機動戦士ガンダム 紺碧の空へ   作:黄昏仮面

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第62話 決戦 ソーラ・レイ②

 

 ソーラ・レイの戦闘開始より少し前、サイド3宙域シーマ艦隊旗艦リリー・マルレーン

 

「シーマ様!サイド3防衛艦隊からの暗号通信でさぁ!」

 

「なんだい?読み上げな。」

 

「ハッ、『シーマ艦隊は今送信した宙域からは離れ航行せよ、ソーラ・レイが放たれる』との事でさぁ!」

 

「ソーラ・レイだって……?」

 

 その単語には聞き覚えがあった、以前サイド6で出逢ったガキが言っていた言葉の一つにそんな物があった筈だ。確かコロニーを改造したビーム砲か何かだとのたまっていた筈だ。

 

「チッ、今はそれより航路の確認が大事か。コッセル!送られてきた宙域のデータと現在の航路は問題ないんだろうね!」

 

「えぇ、送信されたデータの航路からは離れていますがぁ、ソーラ・レイとは何なんでしょうかシーマ様?」

 

「知るもんか……!」

 

 ソーラ・レイが放たれる……指定した宙域からは離れろ。そしてあのガキが言っていた言葉を線で繋げば、それが意味する事は理解できる……。

 だがそれはつまり、あのガキが言っていた……、そう思っていると遠くの宙域を大きな光が走っていく。

 

「くっ……!」

 

 なんてデカい光線だ、遠く離れたこの距離ですら艦橋が光に包まれている。

 

「シ、シーマ様!こいつぁ……。」

 

「ボサっとしてるんじゃないよ!あの光の行き先を調べな!」

 

「りょ、了解!」

 

 計算などしなくても、恐らくはア・バオア・クーに向かっている連邦へ向けて放たれたのは予測できる。そしてこの光線が放たれた場所も……、嫌な汗が流れているのがはっきりと分かった。

 

「シーマ様!あの光はア・バオア・クーへ向かっていた連邦軍艦隊を狙ったものだと通信が!我々はこのままサイド3へ向かいソーラ・レイの護衛に回れとも!」

 

「……。」

 

 本当に、本当にあのガキが言っていた通りに、ソーラ・レイというのがマハルを改造した兵器だと言うのなら……。あのガキの言っていた通りに世界が進むのなら……。

 

「進路維持!このままサイド3へと向かう!最大戦速!」

 

「アイアイサー!……ん?シーマ様!リリー・マルレーンのハッチが開いてやがります!コイツぁ……新型の2機です!」

 

「あのニュータイプどもか!?何をしている!出撃許可は降りてないよ!」

 

 2機のモビルスーツは通信も聞かず発進していく、敵の匂いでも嗅ぎつけたかは知らないが軍規違反を気にしていないのか。それとも気にするほど奴らには余裕が無いのか、まぁいい。

 

「あんな得体の知れない連中無視しておきな!アタシらはこのまま進軍すりゃ良いんだ!」

 

 進む先には答えが待っている。その答えが分かるまで、あのガキを全て信じるわけにはいかない。

 

 だが、もしも本当にあのガキの予言が本当だったとしたら……そう考えながらサイド3へと今はただ進むのだった。

 

 

 

ーーー

 

「道を開けろ!」

 

 ビーム・ルガーランスの刀身で動きの鈍いザクを叩きつけ、そのまま蹴り飛ばし進軍を続ける。敵は未だに集結できるほど余裕がないのか、それとも焦っているのか分からないが学徒混ざりの小隊規模の反抗だけが目立つ。

 この破竹の勢いを崩さないように、今はひたすら前だけを目指す。

 

『邪魔をするな連邦軍!これさえあればお前達を一掃し、俺たちスペースノイドの理想が実現するんだぁぁ!』

 

「コロニーを……!スペースノイド達の住む家を兵器にしてまで叶えたい理想なのかよ!そんなに勝った負けたの結果が重要だってのか!?ふざけるな!」

 

 迫り来るゲルググと鍔迫り合いを起こしながら、接触回線で彼らの声を聞く。

 彼らにとっては、このソーラ・レイこそが自分達を勝利に導く最後の砦なんだろう。それは分かっている……だが!

 

「それ以外にも道はある筈だ!」

 

 空いた方の手に持っているビーム・ルガーランスの射撃でゲルググを行動不能に追い込む。これでまた道は開けた。

 

「ポイント更新!……クソッ!まだ届かないのか!?」

 

 先程よりも進んでいるのは徐々に大きく見えてきているソーラ・レイを見れば分かる。だが一向にこちらの有効射程距離に届かないのがイラつきを抑えきれなくなる。

 

「もうすぐの筈です中尉!フィルマメントは既に狙撃準備を完了してるんですよ。少しでも射角がズレればあの大きさの兵器なら射撃コースが致命的にズレるんですから、もっと距離を詰めて確実に目標を破壊するか、ずらせるよう狙っている筈です!」

 

 グリムの言葉に冷静さを取り戻す、確かにあれだけの大きさの兵器と目標までの距離を考えれば少しズレるだけでビームは全く違う場所に行くのだから下手に攻撃してミスるよりは確実に攻撃範囲に入ってからの攻撃の方が安全ではある。

 だが頭では理解できていても焦りという感情が制御しきれない、本当に大丈夫なのかと、どうしても冷や汗が流れてくるのが止まらないのだ。

 

「ふぅ……。」

 

 深呼吸して何とか心を落ち着かせる、成功する可能性よりも失敗する不安要素の方が大きいせいでこんなに焦っているんだ。せめて少しくらいは何らかのアドバンテージを得て安心しておきたいってのが心情だろう。

 あれを撃たせてしまえばアムロやキャスバルという、この先の未来に必要な人達が失われる。それだけはなんとしても避けたい。

 

「ララサーバル軍曹、現在の戦況を纏めてくれ。」

 

「えぇ、アタイがかい?グリムの方が適任じゃないかい?」

 

「だからこそだよ、俺も含めて一旦頭を整頓させる必要があるからな。」

 

 普段戦況分析なんかは冷静なアーニャやグリムに任せっきりだったし、ここで頭に血が昇りやすい俺やララサーバル軍曹が戦況を纏める事で少しはクールダウンできるだろう。

 

「えぇっと、アタイらは現在設定されている目標まで約35%の進軍に成功しているよ。敵の反応は正直かなり遅いね、部隊レベルの動きが良くたってアタイらを止めるには少なくても幾つかの艦隊がいなきゃ駄目だろうに、まだ混乱してるのか連携が取れちゃいない。」

 

 伊達に俺達とずっと戦い抜いてるだけあってララサーバル軍曹の見識も高い、これなら大丈夫そうだ。

 

「その通りだ、しかもその部隊でさえ敵は新兵を投入している始末だ。新型を使っていても乗りこなすだけの実力が足りていない。これは大急ぎで進軍する俺達にとってかなり都合の良い状況だ。」

 

「元々敵に悟られずにサイド3のズムシティに向かう予定だったんだから敵もアタイらに気付かないのは無理ないからねぇ。……けどアタイらはあの兵器が次いつ発射されるかが分かってない、そこが致命的だね。」

 

 そもそも1射目がどれだけの出力で、冷却時間がどれだけなのかと言うのを知らないのだから、それが一番ネックだろう。本来あんなシロモノが連発出来るとは思いたくはないが、小説版では複数発射していたんだ、この歴史でもそれは充分あり得る……マルグリットの言葉もあるし次も撃てると思って動かなければ痛い目を見るだけだ。

 

「何にせよ今はひたすら進むしか道はないよシショー、ユウ中尉達だって徐々に広がってきた戦域の穴を埋める為に分散しちまったんだから足を止めちゃいけないと思うよ!」

 

「その通りだな、よし!引き続き進軍を再開する、全機続け!」

 

『了解!』

 

 目標へ向かい続けるだけの、今までの戦いからしたら何の捻りもない作戦。ただそれだけの内容であるのに、俺にとってはどの戦いよりも厳しいと感じる戦いであった。

 

 

ーーー

 

「バストライナー砲、エネルギー充填完了。フィルマメントはこのまま待機し有効射程距離に到達するまで待機します。」

 

 宙域の環境データを学習型コンピュータに随時送信しながら、バストライナー砲を敵兵器に向けて時を待つ。

 

 もどかしい、ジェシー達はこの瞬間に命を賭して戦っているのに。ただ待つだけの自分がこれまでにない情け無さを産んでいた。

 

「みんな……。」

 

 戦況は悪くない、混乱に乗じた奇襲は大成功と言わんばかりに敵は動きが散漫であるし、練度の低い兵も混ざっているとの報告もある。初戦においては兵力の差から見れば形勢有利と言っても過言ではないだろう。

 しかし、いつまでも敵が混乱してくれる訳もない。数で圧倒的に劣る我々では状況を立て直されたら長い時間は持ち堪えられないだろう。

 この優位に立てている時間であの兵器を止められなければこの戦域も、ア・バオア・クーで戦っているであろう味方も壊滅するだろう。

 

《こちらアンゼリカ、フィルマメント!もうすぐバストライナー砲の有効射程距離範囲に到達する!準備は良いか!》

 

ジュネット中尉の有線による通信にハッとする、少なくない時間思考に頭を働かせていたようだ。もうそんな距離まで到達していたなんて。

 

「こちらフィルマメント、バストライナー砲の発射準備に入ります!」

 

 環境データを再送信し狙撃コースを算出する。敵兵器の破壊に至らなくとも、その射角さえ少しでもずらしてしまえばア・バオア・クーからは遠く離れた位置に発射されるのだ。簡単な話になるがバストライナー砲が当たりさえすれば間違いなくア・バオア・クーへは攻撃出来なくなる。

 

「射線妨害なし……エネルギー充填率100%。行ける……!」

 

 後は発射さえすれば、私達が壊滅しようとア・バオア・クーの味方は救われる。そう思いながら操縦桿のボタンを押そうとした、その時であった。

 

「なに……!?」

 

 頭に電流が走るような感覚、そのままでいれば自分の命が潰えるような感覚に襲われ、反射的にバストライナー砲から離れてしまう。

 

「ビーム光!?」

 

 恐らくは敵の攻撃であると思われるビームの光が、先程まで私がいたアンゼリカの上甲板を一部破壊しバストライナー砲が吹き飛ばされる。

 

「あぁっ!」

 

 アンゼリカが、私達の船が。そして現状唯一の攻撃射程距離を持ったバストライナー砲が、この状況で……!

 

『見つけた!お姉ちゃんの仇!』

 

「なに……!?この感覚は……!」

 

 ザラっとした感覚が私に纏わりつく。……殺気!?

 フィルマメントを急転させると先程までいた位置にまたビームが飛んできていた。一体どこから……!

 

「フィルマメントより全軍へ、現在未確認の敵機の攻撃によりアンゼリカが被弾!フィルマメントのバストライナー砲も回収困難な状況となりました!各部隊は救援か進軍か、各自で判断し最善と思われる行動を取ってください!最優先すべきは敵兵器の破壊、それだけは忘れないでください!」

 

『死んじゃえぇぇぇ!』

 

「くっ……!これは……!」

 

 モニターを注視して、やっと機体ではない何かが動いていた事が確認できた。これは……腕?

 

「無線誘導兵器……!?違う……これは!」

 

 注視して観察するとそれは腕部に有線が伸びている、しかしこの異質な動き……これは!

 

「敵のニュータイプ……!」

 

『うわぁぁぁぁ!』

 

「くっ……!」

 

なんとか回避に専念するも敵の火力は高い。それにこのままここに留まり交戦を続けていればアンゼリカが危ない。

 

「アンゼリカへ!フィルマメントが敵機を引きつけます!アンゼリカは敵兵器の破壊を優先し行動を!」

 

『逃げるなぁぁぁ!』

 

 敵は他には目もくれず私だけを狙っている、それなら幾らでも戦う方法はある筈だ。戦況は絶望的だけど、諦めるわけにはいかない。今も死力を尽くして戦っている仲間たちの為にも。

 

 

ーーー

 

「アーニャ……!」

 

 断片的に聞こえてきた通信内容に、苦い唾を飲み込む。なんて事だ……この状況で唯一の希望であったバストライナーが失われるなんて……。

 

「どうするシショー!?このままじゃアンゼリカや隊長が危ないよ!?」

 

「分かっている!だけどあの兵器を止めるのが俺達の任務で……クソッ……!」

 

 俺達の帰る場所であるアンゼリカ、俺の大切な人であるアーニャ。それを助けるのが一番良いのは分かっている。だけどソーラ・レイを放置しておくわけにもいかない。

 どうすれば……どうすれば良いんだ……!

 

「くっ……!ララサーバル軍曹、グリム。お前達はアンゼリカまで後退して艦を守るんだ、俺はこのまま進軍してビーム・ルガーランスであの兵器を止めてみせる……!」

 

 これが今できる中での最善の行動の筈だ、最大稼働で単騎突撃すればFAヴァイスリッターの機動力ならギリギリ到達できるだろう。そこから自爆覚悟で突撃さえすれば───

 

「馬鹿言うんじゃないよシショー!」

 

 ララサーバル軍曹の声にハッとする。

 

「そうですよ中尉!作戦前のジュネット中尉の言葉を忘れたんですか!」

 

 必ず生きてアンゼリカに戻る……忘れる筈がない。

 

「みんなが生きて帰る為に必死こいて戦ってるんだ!ヤケになって特攻なんて許さないよアタイは!」

 

「僕もです!まだバストライナー砲の射撃が困難になっただけで、方法はまだ残っている筈ですよ!」

 

「二人とも……。分かった、作戦を変える。二人はさっきも言ったがアンゼリカの護衛に回れ、バストライナーが使えなくなった今となっては艦艇による艦砲射撃が一番有効的な筈だ。親父達と連携して進軍を続けろ。」

 

「シショーは……って言わなくても大丈夫だね。」

 

「あぁ、俺はアーニャを助けに行く。良いな?」

 

「勿論です。僕達は二人が戻って来ると信じて戦い続けます、良いですね中尉?」

 

「あぁ!任せろ!」

 

 二人と別れるとヴァイスリッターの機動を上げてフィルマメントのいるエリアまで前進する。無事でいてくれ……、そう思いながら移動している最中だった。

 

「……っ!」

 

 この感覚……!何度も感じた事のある、怒りと憎しみ、そして絶望に塗れた感情を持った……!

 

『ジェシー・アンダーセン!ここで決着をつける!』

 

「ジェイソン……グレイか!」

 

 この世界でマルグリットを救った男、そして戦いに導いた男……。だがこの男がそうなった原因は……俺にあるんだ。

 

『今度こそ……お前を殺してやる!』

 

 奴の戦いの原因は俺にあるのかもしれない、そうなればマルグリットを死なせたのも俺が原因だ。だが今は、それよりも大切な事があるんだ。

 アーニャを助け、そしてソーラ・レイを止める。その為にも……!

 

「邪魔を……するなぁぁぁ!」

 

 互いのビーム攻撃が交錯する。それは決して交わる事のない俺達の道と同じなのかもしれない、だが……マルグリット、俺に奴を止められるだけの力をくれ……!


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