機動戦士ガンダム 紺碧の空へ   作:黄昏仮面

40 / 110
第39話 ヴァイスリッター改造計画

 

「天才!貴方達は天才よー!」

 

 今迄に無い盛り上がりを見せた模擬戦を終え、夕飯を楽しんでいた俺達……いやアムロとカイにクロエ曹長が飛び掛かっ…抱きついていた。

 

「どうしたんだクロエ曹長?頭でも打ったのか?」

 

 気が狂ったのかと言わんばかりのハイテンションなクロエ曹長を見て思わずそう口にしてしまう、多分こんだけハイテンションなのはMSが関わっているんだろうけど。

 

「私は正常です!正常だからこそこの子達の凄さに感動しっっっぱなしなんです!アンダーセン中尉とは比べ物にならないくらいの宝の宝庫を持ち帰って来たんですよこの子達は!」

 

 宝の宝庫ってなんだよと頭痛が痛くなるような言葉になってしまっているテンション高めのクロエ曹長とは裏腹にアムロとカイは照れてしまっている、ヤバいテンションとは言えそれなりの美人に抱きつかれてはうら若き青少年にはキツいだろう。ふっ、これが若さか。

 

「あ、あの放してください。」

 

 アムロの恥ずかしさの混じった声にごめんごめんと離れるクロエ曹長。

 

「でもね、貴方達はホントに凄いわ!ガンダムの戦闘データもそうだけどガンキャノン、それにガンタンクもあれだけの実戦データが集まるなんて……あぁ……っ!」

 

 興奮が冷めやまないクロエ曹長、たしかに原作でもジムなんかはガンダムの実戦データを導入してから性能が向上したしメカニックとかからしたら大歓喜するのも仕方ないのか。

 

「あんまりよく分からないが俺達の戦闘データってのはそんな興奮するもんなのかい?」

 

 カイの台詞にうんうんと頭を上下させながらクロエ曹長が説明を始める。

 

「元々ガンダムみたいな高性能機ってね、使い熟せば使い熟しただけ既存のMSが集めるデータよりも質の高いデータが手に入るのよ。簡単に言えば普通の乗用車をどれだけ使いこなしても140km時のデータが最高値として……貴方達はレーシングカーを乗りこなして300,400km時のデータを集めて来たの。」

 

 あんまり良く分からない例えだがつまり俺達がジムやメガセリオンで集めるデータには限界があったのに対してアムロ達はガンダムで更に上回ったデータを持ち帰ったって事か。量産機を作るにあたり高性能のデータの転用ってのは重要だし既存の機体に対しても与える影響は大きい。

 

「元々ガンダムには高性能な学習型コンピュータも搭載されてるんだったよな、それならOSの質も向上するんだろ?」

 

「えぇ勿論!姿勢制御から攻撃動作まで様々な面で今迄の倍……いや3倍近い向上が見込めますよ!」

 

 おぉ、そんなにもか。パイロットをやって来てやはり操縦面での不便と言うのが多かったのでOSの向上はかなり嬉しいものだ。思えば最初の頃は動かすだけでも一苦労だったからなぁ……。

 

「よっし。これでヴァイスリッターも宇宙で活躍できそうだな。」

 

「え?」

 

 クロエ曹長の間の抜けた声。

 

「え?って何だよ、性能が上がるって事は更に戦えるって事だろ?」

 

「え、いや。中尉……まさかヴァイスリッターを宇宙に持っていくつもりなんですか?」

 

「当たり前だろ、俺の愛機だぞ?」

 

「いやいや、ヴァイスリッターって地上用のMSですよ?宇宙じゃ戦えませんって。」

 

「……え?」

 

「それこそ『え?』じゃないですよ、ヴァイスリッターの基になったのはグフですよ?ある程度連邦製にしたとは言え宇宙戦は想定してませんよ?気密性も高くないですし。」

 

 ……言われてみればプロトタイプグフを基に造ったんだよなそりゃ宇宙には行けない……行けないのか……?

 

「そ、それならメガセリオンは!?あれもグフが基だろ!?」

 

 兄弟機みたいなもんであるメガセリオンもそれなら宇宙戦は行えない筈!そうだよな……?

 

「いやいや、メガセリオンは拡張性が高いMSですからちょっとの換装で宇宙戦仕様にはできますよ?最初期に製造されたメガセリオンでは確かに難しいですけど新しいラインで製造中のものは宇宙戦も見越した状態にしてありますから。」

 

 そうなのか……アーニャのフィルマメントもジムスナイパーからの流用だし宇宙戦は問題ないよな……となると。

 

「俺だけ宇宙では戦えない……?」

 

「いや、ジムやメガセリオンに乗れば良いじゃないですか……。」

 

 当たり前の返答、いや……だがしかし!せっかく愛機があるのに宇宙で使えないって悲しい……辛い……。

 

「何とか改造とか……。」

 

「軍事費もタダじゃないですから申請通らないんじゃないですか?元々ヴァイスリッターも運用データ取り用にゴップ将軍から特別に拵えて貰ったものですしお役御免の時期に入ったと思いましょうよ。あの子は充分やってくれましたし。」

 

 言ってる事は確かに分かる、V作戦の支援の為に実用データを回収するのが主目的……と言うか建前だったし既にその役目はジムやメガセリオンが完成した時点とガンダムが此処に来て実戦データが回収された事で終了している……悲しいけど此処でさよならなのか……?

 

「俺の……俺のヴァイスリッター……。」

 

「いや、中尉のじゃなくて連邦軍の物ですからね?あと私のでもあります。」

 

 クロエ曹長の正論も耳には通らず残っていた夕食を放って俺はあてもなくトボトボと歩き出す。

 

 

ーーー

 

 

「ジェシーさん凄い落ち込んでましたけど大丈夫なんですか?」

 

 アムロ君の言葉に心苦しさを少し覚える、アンダーセン中尉にちょっと強く言い過ぎたかもしれない。あんなにショックを受けるとは流石に思わなかった、男心は複雑なのかな。

 

「うーん、流石にちょっと言い過ぎたかしら?でも宇宙に持って行こうにも改修が必要だから、さっき言ったよう軍事費が必要だし申請しても通らないと思うのよね。」

 

 ただでさえヴァイスリッターは実験機でメガセリオンと規格が似ている箇所は多いとは言え、細かい所は特注で頼まなければならない曲者なのだ。ゴップ将軍直属の部隊とは言え機材の調達は中々難しいしそろそろ限界といえば限界だったのだ。

 

「まぁ自分だけの専用機ってのは男だったら誰でも憧れるもんだからな、ジェシーさんが落ち込むのも無理は無いお話だってことね。」

 

 カイ君の言葉にそんなものなのかと感じた、確かにジオンでは同じザクでもエースには専用の調整や武装など融通を効かせているようだしプライドや拘りなどが強いのだろう。

 

「けどこればかりは流石にどうしようも無いからなぁ。」

 

 これが少しの手間で宇宙用に改装出来るなら良いけどヴァイスリッターをとなると改造の域になる、そうなると諸々の資材やパーツを調達するのに結構な費用がかかってしまう。ジムやメガセリオンが既に千機以上も稼働している中でメンテナンスも他の機体との互換性もあまり良くないヴァイスリッターに降りる予算はないだろう。

 そう思っていると、既に夕食を済ませて先程から端末に何かを打ち込んでいたエルデヴァッサー中佐が私にその端末を手渡してきた。

 

「クロエ曹長、これだけの物資が調達出来たとして機体改修に他に必要な資材、それに掛かる費用など算出できますか?」

 

 其処にはMSに一般的に使われている資材、細かな部品などのリストが羅列されていた。それとは別に見たことのない武装や外装などのサンプルデータ等も入っている。

 

「そちらはジェシーを始め、多くのテストパイロット達が考案している兵装の企画案です。その中から比較的開発しやすい物をリストアップしてありますクロエ曹長の視点から有用性のある装備のピックアップをお願いします。」

 

「これって……。」

 

「えぇ、『MSの運用データ収集用の実験機』はお役御免になっても『兵装試験用MS』としてならヴァイスリッターもまだまだ活躍出来るかもしれません、流石に予算の方は厳しいでしょうから私の一族の管理していた軍関連の企業からある程度の物資は調達する形になりますが。」

 

 流石は貴族の家柄だ、これだけ使用できるものが多いなら残りはホントに少ない予算だけで改造出来てしまう……。別に新規で申請しなくてもパーツの予備とかで申請掛ければ普通に通りそうだなぁ。

 

「でも良いんですか?公私混同だと面倒臭い人達に目を付けられたりしません?」

 

 ただでさえ私達は連邦軍の軍閥の中でも武闘派ではないゴップ将軍の麾下として見られている、MS関連の事となると将軍の影響下にある基地とかならともかく、こういうジャブローのような派閥間の人間が入り乱れるような所では目立つような事をすると眼を光らせる人間はそれなりにいるのだ。

 

「構いませんよ、何か揉めるような事があれば私の名前を出しても問題ありません。これからの事を考えても私達の名と実は上げておく必要もありますしね。」

 

 幼いとは言え流石は中佐だ、既に今後の政争も視野に入れて動いてるって事なんだろう。整備以外の事は詳しくないのでそこら辺では力になれそうも無いけど私には私の戦争の関わり方がある。

 

「分かりました!中佐が満足するくらいの改造をやってみせます!それこそアンダーセン中尉が腰を抜かすくらいの!」

 

「期待していますよクロエ曹長。」

 

 そうと決まれば腕が鳴る、これだけ使える物が多いんだったら今回アムロ君達が持って来たデータなんかを踏まえても私の中にある考えられるだけのアイデアを使用した機体にできそう!そう考えると胸の高まりが抑えられなくなり私は急いで改造案の取りまとめ作業の為に整備デッキへと走り去るのだった。

 

 

「結局ありゃ何だったんだろうなアムロ……。」

 

「分かりませんよ……。」

 

 疾風怒濤で繰り広げられたどんちゃん騒ぎを終始見守るだけで終わった2人は未だ残っていた夕食を手につけながら傍観するしかなかった。

 

 

ーーー

 

「ヴァイスリッター……。」

 

 MS格納庫、その中に鎮座している俺の愛機に優しく語りかける。

 

「お前……宇宙に行けないんだってよ。今まで俺はそんな事も知らなかったんだ。笑ってくれ。」

 

「アハハハハ。」

 

 俺を嘲笑う声……、そうだもっと笑ってくれ。この無様な俺を。

 

「思えば初出撃は奇襲によるスクランブル発進だったな……結局あの時破損してメガセリオン用のとカラーリングそのままにして交換した右腕は何のブラフにもならなかったな。」

 

「そういえばそんな事もありましたね。」

 

 思い返せば自分専用の機体といってもあんまり活躍する場面はそこまで無かったな、やっぱりアムロとかみたいに単騎無双とかは主人公特権みたいなもんだろう。

 

「それでも……あの小さいアーニャを護れるだけの活躍はしてくれたよなヴァイスリッター!」

 

「小さいは余計です!」

 

「なんだよアーニャ、せっかくヴァイスリッターと盛り上がっていたのに。」

 

「初めから私だって気付いていたでしょう……。」

 

「まぁそうだけどさ、思い返すと色々あったなって思うよ。」

 

「そうですね……ほんの数ヶ月の事ですけどとても長い事のように感じます。」

 

 ザニーヘッドの時からそうだが、この数ヶ月の時間の中でMSと一緒にいる時間の方が多かったと感じる。まぁ1ヶ月くらい意識を失っていたからその間を含めたらあれだけど精神的にはそう思えるくらい愛機達との時間は多かった。

 

「この前アーニャが提出していたMS戦術論、あれも俺達の活躍の集大成みたいなもんだったな。」

 

「えぇ、現在考え得る戦況に対しての私が培ってきた経験から戦術論を纏めたものです。あれが少しでも役に立ってくれれば幸いです。」

 

「少しでも多くの兵士が生き残れるのがベストだからな。敵がどんな手段を用いてきても適切に対応出来ればそれだけで生存率は上がる。」

 

 敵を知り己を知ればというヤツだ、一瞬の判断が死を招く戦場ではあらゆる事態に対応出来るに越した事はない。それが単騎での戦闘時の物だったり味方との共闘時の対応であったりと、幅広く活用できる知識があれば生き残る確率は少しでも上がる。

 

「宇宙での戦闘データが無いのが悔やまれますがルナツー方面でも少数の部隊がMS運用を始めていますし、宇宙に上がるのも時間の問題ですからその時はより多くのデータが幾つもの部隊から手に入るでしょう。」

 

「宇宙での戦闘データはホワイトベース隊の数回の戦闘だけで殆どの運用データが地上の物だけとは言え、かなりのデータが集まったのは僥倖だろ?俺はもっと遅れると思っていたからな。」

 

 当初の歴史よりは早いスピードでMSの運用データは集まっている、それにメガセリオンと言った一機に拡張性を持たせたMSの登場で今後の新型MSの生産コストもオプションパックを前提とした互換性の高いものに変わればある程度抑えられるかもしれない。そう言った連邦の財政の余裕もあれば今後の展開もある程度良くなるかも知れない。

 

「後は無事に宇宙のジオンを叩けることを願うだけか。」

 

「やはりジェシーは不安ですか?」

 

「あぁ、武人肌のドズルはともかくギレンやキシリアと言った連中はどんな悪の手を使ってくるか分からないからな。オデッサみたいなルールを無視した行動なんて奴らは屁にも感じないだろうし。」

 

 なんとかソーラ・レイの危険性とかも忠告したいけど情報源など全く持ってない一介の兵士がそんな事を言ったところで無視されるのがオチか最悪の場合スパイと疑われかねない、原作知識も戦略的に関わらない立場の人間には自分と周りくらいにしか影響与えないのが辛いな……。

 

「そうですね、彼らがどんな手段を用いて我々を殲滅する気なのかは分かりませんが国力差のある中で未だに涼しい顔が出来ているのは少し懸念がありますね。我々の想像のつかない兵器群の開発をしていてもおかしくはありません。」

 

「それこそ戦争初期に使われたプラズマ砲の兵器みたいなのを連発して来るかもしれないな、次はプラズマ砲じゃなくて長距離長射程のビーム砲とかさ。」

 

 よし、話の流れで開戦初期に使われたヨルムンガンドを経由してソーラ・レイみたいなのあるかもとアーニャに伝えられた。

 

「確かマゼラン一隻を沈めたジオンの兵器でしたか?……あれは此方が偶然射程圏内に捉えていたからこそ沈められましたが、確かに射程圏外からああいった手合いの攻撃をされれば此方も危ういですね。」

 

「……しかし仮にそういった兵器があるとしても俺達に対策の仕様が無さそうだな、アーニャならもしそんな兵器が存在するとわかったらどう対処する?」

 

「私でしたらその兵器が存在する戦域には入らないようにしますね、しかしジオンが仮にそう言った兵器を所有していれば、此方が確実に来るしかない拠点に配置するでしょう。私ならア・バオア・クーかサイド3本国に配置するでしょうね。」

 

 頭の回転はやはり早いな、確実な視野を持って判断している。けどだからこそ、そう言った兵器があれば打つ手が少ないと彼女自身も分かっているようだ。

 

「此方から手が打てないなら内部からって話になるか、情勢が変われば此方に寝返ってそう言った兵器を破壊するように頼める可能性もあるよな?」

 

「えぇ、既に軍部の中にはスパイを送り込んで内乱を誘発させようと言った動きもあるみたいですよ。あまり良い結果は生まれてないみたいですが。」

 

 まぁギレンやキシリアもそこまでバカじゃないよな、スパイが潜り込めるような環境にはしてないだろうし、あの2人は策謀がメインな所もあるし。

 

「はぁー……結局俺みたいな一兵卒は頑張って戦うくらいしか役に立たそうにないな。」

 

「そんな事ありませんよ、ジェシーは普段はとぼけたような事ばかりしてますがこう言った時にはまるで未来を知っているかのように助言してくれますからね。今の会話も私にとっては有用なものでしたよ。」

 

「なんだよ、普段はとぼけたって!俺はいつでも全力だぞ!?」

 

「フフッ。ごめんなさいごめんなさい。」

 

 笑いながら俺を見つめるアーニャ、せめて彼女だけは死なせずに今後の歴史を変えて行ってもらいたい。だからこそ、俺には俺の戦いをするしかない。

 

「アーニャ、ヴァイスリッターが無くてもジムやメガセリオンで宇宙で戦ってみせる。だからさ、こんな馬鹿げた戦争で絶対に死なないようにしよう。俺はお前が作る未来が見たいんだからさ。」

 

「えぇ、私の戦後の戦いに貴方がいてくれないと困りますから。貴方も死んだら駄目ですよ、ジェシー。」

 

 互いに未来を見据え、宇宙の戦いに臨む。数ヶ月前このジャブローで誓った約束を胸に俺は次なる戦いの為に愛機を捨てても戦う覚悟を決めるのだった。

 

 

 

ーーー

 

「相変わらずお熱いなぁお二人さんは。でも中佐ったらヴァイスリッターの改造計画の事は伝えてないけど良いのかしら?まぁ知らずにいた方がジムやメガセリオンで戦う覚悟満々になってる中尉の拍子抜けした顔が見れそうだから面白そうだけど。」

 

 真面目な話をしてるんだろうけど、側から見たらイチャついてるようにしか見えない2人を格納庫の隅から見守りながら、私はヴァイスリッターの改造案を羅列しながら次々と構想を組み上げていく。

 

「今回のネオ・ジオンとの会談でジオン側の技術提供もあったし連邦機とジオン機のハイブリッドした機体ができるかも……!ワクワクするなぁ……!」

 

 いざとなったらGOP計画の開発陣を呼んでもらって改造させてもらおう、潤沢な資材を使って改造なんてホントに素晴らしいと感じながら生まれ変わる我が子ヴァイスリッターに期待せずにはいられなかった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。