機動戦士ガンダム 紺碧の空へ   作:黄昏仮面

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第52話 ソロモン攻略作戦

 

「コンスコン艦隊からの援軍要請だって?」

 

 母艦であるリリー・マールレーンのブリッジで通信手から報告を受ける。

 

「先の戦闘でMS隊を失いその補充の為の要請なんでしょうがどうしましょうか?」

 

「放っておきな、アタシらの任務とは関係ない連中だ。それに新型も受領しちまってる木馬連中相手に真面目に戦って何が得られるって言うんだい?自殺するようなもんだよ。」

 

 それに前回の戦闘では数分足らずで10数機のドムがやられたとも聞く、そんな連中を相手にしても意味がない。命あっての物種だ。

 

「そうさね……今からグラナダにトンズラするフラナガン機関の連中のお守りに忙しいと返答でもしておきな。実際連中の護衛は必要なんだ、向こうも強くは言えない筈さ。」

 

 フラナガン機関……ニュータイプ……数日前にサイド6で出くわした謎のガキはとうとう見つからなかった、アイツは一体なんだったのか。まさか幽霊とでも言うわけじゃないだろうが……。

 

「マハルの事も気掛かりだ……あのガキの言葉を真に受ける訳じゃないが……。」

 

「シーマ様?どうしたんで?」

 

「なんでもない!リリー・マルレーンは進路をグラナダに向けて出港する、連邦に勘付かれる前にさっさと準備しな!」

 

『アイアイサー!』

 

 まずは既に発進しているフラナガン機関の人員と設備を運んだ輸送船に向かう、もしもあのガキがいれば僥倖だが似たような能力を持ってる奴さえいれば良いんだが……。

 

 

ーーー

 

「閣下、シーマ艦隊は援軍要請を拒否しました。」

 

「ふん、最初から期待などしてはおらん。所詮は女狐の子飼いだ、飼い主以外の命令は聞かんと言うことだろう。」

 

 先日の聞き分けの良かったニュータイプ部隊の方が珍しい部類だ、しかしこれで援軍は皆無となった。我が艦隊にMSが無い以上これ以上この宙域に留まるのも危険である。

 ドズル閣下に合わせる顔がないが一旦はソロモンに戻るしかあるまい。

 

「我が艦隊はソロモンへ帰投する。しかし木馬にシャアめ、このままで済むとは思うなよ……。」

 

 

ーーー

 

「MS全機搭載完了。アンゼリカはいつでも出港可能ですぞブライト艦長。」

 

「ホワイトベースも全機収容しました。ではソロモン宙域に向け出港します。」

 

 親父とブライトさんの通信が終了するとともに艦が出港する、これでサイド6ともお別れだ。いよいよドズル・ザビの指揮する宇宙要塞ソロモンでの戦いだ。

 

「しかし、テム・レイ博士も凄い置き土産を残してくれたなぁ。」

 

 MSデッキに搭載された俺たちの機体は何と修理されただけでなく改修もされているのだ。アレックスのシミュレーターで得られたデータと今までの実戦データを基に少ない時間でテム博士が反応速度をパイロット毎に最適化が必要な箇所のみ簡易的なマグネット・コーティングを一部に施してくれたのだ。

 

「ヴァイスリッターは脚部、私のフィルマメントは頭部の駆動系と腕部、ララサーバル軍曹のメガセリオンは腕部……そして。」

 

「グリムには新型か、羨ましいな。」

 

「何言ってるんですかヴァイスリッターがあるのに、と言うかこれは新型というより試験機ですよ中尉。」

 

 サイド5跡地での戦いで大破したグリムのメガセリオンはそのまま廃棄となり、新たにサイド6で試験運用されていたRGM-79C、通称ジム改へと乗り換える事となったのだが……この機体実はちょっとした曲者なのだ。

 

「試作運用中の全天周囲型モニターか、グリムが1番適性があると博士は見抜いたみたいだけど伍長の待遇じゃあないな。」

 

 曰く「優秀なパイロットに階級など関係ない。」とこのジムのパイロットにグリムを推したらしい。

 

「各所に設置された内蔵モニターでコクピットの周りから隙間なく全体を見渡すようにするのが本来博士の考えている案らしいけど現状で見える範囲はコクピットの上半分までが限界って言ってましたよ博士は。シミュレーションは済ませたかなグリムくん?」

 

 クロエ曹長が端末を弄りながらグリムに話しかける、今後のメンテはクロエ曹長が引き継ぐらしいので細かい点は確認しておきたいのだろう。

 

「えぇ、今までは頭部のカメラを腹部のコクピットで見ていたので細部で視覚的な違和感がありましたが。今は目線通りの操縦になって操作はかなりし易くなりましたね。視覚の不一致による操縦のストレスも軽減されると思います。」

 

「ふむふむ……、博士がグリムくんは堅実な動きを熟すからテストパイロットか教官に向いてるかもって言ってたけど私も同感ね。」

 

「なんだいセンセー?アタイやシショーじゃこの機体は向いてないって事かい?」

 

「ええそうねララサーバル軍曹、貴方がこれを使ったらメインカメラ以外ボロボロになるんじゃないかな……。」

 

 思わず苦笑する、確かにこのテストタイプの全天周囲モニターのカメラは繊細っぽいし機体を無理に動かさないグリムなら適役だろう。

 

「人の事は笑えませんよ中尉〜?貴方も大概壊す方の部類なんですからね?」

 

 ギロッと鋭い視線を向けられる……確かに大抵どこか壊してるよな俺も……。

 

「あとはアムロが乗っていた前のガンダム……あれも驚いたなぁ。」

 

 G-3ガンダム、この世界でアムロが乗っていたガンダムだが今回アレックスにアムロが乗ることになったので余る形となったのだが……。

 

「聞きましたよシショー、あれを数日で赤く染めてマグネット・コーティングってのも施したんでしょう?」

 

「らしいな……。」

 

 ここまで聞けば何となく分かると思うが、何とG-3ガンダムは赤く染められて赤い彗星専用機として新生したらしい。これってギレンの野望に出てくるキャスバル専用ガンダムみたいなものじゃん……。

 と言うかホワイトベース隊の陣容がジオン公国オーバーキル編成なんじゃないかこれ。マグネット・コーティングだって俺たちですら一部に施す程度なのにこっちは殆ど施してあるし何気にそれもシャアのパイロットとしての実力がやっぱり俺なんかよりは遥かに上と再認識してヤバいんだが。

 

「リック・ドムを研究材料として引き取る代わりって言うのと赤い彗星がガンダムに乗っているって威圧感を公国の兵士に与える為ってのと、いずれにしてもこの先ジオンは嫌な思いをするだろうな。」

 

 既にキャリフォルニアベースから公国軍MSのデータは提供されているのだろうが実物を弄るのとではまた違うのだろう、ドムは優秀な機体だしこれを研究して何か凄い機体を作ったりしたらジオンも涙目だろう。

 

「さて皆さん、嬉しい報告ばかりではありませんよ。あと数日もしたらいよいよ宇宙要塞ソロモンの攻略です。地上での大規模作戦の参加はありますが宇宙での大規模作戦は今回が初となります。」

 

「宇宙で既に小規模とはいえ戦闘しているが、やっぱり敵の動き方が地上と比べたら予測し難いのが問題だな。」

 

「えぇ、360°のどの方向から敵が来るのか。更には四方八方からの多数の攻撃も予測されますし、今回の場合はMS以外にも要塞に設置されている要塞砲や近くの衛星に設置した衛星砲などの防衛機構が多数配備されているのは間違いありませんからね。」

 

 本来の流れならそういう防衛システムみたいなのはソーラ・システムで破壊してくれる筈だから心配はいらないか……?流石に完成していない状態で要塞攻略に挑むほどティアンム提督も馬鹿じゃないだろうし。

 

「ティアンム提督もそこら辺は分かってるだろうから対策はして来る筈だ。個人的にはやっぱり大隊規模でのMS同士の戦闘の方が気になるな。」

 

 両軍入り乱れての戦闘だ、混戦は免れないだろうし国力に差があるとは言えジオンのパイロットはまだこの段階では練度の高い兵士ばかりだろうし気は抜けない。

 

「そうですね……基本的には単独で突出せず連携して各個撃破するのが理想の形ですね。如何に冷静さを保ち敵だけを引きつけ少ない消耗で倒せるかが重要になります。」

 

「敵も味方も数千機のMSが入り乱れるんだ、補給の暇だっていつ出来るか分からないから無駄弾も使えない。かなり厳しい戦いになりそうだな。」

 

 肉体的にもそうだが精神的な疲れも大きなものになるだろう、いつ何処から敵の攻撃が来るか分からない状況では常に神経を張り巡らせてないといけないだろうし心身ともに気をつけないとふとした瞬間に撃墜されてもおかしくはない。

 

「ようは慌てず、急いで、正確に敵を倒しゃ良いんだろう?」

 

「ララサーバル軍曹がそれを言う?」

 

 クロエ曹長のツッコミに思わず笑ってしまう、人の事は言えないのだが。

 

「いや、確かにララサーバル軍曹の言う通りじゃないか?今度ばかりはそんな気持ちで挑まないと弾薬が空っぽなんて絶望的な状況で嬲り殺しにされる可能性だってある。そんな恐怖しかない死に方なんてしたくないからな。」

 

 全員が頷く、多くの戦いをしてきたが今回ばかりはそれが今まで通り通用するか分からない要塞戦だ。今まで以上に気持ちを引き締めて戦う必要がある。

 

「それでは各自、第三艦隊合流迄に機体の調整と要塞戦のシミュレーションを済ませておくようにしてください。ひとまずはこれで解散します。」

 

 ふぅ、と大きく息を吐く。テム博士はヴァイスリッターの性能と俺の操縦癖から脚部の調整をしてくれたみたいだし今のうちに慣れておかないとな。

 個人的にはこの調整はビームルガーランスの使用も前提となってそうだし実戦ではどう使い熟せるか分からないがシミュレーターで今の内に癖を掴んでおかなければ。そう考えながらヴァイスリッターの元へと向かうのだった。

 

 

 

 それから数日が経ち予定航路には敵もなく順調に進むことができ、漸くソロモン間近の合流ポイントへと辿り着いた。

 

「ホワイトベース、並びにマゼラン級アンゼリカ、聞こえるか?」

 

 恐らくはワッケイン司令の乗っているマゼランからの通信だ、ジュネット中尉とセイラさんが応える。

 

「これより編隊を組む。コース固定、フォーメーション同調は当方で行う。補給受け入れ態勢に入れ。」

 

「ジュネット中尉、了解したと返答を送りたまえ。それでは各員補給体制急げよ、私は状況が整い次第ブライト艦長と共に艦隊司令に挨拶をしてくる、中佐にも準備をと伝えたまえ。」

 

 バタバタと周りが準備を始める、外からはコロンブス級の補給艦が近づいている。俺も手伝いに入らなければ。

 

 

 

 

「しっかしまぁ本当に大決戦って感じだねえ……!」

 

 補給物資を仕分けが終わり、休憩に入ったところでララサーバル軍曹がそんな事を呟く。

 

「あのミサイルを抱えたのパブリクタイプの突撃艇ですよ、ミサイルがそれだけ足りないって事なんでしょうね。」

 

「よく見ろグリム、ミサイルを積んでるのはそれだけじゃないぞ。」

 

 パブリク突撃艇に並んでエーギルユニットを装着したメガセリオンの両肩部にも同じ様な大きさのミサイルと発射ユニットが装着されている。恐らくはこれも普通のミサイルじゃない。

 

「メガセリオンにもミサイル……?」

 

「恐らくビーム撹乱幕だ、要塞や敵艦からのビーム砲を防ぐ意図があるんじゃないか?」

 

 機動性に優れたメガセリオンなら原作みたいにパブリクのパイロットを使い捨てるような使用方法にはならないしミサイル発射後はパプリクの護衛も可能だ。これならパブリクの損耗も原作よりは少なくなるだろうな。

 

「ビーム撹乱幕……?それじゃあこっちもビーム攻撃出来なくなるじゃないか。」

 

「こっちの艦艇はミサイル装備が多いし艦隊戦は問題ない筈さ、それにMS戦闘が本格化する頃にはきっと……。」

 

「相変わらず変な所で慧眼ですねジェシー。その先は私が説明します。」

 

「アーニャ?挨拶はもう済んだのか?」

 

「はい、第三艦隊の司令はルナツーのワッケイン少将でした。我々第三艦隊は敵要塞ソロモンへの攻撃を敢行しティアンム提督が率いる第一艦隊の対要塞兵器の使用までの時間を稼ぐのが任務になります。」

 

 対要塞兵器……やっぱりソーラー・システムはあるよな。これが有ると無いとじゃ難易度が違いすぎるし。

 

「対要塞兵器とはどんな物なんですか?」

 

「それはワッケイン司令も詳細は知らないとの事でした、オデッサでの一件もありますから最重要機密は一部にのみ留めている様ですね。」

 

 まぁスパイの存在で極秘情報がバレたら元も子もないからな、適切な対応だろう。しかし本編中でも層の薄さから何か策があるとドズルに看破されてるしこの時の流れではどう本編との差異が出るか気をつけておく必要はあるな。

 

「作戦開始はいつからだアーニャ?」

 

「もう間も無くです、私達はコクピットで待機し作戦が発令され次第出撃となります。」

 

「よし、みんな絶対に生きて帰るぞ!」

 

『了解!』

 

 例え正史とは違う流れになろうと、俺は俺に出来る事を精一杯やるだけだ……!

 

「艦隊、横一文字陣形に移動を開始!」

 

 ジュネット中尉の通信が入る、そろそろパブリクやメガセリオンがビーム撹乱幕を発射するタイミングだろう。

 

「ビーム撹乱幕装備のメガセリオンが先行発進、続きパブリク突撃艇の発進を確認。」

 

艦のモニターを中継して映像を確認する、先にメガセリオンが撹乱幕を撒いてから装備を切り替えてパプリクの護衛に回るようだ。しかし流石の防衛網だ、既に何機かは衛星砲なとで落とされている。

 

「ビーム撹乱幕の形成を確認!敵衛星砲の威力の軽減を確認!アンダーセン艦長、ワッケイン司令よりMS隊の出撃要請!」

 

「よし!MS隊全機出撃!第一艦隊の対要塞兵器の使用まで持ち堪えるのだ!」

 

「こちらMS隊隊長アンナ・フォン・エルデヴァッサー、任務了解!全機出撃します!」

 

「よし……ジェシー・アンダーセン。ヴァイスリッター出撃する!」

 

 こうして宇宙における初のMS大隊規模の要塞戦が幕を開けた。


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