機動戦士ガンダム 紺碧の空へ   作:黄昏仮面

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第60話 望まれぬ戦い

 

 宇宙要塞ア・バオア・クー、その要塞の一画に俺とヘルミーナはいる。ひたすらに怒りだけを残して。

 

「殺してやる……っ!殺してやる……っ!」

 

「ヘルミーナ……。」

 

 マルグリットが撃墜され、それでも残った二機をせめて破壊しようと試みたが、俺のゲルググは白い奴にデブリにぶち込まれた衝撃で制御が不安定となり、またヘルミーナ自体もマルグリットが死んだショックで平常心を維持して戦う事が実質不可能となった事と、敵の援軍が来たことで撤退を余儀なくされた。

 

 俺はまた、誰かを犠牲にして自分だけが生き残るハメになってしまった。それもこれまで俺を支えてくれた少女を犠牲にしてまでも。

 

「アイツら全員殺してやる!お姉ちゃんを殺した罪を償わせてやる!」

 

 普段はマルグリットの事を姉さんと呼んでいたヘルミーナが、まるで子供の様に癇癪を起こしている。いや……実際に子供へと逆行しているのでは無いかとも思った。

 俺以上にヘルミーナの精神的なショックは大きいし、何より元々精神的に不安定だった境遇だ。マルグリットを失ったことでその精神に亀裂が出来ていてもおかしくはない。

 

「ジェイソン・グレイ中尉、ヘルミーナ少尉、キシリア閣下がお呼びだ。」

 

 士官の言葉に気付き、少しの冷静さを取り戻し何とか対応をする。

 辛い事だが、悲しんでばかりもいられない。やらなければならない事がまだあるのだ。

 

 

 

「戻ったようだなグレイ中尉。どうやら随分と手痛い損害になったようだな?」

 

「ハッ、申し開きもございません。」

 

 ソロモンへ向かったニュータイプ部隊は、結局俺とヘルミーナだけを残し全滅した。木馬の方にも少なくない部隊がいた筈だが誰も生還はしなかった。

 

「それでもグレイ中尉とヘルミーナ少尉が生き残っただけ儲け物と見るべきかな?やはり木馬と白いマゼランの部隊は連邦のニュータイプ部隊と考えた方が良さそうだ。」

 

「……そうかも知れません。」

 

 赤い彗星が木馬にいるとは言え、エルメスを始めとした最新鋭の機体で揃えられた部隊が少なくない時間で撃破されたのだ。それに俺ですら結局あの2機を北米の頃から仕留める事が出来ていない、認めたくはないが奴らの実力はニュータイプレベルとして見る方が確かだろう。

 

「気に病むな、と言うのは難しい話か。マルグリット少尉は君達にとって家族同然だったのであろう。実際にヘルミーナ少尉は妹であるしな。」

 

「……。」

 

 ヘルミーナはまるで聞こえていないかの様に静かに頷くだけだった。

 

「いえ……今は戦争中でありますから。」

 

 ヘルミーナは最早話を聞いているかいないかすら分からない虚な状態だ。キシリア閣下に気取られたくはないが……。

 

「まぁ良い。連邦軍主力艦隊はこの奇襲から立ち直ればすぐにでも此方に侵攻してくると予想される。君達の再度の出撃も近いだろう、それまでは休んでおくと良い。」

 

「了解しました。」

 

 敬礼をし、ヘルミーナを連れ部屋から立ち去る。今や敵はこのア・バオア・クーとサイド3の目と鼻の先まで近付いてきている、局面は連邦にとっても俺達ジオンにとっても最終段階となっているだろう。

 ……俺は、どうするべきなんだ。

 

 

ーーー

 

「やはりキシリア様の懸念通り木馬連中は厄介となりそうですか。」

 

 かつてマ・クベと呼ばれた男の言葉に返答をする。

 

「どうだろうな、局面を変える程の力ではないだろうが、それでも戦線の一つに張り付かれれば突破は難しくなるやも知れん。まさかエルメスが2機とも撃破されるとは、私も思ってはいなかったからな。」

 

 少なくとも木馬と白いマゼランのMSを少しは撃破してくれると思っていた。

 それが少しの損害で終わったと報告を聞いた時はあまりに過大評価をしていたのかとも感じてしまった。

 

「それでもソロモンに駐留していた多数の艦船とMSの撃破、結果だけ見れば損失分を補うレベルには役に立ったと言えなくもありませんが。」

 

「結果的には、だがな。だがギレンはこの結果に良い反応はしないだろう。自軍のニュータイプ部隊がアースノイド出身者の多い連邦のニュータイプ部隊に倒されたのだからな。」

 

「あの方もニュータイプという存在には懸念を抱いておりますからな。我々みたいな所謂オールドタイプに取って代わる存在が次々と()()から出てくるとなれば、彼の掲げる優性人類生存説の根底が崩れ去ってしまう。公国軍のオールドタイプ共は自分達がその存在である事を信じて疑わないのですから。」

 

 今現在パイロットとしての能力に秀でたニュータイプの存在は多く確認されていて研究もされている。これが政治的分野、経済的分野にも才を発揮する様になり、その区別がはっきりと容易になれば俗物的感性を持った人間は劣等感を抱いていくだろう。

 公国内ですらその様な懸念が生まれる可能性がある、それが地球生まれの連邦軍からもニュータイプが生まれたとなればダイクンの提唱したニュータイプ論を掲げる我々には毒となる。

 自分達が優性種だと信じて疑わずに大義の為に戦ってきた公国軍の兵士はその大義名分が無くなり、ギレンの言葉を信じ戦ってきた者は戦う意義も見失う。そうなればジオン公国は内から崩れ去ってしまうだろう。

 

 無論、そんなに分かりやすく新旧と区別されるほどの違いが如実に出るとは言い難いが、実際にフラナガン機関で調整されたニュータイプ達は分かりやすくオールドタイプのパイロットとは実力が違う。はっきりと区別されるのも時間の問題なのかもしれないが。

 

「それを防ぐ為のソーラ・レイだろう?ギレンも今まで核を使わず連邦にソロモンとドズルを犠牲にしてまで秘匿していた理由がアレにはある。」

 

 連邦艦隊の全軍を殲滅し得る程の超兵器、マ・クベの起こした南極条約違反にギレンが敢えて乗らなかった理由も、これによる宇宙艦隊の殲滅を狙っての事だろう。

 戦術核が幾ら戦局を有利にすると言っても、それは個々の局面のみであり戦略的には有効打にはなり得ない事の方が多い。地上で乱発してしまえば将来的に地球を植民化する場合の環境面でも不都合になる。

 それに此方の戦術核はそれなりに数はあるが連邦と比べれば圧倒的に少ない数だ。此方が無闇に核を使用する事で連邦を逆撫でしてしまえば、秘蔵されている核を宇宙で使用してくる事も想定された。

 そうなれば物量で既に差が付いている我々に更に追い討ちが掛かる状況となっていただろう。結果的にマ・クベの独断行為と連邦も受け取ったのが幸いだった。

 

 まだまだ地球は有効活用しなければならない、だからこそ手軽に使える核兵器よりもギレンはソーラ・レイを選んだのだろう。

 

 発射に必要な電力や冷却装置などの都合で乱発できる代物ではない、だが連邦軍や各サイドコロニーの人間はそんな事は知りようがない。兵器が一基だけとは限らないと思うだろうし、その威力を見て抵抗する気概は連邦軍はともかくコロニー政府には無いのだから。

 

「ギレン総帥もその為に計画段階では1発撃てば冷却に1週間以上かかると言われていた物を無理矢理にでも2発は撃てるようにと無理に調整したのでしょうからな。連邦の宇宙艦隊を確実に殲滅しようと言うのならお釣りが来るほどでしょう。」

 

「しかしな、もしも1発で連邦艦隊を戦闘継続不可能な状態にでもしてみせたら危ういのは私達だ。それは分かるだろう?」

 

「えぇ、ア・バオア・クーの幾つかの宙域に照準を既にプログラムしているでしょうから。仮に1射目でそれなりの成果が見られれば2射目はギレン総帥の目の上の瘤であるキシリア様に照準を向けてもおかしくはないかと。」

 

 ギレンならやる、あの男なら父や私を討つ事に躊躇いはないだろう。アレに肉親の情というのを期待するだけ無駄だろう。

 

「だからこそ手を打っておく必要がある。幸いニュータイプが二人生き残ったのは運が良かった、ア・バオア・クーで開発されたキケロガとジオングを与えソーラ・レイの防衛の任に就かせようと思っている。」

 

「ソーラ・レイの防衛……。」

 

「建前は、だがな。お前も本国の情報は耳にしているだろう。」

 

「ダルシア・バハロとアンリ・シュレッサーの周辺がきな臭くなっているとは。」

 

「連邦も何かしらの動きを見せるだろうからな。幸いソーラ・レイの担当はお飾りのギレン派とは言え海兵隊所属のアサクラ大佐だ。シーマの艦隊を護衛に向かわせるよう仕向けて何か動きが有れば動いてもらうとしよう。」

 

「殲滅されたとしても所詮は汚れ仕事役と使い捨てのニュータイプだけの損失と言う訳ですな。」

 

 操れるかどうかは別として、ニュータイプ専用機がア・バオア・クーから離れるのは好都合だろう。もしもギレンに子飼いのニュータイプがいた場合に機体に手を出されずに済む。

 

「どのような賽の目が出ようと、この一戦でジオンは良くも悪くも変わるだろう。打てる手は打っておかねばな。」

 

「えぇ、キシリア様の未来の為に。」

 

 地球から運んできた年代物のワインでグラスを交わし、決戦の刻を待つのであった。

 

 

ーーー

 

「ヘルミーナ、聞こえているのか?」

 

「……。」

 

 キシリア閣下との話が終わり、割り当てられた部屋に戻って来た俺達だったが、部屋の中でブツブツと何かを呟きながら虚な目をしているヘルミーナに、俺はただ棒立ちする事しか出来ないでいた。先程からずっと、この状態のままだ。

 

 マルグリットは言った。ヘルミーナは俺を愛していると、だがやはり姉であるマルグリットを失ったショックの方が大きいのだ。結局俺にしてやれる事は何も無いのか……?

 

「なんだい此処は?死人の集まりか何かか?」

 

 部屋のドアが開かれると同時にそんな言葉が部屋の中に響く、見知った顔の女性だった。

 

「シーマ中佐?……何か御用ですか。」

 

 以前サイド6からフラナガン機関の人員がグラナダへ向かう際に彼女の艦隊が護衛に回っていた。俺はその時殆ど意識が無かったがグラナダに降りた際に数回顔を合わせている。その時は俺達にいきなり未来予知が出来るのかどうかなどよく分からない質問をされたが。

 

「キシリア様からの特命だ。アンタら2人にニュータイプ用のMSを充てがってやるからそれでサイド3の防衛に回れって話さ。」

 

「サイド3の?敵はア・バオア・クーに進軍すると聞いていましたが。」

 

 これだけの兵力が集まっているア・バオア・クーを無視して、サイド3へ進軍するのは悪手だろう。連邦軍の方が兵力が上だと言っても、挟撃に対応出来るほど大きく此方を上回っている訳ではない。

 

「敵は連邦だけじゃないって事さ。考えてもみな、今ギレン総帥やキシリア閣下を始め、軍のお偉方は殆どア・バオア・クーに集結しちまっている訳だ。アンタがもし反ザビ家ならどうしたい?」

 

 成る程、そういう事か。つまりは俺達に味方殺しをさせろと……。

 

「そんな嫌な顔するんじゃないよ。アタシらだって味方を撃つなんて気分が良いもんじゃないんだ。それにキシリア様が手に入れた情報だと反ザビ家派の人間の動きに合わせて連邦が派兵するって話もあるらしい。なんでもアンタらみたいなニュータイプ部隊を送る可能性が高いとか言ってたからねぇ。」

 

 ニュータイプ部隊……?その言葉を聞いた俺と、そしてヘルミーナが反応をする。

 

「お姉ちゃんを殺した奴が来る……?」

 

「なんだ、生きてたのかい。死んでるのかと思ってたよ。」

 

 目を大きく見開き、ヘルミーナがシーマ中佐を見つめている。

 

「貴女も行きたいんだ。自分の故郷が気になってる、だからキシリア閣下から私達を連れて行く任務を指示されて内心嬉しいんだ。」

 

「……ッ!お前……!」

 

「ヘルミーナ……!?お前シーマ中佐の心を読んだのか……!」

 

 昔からヘルミーナとマルグリットは他人の心を読むことが出来る能力が強かった。俺と出会って以降、無闇矢鱈に心を読むなと言ってからその能力を使う事は殆ど無かったのに……。

 

「グレイ、行こう?きっと来る、お姉ちゃんを殺した、グレイの大切な人達を殺したアイツらはきっと来るよ。」

 

 ケラケラと壊れたように笑いながらヘルミーナが怨恨をばら撒く。

 俺は……まるでいつかの俺を見ているような感覚に襲われる、きっと俺もずっとこうだった筈なのに。なのに何で今ヘルミーナを異質に感じているんだ。

 

「ちっ、気味が悪いったりゃありゃしないよ。前にも似たような事をされた事があるがアンタら全員こんななのか?」

 

「……少なくとも俺は貴女の心は読めませんよシーマ中佐。任務の件は了解しました、今はコイツを落ち着かせなくちゃいけない、だから詳細は後程お伺いするので今は……。」

 

「分かったよ、いずれにせよアンタらの機体を乗せるのに時間が掛かる。それまでは好きにすると良いさ。」

 

 シーマ中佐はそう言うと部屋から出て行った。

 

「グレイ、絶対に殺そう?あの白いのと青いの、お姉ちゃんと同じ苦しみを与えてやるんだ。」

 

「ヘルミーナ……あぁ、そうだな。絶対にマルグリットの仇を討とう。」

 

 マルグリットは、最期の時にヘルミーナには何も言ってやらなかったのか……?あの時俺が見て、聞いたあのマルグリットの言葉は幻想だったのだろうか?

 白い奴、ジェシー・アンダーセンを許せと、幸せな刻を貰えたと言ったあの言葉はまやかしだったのだろうか?今となっては知る由も無い。

 

 だが、今ヘルミーナの心を動かしているのは奴等への復讐心だ。隊長を失った俺と同じ様に、家族を奪われた憎しみが原動力なんだ。

 それをマルグリットの死を受け入れろと、納得しろとは言えない。きっと言ってしまえば唯一の支えを失ったヘルミーナは壊れてしまうだろう。そんな事はさせやしない。

 

 マルグリット……、お前が望まない戦いを俺達はする事になる。俺はジェシー・アンダーセンを許せやしないし、ヘルミーナもお前の仇を討たずにはいられない。……だから、許してくれるよな?

 

 俺のその心に、呆れる様な声で『やれやれ、仕方ないですねお兄さんは……。』と呆れた様に微笑むマルグリットの声が聞こえたのは、きっと気のせいなのだろう。

 

 

ーーー

 

 それから少し時が流れ、俺とヘルミーナはシーマ中佐の乗るザンジバル級リリー・マルレーンに乗っている。今はMSデッキにて整備兵から俺達に手渡された機体の説明を受けている。

 

「此方がジオングです。グラナダで開発されたエルメスとは違い、有線式の古いサイコミュシステムですが性能の面では問題ありません。」

 

「コイツはMAなのか?脚が付いていないが。」

 

「分類的にはMSですよ、ただコイツは試作機ですから、本来は脚が付く予定だったらしいですが、実戦ならこれでも充分性能は引き出せますよ。」

 

 確かに地上戦ならともかく宇宙なら脚は無くとも何とかなるか。姿勢制御ならスカートのバーニアで何とかなるだろう。俺はもう一機の方に目を向ける。

 

「こっちのMSも有線式のサイコミュなのか?」

 

「えぇ、ジオングの前身にあたる機体で腕部のサイコミュの小型化が難しく、一度は計画が断念されたのですが、本土決戦を見据え計画が再開され、急造ながら片腕だけ有線式サイコミュ化に成功し実戦配備される形となりました。」

 

 片腕だけ歪に大型化している、本当に急造なのだろう。幸い機体本体はゲルググを基にしているのかコクピット周りの操縦系統については問題無さそうだが。

 

「後は俺達にマルグリットと同じくらいの適性があるかどうかか……。」

 

 ビットとは違い有線式タイプの旧式のサイコミュ兵器とは言え、上手く操れるかどうかは使ってみなければ分からない。

 少なくても俺もヘルミーナもエルメスのビットは碌に扱えなかった、マルグリットですら多数のビットを操るには精神的負担が大きかった物をそれより難度は低いと言っても……、そう考えているとヘルミーナが俺に寄り添ってきた。

 

「グレイ、絶対に倒そう。もうすぐ来る、アイツらは来るよ。」

 

 出会った頃の様に、感情が希薄な、まるで人形のようなヘルミーナに俺は語りかける。

 

「ヘルミーナ、お前はジオングに乗れ。俺はこっちのキケロガで戦う。」

 

「何で?性能はジオングの方が上だよ。グレイが乗った方が敵をいっぱい殺せる。」

 

「ヘルミーナ、ジオングはコクピットが頭部にあってそれが緊急時には脱出機構になっていると整備士が言っていた。だからお前の安全を考えればジオングにお前が乗った方が良い。」

 

「嫌だ……。グレイの言い方、まるで自分は死ぬみたいな言い方だもん……!」

 

 震えながら涙目になるヘルミーナを抱きしめ、安心する様に優しく語りかける。

 

「馬鹿野郎、俺は死ぬつもりはない。お前だって死なせる気はない。ニムバス大尉やマルグリットが残してくれた命を無駄に捨てるつもりは無い。」

 

「本当に……?グレイはずっと、ずっと()()()()()()()のに。」

 

 ……そうだ。ヘルミーナの言う通り、俺はずっと死に場所を探していた。

 隊長を見捨てて逃げた時から、多くの同胞の無念や恨みを感じ取り、その死に様を幻視した時から、この世界で生きる事よりも死んで楽になりたくて仕方がなかった。

 

「ヘルミーナ、この戦争が終わったら何処かのサイドで二人で暮らそう。誰も俺達を知らない所で、戦争なんて関係のない生活をしよう。」

 

「グレイ……。」

 

 ヘルミーナは恐らく分かっている、俺が嘘をついて安心させようとしている事を。それを分かっていても俺の言葉を受けとめてくれている。

 

「分かったよグレイ。生きて、生きてお姉ちゃんの分まで二人で幸せになろう?だから……だから……。」

 

 涙を流すヘルミーナを抱きしめ続ける、せめてこの時だけはそんな夢を見せ続けてくれと願う様に……。

 

 だが、そんな祈りを無視する様に、異質な感覚が俺達を襲う。

 

「──なんだ……?」

 

「グレイ、何かが来る……。」

 

 その瞬間、遠方を光が駆けていく。サイド3の方角から放たれた光だ。

 

「……っ。人の意識が、まるでドロドロに溶ける様な感覚だ……。一体何が……。」

 

 俺がニュータイプになる前に感じた、人の怨嗟が内に入ってくる様な感覚……恐らくは今の光が多くの人の命を奪ったのだろう。

 

「……グレイ。アイツらが来る。」

 

「あぁ、俺も感じる。」

 

 絶望と怨嗟が響き渡る中、それとは違う純粋な怒り。この光に対して絶対に止めるという強い意志を遠くから感じる。

 

「行こうヘルミーナ、泣いても笑ってもこれが最後の出撃だ。」

 

「うん。」

 

 来い、ジェシー・アンダーセン。そしてアンナ・フォン・エルデヴァッサー。今までの戦いの全てにケリをつけよう。


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