機動戦士ガンダム 紺碧の空へ   作:黄昏仮面

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第66話 決着

 

「敵マゼラン級撃破!しかしながらMS部隊は既に発進した模様です!」

 

 報告を聞き目紛しい戦況である中、少しの焦りも見せずギレン・ザビは各所を指揮する。

 

「うむ、Nフィールドはドロスを基点に防衛せよ。連邦が如何に残存兵力を残していたとしても、そう簡単にドロスは抜けん。」

 

 ソーラ・レイの攻撃に巻き込めた艦隊の数は多く無かったがそれでもこのNフィールドを突破するには兵力不足だ。

 仮にこのア・バオア・クーが突破されようとも残存するグラナダの兵力、更に本国の兵力が有れば、この決戦に全戦力を投入している連邦軍には最早継戦するだけの余力は無い。

 

「ククククク……、勝ったなこの戦い。」

 

「ギレン閣下、キシリア様が戻られました!」

 

「遅くなりました兄上。」

 

「うむ。ソロモンではニュータイプ部隊が壊滅したそうだな。」

 

「申し訳ありません。」

 

 結局フラナガン機関を設立し、パイロットとして有力なニュータイプを増やしても結果が伴わなければ意味がない。シンボルとしてのニュータイプは必要ではあるが超人としての兵器的な側面を期待するにはコストが機体も含めてかかり過ぎる。

 

「所詮は強化した人間というカテゴリにしか過ぎんか。」

 

「しかし連邦には確実にニュータイプ部隊が発生しています、現にSフィールドに展開している木馬連中の動きは目を見張るものがあるかと。」

 

「木馬か、キャスバルが赤いガンダムという機体に乗っていると報告が来ているな。ガンダム、そこまで手こずる機体とは思えんが。」

 

「高性能機なのは間違いありませんが、問題は乗り手かと。」

 

「ニュータイプが乗ればこそ、という事か。だがこの局面最早どうにもならんよ。」

 

 キシリアもまた配置に付き、各所を指揮する。これで体制としては盤石となった。

 

 それから幾許かの時が流れ、また戦局が変わっていく。

 

「空母ドロス、突出していきます。」

 

「無理に敵にこだわり過ぎるなと伝えろ。しかし圧倒的ではないか我が軍は。」

 

「えぇ、幾ら連邦に未だ侮れぬ数があるとは言え、大勢はほぼ決していると言っても過言ではありませぬな。ならばこそ話せる事も増えましょう兄上。」

 

「どうした?」

 

「グレート・デギンはどちらに配置させたのです?ズム・シティですか?」

 

「沈んだよ、先行し過ぎてな。」

 

「そうですか、グレート・デギンはデギン公王より調達なされたので?」

 

「歯痒い事を聞くなキシリア。父上がグレート・デギンを手放すと思うか?」

 

「思いませんな。」

 

「つまりはそういう事だ。父上は死んだよ。」

 

「……。」

 

 キシリアとてこの状況で父上が独断で停戦協定を結びに行くことを良しとはしないだろう。なら仕方のない事だと割り切るしかあるまい。

 

「グレート・デギンは最後連邦の主力艦隊のいた地点で確認されています、ソーラ・レイの発射はその後だった。」

 

 少し怒気を含みながら声量を上げキシリアがそう発言する、各所が少しザワつき始めた。

 

「今は戦闘中だキシリア、それに独断で動いたグレート・デギンをどう止められる?ソーラ・レイの発射は既に決められていた事だ。」

 

「だとしても父殺しは総帥とて許される事ではない、それは兄上も良くお分かりでしょう。」

 

「タイミングの合わない和平交渉に何の意味がある。父上は時勢を見極めることが出来ず公国の王としての責務すら放棄したのだ、それこそ許される事ではない。そうだろう?」

 

 ガルマが謀叛を起こして以降、自身も消沈し反戦感情が芽生えていた公国の王に着いて行く人間がどれだけいると言うのだ。

 既に和平という路線など無いとコロニーを地球に落下させた時から分かってただろうに、その時の感情でコロコロと意見が変わる様な事は国の代表がしてはならない事だ。

 

「私のした事に反論があるのならこの戦いの後に法廷にでも上げれば良かろう。今はそれどころではない、分かっているなキシリア。」

 

「……えぇ、良く分かりました兄上。」

 

 その時である、通信手が突如大声を上げる。

 

「閣下!空母ドロス轟沈!敵は戦線を突破し要塞に張り付こうとしています!」

 

「クッ……!」

 

 やられた……。この問答に気を取られた僅少なくない時間、指揮に空白が出来たことで隙を突かれた。よもやドロスが轟沈するような事があるとは。

 

「突出し過ぎるなと言った筈だ!何をしていた!」

 

「ハッ……申し訳ありません……!」

 

 キシリアが父殺しを口に出した事で兵に動揺が生まれた事も起因しているだろう、兵の意識は戦場の統率よりも此方に向いていた。

 

「 Sフィールドも木馬の部隊が侵攻を続けています!このままでは要塞に取りつかれます!」

 

「私が出る!ザンジバルの用意を!」

 

 キシリアが声を上げる、元を正せば原因はキシリアにある。一体何を狙っているのだこの女は。

 

「私が乱した戦況です、前線で直接指揮を執り体勢を整え直します。」

 

「逃げるつもりでは無いだろうなキシリア?」

 

「逃げる?兄上はドロスが沈んだ程度でア・バオア・クーが陥ちるとお思いで?」

 

 それは無い、ドロスの損失は大きいが未だドロワは健在であり更にソーラ・レイの次弾もある。幾ら戦線の一部が落ち込んだとは言え大勢に大きな影響は無い。

 

「貴様が乱した戦況だ。敵前逃亡と思われても仕方ない事だ。私がそう思わなくとも部下たちはそう思うだろう。」

 

「それもそうでしょうな。しかしソーラ・レイの次弾が残っている以上、下手に逃げる場所もないでしょう。お任せください兄上。」

 

 敬礼し場を去るキシリア。今は奴の動向を気にする事より戦線の立て直しが重要だ。

 

「戦線を立て直す、Nフィールド防衛中のMS部隊は後退し敵部隊の迎撃に備えよ!艦艇はドロスの抜けた穴を埋めるように配置し直せ!」

 

 

 優位は揺るがない、だが何処か亀裂が走り始めている。心の中でそう思い始める自分がいると、ギレン・ザビは思い始めていた。

 

 

 

ーーー

 

 

「……なんだ?」

 

 戦闘の最中、ブライト・ノアは違和感を覚えた。

 

「どうしたのブライト?」

 

「ミライ、一瞬だが敵の動きが鈍くなった。そう感じなかったか?」

 

「そうね。確かに妙だわ。敵も私達と同じで上手く行っていないのかも。」

 

「だがチャンスでもある。セイラ、アムロ達の動きは?」

 

「キャスバル総帥とランバ・ラル隊が先行してア・バオア・クー外壁に取りつこうとしてる最中です、それに続きカイとアムロのガンダムが敵の遊撃に入りリュウとハヤトがその援護に回っています。」

 

 MS隊は奮戦している、限りなく勝率は低いと思っていたが勝機が見えて来た。

 

「よし!ホワイトベースも続き要塞に陣取るぞ!各員今まで以上に気を引き締めろ!」

 

 

 

ーーー

 

 

「キャスバル様!」

 

「あぁ、お前も感じだかランバ・ラル?」

 

「ハッ、艦隊の動きが少し鈍っております。今が好機かと!」

 

 MS隊の練度もそうだったが艦隊もまた本来より動きが滞っている。ア・バオア・クー内部で何かあったか、或いは艦隊の人員もまた学徒を動員しているのか……。

 

「今は考えるより動くべきだな。このまま要塞内部に侵攻する!ラル隊は私に続け!」

 

「ハッ!ラル隊は全機キャスバル様の援護に回れ!」

 

 少ない人員ではあるが、ゲリラ戦に長けたランバ・ラルとその隊の者なら要塞内部での白兵戦も苦にはならない。更に要塞内の状況が変われば此方に寝返る兵も出てくる筈だ。

 

「ホワイトベース隊へ、我々は今よりア・バオア・クー内部へ突入する!」

 

「ここは僕達が引き受けます!シャアやラルさん達はザビ家を!」

 

「さっさとこのくだらない戦いを終わりにさせて欲しいもんだね!」

 

 アムロのアレックスとカイのガンダムが突破口を切り開く、そのチャンスを活かして要塞の入り口を突破する。

 

「要塞に取り付いたぞランバ・ラル!」

 

「よし!各員白兵戦用意!ア・バオア・クー中枢へと向かう!」

 

 銃を構え要塞内部への侵入を開始する、ザビ家を止めこの戦いを終わらせる為に。

 

 

 

ーーー

 

 

「そこっ!」

 

 ビームライフルで迫り来る敵機を次々と撃破する、倒しても倒してもまるでキリがない。

 

「ホワイトベースももうすぐ要塞に取り付けるか……。」

 

 シャア達が突破した要塞ゲートへとホワイトベースも侵入していく、下手にこの宙域で戦うよりはそちらの方が安全だろう。

 

「アムロ!大丈夫か!?」

 

 リュウさんのコア・ブースターが此方に接近し通信をしてきた。

 

「大丈夫ですリュウさん、ただ敵の数は一向に減りませんね。」

 

「あぁ。だが敵も無限じゃない筈だ、それに残存艦隊は他の宙域にも展開してるんだ。敵も俺達だけ相手している訳じゃないからな、チャンスはある筈だ。」

 

 リュウさんの言葉に頷く、ジオンだって苦しい筈だ。後は僕達がどれだけ抵抗し続けれるかの問題だ。

 

「シャア……。」

 

 倒すべき敵はザビ家だ、シャアもそれを分かっているから自分が敢えて内部に突入し止めようとしている。それが彼らを殺すつもりであると分かっていても。

 

「復讐だけじゃ何も生まれない、シャアだって分かっている筈だ。」

 

 ソロモンで戦ったニュータイプ、あの人達との戦いで殺し合う虚しさを僕達は知った筈だ。それにジェシーさんとだって話し合った筈だ。

 

「本当のニュータイプに変わる為に……戦うだけがニュータイプじゃないんだ。」

 

 難しいのは分かっている、だけどそれでも今のシャアならと信じる事しかできない。

 

「アムロ!要塞から敵の艦船が出て来たぞ!」

 

 リュウさんの言葉に意識を戦場へと戻す、シャア達が突入した所とは別の場所から敵の艦艇が発進してきた。

 

「あれは……何だ、この嫌な感覚は。」

 

 あれを取り逃してはいけない、そう直感した。

 だが敵の艦艇は此方を攻撃するつもりが無いのか発砲もせずにブースターを点火させている。

 

「逃げようとしている……!?やらせはしない!」

 

 ビームライフルを構え逃げる前に攻撃しようと考えるがあの艦の護衛なのか新型が数機展開し此方に向かってくる。

 

「クソっ!あれを逃しちゃいけない……そう感じるのに!」

 

 敵機に対応している間に敵の艦は戦域から離脱していく。クソッ!とコクピットを殴りつけ後悔するしかなかった。

 

 

 

ーーー

 

 

「キシリア様、本当にア・バオア・クーから離脱するおつもりで?」

 

 かつてマ・クベと呼ばれた副官がそう発言する。

 

「あぁ。ギレンには最早ジオン公国を統率するだけの器は無い、これからは私が新たにジオン公国を継ぐ者となる。」

 

「まだア・バオア・クーの形勢は此方が有利です、撤退するのは時期尚早では?」

 

「ア・バオア・クーに到着する前にソーラ・レイの防衛に回っている内偵から暗号通信が届いた。ミノフスキー通信だったので内容は濃くは無いが、白いマゼラン級とその艦隊がソーラ・レイを破壊しに向かっているとの事だった。」

 

「しかし……、ソーラ・レイ防衛には少なくは無い艦隊が配置されている筈です、如何にニュータイプの可能性があれど少数の部隊では突破は困難でしょう。」

 

「そう思うか?思えばV作戦の頃から。いや、連邦がMS試験部隊を早期に立ち上げ尚且つそれを指揮する者が15,6にも満たない少女だと判明した時から我々は敵を侮り続けて来たのではないかと私は思っている。」

 

 更にそれらの者が我々ジオンと異なり何の実験も調整もなく、自然発生したかのようにニュータイプとしての頭角を示している事が恐ろしくもある。

 以前フラナガン機関から連邦へ亡命したクルスト・モーゼスと呼ばれる科学者は、その亡命理由がニュータイプによりオールドタイプが駆逐されるので無いかという懸念からだと報告書で見たことがあったが、確かにそれだけの脅威となり得る要素がニュータイプにはあるのだ。

 

「ニュータイプ。その力の本質を理解するのに我々は少し遅かったのかもしれない。だからこそ時を待ちニュータイプによる時代の変革を起こさなくてはならないのだよマ・クベ。」

 

 兵器としての運用も悪くは無いが、これから先の時代ニュータイプという存在の在り方こそが宇宙に於いて要になる。その時有効的に彼らを使えれば今よりも良い形で私は時代の覇者として君臨できる筈だ。

 

「それではキシリア様……グラナダへと向かうおつもりで?」

 

「グラナダは今からでは間に合わん、既にダルシアの一派が連邦との停戦協定を独自に結ぼうとしている。本国も首都防衛大隊が蜂起している最中だろう。向かうべきはアクシズだ、既に必要な人員と資材は送っているし連邦もアステロイドベルトまで向かう余力はない。」

 

「ハッ、了解しました……。」

 

「不服か?」

 

「いえ。キシリア様の命であれば私に異論は。」

 

「宜しい、広域通信を開け。ミノフスキー粒子散布下であるから通信が繋がる部隊に聞こえれば良い。」

 

「通信チャンネル開きましたキシリア様!」

 

 通信手の言葉に頷き演説を開始する。

 

『聞こえるか、ジオン公国の兵士達よ。私はキシリア・ザビ少将である。戦いの最中ではあるがこの通信が届いた全ての兵士達に伝えたい。我らが国主デギン・ソド・ザビはソーラ・レイによって宇宙に消えた。これはジオン公国総帥であるギレン・ザビによる意図的な攻撃によるものだと私は突き止めた!デギン公王は独断で和平交渉を行うつもりで連邦軍主力艦隊へと向かった、この事実はジオン公国の国主としては恥ずべき行為である。だが!だからと言って公王である父を殺す行為もまた許される行いではない!己に都合の悪い人間であるなら父親でさえ殺すというギレン総帥に最早ジオン公国を統率するだけの器は無いと私は確信し、新たに新生ジオン公国を立ち上げる事を宣言する!私と共に歩むつもりのある勇者はアクシズへと進路を取れ!』

 

 この演説による効果は期待していない。この戦場に嫌気を差している兵士の士気を下げ少しでも戦況に亀裂が与えられればそれだけでも良い。

 ここでそれでもなおギレンが勝つか、或いは2射目のソーラ・レイに私が巻き込まれるか、逃げる最中で敵か味方にやられるか。後は天に身を委ねるだけだ。

 

「一世一代の大博打だ。どんな賽の目が出るか楽しみにしようではないか。」

 

 加速して離脱していくザンジバルの中で、次の時代に自分がどう立ち回れるか年端も行かない少女の様に興奮を胸に秘めながら進むのであった。

 

 

 

ーーー

 

 

「空母ドロワ轟沈!Sフィールドが徐々に押されています!」

 

「ギレン総帥!要塞内部に敵が侵攻しているとの報告が!中にはあのキャスバルとランバ・ラルが確認されているとの報告も!」

 

「くっ……!」

 

 キシリアが戦線を離脱した、その報告を聞いてから状況は悪化の一途を辿る。離脱する間際にキシリアは私が父を殺したと演説し、アクシズへ共に続けと声を上げ蜂起したと連絡があった。

 それに呼応する部隊、混乱する部隊が現れ、対応が可能だった戦局に少しずつ穴が開き始めた。それは幾つもの綻びとなって最早戦況は連邦に傾きつつあった。

 

「残存する兵力を纏めよ。キシリア幕下の部隊は前線に立たせ盾にしても良い、この状況下では裏切らぬとも限らん。」

 

 そうする事でキシリアに続くかもしれないがいずれにせよ戦況には最早焼石に水程度の効果しかない、起死回生となるのはこのア・バオア・クーの戦況ではなくソーラ・レイの次弾に賭けるしかないのだ。

 予定通りであれば数時間もしない内にNフィールドの方面に撃たれる、それさえ成功してしまえばこの状況を打開するには苦労しない筈だ。

 

「ギ!ギレン閣下!要塞内の……いやこの司令室に続く全ての隔壁が開放されていきます!これは……!」

 

「……キャスバルの側に着いたか。」

 

 要塞内の防衛部隊にもキャスバルに呼応する者が現れたのだろう。ジオン・ダイクンを慕う者は未だに多いしこの状況では寝返る者が増えるのは止められない。

 

「ギレン閣下お逃げください!」

 

「何処に逃げろと言うのだ?最早退路など無い。」

 

 既に非常用の脱出艦に続く道は閉鎖されているか伏兵が配置されているだろう、あのランバ・ラルがいるのであれば抜かりは無いと思うべきだ。

 

「ここまでかな。」

 

 最早焦っていても仕方はない、投げられた賽の目の結果を見届けるだけだ。

 

「敵部隊!間も無くこの司令室に到着します!」

 

 その言葉と共に大きな爆音が響き、最後の盾であったこの部屋の扉が開かれた。

 

「全員動くな!最早逃げ場などないぞ!」

 

 ランバ・ラルの言葉に兵士達は震え上がり次々と手に持っていた銃を降ろす、もうどうにもならないと感じたのだろう。

 

「久しぶりだな。と言うべきかギレン?」

 

「ふん、キャスバル坊やが大きくなったなと此方も言うべきかな?」

 

 銃口を向け、此方を見つめるキャスバル。

 

「降伏しろ、最早貴様達に退路はない。」

 

「かも知れんな。だがキャスバルよ、まだ此方には切り札が残っている、私が死のうと形勢など楽に逆転できるだけの切り札がな。」

 

「あの主力艦隊を殲滅した兵器か……!」

 

「そうだ。私の生死に関係なく発射は予定されている、更に言えば私が死んだ所でグラナダや本国には兵力は残っているのだぞ、ジオンはまだ終わらぬよ。」

 

「だがキシリアを始めジオン公国内部は既に貴様の思い通りには動いてはいない、まだ公国が戦いを続ける気力があると言うのか。」

 

 既にキシリアの謀叛は聞いているようだ、だからこそ降伏せよと言っているのだろうが。

 

「キャスバルよ、お前もガルマと共に指導者として立った身だ。なら分かるだろう、これから先地球連邦政府と共に歩めると本当に思っているのかと。」

 

「……既にコロニー落としを始めとした凶行でスペースノイドとアースノイドの間に修復不可能なレベルの確執が生まれたのは確かだ。」

 

「その通りだ。所詮ネオ・ジオンなどと、ジオン・ズム・ダイクンの遺児による真のジオニズムだのと言った所でそれらは地上に生きる俗物には関係のない()()()の妄言にしか過ぎないと、そう思う者が多数を占めて行くだろう。更に言えば他サイドの人間にしても同じ事だ、元はジオン公国の人間が何を今更とな。」

 

 ネオ・ジオンが今許されている理由など連邦軍が少しでも利を得る為だけに利用しているからに過ぎない。

 今は良くともこの戦いの後、何年後も独立が許される可能性は高いとは言えないのだ。連邦が許した所で反感を持つ者は増えるだろう。

 

「だからこそ人類は我々に管理、運営されることでこそ正しく導く事が出来るのだ。私であればそれが可能なのだよ。」

 

「ギレンめ!世迷言を!」

 

 ランバ・ラルが銃口を向ける。

 

「手を出すなランバ・ラル!……確かに貴様の言う通り我々ネオ・ジオンが今後何の問題も無く独立出来るとは思っていない、現状を生み出したのが地球連邦政府による悪政の結果だと分かっているからだ。それがこの戦いを期に変わる等とは私も思わない。」

 

「ならばお前はどうするキャスバル、地球連邦の首脳部は最早修復不能な迄に腐り切っている。ここで連邦が勝利すれば奴らは更に増長し、引き続き地球を食い物にして我々宇宙移民者がそれらを支える事になる。お前はそれを変えるだけの力があるのか?」

 

「……。」

 

「今からでも我々の側へガルマと共に戻れ、数刻も待たぬ内に此方はソーラ・レイの次弾を以て地球連邦艦隊を圧倒し、ソーラ・レイの力によって連邦を外交の場へと立たせる事が出来るのだ。そうなれば我々スペースノイドに有利な状況で時代の変革を見届ける事ができる。悪くはない提案のはずだ。」

 

「キャスバル様……!」

 

「ギレン・ザビ、確かに貴方にはそれを可能にする実力がある。あの兵器が再び撃たれたならば、この戦局など確かに簡単に覆せるだろう。更に先程耳にしたキシリア・ザビの反乱や既に動いている反ギレン派の動きも、連邦が弱体化してしまえば退ける事も可能だろう。──だが。」

 

 此方を真っ直ぐに見つめ視線を逸らす事なくはっきりと喋る。その姿に一瞬かつてのジオン・ズム・ダイクンを感じた。

 

「それでも私は人の可能性に賭ける。人々がニュータイプへと変革していけばいつかはより良い未来へと辿り着けると信じている。」

 

「可能性など曖昧な理想に過ぎん、現実を見ろ。」

 

「私は実際にガルマを通して人の変革を見た。それにニュータイプへの理解を示す同志達にも巡り合えた。彼らが諦めない限り必ず道は開いて行く、その可能性を私が……ジオン・ズム・ダイクンの息子である私が見届けなくてはならないのだ。」

 

「与太話だな。それが指導者としての貴様の言葉なら期待外れだキャスバル・レム・ダイクン。所詮は父親と同じで夢想家だったと言うことか。」

 

「夢想家で終わるつもりはない。────。ギレン、これが諦めずに進んだ人々の答えだ。」

 

「何……?」

 

 キャスバルが突然視線をモニターへ移す、それに反応し私もまたモニターを見る其処には──。

 

「あの光……まさか……。」

 

「見当違いの方向に放たれたようだな、それに既に雲散している。」

 

 予定よりも遥かに早くソーラ・レイの次弾が発射されたと言うのか、それにこの宙域を越える事なく光は消えて行く。つまりは……。

 

「止めたと言うのか、ソーラ・レイを。」

 

「私の仲間にはあの様な兵器の存在を許さない者がいるからな。彼らならきっとその為に動くだろうと信じていた。」

 

 ソーラ・レイ防衛には本国の部隊を多数配置していた筈だった、それを突破し破壊したと言うのか?連邦の艦隊は殆どがこのア・バオア・クーかに配置されていた筈だというのに。

 

「お前の負けだギレン。」

 

「クックック……万策尽きたとはこういう時に使うのだろうな。最早このまま生きていても仕方がない、父親の仇を取れば良いキャスバルよ。」

 

 キャスバルの前へと進み銃口の前に立つ。

 

「ジオン・ズム・ダイクンを殺す事を決意したのは父だ。だが実行犯は私でもある、貴様に取っては親の仇だ。さぁ私を殺して父の恨みを晴らしてみせろ。」

 

「……この瞬間の為に私は何年も雌伏して来た。お前達を殺す事が私の悲願であった。」

 

 キャスバルは私の頭に銃口を向け、そして──。

 

「だからこそ私はお前を殺さない。未来の為に戦った仲間達に過去の私の悲願など見せたところで呆れられるだけだからな。拘束させてもらうぞ!」

 

 身体の動きを抑えられると同時にランバ・ラルが自殺を止める為に口を塞ぐ。

 全てが終わった。

 

「キャスバル様!最早ア・バオア・クーは制圧したも同然です!この宙域にいる全てのジオン兵に降伏勧告を!」

 

「あぁ、もう誰も戦う必要など無いのだからな。」

 

 

 

ーーー

 

 

『この宙域の地球連邦軍、並びにジオン公国軍の兵士に告げる。私はネオ・ジオン総帥のキャスバル・レム・ダイクンである。ア・バオア・クー司令部は既に制圧され、ジオン公国総帥ギレン・ザビは我らに拘束された。これ以上の戦いに最早意味はない、両軍直ちに戦闘を停止せよ。繰り返す──』

 

 シャアの言葉を機体が受信する。

 

「終わったのか……シャア。」

 

 大勢は決した様だが、未だその事実を受け止められない人達が少数ではあるが連邦ジオンを問わず戦いを続けている。

 

「ったく、本当に戦いは終わったか怪しいもんじゃないの。なぁアムロ?」

 

「この状況で広域通信なんて制圧していなきゃ無理でしょうカイさん?」

 

「まっ、それもそうか。んじゃあ未だに戦ってる連中でも止めに行くか。」

 

「まさかカイさん、敵を撃破するつもりじゃ……。」

 

「バーカ、流石の俺も戦争が終わったかもしれないってのに人殺しする程飢えてないっての。ジェシーさんが言ってたんだろ?復讐に気を取られ過ぎるなってよ。」

 

 そう、サイド3へあの人達が向かう前に彼はそう言っていた。

 

「さっきのは光見たろ?ジェシーさん達がどんな戦いをしたかなんて想像つかないが、必死になって止めてくれたんだなってのは俺にだって分かるぜ。だからこの戦いが終わった後に情け無い所なんて見せたかないもんでね。ほら、さっさと行くぞ!」

 

 カイさんのガンダムが敵味方問わず戦いを止める様に通信チャンネルを開いて叫ぶ、急に戦いをやめろと言われてやめられる訳はない。みんな何かのきっかけが欲しいのだ。

 

「今の通信を聞いた人は戦いを止めてください!戦いは終わったんです!」

 

 自分もまた通信チャンネルを開きそう叫ぶ。

 やがて次々と同じように言葉が繋がって至る所から戦いを止める声が聞こえて来る。それは連邦からもジオンからもだ。本当は誰も、こんな戦いなどもう続けたくないのだ。

 

 そして混乱が治まり、両軍が互いの傷病者を収容し始めたり救助活動を始める。

 それは誰かの命令じゃなく、一人一人が自分の意志で始めている。その事実に心が震えるのが分かった。

 

 

 

 宇宙世紀0079年12月25日、宇宙要塞ア・バオア・クーの戦いが終わった。

 それは本来の歴史より一週間も早く起きた事であるが、それを知る者はただ1人を除いて存在しない。

 

 その数日後、宇宙世紀0080年1月1日地球連邦軍とジオン公国軍による正式な停戦協定が結ばれ、後に『一年戦争』と呼ばれる事となるジオン独立戦争に終止符が打たれる。

 しかしアクシズへと逃亡したキシリア・ザビの一派による新生ジオンと呼ばれる存在やア・バオア・クーから撤退し身を潜めたジオン残党の発生など戦争の全てが帰結したとは言えない、この先の未来がどうなるのか今は誰も知る由も無かった。

 





次回第一部最終話『紺碧の宇宙へ』に続く。
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