機動戦士ガンダム 紺碧の空へ   作:黄昏仮面

32 / 110
第31話 それぞれの行く末

 

 サイド3の首都、ズム・シティ。その総帥府にてギレン・ザビは大型のモニターを介して兄弟であるドズル・ザビ、そしてキシリア・ザビと通信を開始した、彼の隣には公王であるデギンもいる。

 

「通信は届いているな?」

 

「あぁ通信良好だ兄貴、今回の通信はやはりアレか?」

 

 オデッサ陥落とそれに伴う南極条約の反故、そしてダイクンの遺児であるキャスバルの台頭とそれに連なる原因となる者。ギレンは彼女の写っているモニターへ顔を向けた。

 

「やってくれたものだなキシリア、貴様の部下のせいで南極条約の有効性は無くなり、それに不満を持ち取り残された地上軍はキャスバルを騙る若造によりガルマと共にジオン公国から独立すると宣言までした。この落とし前どうつけるつもりだ?」

 

 冷静を装うが、彼を知る者が見ればふつふつと怒りが込み上げていると感じさせる程に彼は苛立っていた。

 

「オデッサの件はマ・クベの独断で行われたものでした。私が奴を押さえつけていられれば良かったのですが……暴走してしまったようで。」

 

「それを信じろとでも?マ・クベはどうしている。」

 

「奴はグラナダで向かう最中に条約違反に憤慨した部下に射殺されてしまったようで……、拘束した後に軍事法廷に呼び出すつもりでしたが死人が相手ではどうしようもありませぬな。」

 

 明らかに嘘をついている、そう思ったギレンを遮るようにドズルが大声を上げる。

 

「キシリア!貴様そんな嘘が通用すると思っているのか!何処ぞに隠しておるのだろう!」

 

「よせドズル。キシリア、仮に貴様の言った通り奴が殺されたとして連邦にどう説明するつもりだ?」

 

「今更連邦に説明する必要があるでしょうか?所詮南極条約というものはレビルが逃亡した為に締結しただけの戦時条約、本来結ぶべき必要性など無かったでしょうに。」

 

「開戦時と現在では状況が違う、それに連邦に説明する必要が無くとも国民にはどう説明するつもりだ。ガルマの離反にキャスバルの反乱は我々ジオン公国にとって大きな痛手となっているのだぞ。」

 

 ただでさえ国力に劣っているジオン軍の多数を占める地上軍が合流しないと言うのは戦略面でのダメージも大きいが兵の士気にも影響する、それに地上軍は地球降下作戦に伴い多くの熟練兵が参加している、それらを考慮すると数字だけでは語れない損失が大きくあった。

 

「国民に対しては情報統制を強いる必要がありましょうな。何にせよ兵力の差は最初から分かっている事でしょうギレン総帥、その為にコロニーを改造したレーザー砲であるソーラ・レイを開発しているのでしょう?あれで連邦の宇宙艦隊を一掃すれば残るは地上兵力のみ、またコロニーの一つや二つ落とせば連邦軍は成す術もないでしょう。」

 

「キシリア……まだ犠牲が必要だと言うのか。」

 

 口を開いたのは今まで沈黙を貫いていたデギン公王であった。開戦時の頃よりも覇気が無くなり、このガルマの反乱にも消沈しているのか以前よりも精神的に衰えを見せている。

 

「これも我々が勝つ為です父上。」

 

「既に全人類の半数近くが亡くなっているのだぞ、これ以上犠牲が増える前に連邦との和平の道を見つけるべきではないのか?ガルマ達のように。」

 

 その言葉に苛立ちを見せたのはギレンとキシリアであった、元々革命運動を率先して動いて来た人間として何と無様な事をと。

 

「親父!確かにガルマ達は連邦との和平の道を歩むかもしれん!いや、若い世代の連中であれば俺達のような連邦と戦う以外の道もあるやもしれんが長い年月を独立を掲げて戦っている俺達が今更そんな真似をすれば死んでいった将兵達に顔向けが出来んよ!そうであろう兄貴!」

 

 これに真っ向から怒りを見せたのは何とドズルであった、確かに彼の言うように未来ある若者の世代ならばそう言った道もあるだろうが既にこちらは多くを殺し殺されているのだ、タイミングのズレた和平交渉などジオン連邦問わず多くの反感だけを残し軋轢を生むだけである。

 

「その通りだドズル、父上も老いましたな。ダイクンと共に独立運動をしていた頃の父上ならそんな台詞はまず出なかったでしょうに。」

 

 結局はデギンは政治屋でしかなかった、活動家としてダイクンと共に歩んでいた時や公国が出来てから戦争が始まるまではその手腕を奮う事が出来たが戦争という生き死にが発生する事に慣れていない、或いはそれを他人事でしか見れていないのだ。だから責任の重さに耐えられない。

 

「今更連邦と和解などできん、どちらが討つか討たれるかだ。キシリア、マ・クベの件は不問にするが今後一切の独断行動は許さんぞ、ドズルよお前にしても条約違反だけはするな、連邦の報復よりも兵の士気に影響するからな。」

 

「ハッ、了解しました。」「了解した!」

 

「キャスバルらネオ・ジオンを騙る者らが連邦と和平を結べば、連邦軍の地上での脅威は無くなり奴らは総力を以て宇宙へ上がって来るだろう。ソロモンを狙うかグラナダを狙うかはまだ分からんが警戒はしておけ。此方も援軍の手筈は整えておく。」

 

 連邦軍の攻略の対象となる優先順位はグラナダとソロモン、どちらも大差はない。何にせよ本国に辿り着くにはア・バオア・クーが邪魔になるのだからどちらかを陥落させるだけでは意味がないのだ。キシリアの言う通り宇宙へ上がってきた連邦艦隊さえ駆逐出来れば後は時間の問題だ。だがまだ性能すら判断出来ていないソーラ・レイだけで宇宙艦隊を一掃できるか、それが難点ではあるが。

 

「しかしガルマが俺達に牙を剥くとはな!本来なら怒る所ではあるが俺は少し誇らしいぞ兄貴。」

 

「……笑い事ではないぞドズル、ガルマはキャスバルに唆されただけかも知れんと言うのに。」

 

「いや、あの演説を聞いただろう。あれはアイツの本音の筈だ、将兵を労り共に歩むと言う気概を見せつけられて俺も年甲斐もなくはしゃいでしまった。」

 

 父と同じく弟のガルマを溺愛していたドズルらしい物言いだった、確かに総帥としてでは無く兄としてだけ見れば弟の成長ぶりは確かに目を見張るものがあるが現状は手放しで喜べるような状態ではなかった。

 

「……ガルマも我々に直接的に手出しさえしなければわざわざ此方も手を割く必要はない。今後の動向には注意しろ。今回の連絡は以上だ。」

 

 そう言って通信を切る、ガルマに対してはせめてもの計らいではあるが難しい話だろう、北米ネオ・ジオンが連邦と協力関係を結ぶにはそれなりの見返りが必要で、ジオン公国を叩くのに協力せよと言われるのは目に見えている。キャリフォルニアベースを始め北米を奪還するのには手間は掛かるが不可能と言う訳ではないし何より条約が反故にされた今ではネオ・ジオンが憂慮しているように戦略兵器の解禁があるかもしれないのだから。

 

「何にせよ事は早く動かすべきか……。」

 

 時間を与えればそれだけ手立てを与える事に直結する、こちらの手勢もそう多い訳ではないが可能な限りの攻勢は掛けねばならない。指を咥えて見ていても好転する事は無いのだから。

 

 

 

ーーー

 

「会談?」

 

「えぇ、この前線近くで連邦軍と北米ネオ・ジオンとの会談を行うと、先程通信がありました。」

 

 北米戦線の野営地で、アーニャがそう報告してきた。近い内にやるだろうなとは思っていたが、まさか前線近くでやるとは思っていなかった。

 

「こんな連邦とジオンの緩衝地帯で良いのか?北米ネオ・ジオンも独立したとは言え未だにザビ家派の人間がまだいる可能性だってあるのに、せめてどちらかの勢力圏内でやるべきだと思うが……。」

 

「そうですね普通ならそうするべきです、連絡の中で北米ネオ・ジオンは公国派の人間は残存しているHLVやザンジバル級で宇宙に送り返したと言っていましたが不穏分子の存在は払拭しきれていません。だからこその前線会談なのです。」

 

「……?意味が分からないな。」

 

「簡単に言えばこの会談は撒餌ですよジェシー、我々もネオ・ジオンも同盟を結ぶか否かは別として邪魔な勢力は排除したいと言うのが本音です。幾らネオ・ジオンが連邦に協力的であってもその身に獅子身中の虫を飼っていては安心して宇宙へは上がれませんし、ネオ・ジオンにしても厄介な人間は排除しておかないといつ我々に叩かれてもおかしくはない状態ですから。」

 

 成る程なぁ、と思ったがその為の撒餌が会談と言うのは中々リスキーではあるな、ただその分『敵』もまた狙う価値があると判断するってことか。

 

「それで、この会談には誰が参加するんだ?」

 

「連邦軍からはこの戦線に参加しているコーウェン少将とゴップ叔父様が参加します、ジャブローからも何人かの将校が来るとは言っていました。北米ネオ・ジオンからはキャスバル総帥とガルマ・ザビが参加すると通達がありました。」

 

「おいおい……両軍の総大将クラスばかりじゃないか。撒餌にしては豪華過ぎじゃないか?」

 

「それだけの価値がこの会談にあると言う事ですよジェシー。両軍のトップ同士の会談の成功、そして不穏分子の一掃が出来れば地上での我々の優位は揺るぎないものとなります。余力を残したまま宇宙へ上がれると言うのはそれだけでジオン公国に対するプレッシャーになりますから。」

 

 確かにそうだ、纏まった部隊が多ければ多いほどジオンが苦しくなるのは当たり前の話だし余力を残して宇宙に上がれればそれだけこちらも士気は高くなるし。

 

「だとすればMSでの護衛が必要になるな?」

 

「えぇ、当日は両軍のMS部隊が護衛に入ります。何かあれば其方で対処するでしょう。」

 

「ん?俺達の出番は無しか?」

 

「貴方は会談に参加する私の護衛です、ジェシー・アンダーセン中尉。」

 

 護衛か……そういえばアーニャも佐官だし会談に参加する身分としてはおかしくないのか、って……中尉?

 

「おいアーニャ、今のって……。」

 

「えぇ、おめでとうございますジェシー。貴方は昇進したのですよ。今回のコーウェン少将への救援とその後の状況回復に努めた功績です。私もお溢れではありますが中佐への昇進となりました。」

 

「お溢れって……逆だろ。アーニャの的確な指揮があっての事だったじゃないか。」

 

 とは言え素直に昇進は嬉しい、元々少尉と言う階級は本来のジェシー・アンダーセンが積み重ねてきた努力の結果であったが今回の件は自分たちの力で掴んだ物だ、何というか達成感みたいなものが込み上げてくる。とは言え本来の彼に憑依した形での事なので彼に対する後ろめたさもあるのだが。

 

「会談は明後日に行われる予定です、それまでは身体を休めたりMSの調整などしておいてください。私は叔父様達と話を詰めないといけませんので。」

 

「了解、会談中に何かあった時の為に護身術や拳銃の扱いなんかも慣らしておくよ。」

 

 一ヶ月の入院による身体面のブランクが大きいので鈍っている身体を少しでも鍛え直しておかないと、ララサーバル軍曹やグリム辺りと訓練しておくかな。

 いずれにしても明後日までは短い、憂いのないようにしておかないとな。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。