機動戦士ガンダム 紺碧の空へ   作:黄昏仮面

3 / 110
第02話 ジャブローの誓い②

 あの後アーニャとの少しの雑談を経て、ゴップ将軍の指定した時間が近づいてきたので二人でオフィスへと向かう。流石に大将クラスのオフィスとなると防諜の面もあるのか結構な広さだ。

 

「さて、ここなら誰も耳を挟む事はない。先程の続きと行きたいところだが……アンダーセン少尉、本当に先程の言葉に二言は無いのだね?」

 

「はい!」

 

「ふぅ……どうやら諦めさせるのはやはり無理の様だな。まぁ良い、今から話すのは部隊を作るに辺り色々と条件がある、それを確認してもらう為だ。」

 

「具体的にはどのような内容なのですか?ゴップ叔父さ…いえゴップ将軍。」

 

「ここには私達三人しかいない、いつもの呼び方で構わないよフロイライン。」

 

 そこには先程の威圧的な軍人のオーラから、逆にホントに親戚の叔父さんレベルくらいのほほんとしたオーラに変わった将軍がいた。なんだかんだでこの人結構優しいんだよな。

 

「まず、君達はMS運用のテスト部隊を率いる訳だが……これは機密情報だが既にレビルらのV作戦が始まる以前から計画されていたRX計画を始め鹵獲したザクを用いて敵を撹乱する部隊など小規模ながら運用データは集まってきてはいる。」

 

「しかし叔父様、データは多ければ多いほど内容が濃ければ濃いほど意味を成します。」

 

「その通りだ、RX計画にせよ鹵獲したザクにせよ未だ模擬戦や小規模な遭遇戦くらいのデータしか取れておらん。レビルらの現在の課題もそれだ、基本的なOSから機体の操縦系、駆動系、それらのデータが全く無い状態からのスタートなのだからな。」

 

 確かに連邦が幾ら物量に優れているとはいえMS開発の視点ではジオンの方に一日の長がある、原作ですら一部性能の面では一年戦争中ジオンが終始優れていたのだから。

 ただパイロットが最終的に学徒兵まで動員させてるから使い熟すパイロットに恵まれなかった機体も多かったのだけど。

 まぁ局地的過ぎる誰得ゲテモノMSやMAも多かったがそれでもその後のMS開発史に与えた影響は計り知れない。

 

「つまりだ、レビルらより先んじてそれらのデータを集める事が出来ればV作戦に関わっていない私もそれなりの発言力を持つ事ができる。言いたいことは分かるかね?」

 

「叔父様に対して、少なくない情報を提供せよ。と言うことでしょう?」

 

「勿論タダでとは言わんさ、可能な限りの支援と行動の自由を与えるし君達の部隊で蓄積されたデータが整えば新型のMSも優先的に回すように配慮する。」

 

 つまり今後の軍閥政治をする為の材料として部隊のデータを回せと言っているんだろう。

 本来ゴップ将軍はV作戦とかMS開発計画とは無縁の後方支援で活躍する内政タイプの人間だ、だから必然的にこう言った軍政面での優位性はレビル将軍やティアンム提督らと比べ少ないだろう。

 なので手元に自分達のような部隊を置いておけば結果次第では自身の発言力を更に高める事ができる、少なくとも遅れを取る事はないだろう。

 

「とても素晴らしい条件ですが……運用データのみでこの条件とは思えません。勿論叔父様の善意だけでは無いのでしょう?」

 

「当然だ、運用データは優先的に私に回される事になるがレビルらの顔も立たなければならん。よって君らの部隊での活動は基本的に公式な記録としては残せん、そこを承知してもらいたい。」

 

「えっ?なんで記録が残せないんです?」

 

 二人の真剣な話し合いの中で俺の素っ頓狂な声が混じる、戦っても正式な記録に残さないって言うのはイマイチ理解できない。

 

「政治的な駆け引きだよアンダーセン少尉、ただでさえ軍部はMSの不要有要で揉めているのに此処で不要論派の私が後ろ盾をして部隊を率いていたらレビルやティアンムらに無駄に反感を買いかねん。レビルらの顔を立てて公式的なMS同士の戦闘や戦闘データなどの成果はV作戦のMSどもに譲らねばならんのだよ。」

 

「しかし影の引き立て役としてゴップ閥の部隊のデータが活かされた……そう言うシナリオを御所望なのでしょう叔父様は?」

 

「成る程、自分達はレビル将軍達の縁の下の力持ちとして活躍しろという訳ですか。」

 

 譲る所は譲るが根は張って無碍にはさせないってことか、軍事面ではからきしというイメージがあったが流石は内政屋だ、こう言った面ではラスボス感すら彷彿させる。

 

「それも、君らの活躍の如何次第だがね。フロイライン、勝算あってのお願いだったのだろう?」

 

「勿論です、と言っても最初の数戦だけは命を賭けた大博打となると思いますが死ぬつもりはありません。」

 

 引き込まれるような真剣な眼差しをゴップ将軍に向けるアーニャ、それにゴップ将軍も大きく頷く。

 

「雛鳥のようだと思っていた少女もいつの間にやら親に似た獅子となっていたか。良かろう、君は君の描く未来の為に動きたまえ。私は君を利用するが君も私を利用し互いにより良い未来を歩もうではないか。」

 

「そうですね、私が描きたい未来の為に……。」

 

「部隊編成についてはこれで一通りの説明は済んだ。今後は独立部隊としてエルデヴァッサー少佐の指揮の下で独自のデータ収集と実戦データの確保に努めてもらう。先程も言ったが支援は可能な限りする、君達は連邦軍を勝利に導く為に惜しみ無く努力したまえ。……さて、ここからは少しプライベートな話をしよう。」

 

 そう言うと将軍は俺の方に顔を向けて話しかける。

 

「アンダーセン少尉、彼女は私の古くからの友人の娘だ。こうやって私の事を叔父と慕ってくれているし私自身も娘はいないが娘のように接してきた。だから本来は戦場になどに投じたくは無いし今からでも国へ帰って家を継いでもらいたいくらいなのだよ。」

 

 それは真に娘の身を案じる父親のそれだった、確かに年端も行かない15の少女なのだから如何に少佐という階級だろうと戦場に行かせたくないと言うのは常識的にそう思うのが普通だろう。

 

「しかし君の一言で彼女の運命は決まった、生きようが死のうがこの戦争中はずっと戦場とは無縁ではいられん。君がどう言った思惑で動いたかは知らんが彼女に付いて行くと決めたのならその覚悟を見定めさせて貰わねばならんのだよ。」

 

 そういうと彼はオフィスに飾られていた軍刀を手に取った。あれ?もしかして俺切り捨てられたりします?

 

「ん?驚かせたかね?何切り捨てる為に使うものではないよ。彼女の家柄は知っているだろう、宇宙世紀以前から続く貴族の名門だ。それに倣う訳ではないが中世では主君と定めた者に騎士が忠誠を誓う儀式があってな、それを見真似ではあるが君にもしてもらう。」

 

 そう言いながら軍刀を俺に渡してくる。

 中世の騎士?というと刀身を当てて誓約か何かするやつだっけ?漫画とかアニメでは偶に見る程度なので詳しくは知らないのだが俺にそれをしろと?

 

「アンナ・フォン・エルデヴァッサー 。彼に君の名誉と誇りを傷つけぬこと、そして君の剣となり盾となるということを誓わせたまえ。」

 

「叔父様……そのような前時代の習わしは彼に失礼では……。」

 

「親心というものだ、これくらい誓わせないと私も安心も出来んというものだ。」

 

「……分かりました、ごめんなさいジェシー。」

 

「いや、構わないさ。逆にそこまでの覚悟もないのに君と歩むなんて言うのは君にも将軍にも失礼だし男が廃るってもんさ。」

 

 俺はそういうと彼女の前で跪き頭を垂れる、確かこんな感じだった気がする。

 間違っていなければだが……まあ見真似と言っていたし正式な儀礼ではないから大丈夫な筈……だよな?

 

「それでは……コホン、私もこう言ったことは初めてですので上手くできるか分かりませんがよろしくお願いします。」

 

 俺は彼女に軍刀を差し出して、彼女は刀身を抜いた。

 刀身を平にして俺の肩に刃が触れる。

 

「汝、我が名誉と誇りを穢すことなく、我に偽りなき忠誠を誓えますか?」

 

「誓います。」

 

「汝、我が剣となって敵を討ち、また盾となり我が身を護ると誓えますか?」

 

「誓います。」

 

「よろしい、汝を我が騎士と任命します。」

 

 ふぅ、と彼女は息を吐き軍刀を俺に返す。流石は貴族と言うか少女ながら貫禄のある振る舞いであった。

 

「あの、こういうの俺全く分からないんですが問題無かったですか将軍?」

 

「ん?あぁ構わないよこうしてカメラに収められさえすればね。」

 

 その発言に俺とアーニャから「え?」と言う言葉が同時に発せられた、ふとゴップ将軍を見ると手にビデオカメラを構えている。

 

「お、お……!叔父様!?なんですかそれは!?」

 

「何って……ビデオカメラを知らないのかね?」

 

「そう言うわけではございません!」

 

 顔を真っ赤にしてアーニャは将軍に怒鳴るように叫ぶ、こっちもこっちでそれっぽくしてたとはいえかなり恥ずかしい思いをしてたので顔に熱を帯びてるのが分かる。

 

「まさか……!ビデオに収めたとは言いませんよね!?」

 

「ハハハ勿論バッチリにな、うむうむもしも結婚などする事があれば披露宴にこの動画を出すのも有りかもしれんな。」

 

「け……!結婚なんてまだ考えてません!今日知り合ったばかりですのに!」

 

「おや?別に私はアンダーセン少尉との結婚式に使うなどとは言ってないぞ?二人のどちらかが結婚した時にというニュアンスだったのだが、ハハハ少尉よフロイラインも満更ではないみたいだぞ。」

 

「ちょ!俺に振らないでくださいよ将軍!」

 

 隣を見るとアーニャの顔は更に茹でたタコみたいになってしまっている、将軍は将軍でさっきまでの温厚なパパみたいなノリから近所のノリの良いオッサンみたいになってしまってるし。

 

「アンダーセンの倅よ、もしこの子が傷物になったら私が地の果てでも追って罰を与えるからな?覚悟を持って務めるんだぞ?」

 

「現在進行形で貴方に傷物にされているような気がするんですが……。」

 

 腕を上げて「消してください!消してくださいー!」と言ってるアーニャと、更に上に腕を突き上げビデオカメラを手放さないゴップ将軍、そんな絵面に俺は笑うしかなかった。

 

「笑ってる場合ですか!?」

 

 こうして後に『ジャブローの誓い』と呼ばれ生涯破られる事のなかった二人の約束が交わさられたのだった。




導入回終了です、次回から戦闘回になりますが戦闘描写やMSの設定なと色々細かいミスが目立ってくると思うので生暖かく見て頂けると助かります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。