機動戦士ガンダム 紺碧の空へ   作:黄昏仮面

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第34話 裁かれし者達(前編)

 

「アンダーセン中尉のメガセリオン!用意してあります!」

 

 ビッグ・トレー内の格納庫に到着し、用意されたメガセリオンへと搭乗する。幸か不幸か将軍の乗艦だったおかげか装備は潤沢なようでビームサーベルとジム・コマンド用のビームガンが用意されていた。これならギリギリ攻撃面で遅れを取ることは無さそうだ、だが問題はEXAM搭載機との性能差だ。こればかりはどうしようもないのでキャスバルに頼るしかない、俺がどれだけサポート出来るかが問題だ。

 

「ハッチ開け!ジェシー・アンダーセン、発進するぞ!」

 

 ビッグ・トレーから発進し状況を確認する、敵のブルーは周辺に配置されていたMSの悉くを撃破しながらこちらに向かっている。狙いはゴップ将軍とキャスバルだろう、先日のコーウェン少将に対する奇襲攻撃でもそうだったが高性能機で一気に本丸を叩くと言うのは案外理に適っているんだろうか、こんな単機で無双されるなんてことが頻繁にあっても困るが実際起こってしまっているのだから対処しなければ……そう思ってるとキャスバルのグフが隣接してきた。

 

「敵は我々の配置した味方を撃破して此方に向かっているようだ。やはり狙いはこの会談の阻止のようだな。」

 

「そうでしょうね、ジオン公国からしたらこの会談が阻止できれば儲け物でしょうから。しかしまさかあの機体が来るとは……。」

 

「あの機体を知っているのかね?」

 

 知ってるも何もあの機体のせいで殺されかけた身だ、詳しい事を話そうと思ったが通信チャンネルからでは余計な事も味方に聞かれる恐れがある。グフに接触して直接接触回線で通信することにした。

 

「聞こえますかキャスバル総帥?」

 

「接触回線か?……他の者に聞かれると困る話があるようだな。」

 

「あの機体にはちょっとした因縁がありましてね……、あれは連邦軍に亡命したニュータイプ研究所の博士が開発したシステムを積んだMSなんです。だからそれを取り戻す為に恐らくジオンに奪われたんでしょう。」

 

「ニュータイプ研究所……フラナガン機関か。何故君がその事を?」

 

「1ヶ月前にあの機体の同型機に乗って意識不明になっていた事がありましたからね。あれはパイロットの意思を無視して暴走する可能性がある危険な機体です、戦場に渦巻く感情を飲み込み……それがパイロットの脳にフィードバックされる事でまともなパイロットではその感情を御しきれず廃人になってしまう……。」

 

 それが分かっている俺ですらまともに対処できず1ヶ月もの間昏睡したのだ、普通のパイロットではまず死んでしまうだろう。……だからこそアレを乗りこなすニムバスやユウというパイロットには驚愕するのだが。

 

「だが暴走するとは言ってもパイロットの乗っているMSだろう?操縦するパイロットがいなければ機体とて動きは……いや、まさかとは思うが君のその言い方なら……。」

 

「えぇ、動きます。元々あの機体に積んでいるシステムはニュータイプの動きを再現する為の物で、その動きの大元であるニュータイプのパイロットのデータが機体のパイロットを無視して戦闘行動をするんです。」

 

 少しボカすような言い方ではあるが嘘では無い、流石にニュータイプの少女の意識があの機体に囚われたままだと言っても信じてもらえないだろうし。

 

「つまり敵は擬似的なニュータイプと言うわけだな。やれやれ……ニュータイプとの戦闘など初めてだがやってみるしかないか。」

 

 いや、アンタはアムロと戦ってるだろ。と思ったが彼にはガンダムのパイロットがニュータイプだったなんてそんな事は知る由もないか。それにあの頃のアムロはまだニュータイプとして覚醒してないだろうし。

 

「とにかく敵は異常な強さの筈です。貴方が死んだらこの会談だけじゃない、戦後の未来だって怪しくなるんだ、俺が言えたことではないでしょうが気をつけくださいよ!」

 

「言ってくれる……、だが了解した。お互い最善を尽くそうじゃないか。」

 

 こうして話している間もブルーとの距離は近づいている、このままならあと数分もしない内に会敵するだろう。俺はビームガンを構えて射撃の準備をする。

 

「来ますよ!」

 

「分かっている!」

 

 強襲するブルーに対してメガセリオンのビームガンとキャスバル専用のグフの前回は装備されていなかったガトリングガンによる弾幕を展開する。普通のMSとパイロットが相手であれば過剰なくらいの攻撃だが……。

 

「くっ……!やっぱり当たらない……ッ!」

 

 超人的な動きで攻撃を回避して此方にビームライフルを射撃してくる、何とか回避しながら此方もビームガンで応戦するがまるで狙っている場所を予測しているかのように撃つ瞬間には既に回避行動に入っている。

 

「えぇい!ならば!」

 

 キャスバルのグフがヒートサーベルを取り出して近接攻撃に移る、確かに射撃がダメなら近接攻撃で打開するべきだ。キャスバルに気を取られた瞬間を利用して此方もビームサーベルで斬りかかろうと試みる、しかし……!

 

「ハハハ!その程度の機体で私と張り合おうとは!」

 

 2機のMSによる近接攻撃に対して何と二刀のビームサーベルで対応をしてきた、そして接触回線による敵の声……やはりジオンの騎士、ニムバス・シュターゼンだ!

 

「ちぃっ……!この攻撃が防がれるとは……化物か!」

 

「連邦軍のMSの中じゃトップクラスの性能です!幾ら此方が2機だとしても不利ですよ総帥!気を抜かないで!」

 

 メガセリオンは贔屓目に見てもグフと同等かオプションパックを加味して少し上にあるくらいの機体性能だ、キャスバルのグフにしてもカスタム機としての性能向上を加味したとしてドムと同レベルと認識した方が良さそうだ。だがそれに対してこのブルーはガンダムに求められる性能水準に満たなかったとは言えかなりの高性能高品質のパーツで作られたMSだ、それにEXAMなんてシロモノを積んでいるんだからこの時代で見たらオーバースペックに位置する機体だ、流石に俺達2機でも分が悪すぎる。

 

「ハハハハハ!マシンに力が漲るのが分かるぞ……!クルスト・モーゼス!貴様が求めていた本来のEXAMの在り方を焼き付けるが良い!」

 

 EXAM本来の在り方……?っ!?不味い!肝心な事を忘れていた!クルスト・モーゼスの本当の目的を!

 

「不味い!キャスバル総帥、回避を!」

 

 ブルーはグフに対して装備をフルに使い攻撃を仕掛けてくる、ビームライフルに胸部ミサイル、それをキャスバルが回避すると更にビームサーベルで追撃と息を吐く暇すら与えようとしない。

 

「クソッ!当たれぇ!」

 

 此方もメガセリオンのビームガンでグフの援護に回るが器用に回避される、通常なら直撃するような攻撃でさえそんな馬鹿なと言いたくなるような動きで回避されるとニュータイプという化物の存在に恐怖すら感じてしまう。

 

「雑魚が!邪魔をするならまず貴様からだ!」

 

 俺の援護射撃が奴にとっては小蝿が飛び交っているような邪魔臭さを感じたのだろう、グフを振り払うように退けさせた後で俺に向かって攻撃を仕掛けてくる……不味い!

 

「く……そぉ!」

 

 急いでビームサーベルに持ち変えて鍔迫り合いに持ち込む、しかし圧倒的な性能差で段々と押し切られ始める。

 

「ハハハハハ!たかが量産機にしては良くやっているがその程度の力で私に勝てるとでも思っているのか!」

 

「何を……!マリオンの力に頼っているお前なんかに!」

 

「貴様……何故マリオンの事を!いや……それよりも私がマリオンの力に頼っているだと?ふざけた事を!」

 

 当面キャスバルへの危険は無くなったが今度は此方が危険だ。挑発には成功したが機体性能の差が激しすぎる。機体が悲鳴が聞こえるかのように軋み出す。

 

「っ……!不味い!」

 

「これで終わりだ!」

 

 奴の攻撃で出来た硬直に対応できず、ブルーのビームサーベルが此方のコクピットへ向けて突き進んでくる。あっ……これマズイ、視界がスローモーションになってるし死ぬ時のアレだ。流石にキャスバルの援護も間に合わないだろうし確実に死んだなこれ……。そう思った時である。

 

「……!?ちぃっ!」

 

 突如ブルーへ向けてビームライフルが放たれる、ギリギリの所で回避されてしまったがお陰で助かった。一体誰が!?

 

「ニムバス・シュターゼン……!」

 

「来たか!連邦軍のEXAMパイロット!」

 

 そこにいたのは通常のカラーリングの陸戦型ガンダム……いや、もしかしてブルーの3号機でユウ・カジマか!?ニムバスを追って来たと考えれば合点が行く。

 

「メガセリオンのパイロット、無事か。」

 

「何とか……助かりました、ユウ・カジマ……えぇと中尉でしたっけ?」

 

 確かゲームだと登場時は少尉でブルーに乗った後で中尉になってた記憶があるがどうだろう?いずれにしても助かった事には変わりないが。

 

「何故俺の名を……いやその声、どこかで……。」

 

「1号機の暴走の時です、あの時も助けてもらいました。」

 

「そうか……あの時の。……すまない、今は感傷に浸っている余裕はないようだ。」

 

 確かに。ブルーは一旦距離を置いたがまだまだ諦めるつもりはないようだ。

 

「アンダーセン中尉、彼は?」

 

「彼は味方です総帥。ユウ中尉!敵の狙いはキャスバル総帥だ、彼が撃破されない様に頼む!」

 

「……了解した。」

 

 体勢を立て直し、再びブルーの迎撃準備に移る。これで戦力的にはこちらが有利な筈だ!

 

「フハハハハハ!どれだけ集まろうと私とEXAMの前では無意味!裁かれるが良い!」

 

「その傲慢さを償え……!ニムバス!」

 

 両機ともEXAMを起動して攻撃を始める、連携が上手くないとは言え3機のMS、それもユウやキャスバルの2人はエースパイロットだと言うのに決め手に欠けている。だがキャスバルも流石はシャアと言うべきか、この短時間でEXAMの動きに対応して性能の差を感じさせないレベルにまで達していた。

 

「……そこだ!」

 

 キャスバルの射撃が2号機のシールドに被弾し、使えなくなったと判断したのかニムバスはシールドを投擲し放棄した。少しずつだが着実に追い込めてきている……!

 

「まだだ……まだこのマシンから力が滾って来るのが分かるぞ……!EXAMよ!奴らを裁けと言っているのだろう!」

 

 ニムバスの機体から異様な気配が漂ってくるのを感じる、ブルーに乗っていた時に感じた物よりも更にどす黒く異質なものだ。オールドタイプの俺ですらこれだけのプレッシャーを感じるのだ、恐らく間近で戦っている2人は……。

 

「くっ……!なんだ……?このプレッシャーは!?」

 

「これは……マリオンとは違う意志を感じる……?」

 

 それは恐らく、古き者(オールドタイプ)が駆逐されない為に作られた、新しき者(ニュータイプ)を狩る為にクルスト・モーゼスの妄執(パラノイア)が生み出した狂気そのものなのだろう。それがニムバスを飲み込むように機体を通して彼を蝕んで行くのを感じる。

 

「フハハハハハ!さぁ、EXAMよ!罪深き者達(ニュータイプども)に裁きを下せ!ハハハハハ!」

 

 

 


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