機動戦士ガンダム 紺碧の空へ   作:黄昏仮面

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第63話 決戦 ソーラ・レイ③

「ジュネット中尉!艦の被害状況報せ!」

 

「敵の攻撃により上部甲板の一部が損傷!対空機銃の一部と副砲が一門機能停止!航行に支障はありません!」

 

「中佐のフィルマメントはどうなっている!」

 

「ハッ、敵の攻撃が来る前に回避が成功したようですが、バストライナー砲が吹き飛ばされ敵機の接近により回収も困難とのこと!フィルマメントはそのまま敵機を引きつける為にアンゼリカから離れて行きます!」

 

「むぅ……!」

 

 最速での有効射程に到達できるバストライナー砲が使用不可となれば残る攻撃手段は艦砲射撃か、他のMSによるバストライナー砲を回収しての攻撃しかない。

 しかしMS部隊に吹き飛ばされて所在の分からなくなったバストライナー砲を回収させるのは不確実であり時間も掛かる、それならこの中で一番早く可能なのは艦砲か、ならば……!

 

「アンゼリカは最大船速で進軍を再開!フィルマメントの狙撃が不可能となれば残るは艦砲射撃しかない!MS隊を可能な限りアンゼリカの援護に回し、このまま敵兵器まで進む!」

 

「了解しました!」

 

 時間がない……!これ以上敵に時間を与えれば敵は出力を抑えてでも発射を強行する可能性もある、急がなければ……!

 

 

 

ーーー

 

 

「くっ……!この攻撃……ニュータイプ専用機か!」

 

 ジェイソン・グレイが乗っているMS、ゲルググかガルバルディに顔の形状は似ているが俺の見たことのないMSだ、それに片腕が歪に巨大化していて、それがジオングのように有線で伸びてビームを放っている。準サイコミュというやつか!?

 

『お前が……お前がいなければ……!』

 

「やらせてたまるか……!」

 

 この手のMSは稼働時間が少ない筈だが、それを期待するのは野暮だろう。そもそも稼働時間の終了を待つほどの時間の余裕は全くないのだ。

 

「ジェイソン・グレイ!お前が……お前が戦う理由を俺が作ったって言うなら

!」

 

 その因縁にケリをつけるのが俺の役目なのだろう。任務であった、連邦軍の勝利の為にやるべき事であった、だけど彼にとってはその為に大切な人が殺される結果となった。だが……!

 

「だが()()()()()()()()!成る様にしかならなかった!」

 

『ならお前が死ぬのも運命にしてやる!消えろ!』

 

 有線式の腕部が奇抜な動きをしながら向かってくる、無線誘導ではないとは言え、それでも普通の攻撃より読みにくい。

 

「だがっ!」

 

 この手の攻撃の弱点、それは……!

 

「この距離なら攻撃出来ないだろう!」

 

 近寄る事でビーム砲を撃てば自分まで巻き込む、アムロがやっていた事だ!

 

『舐めるな!それを予測出来ないとでも思っているのか!』

 

「なに……っ!?」

 

 こちらに向かってくる腕部は、メガ粒子の出力を調整したのかビーム砲ではなく大型のビームサーベルのように刃を形成し接近をしてくる。予想外の攻撃に焦るがまだ回避はできる……!

 

『ちょこまかと動いた所で!』

 

「ちぃ……っ!」

 

 サイコミュ兵器を回避しても、奴は通常の腕部からヒートサーベルで接近戦を仕掛けてくる。こうなると接近攻撃からは逃げないと前後で挟撃されてしまう。

 

「それなら!」

 

 一度距離を空け射撃で対応しようとする。しかしそうなると奴はまた出力を変え、今度はビームを放ち攻撃してくる。

 艦艇すら墜とせる威力のメガ粒子砲だ、遠近どちらも封じられる形となる。流石に手強い……!

 

『逃げているだけかジェシー・アンダーセン!俺としては都合が良いぞ、お前が時間を掛ければ掛けるだけ連邦軍はあの兵器を壊すタイミングが無くなるんだからな!』

 

「安い挑発を!」

 

 俺を煽る為にわざとソーラ・レイを引き合いに出している……!

 

「お前がニュータイプならあの兵器の忌まわしさが分かるはずだ!」

 

『あぁ、肌で感じたさ!人の意識が溶けていくあの感覚!俺がかつてお前のせいで味わったあの感覚と同じなぁ!』

 

 俺のビーム・ルガーランスと奴のヒートソードが鍔迫り合いを起こす。その時奴のサイコミュの影響か、奴が言った言葉を意味する光景が脳内を駆ける。

 あの時逃げたマゼラ、仲間を呼んだにも関わらずスパイだと疑われ捕虜の様に尋問された後独房に入れられた、そして生死の境で仲間達が死んでいく感覚を味わい……狂っていった……。これが奴の記憶か……。

 

『お前には分からないだろう!親同然だった隊長を殺され!気を許した仲間を殺され!そして妹同然だったマルグリットを殺された俺の気持ちが!』

 

「マルグリットを戦いに導いたのはお前だ!何故あの子をジオン公国にいさせた!ネオ・ジオンに行かせる道もあっただろうが!」

 

『アイツは俺が行く道に着いて来ると言ったんだ!生き残れる可能性が低いのを分かっていてもだ!お前に……お前にさえ出逢わなければ……!』

 

 そう、お互い分かっているのだ。彼女が死んだのは全て自分達のせいだと。

 それでも、感情がそれを認めず、やれきれない感情と現実が2人を戦うことでしか分かり合えないようにしてしまっていた。

 

『ジェシー・アンダーセン───!』

 

「ジェイソン・グレイ───!」

 

 戦いの輝きの中で、今2人は初めて心を通わせていた。

 

 

 

ーーー

 

『お前達さえいなければお姉ちゃんは死なずにすんだのに!』

 

「声……あの時の彼女と似ている……でも、違う!」

 

 予測が難しい攻撃であるのに、今の私はそれを苦にする事なく無難に回避し続けられている。それは彼女が発している殺気がそのまま兵器に伝わっているからだろうか?

 それともこれがニュータイプへの変革による力?だとしても……!

 

「戦うだけが、ニュータイプではないはずです!貴方だって!」

 

『うるさい!うるさい!うるさい!』

 

 四方八方から飛び交うビームを何とか交わしながら、此方も攻撃の準備を整える。

 

「この有線さえ切り離してしまえば!」

 

 ビームサーベルを取り出し有線へと向けて飛び掛かる、このMSの攻撃手段はこの腕がメインだろう。ならこれさえ切り離してしまえば!

 

『やらせるもんかぁ!』

 

 敵は有線を引き戻し、一斉射による攻撃で此方を圧倒してくる。ニュータイプ用の機体だけあって性能はこちらより遥かに上か、機動性も火力も優れている。しかし……!

 

「こちらもやらせるつもりはありません!」

 

 ビームライフルに装備を切り替え狙い撃つ、こちらにだって譲れないものがある。

 近くで戦っているのを感じるジェシー、敵兵器へ進軍を続けている仲間達、みんなが未来の為に戦っている……だからこそ!

 

()()()()()はもう終わりにしましょう!私も!貴方も!」

 

()()()()()!?お姉ちゃんが殺された事がこんなことで済まされてたまるもんか!』

 

 

ーーー

 

()()()()()で俺達は歩みを止める訳には行かない!」

 

()()()()()だと!?』

 

「そうさ!お前の復讐心だって分かる!マルグリットの仇討ちも、親代わりだった人を討たれた復讐も、だけどな!そんなのはこれからの未来には何の意味も成さない!生きている人間が未来を創るんだ!」

 

『奪われてきた人間の気持ちが貴様に分かってたまるかぁぁぁ!』

 

「お前達ジオンだって!コロニー落としやその前の毒ガス作戦で大勢の命を奪ってきた!それを知らぬ振りして独立を掲げて戦ってきただろうが!」

 

 戦いの閃光の中、お互いの感情が爆発する。戦いの大義も、個人の感情も各々が感じているものが正しいのは間違いないだろう。

 俺がジオンを許せないのも、ジェイソン・グレイが俺を……連邦軍を許せないのもどちらも個人の面で見れば正しい事だ。だが()()()()()をいつまでも続けていた所で未来が紡げる筈もない。

 

「俺達は未来に進む!だからここで因縁は全部決着をつけてやるジェイソン・グレイ!」

 

 ビーム・ルガーランスを構え、猛襲してくる奴の機体を待ち受ける。

 小細工はいらない、俺も奴もこの一瞬でケリをつけたいと思っている。だからこそ……。

 精神を集中させる、俺にはアムロやシャアほどニュータイプの才覚はない。だが今まで培ってきた、戦い抜いてきた経験がある。それを信じて迎え討つだけだ。

 

『死ねえぇぇぇ!』

 

 奴の機体のヒートサーベルがヴァイスリッターのコクピットを狙い一直線に突き進んでくる。

 大きく動けば、奴に動きを読まれ更に追撃をしてくるだろう。動くなら最小限で奴に気取られないように動かす必要がある。

 

 自分を信じろ──。今までの全てをぶつけて奴を止めるんだ、これ以上悲劇を繰り返さない為に。マルグリット、お前の大事な人を止めてみせる。

 研ぎ澄まされた刹那の一瞬、奴のヒートサーベルがこちらのコクピットを正確に射抜こうとする、その瞬間に前部スラスターを噴出させ正に皮一枚で回避する。

 

『な……っ!?』

 

「俺は生きる!だから……お前も生きてみせろジェイソン・グレイ!」

 

 奴の機体頭部をビーム・ルガーランスで貫く。それと同時に大きく蹴りを入れ、機体ごと吹き飛ばす。

 

『ぐぁぁぁぁ!』

 

 こちらから離れて行く奴の機体を確認し、一息吐いた後で再び戦況を確認する。

 

「アンゼリカは……前進しているのか。今からじゃ追い付くのに時間が掛かるな。」

 

 最大戦速で移動していると思われるアンゼリカに流石にはFAヴァイスリッターと言えど合流するのに時間が掛かる。となればやはり俺がすべきことは。

 

「アーニャ、無事でいてくれよ……!」

 

 同じ様に敵と戦っているアーニャの援護に向かう。俺が彼女の剣となり、盾とならねばならない。その為のヴァイスリッターなのだから。

 

 

 

ーーー

 

 

「アンダーセン提督!き、緊急の事態です!」

 

 ジュネット中尉の普段の冷静さから遠くかけ離れた大声が艦橋に響く。

 

「どうした!?」

 

「敵兵器から高エネルギー反応を確認!これは、次弾発射準備かと思われます!」

 

「むぅ……!」

 

 時間が掛かりすぎたか……!恐らく我々の奇襲に焦っての2射目となるから1射目よりも出力は低いだろうが、この兵器が使われる事自体が戦況を大きく変えてしまう。

 だがこの距離からでは艦砲もミサイルも未だ射程圏外で攻撃した所で到達する事すら叶わない、打つ手は最早殆どないに等しい。

 

「だが指を咥えて見ている訳にも行かぬ!ジュネット中尉!広域通信を発信する!回線を開け!」

 

「応じるとは思いません!ミノフスキー粒子濃度も高いのです提督!」

 

「だがやらねばならん!届かぬと、諦めてしまっては道は閉ざされる!私はまだ諦めてはいない!……ジュネット中尉!」

 

「……了解!全通信チャンネル開きます!どうぞ!」

 

『この宙域の全てのジオン公国の兵士に告げる。私は地球連邦軍所属、ダニエル・D・アンダーセン少将だ。両軍の戦争中に世迷言と思うかもしれないが、あのコロニー兵器をこれ以上撃ってはならない!それは戦略的なことや戦術的なことを言っているのではない。自分達の住むべき故郷であるコロニーを兵器として使用するということは、スペースノイドの大義すら捨ててしまうことになるのだ!』

 

 確かにあれだけの巨大な兵器、それをレーザー砲として使用すれば戦略的な価値は絶大な物となる。

 ギレン・ザビがオデッサでの核使用後無闇矢鱈に核を使用せずに存在の意義が怪しまれていた南極条約を律儀に守っていたのは、これを秘匿する為に連邦に報復させない為に敢えてルールを守ったフリをしていたのだろう。

 だがそれよりもだ、本来宇宙に住む人々の為の場所を、あの様な兵器として使うことが当然になってしまえば、これからの未来にどの様な影響を与えてしまうか分からないとでも言うのか。

 

『コロニー落としも、この兵器も!スペースコロニーという存在が大量虐殺のための存在と化してしまえば!この先の宇宙に、未来を生きる者にどう顔向けが出来る!?貴君らの戦いはそれを良しとするのか!』

 

 彼らの大義、スペースノイドの独立。その理念自体は素晴らしい事だ。かつてカールやアンゼリカ、そして私の根差した理想も地球を拠り所にしながらも宇宙で生きて行くことを目指したものだったのだから。

 だからこそ、だからこそこの所業は許してはならない。世迷言だという事も、戦闘行動中に広域通信で呼びかける内容でも無い事は分かっている。それでもだ。

 

『貴君らに、少しでもスペースコロニーを兵器とする事を良しとしない者がいるのなら!これ以上あの憎しみの光を撃たせてはいけない!私は宇宙に生きる貴君らの誇りを信じてあの兵器を止めてみせる!どうか手を貸して欲しい!』

 

 通信を終え興奮冷めやらぬ中、いつの間にか立ち上がっていた事に気付き再び席に座る。

 

「進軍継続!最後の最後まで諦めずに進むぞ!」

 

「了解!……っく!敵兵器、更にエネルギーの増大を確認!」

 

 やはり声は届かぬか……。彼らにとってはあの兵器こそがこの戦争を打開する事のできる最後の武器であるのだから簡単には捨てる気になどならないのだろう。同じ立場なら我々とて彼らの選択を選んでいたかもしれない。

 

「まだだ!まだ撃たれてはいない!最後の最後まで進軍を続けろ!」

 

「提督!敵MSが来ます!」

 

「対空迎撃!MS部隊を再発進させ護衛に当たらせろ!」

 

「敵MS、此方の防衛網をすり抜けアンゼリカに急速接近!迎撃間に合いません!」

 

「なんだと……!」

 

 敵の新型MS、ゲルググと言ったか。特攻とも言える形でアンゼリカに接近をしてくる。命を捨ててでも我々を討つつもりか。

 

「くっ!此処までだと言うのか!」

 

 敵のビームライフルが艦橋に向けて構えられ、最早これまでと思ったその瞬間だった。艦の目前で爆発が起きる。

 

「こちらの爆発ではない!?何が起きた!?」

 

「アンダーセン提督……!これは……!ジオンのMSによる同士討ちです!いや……これは……!」

 

「届いたと言うのか……我々の声が……!」

 

 爆発により見えなくなっていた艦橋が晴れ、そこには茶色と紫で彩られたゲルググが目前で佇んでいた。

 

『聴こえるかい連邦軍のマゼラン級!私達はジオン公国海兵隊所属のシーマ・ガラハウ中佐とその艦隊だ!これから私達は連邦軍に降る!識別コードを送るから同士討ちだけはしないでおくれよ!』

 

 絶対絶命の状況の中、微かな光が確かに灯ろうとしていた。


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