機動戦士ガンダム 紺碧の空へ   作:黄昏仮面

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今年最後の投稿となります、半年前に書き始めてまだ殆どストーリーは進んではいませんが多くの人に見てもらい、多くの感想や評価、誤字の指摘など頂きここまでやってこれました。
忙しく感想が返せなくなってしまっていますがいつも拝見させて貰っています、今後とも宜しくお願いします。いつも誤字報告をしてくださる方もいつも有難うございます。
来年も頑張って進めて行きますので気長にお付き合いして頂けると幸いです。




第45話 暗礁の群狼

「これよりホワイトベース及びアンゼリカはサイド5跡地を通過する、この近辺はルウム戦役での攻防でコロニーや艦艇の残骸が多く見通しも悪く、漂っているデブリによりレーダーもあまり役に立たない、つまり敵にとっては奇襲するには都合のいい宙域と言うわけだ。各員監視を厳に常に警戒を怠るな。」

 

『了解!』

 

 アンゼリカでのブリーフィングが終わり各員が各々の配置に着こうと移動を始める、その中で普段から陽気であるクロエ曹長が顔色を悪くしながら俯いていた。

 

「大丈夫かクロエ曹長?顔色が凄く悪いぞ……?」

 

「……え?あぁ中尉ですか、大丈夫……大丈夫です。ちょっと貧血気味で……えへへー。」

 

 無理して笑顔を作ってはいるが作り笑いなのが見て分かるくらい顔が真っ青だ、メディカルルームへ連れて行った方が良さそうだ。

 

「どうしたジェシー。……クロエ曹長、体調が悪いのか?」

 

「親父、見ての通りだ。今からメディカルルームに運ぼうと思う。」

 

「あはは、大丈夫ですって。こういう時は外を眺めれば大抵良くなるってーーー」

 

 乗り物酔いの要領で外を眺めようとしたクロエ曹長だったが外に映るコロニーの残骸を見て様子が急変する。

 

「むっ、いかん!」

 

 親父が視界を遮るもクロエ曹長は呼吸を荒くし過呼吸に陥っていた、その時になって漸く理解した、此処は……この場所はクロエ曹長の故郷『だった』場所なんだ。

 

「ジェシー、非常用の酸素マスクを急いで持ってこい!」

 

「分かった!」

 

 通路に幾つか配置されている非常用の酸素マスクを取り出しクロエ曹長に吸わせる、数分を経てやっと呼吸が安定してきた。

 

「も、申し訳ありません艦長。」

 

「君が謝ることは何もない、私の方こそサイド5出身者である者に対する配慮が足りていなかった。」

 

「わ、わたし……もう大丈夫だって……ずっと、ずっと思ってたんです。けど……けど……この光景を見てあの時の事が。」

 

 彼女がどんな惨劇に遭ったのかは俺は知らない、ただ故郷の人々を容赦無く殺されてしまったトラウマというものはとてつもなく大きいのだろう。普段は何とも無くても、惨劇の有った地に戻れば否応でも思い出してしまう。

 

「仕方のない事だ……、人は簡単に自分の心を割り切る事などできん。今は心に正直になりたまえ。」

 

「艦長……うぅ……うあぁぁあぁぁ!お父さん……!お母さん……!」

 

 親父に抱きつき堰が切れたように泣き出すクロエ曹長、いつもは明るい彼女ですらこんなになってしまう程の悪行をジオンはしてきたんだ……そう思うと奴らに対する怒りがフツフツと湧き上がるのが分かる。末端の兵士は命じられたままにやっているんだろうが、それを指示したジオン将校やザビ家と言った人間は許せない……!

 

「どうやら泣き疲れて眠ったようだな。」

 

「メディカルルームに運んでおこうか?」

 

「いや、私が連れて行こう。ジェシー、お前は格納庫で待機しておけ……予感だが間も無く敵は攻勢に出る筈だ。」

 

「了解!」

 

 こうなると俄然やる気が湧く、この宙域でジオンに好き勝手されまくってたまるか!

 格納庫に着くと既にアーニャを始め、他のメンバーも揃っていた。

 

「聞いたよシショー、センセーが大変な事になってたみたいだね。」

 

 普段よりもやや暗い顔付きのララサーバル軍曹、彼女的にも何か思う事があるのだろう。

 

「僕は家族がいるからまだ良いですけどクロエ曹長は家族を亡くしてますからね……。」

 

「そう言えばグリムもコロニー出身者なんだよな。」

 

 以前クロエ曹長が自分とグリムは宇宙出身だと言っていた、どうやら家族は無事なようだが一応知っておきたい。

 

「僕はサイド4の出身でした、家族全員が助かったのは本当に偶然と奇跡みたいなもので他のコロニーが襲われている最中に必死になって逃げ出したんですよ、後一歩脱出するのが遅れていたら今此処にはいなかったと思います。他の人からしたら何て思われるか分からないですが……。」

 

「命あっての物種だ、死んだら元も子もないからな。……どんなに意地汚くても絶対にみんな生きて帰るんだ。」

 

 全員が頷き気持ちを同じくしたと同時に艦内に大きな衝撃が走る。

 

「なんだ!?」

 

「これは……!敵の攻撃!?全員機体に搭乗し発進準備を!」

 

『了解!』

 

 鳴り響くアラートが焦りを駆り立てる、しかし今は落ち着いて対処しなければ……!

 

 

ーーー

 

 

「艦長!アンゼリカ後部エンジン一基被弾!全体出力低下中!」

 

 艦橋に戻り状況を確認する、警戒をしていたにも関わらず攻撃を受けると言うことは敵は我々の網をすり抜けてきたと言うことだ。

 

「ダメージコントロール急げ!残っているエンジンで何とか出力を維持し艦の動きを止めるな!ジュネット中尉!敵の攻撃手段はなんだ!」

 

「長射程からのビーム兵器による攻撃!恐らく狙撃用のビームライフルだと思われます!」

 

 スナイパーか……それならこの攻撃にも合点が行く、この暗礁に潜み入り込んだ獲物に襲いかかる、さながらハンターのような連中だ。恐らくは後何機か同じようなスナイパーが配置されていると見るべきだ。

 

「MS隊を発進させろ!決して動きを止めずに敵の狙撃位置を特定し攻撃しろと伝えるのだ。ホワイトベースはどうなっている?」

 

「ホワイトベースからの通信入りました、前方より現れたムサイ艦隊との交戦に移っています!」

 

「狩場に追い込んだと思い込んでいるようだが……どちらが狩る方か教えてやる、面舵45!対空迎撃、ミサイル発射用意急げ!」

 

 先日の戦いと違い今回は確実に挟撃に入ろうとしている、ここで手間を取られ敵に攻勢を奪われる訳には行かない。ホワイトベース隊の実力を信じて彼方は任せ、此方は此方の敵を全力を以って叩くのみだ。

 

ーーー

 

「前方よりムサイ3隻が接近中、内2隻は先日アンゼリカと交戦した艦と同一です!」

 

 予想通りこの宙域で仕掛けて来たか……!

 

「MSを全機発進させろ!ホワイトベースには近づけさせるな!」

 

「ブライト艦長、私もドムで出るぞ。」

 

「キャスバル総帥……。分かりました、無理はなさらずに頼みます。」

 

 今は少しでも戦力が欲しい所だ、危険ではあるが彼のパイロット能力なら杞憂で済むだろう。

 

「了解した。」

 

「よし!ガンダムは先行して敵MS部隊を叩け!ハヤトはガンキャノンでリュウのコア・ブースターと共にガンダム の援護に回れ!赤い彗星も手助けをしてくれると言っている、情け無い所は見せるなよ!」

 

 これでアムロとカイには発破が掛かっただろう、少しでも動きが良くなることを祈り戦闘を開始する。

 

 

ーーー

 

「各機散開!敵はスナイパータイプのMSです、動きを止めず敵の射撃位置の特定に努めてください!」

 

「分かった……!くっ、だがこんなデブリ帯じゃ肝心の機動力が活かせない……っ!」

 

 それが敵の狙いなんだろうが狙われてる此方からしたら堪ったもんじゃない、敵の位置もまだ不明だし迂闊に動くのは危険だ、しかし止まって攻撃を待っている訳にも行かない……!

 

「中尉!熱源接近中です、気をつけてください!」

 

 グリムの声と共に機体からアラートが響き渡る、ギリギリでかわす躱すが生きた心地がしない。だが活路もまた見えた。

 

「グリム!お前のセンサーが真っ先に反応したって事はセンサーの索敵範囲内に敵がいる可能性が高い、射線から方向を特定できるか!?」

 

「待ってください!……よし、ポイント更新!これが敵の予想行動範囲です!」

 

 機体モニターに大まかなポイントが映し出される、範囲は広いがそれでも何処か分からないよりはマシだ。

 

「よし、ヴァイスリッターで先制をかける!」

 

「待ってくださいジェシー!……何か腑に落ちません。」

 

「どういう事だアーニャ!?」

 

 アーニャの呼び止めで機体のスピードを落とす、その時だった。機体からまたアラートが響き渡る。

 

「ロックオンアラート!?くっ……!」

 

 先程とはまた別の方向からビームが飛んでくる、全速をかけるも左脚部が持っていかれた。

 

「ぐぁぁぁっ!クソ……っ!」

 

「ジェシー!やっぱり……敵は複数機います!初撃は敵の陽動で此方の動きを誘導しようとした物です!」

 

 同じスナイパーとしての経験からか敵の動きを推測するアーニャ、しかしこんな動き辛い地形で複数ものスナイパーを相手取るのはキツイぞ……!

 

 

ーーー

 

『こちらウルフ3。敵機に命中、これよりポイントチェンジに移る。チッ……持って行ったのは脚だけか。』

 

『さっきから外し過ぎじゃないか?戦場が宇宙に変わったとは言え、隊長がいたら怒鳴られている所だ。』

 

『ウルフ1よりウルフ2、今は俺が隊長だ。いない人間の事を考えている余裕があるなら次の行動へ移れ。』

 

『あいよ、ったく腕の良い奴はみんな地上で死んだかキマイラに持って行かれちまったからなぁ。残ったのは融通の効かない連中ばかりだ。』

 

『さっきからうるさいよウルフ2、しかもその言い分だとアンタも大した腕じゃないのがバレバレ。』

 

『ウルセェよクソアマ、コイツらさえ倒せりゃ俺も栄転間違い無しだ。狩らせてもらうぜ。』

 

『連邦の木馬連中がどれだけの戦力かは知らんが油断出来る相手だと思うな、群狼(ウルフ・パック)隊獲物を狩るぞ!』

 

 

ーーー

 

「くっ……!また別の方角からの狙撃……!?」

 

 数度目のビームスナイパーライフルの照射を受けてかなり機体を酷使させてしまっている、あと何度回避できるか……?それにしても敵のスナイパーはどれだけの数がいるんだ……!?さっきから違う場所での射撃が続いている。

 

「隊長!ここは一旦アタイが囮になって攻撃を引き受けようかい!?」

 

「ダメですララサーバル軍曹、それも敵の狙いの一つだと思います。群れから逸れた動物を狩る、狩りの鉄則のようなものです。」

 

「しかしどうするんだアーニャ、このままじゃ防戦一方で推進剤が無くなるぞ!?」

 

「……アンゼリカに援護射撃の要請をします、敵行動予測範囲にミサイルを打ち込んでもらい、敵の動きを止めた隙に一気に駆け抜け、敵を見つけ出し叩きます!」

 

「分かった!」

 

「フィルマメントからアンゼリカへ、指定ポイントにミサイル攻撃を要請します!」

 

《了解した、各機誤爆に注意して行動せよ》

 

 ジュネット中尉の通信の後にアンゼリカからミサイルが放たれる、この狭いデブリ帯では目標に届く前にデブリにぶつかり爆発する事は充分に有り得る事だ。言ったそばから放たれたミサイルの内数発が目標前で爆発を起こす、だがこれはこれで敵の目を逸らす囮になってくれる筈だ。

 

「アーニャ!」

 

「分かっています!ジェシー、貴方はグリム伍長と共に。私はララサーバル軍曹と共に分散して敵を叩きます!」

 

 遠近の得手不得手でバランスを取った編成だ、俺が接近戦で敵を牽制しながらグリムが撃ち取れれば!

 

「了解!行くぞグリム!」

 

「了解です!」

 

 バーニアを吹かせデブリを避けながら目標地点へ移動を開始する。今度こそ此方が叩く側だ!

 

ーーー

 

『ほう、敵にも中々の指揮官がいると見える。ウルフ1より各機へ。プランCに移行する、誤射に注意し各々の務めを果たせ。』

 

『こちらウルフ3了解した、兵装交換後的に接近戦に移る。援護は任せたぞ。』

 

『ウルフ2、敵が二手に分かれやがった。散開して叩くつもりみたいだがどうする?』

 

『プランに変更はない、予定通り誘き寄せてから狙い撃つまでだ。』

 

『バカが釣られた所をアタシが撃ちとってやるよ、囮役はさっさと出な!』

 

『ホントにうるせえなテメェは、だが通信もこれで最後だ。後は敵をぶっ倒すまで静かにやれそうだぜ。』

 

ーーー

 

「こちらヴァイスリッター、間も無く目標地点に到着する。グリム!援護頼むぞ!」

 

「分かっています!」

 

 付近はジオンが連邦か、どちらの船か判別が出来ない程朽ち果てた艦艇の残骸が漂っている。隠れるにはもってこいな場所だ。

 

「何処だ……この辺りにいる筈だが……。」

 

 付近を探索しているとピピピとアラートが響く、これはビーム射撃じゃない……!MSか!

 

『貰ったぁ!』

 

「ちぃっ!」

 

 敵のドムがヒートサーベルで此方を斬りつけようとする所をギリギリで此方もビームサーベルの展開を間に合わせ鍔迫り合いを起こす、アムロ達のおかげでOSの性能が向上して一つ一つの動作が前よりもかなりスムーズになっているのが本当に助かっている。前のままなら今のでやられていた。

 

『クソッ!今のを間に合わせるのか!』

 

「舐めるぁぁぁ!」

 

 バーニアの出力を上げ押し切ろうとするが敵はサーベルを捨て一気に飛び去る、此方は意表を突かれ姿勢制御が少し乱れた。

 

「中尉!クソォ当たれぇ!」

 

 グリムのメガセリオンがビームスプレーガンを放つが敵は艦艇の残骸を盾に再び隠れる。その時だ、またスナイパーライフルのビーム光が此方へ向かってくる。

 俺はヴァイスリッターの前部スラスターをフル出力で機動させ、またギリギリの所で回避した。もしもメガセリオンだったら直撃を受けていただろう。

 

「グリム!敵は何かおかしい!この手のビームスナイパーライフルは冷却の為のクールタイムがある筈なのに連中は何でこんな間髪無く射撃ができるんだ!?」

 

「こちらグリム!敵の射撃地点に到達!……!?中尉、多分理由が分かりました!恐らく敵は複数のスナイパーライフルを所有しています!此処は既にもぬけの殻です!」

 

 ……!まさかスナイパーライフルを使い捨てながら射撃をしているという事か!?そんな普通なら勿体無いような使用方法など通常の部隊なら考えられない。となると……コイツらは特殊部隊か何かか!?

 

「マズい……!すぐそこから逃げるんだグリム!」

 

 グリムのいる地点を敵は放棄した、尚且つ予想通り敵は複数のスナイパーライフルを所持していると考えれば次の敵の行動は……!

 そして思った通りまた別方向からのビーム光、グリムを狙ったものだ……!

 

「ク……うわぁぁぁ!」

 

「グリムーーーッ!」

 

 グリムのメガセリオンが被弾する、ビームは脚部から徐々に胴体部へと射線をずらしている、このままじゃグリムが……!

 

「やらせるかぁぁぁ!」

 

 サブアームからハイパーバズーカを取り出してビームライフルと共に敵の射撃位置へ発砲する、間に合え……!間に合え……!

 

「間に合えぇぇぇー!」

 

 射撃後全速でグリム機へと向かう、コクピットギリギリの所で何とか射撃が止まり何とかグリムを助けることができた。ヴァイスリッターで大破したグリムのメガセリオンを腕に抱えて、速度を維持しながら艦艇の残骸跡へと向かう。ここなら暫くの間は敵の攻撃も来ないだろう。

 

「大丈夫かグリム!応答しろ!」

 

「く……うぅ……中尉、僕はまだ……生きて……?」

 

「あぁ!大丈夫だ……!ギリギリの所で何とか助けられた!」

 

 しかしかなりの衝撃を打ちつけられたグリムはかなり満身創痍だ、このまま戦闘継続は不可能だろう。メガセリオンも上半身は無事でも戦闘機動が行えるような状態ではない。

 

「後は俺に任せてお前は休んでるんだグリム、後で必ず迎えに戻ってくるからな!」

 

「はい……中尉すみません……。」

 

 グリムを残し残骸跡を立ち去る、援護は無くなったが今の俺はそれを気にする余裕が無いくらい怒りに震えていた。

 

「ジオン……!ジオン……!お前達は絶対に許さない……!」

 

 神経を研ぎ澄まし敵の攻撃を待つ、これ以上やられっぱなしにはさせない。

 

『コイツで終わりだ!アースノイド!』

 

 ドムがデブリからヒートサーベルで奇襲をかけてくる、アラートの音と同時に前部スラスターを吹かせ翻るように機体を逸らす。

 

『なにぃ!?』

 

「いい加減……!墜ちろ!」

 

 体勢を立て直しビームライフルでコクピットを打ち抜き、爆散する前に離れ去る。

 

『ウルフ2がやられた!?コイツ……調子に乗るんじゃ無いよ!』

 

 遠くからビームの光が見える、それと同時にバーニアを全開にし回避する。全速で近づきハイパーバズーカで射撃地点へ砲撃すると堪らず逃げ出したザク・スナイパーが現れた。

 

『なんて奴なんだい!?こんな……!私達を逆に狩ろうなんて!』

 

「消えちまえよ!ジオン!」

 

 射撃装備を捨てビームサーベルを取り出して格闘戦を仕掛ける、スナイパーが幾ら遠距離射撃が優秀でも接近戦ではただの案山子同然だ。呆気なく斬りつけられ敵機は大破する。

 

『そんな……!』

 

 敵機の爆発を確認し周囲を確認する、どうやら付近にはもう敵機はいないみたいだ……。残りはアーニャ達の方面にいるのか?援護に向かうべきか……。

 ……いや、今はグリムを艦に戻す方が先だ。状態が悪化したらどうなるか分からないし、あっちはアーニャ達を信じるしかない。俺はアンゼリカに救援信号を送りながらグリムの所へと急いだ。

 

 

ーーー

 

『ウルフ2とウルフ4の信号が消えた……!?クソッ!』

 

 攻防の一瞬、敵の攻撃の間隔が少し伸びた。何か向こうで動きがあった……?なら!

 

「敵の動きに動揺が見られます!ララサーバル軍曹、このまま一気に叩きますよ!」

 

「了解だよ!いつまでも好き勝手やらせてやる訳にも行かないしね!」

 

 ララサーバル機が先行し敵の近接機であるザク高機動型へ攻撃を仕掛ける、敵の方がベテランであったとしても此方も宇宙戦には適応し始めている、負けはしない!

 

『ちぃっ!調子に乗ってぇ!』

 

「やらせません!」

 

 敵のスナイパーは恐らく武器を何種か持っていてそれを使い捨てる事でリロードの時間を省き、間髪つかぬ攻撃をしているのだろう。しかしそれでも武器の持ち替えやポイントチェンジ時に発生する僅かな時間は此方が有利になる。今度は此方が迂闊に顔を出している獲物を追い詰める番だ。

 

「……そこっ!」

 

 ビームライフルで敵機を射抜く、直撃した機体は爆散し残る敵機は恐らく一機だ。

 

『ウルフ3!残ったのは俺だけか……!』

 

「残る敵は……何処に……!」

 

 そう考えているとアンゼリカから援護射撃が放たれる、此方の位置を把握して敵の射線となり得そうなデブリ帯へ主砲を斉射している。見事な腕前だ、これなら……!

 

『クソ……!群狼(ウルフ・パック)隊が……!こんな連中に!』

 

「視えた……!これで終わりです!」

 

 一瞬の境で互いに構えたビームライフルは敵の大型化されたビームライフルより此方のビームライフルの方が放たれるのが速かった。敵を貫き、漸く戦場は静かになる。

 

「フゥーーー……やっと終わったみたいだね。」

 

「そうですね……、ジェシー達の方も何とかなっていれば良いのですが……。」

 

 援護に駆けつけたいが既に私もララサーバル軍曹も長時間に渡る戦闘でかなりの疲労が溜まっている。継戦するには少し心許ない。

 

《こちらアンゼリカ。エルデヴァッサー中佐、ララサーバル軍曹異常はないか報告されたし。》

 

「こちらフィルマメント、私もララサーバル軍曹も異常ありません。ジュネット中尉、戦況はどうなっていますか?」

 

《アンダーセン中尉らは先に敵機を倒し帰還している、しかしグリム伍長が敵の攻撃で機体中破、本人も今メディカルルームに運ばれている。》

 

「なんだってぇ!グリムの容態は!?」

 

《幸い外傷は少ないが攻撃の余波でかなりの衝撃を受けてしまっているとの事だ、内臓にダメージが無いか確かめている最中だ。ホワイトベース隊も大勢は決している、二人とも帰投してくれ。》

 

「了解です。」

 

 何とか倒せはしたが……受けた被害は大きいようだ。心配は募るが今はまず帰投しなければ。

 

 

ーーー

 

「全滅……、全滅かあれだけのMSがいて一機も落とす事すら敵わず。」

 

 ドムとザクからなる合計12機のMSが一方的に全滅した、やはりガンダムや木馬の力は脅威だったと言うことだ。……そして、赤い彗星の実力も。

 

「敵ムサイ艦長、聞こえるか。私はネオ・ジオン総帥キャスバル・レム・ダイクンだ。貴艦のMS隊は全滅した、最早これ以上の戦闘は無意味だ。我々は貴艦に投降を勧める、良き返答を期待する。」

 

「通信手、通信チャンネルを変更し呼びかけに応じろ。回線はファルメルを使用していた時に使っていたチャンネルだ。」

 

「ん……?これは、ファルメルにいた頃の通信チャンネル!?まさか!」

 

「お久しぶりですなシャア少佐、いや今はキャスバル総帥とお呼びした方が宜しかったですかな?」

 

 モニターから見えるのはかつては仮面越しでしか見ることの無かった上官の顔だ、こうやって見るとやはり父親に似ている。

 

「ドレンか!まさかお前がこの艦隊を率いていたとは、しかし何故広域通信ではなくファルメルのチャンネルを使用した。」

 

「広域通信ではザビ家の連中にも聴こえてしまいますからな。申し訳ありませんがキャスバル総帥、我々は貴方に着いていく事は出来ません。」

 

「何故だ……!?ドレン、お前も分かっているだろう。今のザビ家のやり方でスペースノイドの自由からは遠ざかってしまう。」

 

「それは分かっております、戦争の大勢もほぼ連邦に傾き幾らギレン総帥の手腕があっても程なくしてジオンが負けるだろうと言うのも。」

 

「では何故!」

 

「キャスバル総帥、……いや、シャア少佐。我々は貴方の才能と器量にとても感服しています。しかし我々は貴方の友人にはなれても部下にはなれない。何故なら我々はジオン公国の軍人であって、本国には未だ家族を残した部下が大勢いるからです。」

 

 この言葉の意図を察したキャスバル総帥は苦い表情をする、良いお方だ、我々一兵卒の苦悩を今の言葉で充分察してくれたのであろう。

 

「我々にも護るべき者がいる、だからこそ戦わねばなりません。部下らも最初からその覚悟で貴方に牙を向け、そして負けたのです。今更同じ旗を仰ぐ訳にも行きません。」

 

「しかし……ドレン!」

 

「思うにシャア少佐、我々に本当に必要だったのは優れた思想や理念、才能を持った主導者ではなく良い隣人や友人だったのではないかと思います。この過酷な宇宙で命を擦り減らすのに必要なのはそう言った感性を持った優しい人達であると、だからこそ貴方はダイクンの遺児などという鎖に縛られずただのキャスバルとして進んで頂きたい。」

 

 スペースノイドの解放、宇宙に暮らす者への平穏。それらは確かに必要な事であるし、いつまでも地球に巣食うゴミを放っておいて良いわけもない。

 だがそれを一人で背負うのではなく、互いに支えあって進んで行かねば何処かで歯車が狂ってしまうのだろう。かつてジオン・ダイクンとデギン公王がそうであって今はザビ家全体がそうであるように。

 

「全艦に通達、木馬の方向に向けて一斉射撃。狙いは自動で適当に放っておけ、その間に前もって渡しておいた酒を全員に振舞っておけ。」

 

「よせドレン!ホワイトベースにはこの通信は聴こえていないのだぞ!狙いを外していても彼らから反撃を!ドレン!聴こえていないのか!ドレーーー」

 

 通信を切る、これで良い。後は彼がより良い未来を築いてくれるだろう、それを信じて我々は酒を飲みながら笑い合う。

 

「艦長、我々は無駄死にではないですよね。」

 

「あぁ、後はあのお方がやってくれるだろうさ。すまんな、お前達を道連れにしてしまって。」

 

「最後にあの赤い彗星と戦えたんです、未練はありません。家族も汚名を受けずに済みますしね。」

 

 狙いの狂った主砲が木馬を過ぎ去る、連中からすればキャスバル総帥の勧告を拒否し間を置いて発砲したように見えるだろう。無論戦況を何処かで見ているであろう公国からも。

 木馬の主砲が此方に向けられる、それを気にもせず次の酒をグラスに注ぐ。

 

「ネオ・ジオンの未来に。」

 

『ネオ・ジオンの未来に!』

 

 部下達の声が艦橋に響き渡る。誰の顔にも恐怖はない、本当に……本当に最後にこのような部下たちを従える事が出来て幸せ者だ。

 

「乾杯!」

 

『乾杯!』

 

 そして光は放たれた。

 

ーーー

 

「そうか、あの艦隊はキャスバル総帥の元部下達がいたんだな。」

 

 キャメル・パトロール艦隊だったか、確かに宇宙に上がった直後に本来ホワイトベースを挟撃するのはシャアのザンジバルとキャメル・パトロールのドレンだった。

 

「えぇ、今はララァさんが何とか支えていらっしゃるみたいですが先程までだいぶ荒れていたと聞いています。」

 

「そりゃそうだろう、向こうだって本来は戦いたくなかっただろうからな。」

 

 しかしこれが戦争で色々な理由があり戦わざるを得なかった。簡単に寝返る事なんて出来なかったのだろう。

 

「アーニャ、俺は……俺はジオンを叩く……徹底的にな。」

 

「ジェシー……。」

 

「別にスペースノイド全体がとか、ジオン公国の人間が……とか憎しみからじゃないんだ、ただこんな誰かを不幸にさせるような事をもう見たくない。だから此処で戦いを生む連中を徹底的に叩く。」

 

 ザビ家やそれに従う狂信者じみた連中、そう言った奴らがいるからこうやって憎み憎まれ戦いを続ける事になるんだ。そんな連中をずっと好き勝手させたくない。

 

「私も同じですジェシー、戦後に向けてより良い未来を進むために争いの火種は此処で全て消しておきたい。……私達だけでは難しいかもしれませんが。」

 

「それでも、それでもさ。」

 

 言い続ける限り、諦めない限り、未来を変えようって気持ちは止まらない筈だ。実際に本来の歴史が変わって未来は少しずつ別の物になっている。いつかはきっと……。

 

「あのぉ〜、良い感じの所すみません。整備の方は何とかスムーズにいけそうですよ。」

 

「クロエ曹長!?もう大丈夫なのか!」

 

 話しかけてきたのは整備服姿のクロエ曹長だ、先程より顔色はかなり良くなっているが精神的には大丈夫なんだろうか。

 

「えぇ!もうバッチリですよ、こ……これもアンダーセン艦長のおかげです。」

 

「ん?」

 

 何故か顔を赤く染め始めるクロエ曹長、なんだ?熱でもあるのか?

 

「あ、そうだ中尉!アンダーセン艦長って今は独り身なんです……よね?」

 

「えっ、えっ……?あぁ?お袋は死んだから独り身といえば独り身だが……?」

 

 何でそんなことを?そして何故に顔が赤いままなんだ?……なんか嫌な予感がする。

 

「へ、へぇ〜だったらまだ私にもチャンスがあるよね……あの時のアンダーセン艦長とても優しかったし年上趣味なんて全く無かったのにドキドキが止まらないし……これって……そうだよね。

 

「クロエ曹長?何かおっしゃいました?」

 

「いえいえ!何でもないですアハハハハ!それでは整備がありますので!」

 

 ニコニコしながらかなり緩く敬礼をしてクロエ曹長は立ち去る、俺はアーニャの顔を見ながらボソッと呟く。

 

「もしかして親父を殴りに行った方が良いのか?」

 

「ダメですよ、何言ってるんですか。」

 

 でもなんか絶対あの男はやらかしたような気がするのでぶん殴りに行きたいという衝動が湧くんだ、そう思って艦橋に向かおうとしている俺を引っ張ってアーニャはメディカルルームにいるグリムの容態を確認しに連れて行くのだった。

 

 


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