機動戦士ガンダム 紺碧の空へ   作:黄昏仮面

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 世間はGWが始まったみたいですが何それ状態での投稿です、物語は第一部がいよいよ終わりへと向かう段階となって(いる筈)ます。
GWが終わるまでに何とかもう1話くらい投稿したいとは思ってます、月一投稿は流石に遅れ過ぎなのは分かってるので……。


第51話 いつか運命と呼んだ出会いに(後編)

 

「貴方は敵に何を言っているか分かっているんですか?」

 

 呆れ顔で此方を見つめる少女に、流石に変な事を頼んだかなと思ったが今はそれよりもアーニャに買うプレゼントの事で頭がいっぱいだった。

 

「話すと長く……いや、長くはならないか。ちょうど君達と同じ年くらいの女の子にプレゼントを贈らないといけないんだが見ての通り俺は男だからこういうのに疎くてさ。出来れば君達の意見を参考にしたいんだ。」

 

「はぁ……、世迷言ですね。そこまで貴方にする義理はありません、そろそろエレカから降りてくれると有難いのですが。」

 

 流石に無理があったか、中立コロニーとはいえジオンの兵だしな。そう思っていたらマリオンが頷いた。

 

「良いじゃないですかマルグリットさん、もうすぐマルグリットさん達もサイド6から離れてしまうんでしょう?グレイさんやヘルミーナさんにも私から何か贈っておきたいですし。」

 

「しかしマリオン……。」

 

「これも何かの縁だと思いましょう、それにこの人と同じように私もグレイさんに何を贈れば良いか思い付くのに時間がかかりそうだしこの人から意見を聞いて買うのも良いと思います。」

 

 二人の会話の内容はあまり掴めないがどうやらマルグリットと呼ばれる少女とそれに関係する人もサイド6から離れるようだ。その人達に贈り物をしたいというマリオンの提案は渡りに船だ。

 

「仕方ありませんね、しかし何かおかしな事をしようとしたらその時は即座に離れますから。」

 

「あぁ、それで大丈夫だよ。いてくれるだけでこっちは滅茶苦茶助かるからな。」

 

 昨日のララァとの会話で自分で決めた物ならなんでも大丈夫だと言われても、やはり女心が分かってないとか言われたくはないので無難な物を選びたいのだ。それならやはり女性から聞くのが1番だろう。

 

「それで、どう言った物を買うつもりなのかある程度は検討しているんですか?」

 

「いや全く。」

 

 何度も言うが恥ずかしながら今まで女性経験など皆無な俺だ、気の利いたプレゼントなど全く思いつく筈もない。

 

「贈られる相手が不憫ですね全く……、とは言え私自身プレゼントなんて貰った事も贈った事もありませんし何が良いのか実際はさっぱりです。マリオンなら何が欲しいですか?」

 

「そうですね……。まずは贈る相手がどんな人なのか知っておきたいですね、その人の性格に合った物でないと。」

 

 性格……性格か……。

 

「うーん……普段は冷静なんだが身長の事になると途端に年相応の子供になるんだよな。」

 

「それは性格とは少し違うような気もしますが……しかし貴方に子供扱いされているのなら、そう言った手合いの物は避けた方が良いでしょうね。本人は気にしているのでしょうから。」

 

 ふむふむ、そうなると化粧品みたいなのがいいんだろうか?いやアーニャが化粧してる所なんて見たことないし子供扱いしないようにするとは言えまだ化粧は早いだろうし他の物が良さそうだ。

 

「うーん、そうなるとアクセサリーとかはどうだろう?変じゃないかな?」

 

「良いですね、無難なプレゼントだと思います。」

 

 マリオンからOKが出た、取り敢えずはアクセサリー関係に絞ってみるか。

 

「それなら少し先にショッピングモールがありますね、そこで何か選べば良いでしょう。」

 

 マルグリットがエレカを走らせ商業エリアに到着する。それなりの規模だ、これなら簡単に見つかるかもしれない。

 

「へぇ、色々な種類があるんだな。」

 

 適当に寄った店のショーウィンドウに並んでいるアクセサリーを見るもどれが良いのかさっぱり分からない。どれも同じに見えるのは単純にセンスがないからだろうか。

 

「ネックレスにブレスレット、それにリングなどもありますけど。」

 

 マルグリットの指差す方を見ると結構なお値段のアクセサリーがズラリと並んでいる。買えないと言うレベルでは無いが恋人でもないのに誕生日プレゼントにやたらと高い物を買って渡すと言うのはどうなのだろう?

 

「うーん少し高過ぎるか?君達二人なら同僚にこれくらいの値段の物を渡されたらどう思うかな。」

 

「私はプレゼントを貰った事がありませんからよく分かりませんね。」

 

 少し哀しげな目をしてそう呟くマルグリット、あまり触れてはいけない話題だったようだ。

 

「と、取り敢えず良さそうなのがないか見ようか。」

 

 それなりの値札の物を見ながらどれを買うべきか検討をする。ふと思ったがこう言ったアクセサリーって戦闘中では邪魔になるんじゃないか?

 ……いやいや、別に戦闘中まで付けてくれと言う訳じゃないし今から別の物を探すのも時間的に無理だしここで決めよう。

 

「ん?これなんかどう思う?」

 

 目に止まったのは鈴が装飾されている指輪だ、男のセンスなので女性から見た場合どう感じるのか気になるので2人に確認を取ってみる。

 

「……良いんじゃないですか?」

 

 そう呟くマルグリットと同意するように頷くマリオン、2人が問題ないなら多分大丈夫だろう。これに決めることにした。

 

「こちらの指輪でございますね?リングのサイズはこちらのお嬢様と同じでよろしいでしょうか?」

 

 マルグリットの方を見ながら喋る店員のお姉さんの言葉で気づいた。しまった……指輪ってサイズとかいるんだよな……。アーニャの指のサイズとか全く分からないぞ……?

 

「あー、この子に贈るわけじゃな……ん?」

 

 ふとマルグリットを見ながら思ったが、彼女は結構アーニャと似通った体型じゃないか。背丈も変わらないしそこまで手の大きさも変わらないし彼女の指のサイズで調整しても良いのではないか?

 

「そういう訳でちょっとサイズを測らせてもらって良いかい?」

 

「何がそういう訳なんですか……?と言うか他人に贈る指輪のサイズを他人の指で決めるのはどうかと思いますけど。」

 

「仕方ない……仕方ないんだ……今から聞いてちゃ間に合わないし……頼む……!」

 

「はぁ、仕方ありませんね。」

 

 嫌々ながらも店員にサイズを測ってもらい、なんとかサイズの合う指輪を用意して貰った。これで当面の目標は何とか達成できた……。

 

「助かったよ2人とも、これで俺の方は用事は片付いたし次はマリオンが贈る物を考えるのを手伝うよ。」

 

 マルグリットの方はかなり渋い顔をしているがここまで世話になっておいて自分の用事が済んだらさようならなんて図々しい真似は出来ない。せめて少しでも役に立ってから別れたいもんな。

 

「それじゃあ……男性にプレゼントするならどんな物が嬉しいですか?」

 

 マリオンの質問に考え込む、憑依前の俺は悲しい事に家族以外からのプレゼントなぞ殆どオタク関係の物ばかりだったので参考になるプレゼントなんてまともに思いつく筈もなく……なんて事は実は無かった。

 

「男性に贈るんだったら無難に時計とかどうかな。」

 

 2人にプレゼントを考えてもらっていた間に無い頭を捻りに捻って何とか時計が思い付いた。腕時計とかなら邪魔にならないし貰ってもいらないなんて事にはならない筈だ、我ながら無難に思い付いたと思う。

 

「時計……確かに良いですね、それじゃあどういうデザインのーーー」

 

 それから1時間弱だろうか、2人の買い物に付き合って漸くプレゼントが全て決まる形となった。

 

「それじゃあマルグリットさん、これをグレイさんとヘルミーナさんに。」

 

 マリオンが包装紙に小さく包まれたプレゼントをマルグリットに渡す。

 

「それでは、これは私からのプレゼントですマリオン。」

 

 マルグリットから手渡されたのは装飾のされたネックレスだった、どうやらアーニャのプレゼントを選んでいる最中に同じ店で買っていたようだ。

 

「貴方の無事を皆が祈っています、それを忘れないでくださいマリオン。」

 

「マルグリットさんも……また絶対に会いましょう。絶対に……。」

 

 2人の悲しげな反応に思わずこちらも辛くなる、戦争じゃなければ歳も近いだろう2人ならもっと別の事をしている筈だから余計にそう思ってしまう。

 

「あのさ、2人ともこれを受け取って欲しい。今日のお礼にね。」

 

 マルグリットには鈴のイヤリング、そしてマリオンには懐中時計を手渡す。マルグリットと同じように先程見繕っていた物だ。

 

「貴方から物を貰う理由がありません。ましてや連邦軍人からなんて。」

 

「そう言わないでくれよ。昨日と今日、君に助けてもらわなかったらどうなっていたか……これくらいの礼はしないと男が廃るんだよ。」

 

 彼女からしたら敵からプレゼントを貰うというのは気が引けて当然なのかもしれないが俺にとっては恩人なのだ。

 

「ふふっ……本当に貴方はおかしい人ですね。戦場で邂逅すればその時は殺し合いになる相手なんですよ?」

 

「それでも、それでもさ。こうやって出会ったのも何かの運命で、もしも相まみえればその時はその時だ。お互いに生きる為に戦わなくちゃならないだろうけど……出来るなら戦いたくなんてない、それでも。」

 

「……分かりました、一応はありがたく受け取っておきます。こんな事を言うのは初めてですが、貴方とは戦場で出会いたくはないですね。本当に不思議な人ですよ。」

 

 そう言いながら彼女は微笑む、その微笑みに少しドキッとしながらも同じように俺も頷いた。

 

「あぁ。出来るならまた此処で、その時は敵と味方も連邦もジオンも関係ない世界であって欲しいな。」

 

「そうですね、……それではお別れです、えぇと……。」

 

「ジェシー、ジェシー・アンダーセンだ。」

 

「私はもう知っているでしょうがマルグリットです……姓はありません。」

 

 姓がない、その言葉に彼女の背景を考えてしまう。この世界では不遇な境遇の人は多い、この子もその1人なのだろう。

 

「それじゃあマルグリット、それにマリオン。いずれまた何処かで会える事を祈ってるよ。」

 

「えぇ、いずれまた。」

 

「また何処かで!」

 

 2人と別れ、港へと向かう。彼女との戦いは避けられないかもしれないが、それでも出来るならば……そう複雑な思いを抱きながら。

 

 

ーーー

 

「不思議な人でしたね。」

 

 彼と別れ、マリオンを家へと送る道中でマリオンがそう呟いた。

 

「えぇ、連邦軍人だと言うのにどちらかと言うと子供みたいな純粋さを持った変な人でした。」

 

「でもマルグリットさん、少し楽しそうでしたよ?」

 

「な、変な事を言わないでください。」

 

 思わずエレカの操作が危うくなってしまいそうになった。落ち着きながら運転を再開する。

 

「ふふっ、でも本当に。本当に不思議な人だったから。ニムバスの最期も教えてくれた。」

 

 ニムバス大尉の死に関わっていた人、それに今このサイド6に寄港している連邦軍と言えば木馬と随伴艦だ。そうなると彼はひょっとしたらあの白いMSのパイロットなのかもしれない。何となくだがそう思った。

 

「出来るなら戦いたくない……彼はそうは言っていましたが、避けられないでしょうね。」

 

 時代が、戦況が、その他の多くの要因が戦いは必然であるという流れになっている、此処で無くとも別のどこかで……そう遠くない内に戦うことになる。私達は軍人なのだから。

 

「それでも……それでもか。」

 

 彼の言葉が頭に残る、そうなった時はお互いに殺し合うしかない。それでも……また何処かで出会えたならばと。

 そう思っている内にマリオンの住んでいるアパートに辿り着く、彼女とも当面の間か……それとも永遠に別れる事になる。

 

「マルグリットさん……。」

 

 先程までは笑顔を見せていた彼女も今は瞼に大粒の涙を浮かべている。私も同じように悲しみで涙を流していた。

 

「今度は……今度はお兄さんもヘルミーナも連れて3人で来ますから……絶対に……絶対に……。」

 

「はい……。」

 

 抱きしめ合い、互いの体温を感じながら別れを告げる。

 この先の戦いで何が待ち受けていようとも死ぬわけにはいかない、まだ私は未来を見たい。そう思ったのだから。

 

 

ーーー

 

「なんだこれは……。」

 

 アンゼリカに辿り着き、搭乗口から入るとそこには『祝!アンナ・フォン・エルデヴァッサー生誕祭!』とデカデカと書かれたボードと艦内の至る所にパーティーの装飾が施されていた。

 

「おっそいじゃないかシショー!待ちくたびれたよ!」

 

 大きな声が艦内に響く、声の主は勿論ララサーバル軍曹だ。

 

「いやいや……なんだこの装飾具合は。」

 

 これ準備したのは昨日の今日だよな?それにしてはかなりの規模になっているんだが。

 

「いやあ最初はアタイらだけで準備してたんだけどクルーのみんなも乗り気になってくれててね、いつの間にか大盛り上がりになっちまったんだよ。」

 

「大盛り上がりにも程があるだろ……。」

 

 それだけアーニャの人望が高いと言うことだろう、部下としては嬉しい限りだが。

 

「にしても前日でこれだけ大規模に準備して、本人が見たら驚くだろうな。」

 

「その点については今日は大丈夫だと思いますよ中尉。」

 

「グリム?どういうことだ?」

 

「中佐ならテム博士に呼ばれてサイド6の方にいますから、今日は帰って来れないと思います。なんでも今整備に出してるMSの事で話があるようで。」

 

 せっかくの休暇とはいえ仕事があるのは可哀想だな、階級的に仕方ないとはいえ。

 

「そうか、なら明日の準備に向けてラストスパートでもかけるか。」

 

「そうだね!ってそれよりもシショー、ちゃんとしたプレゼントは買ったんだろうね?」

 

「それですよそれ、僕とカルラさんはそれだけが気がかりだったんですから。」

 

「なんだよ……ちゃんと買ったよ、変な物でもないぞ?」

 

 どうせ俺が買う物だから女心が分かってないだろうって不安なんだろうが今回の俺には助っ人がいたんだ、誇れる話じゃないが今回は自信があるぞ。

 

「それなら良いけどねぇ。1番のメインディッシュがずっこけられても困るから心配なんだよアタイらは。」

 

「1番のメインディッシュってなんだよ……。」

 

 相変わらず2人のノリにはよく分からない所がある、あまり気にしてても仕方がないが。

 

「まっ取り敢えずは明日に向けて最後の総仕上げと行こうか!いやぁ明日が楽しみだねえ!」

 

 どんなどんちゃん騒ぎになるのか一抹の不安を抱えながらも俺も手伝いに走り回るのだった。

 

 

 

そして翌日、結局昼間までアーニャが戻らずクルーのみんなは我慢しきれない程の熱狂を胸に秘めて帰りを待っていた。

 

「おい!中佐の姿が見えたぞ!」

 

 クルーの声に反応して窓から覗き込むと親父とジュネット中尉と共にアーニャが搭乗口に近づいていた、どうやら昨日はあの2人もテム・レイ博士の所にいたっぽいな。今後の作戦も含めた話だったんだろう。

 そんな事は誰も気にしていないのかみんなはクラッカーの紐を今か今かと必死に引くのを我慢していた、お前ら上官好き過ぎるだろ……ちょっと感動してしまう。

 

 そして独特の機械音と共に搭乗口のゲートが開くと同時に大量のクラッカーから祝福の音が鳴り響く。

 

『エルデヴァッサー中佐!誕生日おめでとうございます!』

「タイチョー!おめでとー!」「中佐!おめでとうございます!」

 

 騒音レベルの大声が鳴り響き、祝われた本人は何が起こったのか分からず混乱し、親父とジュネット中尉は想像していただろうがここまでやるとは……的な驚き方をしている。

 

「え、え?なんですかこれは……?」

 

「何ってお前のバースデーパーティーだよアーニャ。」

 

「でも……これは……。」

 

 ふと思ったが貴族のお嬢様だったアーニャにはこんなアメリカのホームパーティーみたいなノリの誕生日の祝われ方は初めてかもしれない。

 

「まぁ楽しんでくれよ、今日の為にみんな頑張ったんだ。主役が困惑してちゃみんなが悲しむぞ?」

 

「は、はい!みんな……私の為にありがとうございます!」

 

「うおおおー!」

 

 意を決したようにこの場のノリに合わせようと若干の無理をしながらハイテンションになるアーニャ、それに感激して盛り上がるアンゼンリカのクルー達。バースデーパーティーは初っ端から大盛り上がりで幕を開けたのだった。

 

 

 

「ありゃりゃ、こりゃ大盛り上がりじゃないの。」

 

「悪いな、ホワイトベースのみんなにも来てもらって。」

 

「なんのなんの、タダで飯が食い放題なんだからみんな喜んでるよジェシーさん。」

 

 カイと少し遅れてホワイトベース隊もパーティーに参戦した。ブライトさんやアムロを始め、主だったメンバーは全員参加してくれて何よりだ。

 

「しかし私やララァもいて大丈夫なのかアンダーセン中尉。」

 

 勿論の事だがシャアやララァも呼んでいる、流石に元は敵だからとかは今は関係のない事だ。

 

「良いんですよキャスバル総帥、こんな時に以前は敵だったとか連邦だネオ・ジオンだとかアースノイドだスペースノイドだ、なんてそういうしがらみがいりますか?」

 

「しかし彼らの中にはジオンに家族や友人を殺された者もいる筈だ、内心では私を快く思う者は少ないだろう。」

 

「それでもですよ、祝い事にそんな私情は忘れようってみんな思ってるだろうし。何よりこんな時ですらいがみ合うようなら戦後に平和なんて無理な話ですって。さあさあお二人もどんどん中に入って入って!」

 

 無理矢理にシャアとララァを輪の中に入れて参加させる。これで良いのさ、いつか本当にスペースノイドもアースノイドも分け隔てない世界を作る為の小さな一歩。それがこんなパーティーでも良い筈なんだ。

 

「さぁパーティーも盛り上がって来た所でアタイらアンゼリカのクルーからプレゼントがあるよー!」

 

 進行役のララサーバル軍曹の言葉と共に場は更にヒートアップする、どうやらまずは整備スタッフからのようだ。クロエ曹長がプレゼントを渡す。

 

「誕生日おめでとうございます中佐!私達からは普段からMSの作業、それに作戦行動での不規則な生活によるお肌の荒れを懸念してハンドクリームなどのスキンケアセットです。」

 

 ほう……そういうのもあるのか、まぁ男の俺ですら整備とか手伝ったりすれば手が荒れるしそこら辺は若いと言えど気にしておく必要があるんだろうな。

 

「ありがとうございますクロエ曹長、それに整備の皆さんも!」

 

「次は我々艦橋のクルーからだ、中佐おめでとう。」

 

 ジュネット中尉が代表しプレゼントを渡す、かなり小さな包みだ。

 

「中佐は書類仕事も多いでしょうから我々からはペンを贈らせていただきます。お受け取りください。」

 

 ペンか……確かに上質なペンなら指先への負担も軽減されるし書類仕事の多いアーニャにも適したプレゼントだ……!みんな凄いの買ってるじゃないか……俺ミスったりしてないよな……?そんな風に不安を抱えていると次はララサーバル軍曹とグリムもプレゼントを渡していた。

 

「僕とカルラさんからは花束です、こんな時勢ですがおめでとうございます中佐。」

 

「みんな……ありがとうございます。これだけ嬉しい誕生日は今までで初めてです……!」

 

「おっと隊長ー!まだプレゼントは終わっちゃいないよ!さぁシショー、最後にビシッと決めておくれ!」

 

 おいおい……あれだけみんな凄いプレゼントを渡しておいて俺をラストにするのかよ……。最後でずっこけそうじゃないか。

 

「ジェシー、貴方もプレゼントを用意してくれたのですか?」

 

「あ、あぁ。当たり前だろ、一応はお前の騎士でもあるんだから。気に入ってくれるかはわからないけど受け取ってくれるか?」

 

 そういうとリングケースを渡す、その瞬間場の空気がざわめき始めた。

 

「え?」

 

 拍子抜けした声を出すクロエ曹長。

 

「なんと……。」

 

 いつも表情を崩さないジュネット中尉も何故か驚いている。

 

「そう来たか……流石シショー……。」

「やっぱり中尉は一味違いますね。」

 

 うむうむと何か頷いているララサーバル軍曹とグリム。そして……。

 

「う……あ……。」

 

 口をパクパクと動かして固まっているアーニャ、やはり俺だけハズレみたいなプレゼントを贈ってしまったのか……!?アクセサリーだし女の子2人に選んでもらったから無難な方だと思ってたのに。

 

「ジェシー……これ……これって……。」

 

 そう言いながらポロポロと涙を流すアーニャ、ヤバい……本当に何かやらかしたか?そう思っていると親父がいきなり肩を引っ張る耳打ちをする。

 

「ジェシーよ、お前何をしているか分かっているのだろうな……!」

 

「何ってプレゼントだろ……!?もしかして俺ミスったりしてのか……!?」

 

「ある意味ではそうだ、これと似たシチュエーションを実は私も以前やらかしているのだ。母さんにな。」

 

 なん……だと……?よく分からんがこの親父がやらかしたと言うことはそれなりの失敗なのだろう、しかも母さんにとは……。

 

「私はそれを単純にプレゼントとして贈ったつもりだったが、周りはなんと……プロポーズだと思ったらしいのだ。」

 

「嘘……だろ……!?」

 

 つまりそれって、この周りの反応からして俺も同じように思われてる!?た、確かに指輪ってそういう意味合いのある物だけど、そう受け取られるものなのか!?

 

「お、親父の時はどうしたんだ……!?」

 

 ボソボソと小声で会話を続ける、今のこの静まり返った場を何とかお祝いムードに戻す方法を考えなければ。となると経験者の切り抜け方を教わるしかない!

 

「私の時はアンゼリカ……いや知り合いが『覚悟を決めなさい!』と婚約指輪として渡せと言ってきたからな。母さんの事はその時には普通に愛していたからそのままプロポーズしたぞ。お前はどうなんだジェシー。」

 

「お……俺は……。」

 

 アーニャの事をどう思っているのか……?そりゃ好きではあるけどあくまでそれはライクであってラブの方じゃ……どうなんだ……?

 

「どう思っていようとお前の本心をしっかりと伝えておくのだぞジェシー、そこに階級や身分などは関係ない。お前の思っている事をしっかり伝えればそれれが友愛だろうと親愛だろうと中佐は受け止めてくれるだろう。」

 

 ……取り敢えず思った事を口に出そう、気持ちはそれで分かるはずだ。意を決して俺はアーニャに向き合う。

 

「えぇと……、その……だな。」

 

「は、はい……。」

 

「お前と出会ってまだ半年ちょっとだな。」

 

「そ、そうですね。」

 

「ジャブローで騎士の誓いを交わして、そして各地を転戦して……色々あったよな。」

 

「えぇ、今思えばまだ半年ちょっとしか経っていないんですね。」

 

「確かに体感的には長く感じるよな、それだけ中身が濃かったって事なんだろうけど……って俺が言いたいのはそうじゃなくてだな……ええと……。」

 

 言いたい事は決まっているのだが言葉にすると何か長々しくなってしまう。

 

「あー……その……半年間お前と一緒にいてアーニャがどんな風に未来を見てるのかってのが俺にもそれとなくは伝わってさ、身内をコロニー落としで失ってもそれでもスペースノイドに恨みを持つんじゃなくてより良い未来を何とか築こうって意志の強さとかも分かってるつもりなんだ。」

 

「はい……。」

 

「そのお前が作りたい未来ってのに俺も参加したいんだよ、出来ればお前の隣でさ。だからその……この戦争が終わってもお前と同じ場所で同じ未来を見たいんだ。」

 

「ジェシー……。」

 

「だ、だから……これを受け取って欲しい。」

 

 そう言いながらリングケースを開き指輪を差し出す、まさかのプロポーズとなってしまったが、言葉に出したようにどうやら俺はアーニャに対して愛情の方が強かったようだ。

 

「ジェシー、貴方はジャブローで私が部隊を設立したいと言った時にゴップ叔父様の威に負けず堂々と私を助けてくれましたね。」

 

「そうだな。」

 

「そして……ブルーディスティニー1号機の起動実験の時に貴方は意識不明の重体になってしまいました。その時に私は貴方を戦いに誘ってしまったせいでこんな事になってしまったのだと憔悴してしまいました。」

 

「……。」

 

「けど、今分かりました。貴方がこの指輪を差し出してくれた時に、本当の私の気持ちは貴方に傷を負わせた責任から憔悴したのではなく。その……貴方を愛していたからこそ、父や祖父のように失うのが怖かったんです。」

 

「……っ、アーニャそれって。」

 

「はい。私も貴方を愛しています、受け取らせてください。」

 

 その瞬間、沈黙していたみんなが大歓声を上げる。当事者としてはクソ恥ずかしいのだが。

 

「コイツら……他人事だからって浮かれ過ぎだろ……。」

 

「良いではないですかジェシー、私はこの日の事を決して忘れません。貴方がくれた言葉も、みんなの笑顔も。」

 

「……そうだな。」

 

 

 こうして、俺にとって一生忘れる事のできないだろう数日間が終わりを告げる。

 この後には壮絶な戦いが待ち受けているのだろうが、それでもこのひと時を大切な人達と過ごした事がこの後の困難にも立ち向かう原動力となるだろうと俺は思うのだった。

 


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