する宇宙攻撃軍、キシリアの指揮する突撃機動軍、そしてガルマの統率する地球方面軍。これらはそれぞれのザビ家が指揮してるかと思えば地球方面軍はキシリアの息のかかった部隊が多く実際はキシリア麾下の軍だ。まぁガルマ自体階級が大佐なので将校の多い地球方面軍で彼の影響力が通じるのは北米地域くらいだと言うのもあるが。

 そして兄弟と言ってもそれぞれがそれぞれを嫌っているのか連携が取れていない部分も多い、ソロモン戦ではMSを寄越せと言っていたドズルに対してギレンはビグザムしか送らなかったり、突撃機動軍もまた援軍が送らず……いやこれはドズルが拒否したのもあるが私情のせいで結果的に敗北し最終的に敗戦するハメになっている。

 

 だからこそ、各々の連携が取れていなければそれぞれの意志で使用しかねないと言う可能性が出来てしまう。ポケ戦でも現場判断で使用していたし何が起きてもおかしくないのがジオンだ。

 

「アーニャはどうするべきだと思う?」

 

「早期に制宙権を取り戻し、サイド3攻略を以てジオン軍を制圧……これが一番理想的ではありますが難しい問題ですね。」

 

「地上にはまだキャリフォルニアベースがあるしな……オデッサに引けを取らない軍勢がいる中じゃ地上軍が簡単宇宙に行ける状況じゃないし先ずはキャリフォルニアベースを何としても攻略しなければ……って感じか。だけどその間に宇宙からジオンが戦略兵器を使用して来たら……。」

 

「はい、それだけが懸念ですね……。」

 

 この状況下でどれだけ犠牲を出さずに終戦へ持ち込めるか、考えてもあまり明るい展望が見えないのが厄介だ。平和な未来からどんどん遠ざかっていないか心配になってしまう。

 二人して暗くなっている中、宿舎に兵が大慌てでやってきた。

 

「アンナ・フォン・エルデヴァッサー少佐!コーウェン少将から緊急の連絡です!」

 

 なんだ!?まさかまた何処かで核兵器が使用されたか……或いは使用したかが起きてしまったのか!?兵の形相はかなり緊迫している。

 

「何が起こったのですか!?」

 

 アーニャもまたそう推測したのか慌てた様子だ、俺もゴクリと息を飲み報告の内容を待つ。

 

「ジオン公国地球方面軍司令ガルマ・ザビ大佐が、ジオン・ズム・ダイクンの子息であるキャスバル・レム・ダイクンを擁立し、北米ネオ・ジオンと名乗りキャリフォルニアベースで挙兵しました!」

 

「なん……だと……?」

 

 はっきり言って全く予想していない出来事、と言うか何故ガルマがキャスバルを……!?混迷を極める状況の中、更にこの戦争の行く末を予想出来なくさせる展開になってしまい俺にはもう何が何だかよく分からなくなってきた。

 だがもしも……もしもこの挙兵が何か変わるきっかけになってくれればと、そう期待せずにはいられなかった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。