機動戦士ガンダム 紺碧の空へ   作:黄昏仮面

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幕間4 一年後②

 

「隊長ー!もうそろそろ着きそうだよ!」

 

 書類を整理している最中にカルラからの報告が入る、外を見ると青く輝いた海が一面に広がっている。

 

「ふぅ、書類ばかり見ているのも問題ですね。こうやって綺麗な景色を見ることを疎かにしているのは良くない気がします。」

 

「まぁ隊長は忙しいから仕方ないよ。アタイが変わってあげられれば変わってやりたいけど5秒もしない内に頭が痛くなりそうだからねぇ!ハハハッ!」

 

「ふふっカルラらしいです。さて、あの子達に会うのにいつまでも仕事モードではいられないですからね。私も気持ちも切り替えておきましょうか。」

 

 書類を纏めて整理し準備を済ませる。

 今私達がいるのは欧州の小さな港町だ。一年戦争中は軍とは殆ど無縁の場所で戦争中も被害を殆ど受けていない。

 

「二人とも着いたぞ。」

 

 運転していたジュネットが車を止める。其処には小さな港町にしては大きな家があった。

 

「マム!お客さんが来たよー!」

 

「あー!リトルマムだ!こんにちはー!」

 

「はい、みなさんお久しぶりです。元気にしていましたか?」

 

 車のドアを開くとすぐさま子供達が駆けつけてくる。そう、ここは『彼女』の住む孤児院だ。

 

「こら!お前達!お客様には礼儀正しくといつも言っているだろう!」

 

「いえすマムー!」

 

「まずそのマムって呼び方を止めろっていつも言っているじゃないか!まるで軍隊のままだよこれじゃあ。」

 

「アッハッハ!相変わらず子供達に愛されてるじゃないかシーマの姐さんは!」

 

「ララサーバル!そもそもアンタがアタシの事をマムと呼んだからこの子達にも移っちまったんじゃないか!責任取りな!」

 

 シーマ・ガラハウ、前ジオン公国軍海兵隊中佐だった彼女は戦争後軍事裁判に掛けられコロニー住民に対する毒ガス攻撃、更にその他の汚れ仕事など本来であれば死刑を言い渡されてもおかしくはない罪状があったが、ソーラ・レイ破壊に貢献し地球連邦軍を結果的に勝利に導いた事と、彼女自身海兵隊司令のアサクラ大佐に毒ガス攻撃と知らされず実行させられた事実もあり特赦として死刑は免れ海兵隊員含めて軍の監視の元、この地で暮らす事を許された。

 

 そしてジェシーの計らいもあり、かつてサイド6に極秘裏に建てられた研究所で、ジオン公国により非人道的な実験をさせられていた身寄りのない戦災孤児となった子供達をエルデヴァッサー家が養子として引き取り、孤児院を設立して彼女達がそこで子供達を養育する事で社会復帰も含めて彼女達の傷が癒える様に支援をする事になった。

 

「それにしても今日はどうしたんだい?軍の査察ならまだ先だと思っていたけどねぇ?」

 

「今日は軍の仕事とは関係ありませんよシーマさん。……お義父様に会いに来ました。」

 

「……そうか、もう一年も経つんだねあれから。」

 

 ダニエル・D・アンダーセン少将、戦死した事により死後二階級特進で大将となりその最期を知る者からは死して尚も尊敬の念を抱く者は多い。それは私達も同じだ。

 

「あの戦いの時、途切れ途切れでしか聞こえなかったけどあの艦長はアサクラなんかよりもよっぽどコロニーに住む人間の気持ちを考えて喋ってくれていた。惜しい人を亡くしたもんだね……。」

 

「えぇ……。けれどお義父様の残してくれた未来は消えずに残っています。」

 

「リリー・マルレーンにいた奴らも捨て身であの艦が守ってくれたから今も生きてる、本当に助かったよ……ありがとう。」

 

 帰るべき(マハル)を失った彼らではあるけれど、今はここが新しい(マハル)となった。

 そう、この孤児院の名前はマハル孤児院。彼女がそう名付け、子供達がそう呼ぶ家なのだ。

 

「ねぇ!リトルマム!僕達ともお喋りしようよ!」

 

「私が先だよー!」

 

「こら!お前達、お嬢はまず墓参りに行くんだ、案内してあげな!」

 

「はーい!」

 

「お嬢……。」

 

「ハハハッ、実際良家のお嬢様なんだから間違いじゃないだろ?アタシはそろそろ漁から戻ってくるコッセル達が持ってくる魚でも使って料理して待ってるからゆっくり行ってきな。」

 

「ふふっ……はい、行って来ます。」

 

 子供達に手を引かれながらカルラとジュネットの二人を連れ、岬に建てられた二つの墓に訪れる。

 

「お母様……、そしてお義父様。お久しぶりです。」

 

 ここが母が亡くなった土地である事を、戦後ゴップ叔父様から聞かされアンダーセン艦長もまたこの土地で隠遁していた事をその時まで私は知らなかった。

 父も祖父も、母が亡くなった理由を話してはくれなかったし私も病死か何かだとずっと知ろうとせずに生きていた。私を心配させたくなかったからだろう。

 そして二人が、かつて私とジェシーが交わした様に騎士の誓いを立てていた事も。ゴップ叔父様はそれを分かっていてジャブローで同じ事をさせたのだろう。

 この土地に弔うべきだろうとジェシーが言い、今はこうして二人が生きた証としてここに残されている。本当は彼も連れて行きたかったのだが職務の都合もあり残念ながら一緒には来れなかった。

 

「艦長!シショーもみんなも元気にやってるよ、だから艦長は心配しないで良いからね……!」

 

 いつもはにこやかなカルラも、今は目に涙を浮かべている。ジュネットに至っては声を殺して先程からずっと泣いていた。

 

「うぅ……!親父さん……!」

 

 本当に父親の様に慕っていたジュネットにとっては最期の時に共に征く事ができなかった無念は大きいだろう。しかし私達生き残った者はいなくなった者達の事を、その志を忘れずに語り継いで行かなくてはならない。もう二度と同じ事を繰り返さない為にも。

 

「お母様……お義父様……貴方達の目指した未来に、私達は辿り着いてみせます。だから安心して眠っていてください……。」

 

 各々の弔いを済ませマハル孤児院に戻ると食欲をそそる匂いが漂っていた。

 

「さあさあ男共が手によりをかけて作った昼食だよ、たらふく食べて行きな。」

 

「へぇー、こりゃ美味そうじゃないか!軍人の作るメシってのはどうしても大味になりそうなもんだと思ってたけどやるねぇ!」

 

「そりゃ俺達も一年中ガキ共のメシを作ってりゃこうなるってもんさ、育ち盛りに栄養の偏ったもんを食わせる訳にも行かねえからなぁ。」

 

 シーマさんの片腕となり元海兵隊員達と共に力仕事を一手に引き受けているコッセル元大尉がそう発言する。そこには何の嘘偽りもなく子供達を心配する気持ちが溢れていた。

 

「美味しいです、本当に……。」

 

「一年前まではこうやってメシを作るのにも一苦労だったんだよ。あの子らと同じで一つ一つ成長して行く、当たり前の事だけどやって見ると苦労することばかりさ。」

 

 礼儀正しく食事を取る子供達を見つめながら、シーマさんは話を続ける。

 

「ねぇお嬢、もしも……もしもの話さ。この子達が将来何かをやりたいと思う時、その時に軍人になりたいとか言っても止めてやらないでくれるかい?」

 

「……何か思う所があるのですか?」

 

「この子らはフラナガン機関っていうニュータイプを研究する施設で実験されていたのは知っているだろう?中にはクスリ漬けにされたり、洗脳みたいな教育をされて今でも悪夢にうなされている子達も多い。」

 

 報告書を見て、そしてこの子達と何度も会っていてそれは知っている。素養がある者……かつてのグレイさんやヘルミーナさんのようなパイロットとして活躍できた者はまだマシな方だった。

 中には戦争中と言えど目を疑いたくなる様な実験をし良くて廃人、悪くて死亡と言った事例が数多く存在していたのだ。

 

「その影響で戦う事だけが優秀な子も多いんだ……、道がそれしかないって分かった時にこの子達の道を消さないで欲しい。戦争に苦しめられた人間が戦争をやるのを許して欲しいなんておかしな話だけどね……。」

 

「いえ、シーマさんの言うことも分かります。本当なら可能性に満ち溢れた子供達の道を閉ざしてしまったのは他でもない軍人の私達なのですから。」

 

 戦場でのみ稀有な能力を発揮する事が出来たり、MSなどのマシーンにのみ直感的に構造を理解出来たりなど特殊な能力を持った子も多い。

 その子達の道は決して大きく広がってはおらず、望まずとも選ばざるを得ない未来が待っているかもしれない……。

 

「けれど、この子達が大きくなった時……戦場なんてない世界にしておきたいと私は思っています。MSだって戦場で乗るだけが仕事ではありませんからね。」

 

 現在色々な場で作業用としても活用され始めたりなど兵器以外の使用も多く模索されている。戦うだけが道ではないしそういう未来にはしたくない。

 

「期待しているよお嬢。それにしても今回はあの色男は来なかったんだね?」

 

「ジェシーですか?今はペズンで試作機のテストで忙しい筈ですよ。」

 

「あの男も不思議な男さね……、以前サイド6で会ったのは間違いないのに酒を飲んでたせいで記憶に全く無いだのほざいていたけど間違いなくアイツはソーラ・レイを知っていた……それに未来の事も多少の差異はあるけど的を得ていた。」

 

 彼は身に覚えがないとか酒を飲んでいたから妄言を吐いていたんだろうと言っていたが、見るからに焦っていたので恐らく何かしら心当たりはあったのだろう。フィアンセと言えど彼については謎めいた部分が少しばかりあるにはあるのだ、疑いたくはないけれど。

 

「シショーも変な所で勘が鋭いからねえ、未来でも予知出来るんじゃないのかって思う時は確かにあるよ。」

 

 そう、確かにジェシーは何処か未来予知に似た先読みの能力に長けていると思う。ジオニック買収にしてもそうだったけれど、それ以前からずっと何かあると的確な助言をしてくれる。

 

「そういう意味ではジェシーはニュータイプに近いのかもしれませんね、彼は否定しますけれど。」

 

 彼自身は頑なにそれを否定するけれど、私は彼の様な常識に囚われない視野を持った人間こそニュータイプと呼ぶに相応しいと思っている。今必要なのは前時代的な古い視野を持った者よりも、新しい視野を持った者なのだ。だからと言って古き良き伝統や価値観まで捨てろとまでは言わないが。

 

「それでお嬢達は今回はどれくらい地球にいるんだい?」

 

「残念ですが明日には此処を経ちジャブローに向かう予定です。連邦軍も軍の再編に追われていますから。」

 

「そうかい……、なら今日は子供達と遊んで行っておくれよ。この子達もお嬢に会えて嬉しいのさ、相手してくれると助かるんだがねえ。」

 

「ええ勿論。偶にはシーマさんからお母さんを奪うのも悪くはありませんね。」

 

「ハハハッ、言うじゃないか。お前達!リトルマムが遊んでくれるって言ってるよ!綺麗に食事を終わらせて片付けしたら遊んでもらいな!」

 

「あいあいさー!」

 

「まるで小さな海兵隊だねこの子らも、よーし!隊長だけじゃなくアタイとも遊んでもらうよガキんちょども!」

 

「まずアンタは綺麗に食事を終わらせなララサーバル!子供達より食い方が悪いったらありゃしないよ!」

 

 笑い声が響く、辛いことの多かった戦争ではあるが今こうやって笑い合える奇跡に感謝し続けなければならない。そして二度とこの微笑みを失わせないと再び心に誓う。

 

 

 

ーーー

 

 

 翌日マハル孤児院を離れ、近くの中継基地からミデアに乗り換えジャブローへと向かった。制空権を気にしなくなった今では昔よりも少ない時間でジャブローへと辿り着ける。こうなると争いからは遠ざかった様に見えるが、未だに地上ではジオン残党軍が点々と活動しており油断をしていれば狙い撃ちにされる可能性もある。

 警戒はしていたが杞憂で済み、ようやくジャブロー本部へと到着した。そのままその足で総参謀本部へと出向する。

 

「アンナ・フォン・エルデヴァッサー大佐、ただいま到着しました。」

 

「うむ、ご苦労だったね大佐。座りたまえ。」

 

 既にゴップ叔父様を始めとした連邦軍幕僚達が席を並べている。

 今回私が呼ばれた理由は戦後計画された連邦軍再編計画の一環でだ。私は将校ではないが財界での大きな地位がある事で、この連邦軍幕僚会議に参加することを許されている。

 

「一年戦争から早いもので一年だ。未だジオン公国軍残党の活動はあるが戦後の復興としては無難に動けてはいる。これもコーウェン中将の開発したメガセリオンあっての物だな。」

 

 各方面で活動するジオン残党に対してジム2機と局地用装備を施したメガセリオン2機の小隊で行動する事が多いのだが、この局地用装備を施したメガセリオンが先陣を切りそれをジムが援護する事で自軍の損害を最小限にして戦果を得る事が出来る。これが可能になったのもコーウェン中将がメガセリオンを早期に開発したからこそだ。

 地上戦に特化したグフをモデルにしたメガセリオンは地上での機動性に優れ、それらが更に砂漠などの環境に適した装備をする事で寄り合い所帯となっている地上残党軍のMSに対して優位に保てるのも大きい。

 

「有難きお言葉です。」

 

「だが流石に一年前の機体だ、マイナーチェンジして行くにも限界があるし優位に立てる状況も多いが損害が0とは行かない。軍事費も考えると残党に対して圧倒的になるレベルのMSも欲しい所だな。」

 

「残党もそうだがアクシズへ逃亡したキシリア・ザビについても考えねばなりませんぞ。先遣隊を何度か向かわせたは良いが全て返り討ちに遭っている。向こうから攻めては来ないにしても警戒はしておかねば。」

 

 幕僚達は思い思いに発言をし続ける、それを制したのはゴップ叔父様だ。

 

「まぁ落ち着きたまえ。一つ一つ議題を片付けなくては話が進まない。まず一つ、連邦軍再編計画にあたり減ってしまった士官を補充する為に新兵を多く採用する様にはしているが、訓練が終わるまで数年は使い物にならない。その為にエルデヴァッサー大佐の立案した促成士官教育プログラム、下士官で優れた者を士官へと繰り上げるシステム……思いの外成果は良い、急場凌ぎとしては妥当なものだったよ。」

 

「ありがとうございます。」

 

「次に現行機のアップデートだ。現在残存するジムやメガセリオンを継続して使用、或いはマイナーチェンジで当面を凌ぐ事の不安……、確かに重要な問題だ。ジムもメガセリオンも安価ではあるが決して安過ぎる訳では無いのは確かだ。残党相手に消耗し同型機を補充するのでは物資においても人員においてもロスが発生する。これはあまりよろしくはない。」

 

 後方支援などで物資補給が専門だった叔父様にとってはやはり懸念する案件だろう、可能であればそれらを支援機に回して最新鋭機で制圧するのがベストな方法だ。それなら損害を今より少なく抑えられるので新型機を開発してなお最終的な損失は現状維持するより少なく出来る筈だ。

 幕僚の一人が挙手し発言を遮る。

 

「戦後ジオン公国の技術を接収した事で我々が彼らより10年はMS開発に関する認識が遅れているのは事実です。ですが将軍、我々の軍事費とて無限ではありませぬ。余力を残し、尚且つ進めるべき開発技術は絞り、委託可能な物は委託させれば良いと考えます。」

 

「彼の意見に賛成ですな、ジオン公国の中でも最高機密であるニュータイプ関連の技術等は我々が推し進め、MS開発はジオニックを一部吸収し急成長しているアナハイムやEC社に任せればよろしいのでは無いか?どうかなエルデヴァッサー大佐。」

 

 ジャミトフ・ハイマン准将が彼の意見に賛同しこちらを窺う。

大陸復興公社総裁と、地球の賭博組合であるインターナショナル国債管理公社総裁も兼務している彼なら軍事費に掛かる費用が減ればその分地上の復興に資金が流れるので外部委託には賛成派なのだろう。

 

「そうですね、現在我々EC社でもそのノウハウを活かして鋭意開発中ではありますが、まだ完成とまでは行かないのが現状です。」

 

 現在開発中のEC-001グノーシスも殆ど完成の域には達しているがテストするのと実戦を行うのとでは実際の性能に差が出てくるだろう。それらの調整も含めれば本当の完成と言うにはまだまだ程遠いのが現実だ。

 

「新型量産機については、後はアナハイムの動き次第と言った所か。当面はマイナーチェンジで個々の戦局に対応するしか無さそうだな。さて、次はアクシズの問題か……。」

 

「これについてはアクシズのキシリア・ザビが一切の交渉を行なって来ない時点で事実上の戦争継続状態になっていると考えてよろしいかと思われますゴップ将軍。先程の話にもありましたが先遣隊は交渉の余地もなく撃破されておりこの一年大きな行動を起こして来ないとは言え無視できる程の勢力では無いのですからな。」

 

 連邦宇宙軍のグリーン・ワイアット大将がそう告げる、ア・バオア・クーの戦いでギレン・ザビから離反して新生ジオン公国と名乗りアクシズに逃亡したキシリア・ザビはこの一年大きな軍事行動すら起こさなかったが、それでも偵察に来た部隊には容赦なく殲滅を行ってきた。

 未だに地球圏に対して未練がある事は窺える、このままずっとアステロイドベルトにいるつもりはない筈だ。

 

「早急に残党軍を殲滅して地球圏に安定をもたらさなければキシリア・ザビが侵攻を開始した時に呼応する勢力も出てくるだろうな。やはり急ぐべきは新型量産機となるか。」

 

「お待ちくださいゴップ将軍。新型量産機もそうですが、新たに連邦軍の象徴となるMSを開発しその威光を持ってジオン残党軍を威圧する……その計画も私は提案します。」

 

「コーウェン中将、その物言いだと既にビジョンはあると見える。話したまえ。」

 

「ハッ、一年戦争でアムロ・レイ、カイ・シデン、そしてネオ・ジオンのキャスバル・レム・ダイクンが搭乗し、その圧倒的な力でジオン公国を恐怖に陥れた英雄的MS……ガンダムの新型機開発計画です。」

 

「新型ガンダム開発計画……?」

 

 確かにガンダムはこの一年戦争において大きな戦果を上げた。しかし行き過ぎた示威行為は地球市民だけでなく他サイドの不安を煽る可能性も高い、リスクは高いようにも思えるが……。

 

「余程自信がある様に思えるが。」

 

「先程の話にもあったように新型量産機開発の為の試作機にもなり得ます。V作戦の現行版と言っても差し支えは無いのですよ。新型主力機の為のデータ取りとなる試作ガンダム、それで残党軍を萎縮出来れば儲け物ではありませんか?」

 

「成程な、コーウェン中将の考えも一理ある。ふむ……ならこうしよう、コーウェン中将が主導となりアナハイム・エレクトロニクスと協力して新型ガンダム開発計画を実行し次期主力MS開発の為のデータを多く取ってもらう。」

 

「ハッ、お任せください!」

 

「話にはまだ続きがあるぞコーウェン中将、アナハイムだけに甘い汁を吸わせるのも問題があるだろう。EC社にも同じく新型ガンダム開発を命じる、互いに競わせる事でより高性能な機体を生むことが可能となるだろう?」

 

「むぅ……しかし……!」

 

「君の考えた計画だ。主導したいのも分かるが連邦軍の利益を考えれば妥当な判断だと思うがね?他の者はどう思う?」

 

 幕僚達は少しの間考え込むが答えは殆ど同じだろう、仮に私が同じ立場であれば選ぶ手は一つだ。一人だけ利を得させるか、二人に利を得させるか或いは両者共に倒れる事を狙う……つまりは。

 

「私はゴップ将軍の意見に賛同しますぞ、連邦の得となるならアナハイムとEC社の両者を競わせるべきだ。」

 

「私も異議なしだ。」

 

 幕僚達が次々と賛同して行く、この中で本当に計画の成功を願ってる者は一人もいないだろう。コーウェン中将もまた此方を怨むように睨みを効かせている。

 其処には一年戦争時の温厚だった姿は最早なく、政争の敵を見る目付きそのものだった。

 

「であればコーウェン中将がアナハイムを、エルデヴァッサー大佐がEC社を先導しMS開発計画を遂行せよ。此度の連邦軍再編計画の会議は以上を持って終了とする。最後に一つだけ、私もそろそろ軍部を去る頃合いだ、これからは私以外の者が主導となって連邦軍を導いてくれる事を祈る。以上だ。」

 

 各々が深く頭を下げて去って行く。最後に残った私も場を去ろうとした時、叔父様から引き止められた。

 

「待てアンナ。」

 

「……叔父様?どうかされましたか。」

 

「まぁ座れ。私がお前に最後にしてやれる事だ。」

 

「最後に……。」

 

 その言葉に少し胸が締め付けられる。

 

「そう慌てるな、身体の何処も悪くはないのだからまだまだ死なんぞ。最後にしてやれる事というのはこの連邦軍の中での話だ。」

 

「……。」

 

「先程のガンダム開発計画、個人的にはあまり賛同はしたくなかったがな、コーウェン中将の手前もあるから無碍には出来ん。それは分かるな?」

 

「はい。」

 

「EC社にもそれを押し付けたのは私の我儘だ。少しでもお前の為になればと思ってな。お前達がペズンで量産機の開発をしているのは知っている、ガンダム開発などしなくても次期主力MSは完成するだろう。だがそれだけではお前に箔は付かん。それにアナハイムの力は大きい、お前が思っている以上にな。」

 

 叔父様はアナハイムの闇の部分も知っているのだろう、私が想像する以上の何かがあるという事だ。

 

「だからこそ良くも悪くも目立つ必要がある、未だ17の小娘と舐められているのも戦果だけでは足りぬと言うことだ。」

 

「それは承知しています。」

 

「このチャンスをモノにして見せろ。そうすればお前の事を小娘と侮る者もいなくなる。そしてお前が導きたい未来を築き上げれば良い。」

 

「ありがとうございます叔父様……。私はずっと叔父様に支えられてここまで来れました。本当に感謝しています。」

 

「うむ……今は亡きカールとダニエルの為にと思ってやってきたが、そろそろお前はお前の道を歩む歳になった。私がいなくてももう大丈夫だろう?アンダーセン大尉もいるのだからな。」

 

「はい、彼と共にこれからは歩んでみせます。」

 

「うむ。期待しているぞ。」

 

 私には三人の父がいる、その三人がいてくれたから今の私がある。

 その人達の恩に報いる為にも、私は決して歩みを止める訳には行かないと心に誓った。

 

 

 

 新型ガンダム開発計画、それが私とジェシーの運命を大きく引き裂く事になるとも知らずに。

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