機動戦士ガンダム 紺碧の空へ   作:黄昏仮面

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第44話 宇宙という名の海

 

「マゼラン級アンゼリカ、敵ムサイ2隻と交戦を開始しました。ムサイからはザクが数機確認されています!」

 

 通信手のセイラが戦況を報告する、敵の奇襲に備えが無かったという事はないが宇宙に上がった直後でこれだけ早く行動を起こしてくるとは予想外だった。

 

「くっ!ミライ、反転してアンゼリカに急行できるか!?」

 

「行けはするけど危険よブライト、敵があのムサイ2隻だけとは限らないわ。」

 

 確かにムサイ2隻だけで我々に攻撃を仕掛けてくるとは考えにくい。伏兵の可能性も視野に入れて行動しなければアンゼリカに向かう最中に挟撃されるという可能性もある。

 

「くっ……確かにそうだな。MSの出撃準備はどうか?」

 

「アムロは既に格納庫に、ハヤトも今向かっている最中です。カイとリュウは自室で休憩していたみたいで今から向かうと。」

 

「二人にはゆっくりで構わんと伝えろ、急いで無駄に体力を消耗させる場面ではない、アンゼリカまでは遠いのだからな。アムロ達にはいつでも出撃出来るよう待機しておけと伝えてくれ。」

 

 現状はこの二人で様子見し、その後必要であればカイとリュウを投入すれば良いだろう。しかしやはり懸念すべきはアンゼリカの方だ、こちらと違い4機だけでは中々厳しいだろう。

 

「私のドムを出そうかブライト艦長?あれなら少し時間はかかるが彼らの救援に行く事も可能な筈だ。」

 

 ブリッジにいたキャスバル総帥がそう進言する。彼のリック・ドムは他の機体よりも多く推進剤を積んでいるので確かに救援に向かうには最適であるが……。

 

「いえ、今は彼らを信じて任せましょう。彼方が陽動で本命が此方に向かっている場合ここで貴方を単騎で出撃させるのは危険です。」

 

 アンダーセン提督の手腕とエルデヴァッサー中佐らの戦いに期待するしかない、そう無力さを噛み締めながらも今出来ることを最大限にこちらはするだけだ。

 

 

ーーー

 

 

「機体識別……高機動型か!」

 

 モニターをレーザー通信状態に切り替えて表示された敵機の識別に更に一層の警戒を入れる。地上では障害物の影響であまり有効活躍する場面が無かったが宇宙ではレーダー使用不可のミノフスキー散布化でもレーザーによる可視光で通信やら何やらが出来る。

 

「敵機のザクは全て高機動型だ、これよりヴァイスリッターは交戦状態に入る!」

 

「了解です、敵を牽制し此方へ誘導を!」

 

「了解!」

 

 スピードを上げ一気にザクを有効射程距離に持ち込む、それと同時にビームライフルを構え威嚇射撃をする。ガンダムの物よりは威力は低いがそれでもジムのビームスプレーガンよりは高威力だ。当たればただではスマンぞ!

 

 

「ヴァイスリッター、敵MSとエンゲージ。」

 

「ジュネット中尉、敵ムサイの動向はどうか。」

 

「依然此方へ進路を向け接近中、有効射程までこのままの速度なら3分と言った所です。」

 

「面舵30、出力を70%まで上げ主砲発射用意。」

 

「この距離からでは当たりませんが。」

 

「構わん、ヴァイスリッターに接近する敵機を牽制すると共にムサイにも威嚇をしておく。撃て!」

 

 アンゼリカの主砲による援護射撃が後方から放たれる、少しは敵の動きが制約されて動きやすくなった……が!

 

『ふん!アースノイドめ!ここは地上ではないぞ!』

 

 敵のザクは宙を翻るように柔軟な動きで此方に射撃を入れてくる、この360°全てが移動可能な宇宙空間はやっぱり慣れてないとキツイな……!

 

「だがこっちだって戦闘機のパイロットでもあったんだ!」

 

 宇宙とは勝手が違うがそれでも地上とは別の感覚で戦う空での経験は宇宙でも応用が効く、ビームライフルからサブアームのマシンガンに武器を切り替え連射でザクを狙いながら少しずつ後退をし味方に誘導を開始する。

 

『アースノイドにしては動きが良い、後詰のリック・ドム隊に出撃要請をしておけ!』

 

『了解!』

 

 ザクに応戦していると遠方から別の機体の反応が現れる、識別情報にはリック・ドムと表示されムサイから合計4機が出撃を始めていた。

 

「ちっ!マズいな!」

 

 出来るだけ母艦から離れて誘導しなければアンゼリカごとぶち抜かれかねない、予定進路を少し変更し味方に警戒を促す。

 

「ヴァイスリッターより各機へ!ムサイから追加でリック・ドムが発進した、注意しろ!」

 

「フィルマメントから各機へ、先ずは集中してザクを叩きます、その後ドムを対処。行きますよ!」

 

「了解!」

 

 俺たちは合流すると一気にザクへと向かい集中砲火を浴びせる、幾ら高機動タイプと言えど4機に追われれば対処しきれまい!だが敵もそれは見越していたようで上手く避けてくる。

 

『ちっ!侮り過ぎていたようだな、後退しドム隊の援護に回る。各機散開して攻撃し敵を撒け!』

 

 ザクは各々別方向へと転進する、これでは片方を狙ってる間に別のザクからも攻撃を受けてしまうか!?そう思っているとアンゼリカから再びの援護射撃が放たれる。今度はザクのギリギリを掠めて行った。

 

『ちぃっ!腕の良い砲手がいるようだ!』

 

『馬鹿野郎止まるな!狙い撃ちにされるぞ!』

 

 その隙にアーニャのフィルマメントが砲撃に怯んだ敵を射抜く、宇宙でも相変わらずの射撃精度だ。

 

「ザク撃破!引き続き攻撃を!」

 

 勢いに乗ってこのまま各個撃破を狙う、ヴァイスリッターの機動性なら高機動型ザクと言えど……!

 

『クソッ!この白いヤツ……速い!ウワァァァ!』

 

 機動を読み先読みしてマシンガンを当てて行く、直撃したザクは爆散し残りは2機となった、このまま残機もとスピードを上げるがリックドムがこちらに砲撃をしてきた。

 

「クソッ!合流されたか……!」

 

「中尉!援護します!」

 

 グリムのメガセリオンが機動を上げて援護を行う、大型のブースターユニットであるエーギルユニットにより機動力では高機動型ザクにも引けを取らない。

 

『連邦のグフもどきか!宇宙でも戦えるようだがこのリック・ドムに勝てると思うな!』

 

「くっ……!グリム!気をつけろ!機動力は此方と同等だぞ!」

 

「わかってます!無理はしません!」

 

 シールドでリックドムのマシンガンを防御しながら堅実に射撃を行う、しかし敵も回避に専念しているのか中々直撃には至らない。

 

「射撃が駄目なら接近戦でぇ!」

 

 ララサーバル軍曹が一気に距離を詰めようと接近するが逆に敵に集中攻撃され始めた、俺は急いで救援に駆けつけて2機での接近戦を開始する。

 

「油断するなよララサーバル軍曹!敵は宇宙での戦いに慣れてるんだ!直線的な動きでは動きを読まれるぞ!」

 

「了解ィ!ちぃっ!鬱陶しいねえ!」

 

 散開して引き離そうとするも動きを先読みしているのか上手い具合に此方との距離を詰める、やはり宇宙空間での圧倒的な戦闘経験の差が顕著に出てしまっている……!

 

 

 

「敵の動きはどうなっている!」

 

「MS隊は現在ザク2機にドム4機と交戦中、敵艦ムサイは2隻とも有効射程距離外で待機中……おかしいですね。」

 

「うむ、数は敵が有利な筈だが何故接近して来ない……?狙いはホワイトベースなのか……それとも……。」

 

「アンダーセン提督!ムサイから信号弾が放たれました!色は3色!」

 

「MSに敵の動きに警戒せよと伝えろ!アンゼリカもいつでも砲撃を行えるように待機だ!」

 

 

 

「信号弾!?全機、敵の動きに注意してください!」

 

 ムサイから放たれた信号弾に一層の警戒を払う。一体どんな内容の信号弾なんだ……?

 

『隊長!スワメルからの信号弾!頃合いです!』

 

『了解、全機手筈通り敵機に警戒し撤退せよ!……ザク2機の損害に見合う成果なら良いのだがな。』

 

 敵のMS隊は急遽機体を翻し母艦へ帰投を開始した、これは……撤退の合図だったのか?

 

「アーニャ、敵が下がって行くぞ。どうする、追うべきか!?」

 

「いえ、今は下手に動くべきではありません。こちらもアンゼリカに帰投し一度ホワイトベースとの合流を果たさなければ。」

 

「分かった!……だが敵はなんで撤退したんだ……?」

 

 形勢はあちらが有利だった筈だ……ザクが2機撃破されたにしても退却するタイミングでは無かった筈なのに。そう引っかかりを覚えながらも俺達もまた母艦へと帰投した。

 

 

 

「敵ムサイ、アンゼリカから遠ざかって行きます。どうやら撤退したみたいね。」

 

 セイラがアンゼリカの状況を伝える、安全にはなったがかなりの疑問が頭を悩ませる。

 

「何故だ……?此方を挟撃する訳でも無く形勢有利にも関わらず……。」

 

「何か引っ掛かるなブライト艦長、あのムサイ艦隊は明らかに他にも艦が存在している筈だ。仮に私が艦隊の指揮を取っていた場合、あの場面では隠していた艦隊をホワイトベースにぶつけ挟撃に移っているが。」

 

「それが出来ない事情があったか、或いは……。」

 

「此方の戦力を測る為の偵察であったかのどちらかだな。何か隠された意図があると見るべきだな。どうする、追うべきだと思うか?」

 

「……いえ、それこそ敵の狙いかもしれませんし今はアンゼリカと合流し本来の航路を進むべきでしょう。敵の狙いが此方であれば近い内にまた攻撃を仕掛けてくるのは間違いありませんし、先ずは体勢を立て直してから行動に移るべきかと。」

 

「そうだな、……しかしあの艦隊の動き、かなり手際が良かったな。……どうやら優秀な指揮官がいると見える。」

 

 

ーーー

 

「ドレン艦長、スワメル、トクメルが合流しました。」

 

 時計を見て、予定時刻通りなのを確認する。手際良く動いてくれる部下を持つことは艦隊を指揮する者として嬉しく思うことだ。

 

「首尾はどうであった?」

 

「木馬は手筈通り無視し、随伴艦のマゼラン級と交戦し敵MS4機と交戦。連邦軍量産機であるメガセリオン2機と狙撃ライフルを持った指揮官機と思われるMSが1機、それと高機動型の白い機体が1機。この2機はデータに登録されていない新型です。此方はザクが2機やられています。」

 

 交戦データを確認し、敵の動きを観察する。ガンダムが積まれていないだけマシと言うべきか。諜報部の情報ではMS搭載機能を付けたマゼラン級の最大搭載機数は4機、残りの隠し玉は無いと見るべきだがこの2機は警戒する必要があるか。

 

「やはり木馬に随行するだけあってそれなりの精鋭を揃えていると言った所か……。よし、本国に戦闘データを送信後予定通りルウムの墓場に移動する。『群狼』どもに狩りの準備をしておけと伝えろ。」

 

「艦長……やはりキャスバル様と一戦交えなければなりませんか……。」

 

 副官が辛そうな顔をしてそう発言する、内心では自分とてかつての上官相手に戦う事はしたくは無かった。

 

「そんな顔をするな、俺とてシャア少佐の元で戦っていたし彼を尊敬している。……だが此処で寝返れば部下の家族達はどうなる。」

 

 現在このキャメル・パトロール艦隊の人員の多くは隠れダイクン派……いや、こうやってザビ家により多くのダイクン派が固められている結果から向こうには最初から見当がついていたのであろう。所謂反ザビ家の人間やシャア・アズナブルの元部下だった者が多数乗艦している。

 普通であれば艦隊ごと寝返るリスクもある采配であるがそれは個人だけを見ればの話で部下の大半がサイド3に家族を残した者ばかりだ。つまりは家族を人質にし寝返りを阻止しているのだ。

 こうやって本国から遠く離れた最前線に配置する事で家族を連れ出す事もできず、かと言って寝返れば家族の身は保証されない。自国の事ながら下衆のやる事ではないかと呆れてしまう。

 

「ザビ家に対しても我々のやり方を見てもらわねばならん。所詮は裏切り者候補の集まり等と思われるのも癪であるしな。せめて家族が遺族年金で裕福に暮らせるくらいには連中に対しても見せなければならん。」

 

 その為挟撃のチャンスを不意にしてまでマゼランの情報を確保したのだ。キシリアのような妖怪じみた女の、子飼いの連中に手柄を与えるために。

 

「はっ、申し訳ありませんでした艦長。……戦いましょう、我々の意地の為にも。」

 

「うむ、すまんがお前達の命、使わせてもらうぞ。」

 

 この様な人間の使い方をしている国に未来など無いのは分かっている、しかしそれでも我々には護るべき存在がいて戦わなければならないのだ。そう悲観しながら事前に知らされた情報通り木馬が進路を取る筈であるサイド5方面へと進路を取る。既に賽は投げられた、後はどう転がるかを見届けるだけである。

 

 

ーーー

 

「MS隊、全機着艦しました。」

 

「損害状況を確認後、全速でホワイトベースへと進路を取る。パイロットは機体確認後は身体を休ませるように。次にいつ出撃するか分からんからな。」

 

「了解です。」

 

 ジュネット中尉にそう伝えるとホワイトベースへ通信を繋げる。

 

「ブライト艦長、情けなくも敵に一枚取られたみたいです。」

 

「申し訳ありません、此方が救援に向かうべきでした。」

 

「いえ、あの状況では挟撃の可能性が高くホワイトベースは反転するべきでは無かった。良い采配でしたぞ。……時にこの奇襲、ブライト艦長はどう見ますかな?」

 

「ミライやキャスバル総帥とも意見を交わしましたが、敵の威力偵察の可能性が高いと思います。アンダーセン提督はどう思いますか。」

 

「私も同意見ですな、ただこの威力偵察に何を求めたか、それを知るのが重要と思います。恐らくは我が部隊の戦力を確認する為だと思われますな、でなければホワイトベースに攻撃を仕掛けなかったのはおかしい。」

 

 ホワイトベースの戦力は連邦軍がジオンへ意図的に情報を流出させたのである程度の陣容は把握しているのだろう、だが我々アンゼリカが擁する戦力は把握出来ていなかったのであろう。その為此方だけを狙い攻撃を仕掛けてきた、それならばある程度は筋が通る。

 

「敵は今回我々の戦力を把握したとして、どのタイミングで攻撃を仕掛けてくるかですね……。」

 

「少なくても暫くは問題無いとは思いますな、打ち上げ直後だからこそ我々を叩けはしましたがこの宙域は再度奇襲を掛けるには見晴らしが良すぎる。」

 

 恐らくはサイド5方面への移動中かサイド5跡地のデブリ帯で再度攻撃をしてくる可能性が高い。あの付近であれば見晴らしも悪く、ジオン勢力圏に近いし兵力の投入も用意だろう。

 

「では通常の予定通りサイド5方面へ進路を取りましょう。敵もそこで我々を攻撃してくる筈でしょう、迂回しては本隊の動きを察知されかねませんし。」

 

「その通りですな、では合流後は通常速度に切り替え同行します。それでは。」

 

 通信を切り一息つく、虎穴に入らずんば虎子を得ずとは言うが敢えて敵の懐に飛び込むのはリスクを伴う。どのような攻撃を仕掛けてくるか、ある程度の予測は立てておかなければ不意の攻撃に対処しきれない。

 

「後は……MS隊の動きか。」

 

 私もそうだがやはり宇宙戦の経験が無いと言うのは大きい。単純な行動一つですら地上のそれとは大きく異なる、地上での白兵戦は基本左右の動きに注意を払えば良いが宇宙では上下左右全ての方位から攻撃可能である。

 上手く使い熟せばこちらも有利に立てるが今のままではそれも厳しい、この隙が今後致命的な物にならなければ良いが……。

 

 

ーーー

 

「全機収容完了!MSの損害を確認後整備に取り掛かります!」

 

 クロエ曹長の号令で整備クルーが一斉に動き出す、此方で分かっているだけの情報を伝えてヴァイスリッターから降りる。

 

「ふぅ……。」

 

 グッショリと濡れた身体に思った以上に疲労しているのを実感する、俺はまだマシな方でメガセリオンから降りたララサーバル軍曹は無茶な戦闘機動が祟ってか嘔吐を繰り返していた。血を吐いてないだけまだマシだが。

 

「大丈夫かララサーバル軍曹?」

 

「はぁ……はぁ……あんまり大丈夫とは言えないねぇ。かなり酔っちまったみたいだ。」

 

「宇宙酔いもあるだろうけど地上以上に無茶な動きをしたからGが掛かりすぎてたんだ。次もあんな風に動いてたら戦闘中に失神してしまうぞ?」

 

「ああ……気をつけるよシショー……うぇっ!」

 

 再び嘔吐をするララサーバルを介抱する、グリムとアーニャも心配なのかこちらに駆け寄ってきた。

 

「大丈夫ですかカルラさん?……だいぶ酷そうですね。」

 

「外傷が無いのは幸いですが早めに休息を取った方が良いですね、アンダーセン提督からもMS隊は次にいつ出撃があるか分からないので今のうちに休むようにと連絡が来ましたし。」

 

 確かにいつまた敵が襲い掛かってくるかも分からんし休める内に休んでおいた方が良さそうだ。

 

「しかし二人は何とも無さそうだな。」

 

「そりゃ僕らはカルラさんみたいに無理な挙動はさせてないですからね。」

 

「最初は戸惑いましたが機体制御もOSの改善で容易でしたし無理に動かなければ問題無さそうですね。」

 

 ガンダムの動きがフィードバックされた新しいOSのお陰で確かに操作性はかなり改善されている、後はやはり慣れだろう。

 

「はぁー……次からはアタイも気をつけるよ、こんなんで死にたかないからね。」

 

「次はホワイトベースの援護もある筈だ、無理せず慎重に行こう。」

 

 全員が頷き格納庫を後にする、取り敢えずはシャワーを浴びてスッキリしておきたい。

 

 そしてシャワーを浴び終えてシャワールームから出る俺、やっぱり風呂とかに浸かりたいけど宇宙で風呂とかまず無理だろうな。アークエンジェルみたいにわざわざ温泉作るとかそんな馬鹿な事もしないだろうし。

 そんなどうでもいい事を考えながら歩いていると展望デッキでクルクルと回っている物を見つける、……物と言うか……者?なんか昔動画で見た飛鳥文化アタックというのを思い出してしまった。

 

「何やってるんだアーニャ……?」

 

「あっ、ジェシー。ちょっと気分転換に。」

 

 かなりクレイジーな気分転換だなぁと思いながらも俺も一回試してみる。水泳の要領で壁に足を当ててから蹴り出すと同時に身体を丸める……おぉ、成功した!やってみると結構面白いなこれ。

 

「わっ、凄いですねジェシー。私何回か練習したんですけど。」

 

 割とどうでも良い情報を聞くと共に体勢を整えて着地する。こうやって見ると水に浸からないで泳ぐ感覚と空を飛ぶって感覚か混ざったような環境だな宇宙空間って。

 

「なんでこんな事やってたんだ?」

 

「えーっと……先程は戦闘中だったのであまり実感が湧かなかったのですが初めての宇宙空間なんだなって思うとワクワクして……。」

 

 少し照れながらそう呟くアーニャ、可愛いヤツめと思いながらも確かにいざ宇宙に来たのを落ち着いてから噛み締めると普通に感動するな……。外を見渡すと一面に広がる宇宙空間と大きく映る地球……憑依前はテレビでしか見れないような光景を目の当たりにしているんだ。

 

「とても綺麗だな。」

 

「えぇ、素晴らしい光景です……。お父様やお祖父様にも見せてあげたかった。」

 

 宇宙を志しながらも宇宙に行けぬまま果てたアーニャの父と祖父、俺の感動よりも思うものがあるのだろう。

 

「こんな所にいたのか、休んでおけと言った筈だがな。」

 

 唐突に話しかけて来たのはクソ親父だ、せっかく宇宙の余韻に浸っていたのにこれでは台無しだ。

 

「……何か用でもお有りでしたか艦長殿。」

 

「そう邪険に扱ってくれるな、少し話でもしようかと思ってな。」

 

 俺はアンタと話すような事はない、そう言おうとしたがそれを予期してか凄い形相でアーニャが此方を見つめてくる。女ってこういう時は怖い。

 

「な、なんだよ。」

 

「ん……なんだ。初めて宇宙に上がってお前はどう感じた?それが聞きたくてな。」

 

「どうって……、あんまり上手くは言えないが綺麗でそれでいて広大で……言葉にするのは難しいな。」

 

「……そうか。私はこの歳になってからの宇宙だが素晴らしいと思う反面、今まで広大だと思っていた地球という星がここまで小さくなるのかと少し感慨深くなったな。」

 

 確かに今まで地球という大きな星の大きな大地で途方もなく広がる海を見渡し、これが世界なんだと思っていたがこうやって宇宙から見るとポツンと浮かんでいる惑星の一つにしか見えない。

 

「彼処で大勢の人間が生まれ、そして死んでいった。宇宙というこんなにも広い世界を知らずにな。」

 

「だけどこれからは宇宙で生まれて宇宙で死んでいく人間の方が増えていくんだろうな。宇宙世紀だってもう79年も経ってるんだ、地球なんて知らずに生きるコロニーの子供なんてのは今は大勢いるだろうしな。」

 

 当面の目的地であるサイド6でもアルといった子供や、12月にシドニーに雪が降っているんだろうなぁと言ったバーニィもいたしコロニーで生まれ育った人からすれば地球なんて遠い異国レベルの情報しかないんだろうな。それが当然の世界なんだ。

 

「宇宙で生まれた、そしてこれから宇宙へ上がって行く若者達がこれから地球とどう歩んで行くのか、老い先短い老人には想像もつかんな。」

 

 何を感情に浸ってんだ、そう思ってるとアーニャが口を挟んだ。

 

「今はまだ難しいかもしれませんが地球にいる人々を宇宙に移住させてアースノイドだとか、スペースノイドだとかそう言う区別や差別を無くして、みんなが地球という人類の故郷を守る為に歩んで行く。そう言った世界にしたいです、私は。」

 

「でもゴップ将軍みたいな人達は中々宇宙に上がってくれなさそうだよな、無重力にビビったりしてさ。」

 

「うーん、そんな人達は全員シャトルに張り付けて無理矢理にでも宇宙にでも上がってもらいますか?」

 

 そんな冗談を話していたら突然親父が笑い出す。いきなり何なんだコイツは。

 

「ハハッ……ははははっ!す、すみませんなエルデヴァッサー中佐、以前同じような事を知人が言っていたのを思い出しましてな。」

 

「いきなり笑い出すから遂にボケたかと思ったぞこっちは。」

 

「すまんな。本当に……本当に懐かしく感じてな。うむ、それが良いなゴップのような肥満体では慣性が効いて動きづらいだろうがそれも見ものだろうな。」

 

「一応あれでも将軍なんだから呼び捨ては……って、疑問に思ってたんだが親父はゴップ将軍とは知り合いなのか?」

 

 ゴップ将軍の方は親父を知っていたようだし親父も親父でこの扱いだ。引退していたのに突然現役復帰したのも、この艦に配属させたあの人が絡んでいそうだし色々と疑念に思う事が多い。

 

「ん、そうだな。知り合いと言うよりは腐れ縁だよ。」

 

 まぁ軍部にいて歳も近ければそんなものなのか、そう感じている俺を横目にアーニャはニコニコとしている。

 

「なんだよアーニャ、変にニヤニヤして。」

 

「ふふっ、何でもないですよ。」

 

 大方俺と親父が普通に喋ってるのを見て喜んでいるのだろう全く……。

 

「話は長くなったがさっきも言ったように今の内に休んでおけ、敵も次は本腰を入れて此方に襲い掛かってくる筈だ。」

 

「分かってるよ、行こうアーニャ。」

 

「はい、失礼しますアンダーセン提督。」

 

 アーニャと共に展望デッキを後にする、最後にふと振り向くと哀愁を漂わせながら地球を眺める親父がいた。人には休んでおけと言っておきながら暢気だな……と思いながら俺は仮眠室に向かったのだった。

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