機動戦士ガンダム 紺碧の空へ   作:黄昏仮面

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 今回は展開上語られなかったグレイ達の回、無駄に長くなっているので2話に分けています。


第36話 騎士の誇りと共に①

 

 

 連邦との会談より遡ること数日前、北米ネオ・ジオンの結成に伴いジオン本国に付くかそれともネオ・ジオンに付くかを問われた北米に所属するジオン軍の兵士達、この俺ジェイソン・グレイもまたジオン本国に付くかシャア・アズナブル少佐……いやキャスバル・レム・ダイクンの北米ネオ・ジオンに付くかの岐路に立たされていた。

 

「それで、お兄さんはどうしたいんですか?」

 

 問い掛けて来たのはフラナガン機関で一緒になった双子の少女の姉であるマルグリットだ、彼女らは俺の決定に従うと言っていた。彼女らの事を思うと非人道的な面も目立つフラナガン機関に戻るのは得策ではないと心の中では分かっていても俺の中ではまだ割り切れない事もあった。

 

「グレイはまだやり残してる事がある、それはキャスバルさんがやろうとしてるネオ・ジオンでは難しい。そうでしょグレイ。」

 

 心を読んだか……いや、素直に俺の心情を察したのだろう。双子の妹の方であるヘルミーナは俺の中にある連邦軍の復讐という意志を察しているようだ。

 そう、俺がこうやってサイド6のフラナガン機関からわざわざ地上に降り立ってまで連邦軍と戦う理由。それは俺が以前いた部隊の仲間を連邦軍に殺されたからだ、不確かな情報ではあったが仇となるMSも見つけ交戦したが雪辱を晴らせず撤退する事になった。まだ奴に対して復讐を成し遂げていないのだ。このままネオ・ジオンの側についてしまっては多くの同胞の怨みを晴らせずに連邦と仲良く手を取りかつての仲間に銃を向けると言った馬鹿げた事をしなければならない、そんな事は今の俺に到底許せる事では無かった。

 

「あぁ……悪いが俺はキャスバルの側には付かない、あの白いMS野郎を殺さない限り俺の心が晴れる事はないんだ。」

 

「グレイがそう言うなら私はグレイについて行くよ。」

 

「はい。お兄さんがいる所が私達の居場所ですから。」

 

「すまない……2人とも。」

 

 彼女らの事を考えればネオ・ジオンの方に付くべきだろう、連邦との兵力差はただでさえ広がっている中でのキャスバルの蜂起だ。ジオン本国の兵力と士気は大きく下がったしその余波も大きい、このまま戦っても最後に待っているのは……。

 

「さて、そうと決まったらどうしますかお兄さん。今日か明日にはHLVで宇宙に帰らなければこのまま地上に残ることになりますが。」

 

「……そう言えばニムバス大尉はどうしているんだろうか。」

 

 前回の戦闘では結局クルスト博士の足取りは掴めなかった、俺達の方では収穫無しだったが彼の方ではどうなっているのだろうか。マリオンの容態の事もあるし一度連絡を取ってからでも宇宙へ上がるのは遅くないだろう。

 

「一度彼と連絡を取ってみよう、暗号通信は使えるな?」

 

「連邦に傍受されなければ大丈夫だとは思いますよ、ただあの人が通信を受けられる状況だと良いですが。」

 

 最後に彼と通信したのは少し前になる、お互い進捗がないままの報告で終わったが今はどうなっているのだろうか。

 

「基地の連中に気取られても困る、一度ここから離れるぞ。」

 

 俺達は基地から離れた高所で通信を試みる、取り決められた暗号文を専用の秘匿回線で発信する。一度送信し反応を待つ……だが返答はない。

 

「ミノフスキー粒子が散布されてる所なら届いてないかもね。どうするグレイ?」

 

「間を置いてもう一度発信する。この状況下だ、北米戦線にはもうまともな戦闘をする部隊は殆どいないだろう。この大陸にいるならいつかは反応する筈だ。」

 

 そう言って時間を空けて再度発信をする、その時だ。

 

「返答来ましたお兄さん、今解析します。」

 

 マルグリットが暗号を読み解き内容を伝える。

 

「敵機ト交戦シ、機体大破。シカシ目標発見セシ、願ワクバ援護ヲ求メル。……お兄さん、ポイントも指定されています。ここからそう遠くはない距離です。」

 

「目標を発見……クルスト博士を見つけたのか。」

 

 機体は大破したようだが収穫はあったようだ。こちらが援護する必要があるなら俺達の機体も必要になるだろう。

 

「マルグリット、返信を送ってくれ。了解した、機体と共に向かうと。」

 

「分かりました。」

 

 返事を送り、再度基地へと帰還する。機体を持ち出すとなると警戒されてしまうだろうがどうするべきか。

 

「こういうのは堂々としてれば案外大丈夫なものですよお兄さん。」

 

 そう言うとマルグリットは格納庫へと向かい整備兵に話しかける。

 

「キャスバル総帥からの緊急の指令です、我々の決起に刃を向ける反抗分子の対応を私達に求められました。MSは出せますか?」

 

「アンタはドムのパイロットの……待ってくれ、上に確認を取ってからじゃないと……。」

 

「緊急だと言いました、こうしている間にも反抗分子は着実に準備を進めています。責任はこちらで取りますので発進準備を!」

 

「あぁ……分かった!お前ら!準備急げ!」

 

 成る程な、如何にもキャスバルの命令と見せかけて動くつもりか。顔に似合わず大胆な事をする。

 

「お兄さん、失礼な事考えてませんか?」

 

「いや、そんなことはないぞ。これで出撃できる、助かったぞマルグリット。」

 

 相変わらず勘が鋭い、余計な事は思わない方が無難か。俺達はMSに乗り込むと発進準備を開始する。

 

「MSの起動音……?何処の部隊だ!発進許可はしていないぞ!」

 

 っ……!ヤバイな、遠くから見えるのはガルマ大佐だ、流石に彼の目は誤魔化せない。

 

「大佐!彼らが反抗分子の対応をすると発進許可を求めていたのですが違うのですか!?」

 

「なんだと……!?グレイ少尉!応答しろ!どういう事だ!」

 

 オープン回線からの通信が入る、こうなっては無理矢理押し通るしかない。俺達は格納庫のゲートをこじ開け急速に基地から離れ出した。

 

「これは……我々への反乱だ!警報を鳴らせ!彼らを基地から逃すな!」

 

 基地内から警報が鳴り響き歩兵がこちらに向けて対MS用のロケット砲を放ってくる、難なく躱すがどうするべきか。

 

「グレイ、この人達には怨みはないでしょ?早く離れよう。」

 

 ヘルミーナがそう促す、確かに違う側に立つとは言え彼らは同胞だ。仲間同士で血はなるべく流したくはない。回避に専念しながら基地を脱出する。

 

「何があったのだガルマ!」

 

「キャスバルか……姉さんの部隊のグレイ少尉達がMSを持ち出し基地から逃走したんだ。」

 

「グレイ少尉達が……か。通信を繋いでくれ、私が説得する。」

 

 基地から離れ出し、追手を振り切りながらニムバス大尉との合流ポイントに向かう最中に広域通信が入った。

 

「グレイ少尉聞こえるか。キャスバルだ、応答をして欲しい。」

 

 総大将自らの通信……流石に出ないと失礼か、そう思い応答をする。

 

「グレイですアズナブル少佐……いえ、キャスバル総帥。」

 

「何故こんな真似をした少尉。まさかザビ家のジオンに戻ると言うのか?」

 

「キャスバル総帥のやろうとしている事に不満があるという訳ではありません、ただ俺のやりたい事はネオ・ジオンでは不可能なんですよ。」

 

「君のやりたい事……連邦軍への復讐か。」

 

 そう、今の俺にとっての唯一の生きがいだ。俺の中に蠢く数多の同胞達の怨みが俺を突き動かしているのだ。

 

「ザビ家に怨みを持っていた私が言えることではないが復讐だけでは何も生まれないのだ少尉、君達のようなニュータイプと呼ばれる新世代の人間が新たな未来を築いて行かなくてはならないのだ。考え直してはくれないか?」

 

「すみませんキャスバル総帥、貴方のことは嫌いではありませんが俺の行く道は俺が決める。」

 

 そう言うと俺はキャスバル総帥との通信を切る、これでネオ・ジオンとは縁が切れた。これからは彼らに刃を向ける事にもなるだらう。

 

 

ーーー

 

 

「グレイ少尉!応答しろ、グレイ少尉!」

 

 返答はない、どうやら彼は通信を切断したようだ。

 

「すみませんキャスバルさん、私達のことは忘れてください。」

 

 入ってきたのはグレイ少尉からではなく、彼と共にいたドムのパイロットの少女の声だ。名前は確か……。

 

「……マルグリット曹長か?どうしても彼は止められないと言うのか。」

 

「あの人はキャスバルさんの理想よりも復讐を選んだんです。今はそれだけがあの人の心の拠り所で、それが無くなったらきっとあの人は壊れてしまいます。」

 

 復讐を拠り所に再起したのだろう、私自身似たような思惑で動いていたので彼の事も分からなくはない。だがこんな道を選んでも未来は無いのは彼も分かりきっているだろうに。これでは自殺と変わらない。

 

「君達姉妹はどうなのだ?彼の復讐に付き従うのか?」

 

「あの人がいる場所が、私達の居場所ですから。」

 

「しかしこのままジオン本国の側についても君達はそのニュータイプの力を戦いの事だけに利用されてしまうのだぞ?それは本来のニュータイプの在り方では無い筈だ!」

 

「そうですね。ただ私達みたいな存在は戦うことでしか自分の意義を見出せませんから。大丈夫ですよキャスバルさん、私達みたいな戦うだけの人間よりも貴方を理解してくれる本物のニュータイプに貴方はきっと出逢えますから。」

 

「マルグリット曹長……それは……?」

 

「私の勘です、結構当たるんですよ。……私達が離反したら貴方達にも不都合があると思います、追手なり連邦に存在を教えてネオ・ジオンとは無関係な敵だと言うなりしておいてください。さようなら。」

 

 そう言うと彼女は通信を途絶する、再度の発信も虚しく完全に返事は途絶えてしまった。

 

「待てマルグリット曹長!……くっ、彼女らを止める事が出来んとは……!」

 

「どうするキャスバル、彼女が言ったように追手なり差し向けた方が良いと思うが。」

 

「分かっているさガルマ、だが彼らの機体性能とパイロットの能力では追手を差し向けても撃破するのも捕えるのも難しいがな……。彼女の言う通り連邦にも機体のデータなどを教え我々とは無関係な存在だと言うしかあるまい。この状況では最早彼らを庇う事はできないからな。」

 

 彼らが選んだ道があるように私も私の道がある……残念な事だが。

 

「私を理解してくれるニュータイプか……。」

 

 果たして、本当にそう言った存在と出会えるのだろか。彼女の言葉に淡い期待を寄せながらも、彼らがそうでは無かったという虚しさもまた心の中に響いたのだった。

 

 

ーーー

 

 基地から離れて数刻、ニムバス大尉の指定ポイントへ到着した俺達は久しぶりにニムバス大尉と邂逅した。

 

「お久しぶりですニムバス大尉……それにしても此処は……。」

 

 入り組んだ山岳地帯の地形の中にポツンと存在する広いスペース。此処には武器や弾薬、それにMS用の機材が少ないながらも置いてあった。一番目を引くのはHLVだ。まさか此処までの拠点が存在しているとは。

 

「私が此方に来てから拵えた拠点だ。本来は人もまだ何人かいたのだが連邦との交戦で犠牲になってしまった。」

 

「そうですか……通信ではクルスト博士を見つけたと言っていましたが彼は今何処に?」

 

「この近くの連邦の基地だ、先日敵との遭遇戦で偶然にも連邦のEXAM機と接触した。ガンダムと言う連邦のMSは知っているか?」

 

 ガンダム……確かオデッサで黒い三連星を撃破したMSだと聞いたな。

 

「えぇ、確か連邦軍のハイスペックMSだと聞いています。オデッサでも黒い三連星がそのガンダムによって撃破されたようで。」

 

「あれの量産型と思われるMSにEXAMを載せてあった、交戦し大破に持ち込んだが私の機体と残った仲間は全員犠牲になってしまった。彼らの犠牲によって奴らの拠点は掴めた訳だがな……。」

 

 クルスト・モーゼスが連邦に亡命した理由がジオン製MSのマシンスペックへの不満であったと言う報告もある、奴からしたら自分の研究が成功するなら連邦でもジオンでも何処でも構わないのだろう。連邦のハイスペック機に搭載されているとなれば幾らEXAMを積んでいても大尉のイフリートではマシンの性能差が出てしまうのも仕方ないか……。

 

「それで、これからどうするおつもりで?」

 

「博士の所在は掴めた、連邦のEXAM機も一機は撃破したとは言えあれは専用の機体ではなく量産型にシステムを積んだ機体だ。他にもEXAMを搭載しているMSがある可能性が高い。博士の抹殺と可能であればEXAM搭載機の奪取をしたい所だが……協力してくれるだろうか?」

 

「具体的には何を手伝えば良いですか?」

 

「敵基地に対して牽制を仕掛けてもらいたい、敵が君達に気を取られている間に私が内部に潜り込み博士の抹殺とEXAM機の確保を行う。もしも複数機あるようなら可能な限り破壊してから撤退するつもりだ。」

 

 今の機体の数と人間の数からしてそれが一番無難か、幸い弾薬や爆発物の量にはゆとりがあるようだし俺達がそれを使用して基地を混乱させている間に大尉に行動してもらう、EXAM搭載機が多い場合は不安要素になるが使用されているMSのスペックからして大量に用意されていると言うことは流石に無いだろう。

 

「それで良いと思います、決行はいつ行いますか?」

 

「連邦軍は北米ネオ・ジオンの蜂起で敵対勢力の行動は消極的になっていると思い込んでいるだろう、その隙を突くなら行動は早ければ早いほど良いだろう。すぐにでも行動に移りたいがどうだろうか?」

 

 俺がマルグリットとヘルミーナの顔を見合わせると2人とも頷く、俺達の離反をいつネオ・ジオンが連邦に通達するかも分からないし、早めに動かないと対策を練られる場合があるしな。

 

「分かりました、今からでも動きましょう。」

 

 機体のチェックと基地襲撃の計画を整え、大尉を除く俺達3人は連邦軍基地に近い山岳に潜みながら最後の確認を行う。

 

「まずマルグリットとヘルミーナが二手に分かれて高所からジャイアント・バズを基地に打ち込む、狙いは正確で無くて良いが次発は間髪なく別の箇所に打ち込むんだ。そうする事で複数からの攻撃と匂わせる。」

 

 此方が3機だけと分かれば敵も出し惜しみ無く戦力を投入してくる筈だ、そうなると幾ら俺達でも分が悪い。だからこそ初期の段階である程度の戦力を匂わせる事が必要になる。

 

「2人の攻撃と同時に俺が基地に正面から攻撃を仕掛ける、俺のイフリートなら敵の目を引き付ける事が出来る筈だ。連邦が俺に気を取られている間にニムバス大尉が基地に潜入し博士の抹殺と機体の奪取を行う。」

 

 ニムバス大尉は以前鹵獲した連邦の車輌と連邦軍の制服を着用してもらい命からがら基地に戻れた兵士を装ってもらう。緊急事態では味方の識別も疎かになるのを利用する、今の時点で利用できるのはこれが精一杯だろう。

 

「よし、30分後に行動を開始する。気をつけろよ。」

 

「分かった。」「分かりましたよ、お兄さん。」

 


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