機動戦士ガンダム 紺碧の空へ   作:黄昏仮面

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投稿間隔が長過ぎて申し訳ありません、投稿を始めて早いもので一年が経ちました。一年記念で6月末に投稿出来ればなぁ……と思っていたのがご覧の有様で反省しております。
物語もまさか一年戦争編が一年で終わらないなんてなぁと思いながら、後10話以内には終わるだろうの精神での投稿となります。
今後も気長にお付き合い頂けると幸いです、よろしくお願いします。




第57話 流転した世界

 

 

『おはよう、ジェシー。』

 

 

 

 カーテンが開かれ、窓から光が差し込む。何年も繰り返してきたいつもの朝だ。

 

「あぁ、おはよう。」

 

「朝ご飯が出来てますから。早く済ませてくださいね。」

 

「あぁ、いつもありがとう。」

 

「どうしたんですか急に?」

 

「いや、何となくさ。毎日疲れるだろう?」

 

「あなたに比べたらそんな事ないですよ。さぁ、温かいうちに済ませてくださいね。」

 

 顔を洗い、用意されている朝食に手をつける。朝から手の込んだ料理だ、味わいながら舌鼓しているとラジオから音声が流れ始めた。

 

『おはようございます。本日は宇宙世紀0085年、7月31日。サイド1、30バンチコロニーから朝のニュースをお伝えします。』

 

 ラジオからニュースが流れる。内容は最近過激になっている反連邦デモの事やそれらについての市民の反応などあまり景気の良い内容ではない。耳を傾けていると妻がラジオのスイッチを止めた。

 

「起きたばかりで不機嫌になっても仕方ないですから。」

 

「気にしちゃいないさ。俺が連邦軍人だったのはもう何年も前の話だろ?」

 

 後に一年戦争と呼ばれたジオン独立戦争で俺はパイロットとして戦っていたが、あの戦争が終わり妻と出会った事で軍人を辞め、今はこのサイド1で作業用モビルワーカーを使用してコロニーの保守・点検に従事している。給料は軍人時代より落ちたが、それでも比較的古いコロニーばかりのサイド1は仕事が多い。二人で生活して行くのには不便は無い。

 

「それにしても、最近は物騒だな。」

 

「えぇ。前の戦争で大勢死んで、人手がどんどん足りなくなってあちこちに税金が掛かっていますから。最近は食料品も値上がりしてきましたね。」

 

 連邦軍人だった頃は気にも留めなかったが、スペースノイドに対する連邦政府の対応はあまり良いものではない。一年戦争、そして数年前に起きたと言われているデラーズ紛争でアースノイドからは宇宙人と揶揄されるくらいに忌み嫌われる存在となってしまった。

 それが無くとも、一年戦争で失われた総人口の半数という数字が、月日が流れて行くにつれ綻びとして顕著に現れて行った。

 物資の生産数の減少やそれらを運ぶ流通、物流、商流などの遅延、更にコロニーの保守・点検など、それらを担うべき人材が極端に減ってしまい、それらの穴埋めの為に多数の税金が必要となってしまう。

 それを負担するのがスペースノイドだけと言うのだから、最近では連邦政府への不満を持つ人間が増えて来ている。地球生まれで元連邦軍人の俺ですら今では多少なりの不満を持っているのだから生粋のスペースノイドはより大きな不満があるだろう。

 

「私は、あなたと一緒に居られるなら何処でも良いのですけど。」

 

 不安そうにしている妻の手を握り安心させる。彼女は元々新サイド5、かつてのサイド6に暮らしていた。いや……暮らしていたと言うよりはそこにいたという表現の方が正しいのか。

 戦争の終わった直後、俺のいた部隊はア・バオア・クーからサイド6に駐留し、その後でジャブローへと帰還する事になった。その時に偶然スラムで死にかけていた彼女を見つけ保護する事を決めた。同僚からはロリコンだの人買いだの馬鹿にされたが気にも留めなかった。そもそも彼女は俺とそこまで年齢に差はない、身体的な面ではそう言われても仕方がないと思う事も少しはあったが。

 

 いずれにせよ彼女を引き取るために色々と手を尽くす事になった。軍を辞めるきっかけも、彼女に存在しなかった市民権を得る為に偽りの戸籍を用意させるのに必要になった多額の金を、軍の退職金を使って悪徳商人に払ったからだ。

 

「俺もお前と居られるなら何処だって良いんだ。」

 

「昔からずっと疑問だったのですが、どうして私を拾ってくれたんですか?」

 

「拾ったって言い方は好きじゃないな。一目惚れだったんだよ。」

 

「スラムで死にかけていた私になんておかしいですよ。」

 

「運命的な何かを感じたんだよ。そう……ずっと昔から知ってるような。」

 

 生まれ変わりだとかの概念は信じていないが、彼女と出会った時に感じた想いは正に形容し難いと言えるほど俺の魂を揺さぶったのだ、だからなりふり構わず彼女を助けたいと軍人まで辞めてしまえたのだから。

 

「……もっと早くあなたに出会えていたら、妹も死ぬ事はなかったかもしれません。」

 

 彼女は自分の事を多く語らないが、一年戦争では彼女に稀有な能力があるとジオンに判断され、妹と共に徴兵されていたらしい。

 学徒動員は戦争末期両軍でされてはいたが彼女と妹は非人道的な実験の為に徴用された。そして期待された能力を発揮されないと判断され、廃棄処分などという人の尊厳を無視した処理で、彼女と妹はサイド6のコロニーに放逐された。しかも何も手渡される事無くだ。

 二人はそもそも生まれ自体が良くなかった、両親からは虐待されて同年代と比べたら身体的にも教養的にも恵まれた環境で育ったとは言えない、引き取られたジオンの研究所ではモルモット扱い、そんな二人が何も持たず捨てられてまともに生きていける訳が無かった。結局彼女の妹は程なくして栄養失調で死んでしまったのだ。

 

「気に病むな……とは言えない。だけどいつまでも引きずっていても妹さんも悲しむだけだ。」

 

「……そうですね。私はあなたに出会えた、その救いを感謝するだけです。」

 

 彼女の心の傷は、あの戦争が終わってもまだ癒える事はない。それはあの戦争で多くを失った他の人々もそうだろう。だけど少しでも気が楽になれるよう、彼女に嫌な思い出がある地とは離れたかった。

 

「俺はずっとお前を守るよ、例え何度生まれ変わっても。」

 

「……ありがとうございます。」

 

 きっと俺の前世でも、来世でもまた彼女と巡り会い続けるだろう。そんな青臭い事を思いながら彼女にキスをする。この時が永遠に続けば良いのに……そう思いながら、何故か、息が出来ない、身体はずっしりと重くなり、気が遠くなる……、段々重くなって行く身体で、倒れてしまった彼女を抱きしめる、死んでもずっと護り続けると……そう思いながら、そしてそこで俺の意識は完全に途切れた。

 

 

ーーー

 

 

「……っ!?」

 

 ベッドから跳ね上がる様に目を覚ます、大きく息を吸って辺りを見回すがアンゼリカの俺の部屋のベッドだ。今の夢は一体……、やけにリアルな夢だった。

 

「サイド1……30バンチ……?」

 

 夢の中で流れていたラジオ、確かそんな感じのコロニーだった。何処かで聞いたことのある名前だ……。

 

「そう言えばティターンズが毒ガス攻撃をしたコロニーがそんな名前だったか?」

 

 30バンチ事件と言えばエゥーゴの発足する原因となった事件だった筈だ、バスク大佐が反連邦政府デモに対する見せしめとして毒ガス攻撃を仕掛けた事件……。今見ていた夢はまさにその場面だったのだろうか。

 

「って言っても……夢は夢か。」

 

 まるで自分が本当に体験したかのような夢だったが、所詮夢は夢だ。現実ではない。

 だがこの奇妙な感覚はなんだ?何とも言い難い感情が胸の奥から湧き出るような……。

それにあの夢で俺の嫁さんだった人……何処かで見たような感じもするが。

 

『MSパイロットへ、至急ブリッジへ出頭せよ。』

 

「っと、何か動きがあったか?」

 

 気になる事もあるが、急いで服を着替えアンゼリカのブリッジへと向かう。

 着いた先には既に主だったメンバーは出揃っていた。

 

「状況は芳しくありませんな中佐。」

 

 親父がアーニャへそう告げる。

 敵の謎の攻撃から1日が経ち、連邦軍は敵の攻撃手段さえ特定できず二の足を踏んでいた。

 

「味方の中ではソロモンの亡霊が現れたんじゃないのかと言っている人もいますね、流石にそれは馬鹿げていますけど。」

 

 グリムの言葉に頷く、幽霊の類が艦船を沈められるなら今頃ジオンはサイド3が丸ごと消えている。攻撃しているのは紛れもなく生きている人間なのだ。

 

「ティアンム提督からは私達第13独立部隊が出撃をし、敵の攻撃手段を特定しろとの命令が入っています。」

 

 まぁ妥当な判断か、アムロやシャアみたいなニュータイプなら恐らくは敵のビット攻撃であるこの不可思議な攻撃を感知できる筈だ。そうじゃなくても敵に対して二人をぶつければ余程の事がない限り負けはしない……と思う。敵には本命である筈のララァはいない訳だし、あり得るとしたらシャリア・ブルとかクスコ・アルみたいな原作や小説に出てきたニュータイプだろうからな。

 ……いや、サイド6で戦ったイフリートのパイロットって事もあり得るか?だが原作にいる敵ではないから、その能力に関しては未知数過ぎるからな……。仮想敵としては先の二名の方が良いのかもしれない。

 

「だけどさ隊長、どっから現れるかも分からない敵に対して何処に出撃すりゃ良いんだい?闇雲に探しても燃料の無駄にならないかい?」

 

「確かにその通りです、せめて少しでも敵がいそうな地点が予測出来れば良いのですが……。」

 

 ララサーバル軍曹の質問、確かに完全に何処から来ているか分からない敵を適当に探してもまず見つからないだろう。

 だが、昨日一日の攻撃範囲と敵がギリギリ感知されない程度の距離、そしてコンペイトウの防衛圏を考えると……。

 

「なぁ良いか?俺にちょっとした提案がある。」

 

 艦のメインモニターに俺の電子端末を連動させ、コンペイトウ周辺のマップが表示される。

 

「仮にだ、敵が無線兵器やそれに似た兵器を使用していると考えて……恐らく行動範囲がある筈だ。」

 

 ビット攻撃だとしたら流石に超長距離で攻撃しているとは思えない。そうなるとデブリに紛れて、それなりに近い地点で攻撃している筈だ。それと攻撃された艦艇の位置を組み合わせる。

 

「敵の攻撃は散発的ではあるけど攻撃地点は要塞正面ゲート、そして左側面のゲートを防衛していた艦船だ。そしていずれもデブリ帯に近い方から狙われている。となると……。」

 

 大雑把ではあるが、ある程度の位置を算出する。恐らくこの付近のデブリ帯に紛れて行動している筈だが。

 

「ふむ……確かに闇雲に探すよりはジェシーの案を取り入れて行動するのも良いかもしれませんな中佐。」

 

「えぇ。敵がまた同じ場所で行動するとは限りませんが何か掴めるかもしれませんから、ホワイトベースにもそう伝えておきましょう。各員は出撃準備を。」

 

「了解!」

 

 どんな敵が待ち受けているかはまだ分からないが、確実にニュータイプとの交戦は避けられないだろう。下手をすればソロモン戦よりも困難が待ち受けているかもしれない。今まで以上に気を引き締める必要がありそうだ。

 

 

 

 それから数時間、現在ソロモン宙域のデブリ帯をホワイトベースと共に敵の捜索中である。ただ先日のソーラ・システムの攻撃や、激戦による敵味方の船やMSの残骸なども多く含まれた地帯なので、ルウムの暗礁よりも更に動き辛い。敵が隠れるには持ってこいの場所だ。

 

「こちらグリム機、指定ポイントに到着。敵機の気配はありません。」

 

「アタイの方も索敵に引っ掛かる敵は見当たらないよ!しっかしホントに酷い有様だね此処は。」

 

 多数の艦船とMSの残骸が至る所にあるのを見るとまるで墓場のそれだ。確かにこんな所で攻撃でもされれば亡霊に襲われてたと思うのも仕方ないかもしれない。だが敵は間違いなく生きてこの周辺にいるはずだ。

 

「二人はそのまま次のポイントまで進行してくれ。アーニャ、何か聴こえたり感じたりしないか?」

 

「いえ、特には何も。先日の様に何か違和感があれば良かったのですが。」

 

 ニュータイプの感応なのかどうかは今は判断できないが、音の幻聴が聞こえた俺以上に声らしき幻聴を聞いているアーニャの方がニュータイプとしての素養がありそうなので、敵を察知できるか期待したがやはり簡単に敵を見つけるなんてのは無理だったか。普通に索敵に集中した方が良さそうだ。

 

「しかしこのデブリ帯……敵を見つけても下手に攻撃すれば艦の残骸に当たって暴発しかねないのは怖いな。」

 

 下手に電気系統が生きてたり、動力部が健在だったら普通に爆発するだろう、推進剤に直撃でもしたら爆発と共に付近のデブリまで巻き込んで大惨事になりそうだ。

 確かZの時にクワトロとハマーン様が戦った時も百式が沈没したサラミスかマゼランでそんな事やってたし、これだけの船の残骸だったら機能がまだ生きている艦がそれなりに残っててもおかしくはない。誘爆でもしたら目も当てられないだろう。

 

「私達が攻撃し難く、かつ相手は無線兵器か何かで安全に攻撃できる場所ではあります。ジェシーが言った様な兵器をジオンが持っているのであれば此処は隠れて攻撃するのに一番適した場所ではありますね。」

 

「そうだな、だが問題は上手く鉢合わせる事が出来るかだが……、クソっ焦ったいな。」

 

 艦隊が何処かに控えているなら良いが、ある程度何処かに物資を隠しながらのゲリラ戦だったらこの宙域を虱潰しに探すだけでは時間が掛かり過ぎてしまわないか不安になる。見当違いの場所を索敵していたら、その間に敵は何の憂いもなく攻撃出来るのだから。

 

「ジェシー、焦っていても仕方ありませんよ。私達は私達の出来ることを精一杯やるだけです。」

 

「……あぁ、そうだな。ホワイトベース隊の方で何か動きがあれば良いが。」

 

 別働隊として少し離れた位置のデブリ帯をホワイトベース隊にも探らせている。俺達が見つけられなくとも、あっちならアムロもキャスバルもいるし敵がニュータイプであるのなら気配を察知してくれるだろうと期待している。

 

《こちらアンゼリカ、MS隊聞こえているか?事態が変わった、現在の状況を報告願う。》

 

 ジュネット中尉の声だ、何かが起こったのだろう。急いで応答する。

 

「アンゼリカへ、現在ヴァイスリッターとフィルマメントはポイントAを通過、ポイントBへ向けて進行中。メガセリオンとジムは先行しポイントCへ向けて進行中だ。」

 

《了解、MS部隊へ現在の状況を報せる。ホワイトベース隊が敵の新型MAと思わしき未確認機との交戦に入った。護衛に数機のリック・ドムとソロモン戦で確認された新型MSを引き連れての遭遇戦だ。》

 

 未確認のMA……やはりエルメスか?それにドムにゲルググを引き連れた部隊、考えたくはないがシャアがキシリア麾下じゃないこの世界では他のニュータイプ、或いはニュータイプ部隊でエルメスを護衛をしているのかもしれない。

 

「ジュネット中尉、ここからホワイトベース隊の加勢には行けるのか!?」

 

《交戦ポイントからはヴァイスリッターとフィルマメントは離れ過ぎている、ララサーバル軍曹とグリム伍長の機体であれば、10分程で合流出来る距離ではあるが。》

 

「コンペイトウの防衛艦隊はどうなっているのですか?今私達の側の機体を援護に向かわせるのは早計です。ホワイトベース隊と交戦中の敵が本命とはまだ言えませんから。」

 

 いや、エルメスがいる時点で本命は向こうだと思うが……とは言え別の部隊が潜伏しているのなら下手に俺達が動くよりは防衛艦隊と合流させた方が無難か。

 

《それが状況はあまり良い状況ではないのだ中佐。ホワイトベース隊が敵と遭遇する直前に付近を防衛していた艦隊が例の攻撃で被害を受けている。ホワイトベース隊の救援に最も最短で駆けつけられるのは我々の部隊だけだ。》

 

 最悪のタイミングだ……、だが恐らくではあるが敵のビット攻撃のおかげでアムロかキャスバルがニュータイプ的な反応が出来た可能性もある。今はそれをどう対応するかが問題だ。

 

「どうするアーニャ、まだ伏兵がいる可能性も確かにあるが敵は新型のモビルアーマーとソロモンで戦った新型もいる。幾らアムロ達と言っても状況次第では不利になるかもしれない。」

 

 不確定要素の高い相手だ、本来の歴史の流れとは違う状況で相手の実力も読めないし此処で不利なアクシデントが発生したら次戦以降が怖い。俺としては援護に駆けつけたいが……。

 

「そうですね……。この状況では無理に別働隊を探すよりもホワイトベース隊の援護に駆けつけるのがベストでしょうか。アンダーセン艦長、アンゼリカは進路をホワイトベースへ向けて転進を。ララサーバル軍曹、グリム伍長は現在のポイントからデブリ帯を通過しながらホワイトベース隊と挟撃が出来る様に移動してください。ジェシー、私と貴方も少し時間は取られますがホワイトベースへ向けて移動します。」

 

「了解だ!」

 

 急いで駆けつけたいが真逆の方向を探索していた俺とアーニャではグリム達よりも時間が掛かる、デブリ帯の通過は容易ではないし焦らず行くしかない。

 頭を冷静にして移動を開始する、その時……。

 

 リィン、リィン、リィン

 

「!?これは……!」

 

「……ッ!ジェシー、この感覚は。」

 

 これは……、まさか俺はとんだ思い違いをしていたんじゃないか?

 

 ピピピピピ!

 

「ロックアンアラート!?アーニャ!」

 

「くっ……!」

 

 回避運動を取り、熱源の方向から距離取る。横を掠めたのはマシンガンやバズーカではない。これは……。

 

「ビーム光!?」

 

「ジェシー!油断してはいけません!次弾が来ます!」

 

 再びのアラートを聞くと同時に急いで回避する、アーニャの通信が無ければ直撃していた……この攻撃の精度……冷や汗が止まらない。

 

「こちらフィルマメント!アンゼリカ!応答を!」

 

《……》

 

「ララサーバル軍曹!グリム!こちら側にも敵がいた!応答してくれ!」

 

「……」

 

 アーニャの予感が当たっていた……、敵がホワイトベース隊と遭遇した部隊だけでは無かった。俺の焦りのせいで急いでアンゼリカやララサーバル軍曹達を向かわせた事で最悪のタイミングで通信が届かない状況で敵と遭遇してしまった。

 

「ここは……!」

 

 フィルマメントが信号弾を発射する、事前に示し合わせていた救援を報せる為の物だ。この状況ではこれを使ってアンゼリカに気付いてもらうしかない……、だがこれを使うということは敵に情報を与える事にも繋がる。

 

『信号弾か、このタイミングで使用するって事は母艦か味方に俺達の存在を知らせる為の物なんだろうが……つまり味方が駆けつけるには猶予があるって事だよなぁ白い奴!』

 

 ザラっとした嫌な感覚、この感覚には覚えがある……!

 

「灰色のゲルググ……!」

 

 全面が灰色に塗装されているゲルググ、通常カラーの物やカスペン大佐の専用機の様に胸部が緑や黒ではない完全に灰色のゲルググだ。恐らくは……イフリートのパイロットだった奴だ。

 

『グレイ、不用意に動かないで。姉さんの護衛が出来なくなる。』

 

 更にもう一機のゲルググが現れる。これも灰色だけで塗装されたゲルググだ。恐らくは僚機だったドムのパイロットか、ならもう一機何処かにいるのか?

 

『敵……白い機体と青い機体……。ドズル中将を倒した、お兄さんの……敵ッ!』

 

「なんだ……?この感覚……ッ!?ぐぁぁぁぁ!」

 

 先程とは違う感覚を感じた同時に突然の衝撃。計器を確認すると、何の前触れもなくヴァイスリッターの左腕と左脚部の一部が削られていた。これは……。

 

「ビット……!?まさか、そんな!?」

 

 エルメスは『二機』存在している……!?

 いや、有り得ない話ではない。確か試作機として数機あった筈だし小説でも二機登場していた。

 状況はかなり厳しい、全ての行動が裏目に出てしまっている。今の状況は絶対絶命と言っても過言ではない。この戦力差ではアーニャを護るどころかまともに戦えるかも怪しい。

 損傷した箇所をパージし機体の調整を手動入力する、これで少しは動けるが……。

 

「ジェシー!大丈夫なのですか!?」

 

「あぁ、だが状況は最悪だ。逃げながら戦うしかない!」

 

「えぇ、私が援護します。貴方は後退を!」

 

「馬鹿を言うな!この状況と相手を考えるんだ、お前を生きて返すのが優先だ!」

 

 この損傷したヴァイスリッターでは奴等を相手にまともに後退は出来ない、ならばせめてアーニャだけでも無事にアンゼリカに戻すか味方と合流させるまで持ち堪えさせなければ。

 

『逃げる算段でも考えているのか?逃すと思うなよ白い奴……いや、ジェシー・アンダーセン!』

 

 一機のゲルググがこちらに向かって前進してくる、俺はサブアームに吊っていたビーム・ルガーランスを残った右腕に装備し、予備のシールドを空いたサブアームに固定させ左側の防御に対応させる。

 

「やらせるかよ!」

 

 ビーム・ルガーランスはその攻撃特性上、生半可な攻撃では破壊されない程度には実剣部分も強固である。それを利用し敵への攻撃と防御を両立させながら戦える。

 

『ドズル閣下のモビルアーマーを破壊した武器か!だがそのデカブツを器用に振り回せるかな!』

 

「くそっ!当たれぇ!」

 

 イフリートの時よりも機動力が増している、更にこのヴァイスリッターの状態では更に不利でまともに狙いが付けられない……!

 

『あの武器……通常のビームライフル並の攻撃も可能なのか!』

 

『グレイ!一人で迂闊に動かないで!もう一機いるんだよ!』

 

「ジェシーをやらせはしない!」

 

 フィルマメントのビームライフルの攻撃がゲルググを掠める、直撃コースだったがやはり反応速度が俺達とは桁違いだ。

 

『青い奴……コイツの狙撃は厄介だな。マルグリット!ビットの攻撃はまだか!』

 

 ゲルググはフィルマメントの攻撃を懸念してか、一旦距離を置きビームライフルでの攻撃に切り替える。近接攻撃よりはマシではあるがそれでもアーニャ並の正確な狙いだ、ジワジワと追い詰められているのが分かる。これにエルメスの攻撃が加わってしまえば……。

 

『マルグリット!どうしたんだ!応答しろ!』

 

『ハァ……!ハァ……!』

 

『姉さん!?』

 

『サイコミュの異常か!?どうしたんだマルグリット!』

 

 敵の攻撃が鈍っている?……本来はこの機体の状況で仕掛けるのは愚策かもしれないが逆に敵の想像を超える攻撃さえ仕掛けられれば……!

 

「うおおおお!」

 

 ヴァイスリッターの出力を可能な限り上げ、一気にゲルググへと接近してビーム・ルガーランスによる攻撃を仕掛ける。当たりさえすればモビルスーツなら……!

 

『なんだと……!あの機体の状況で接近して攻撃をしてくるなんて……!』

 

 間一髪の所でビーム・ルガーランスを刺すことには失敗するもゲルググを抱きしめる様な形で捕まえる、これで迂闊に攻撃は出来ない筈だ!

 

『クソっ!死に体の癖に厄介な事を!マルグリット、ビットで攻撃できないのか!応答するんだ!』

 

「なんだ……?マルグリット……?」

 

 接触回線による敵の通信を傍受する、あの時のイフリートのパイロットの声……そして奴が叫ぶ名前は……?

 

「マルグリット……マリオンと一緒にいたあの子が……あの子がエルメスに乗っているのか!?」

 

 目紛しく移り変わるこの戦況で、更なる混乱が俺を襲う。

 あの時……戦場で出会ったならば戦わないといけないと言った……、だけどまさかこんな場面で出逢ってしまうなんて。

 

「だが……アーニャを護る為に俺は戦わなきゃならないんだ!」

 

 この世界をより良い方向へ持って行くために、彼女を護るのが俺の使命なんだ。そう信じて戦う意志を固める。

 

 

 

 その決意が後々自分を苦しめることになる事も知らずに。

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