幕間1 明日の為に
戦争が終わった、あの一年戦争と呼ばれる戦争が終わったのだ。
喜ばしい事も多いが同時に悲しむ事も多かった、親父が死んだと報告を聞いたのはジェイソン・グレイを助け状況が一段落した後でみんなと合流した時、ジュネット中尉が今まで見た事のないくらい大声で泣いて俺に謝って来た時だった。
俺もまたジュネット中尉と共に泣いた、憑依したとか関係なくあの人は俺の父親だったのだ、まだまだこれからの未来を見て欲しかったのにそう思いながら。
だが悲しんでばかりもいられなかった、時代はそれを許してくれないのだから。
それから数日を経て、ジオン公国と連邦軍による正式な停戦協定が締結しジオン公国はジオン共和国となりア・バオア・クーで捕らえられたギレン・ザビは現在連邦軍に拘束されている。
そして俺が今やるべき事、それはアーニャがこの先の連邦軍において大きな勢力を築く為にそれを支える事だ。幸い俺には戦争中は役に立つ機会が全く無かったが原作の知識がそれなりにある、これらが今なら役に立つ筈だ。そう思いこれから先の情勢において上手く立ち回る為に彼女に色々具申した。
まずやるべき事、それはジオニック社の買収だ。
「ジオン共和国が公国企業を売る?」
「あぁ、今回の戦争でギレンは裁判に掛けられて……まぁ死刑は確実だろうが、それとは別に地球連邦軍による共和国となったサイド3への賠償問題が発生するのは間違いない。ならその時サイド3が打つ手と言えば国有企業の売却だ。」
「確かに……ジオニックであれば連邦軍や月で現在ジムの一部生産を請け負っているアナハイム・エレクトロニクス社などが手を出して来そうですね。」
「アーニャの一族の企業も今回の戦争でアナハイムと同列とまでは言わないがかなりの利益を出したんだろ?連邦での発言力を上げるのであればここでジオニックは少しでも吸収しておきたい。どうだろう?」
アーニャはクスリと笑い俺の手を取る。
「従いますよ、貴方は私のフィアンセなんですから。」
「浮かれ過ぎだぞ、最近はずっとこればっかりだな。」
戦争の後で俺は正式にアーニャにプロポーズをした、親父の一件もあるが彼女と共に歩むのに俺も男としてケジメをつけておきたかったからだ。ただ今結婚するのは流石に犯罪臭いので彼女が18になるまでは婚約という形ではあるのだが。
ただプロポーズをして以降やたらアーニャはポンコツみたいにノロケてしまう事が多くなった、まぁ生まれながらに母親を亡くして父も祖父もいなくなっては家族の愛情に飢えているのは間違いないだろう。前から思っていた事だがアーニャは気丈そうに見えて実際はかなり脆いのだ。
「むぅ、良いではありませんか。嬉しいものは嬉しいのですから。」
「状況を考えろ、惚気るのは情勢が落ち着いてから幾らでも出来るだろ。」
「情勢が落ち着いたら惚気ても良いと?」
「あのなぁ……。」
「冗談ですよジェシー、何よりジオン共和国がジオニックを売却すると言うのは
アーニャの言う
フィーリウス・ストリーム、ガイウス・ゼメラ、バネッサ・バーミリオン。俺はあまり詳しくは無いのだが確かギレン暗殺計画という漫画に出て来たギレン親衛隊のパイロット達だ。
彼らを手引きしたジオニックの創設者の一人であるホド・フィーゼラーがアーニャの祖父と縁があったようで、本来の歴史ではアナハイムに所属しその後カラバから連邦に移籍する筈だった彼らは今はエルデヴァッサー家で匿われている。
これも今後アーニャが上手く立ち回る為にはかなりのアドバンテージになるだろう。
「知っていたのか、なら忠告するだけ無駄だったか?」
「いえ、信憑性が高いとは言え確信はありませんでしたからね。ジェシーの言葉で確信に変わりました。他に懸念する事があれば聞いておきたいですね。」
「なら後はハービック社の買収も視野に入れてくれ。戦闘機開発の最大手だったがこの戦争で戦闘機は殆どお役御免になってしまったからな。かなりの経営難になっている筈だ、戦闘機が役に立つ場面が減ったとは言えその技術は目を見張るものがある。」
今後の地上や宇宙ではMSが戦闘の要になるのは間違いないが制空権の確保や航空支援、更にSFSやTMSの開発など航空機の技術や存在は不要というには程遠いのだ。
「今回の戦争でMS開発や兵器生産に乗り気では無かった企業は軒並み業績が悪化していますからね、それらが今後簡単にMS開発に切り替えられる訳ではありませんし、吸収か技術提携出来れば今後の為になるでしょう。ハービック社の件も考えておきます。しかし驚きですねジェシー。」
「何がだ?」
「貴方はどちらかと言えば軍務より政務の方が向いていませんか?ジオニック社にしろハービック社にしろ普通のパイロットではここまでの視野は持ちませんよ普通?」
「あー……それはだな……。」
未来を知っているからと言うのとアーニャの実家、エルデヴァッサーの一族が所有する軍関連やその他諸々を生産している企業エルデヴァッサー・コーポレーション、通称EC社がこの一年戦争で大きく飛躍した事で俺の知識が活かせると言う点が大きい。
今となっては何でアーニャがこれだけの実力が有りながらも原作では台頭出来なかったのだろうと言う疑問も湧くが、出会った時に思ったようにあの時ゴップ将軍に軍を辞めさせられ今話してる様な吸収の話をそのまんまアナハイムにされたのだろう、こっちとしては今は逆にアナハイムを吸収したい所だがこの歴史でもアナハイムは普通に力があるのでまず難しいだろう。
これから先はジオン残党の動きとアナハイムの動向に注意する必要がありそうだ。なんてったってアナハイム……いやビスト財団には
あれ自体は何て事ない、宇宙世紀初の首相が石碑に優秀な宇宙移民者が生まれたなら政治に参加させようってニュアンスの宇宙移民者は棄民では無いという意図を持って刻んだ物だ。
しかし当時のマーセナス首相を快く思っていなかった連邦政府の一勢力が自作自演で彼を殺し、そしてその後で用意したレプリカにその一文が消されていた事がオリジナルを偶然所有する事になったサイアム・ビストの台頭を許す事になったのだ。
自作自演の揺るぎない証拠となるオリジナルの石碑をチラつかせる事で連邦政府の恥部が晒されない様にサイアム・ビストに多額の金が流れていく、それが今のアナハイムやビスト財団を築く一つの要因になった。
今では事件も風化し、今更公開した所で当時の首謀者達は既に殆ど亡くなっており少しのスキャンダルとして報道される可能性しかないシロモノとなっていたがこの一年戦争で再び箱に重要な価値が発生する事となった。
ジオニズムの誕生とニュータイプの発生、これらの要因が箱の秘匿されていた部分の意味を変えてしまった。今ラプラスの箱が開示されでもしたら彼らの行動に正当性が発生してしまう、連邦軍首脳部はそれを良しとしないだろう、となると今後も箱を持っている彼らの影響力と言うのは依然変わらないだろう。
「どうしたのですかジェシー?急に深く考え込んで。」
「いや……簡単そうで難しいなって思ったんだよ、今言った案も本当に上手く行くとは限らないし政治ってのは難しいもんなんだなって。」
「そうですね。私達だけの動きを考えれば良いわけではありませんし様々な要因も可能性に考慮しなければ駆け引きは難しいですから、思ってるとおりに事が運ぶと訳には行かないでしょうね。」
「その割には冷静過ぎないか?もっと焦った方が俺は良いと思うが……。」
「貴方が隣にいますから。私にはそれだけでこの先も大丈夫だと思えます。」
「はぁ、そう言ってもらえると嬉しいけどな。」
いずれにしても考えるばかりでは何も生まれないか。事が起きなければ結果も生まれないし焦っていても仕方ないな。
「それよりもうすぐ時間だ、準備は大丈夫か?」
「えぇ、この手のパーティーはそれこそ私の舞台ですから。」
俺達がいるのはサイド3のズムシティ。終戦から数日が経ち、政治的な案件がようやく解決の目処がつき始めたので両軍や各界の主要な人物が集まり今後の平和と安寧を願う為にパーティーを開くことになったという。
実際はそんなのは建前でここでも政治的な話が蠢くのだろうが、それこそアーニャの舞台だろう。
「さぁ、貴方も早く着替えてきてくださいねジェシー。パートナーが恥ずかしい格好をしていては私の恥になるのですからね?」
「むぅ……やはり俺も行くのか。」
当たり前だが婚約した以上は俺もエルデヴァッサー家の一員みたいなものだ、まだ一族の生き残った人間とは会ってないし今の主要なメンバーとは会っておかないと今後に影響しそうだな。
っと、それより今はこのパーティーをどう乗り切るかだ。
「当たり前です、なんと言っても私のフィアンセなんですからね。」
「もう良いよそのネタは。」
部屋に戻りタキシードに着替えホテルを降りると其処には綺麗なドレスを身に纏ったアーニャがいた。
「へぇ……流石に様になっているな。」
「貴方もですよジェシー。それでは行きましょう。」
待機していたリムジンに乗りパーティーが開かれると言う場所まで移動する。特権階級の凄さを身に感じるが、同時にこれに増長してはならないと自分を諌める心も発生する。自分も腐った連邦の政府官僚の仲間入りなんて事になって後で誰かに殺されるなんてコースはごめんだからな。
「さて、移動中ですが先程の話の続きをしましょう。先程までは企業関連の話でしたが他にも何か提案はないですか?」
「うーん、後は部隊関係か?企業関係はエルデヴァッサー家としての動きになるけど軍関係は俺達の動きになる。優秀なパイロットは出来るだけ引き抜きたい所だが……。」
ホワイトベース隊を始め、この戦争で出会ったユウ中尉を始めとした原作の優秀なパイロットの引き抜きさえ出来ればそれこそ安泰なのだが……。
「こちらは逆に難しい話ですねジェシー。この戦争で軍での私の発言力は確かに上がりましたが派閥に属していない私では未だ連邦軍内の勢力としては新参者の部類に入りますからね。」
ソーラ・レイでの戦いでアーニャは大佐に、そして俺は大尉への昇格が言い渡された。これでアーニャは佐官として異例のスピード出世となってはいるが未だ将校の多い連邦軍では確かに勢力としては末端扱いだろう。
それこそ上にいる連中も経済界や財政界に融通の効く人間が多いのだ、アーニャが幾ら今回の戦争で台頭したとは言え彼らも失墜する要素が無ければ勢力図は揺るがない。
「アムロやホワイトベース隊のみんなは流石に無理そうか?」
「彼らは英雄ですからね、当分は会うのすら難しいと思いますよ?」
「活躍的に言えば俺達だって結構な事をしただろ?」
「連邦軍にとってはジオンと協力してソーラ・レイを破壊した私達より、ア・バオア・クーで獅子奮迅の活躍を見せたホワイトベース隊の方が泊が付くのですよ。」
「はぁ……やるせないな。」
結局その後は危険分子として左遷か或いは監禁にされそうだが……。
しかしこうなると次に打てる手は……。
「後は新兵を鍛えてエースにするってくらいか……?それと新型機開発で軍内部での影響力を高めるかだな。」
「私もその2つが候補に上がりますね。この戦いで多くの将兵が失われましたから今後多くの新兵を増やさなくてはなりません。」
「コロニー落としの影響で地上の沿岸は滅茶苦茶だしな、それらの復興や公国残党の動きも考えると治安維持要員を増やさなくちゃならないし職業軍人が増えそうだなこりゃ。」
「そうなると問題なのは兵士の質の低下です、戦争中でもそうでしたが粗暴な兵が多く見受けられますから治安維持において問題を増やさない為にも下士官の促成教育を戦中に一応提唱はしたのですが。」
「具体的にどんな感じなんだ?」
「下士官の中から優秀な方を選出しその方々は尉官候補として専用のカリキュラムを受けてもらい問題が無ければ少尉任官し各地に配属する様な感じです。」
成る程確かにそれなら今から士官学校で士官教育してから配属という年数のいる工程を除き少ない時間で質の向上が見込める……が。
「そうなると普通に士官教育を受けた人間からは文句が出るんじゃないか?」
「問題はそこなのです、やはり格差が生まれて来ますからね元々尉官だった者や選出されなかった下士官からは不平不満が出ると思います。」
「難しいなホント。そこまで気にする余裕のある状況じゃないと思うけど中にはもう戦争は終わったと思う者も多い訳だしなぁ。」
負の感情というのは本当に侮れない、他人への妬みや恨みなんてのは思っている以上に深いものだ。それは俺も身を持って知っている。
「後は新型機開発ですね。ジェシーには何か案はありますか?」
「俺としてはガンダムみたいなハイスペック機を作るより今ある量産機の発展をさせた方が良いと思う、連邦も財政に余裕がある訳じゃないしジオン残党への治安維持を考えれば量産機のスペックを上げて人的損失や物的損失を減らすべきだ。宇宙に上がる前にジャブローで色々提案はしたんだぜ一応は。」
「それは私も目を通しました、面白いアイデアの機体群が多かったですが一番興味を引いたのはメガセリオンの改良ですね。」
「あぁ、北米でネオ・ジオンからの技術提供もあった訳だしその技術と連邦の技術を組み合わせればベストな量産機が出来ると思ってる、元々メガセリオンはプロトタイプグフの流れを汲んでいるしジオンの技術との親和性は高いだろ?」
それにメガセリオンはF90みたいにミッション毎に武装を変えれる強みがある、この戦時中では基本的にジムと武装が共通している中距離装備がメインでその機能を活かす機会は少なかったが残党狩りをするのであれば要所に適した装備での出撃が良いはずだ。
今回提案した新型量産機案は言うなればハイザック版F90みたいなものだ、連邦とジオンの技術を複合しその機体が場面に適した装備で出撃するのが理想系だ。勿論ハイザックみたいに技術は混合、部品は純連邦製になどするのではなくジオンと連邦の技術の完全なミックスが前提である。
「ネオ・ジオンから提供された技術と、ジオニックを多少なりとも吸収出来ればその量産機開発の提案を私達から出来るかもしれません。クロエ曹長とも話をして早急に案を固めておきたいですね。」
「あぁ、少しでも優位に立てるなら立っておきたいからな。」
今後大きく歴史を変える要因になるのはまずキシリアが撤退したアクシズ、そしてア・バオア・クーからの撤退が確認されているエギーユ・デラーズ率いるデラーズフリートだろう。
ティターンズやエゥーゴはそれらが遠因で誕生しているのでまずはこの二つの対策が必要だ。
「さて、流石に早いですね。到着しましたよジェシー。」
目の前には煌びやかな宮殿が聳え立っている。
「此処はザビ家も良く利用していたと言われている場所らしいですよ。」
「成る程な。」
最早ザビ家の影響力は無いと示すにも適した場所と言うわけか。
「既に人が集まっていますね。私達も行きましょう。」
「あぁ。」
手を繋ぎ入口で簡単なボディチェックを済ませ中に入ると視線が集中されるのが分かる。
「誰だ?あの若い二人は?」
「あの少女、例のエルデヴァッサー大佐では?あのコロニー兵器を止めるのに尽力したと言う。」
「ソーラ・レイを止めた英雄か!となると隣にいるのがゴップ将軍の言っていた……。」
恐らく連邦軍のお偉いさんとジオン訛りが聞こえるからジオンのお偉いさんか?ゴップ将軍がどうこうと言っているが嫌な予感しかしない。
「おお、来たか二人とも。」
「うわっ、ゴップ将軍!」
「相変わらず失礼な驚き方をするなアンダーセン中尉……いや昇格して大尉だったか。……ダニエルの事は残念だったな。すまなかった、私が殺したようなものだ。」
其処には本当に悔やむ顔をし悲しんでいるゴップ将軍がいた。
「親父……いや、父はきっと後悔はしていなかったと思います。最後まであのコロニー兵器という存在をあってはならない物として、それを止める為に文字通り命を賭けた。俺はそれに誇りに思います。」
親父はアーニャの両親と盟友だとアーニャから聞いた。ゴップ将軍も同じく、その四人がどういう視点で地球を見たかは分からないが少なくても親父はコロニーという存在を宇宙世紀を生きる者が住む家だと、帰るべき場所だと思っていた。それを兵器として使われたことに憤慨し特攻してまで止めたのだ。
本来であればアンゼリカ一隻の質量ではソーラ・レイはその向きを変える事は無いはずだった。それが大きく向きを変えたのは親父の想いが篭っていたからだと与太話だと思われるだろうが、俺はそう思ったんだ。
「うむ、奴の意志に恥じない活躍をするのだぞ。……それとそうと遂に婚約したそうだな。」
「うっ……流石に耳が早いですね。」
殆ど内々でしか伝わっていない筈なのに何処からネタを仕入れてくるんだこの人は……。
「当たり前だ、私を誰だと思っている?」
「ははは……。」
「笑っている場合か、前にも言ったな彼女の名誉を傷つける事のない様にとな。未だにその心は変わっていないだろうな?」
「それだけは永久に。貴方にだって強く言えます。」
「うむ、それなら良い。おめでとうフロイライン、いやもうアンナと呼んだ方が良いな。祝福させてもらうぞ。」
「ありがとうございます叔父様……。」
「アンゼリカの子とダニエルの子が結ばれる……か。二人にも見せてやりたかった──っ、……すまない少し席を外してくる。今の内に人脈を増やしておくと良い。」
そう言って目頭を押さえて場を離れるゴップ将軍。
「あの人にも人並みの感情があったんだな。」
「さ、流石に失礼過ぎますよジェシー……!?」
まぁ嬉しく思うんだけどな、確かに親父にもアーニャの両親にも見て欲しかった……それは叶わないと知っていても。
「──ん?アンダーセン中尉か!」
ゴップ将軍とは別の方向から呼ばれる声、その声の方向を振り向くと……。
「キャスバル総帥!?良かった、生きてたんですね!」
「おいおい、私は戦死した事になっていたのか?見ての通り五体満足だよ。」
「いや……やっぱり顔を見ない事には安心出来なかったと言うか……アムロ達も無事だったんですよね!?」
「あぁ、此処には来ていないが皆健在だ。君達の活躍のおかげだ。」
「俺達だって……みんなが戦いを止めてくれたから……。」
そう話し込んでいるとまた別の男性が声をかけてきた、
「シャア!いやキャスバル、私にも彼らを紹介させてくれよ。」
このキザなハンサム男……まさか……!
「あぁ、彼があのジェシー・アンダーセン、隣にいるのがアンナ・フォン・エルデヴァッサー、ソーラ・レイと呼ばれる兵器を止めたのは彼らの部隊だ。」
「君があのジェシー・アンダーセンか。キャスバルから話は聞いているよ、何でも私に似てキザな所があるとね。私はネオ・ジオンのガルマ・ザビだ。名乗らなくても知っているとは思うがね。」
どんな話をしてるんだよ……そう思いながらも此処にガルマがいる事に驚いた。まぁキャスバルがいるんだからネオ・ジオンの共同代表みたいなものであるガルマがいるのも不思議ではないが。
「此処にまた足を付ける事があるとは思っていなかった……、本来であれば私の様なジオンの裏切り者、そしてザビ家の人間が此処にいるのは相応しくは無いのだが。」
「そんな事はないでしょう、ガルマ大佐だって地上での善政は聞いているしザビ家全部が悪と決めつけるのは間違いですよ。」
「そう言ってくれると助かるよ。地球連邦とジオン共和国、そして我々ネオ・ジオンも新たに共和制を敷きネオ・ジオン共和国として三者国会議もしなければならなくてね、この地を再び踏むのに抵抗もあったがそうも言ってられなかったからな。」
「ネオ・ジオンも共和国に?」
「あぁ、本当は民主制にしたかったのだかネオ・ジオンを立ち上げた責任もあるのでね。まず共和制を導入し、形をしっかり作り終えてから緩やかに移行するつもりだ。」
いずれにせよ月のように独立した勢力になるのは間違いないだろう。しかしこの二人なら危うい事にはならない筈だ。
「アクシズへ逃げた姉さ……キシリア・ザビの一件もあるから私は対外的にはあまり良い代表にはなれないだろうが、キャスバルが共に歩んでくれると言ってくれたからな。共同代表として道を外れないよう努力するつもりだ。君達の助力を願う事もあると思うから今後ともよろしく頼む。」
ガルマと握手を交わす。こちらとしてもネオ・ジオンとのコネクションが出来るのは喜ばしい事だ。俺にとってもアーニャにとってもメリットが生まれるだろう。
「こちらこそ。それより今後ネオ・ジオンはどんな風に宇宙へ?」
「数日前の会談でラグランジュ3、サイド7の近くに新たにコロニー公社で建造中のコロニーを数基買取り其処に自治政府を立ち上げる事に決まった。そこにニューヤーク市民を始め希望する者を可能な限り集め移住する。連邦軍としてはいつ我々が裏切るかも分からないからルナツーと地球に挟まれたラグランジュ3で無ければ駄目だと言われてね。」
「確かに連邦からしたらその懸念は払拭しきれないか……。」
「だが我々の独立自体は問題なく出来る、それだけで充分だ。」
彼らには彼らなりのビジョンがあるのだろうジオン共和国に合流しないのもそれが理由だろうし。
「おっと話過ぎたみたいだな。我々のレディ達を待たせてしまっている。」
横目を向けるとアーニャにララァ、そしてイセリナが歓談している。
「そうだキャスバル総帥、俺とアーニャ正式に婚約したんだ。一応報告しておきますよ。」
「そうか、サイド6でプロポーズしたのだからいつかとは思っていたが。おめでとう。」
「結婚自体は数年先だけど、じゃなきゃ犯罪だ。」
「私も時勢が落ち着いたらイセリナと正式に結婚するつもりだ。君はどうするんだキャスバル?」
「……なぜ私の話になる?」
「そりゃあ二人の関係が曖昧過ぎるからじゃ?ねえガルマ大佐。」
「あぁ、秘書として置いていると言っても普通の人から見ればそれ以上の関係に見えるからな。実際どうなんだキャスバル?」
「まだララァとはそういう男女の関係ではないよ。大切ではあるがこういうのは手順を踏んで進めて行くものだろう?私の意志だけで決まるものでもないしな。」
それもそうだがララァは以前サイド6でそういう関係に見られたら逆に嬉しいと冗談めいてだが言っていたので進展は有り得るだろう。よくマザコン扱いされているがこうやって接してみるとララァの母性と言うのは確かに暖かさを感じるし。
「キャスバル代表、それにガルマ代表。私達とも少しよろしいかな?」
どっちの軍か分からないけど見るからに偉そうな人が二人に話しかける。そろそろ俺も引いた方が良いかな。
「じゃあキャスバル総帥、ガルマ大佐、俺は此処で失礼します。」
「待ってくれアンダーセン中尉。」
「ん?どうしましたキャスバル総帥?」
「それだよ、そのキャスバル総帥という言い方はそろそろやめにしてくれないか?私達はあの激戦を共に戦い抜いた同志だ、いつまでも他人行儀みたいに呼ばれるのも嫌なのでな。既にホワイトベースの皆は階級に拘らず呼び捨て合うようにしているんだがな。」
そう言えばZとかだと皆呼び捨てあってるな……。
「けど……。」
「それに君も言っただろう、これからの時代に必要なのは優れた指導者ではなく良き隣人だと。それならば他人行儀などやめてほしいものだな?」
「あぁー……分かりましたよ。キャスバル総……キャスバル。ダメだ、慣れるまで時間がかかりそうだなこれは。」
「ハハハッ、また会う時までに改善されていれば良いさ。それではまたなアンダーセン。」
さらりと呼び捨てにして去っていくキャスバル。同志か……そう言ってくれると嬉しいな。
「随分と和気藹々としていましたねジェシー?」
こちらも話を終えたのかいつの間にか隣にアーニャが戻ってきていた。
「そっちこそ、何を話していたんだ?」
喋り過ぎて喉も乾いていたのでグラスを1つ受け取りそれを飲みながら話を聞く。
「えぇ、時勢が落ち着いたら三人で合同の結婚式でも開いたらどうかと話を。」
「ブハッ……!ゲホッゲホッ!」
思わず喉が咽せる、そっちもそっちで何を話しているんだよ!
「私とイセリナさんは乗り気だったのですがララァさんだけはキャスバル総帥から未だ交際の話も無く残念だと言っていました、どうにかならないですかねジェシー?」
「あー……多分大丈夫じゃないか?」
少なくとも両者とも乗り気であるのならいつかはちゃんとくっつくだろうし。
「それにしても合同で結婚式だなんておかしな事を言うなよ。」
「あら、そうですか?平和をアピールするのであれば悪くはない提案だと思いましたけど。」
確かにネオ・ジオンの代表と連邦軍大佐が合同で結婚式を挙げればイメージ的には良いとは思うけど……。
「いずれにしてもまだ先の話だ。下手に浮かれ過ぎるなよ……。」
「ふふふ、貴方こそ恥ずかしがってますね?」
バレバレらしい、そう思いながら残りのグラスを飲み干すと、見慣れない男女が近づいてきた。
「失礼、お時間はよろしいかな?」
「はい大丈夫ですよ。」
そうやってアーニャと話すこの男の顔……何処かで見た記憶がある……誰だ?
「貴方がEC社の現代表のアンナ・フォン・エルデヴァッサーさんね。お父上には生前お世話になっておりました。」
この女性もどこかで……。ただ原作キャラならまず知らない訳がないんだが……。
「お父様と……?失礼ですがお名前をお聞きしてもよろしいですか?」
「えぇ、私はカーディアス・ビスト。ビスト財団の現当主です。こちらは妹で──」
「マーサ・ビスト・カーバイン、アナハイム・エレクトロニクス社の社長夫人です。今後ともご贔屓に。」
……っ。そうだ、感じていた違和感はイメージよりも若過ぎるから……!
それにしても何故ビスト財団の二人がアーニャに……!?
この出会いが後に悲劇を起こす引鉄となることを、今の俺はまだ知る由も無かった。