機動戦士ガンダム 紺碧の空へ   作:黄昏仮面

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第37話 騎士の誇りと共に②

 そして予定時刻となった瞬間、基地に攻撃が仕掛けられる。タイミングも射撃コースも完璧だ。これなら敵も複数からの攻撃と思い込む筈だ。

 俺はイフリート・ゲシュペンストを警報の響き渡る基地へ向かわせ大袈裟に攻撃を仕掛ける、ミサイルやバズーカと言った派手な武装で敵の警戒を引きニムバス大尉が動きやすいように敵の集中しやすい箇所を作る。

 

「さて、連邦はどう動く?」

 

 基地の固定砲台からの砲撃を難なく躱しながら敵MSの出方を伺う。もしもEXAM搭載機が発進して来たら厄介だが……。そう思っていると今までも戦ったことのあるジムやメガセリオンと言ったMS達が攻撃を仕掛けてきた。

 

「どうやらエースはお出ましと行かないようだな、雑魚には用はない!消えてもらう!」

 

 二刀のヒートサーベルを構え、敵の射撃を避けながら隙のできた機体へ斬りかかる。両腕を切断し、無力となったMSを盾にし怖気付いた別のMSへ投げつけ更に斬りかかる。一つ、二つと敵を屠りニムバス大尉が無事に行動出来ているか心配する。

 

「お兄さん、こちらも合流出来ますがどうしますか?」

 

 マルグリットからの通信だ、今のところ対処は出来ているがこれ以上敵が増えると厄介ではある。ただ状況の次第では下手に動かれても危険になる可能性も高い。

 

「待てマルグリット、お前達2人は退路の確保に集中しておいてくれ。今は基地の破壊よりもニムバス大尉の任務成功の可否の方が重要だ。」

 

「わかりました、問題があったらすぐに呼んでください。」

 

 大尉が基地に潜入してからそこそこの時間は経っている、そろそろ何らかのアクションが有ってもいい頃だが……。

 そう思った矢先、基地から爆音が鳴り響く。目を向けた爆心地には蒼く輝くMSが立っていた。あれが連邦のEXAM搭載機なのか……?

 

「……当初の目的と機体の奪取に成功した。撤退するぞグレイ少尉。」

 

 敵がどうか警戒をしていたら通信が入る、どうやらニムバス大尉は博士の抹殺も無事終えたようだ。ならこのまま長居しておく必要もない。

 

「2人が退路を確保しています、拠点へ退却しましょう。」

 

 俺達は追って来た連邦の雑兵を屠りながら拠点へと無事撤退した、こう終わってみると簡単なミッションであった。やはりあの白いMSが相手でないと俺の心は満たされないようだ。

 拠点へと戻り、今後の方針についてニムバス大尉と話し合う。当初の目的は果たした、宇宙へと帰投するのが本来の筋ではあるが……。

 

「味方からの通信?」

 

 ニムバス大尉の秘匿通信回線に自軍から連絡が来たというのだ。このタイミングで一体どんな内容を……?

 

「キシリア閣下直属の特殊部隊だと言っていたが耳が早いな、連邦軍基地の襲撃と機体奪取の報を聞いて私だと察したらしい。」

 

「連中は何と?」

 

「近日中にネオ・ジオンと連邦軍とで会談が行われると言うのだがその会談を阻止しネオ・ジオン、連邦の主要人物を抹殺するのに協力しろとの事だ。この機体は連邦軍製であるからな、撹乱させるのに適していると判断したのだろう。」

 

 確かに鹵獲した敵機を用いた襲撃というのは効果的だ、以前連邦がザクを鹵獲して集積所を襲撃して大惨事になったという報告も聞いている。だがこの機体は唯一ジオンに残されたEXAM機であるし連邦軍製のハイスペック機だ、本国に持ち帰り研究用として利用した方が得策ではないのだろうか?

 

「まさか応じるつもりですか?」

 

「……そのつもりだ。」

 

「何故です?確かに会談の阻止は必要不可欠な行動ではありますが、連邦もネオ・ジオンも対策はしてくるでしょう。となると防備は堅牢な筈です、大尉の鹵獲した機体をわざわざ使用するのはリスクが伴う、本国に持ち帰ってデータを取った方が……。」

 

「私はそうは思わないなグレイ少尉、EXAMは最早ブラックボックスばかりのシロモノだ。それは博士の亡命後にEXAMの解析はおろか復元さえ出来なかった事を見ても明らかであるし、機体のデータについてもデータさえ抜き取ってしまえば機体そのものについてはジオンの技術でどうこう出来るものでもない。ならこのタイミングでこそこの機体は有効的に使えると言うものだ。」

 

 ……確かに間違ってはいない、現在確認できるデータを見ただけでもジオン公国の製造技術ではコスト的に使用の難しいルナチタニウムを使用した機体であるし武装面にしてもサーベルやライフルの予備をサンプルとして送れば良いだけだ、EXAMシステムにしても仮に本国に送った所で再び再現出来るかすら怪しいか。

 

「ならやるしか無いようですね、会談には俺の狙っている敵も現れる筈です、奴を倒すのにも良い機会だ。」

 

 この北米での戦いに多く参加しているワンオフの機体だ、恐らくこの会談にも現れるだろう。ならこの機会を利用するだけだ。しかしニムバス大尉の口から出たのは思い掛けない言葉だった。

 

「……すまないグレイ少尉、君達にはこの機体のデータと共に宇宙に帰還して欲しい。」

 

「何を言ってるんですか大尉!連邦とネオ・ジオンの主要人物を一網打尽に出来る唯一の機会に俺のイフリートや2人のドムは必要な筈です!」

 

「分かっている、だがこの戦いは熾烈な物になるだろう。生きては帰れない可能性が高い。」

 

「そんなことは最初から覚悟の上です!死ぬことなんて恐れちゃいない!」

 

「あぁ、それも分かっている。だが君はそうでも彼女ら二人はどうなる、君と共に死ぬ覚悟はあるだろうがまだ君達は若い、こんな所で命を散らすべきでは無いのだ。」

 

「ならマルグリットとヘルミーナだけでも宇宙を帰して俺が残れば良いだけだ!俺は絶対にーーー」

 

 そう言いかけた所で身体に衝撃が走る。そのまま俺は意識を失っていった。

 

 

ーーー

 

 

「すまない、手荒な真似をした。」

 

そう言いながらニムバス大尉は私達に頭を下げる。

 

「良いんです、お兄さんは最初から死ぬ事だけを考えて生きていましたし、こんな所でまだ死なせたくありませんでしたから。……それにニムバス大尉もあの子の事を考えて私達を宇宙に戻したかった、そうですよね?」

 

「君は勘がするどいなマルグリット曹長、……君達にはマリオンの後のことを頼みたい。」

 

「快復する見立てがあるんですか?」

 

「恐らくは……と言うレベルの話だがな。連邦のEXAM機との交戦中、システムを介してマリオンの意識を感じた。もしかしたら彼女はEXAMというシステムの檻に封じられている可能性があるのかもしれない。ニュータイプとはそう言うことも出来るのだろうか?」

 

「ニュータイプは異常な超人ではありませんよ大尉。ただクルスト博士の歪んだ執念が何らかの形で実現してしまったのなら大尉の言う可能性も無くは無いのかもしれませんが。」

 

 精神を別の場所に飛ばす……幽霊じみた行為は恐らく無理だと思う、仮に出来たとしてもその時は肉体という器は存在していないかもしれない。ただあのEXAMというシステムが肉体と精神の狭間に入り込むことで擬似的にそう言うことを可能にしてるという事も無くは無さそうだ。

 

「グレイと私達はこのまま宇宙に戻って、貴方はどうするの?ニムバス大尉。」

 

 ヘルミーナが口を開く、恐らくは分かっている筈だけど彼の口から本音を聞きたいのだろう。

 

「私はこのまま作戦に参加する、先程言ったようにEXAMがマリオンを縛り付けているのならEXAMが無くなればもしかすれば彼女が目覚めるかもしれない。残るEXAMはこの機体を含めて2機、それも因縁のある敵だ、私が出れば奴も追ってくるだろう。」

 

「全部のEXAMを消す……大尉は死ぬつもりなの?」

 

「死ぬつもりは無い……と言えば嘘になるな。運が良ければ作戦が成功し帰還出来るだろうがあくまでこの作戦は捨て石を投げて一石二鳥を狙うようなものだ。上手くは行かないと思っている。」

 

「そんなの、マリオンが悲しむ。」

 

「ふっ……ここだけの話だがEXAMの中で私は彼女を手荒に扱ってしまったからな。嫌われていると思う。」

 

「そんなの……!ちゃんと仲直りすれば……!」

 

「ヘルミーナ、大尉は全部分かってて言ってるんです。納得してあげましょう。」

 

「姉さん……。」

 

 全て覚悟の上で自分の生命を捨ててまでマリオンを護りたいのだ、EXAMを扱える彼だからこそ役目を果たす為にこんな生きて帰れない作戦に出ようと。

 

「マルグリット曹長、ヘルミーナ曹長、既に宇宙の救援部隊にHLVの回収の手筈は整えさせてある。君達は機体と共にこのまま宇宙へ……それとこれを。」

 

 手渡されたのはカードキーだ、ジオン軍人に手渡されている一般的な物とは違い彼個人の物だろう。

 

「数年は暮らしていけるだけの金が入っている。マリオンが目覚めたらこれを渡しておいて欲しい、私にはもう必要無くなるだろうからな。」

 

「……わかりました。」

 

 彼からカードキーを受け取り大事にしまう、小さな物だがその重みは計りきれない物であった。

 

「それではHLVの打ち上げの準備に取り掛かる、機体の格納と機材の積み込みを手伝ってくれ。」

 

「了解です。」

 

 その後、MSと必要最低限の機材の積み込み、そして今回得た機体や装備のデータなどを収納しHLVは打ち上げを待つだけの状態となった。

 

「君達が宇宙に戻った後、グレイ少尉が目覚めたらこれを渡してくれ。」

 

「手紙……ですか?」

 

「あぁ、先程の無礼を詫びた物だ。マリオンの事も頼んである、身勝手だがよろしく頼む。」

 

 深々と私達に頭を下げる大尉に敬礼で応え、私達はHLVに乗り込み打ち上げ手順を済ませいよいよ宇宙へと戻る手筈が整った。

 

「マリオンを頼んだぞ……。」

 

 最後に大尉がそう呟いたのを感じながら、地球のGが私達を締め付け宇宙へと押し上げて行った。

 

 

 

ーーー

 

「……っ?」

 

 異様な身体の軽さを感じながら俺は目を覚ました、此処は何処だ?見たところ船の中の様だが。

 

「グレイ、やっと起きたね。」

 

「ヘルミーナ、此処は……っ!まさか宇宙か!?」

 

 フワリと動いた身体で漸く此処が地上ではないと認識した。一体どうして……!

 

「お兄さんはニムバス大尉に気絶させられたんですよ、その間に大尉はHLVで私達を宇宙に戻したんです。そして救助に来てくれた味方部隊のムサイで今サイド6まで向かってもらっています。……ニムバス大尉からお兄さんが目を覚ましたらこれを……と。」

 

 マルグリットから大尉が渡したと言う手紙を受け取る。封を切り、中身を確認する。

 

 

 グレイ少尉へ、これを読んでいるという事は既に宇宙へ上がっている頃だと思う。君はその現状に怒っていると思うがマルグリット曹長やヘルミーナ曹長をどうか責めないで欲しい、彼女達は君を思い私の身勝手を許してくれたのだ。

 このような行いをしたのは私のエゴによる所が大きい。もしもマリオンが目覚めた時、頼れる人間がいて欲しいと願ったからだ。そしてそれは私にはもう相応しくないと感じている。

 EXAMというシステムに触れて、私の中にあるマリオンへの劣等感、他者への傲慢さという物が日に日に増していくのが分かる。このままでは私はシステムに呑まれクルストの理想の為の駒へと成り果ててしまうだろう。その為に君達ニュータイプと呼ばれる者達を遠ざけたのも一つの理由だ。クルストの死の間際、奴は私にEXAMの本懐を遂げろと、ニュータイプという化物共を抹殺しろと呪詛のような言葉を吐いた。平時の私なら切り捨てている言葉の筈なのにその時の私は奴の言葉に賛同を覚えてしまっていた。

 私にどれだけの時間が残されているかは分からないがせめて君達やマリオンには最後まで誇り高いジオンの騎士のままでいたかった。どうか許して欲しい。

 

 願わくば、君達の未来に幸多き事を祈る。

 

 

 手紙を読み終え震える手を握る。また……また俺は置いて行かれた……!

 

「隊長も……!ニムバス大尉も……!みんな俺を残して……っ!」

 

 何で俺を連れて行ってくれない!どうして俺を……死なせてくれないんだ!

 

「グレイ……。」

 

「お兄さん……。」

 

 打ちひしがれる俺に、更に追い討ちをかけるように艦の兵士が味方からの通信を伝えに来た。

 

「失礼します、先程北米大陸で連邦とネオ・ジオンの会談が成立したと情報が。」

 

「……っ。我が軍の被害は?」

 

「会談を阻止する為に出撃した地上残存部隊の殆どが壊滅……生き残った少数の部隊が鉱山跡を改修した拠点から潜水艦でオーストラリア大陸へ向かったと。」

 

「ニムバス大尉……いや、連邦の機体を利用して出撃したパイロットがいた筈だ。彼はどうなった。」

 

「ハッ。敵陣深くに斬り込み賊将キャスバルを撃墜一歩手前まで持ち込むも後一歩及ばず撃墜されたと報告がありました。」

 

「大尉……っ。」

 

 結局また同じ事を繰り返してしまった、隊長の時と同じく味方を見捨てて……!

 

「それは違います、お兄さん。」

 

「マルグリット……。」

 

「ニムバス大尉は……ニムバスさんはお兄さんならマリオンを助けてくれるって信じたから後を任せてくれたんです!それは彼処で死ぬよりももっと難しい事だって分かっててそれでもお兄さんを信頼して託したんです。だからお兄さんがニムバスさんを見捨てただなんて思わないで!」

 

 普段の冷静さからは信じられないくらい感情を発露させるマルグリット、その言葉に救われてしまっている自分もまたいた。俺は……大尉から託された願いを護らなければならない、此処で大尉の仇討ちの為にまた地上に戻ったらそれこそ大尉の死が無駄になってしまう。

 

「あぁ……すまなかった。俺は、俺は……大尉の願いを護ってみせる。」

 

 フラナガン機関に戻るのならマリオンのいるリボーコロニーへも簡単に行き来が出来る、まずはあの子の身の安全を確保して戦乱に巻き込まれないように、再びフラナガン機関に連れて行かれないようにしなければならない。それを果たしてから俺の本懐を遂げなければ大尉に申し訳がない。

 

「だが絶対……絶対にアイツだけは……。」

 

 連邦の白いMSのパイロット、今後戦場が宇宙に移行すればいつかまた奴とも再び邂逅する事もあるだろう。その時は必ず、必ず皆の仇を取ってみせる。2つの誓いを胸に刻み、船は再び俺達の始まりの地に向けて航路を取るのだった。

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