ガルマとランバ・ラルとの打ち合わせを済ませて、キャリフォルニアベース内の広場へ集められるだけの兵士達を招集する。その他に直轄の基地と前線で待機している艦艇へ通信チャンネルを回して北米戦線の可能な限りの部隊へ周知させる手筈を整えさせた。これで決起の準備は万全である。
広域通信を用いる都合上、連邦軍に傍受されてしまう可能性もあるが逆に傍受してくれた方が都合が良い。我らの決起がいち早く知られればそれは連邦軍が交渉の余地を考えるだけの時間が増えるからだ。
広場には数万からなる軍人が集結している、列を乱さず待機している彼らの姿にガルマの指揮が行き届いている事を再確認できた、この内のどれだけの数が我々に付き従うか……。
「行こう、キャスバル。」
「あぁ。」
ガルマと共に壇上へ上がる、兵はガルマの横にいる私が何者であるのか分からず困惑している者もいた。仮面が無ければ誰か分からぬと言うのもそれはそれで滑稽なものだ。そしてガルマが静かに、はっきりと喋り出した。
「みんな、楽にしてくれ。本日此処に集まって貰ったのは、既に知っている者もいるだろうがオデッサ基地が陥落したと言うこと。そしてその防衛戦において、南極条約違反の核ミサイルを我々ジオン公国の側が使用したと言うことについてだ。」
兵達の間でざわめきが起こる、オデッサ陥落は知っていても核ミサイルの使用については知らなかったと言った反応が散見された。南極条約にも違反していると言った事実からその困惑は大きな物だった。
「このオデッサ基地での核ミサイルの使用は、マ・クベ大佐の独断なのか、或いはギレン総帥やキシリア少将の指示によるものかは分からない。だが一つ言えることは、地上に残された我々の事を考えずに発射を強行したと言う事実があると言う事だ。条約に違反して核ミサイルを使用したとなれば、連邦軍もまた条約を律儀に守る必要性も無くなり、戦略兵器の使用を厭わなくなるのは明白だ。そうなれば公国が制宙権を握っている宇宙はまだしも、地上に残された我々はなす術もない。それは諸君らにも理解できる筈だ。」
ガルマの声に静かに頷く兵士達、ガルマは続けて喋りだす。
「現在我々はこのキャリフォルニアベースを掌握してはいる、だが仮に連邦軍が戦略兵器の使用を躊躇わなければ幾らこの基地が強固な物であろうと、兵力を持っていたとしても容易に殲滅させられてしまうだろう。そして、そのタイミングはいつ起こっても最早おかしくはないのだ。」
ざわざわと兵達が焦りを見せ始めた、仕方のない事だろう。現状は既に何処かの核ミサイルの発射基地からいつボタンが押されてもおかしくはない状況なのだ。スペースノイド憎しと暴走した指揮官が一人でもいれば此処がいつ焦土となっても不思議ではない。そんな身に立たされれば誰でも死は恐ろしいものだ。
「みんな落ち着いてくれ、君達の恐怖も分かる。だが幾ら焦っても我らには最早どうすることも出来ない。この戦線にいる兵を宇宙へ戻すと言っても現存しているHLVなどでは数が足りず、また本国からの帰還支援もままならない、かと言って此処から逃げ出せるかと言えばそれも難しい、連邦軍は我々を簡単には許してはくれないだろう。」
「じゃあ!俺たちはどうすれば良いんですか!?」
堪らず声を上げる兵士、上司と思われる者が押さえつけようとするがガルマはそれを止めた。
「待ちたまえ!彼の意見は尤もだ、私も不安を煽り過ぎた、どうか許して欲しい。」
一兵士を前に頭を下げるガルマの姿に兵士達は「やめてください!」と止めに入る、最高司令官が一兵卒に頭を下げるという事態は今まで有りもしなかった事だ。
「私も諸君らも同じ状況だ、ギレン総帥らは私だけでも宇宙へ帰還せよと言って来たが、寝食を共にし同じ戦場で戦ってきた勇士である君達を見捨て宇宙へ帰る事など言語道断であると私は思う!それに、スペースノイド独立の為に戦ってきた諸君らを見捨てて、どう独立を掴み取ろうと言うのだ!そうしなければ掴み取れないという国であるのなら私はザビ家を……いやジオン公国を捨てても構わない!」
場内は異常なざわめきを見せ始めた、クーデターと取られてもおかしくはない発言をしているのだ、当たり前の反応だろう。
「真のスペースノイド独立とは、兄上らのように兵を死地に立たせ犠牲にさせた先に指導者が掴み取るものではない。スペースノイドである我々一人一人が戦い抜いて生き残った先に掴み取るものだ!そうだろう!」
「そうだ……!ガルマ様の言う通りだ!」
大きな歓声が上がる、彼の演説もギレンに負けず劣らずのものだ。いや元来のカリスマも考えれば兄以上の才能を秘めているかもしれない……。
「私は今、この地においてギレン総帥……いやザビ家率いるジオン公国からの独立を宣言したいと思っている!だが知っての通り、私自身もザビ家の男だ。君達の中には私を信頼し切れない者も出てくるだろう。だからこそ、今此処でスペースノイドの……我々の代表となってくれる者を紹介させて欲しい!」
そう言ってガルマは私の方に眼を向ける、私は頷くとガルマに代わり壇上でマイクを握る。
「兵の中には、今喋っている私の声に聞き覚えのある者もいるでしょう。こうやって素顔を見せる事は今まで無かったので、誰だと思う者もいる筈です。私はシャア・アズナブル、今まではそう呼ばれていた人間です。」
「シャアって……あの赤い彗星の!?」
「病気か何かで仮面を付けていたんじゃなかったのか!?」
「そう、何故この場面で私が仮面を外しているのか……それは偽りの名前と偽りの姿を捨てて、貴方達と共に歩む事を決めたからであります。私は今までシャア・アズナブルと呼ばれていましたが本当の名前は別にあるのです。私の本当の名前はキャスバル・レム・ダイクン、今は亡きジオン・ズム・ダイクンの息子なのです。」
場内は先程よりもざわつきを見せる、まさかこの場面でダイクンの遺児が出てくるとは誰も夢には思わなかっただろう。
「驚いた方も大勢いると思います。父がザビ家に暗殺され、残された私と妹はある場所で隠れて暮らしていました。しかし大きくなるに連れてザビ家への復讐心が抑え切れなくなり、私はシャア・アズナブルと言う名を騙り公国軍に入りザビ家への復讐を誓って戦ってきました。しかしこの重力戦線を戦う中で本来復讐を果たすべき相手であるガルマ大佐が如何に兵を思いやり、そしてまたスペースノイド独立の為に戦う貴方達兵士の姿を見て、私の復讐心という物は薄れて行き未来の為に戦うべきだと気づいたのです。」
「シャア……いや、キャスバルはジオン・ズム・ダイクンの精神を継ぐ者として、この重力戦線に取り残された我々の力になってくれると言っている。兵力の都合上、連邦軍との講話が必要不可欠となりそれをアースノイドへの屈服と思う者もいるだろう。だが我々の真の目的はギレン総帥らとは違う真のスペースノイド独立の為の活動である!その為に早期の連邦軍と講話は重要なものである、諸君らにはそれを納得してもらいたい。」
「我らの意志に賛同してくれる者はこのまま残ってくれると有り難いですが、中には本国に家族を残している者や本国の意志に追従したいと思う者がいると思います。そう言った方々には現存のHLVとザンジバル級で本国へ戻ってもらいたいと思っています。強制はしません、1日の猶予を与えますのでどうか自分の意志で判断をお願いしてもらいたい。」
深々と頭を下げる私とガルマ、その直後大きく歓声が湧き上がる。
「俺達はキャスバル様やガルマ様に付いていくぞ!どうせ本国の連中は俺達を見捨てたんだ!今更どんな気持ちで本国に戻れってんだ!」
「キャスバル万歳!ガルマ万歳!」
喜ぶべきか批判的な言葉は全く無かった、感慨深く兵達をガルマと共に眺めているとランバ・ラルが声を掛けてきた。
「御立派でしたぞ御二方とも、このランバ感激の極みにありました。」
「だが我々はまだスタートラインに立ったばかりだ。明日にならねばどうなるか。」
「この将兵の歓声をご覧になって何をおっしゃいますか、多少の離脱はあろうと成功致しますとも。」
「後は地球連邦軍の動きとジオン本国の動き次第と言った所だな、厳しい立場に立たせられるだろうが共に頑張ろうキャスバル。」
「あぁ、スペースノイドの未来の為に。」
お互い強く手を握り合い、これからの未来に思いを馳せた。
ーーー
『今此処に!我々はジオン公国からの独立を宣言し、北米ネオ・ジオンの樹立を宣言する!』
モニターに写されている映像からはシャア……いや、キャスバルの演説が流れていた。どんな経緯かは知らないがガルマに復讐する事なく手を結ぶという展開は見た事が無かったがシャアも本編中にガルマを殺した事を悔やんでいたし友情自体はあったのだから何かが変わった事でこういう結果を産んだのだろう。
「しっかしまぁ、ジオンと北米ネオ・ジオンって言われても違いが分かりゃしませんよシショー。」
現在俺達第774独立機械化混成部隊はクロエ曹長のミデアと合流し、ジュネット中尉も原隊復帰した事で久々に全員が揃っていた。
「一兵卒にはジオンの分派が出来たくらいの認識で良いと思うぞララサーバル軍曹。ただ上層部やらは大騒ぎだろうな今頃。」
「叔父様を始め、連邦軍の主だったメンバーによる最高幕僚会議が行われてる最中でしょうね。レビル将軍の一件の中でのこのキャスバル総帥の決起は寝耳に水だったでしょう。」
アーニャの言葉にうんうんと頷く、史実を知っている俺でさえこんな場面でまさかシャアがキャスバルとしてネオ・ジオンを名乗るなんて思いもしなかったからなぁ。
ただ状況を見れば何となく決起の理由も掴めてきた、キャスバルの演説の中にもあったのだがマ・クベらだけが宇宙へ戻り他の戦線を見捨てただけならまだしも、彼は南極条約違反をしてから地上を見捨てたのだから危機的状況の度合いが全然違うのだ。史実通りなら何とか持ち堪えて……って流れになるだろうが条約が機能しないとなればいつ何処から戦略兵器の攻撃を受けてもおかしくないのだから、現在地上に残ってるジオン兵からしたら堪ったもんじゃないだろうし。
「けど上手く和平交渉とか同盟とかが結べれば地上の方は安全になるんじゃないですか?」
クロエ曹長がそう発言する、確かにこの北米ネオ・ジオンはジオン公国から離れた存在なので兵力はそれなりにあるが連邦軍を相手に出来る程ではない。多分それはキャスバルも分かっている筈なので早期に何らかのアクションがあってもおかしくない筈だ。
「確かにそうだな、ガルマ大佐は融和政策なんかで地上での評判は良かったみたいだし平和的解決も他のザビ家の連中と比べたら一番可能性があるよな。」
「連邦内の女性士官もギレンザビやドズルザビは怖いけどガルマは可愛い所あるよねーとか話してましたね。」
グリムが笑いながらそんな事を言った、確かにあの兄弟の中で一人だけ明らかに突然変異みたいな感じで美男子が生まれているからな……女性士官がそう思うのも無理はないけど。
「どっちにしても、上層部が何らかの手を打つまでは現状待機か……。」
「そう遠くない内に軍からの発表があると思います、それまでは各自警戒を怠らずにやれる事を精一杯務めましょう。」
『了解!』
アーニャの言葉に全員が応えた所で俺達は一時解散し各々の仕事に取り掛かった、この戦争の行く末は気になるが今はやれる事を精一杯やるだけだ。今の俺にはそれしか出来ないのだから。