機動戦士ガンダム 紺碧の空へ   作:黄昏仮面

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第43話 宇宙(そら)へ

 キャスバル乱入というトンデモアクシデントはあったものの、打ち上げ作業の殆どが終了しあとは宇宙へ上がるのみとなった。

 俺達第13独立部隊のメンバーは一度会議室へ集まり今後の段取りを再確認することになった。

 

「それでは、これより我々第13独立部隊が今後取る行動についての再確認を行います。……私が進行役で構わないのでしょうか?」

 

 不安がるブライトさん、階級的には飾りとは言え将校であるクソ親父やアーニャがいるので確かにそう思うのは仕方ないか。でも俺としてはブライトさんがブリーフィングするのは凄い感動するので目に焼き付けておきたい所。

 

「問題ありませんよブライト艦長、キャスバル総帥を除けばこの中で最も宇宙戦の経験のある艦長は貴方しかいないのですから。」

 

 アーニャのフォローにうんうんと頷く、今更ながら俺達旧774部隊の面々はシミュレーションくらいでしか宇宙戦を経験してないし足手まといにならないか不安だな。

 

「ありがとうございますエルデヴァッサー中佐、それでは我々第13独立部隊は宇宙に到達後、主力であるティアンム大将ら第一艦隊が向かうルナツー方面でなく、逆方向であるサイド6へ一度向かいます。」

 

 原作と同じく本命が狙われない為の囮として動く訳だ。事前にジオン公国にはホワイトベースにキャスバルがいるという情報がメディアの報道やスパイによる情報拡散で確実に周知されている、公国軍がこれに乗るかどうかは宇宙に上がらないと分からないが普通ならこれだけ餌をぶら下げているのだから釣られてくれないと困る。

 

「その後サイド6にて補給を終えてから我々は連邦軍主力艦隊と共にソロモン攻略作戦に従事、そしてソロモン突破後にア・バオア・クーの攻略に移ります。此処までで何か質問があればどうぞ。」

 

 作戦内容自体は原作通りだからそこ迄気にはならないが原作とは既に異なる未来を歩んでいる世界だ、色々と違ったところもあるかもしれない。一応手を挙げてみる。

 

「アンダーセン中尉、なんでしょうか?」

 

「想定される公国軍のMSとの戦闘ですがネオ・ジオンの方ではどんなMSが出撃してくると考えられているのか聞いておきたいですね。」

 

 気になる点その一、異なる未来だからこそ出てくるMSも何か変わっている可能性がある。つい先日までは公国軍だったネオ・ジオンにもそれなりに宇宙用MSの情報はあっただろう。それを確認しておきたい。

 

「それではブライト艦長に代わって私が説明するとしよう。基本的には地上と同じくザク、そして宇宙用に改装されたドムが主戦力になるでしょう、しかし既にご存知の通りザクにも複数のバリエーションがあり高機動型や、公国軍MS開発の主力である三メーカーの規格共通化、所謂統合整備計画後に開発された後期型のザクなどが現在の主力となっていて、これらは普段ザクと関わることのない連邦軍にとっては目視では見分けが付かないものとなっているので、交戦してから性能差を判別するしかないと言ったアクシデントが発生する可能性が高いでしょう。」

 

 OSの性能向上で機体識別も容易になってきているが、それでも地上機のデータばかりで肝心の宇宙機についてはF型か良くてR-1型のデータがあるかどうかくらいだ。この中にまたエース向けの調整がされた機体が現れれば更に判別が難しくなる。機体性能で勝ってる所もあるが戦場に過信は禁物だ。

 キャスバルの説明が終わるとグリムが手を挙げ次の質問に移る。

 

「これは噂で聞いたことなので信憑性は高く無いのですがジオンでは超人の研究をしていて、凄い反応でビームを避けたりするパイロットがいると聞きました。これらは事実なんでしょうか?」

 

 ニュータイプ……最近は連邦軍内でも聞くことが多くなったワードだ。異常とも言える動きと反応、それに卓越したパイロット能力は脅威である。幸いシャアとララァがこちらの味方でアムロもいるので敵として出てくるニュータイプはシャリア・ブルや小説にいたクスコ・アルなどに気をつければ大丈夫か?そういえばマリオンなんかはあの後どうなっているんだろう、目覚めていればまだフラナガン機関にいるのだろうか。

 

「事実だ、実際にキシリア・ザビが主導となり噂ではサイド6の何処かに独自の研究所を作ってニュータイプと呼ばれる人間の研究をしているとの話だ。」

 

「サイド6でぇ?彼処は中立のサイドじゃないのかい!?」

 

 これに驚いたのはララサーバル軍曹、まぁ開戦当初から中立を表明しているサイドではあるけど実際はジオン寄りであったし情勢が悪くなると連邦にも施設を提供したりと俺的にはアナハイムと同レベルであまり信用がない所なんだよな彼処は。

 

「サイド6の首相であるランク・キプロードンはザビ家のテコ入れで首相になれたと言うのはジオン公国では有名な噂話だ。実際に彼はキシリアとの関係も深いと聞いている、中立を謳いながらその裏では政治的な駆け引きが行われているという事だ。」

 

「それより総帥、そのニュータイプと呼ばれる人達については詳しい事は分かりますか?」

 

 アーニャが話しの本筋を戻す、今はサイド6の事よりも此方の情報の方が重要だもんな。

 

「あまり多くの情報は私も持ち合わせてはいないがフラナガン機関から出向してきたパイロットとは少しながらの交流があった。エルデヴァッサー中佐やアンダーセン中尉が私と戦った時に一緒にいた灰色の機体は覚えているだろう?」

 

 その言葉に頷く俺とアーニャ、そういえばあの時のイフリートはえげつない回避を繰り返していたし、何かおぞましいオーラを感じたからやはりニュータイプだったのだろうか。あんな機体原作ではいなかったと思ったが。

 

「彼らは君達とそう変わらない年齢でMSパイロットの経験も全く無かったらしいがニュータイプとしてのセンスなのか僅かな期間でエースパイロットすら凌駕する実力を身につけていた。」

 

 此処らへんはホントに驚異的なのがニュータイプだ、原作にしろ外伝作品にしろ急に機体に乗せられたにも関わらず歴戦のパイロット達を倒して行く奴らばかりだから味方にいれば頼もしいが敵として現れたら死を覚悟するレベルだ。実際アムロとシミュレーションで戦って全敗なのだから気を抜いたら速攻でやられている可能性だってある。

 

「対策は……しようがありませんね。」

 

 何かしらの特攻手段があればともかく今の時点では気を付ける以外に対策のしようがない。そもそも戦場にいる時点で気を抜くほど馬鹿ではない、常に最善を尽くすしかないんだ。それで駄目なら死ぬだけである。

 

「しかしだ、木馬……いやホワイトベースの面々もまたジオン公国からすれば黒い三連星を倒したエースパイロットとしてニュータイプ部隊ではないかと懸念されていた。それにアムロ少尉やカイ少尉もフラナガン機関のニュータイプと同様に実戦経験も無い状態からのこの戦績だ、実際にニュータイプとしての素養は高いように思うが。」

 

「確かにキャスバル総帥の仰る通り、彼らの実力は確かに味方としても頼もしいものです。しかし敵にも同レベルの素養を持つ者がいて、尚且つそれを軍事利用すべく研究が行われていると言う点ではジオン公国の危険性の方が高いように思います。」

 

「だけど情報が無い以上はそう言った素質を持つパイロットがそれなりの性能を持ったMSで襲いかかってくる可能性があるってくらいしか対策のしようがない。これから向かう先はそういった敵がいるのを覚悟の上で戦おう。」

 

 パイロットの面々は頷く、せめて一対多数で掛かることが出来れば安全性は増すが敵もそんなヘマはしないだろう。

 

「それでは宇宙打ち上げ後の大まかなルートの説明に入ろう。」

 

 クソ親父がモニターに宙域の映像を写し出す、サイド6までの予定航路が線となり流れて行く。

 

「まず我々はサイド5、ルウム方面へ進路を取りその後サイド2を経由してサイド6へ向かう事になる。だが既に残骸と化しているコロニーが多数放置されているこの区域は敵が潜むにはうってつけの場所であり、敵の奇襲を想定して移動する事となる。」

 

「敵がいると分かっているなら回避すれば良いんじゃ無いのか?何でわざわざ壊滅したコロニー群を通って進む必要があるんだ?」

 

「我々の本来の目的は何だと思うジェシー中尉、そう陽動だ。我々はただ主力艦隊と別方向に進軍するだけの部隊ではない。敵を引きつけて目立つ必要がある。」

 

 ……成る程、つまり敵に対してわざと目立って虎の子の部隊が此処にいるぞと喧伝しろって事か。

 

「まずホワイトベースが先行して進み、我々はその後続として後方から援護に回る。ホワイトベースはその独特な外観からとても目立つから敵はまずホワイトベースを一目散に狙いに来るだろう、その時に後方から我々が打って出る事で浮き足立った所を叩くのを狙う。兵力で劣る我々はその戦力を有効に使う必要がある。」

 

「アンダーセン提督の戦法は理に適っています、私達は少ない戦力で時にはエース級の敵とも交戦する可能性を考慮しながら戦う必要がありますから卑怯と言われようと勝つことを前提に進む必要があります。」

 

 どんな手段を使っても勝つために最善の手を使うか……、と言っても此方は基本的に既存兵器を使用しての戦いだが向こうはとんな手段を用いてくるか分からない、オデッサの二の舞となるような事が無いかも心配する必要がある。そしてブリーフィングも終わりアーニャが締めに入る。

 

「作戦指示書は各々の担当毎に区分分けして配布します、それらを熟知し宇宙で不備のないようにお願いします。出港は明後日の1100を予定しています。それまで各員最後の休暇を楽しんでください。以上で解散します。」

 

 いよいよ明後日には宇宙だ、覚悟を決めて行くとしよう。そう思いながら会議室を出ると其処にはマチルダ先輩とウッディ大尉がいた。

 

「先輩、それにウッディ大尉も。誰かに用ですか?」

 

「あぁ。誰かと言うよりはホワイトベースのクルーと君達に用があってな。聞いたよ、明後日には宇宙へ行くのだろう?」

 

 ウッディ大尉は真剣な眼差しで此方を見ている、どうやら心配してくれているようだ。相変わらず優しい人だな。

 

「そ、それでだなアンダーセン。明日は空いているか?」

 

 先輩は何処かぎこちなく喋っている、何だろう?

 

「えぇ、ジャブローでの最後の休暇になると思います。そういえば先輩達も宇宙に上がるんですか?」

 

「うむ、俺もマチルダも補給部隊としてコロンブス級に配属されている……と、それは今は良いんだ。重要な……は、話しがある。」

 

「その……だなアンダーセン、君達が宇宙へ上がる前に私達の結婚式に立ち会って欲しいんだ。」

 

「……あぁ〜!成る程!」

 

 顔を真っ赤にしているウッディ大尉とマチルダ先輩を見ながらやっと理解できた、そうだ……二人は生きていて今ここにいる。それはつまり……そう言うことなんだ。

 

「ちょっと待っててくださいよ!今みんなに報告をしてきますから!というかまだみんな会議室にいるよな……おぉぉぉーいみんなぁー!」

 

「お、おい!待てアンダーセン!そんな大声でー!」

 

 

 

ーーー

 

 

「マチルダさんに婚約者がいたなんて……僕知らなかったですよ……。」

 

 あの後全員に報告が終わり明日はみんな結婚式に参加となったのが、傷心のアムロがそこにはいた。

 

「……まぁ初恋は殆ど叶わないみたいだぞアムロ、目一杯落ち込んだら明日はちゃんと笑顔で迎えてやれよ?」

 

 初恋と言うよりは憧れの女性と言った方がいいのか、何にしてもショックは大きそうだ。

 

「はい……。でもマチルダさん、とても幸せそうでした。」

 

「こんなご時世だからな、もし宇宙で離れ離れになったらこう言った事も出来ずに今生の別れになることだってある。先輩は良い人に巡り会えたんだ。」

 

「えぇ、ウッディ大尉はとても良い人でした。まるで家族みたいに僕たちを見てくれて。」

 

「家族みたい、と言うよりは家族として本当に見てると思うよ。命を賭けてフィアンセが補給を何度もした艦のクルーなんだ、俺達が思ってる以上に強い繋がりを感じてくれてると思う。」

 

「……はぁー。」

 

 大きく息を吐くアムロ、敵わないなぁと言いながらもちゃんと割り切れたのか先程より良い目をしている。

 

「明日が楽しみですねジェシーさん。」

 

「あぁ。」

 

 俺としても二人の結婚が見れるのは感無量だ。原作では二人とも死んでしまうという悲しい結末だったからこそ、明日の出来事は誰もが祝福を贈るべき祝い事なのだ。

 

 

ーーー

 

 

「おめでとー!」「おめでとうございます!」「チクショー!幸せになれよー!」

 

 三者三様な祝福の言葉の中、其処には純白のドレスに包まれたマチルダ先輩、そしてその夫となるウッディ大尉が並んで立っている。

 

「おめでとうマチルダ君、幸せになるのだぞ。」

 

「ありがとうございます、アンダーセン提督……。」

 

 ホロリと涙を流しながら感動している先輩、アムロ達もそうだがみんなが笑顔だ。……中にはかなり羨望な眼差しを向ける女性もいるが。

 

「ブーケトスって受け取ったら次に結婚出来るとかだったかしら?ねえグリムくん知ってる?」

 

「いえ僕は男なのでそこまで詳しくないですけど……カルラさん知ってますか?」

 

「アンタねぇ、アタイがそんなこと知ってそうに見えるかい?」

 

「ハハッ、そうですよね。カルラさんってそう言うのとは無縁に見えるし。」

 

「なぁんだってぇ!?」

 

 此方は此方で何かコントみたいな事をやっている、ブーケに異様な執念を見せ始めているクロエ曹長と相変わらず漫才みたいなことをしているグリムとララサーバル軍曹。

 

「みんな、凄く楽しそうですねジェシー。」

 

「あぁ、こんなご時世だからこそ、こう言った一日が凄く大事なんだって分かるよな。殺意が入り混じる戦場で戦う俺達がこうやって祝福だけを胸に抱けてるんだから。」

 

「ウッディ大尉も、マチルダ中尉も凄く幸せそうです。私も女性だから少し憧れますね。」

 

「と言ってもアーニャが結婚するなんてまだまだ先だろう、犯罪じゃないか。」

 

「むっ!どういう事ですか!私も来月には16歳です、国によっては結婚可能な年齢になるんですよ!」

 

 と言われてもなぁ……見た目が見た目だし、手を出したら年齢的に問題なくても何か犯罪じゃないか?ってなるんだよなぁ。あと大声で言わないでくれ、周りがめっちゃ見てるじゃないか。

 

「おやおや〜?夫婦喧嘩でございますかぁ?」

 

 調子に乗ってからかいに来たのはクロエ曹長。何かこの人、場のテンションで酔ってないか?ノリが酔ったおっさんのそれだぞ。

 

「夫婦ではありません!それにまだ交際もしていません、ただの上司と部下の喧嘩です!」

 

「ホッホー。『まだ』交際してないと言う事はいつかはそういう事になるのですか〜?」

 

「言葉遊びはやめてください、それにクロエ曹長いつもよりおかしくないですか?」

 

「センセーは何か場に酔ってる感じがあるねえ、普段よりテンション高いじゃないか。」

 

 俺の考えをララサーバル軍曹が代弁してくれた、やっぱ女性的にはこう言う場だと色々思うところがあるのかね。俺にはよく分からん。

 

「だってぇー。みんな幸せそうじゃないですかー。私だってあんな風にみんなから祝福されたいですもん!」

 

「なら先ずは相手から見つけた方が良いんじゃないか?……選んでくれる相手がいればだけど。」

 

「なんですってぇ!」

 

 あっヤバい、逆鱗に触れてしまった。未婚女性にこう言った話題はNGなのは今も昔も変わらないようだ。

 

「これこれアンダーセン中尉、レディに対して無礼な発言をしてはならんぞ。」

 

「うわっ!ゴップ将軍!?なんでここに!」

 

「何故と言われてもな。聞けばウッディ大尉とマチルダ中尉が結婚すると言うじゃないか、老婆心ながら仲人を買って出たのだよ。」

 

 そういや原作でもミライさん辺りに似たような事やらせてくれとか言ってたな、世話好きというかお祭り好きというか……。

 

「ふむ……素晴らしい光景ではないか。今だけは血に染まらず純白のままで皆から祝福されるべき時と言うことだ。」

 

 まぁその通りだけどこの人が正論言ってると何か胡散臭く感じるのは俺だけか?

 

 

 それから時間が進み、ゴップ将軍の長たらしいスピーチも終え、ついに二人は口づけを交わして夫婦となった。自分の事ではないのに感動で涙が止まらん……。

 そしていよいよ花嫁によるブーケトスの時間となり、集まっている女性陣は何かソロモンでドズルが出してたオーラみたいなのが見えるくらい殺気が出ていた、怖えよ。

 そしてマチルダ先輩が大きく上にブーケを飛ばした瞬間、神の悪戯か突風が舞い上がり想定していた場所から少し離れた場所にいた女性の元に落ちた。

 

「あれ……?私?」

 

 そこにいたのは自分にはまだ早いだろうと一歩引いた所にいたアーニャだった。これには周りの女性陣も絶叫した、主にクロエ曹長だが。

 

「ええぇぇぇ!なんで中佐がぁ!?」

 

「センセー残念だねぇ、そう言えば昔どこかでブーケを貰った人が結婚するまで他の人は結婚できない呪いがあるって都市伝説を聞いたことが……。」

 

「なんですって!?中佐!早く誰かと結婚してください!ほら、其処らへんにいる誰かで良いですから!」

 

 そんな事言ってるから結婚出来ないのでは?そう考えながら楽しかった一日が過ぎて行った。……いよいよ明日は宇宙だ。

 

 

 翌日、俺達第13独立部隊は各々の艦に乗り込み打ち上げの時間を待つ。

 

「そういえばアーニャ、この艦の名前って無いのか?ほらアナンケとかレナウンみたいな。」

 

「そう言われてみれば確かにマゼランと言う名前だけでは味気が無いですね、しかし私達は別に旗艦という訳ではありませんから名前を付ける必要性はないと思いますよ。」

 

「それはいけませんなエルデヴァッサー中佐、船は名前があってこそ愛着が湧くと言うものです。昔から船乗りは船に名前をつけ妻のように愛するものです。」

 

 会話に割り込んできたのはクソ親父だ、何が妻のようにだ……母さんを見殺しにした癖に……そう心の奥底から込み上げてくる感情を何とか抑える。

 

「じゃあ提督殿は何か良い名前でもあるんですかね。」

 

 そう邪険に扱うも、クソ親父はそれに対して普通に頷いた。

 

「そうだな、艦の色にも合う花の名前がある。アンゼリカと言ってヨーロッパでは聖霊の宿る根として魔除けにも使われていてな。花言葉にはインスピレーションや霊感と言った先日聞いたニュータイプに合う言葉もある。」

 

「……俺達はニュータイプじゃない。」

 

「私はニュータイプと言うのは戦闘能力に優れた兵士という意味で使われるべきでは無いと思っているよ、新しい時代を開く世代の子。それがニュータイプだと私は思っている。」

 

 親父の付けた名前に、何故かアーニャが無言で黙り込む。その顔には驚きと感傷が漂っていた。

 

「アンゼリカ……。」

 

「お気に召しませんでしたかな?」

 

「いえ……いいえ……!私はいいと思います!ジェシーもそうですよね!?」

 

 俺は別に……と思ったがアーニャの勢いに押し切られて思わず頷いてしまった、何か感銘を受ける所があったか?とは思ったが無駄に詩人みたいな事を言ったクソ親父という点を除けば確かにそれなりに良いとは思うけど。

 

「それでは管制塔に今後はアンゼリカと呼称してもらうように通達しておきます。…………この船は絶対に二度と沈ませはしない。」

 

 最後に何かボソッと呟いたようだが聞き取れなかった、まぁ今は船の名前よりも宇宙に上がるワクワクの方が勝っていた。この宇宙世紀では当たり前なのかもしれんけど俺の生きてた21世紀という時代では宇宙なんて一部の人間だけの世界だったから其処にいけると言うだけで普通に凄く感じてしまっているのと、宇宙に行くときはどれだけのGが掛かるのかって不安もあった。

 

『間もなく、ホワイトベースとマゼラン級アンゼリカの打ち上げに入ります。乗組員は速やかにノーマルスーツを着用し、所定の位置に移動して座席の固定を終わらせてください。繰り返しますーーー』

 

 スピーカーからいよいよ打ち上げのカウントダウンが告げられる、周りを見ながら何か間違ってないか何度も確認しながらいよいよ10カウントが告げられる。

 

『打ち上げ10秒前、9,8,7,6,5,4,3,2,1……0。』

 

 カウントゼロと同時に物凄い音が艦内に響き渡る、外付けのブースターが点火した音だ、それとは同時に凄い勢いで身体に圧力がかかる。これが打ち上げ時のGか……!

 

 どれだけの時間が経ったのか、ふとした瞬間にそれまで掛かっていた圧力がフッと消えて、逆に身体がフワフワと軽くなったのを感じる。宇宙に着いたんだ!

 

「おおぉ……これが宇宙か……。」

 

 艦の外から見えるのは無限に広がる宇宙、星々の輝きと目下に移る綺麗な地球に感動した。

 

「各員、宇宙に上がって早々だが第二種戦闘戦闘態勢に移れ。ジオンが仕掛けてくるタイミングはこの打ち上げ直後に充分有り得る、警戒を怠るな。」

 

 親父の声にハッとして急いでMS格納庫へと向かう、制宙権は依然としてジオンは失ってはいない。この地球近辺にも網を張っていてもおかしくはない。

 

「ジュネット中尉、ホワイトベースとの距離は。」

 

「ホワイトベースとの距離は約500、射出タイミングのズレで我々とは少し離れた位置にあります。」

 

「ホワイトベースへ向かい全速前進、回線を開け。」

 

『アンダーセン提督、どうやら少し離れた位置に打ち上げられたようです。』

 

「今我々はホワイトベースに向けて前進している最中です、ブライト艦長は進路をサイド5へ向け出力30%程で前進してくだされ。我々が追いつき次第予定航路へ向かいましょう。」

 

 

『了解しましーーーザ……ザザ……』

 

「通信が鈍い……!?しまった……!ジュネット中尉、ミノフスキー粒子濃度はどうなっている!」

 

「ハッ!……我々の前方よりミノフスキー粒子濃度が上がって来ています……これは!敵巡洋艦2隻!ムサイです、提督!」

 

「総員戦闘配置!MS隊は出撃し艦を守れ!」

 

 

 

「くっ!いきなり敵襲か!」

 

 下手したら上の連中がわざと打ち上げ情報リークしてたんじゃないのか?ってくらいのタイミングで敵が現れた、宇宙に出て早々倒されてたまるかってんだ!

 

「こちらMS隊隊長エルデヴァッサー、各機搭乗完了。いつでも出られますアンダーセン提督!」

 

「中佐、まだ敵の総数も機種も不明の状態だ。出撃後は敵の動きが分かるまで無理な行動はせずに艦の護衛に努めてください。」

 

「了解です、全機発進します!」

 

 開かれたハッチから投下されるように降りて体勢を整える。地上とは違い四方八方が全て移動可能な宇宙空間だ、色々と勝手が違うが今はすぐにでも慣れて敵を倒すしかない!

 

「前方よりザクを確認!ジェシー、先陣は任せます。ヴァイスリッターの機動力で敵を引きつけて我々へ誘導してください!」

 

「了解!ジェシー・アンダーセン、ヴァイスリッター!突撃する!」

 

 初めての宇宙(そら)で戦いの火蓋が幕を開けた。

 


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