機動戦士ガンダム 紺碧の空へ   作:黄昏仮面

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幕間3 一年後①

 

 宇宙世紀0080年12月末、地球連邦軍軍事拠点【小惑星ペズン】

 

『それでは1300より模擬戦を開始します。フィーリウス隊は所定の位置へ。』

 

「了解しましたクロエ技師長。……ガイウス、バネッサ準備は良いか?」

 

「勿論ですよフィーリウス様、ご丁寧にガルバルディやリック・ドムを用意させてもらっているんです。恥ずかしい所をお見せする訳にも行きません。」

 

「しかしこうやって早々に古巣へと戻ってくる事になるとは思いもしなかったわね……。」

 

 一機のガルバルディに二機の僚機であるリック・ドムが追従する。その編隊機動は寸分乱れず見る人が見れば惚れ惚れする程である。

 

「ヴァイスリッターより各機へ、ミッション内容はデブリ帯に潜んだ残党部隊との交戦だ。敵の実力はエース級だ、侮らず実戦だと思い今までの訓練の成果を出せ。」

 

「べ、ベアトリス機了解。」

 

「セレナ機了解!」

 

 こちらの僚機には思わず溜息が出る、半年前に士官学校を卒業したばかりの新兵の女性士官が二人。

 ベアトリス・フィンレイ少尉とセレナ・エレス少尉、正直未だ実戦レベルとは言い難い。

 

「落ち着いて戦場を見渡せ、焦らず動けばMSの性能では引けを取らないのだからこちらにもチャンスはある。それにOSもあのアムロ・レイの実戦データが投影されている、かつての戦争中よりは遥かに容易に動かせるんだからな。」

 

 あのアムロ・レイの乗っていたガンダムNT-1 アレックスのア・バオア・クーまでの実戦データが収められたOSはそれこそ当時のジムやメガセリオン等とは同じ機体でも実装前と実装後ではその動きに倍近くの差が生まれたと言われる程の物だ。

 

「こ、これが……戦いの空気……!」

 

 ベアトリス機の動きはぎこちない、模擬戦とは言え敵機はジオン軍機とそのパイロット達なのだ。本物の戦闘と言っても差し支えない状況には流石に肝を冷やしているだろう。

 

「学んだことをちゃんと活かせれば……。」

 

 セレナ機は逆に訓練通りの動きを見せている。逆に言えばこの状況でも訓練の姿勢を崩せないということだ、実戦さながらの状況になれば混乱する可能性が高い。

 であれば、要はそれを指揮する俺となる。

 

「各機、隊列を崩さず俺の後ろに着いてこい。なぁに、最悪逃げ回れば死にはしないぞ。」

 

「は、はい!着いて行きますアンダーセン大尉!」

 

「訓練とは言え逃げる訳には行きません!死ぬ覚悟でも戦います!」

 

「セレナ機へ、良い心意気だ、だが死ぬ覚悟と実際に死ぬのとでは訳が違う。実際の戦場では生きる事を心掛けろ。ベアトリスもだ、良いな?」

 

「りょ、了解です!」

 

 やがて目標ポイントへと到着する、戦場特有のピリピリとした殺気が漂う。実戦からは遠ざかっていても流石はプロだ、侮れはしない。

 そして機体から発せられるアラート。

 

「隊長!3時方向のデブリ帯からビーム攻撃!」

 

 モニターからは光が放たれているが実際は『放たれた』様に再現された映像である。模擬戦なのだから流石に実弾は使用しないがその再現度は昔のシミュレーターの頃より遥かにリアルだ。

 

「当たったら本当に死ぬと思えよ!各機デブリを避け敵攻撃地点へと向かう!挟撃に注意しろ!」

 

 視界が狭い分伏兵を潜ませるには持ってこいの地形だ。

 だがこちらだってデブリを利用する事は可能だ、狭い進路から攻撃する手段もルートも限られるのだから。

 そしてビームライフルによる攻撃、あの3機の中でビームライフルが標準装備されているのはフィーリウス機であるガルバルディだけだ。となると僚機のリック・ドムがこの辺りで潜んでいてもおかしくは──。

 

「ア、アンダーセン隊長!ヴァイスリッターに敵機接近!」

 

「なに──!」

 

 咄嗟にビームサーベルを構え鍔迫り合いを起こす、そこにいたのはリック・ドムではなくガルバルディだった。

 

「この攻撃を防ぐとは……お見事です……!」

 

「ビームライフルはブラフか……!」

 

 考えてみればリック・ドムもツヴァイタイプだ、シミュレーション上でもビームライフルの一撃くらいは放つ事が可能なジェネレーター出力はあるって事か……!

 

「隊長!援護を……!」

 

「待ってセレナ!他の敵機の動きにも注意しないと!」

 

 ──マズい、フィーリウス機の攻撃に混乱して指示が一瞬出せなかったのが仇になった。二人は冷静な判断が出来なくなっている。

 

「ヴァイスリッターから各機へ!まずは落ち着け!ベアトリス機は周囲の警戒、セレナ機は俺の援護だ!」

 

 少なくてもある程度は冷静に周りを見れているベアトリス機の方が警戒に適している。

 セレナ機の援護で一度体勢を立て直す。

 

「ガイウス、一度後退する。プランBへ移行だ。」

 

「了解しました。……さて、鈴の音はどう鳴るのか聞かせてもらうとしましょうか──っと!」

 

「キャァァァ!」

 

 ガルバルディが後退すると同時に付近を警戒していたベアトリス機にリック・ドムが襲い掛かる、見事なチームワークだ……!

 

「落ち着いて機体を立て直せ!油断さえしなければ勝てない性能差じゃないぞ!」

 

「MSの性能差が戦力の決定的差ではない……、さて誰の言葉だったかな?」

 

「このぉぉぉ!」

 

 まるで遊ばれる様にリック・ドムに振り回されるベアトリス機、援護に駆けつけようとするも再びガルバルディと僚機のリック・ドムが行く手を遮る。

 

「将を射んと欲すればまず馬を射よ、良い言葉ね。この状況だとまず僚機を削げば……っ!」

 

 バネッサ機の狙いはヴァイスリッターではなくセレナ機だ、そして再びフィーリウス機のガルバルディが俺の行く手を遮る。

 こうなると最早打つ手無しだ。ガルバルディの相手に悪戦苦闘している所を僚機が各個撃破され全滅判定となり模擬戦が終了する。

 

「……こちらヴァイスリッター。模擬戦終了。」

 

『フィーリウス隊の皆さんお疲れ様でしたー!後で整備スタッフからお礼を差し上げますねー。……アンダーセン隊は後で覚えておいてください。』

 

 最初のトーンの高い声とは違い最後にドス黒い声が俺達を刺してくる。どうしよう、戻りたくない。

 

「隊長申し訳ありませんでした……。」

 

「わ、私達がお役に立てなかったばっかりに……。」

 

 二人が申し訳なさそうに謝ってくる、これが実戦であればこうやって会話をする事すら叶わないのだ。それを胸に刻まなければ。

 

「いや、俺が的確な判断を取れなかったのも原因だ。幾ら機体が良くてもそれに乗るパイロットが甘ければ意味がない。共に精進して行こう。」

 

『了解です!』

 

「それより今はクロエにどう謝り倒すか考えておいた方が良いぞ。」

 

「うっ……。」「ひぇぇ……。」

 

 俺もそうだが、これから落ちてくる雷にどう対処するか、それだけを考えながら現在俺達の拠点となっている【小惑星ペズン】へと帰還する。

 

 

 

ーーー

 

 

「何やってるんですか三人とも!」

 

 模擬戦後のミーティングルームで現在連邦軍を退役しEC社MS開発部の主任技師長となったクロエ・ファミール前技術曹長からお叱りの怒号が浴びせられる。

 

「荒れていますなクロエ技師長殿は。」

 

「せっかくの新型機テストモデルがジオンの旧型に負けたんだよ。彼女の怒りはごもっともでしょうガイウス?」

 

 フィーリウス隊の二人、ガイウスとバネッサからの的確だが痛過ぎる言葉。今まさにクロエが怒っているのはそれが一番の理由だろう。

 

「ベアトリス少尉!セレナ少尉!貴方達二人が乗っているEC-001グノーシスはメガセリオン由来の拡張性とジオンから得た技術を用いて開発した次世代機のテストモデルなのよ!?それが敵機にまともな一太刀も浴びせられずに惨敗したなんてアンナちゃんに知られたらどうするの!?」

 

 戦後、以前キャスバルがホワイトベース隊は階級に関係なく呼び捨て合うようにしたのと同じ様に、旧第774独立機械化混成部隊の面々もまた気兼ねなく呼び捨て合おうと言う事になり今ではクロエもアーニャの事をアンナちゃんと言うレベルにまでなっている。

 

「そして何を呑気にしてるんですかジェシーくんは!貴方が隊長なのに全く僚機の性能を活かしきれてないじゃない!」

 

「うぅ……返す言葉もありません……。」

 

「MSは機動兵器!動いてなんぼのシロモノなのに全く動かせてないじゃないですか!」

 

「クロエ技師長、それは狭いデブリ帯で奇襲を仕掛けた我々にも責があります。あまりアンダーセン大尉達を責めるのは……。」

 

 フィーリウス君からフォローが入る、滅茶苦茶嬉しい。

 

「いえいえ!フィーリウスさんを始めガイウスさんやバネッサさんにはある程度の近代化改修はしたとはいえ、1年前の機体を使わせている訳だから機体性能を補う為に地の利を利用するのは当然のことですから〜。」

 

 先程と打って変わっての猫撫で声だ。若い燕がどうのこうのと頭に浮かんだが言わぬが仏だろう。

 

「しかし実戦データを取るのであれば我々もグノーシスに乗るべきであったのでは?」

 

 ガイウスからの疑問、ごもっともなのだかクロエが新米二人にテストさせているのも理由がある。

 

「それじゃあ駄目なんですよガイウスさん。これは次世代パイロット向けに開発中の『新兵でも生き残れる』為に開発した機体なんです。それにアグレッサー部隊としてジオンエースとの戦闘を想定するのに三人の協力は必要不可欠ですから。」

 

「『リング・ア・ベル』がペズンを拠点にしてくれたお陰で我々も使い慣れた機体を使用できる、その点は感謝しています。」

 

「こちらとしては三人にパイロットとして仕事をさせるのは失礼かとも思っているんだけどな。あくまで三人は客人なんだから。」

 

「働かざる者食うべからずですからな、世話になってる以上我々もただ庇護を受けているだけとは行きませんよ。ねぇフィーリウス様。」

 

「その通りです。……それにこうやって模擬戦とは言え再びMSに乗れるのは存外気分が良いものです。」

 

 フィーリウス・ストリーム、ジオン公国軍少尉だった彼はこのペズンでペズン計画で開発されていたガルバルディαに乗っていた。あのア・バオア・クー決戦の最中、ズムシティで首都防衛大隊と作中通り戦っていたとの事だ。

 恐らくその時にランス・ガーフィールド中佐とも戦っているのだろう、MS戦闘中の気迫は鬼気迫るものがある。

 

「はぁ……。それにしても前途多難だなぁ。本当ならこの子はもっと善戦出来てもおかしくないのに……。」

 

 EC-001 グノーシス、EC社がメガセリオンをベースに新規開発した新型量産機である。名前の由来は古代ギリシア語の『知識』から来ており連邦軍とジオン公国の知識が複合されているからこそ名付けられたものだ。

 そう、この機体が開発される事になったのはジオニック社の一部吸収が出来たからだ。

 

 戦後共和国となったジオン公国がその戦時債務を返済するに辺り、国有企業であるジオニック社の売却をする事になった。

 本来であれば戦勝した側である地球連邦軍は、再度反乱を起こされない様にまた地球連邦の一部として吸収するべきなのだが、この戦争で財政的に疲弊した地球連邦軍にはジオン公国を再吸収する事が出来なかった。

 戦前のように併合してしまえばジオンの債務を連邦が抱え込む事になり財政破綻するのが目に見えていた事と、ジオンを追い込む事が更なる継戦を招く事に成り兼ねないという懸念、そして何より莫大な債務を抱えたジオン共和国では復興までに時間がかかると予想されていたからだ。

 

 しかしそれはジオン共和国の技術系企業の株式一斉売却という形で崩された。それを買収しようと名乗りを挙げたのが一年戦争期、MSの分野で言えば下請けに過ぎなかったアナハイム・エレクトロニクス社とエルデヴァッサー・コーポレーションなのだ。

 地球連邦軍ですら、ジオンの技術より10年は遅れていると言われていた分野を一企業が買収しようと言うのだ、連邦軍内は騒然とし急ぎ特使を派遣して連邦政府にジオニックの売却をするよう持ち掛けた。

 これにはアナハイムもEC社もお互い黙ってはおらず、結局価格はうなぎ登りとなりジオニックの技術は3分割される事になる。

 更にネオ・ジオンも残されたキャリフォルニアベース独自のMS開発技術という遺産を持ち出し同じ様に売却する事で、連邦軍の当初の目論見から外れジオン共和国とネオ・ジオン共和国は経済的に余裕が出来て早期に復興の兆しを見せ始めている。

 

 EC-001グノーシスはこう言った背景の下で生み出された地球連邦の技術とジオン公国の技術を組み合わせた次世代量産機の試作機で、現在アンナ・フォン・エルデヴァッサー大佐の指揮する【独立治安維持部隊リング・ア・ベル】が拠点として間借りしている小惑星ペズンでテストを行っている。

 性能としては現在通常の素体の状態であってもゲルググ相手であれば苦戦しない程度には高い。装甲などはチタン合金セラミック複合材など現在連邦軍の機体に幅広く使われている素材ではあるが使われている技術は連邦系とジオン系の両方が使用されており各種動作など従来のMSと比べれば高い運動性を持つ。簡単に言えばジムカスタムのEC社製といえば分かりやすいだろう。

 更に各種戦況に合わせて追加装甲、追加装備、パーツ交換など幅広い状況で利用できる様にEC社で各種部品をテスト生産しており、正式な量産認定さえ貰えればジム以上のバリエーション機が生み出されると予想している。

 

 これだけの機体が開発出来たのもジオニック、いやジオン公国の持つ設計開発支援システムの恩恵だろう。

 これは連邦でも導入されている技術でCAD/CAMシステムを高度に発展、ネットワークされた設計、開発、生産システムをパッケージングしたものであるのだが連邦軍の独自開発したMSは少なくその恩恵はまだ少ない。

 しかしジオン公国の物はザクからゲルググまで多くの機体の情報が収納されており、更にバリエーション機の技術も内包されている為、ある程度の情報を入力してしまえばシステムがそれらの適合性のチェックをして基礎設計まで勝手にやってくれるシロモノなのだ。

 

 アニメのZガンダムなどでアナハイムやティターンズが独自の機体を少ない時間で多数生産していたのもこれらのシステムの恩恵が裏であったからこそで今は俺達もその恩恵にあやかっている。

 まぁクロエはその出来に納得してはいない様だが……。

 

「とは言えベアトリスもセレナも士官学校を上がったばかりでまだ実戦のイロハもわからないんだ、そう焦る必要もないだろ?」

 

 性能自体は悪くないのだ、後は経験さえ身につけば……。

 

「戦場は成長なんて待ってくれないのはジェシーくんが一番分かっているでしょう?みんながみんなアムロ・レイにはなれないの。『次』を期待する前に死なれるのが一番嫌なのよ私は。」

 

 クロエの正論に言葉が詰まる。その通りだ、俺やアーニャも運が良かっただけで今この場にいる事すら奇跡とも言えるほど死線を越えてきたのだ。次の戦いで生き残れる保証なんて何処にもない。

 

「しかしジオンのザクとて一日にして成らずの代物でしたからなぁ。こればかりは機体もパイロットもテストを重ねる他ないでしょう?」

 

 ガイウスからもフォローが入る。確かに幾ら基本性能が良くても未だテスト中の機体ではその性能を十全に引き出せるかは実際は怪しい、机上で完璧でも実際に動かして見ると……というパターンはそれなりにあるし。

 

「はぁー……やっぱりそうですよねぇ。うーん……色々と思う所はあるけど今回はお開きにしましょうか。ベアトリス少尉もセレナ少尉もシミュレーションは怠らないように。」

 

「了解しました!」「了解です!」

 

 クロエに対する敬礼だけは一人前になってきたなと見慣れた光景に少し心が和む。

 

「フィーリウス隊の皆様もありがとうございました。ゆっくりお休みになってくださいね。」

 

「ありがとうございますクロエ技師長。行くぞガイウス、バネッサ。」

 

「了解です!」

 

 去っていく新米二人とフィーリウス隊を見送り、ミーティングルームには俺とクロエの二人が残った。

 

「はぁー……。」

 

「流石にショックだったか?」

 

「仕方ないって言うのは分かっているのよ……。新型のカタログスペックが幾ら良くたってエースパイロットの乗る使い慣れた機体は少しの性能であればそれを凌駕する事が可能なのは。今や神話扱いされるくらい偶像化されているガンダムだって、性能自体はゲルググやジムスナイパーⅡより劣るくらいなのよ?」

 

 それは分かっている、ガンダムの活躍は実際の所はアムロやカイ、キャスバルのパイロットの技量に寄るところ大きい。

 こちらはニュータイプというのもあるが、旧型機でも歴戦のエースパイロットが乗ればそれこそ自分の手足同然にまで動かすのだからクロエが心配するのも分かる。

 

「それに新米二人も、まさか両方女の子だとは思ってなかったからな俺も。」

 

「一週間戦争や一年戦争で民間人も含めて大勢死んだし、一年戦争でもパイロットは男性が多かったもの。比率で言えばそれまで非戦闘員だった女性の方が多く生存していたのもあるし……。それに今の私達じゃあねぇ。」

 

 独立治安維持部隊等とは言われているがリング・ア・ベルはティターンズやガンダム00のアロウズと言ったような組織とは違い大きな権限が与えられているわけではない。実際はパトロール部隊レベルでの独立行動が許されているくらいだ。

 アーニャが長となっている以上、急速で発展しているEC社に対して連邦も便宜を図る必要があるが、かと言ってたかが16の少女に……という思惑もあるのだろう。大きな権限は与えない代わりに好きにやれと放逐されている感じが否めない。

 このベアトリスやセレナと言った新米二人も士官学校の成績は良くも悪くもない、言ってしまえば送ってしまっても構わない人材だからここにいるのだ。

 本当なら原作に出てくるような名有りのエースパイロットが欲しい所なのだが、流石に終戦後の残党対策や連邦軍内での派閥のゴタゴタなどでそう言った人材はまず送られて来ない。向こうからしたら、士官学校卒の少尉二人を送った事すら感謝しろと言うレベルだろう。

 

 まぉ今の俺達にとってそういう風に無碍に扱われるの逆に好都合だ。連邦が接収したは良いがまだその存在価値に気付いていなかった早期にこのペズンにさっさと居座る事が出来たのだから。

 

 この小惑星ペズンはペズン計画と呼ばれる独自のMS開発をしていた場所で、既にその技術は終戦前に本国に送られていてそれも連邦軍が接収した今では技術的な価値としてはそこまで高くないのだが、残った施設などは俺達が利用するには充分なものだった。

 それに元々ペズン計画のパイロットであったフィーリウス達がいた事で施設内も早くに熟知する事が出来、こうやってガルバルディも調達出来たりしている。

 とは言ってもペズン全てが俺達の管理ではなく普通に連邦軍本体もいる。

 完全にリング・ア・ベルの権限で使えるのは全施設の30%有るか無いかくらいだ。

 

「だがこうやって機体やパイロットを鍛えていると、774部隊の頃を思い出すな。」

 

「そうね。にっちもさっちも行かない機体とそれをテストするパイロットと……、なんだか懐かしいわ。」

 

「一年前とは思えないくらいには何もかも進化したな。」

 

「えぇ、この前ザニーヘッドの当時のデータをあの子達にシミュレーションで使わせたら凄い驚いてたわよ。」

 

「そりゃそうだ。今のOSなら当時それを使うだけで新米でも鬼神のエースになれるぞ。」

 

 それくらい昔と今では技術の差が大きい。だからこそパイロットも簡単にMSに乗れるようになったがシステムに頼り過ぎれば逆にそこを突かれる可能性が高いので結局訓練は必要なのだが。

 

「こんな使い勝手の悪い機体で戦ってたアンダーセン大尉ってすごーい!みたいな反応よそれこそ。見習うべきはもっといるのに……。」

 

「おいおい、そこは素直に褒めてくれよ。昔と比べたらそれこそ自分でも成長したと思ってるんだぜ?」

 

「ジェシーくんは基本ムラがあり過ぎるのよ、実戦でアンナちゃんとか守る時はそれこそエースに引けを取らないくらい頑張ってる時があるけど、こうやって訓練してると本当に同一人物か怪しく感じる時があるわ。」

 

「うっ……。」

 

 酷い言われ様だが、確かに誰かを守る為の戦いと比べると訓練じゃ気迫が違うのも間違いではないかもしれない。

 

「あーあ、早くグリム君戻って来ないかしら。データを取るならグリム君が最適過ぎるのよね。アンナちゃんもカルラもオールラウンダーとは言えないからテスト結果に偏りが出ちゃうし。」

 

 現在グリムはアーニャが以前打診していた促成士官教育の候補生としてジャブローで教育を受けている最中だ。本来ならララサーバル軍曹も送っておきたかったがあの人は性格に難が有りすぎるのと本人が士官教育に前向きでは無かった事も踏まえ出向していない。

 それに伍長とは言えグリムの成長の度合いはアムロらホワイトベース隊には流石に劣るが目を見張るものがある、だからこそアーニャもグリムを推薦したのだ。

 

「アーニャの護衛にジュネットもララサーバルも今は地球だしな。やっぱりフィーリウス隊の三人にも乗ってもらってテストしながら調整して行くしかないんじゃないか?……それか『システム』の完成を急がせるかだ。」

 

「私は『アレ』のコンセプト自体は否定しませんけど……、あまり彼女に負担をかけたくないわ。」

 

 俺達が『システム』と呼び、現在基礎理論を確立させようとしているもの。

 『Newtype Assist System』俺達はNT-Aシステムと略している。

 ニュータイプの操作するMSの行動パターンをOSに組み込み、システムを起動させる事で刹那の判断が迫られる状況でも最適解の動作を行いパイロットの補助を行う事で生存確率を上げる事を目的としている。

 

 ……つまりはEXAMシステムの本来想定された使用方法だ。

 ただEXAMのようにニュータイプの感応波まで組み込む事は実質不可能であるし、そんな人柱みたいな事は出来ないので完全に機械化された補助システムとしての実用化を目指している。

 それの協力を申し出たのは……、他でもないEXAMシステムと因縁を持つマリオン・ウェルチ本人であった。

 

 あの戦いの後、俺はサイド6へ一度訪れマリオンを探した。

 そして俺が訪れるより少し前に、既にグレイとヘルミーナがサイド6に訪れマルグリットの死を伝えていたので、俺が彼女をなんとか見つけ再会した時は酷く泣かせてしまったし詰られもした。

 しかし、その後で彼女は言ったのだ。「私に誰かの命を助ける事ができる仕事をさせてください。」と。

 軍人の俺にそれを告げるという事はつまりはそういう覚悟で言っているのだ。彼女を戦場に二度と戻らせたくはないと思っていたしそう告げたが彼女は譲ろうとしなかった。そこにはニムバスやマルグリットを失ったが故の彼女の願いがあったのだろう。

 結局は押し切られ、アーニャに相談してあくまでEC社のテストパイロットとしてジオン技術の提供する事で、協力と言う形で彼女を引き入れる事となった。

 

 そして計画されたのが暴走しないEXAMを目標にした、パイロットをサポートするオペレーションシステムであるこのシステムだ。

 残念ながらEXAMシステム自体が全て損失、またデータベースからは全ての機体のデータが抹消されているので1からのスタートとなり進捗はあまり良くなく、まだまだ開発には難航している。

 

「アムロの戦闘データから得たOSもそれまでとは違う程のMSの動作を可能にしたけど、これが完成すればそれにプラスされた動きが可能になる……。それこそクロエが言っていた様に新兵が死なないMSにだって。」

 

「私が怖いのは貴方が言っていた様なEXAMシステムがその人間諸共取り込むかもしれないって言うオカルトめいた現象とシステムの暴走よ。それこそ私達は以前それで全滅するかもしれないくらい危険な目に遭ってる訳だし。協力してもらってる以上マリオンちゃんにだって軍部の目が行かないように配慮しなくちゃいけない。結構な綱渡りしてるのよ私達?」

 

「仮にシステムが完成したとしてもEC社製のMSにだけ使用するのかって話にもなるしな。俺達だけで使用するとなったら反乱の疑いを持たれてもおかしくないものな。ジオンのパイロットの協力でグノーシスもシステムも作っている訳だから。」

 

 それこそ連邦軍の施設で元ジオン公国兵が模擬戦を行なっている事すらバレたらヤバい案件だ。EC社のテストパイロットの出向という形で許されてはいるが、バレたらそれこそ内乱でも企ててるかと思われるだろう。

 

「はぁー……世の中を良くしたいと思って行動しても、疑念一つで逆に世界を混乱させるかもしれないと思われるのは怖いもんだな。」

 

「でもそういうものでしょ、ジオン公国だってサイド3の人間にとっては世界を良くするつもりでやった事だと今でもそう思ってる人間が大勢残ってるんだから。」

 

 未だにアースノイド憎しとギレン・ザビを盲信しテロ活動を行う残党がいる。彼らにとってはスペースノイド独立という大義の旗があるのだろうが、実際はただのテロ行為にしか過ぎない、世界を本当に変えたいのなら暴力に頼らず平和な方法で道を目指すべきなんだ。

 原作とは違いネオ・ジオン共和国だって存在するのだから、幾らでもやり方はあるはずなのに……。

 

「アーニャ……お前ならこの世界をどう変えてくれる?」

 

 現在地球に降りている彼女は成人後に地球連邦議会の議員となるべく世界各地を今の内から巡っている。自分の名前を売ることもそうだが、見識を広げておきたいのもあるのだろう。時間ができたら宇宙や地球どちらにも積極的に通っている。

 そして今回地球に降りているのは親父が亡くなってから一年というのもあり、かつて親父が住んでいた、そして今は『彼女達』が暮らしている場所に行っているのであった。

 

 

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