「時間が無い……!」
ヴァイスリッターと呼ばれる機体とフィルマメントと呼ばれる機体に乗る少年と少女が、そう叫ぶ。
「急げ!もう時間の猶予は無い!」
艦砲を斉射させ、部隊に指示を与える老齢の提督もまた、そう叫ぶ。
「時間が無いんだよ……そこをどきな!」
故郷を兵器に改造され、それをまた兵器として利用させない為に、機体を駆る女性も同じ様に叫んだ。
今この場所にいる者の大勢が、思いを同じにして動いている。
止めなくてはならないのだ。これ以上コロニーをあんな姿で留めさせてはいけないと、そう願って戦っている。
「アンダーセン提督!リリー・マルレーンに敵艦のミサイルが!」
「くっ!我が艦を盾にして迎撃する!彼らを失ってはならぬ!」
ダニエル・D・アンダーセン少将の指揮の下、リリー・マルレーンの盾になるようにアンゼリカが並ぶ。
「くっ……!アンダーセン提督!迎撃し切れません!」
既にジオングの攻撃で副砲と対空砲の一部が使用不可能になっている為、完全な迎撃には及ばず幾つかのミサイルがアンゼリカの直撃コースに入った。
「ぬぅ……!総員、直撃に備えよ!」
爆音と共に艦が大きく揺れる。
「ジュネット中尉!艦の被害報せ!」
「了解!……奇跡的に人的被害は有りませんでしたが主砲とミサイル射出口損失、副砲、対空砲も先のダメージに加え今の攻撃で全て使用不可能となりました!……この艦に最早攻撃手段は残っておりません……!」
「……総員退艦準備!」
「……っ!?」
「二度は言わぬ!急げ!」
「り、了解!総員退艦準備!クルーは全員脱出用のスペースランチへ急ぎ集合せよ!」
クルーが慌しく脱出準備へと急ぐ中、一人艦長席から微動だにして動かない男性がいた。
「アンダーセン提督……。」
「私はこの艦と運命を共にする。君も急ぎたまえジュネット中尉。」
「アンダーセン提督……いや、親父さん。私もお供します!」
「君とは長い付き合いだ、君がそう言うとは思っていた。だが私の意地に付き合う必要はない。」
「しかし……!」
「君にはジェシーやエルデヴァッサー中佐を支えて欲しいのだ。老い先短い私よりも未来を生きる二人を共に支えて欲しい……頼む……。」
「親父さん……。」
かつて彼が支え、そして彼を支えてくれた盟友達のようになって欲しいと。
「……分かりました、クッ……最後の時にお側にいる事が出来ず申し訳ありません親父さん……!」
涙を流して敬礼をするアルヴィン・ジュネット中尉にダニエル・D・アンダーセンが優しく微笑む。
「いいやジュネット君。君のような部下を持てて私は幸せ者だ。一度は軍から身を引いた私だが最後にこのアンゼリカを率いて進むことが出来たのは君達がいてくれたお陰なのだから。さぁ、行くのだ。」
最後に一礼し、その後迷う素振りを見せぬようにと振り返ることなく去って行ったジュネット中尉を誇りに思い、艦長席からスペースランチが発進して行くのを確認する。
「さて、最後の仕事をするとしようか。」
艦長席のシステムを使用し、艦の航路を設定し直す。目標は敵のコロニー兵器、主砲が使えなくともミサイルが放てなくとも、最後に残された弾丸はまだ残っている。
「ふっ。最後の役目がこんなものではあの世で怒るかな?アンゼリカよ。」
今はもういない、だがその志は此処に、そして子供達に受け継がれている女性を想う。
『ねぇD・D、この子達が歩む未来はどうなって行くのかしら?』
産まれたばかりの子供を抱き、優しく髪を撫でる母親。かつて見た光景である。
『分からない、分からないがせめてまともな道を歩める様に進むべき道を照らしておかなくてはな。』
『貴方の子供も大きくなったのでしょう?恥ずかしい父親だと思われない様に護って行きなさいよD・D、と言うか一回くらい連れてきなさいよ。』
『お前に会わせたら我が子がどんな目に遭うか恐ろしくてな。』
冗談を言いながら、未来を行く子供達の姿を想像した。護って行こうと、そう思っていた筈だった。
「だからこそ……、今度こそ護らねばならない。」
一度は捨ててしまった誓いをまた果たす為に。最後の戦いはまだ終わっていない。
ーーー
「クソッ!もう発射まで時間がない……!」
目の前で徐々に光を帯びていくソーラ・レイに、ジェシー・アンダーセンの焦りは募って行く一方だった。
「お願い……!もっと早く……動いて……!」
自身も機体も満身創痍であるが決して歩みを止めず共に進んでいくアンナ・フォン・エルデヴァッサー。彼女も決して諦めてはいなかった。
「みんな……みんながこれだけアレを止めようって必死になっているんだ……!それが……その想いがみんなに伝わりさえすればこんな馬鹿げた戦いなんて簡単に終わるのに……!」
「ジェシー……。その通りです、みんなの想いが通じさえすれば……!」
それがどれだけ難しいかも分かっている、少なくともソーラ・レイを守っている者達にも譲れない理由があり、必ずしも二人の想いだけが正義なのでは無いのだ。誰が善で誰が悪なのか、それは後世の歴史家が歴史書を書く時に決める事であり今此処で戦っている全ての人間が思い思いの正義の為に戦っている、それらは全てその人にとっては正義なのだから。
「俺は結局……何も変えられないのか……?何の為にこの世界にいるんだ……こういう時の為じゃないのかよ……!」
本来の歴史を知っていた、止められる術を知っていた、しかしそれらは現実という流れの中では結局全くの役に立たなかった。その無力さを嘆くしか出来ずにいる。
遠くで戦っている仲間達の為に出来ることをしなければならない。だが今はただ進むことしか出来ない自分に苛立つ事しかできなかった。
ーーー
『起きろ、いつまで寝ていやがる!』
声、それはついこの間まで毎日聞いていた声。
『もう少し寝させてくださいよ隊長。ここって夜中は虫やら動物やらでうるさくて仕方ないんですよ。』
同僚だったブライアンという男の声だ。そうだ地上に降りてからというもの毎日コロニーで全く見かけない虫の鳴き声だったり動物の鳴き声だったりがうるさくて常に寝不足気味になっていた。
『馬鹿野郎!お前らが呑気に寝てる間に攻撃されて死んでみろ、末代までの恥だと語り継がれちまうぞ!それにお前もいつまで寝てやがるグレイ!』
先程飲み終えたのであろうコーヒーが注がれていたマグカップが頭部に当たる、痛みで完全に目を覚ます。
「イテテ……。」
「どいつもこいつも気楽で良いもんだな、俺が連邦だったら嬉しくてしょうがないぜ相手がこんな呑気だってんならな。」
「なぁブライアン、なんで隊長はこんなにカリカリしているんだ?」
「あぁ?決まってるだろ、早くこんなトコからおさらばしてサイド3に帰りたいんだろ。」
「分かってんならもう少しシャキッとしやがれブライアン!」
隊長の鉄拳がガツンとブライアンに振り落とされるのを見て戦慄しながら制服に着替える、着任時はビッシリと伸びていた制服も今ではすっかりヨレヨレになっている。
確かにこんな状況ではさっさとサイド3に戻りたくなるのは仕方がないなと感じた。宇宙と地上では何もかもが違う、この重力も空気も飲み水ですら違和感を覚えてしまう程コロニーで作られている物とは違うのだから。
早く帰りたい。そうだ、俺は早く宇宙に帰りたいのだ。隊長と、隊長の家族とまたのんびり夕食を楽しむ、そんな当たり前の日々に戻りたい。
『起きてください……お兄さん、起きてください……。』
もう起きている、その筈なのにまるで夢にいるかのように現実へ引き戻す声が聞こえてくる。嫌だ、俺はまだ此処にいたい。隊長と仲間達とまだ平和な夢を見ていたい……。
『馬鹿野郎!いつまでもそんな夢に縋るんじゃねえ!』
「……っ。」
隊長の声、毎日の様に聞いていたその声がまた聞こえる。
『グレイ!テメェが俺の死に目を気にして、そして死んで行った仲間達の声を聞いて世界に絶望してるのは分かる!だがな、俺達はもう死んだんだよ!肉体はもう何処にも存在しねえ、けどな!心はずっとお前と共にある、それを忘れるな!』
「隊長ぉ……でも俺は……俺は……っ!」
『オメェはまだ生きている、そしてまだ未来があるんだよ!それを死んだ人間に引き摺られて一緒になりてえだなんて思うな!』
『そう、お兄さんにはまだこれからの未来があります。私達にはもう無い未来が。』
「マルグリット……。」
『この子も俺も死んだ事に悔いは無いって言ったら嘘になる。だがよグレイ、
「……。」
受け入れるしかない?確かに起きてしまった事を後悔しても死んだ人達は帰ってきやしない。だけど俺にはそれを受け入れるだけの心の余裕なんてありはしないんだ。
『アイツらだって同じだ。』
「アイツら……?」
『俺を殺したガキ共だ、アイツらお前と同じかそれより下の子供だった。敵だってのに死んで血塗れだった俺をわざわざ拭いたんだぜ?甘っちょろいにも程がある。』
そうだ、隊長の遺体は綺麗に拭かれていた。本来なら血塗れで見るに耐えない遺体となっていた筈の隊長をわざわざ遺体収納袋に入れて家族の写真まで添えて弔っていた。
『戦いだから殺るか殺られるしか道はねえ、だがよ
「……。」
『任務に従うのが兵士だ。だけどな、だからって人殺しをしても何も感じないって訳じゃねえ、人はロボットじゃねえんだからな。』
「だけど……!俺は……!」
『あぁ、アイツらをお前が許さなくても良い。それも間違っちゃいねえよ、俺やこの子を殺されたお前の気持ちが簡単に消えるなんて思わねえ。だがさっきも言っただろ、死んだ人間に引き摺られて生きるな、復讐だけが人生じゃねぇしお前はお前の為の未来があるのを忘れるな。今を生きろグレイ、俺がお前に教えられるのはそれが最後だ。』
「隊長……。」
『さぁお兄さん、目を覚まして。お兄さんを待ってるのは死んでしまった私達じゃない、今を生きる生きた人間なんですから。』
「マルグリット……。」
『さようならお兄さん。いつか、命が巡ったその先でまた会いましょう。』
隊長とマルグリットが光の先に消えて行く。その光を掴むように手を伸ばし、そして────
カチッ、カチッ、カチッ
「──マリオンの……時計……。」
マリオンが俺にくれた時計が1秒、また1秒と時間を刻んで行く。時は決して巻き戻せないと言う様に。
「グレイ!グレイ……!?」
「ヘルミーナ……?お前なのか……?」
通信機から聞こえてくるのは泣きじゃくっているヘルミーナの声だ。既にずっと叫んでいたのか声が少し涸れていた。
「もう1人にしないで……!私とずっと一緒にいて……!本当はグレイに死んで欲しくない、ずっと一緒にいたい……!」
ヘルミーナの慟哭に涙を流す、俺は結局隊長の言う様に死人に引き摺られてヘルミーナまで同じ様にしようとしていた。本当に見るべきなのは……。
「今まで悪かったヘルミーナ、俺が復讐にさえ拘らなければマルグリットは死なずに済んだのに……。」
「姉さんが言ったんだ……これ以上私の為に戦うなって……。」
アイツにはずっと助けられてばかりだった。俺達が道を外しても死んでもなお導いてくれた。
「マルグリット……。」
死んでしまったマルグリットの為に出来ること、俺が歩むべき未来……。
「みんな、あの白いのと青いのもずっと戦ってる。」
全てを飲み込む悪魔の光、その発射源となっているあのコロニー兵器を壊す為に連邦がそして味方である筈のジオン兵までもが動いている。
俺にだってあの兵器が存在してはならないと言うのは分かっている、だけどジオンが勝利する為には必要な兵器なのだ。
だが此処で勝って未来はどうなる?俺達の住むコロニーがあれだけの兵器になると分かれば次も戦争になれば簡単にコロニーを改造して殺戮兵器に変えてしまえる。
核などより忌むべき兵器として、そして宇宙の悪意の塊としてコロニーが永遠に存在し続ける事になる。
そんな未来を止める為にあのジェシー・アンダーセンは戦っているのだ、俺の様に過去に囚われず、恐らく奴も俺に対してマルグリットを死ぬ原因を作ったと恨みがあったにも関わらず殺さずにいた、隊長やマルグリットの言う死人に囚われるという事なく……。
「俺達の……やるべき戦い……。」
本当は分かっている、ニュータイプとして感じるこの他者の痛み。そして両者の戦いの光と闇、いや希望と憎悪と言うべきだろうか。
ジェシー・アンダーセンを始めとした連邦や反乱を起こしたジオン兵に感じる希望、そしてそれらを守るジオン兵の連邦への憎悪。どちらが善で、どちらが悪か……。
「だが……今更俺達にやれる事なんて──?あれは……。」
サブカメラが何かを捉える、モニターを拡大すると其処にはジオンが使うスキウレに似た兵器が写った。
「グレイ……これ、あの青い奴が持ってた奴だ。」
「となると……狙撃用の兵装か。」
あの機体は長距離支援を得意とする機体だった、となるとスキウレによく似た形状からもこれも大型の長距離砲の部類なのだろう。
「どうやら……マルグリットが俺にやって欲しい事が分かったよヘルミーナ。」
「うん……、私達の未来の為にやらなくちゃいけない事。」
仮にあの兵器を止めて、戦争が連邦の勝利で終わったとしてもこれから先に平和な未来が作られる保証はない。幾らネオ・ジオンのキャスバル総帥やガルマ大佐がいようと今までの悪政が簡単に変わる訳がない。
「
諦めない意志が未来を切り拓くと言うなら、ニュータイプがその変革を導く存在であるのなら。マルグリットが俺達を導いた様に、彼らが未来を導いてくれるかもしれない。今よりも少しはマシな世界を。
「……いけるかヘルミーナ?」
「うん。グレイと一緒なら何処だって。」
「……ありがとう。行こう、未来へ。」
半壊したキケロガと、頭部のみのジオングで長距離砲に近づく。幸い発射機構に関してはスキウレなどと大差が無い。ただ機体接続などは規格が合わない為不安定なものとなるだろう。
「ヘルミーナ、俺の機体に移れ。」
「うん。」
このまま発射すればビームの余波で大きく飛ばされてしまうだろう。ジオングも脱出機構のみではそこまで稼働時間が長くはない、下手をすれば宇宙に投げ出され見つからなくなる可能性も高い。それなら一緒にいるべきだ。
「よし、機体接続完了。発射プロセスの確認。」
「エネルギー充填は完了してるよグレイ、ただプログラムがジオンのとは違うから出力の調整が上手くできない。」
「……最大出力で放つしかないな。あれを止めるんなら。」
「大丈夫だよグレイ。姉さんがきっと守ってくれる。」
「……あぁ。エネルギー出力最大、次は照射位置の設定だ。」
「メインモニターが壊れてるからコンピューターじゃ計算できないけど……大丈夫だよねグレイ。」
「あぁ、はっきりと視える。狙うべき場所は……ここだ。」
コロニー兵器をコントロールする艦、それが視える。目ではなく感覚で。悪意のプレッシャーが放たれている場所だ。
「グレイ、全行程チェック完了。後は発射するだけだよ。」
「……ヘルミーナ。」
「なに?」
「ありがとうな、いつも一緒にいてくれて。」
「うん。これからもずっと一緒だよグレイ。大好き。」
「あぁ、俺もお前が大好きだ。……行こう、未来へ。」
そして、光が放たれた。
ーーー
「アサクラ大佐!敵が間も無く最終防衛ラインを突破します!」
「クソッ!コントロール艦は現在出力何%で発射できると言っている!?」
「出力35%程です!」
「ならそれで発射するしかなかろう!予定時刻よりは早まるが予定通りNフィールドへ向けて発射する!」
「しかし中途半端な出力ではア・バオア・クーで敵の掃討が確実に出来るとは言えません!」
「ならばどうしろと言うのだ!貴様らが腑抜けだからここまで敵が来ているのだぞ!撃て!撃ってしまえば後はどうにでもなる!」
「ハッ……了解……!」
光が徐々に収束して行く、今度こそ全てを消し去る為にと。
「クハハハハ……消えてしまえば良いのだ、連邦のゴミ共なぞ……そうすれば、ギレン総帥が勝てさえすれば後は……!」
「アサクラ大佐!敵が間も無く到着します!」
「早く放て!奴らに悔やんでも悔やみきれない後悔を与えてしまえ!」
「ソーラ・レイ!発射します!」
全てを飲み込む憎しみの光が宇宙に放たれた────。
ーーー
「あぁ……!そんな馬鹿な……!」
未だソーラ・レイからは離れた地点で、ソーラ・レイから光が放たれたのを確認し絶望する。結局俺は何も出来なかった。
「ジェシー……。」
「終わりだ……アムロ……キャスバル……すまない……すまない……!」
【まだ、終わっていないですよジェシー。貴方が紡いだ全てに今答えが出ます。】
「ジェシー……この声は……。」
「マルグリット……?────何だ?高熱源反応……!?」
その時別の方向から別の光がソーラ・レイに向けて放たれて行く。これは……。
「そんな……私のバストライナー砲!?一体誰が……!」
「まさか……。」
ジェイソン・グレイ、まさか彼がこれを……!?放たれた光の行く末を確認する、ビームはソーラ・レイへと向かい真っ直ぐ放たれていく。
「ジェシー!あれなら……!」
「あぁ……!止められる……は……ず……。」
しかしビームは言葉の途中で途切れた、バストライナー砲の出力であれば最大数分間の照射が可能な筈なのに1分もしない内にビームは消えて行く。これでは命中しても完全な破壊は難しい。
「まさか……機体が照射に耐えきれなかった……?いえ……それともジオンの規格では出力通りに撃てなかった可能性が……。」
アーニャの言葉に項垂れる。
「奴の機体はボロボロだった……機体が耐えられなかったのかもしれない……クソッ!」
結局彼の事も救えず、ソーラ・レイも破壊に至らず……そう思っていると大きな爆発がソーラ・レイから発生するのが確認された。
ーーー
「アサクラ大佐!高熱源反応来ます!」
「な、何だと……!?」
ビームがコントロール艦に直撃し爆散する、そして通過してコロニー外壁を粉砕して行くがその途中でビームは消え去った。そしてソーラ・レイはまだ機能を停止してはいない。
もう遅い、既にソーラ・レイは放たれたのだこのまま1分でも照射し続けられればア・バオア・クーに問題なく届く筈だ、コントロール艦は失われたが最低限の機能はこの艦からでも維持できるのだ。
「発射角度はどうなっている!?」
「ハッ……!……許容可能な誤差の範囲内の模様……!──な!マゼラン級が一隻ソーラ・レイへ急速接近中!」
「なんだと!?」
「……さぁ行くぞアンゼリカ!」
マゼラン級アンゼリカが先程の攻撃で脆くなった外壁に再び特攻を掛ける。
「撃て!撃ち落とせ!あれを通してならん!」
周辺の艦船により一斉射が放たれる、しかも攻撃が当たっているにも関わらずアンゼリカはその進軍を止めることはなかった。
「何故だ!?何故撃ち落とせん!?」
「この女は……アンゼリカは沈まない!その身が砕けようと、その志は永久に不滅だと知れ!……すまないなジェシーよ、お前の行く未来を見届ける事の叶わぬ私をどうか許してくれ……。」
そしてアンゼリカはコロニーに接触し大爆発を起こす、たかが一隻の特攻でこの大きさのコロニーがその射角をズラす事はない、アサクラ大佐はそう思っていたし事実その程度では揺らぐ事など決してあり得ない。
ソーラ・レイは大きくその向きを変え、放たれた光もまた屈折して行く。それはア・バオア・クーとは見当違いの方角へと向かう。
「ば、馬鹿な……!」
「アサクラぁ!!!今までのツケを払ってもらうよ!!!!!」
目前にはいつの間にかカーキ色と紫のカラーリングのされたシーマ・ガラハウの専用機であるゲルググがビームライフルを構えていた。
そして彼女の怒号がアサクラ大佐の乗艦する艦に大きく響く。
「シーマ・ガラハウ!?た、頼む!どうか命だけは……!」
「お前だけは許せないんだよ!」
ゲルググから放たれた光は艦を爆発させる。完全にコントロールを失ったソーラ・レイは、やがて沈黙して行くのだった。
ーーー
「ここは……。」
光の中、かつて黄金にも似た輝かしい時代を生きていた、その頃と似た暖かさを持つ光の中にいる事をダニエル・D・アンダーセンは感じた。
『お疲れ様D・D、貴方にしては良く頑張ったじゃない。』
「アンゼリカ……。」
かつて護れなかった女性が、かつての姿のまま目の前に立っている。
「すまなかったなアンゼリカ、私は二度もお前を護れなかった。」
『護れたじゃない貴方は。私の未来であるアンナや貴方の息子の未来を。』
「未来を……。」
『えぇ、未来を生きる子供達の為の道。それが私の人生の全てだったから。』
そうだ、彼女はいつも宇宙世紀という時代の未来を歩む者の為に戦ってきた。
「貴方はそれを護ってくれた。私はそれだけで嬉しいわ。さあ私とあの世でもまた戦うわよ?」
もう死んでいるにも関わらずその破天荒さは生前と何ら変わりない、あぁ……この輝きこそが私を私にしていたのだと感じる。──が。
「だがなアンゼリカ、断る。」
『何ですって!?』
「昔から決めていた事だ。もしもあの世とやらがあるのであれば私はもう一度妻と共に歩みたいとな、死んでまでお前にこき使われるのも癪だしな。」
黄金の輝きとは別の、優しさに包まれた光がまた存在するのを感じる。
「お前にはずっと迷惑をかけてきたな。すまなかった、これからはずっと一緒だ。」
『はい……。いつまでもお側にいますよ貴方……。』
『ふふっ、それでこそ私が見込んだ男よD・D、いいえダニエル。今度こそちゃんと家族孝行してあげなさいよ?』
「お前に言われるまでもない。」
『さようならダニエル、命が巡った先でまた会いましょう。』
「あぁ、いずれまた────。」
一人の男の戦いが、光の中で終わりを告げた。
ーーー
「終わったのか……?」
ユウ・カジマは鎮まり返った戦場を見渡し、そう口にする。
「分からねえ。だがやっこさんも打つ手無しだろこりゃあ。」
戦力的には此方が未だ劣勢ではあるが、敵の指揮系統はかなり混乱している筈だ。
「ユウ中尉、フィリップ少尉、あれを見てください!」
サマナが示す方角を確認する。
そして思わずフッと微笑みが生まれる。
「俺達も行こう。もうここで誰も戦いたくなど無いみたいだからな。」
「マチルダ、見えるかこの光景が?」
ウッディ・マルデン大尉が、妻であるマチルダ・マルデン中尉の乗るコロンブスに声を震わせながら通信を入れる。
「えぇ、見えるわウッディ。これがこの先の未来に続く光景になれば……私はとても嬉しいと思っているわ。」
「あぁ……俺達の戦いは無駄では無かった、この光景を見ていると本当にそう思う。さあ俺達も急ぎ向かおう。」
「ほらほら!今は連邦だのジオンだの関係ないよ!早く傷ついた奴を病院船に乗せなって!」
奇抜な動きで学徒兵の乗るザクの頭を叩くメガセリオン、そして広域通信でそれを叫ぶのはカルラ・ララサーバル軍曹であった。
「何で僕たちが連邦軍の言うことなんて──うわぁ!」
「もう戦いはゴリゴリだろ!?アタイもアンタも!だからさっさと戦闘やめて救助活動する方が気が楽だし助かる奴も多い!ほら、さっさと宇宙に投げ出された奴を探すんだよ!」
「カルラさんの言う事を聞いた方が良いですよ、気が変わって攻撃してくるとか普通にあり得ますからね。」
「グリムゥー?」
「ハハッ!ヨハン・グリム伍長救助活動を再開します!」
戦いが鎮まり返った直後に、我先にと救助活動を始めた二人がいた。ジオンの病院船の盾となり、連邦ジオン問わず傷病者の収容を率先させいつの間にかそこを中心に両軍が集まり資材を惜しまず互いを助け合っている。
本当の意味で、この宙域での戦いが終わったのだ。
ーーー
「あ……あぁ……!」
「止まった……!止まりましたよジェシー!」
奇跡が起きた、ソーラ・レイから放たれた光はア・バオア・クーとは見当違いの宙域へと消えていく。
「終わった……終わったんだな……!」
そして感慨に浸っているとハッとする。
「アイツらを……ジェイソン・グレイを助けに行かないと!」
機体に何かが起きたのは明白だ、彼らのお陰でソーラ・レイは止まったのだ助けに行かなくては。
「発射源はこの辺りの筈ですが……。」
先程まで彼と戦っていた場所まで辿り着くも、其処にはデブリが散乱し機体の熱源反応なども無くなっていた。
「だけど……まだ死んじゃいない筈だ……!」
微かに感じる、彼とマルグリットの妹の存在を。
だがこの宇宙空間でどう見つければ良い……?
「ジェシー……あれは……。」
アーニャが示す方角には大破したジェイソン・グレイの機体とジオングの頭部が漂っていた。生体反応は……そこには無かった。
「クソッ!クソッ……!」
この広大な宇宙空間の中で、投げ出された人間を探し出すのはかなり難しい。一体どうすれば良いんだ……!
『ジェシー、貴方には宇宙はどう見えますか?』
「マルグリット……。」
『私には、この宇宙が大空に見えます。宇宙に生まれた私達にとってコロニーは地球で宇宙は空なんです。そしてそれを駆ける私達は鳥。』
「この宇宙が……空……。」
『ジェシーにも見える筈です、この
その言葉と共に、宇宙が蒼く染まって行くのを感じていく。
そうだ、
「ジェシー、私にもはっきり見えます。この輝く宇宙が。」
「あぁ、こんなにも簡単な事なんだ。雲一つない空を飛ぶ鳥を見つけるのと同じ様に……!」
見える、命の輝きが。未来を生きたいと思う二人の姿が。
「ジェイソン・グレイ!」
コクピットを開き宇宙に漂う彼の手を取る、意識は失ってはいなかった。
「ジェシー・アンダーセン……。」
互いに見つめ合い、そして二人ともニヤリと笑った。
「行こう!明日へ!」
「あぁ……!」
恨みが無いと言えば嘘になる。割り切れない思いが互いに存在する。
だが今はその過去を少しずつでも変わる未来に至れる様にと、明日へ向かう意志が二人の間で握手として交わされたのだった。
宇宙世紀0079年
ガンダムという世界の歴史の中で非常に重要な時代が、一年戦争と呼ばれる事になる戦争が終わった。
そしてそれは俺の知る形とは別の、本来の歴史とは大きく異なる終わり方を告げた。それがこれからの歴史にどう影響するか、それはまた別の物語となるが今はただ希望へと至れる未来に辿り着く事を祈るだけだ。
そう大切な仲間達と、そして巡り会えた人達と共に。
機動戦士ガンダム 紺碧の空へ
第一部『一年戦争編』完
次回
第二部『0083 暗黒の宇宙へ』に続く
第一部『一年戦争編』終了となります。
ここまで読んでくださり本当にありがとうございます。
長期に渡り遅々とした投稿となり申し訳ありませんでした。
次回より幕間に何話か挟み第二部へと続きます、ここから先の物語は原作を交えながらもオリジナル要素や独自の設定や解釈などが入り今まで以上に受け入れ難いものとなる可能性がありますがお付き合い頂けると幸いです。
一応はグリプス戦役までの構想はありますのでそれまで読んでくれれば嬉しいなと思っております。(そもそも書き切れるかが問題ですが。)
それではここまでお付き合い頂き本当にありがとうございました。また次話以降もよろしくお願いします。