機動戦士ガンダム 紺碧の空へ   作:黄昏仮面

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第61話 決戦 ソーラ・レイ①

「MS部隊発進準備完了!いつでも出撃出来ます!」

 

 クロエ曹長の声が通信機から響き渡る。

 

《各機、聞こえるか?現在アンゼリカとその艦隊は残されたブースターを全開にし、敵兵器の存在する宙域へ向かっている。この作戦は敵の規模、防衛戦力、宙域情報などは一切データにない、はっきり言って無謀とも言える戦いとなる。》

 

 ジュネット中尉の声、確かにそうだ。本来であれば少なくともある程度の戦力比くらいは算出できるが、今回ばかりは状況が状況だ。

 

《これにより、我らが艦隊は敵兵器の破壊、最低でも次弾の発射を阻止する為、艦船とMSの連携は前提ではあるが各々がその時の場面で最適と思われる行動を実行する最早戦術とも戦略とも言えない戦いをする事を決めた。》

 

「本来であれば多数の策を以て敵を制するのが一番ではありますが……、そうも言っていられる状況ではありませんからね。」

 

 カッコ良く言えば高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応して戦うとも言えるが、実際は行き当たりばったりと言って良いだろう。

 

 だが今は、下手に考えて足を止めるより動けるだけ動くのが一番だ。

 

《まずヴァイスリッターが先行し、火力を以て敵を面制圧せよとのアンダーセン提督からの指示が出ている。その後開かれた敵陣を突破し、敵兵器への有効射程範囲に入ると同時にフィルマメントのバストライナー砲で敵兵器を狙撃し破壊を狙う。それが無理であれば艦隊特攻をしてでも阻止するとの事だ。》

 

「まさに決戦だね……、昔見たジャパンの映画でも捨て身の戦いをするシーンとかあったけどまさかアタイらがするなんて思いもしなかったよ。」

 

「何ですかカルラさん?もしかして怖気付いてます?」

 

「そんな事ある訳ないだろ!逆に闘志がメラメラと燃えてくるのが抑えきれないよアタイは!」

 

「ハハッ、いつものカルラさんらしいですね。」

 

 緊迫したムードを一掃するように二人が場を和ませる。みんなそれで一息つけたのか良い顔をしている。誰も絶望なんてしていない。

 

「俺が言うのもなんだけど、誰もこの戦いで死ぬつもりなんて無いって思ってるし死なせたりもしない。だから絶対に生きて帰ろう。」

 

 難しいのは分かっている、だけどそれでも生きて帰るんだ。

 

「えぇ、これ以上無意味な血を流さない為にも。」

 

「そうだね、アタイもそう思ってるよ!」

 

「この先の未来の為にも。僕らは生きて前へ進みたいですからね。」

 

 全員が気持ちを同じにする。誰も死ぬつもりもない、生きて未来を創る為に。

 

《パイロット各位へ、間も無く本艦は目標宙域の敵射程圏内に入る。ミノフスキー粒子下の戦闘を考慮し、本艦とパイロットへの確実な通信はこれが最後になる。これはアンダーセン提督と、そして私からパイロット達に伝える唯一の任務だ。必ず全員生きてこの船に戻ってこい。以上だ!》

 

『了解!』

 

 外付けのブースターが切れ、アンゼリカのスピードが徐々に落ちていくのを確認し、MSハッチが開く。

 

「先陣は俺が切り開く!ジェシー・アンダーセン、FAヴァイスリッター出撃する!」

 

 出撃と同時にバーニアをフル稼働させ、ソーラ・レイを護衛しているのであろう艦隊とMSを確認する。

 

「敵部隊確認!ミサイル発射位置の計算を……!」

 

 ミノフスキー粒子下ではミサイルなどの兵器はロックオンしても誘導はできなくはなるがある程度の発射位置さえ予め計算しておけば少なくてもそこまでは確実にミサイルは進んでくれる。

 奇襲での先手とこれだけの防衛隊の数であればある程度の成果は見込める筈だ。

 

「当たれえええええ!」

 

 ヴァイスリッターのフルアーマー化によって設置されたミサイルユニットを全門開き射出する。ミサイルは敵の艦隊へと向かい数秒の後、大きく爆発を起こす。

 

《ヴァイスリッターの砲撃を確認!敵の防衛網に隙が出来たぞ!》

 

「ジェシーの作った穴を突破口にします!出撃を!」

 

「あいよ!カルラ・ララサーバル、メガセリオン出るよ!」

 

「こちらヨハン・グリム。ジム、出撃します!」

 

 ララサーバル軍曹とグリム伍長の二機と、サラミスやコロンブスに搭載されていたMS部隊が順次発進していく。私のフィルマメントもMSハッチから出て、アンゼリカの甲板に乗るような形で狙撃体制へと移行する。

 

「頼みましたよ、皆さん。」

 

 肩を並べて戦う事が出来ないのが辛いが、この狙撃を成功させる事が皆を救う事を信じて祈りながらバストライナー砲の発射準備を進めるのだった。

 

 

ーーー

 

「ミサイルユニットパージ!ヴァイスリッターはこのまま敵艦隊へ突撃する!」

 

 外付けのミサイルユニットを外すとヴァイスリッターの機動性も目に見えて上がるのを確認できた。流石はテム博士だ、これなら機体重量が増えていても前と同じ、否それ以上に動ける。

 ビーム・ルガーランスを両手に構え、艦艇を護衛しているMSへ攻撃に仕掛ける。

 

「喰らえぇぇぇ!」

 

 刀身を展開し、ビームライフルとしての機能だけを使い攻撃を放つ。

 

『えっ……?うわぁぁぁ!』

 

『なんだ……!?何処からなんだ!?』

 

「なんだ……?」

 

 敵の反撃が異様に弱い、動きもまばらでまるで……、そこまで思ってから気づく。

 

「クソッ!学徒兵か!」

 

 本来のア・バオア・クーでもそうだったが、最早ジオンに兵無しなのだろう。

 どの程度の数かは分からないが此方からでは判別のしようが無い。

 

「可哀想だが……直撃させる!」

 

 状況に余裕ななく、敵を無力化させるだけの力量もない俺にはそうするしか手段はない。出来る限りコクピットは避けたいが……!

 

『母さん……っ!あぁぁぁ!』

 

『嫌だ!死にたくない!なんでここに敵がいるんだ!?』

 

 パニックになっているのか広域通信に繋いだままで叫ぶ学徒兵達、微かに漂うミノフスキー粒子の影響でその声は途切れ途切れだが余計に此方の戦意を盛り下げる。

 

「戦いたくないんだったら!さっさと逃げな!」

 

 ララサーバル軍曹のメガセリオンがビームサーベルで敵を斬りつける、コクピットを避けて、反撃する前に蹴り飛ばしている。

 

「シショー!ジオンの奴ら子供までパイロットにしていやがるよ!」

 

「分かっている……、だが今は手加減しているほど余裕はない!分かっているな!?」

 

「チクショー!こんなになるまで戦争をしたいってのかいジオンは!」

 

「中尉!カルラさん!敵艦船の砲撃来ます!」

 

 ムサイから主砲が放たれる。此方は回避に成功するも敵の学徒兵の一部はパニックを起こしたのか、自分から砲撃に向かうように飛び込んで爆散してしまう。

 

「馬鹿野郎……!」

 

 そんな死に方をする為に生まれて来たんじゃないだろうに……怒りが込み上げるが今はソーラ・レイまで進軍する方が大事だ。

 

「ララサーバル軍曹、グリム、俺はこのまま敵艦船を撃破する。MSからの反撃を防いでくれ!」

 

「あいよ!」

 

「進んでください中尉!」

 

 二人の援護を受けて反撃してくるMSの攻撃を掻い潜りムサイ級へ急速接近する。

 

「うおおおおお!」

 

 ビーム・ルガーランスでムサイの装甲をこじ開けビームを射出する。爆散する前に離脱し次の攻撃へ移ろうとした時だった。

 

「シショー!危ない!」

 

 二人の攻撃をすり抜けたと思われるゲルググが此方へ接近をしてくる、対処しようと動くもギリギリとなり焦りが生まれる。その時だった。

 

『これで……!なんだ、うわぁぁぁ!』

 

 突如、グリムやララサーバル軍曹とは別方向からのビームがゲルググを撃墜する。

 ビームが撃たれた方向へ目を向けると其処には三機のジム・コマンド、内一機は蒼色の塗装が施されていた。これは……。

 

「油断するなアンダーセン中尉、此方も援護に回る。」

 

「ユウ中尉か!」

 

「ヘヘッ、俺達もいるぜ。あんたがブルーの1号機が暴走してた時に乗ってたってパイロットか、あの時は世話になったぜ。」

 

 モルモット部隊の面々だ、サラミスから出撃し此処まで追い付いたようだ。頼れる援軍だ。

 

「敵はどうやら新兵まで投入しているようだな。敵の攻撃は薄い。」

 

「けどユウ中尉、此処はまだ敵の防衛網の最前線ですよ?もしかしたら奥に行けば行くほどエースが待ち構えてるかもしれません。油断は禁物ですよ。」

 

 ユウの言葉に疑問を放つサマナ准尉、確かにその可能性は高い。敵の要であるソーラ・レイに同じ様に新兵を置いているとは考えにくい。

 

「だがよぉサマナちゃん、こんな新兵に先陣切らせておいてエース様は奥でごゆっくりしてるってか?……そんな馬鹿な事は許されねぇ、そうだろユウ?」

 

「フィリップの言う通りだ、敵にもエースに出て来てもらうほど緊迫して貰うとしよう。アンダーセン中尉、行けるか?」

 

「勿論だ!まだ先は長い、行こう!」

 

 俺とユウ中尉が先鋒となり進軍を再開する、奇襲は思った以上に効いているのか、それともやはり学徒兵ばかりなのか、敵の反撃は予測していたより対応可能なものが多い。

 このチャンスを如何に活用出来るか、それがソーラ・レイに辿り着くまでの要になるだろう。敵の情勢を気にするより、次弾を止めるのが最重要なんだ。

 

「3時の方向から敵小隊!」

 

 グリムからの通信、やはり全天周囲モニターなだけあってグリム機の視野は俺達よりも広くて助かる。

 言われた方向へ機体を向けると其処にはゲルググが一機、それにザク、恐らくFZ型と思われる機体が三機の小隊が此方へ向かって来ている。

 

「此方ヴァイスリッター敵機を確認!敵新型とザクの改良機だ!動きがさっきまでとは違う、気をつけろ!」

 

「了解だ。サマナ、フィリップ、俺達は彼らと分かれてフォーメーションを組み直し挟撃する。行くぞ!」

 

「あいよぉ!」「了解ですユウ中尉!」

 

 モルモット隊が回り込むように動きを変える、此方は正面から迎え撃つ形となった。

 

「グリム、ララサーバル軍曹!正面突破する!着いてこい!」

 

「了解!」

 

 まずヴァイスリッターでゲルググへ向けビームを放つ、最小限の動きで回避されるが追い討ちをかけるようにジム改とメガセリオンが援護射撃を放つ。

 

『チッ!少数で攻めて来るだけはある!各機油断せず迎撃に当たれ!』

 

『了解!』

 

 連携攻撃を回避され迎撃の隙を与えてしまった。流石に敵も新兵だけを配置している訳ではないか。だがこのまま反撃させる訳にはいかない!

 

「後ろがガラ空きだぜ!喰らいやがれ!」

 

 フィリップ機が敵の死角からザクを撃破する、敵小隊の連携が乱れた一瞬を見逃さす此方も追撃を掛ける。

 

「当たれぇ!」

 

 グリム機とララサーバル機が残ったザクを一機撃破し、残りは二機となる。こうなれば相手も多勢に無勢だ、打てる手は最早玉砕に近い形となる。

 

『行かせはせんぞアースノイド!次の発射さえしてしまえば貴様ら連邦なぞ……!』

 

「あの憎しみの光を……これ以上撃たせる訳には行かないんだよ!」

 

 ゲルググのビームナギナタによる攻撃を回避し、ビーム・ルガーランスでコクピットを貫く。ゲルググは動きを止め、残されたザクもまたモルモット隊により撃破されていた。

 

「ハァ……ハァ……。」

 

「付近に敵影無し、一先ずはこのエリアの敵は一掃出来ましたね。」

 

「あぁ、だが此処はまだ敵の防衛網の一番外側だ。あの兵器まではまだまだ距離がある。」

 

 少なくない敵を撃破したとはいえ、まだ地獄の一丁目と言っても過言ではないほどソーラ・レイまでは遠い。次弾が速攻で撃てる訳は無いはずだがそれでも数時間経過すればどうなるか分かったもんじゃない。

 早く……早く進まなければ。

 

「焦りは禁物だアンダーセン中尉、まずは友軍の進軍を待ち適切な補給をする事も大事だ。気負い過ぎれば油断も生まれる。」

 

 ユウからの通信、確かに焦り過ぎても良い結果には繋がらないか。今はどれだけ適切に動けるか、それが一番重要だな。

 

「ありがとうユウ中尉。流石にあの兵器の前だとどうしても焦ってしまうから助かるよ。」

 

「アンタが焦ってると言うよりユウが冷静過ぎるんだよ、この状況で汗一つ流してなさそうだからなぁ。」

 

「俺も焦ってはいるぞフィリップ。だがそういう時だからこそお互いの行動を冷静に見なければ勝てるものも勝てなくなる、そうだろう?」

 

「へっ、全く頼りになる奴だぜ。」

 

「噂をすれば何とやらですよフィリップ少尉、コロンブスから射出された武装コンテナのビーコンが見えます。弾薬の補給をしましょう!」

 

 やはりモルモット隊の面々は頼りになる、この状況下でも落ち着いていられるからこそ此方も冷静さを保てるというものだ。やはり潜って来た死線が違うのだろう。

 

「皆さん、聞こえていますか!?」

 

 通信機からの声、この声はアーニャか。

 

「こちらヴァイスリッター、聞こえているぞアーニャ!」

 

「良かった、幸いミノフスキー粒子濃度はまだそこまで深まっていません。この奇襲攻撃が功を成したという事です。」

 

 敵も此方に気付いていればミノフスキー粒子を戦闘濃度で散布していただろうが、ア・バオア・クーとの連絡を保つ為だったり、敵が来るわけがないと完全に油断していたお陰で粒子が濃くなる前に奇襲する事が出来たわけだ。このアドバンテージはまだまだ活かして行きたいが……。

 

「現在私達は敵の防衛網の一部を突破しましたが、敵も我々の存在に気付きました。防衛ラインを再構築され、我々を囲むように陣形を作られれば数で劣る此方はなす術もないでしょう。」

 

 俺達の戦力はマゼラン1隻、サラミス2隻、コロンブス3隻にMSが約50機と戦闘機やボールなどの支援機も約50機とかなり頼りない、敵はその軽く5倍くらいはいそうだし。

 

「再度の確認となりますが、今の私達に出来ることはあの兵器を止める為に突き進むのみです。全力で突き進みましょう!」

 

「あぁ、分かってる!この勢いを保って敵に囲まれる前に突破しよう!」

 

 最早退路は無い、今はただ前だけを見つめて進むだけだ。

 補給を整えた俺達は、また速度を上げてソーラ・レイへの進軍を再開するのであった。


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