機動戦士ガンダム 紺碧の空へ   作:黄昏仮面

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幕間6 今日の良き日に

 

 新型ガンダムの開発もスタートし、リング・ア・ベルとしての活動も順調、グノーシスという新型量産機開発も空いた時間で並行しながらテストを続け、NT-Aシステムも今はまだ日の目を見ていなかったリョウ・ルーツの母ミズ・ルーツを引き抜き、人工知能を専門としている彼女の知識を取り入れ、人工知能にマリオンの操縦するMSの操縦パターンを学習させていくという方法で何とか形になり始めた。

 

 全てが順風満帆、歴史的にはどうなるのか分からない状況だが俺の周りだけを見るのであれば、今のところは問題も起きる事なく進んでいると思っても良いだろう。

 

 しかし宇宙世紀には幾重にも表に出ることはない事件が多く発生している、俺はアニメやゲームなどの知識はある程度有るが正確な時系列を把握している訳じゃないので干渉出来ることにはしたいが中々難しいのが現実だ。事件の起こる年は知っていても起こる日時までは流石に分からないし。

 そもそも大尉って階級だけじゃ好き勝手出来ないのも現実だしなぁ……、不遇な主人公達をサポートってやれたら格好良いが今思えばアムロ達と戦えた事すら奇跡だったのではとすら思えてくる。

 

 ただ会えなくなっても嬉しい話を聞く事も多い、サイド6で出会ったクリスチーナ・マッケンジー少尉は今彼氏と交際中だとアナハイムとの技術交流をしにクロエが行った際にテム・レイ博士から聞いたと言っていた。本名は知らないのだが愛称をよく聞くと言っていたらしい『バーニィ』という名の。

 それにあのジェイソン・グレイも最近ヘルミーナさんと結婚したと手紙が届いた。彼女の妊娠が原因だと聞いてアイツもやる事やってるなと思いながらも二人の幸せを祈らずにはいられない。

 子供と言えばマチルダ先輩もウッディ大尉……いや今は昇進して少佐となっているウッディ少佐との間に一子を授かりこの間生まれたばかりだ。先輩は軍を退役し今は子育てに専念している。これも喜ばしい話だ。

 

 あと公式の発表がされている案件では恐らく原作通りに08小隊は進んだのかシロー・アマダのMIAがラサ地区で確認されている。ラサ地区ではイーサン・ライヤー大佐も亡くなったとの記録もあるしアジア方面は今回の歴史の流れでも影響は少ないだろうからシローとアイナも原作通り生きて幸せに暮らしていてくれたら良いなと思う。

 オーストラリア方面では結構早期にジオン公国軍のオーストラリア方面司令官のウォルター・カーティスがネオ・ジオンとの合流を表明していたらしく11月頃にはオーストラリア戦線は殆ど停戦協定に入る形となっていた様だ。

 これは彼がザビ家を嫌っていた事が内外からも周知されていた事と、コロニーを落とされたにも関わらず物資などの面でジオンを頼らざるを得ない状況だった現地の人間に彼が清廉であった事で市民への悪感情が無かったことの影響が大きい。一部の過激派の抵抗があった様だがそれらも現地の両軍の有能な部隊が対処したとの事だ。

 

 ……しかしここだけ機密扱いなのかそれとも何も出来ず倒されたのか、マッチモニード隊の名前が目立った記録からは見当たらなかった。

 アスタロスという環境破壊生物がどうなったのかが分からないのは恐ろしい、ホワイト・ディンゴ隊が上手くやってくれてるならそれで良いがマッチモニードもホワイト・ディンゴもそもそもオーストラリア方面に来ていなかったりする可能性すらある。

 なんたって記録が無いのだから仕方ない、任務内容とかの機密もあるだろうが漁れる資料にはホワイト・ディンゴもマッチモニードも単語すら出てこなかった。

 マッチモニードに関しては連中のボスのキシリアは生きている訳だし、極秘指令が与えられている可能性だってあるのだ。

 こういう軍事機密とかは色々探っても出てこないからキツい、軍のデータベース何かにはまず存在しないのだから調べた所で何にも出てこない。後々思ったがこれを検索した事によって逆にこっちが危うくならないかと最近はかなり遠回しに各地区の大きな出来事から順に追っていく形を取り始めた、時既に遅しじゃなきゃ良いが。

 

「最近は深く考え込む事が多いですねジェシー。」

 

「ん、あぁアーニャか。」

 

 一人で考え込んでいるとアーニャが隣にやってくる。

 

「新型量産機開発に新型ガンダム開発、そして軍の活動と多忙を極めていますから仕方ないのかも知れませんがあまり根を詰めないでくださいね?」

 

「分かっているよ。だがどちらかと言えば充実しているよ、公私共にね。」

 

 こうやってパートナーとして寄り添ってくれている彼女もいるのだ、死の危険は常にあるが自分の好きだった作品の世界に入れ、そしてMSにも乗れて愛すべき人もいる、贅沢過ぎる程だ。

 

 ただこれも、元々はジェシー・アンダーセンという男あっての事だというのを忘れてはいけない。俺は彼の人生を奪って此処にいるのだから。

 そのせいか時々自分が何者なのか分からなくなる時もある、ここに本当にいて良いのか、何が俺を俺にさせているのか、このまま本当に進んで良いのか、そういう不安に駆られる事もある。一度メンタルチェックでもしてもらった方がいいかもしれないな。

 

「また考え込んでます。」

 

「ごめんごめん、悪い癖だよなホント。」

 

 結構言われてるが自分の世界に入ってると言われることが多々ある、実際の歴史との差異が分かってしまってるからそれをどうするべきなのか考えてしまうからこうなるんだろう。

 本来の流れに沿って行くべきか、それとも完全に見切りをつけてやる事やるのか……まぁさっきも言ったが結局俺一人では流れを戻そうとしても実力が足りないからあんまり意味ないよな。

 俺が俺のやれる範囲で精一杯頑張れば良いだけだ。

 

「ふぅ。たしかに根を詰めてるかもしれないな。偶には休暇でも取って二人でバカンスにでも行くか?」

 

「冗談でもそういう事を言うのはジェシーにしては珍しいですね。」

 

「いやいや、普段はアーニャに合わせて仕事人間してるだけで俺はもっと休みたい方だからな?それに偶には良いんじゃないか?アーニャだってここ最近はずっと仕事ばかりだったじゃないか。」

 

 何というか婚約してる割には上司と部下って構図からあんまり出ていないし、何より仕事の話ばかりに俺達は熱中するタイプだからプライベートの方はあんまりにもおざなりだ。俺もアーニャもそれで問題ないから良いんだけど、流石に味気無さすぎて周りから何か言われそうだし、偶には休暇を取るのも悪くはないだろう。

 

「うーん……休暇ですか、悪くはありませんがみんなの事を考えると……。」

 

「みんなの事を考えるなら多分みんなはもっと休めって言うと思うぞ?」

 

 好きでやってるが周りから見ると相当ブラック企業の社員みたいになってるもんな実質。

 

「そうでしょうか?」

 

「そうだよ。よっし、フィーリウス君にも聞いてみるか、こういうのは客観的に見てくれる人に聞いた方が確実だからな。」

 

「えぇ……!?」

 

 そうと決まるとフィーリウス隊に割り当てられた部屋に向かいフィーリウス君に問いかける。

 

「休んだ方がよろしいかと。」

 

「即答……!?」

 

 アーニャが驚きの声を上げる、いやこれが当たり前の反応なんだよ。

 

「お二人は見掛けるたびにいつも何かの仕事をしていますからなぁ、偶に休暇を取った所で誰も文句は言わないと思いますがね。」

 

 ガイウスからも同じ様に言われる、うんうんやっぱり仕事し過ぎだよな俺達。

 

「若い健全なカップル二人が仕事ばかりと言うのも部下にとっては戦後もまだまだ厳しいんじゃないかって不安にさせる要因にさせそうなのは確かにあるかもねぇ。」

 

「お、そういう事ならバネッサも俺とどこか羽を伸ばしに行くか?」

 

「……ぶつよ?」

 

「二人の冗談はさておき、部下に与える影響はあながち間違いではありません。お二人が無理をし過ぎれば下の者も気を抜けなくなるでしょうから一度は休暇を取られても問題はないかと。」

 

 ガイウスとバネッサの夫婦漫才を軽くいなしてフィーリウス君が結論を纏める。

 

「そうですか……私達は働き過ぎ……。」

 

「ショック受けてるようだけど本当にこれが当たり前の反応だからな?」

 

 良くも悪くもアーニャは生真面目過ぎるからな、偶には休ませないと本当に発育に悪い……悪いよな?

 

「それなら休暇の申請でもしましょうか、一日二日休むくらいは皆も納得してくれるはずでしょうし。」

 

「いえ……休むなら1週間は休んでもよろしいのでは……?」

 

 まさかのフィーリウス君のドン引きである。流石の彼もここまでアーニャが生真面目だとは思っていなかったようだ。

 

「1週間も……。」

 

「それくらい働き詰めてるって事だ、さぁペズン司令官に休暇申請を出しに行くぞ。その間のリング・ア・ベルの指揮はジュネットか誰かがやってくれるだろうから任せておこう。仲間を信頼するのも指揮官に必要な事だぞ?」

 

「それはそうですけれど……。」

 

「という訳でお邪魔してすまなかった三人とも。お土産を期待して待っていてくれ。」

 

 アーニャを連れて急ぎ足でペズン司令の元は向かう。

 

「うーむ、お二人は我々に惚気に来たのだろうか?」

 

「あれは本気でやっているだろう、二人とも何処か天然な所があるから……。」

 

「フィーリウス様にこうまで言われるのはあの二人くらいのもんだね……。」

 

 

ーーー

 

 

 

「と、いう訳で休暇を取らせてもらう!」

 

「ハイハイのんびり愛を育んでくださいそれではー。」

 

 惚気を見せられたと辟易しているクロエに無愛想な反応をされながらもリング・ア・ベル隊のみんなへ休暇の報告をしていく。

 

「お二人にも休むという概念があったのですね!」

 

「失礼だぞベアトリス、俺達を何だと思ってるんだ。」

 

「えぇと……仕事大好き人間ですか……?」

 

「本当に失礼だな……。」

 

「そう思われる大尉にも原因がありますよこれは。ですが良い事です、お二人は婚約されていると言うのに浮いた話の一つもないと言うのは寂しい話ではありませんか。」

 

 セレナからそう言われると確かに今までは本当に何にもして来なかったなと反省してしまう。

 

「それでどちらに行かれるんですか!?お土産凄く楽しみです!」

 

「現金な奴だなベアトリス……。」

 

 そう言えばどこに行くかまでは考えていなかった、どうしようか……。

 

「ジェシーには何処か提案はありますか?」

 

「うーん……。あ、そうだ。」

 

 どうせ行くなら宇宙世紀で見ておきたかった場所が一つだけある。

 

「ニホンはどうだ?」

 

「ニホンですか?」

 

「あぁ、古き良き文化のある和の国だ。一度行って見たかったんだよな。」

 

 宇宙世紀の日本はどうなっているのか、少しばかり興味があったからな。

 

「ジャパンかい!?シショーそれならジャパン映画のディスクを幾つか買ってきておくれよ!アタイがジャパン好きなのは知ってるだろう!?」

 

「そう言えばそうだったな。」

 

 サムライ物でも買ってきてやろう、ララサーバルなら泣いて喜ぶだろう。

 

「私もニホンは初めてなので楽しみですね。本当に連れて行ってくれるのですか?」

 

 ここまで来ても半信半疑のアーニャ、仕事に洗脳されている可能性もそろそろ考えた方が良いかもしれない。それなら……。

 

「ではでは諸君、俺はお姫様を連れてニホン旅行を楽しんでくるとするよ。留守は任せたぞ!」

 

 そう言うとアーニャをお姫様抱っこして走り去る、これくらい大袈裟にした方がアーニャも仕事モードからシフトし易いだろう。

 

「きゃっ!す、すみません皆さん後はよろしくお願いします────」

 

「アンダーセン大尉凄くハイテンションでしたね。」

 

「あれくらいしないと大佐が信じてくれなさそうだったものね、仲が良いのは羨ましい限りだわ。」

 

「あーあ、私も大尉や大佐みたいな以心伝心な関係になれる人がいたらなぁ。」

 

「ハッハッハ!彼氏を見つける前にまずは二人とも一人前のMS乗りにならないとね!さぁさぁこっちは休んでる暇なんてないよ!稽古だ稽古!」

 

 

 

ーーー

 

 

 と言う訳であれから数日、俺とアーニャはシャトルと飛行機を利用しニホンへと到着した。地球と宇宙の移動だけでかなりの時間を使うのであまり長く滞在出来ないのが残念だが回れる所は色々回るつもりだ、幸い地上の移動は俺が21世紀にいた頃よりは遥かに短時間で済むから助かる。

 

「わぁ……、とても綺麗ですね。」

 

「あぁ、しかしここまで変わっていないなんてな……。」

 

 今来ているのは日本でも古くからある文化遺産の神社だ、あの頃よりかなり変わってると思っていたが都市部はともかくこういう所は未だに全く変わっていない事に驚いた。

 

「あら?ジェシーは来た事があるのですか?」

 

「あー、いや、違う違う、昔見たパンフレット通りだなぁってな。」

 

 下手な言い訳になるが納得してくれた様だ。景色を一望し大きく息を吐く。

 

「素晴らしい場所ですね、戦争があっても変わらずに残る文化があると言うのは素晴らしいことです。」

 

「あぁ、色々と消えてしまうものが多い時代だからこそ変わらない物を大切にして行かないといけない。ただ変えて行くべき事は変えていきたいけどな。」

 

 そういうのを積み重ねて、今よりも少しずつ世界を良くして行ければ一番良いのだろう。アーニャと共にそういう風に歩めれば一番良いが。

 

 それから色々と観光地を周りながら食べ歩きなど日本文化を堪能し、宿泊地である老舗旅館へと到着する。

 

「見てくださいジェシー、外の景色がまるでイルミネーションの様ですね!」

 

 高台に位置するこの旅館から見える景色は他の旅館や街の明かりが融合し幻想的な風景を生み出している。

 

「他のみんなには悪かったが来て良かったな。今までにないくらいリラックス出来てると思うよ。」

 

「私もです。こうして貴方と二人きりで旅行に来れるなんて思いもしてませんでした。」

 

「そこは俺達の悪い所だよな。プライベートだってしっかり満喫しないと行けないって言うのに仕事ばかりに気を取られ過ぎてる。」

 

「そうですね、こうしてる最中も何かと貴方に相談したくなりますが今は我慢します。」

 

 こんな時まで仕事の事を考えているとは……職業病って奴なんだろうな。改善させていかないと。

 

「この休暇くらいは本当に仕事の事は忘れようぜ?せっかくの旅行なんだかるさ。」

 

「えぇ、そうしましょう。」

 

「失礼します、お食事をお持ちしました。」

 

 仲居さんが食事を持って来る、海の幸山の幸の和食だ。これは元日本人の血が騒ぐぞ!

 

「噂には聞いてましたがこれがニホンのスシ……ですか……?本当に生で魚を食べるのですね。」

 

「これはスシじゃなくて刺身だけどな、まぁ良いや頂くとしよう。」

 

 手慣れた手付きで刺身に天麩羅とあれやこれやに手を付ける。ここに憑依してからと言うのも和食なんて食べて無かったから久々の邂逅に心が震えているぞ……!

 

「箸の使い方がとても上手いですねジェシー……!」

 

「フフッ……これくらい楽勝だ。」

 

 何も誇る場面ではないが何故かドヤ顔でキメる、アーニャもアーニャで感心しながら箸を進め料理に手をつける。

 

「ふむ……美味しいですね……。」

 

 そんなこんなで食事を済ませたら貸切露天風呂の案内をされる、温泉……これもまた懐かしい。

 

「凄く広いお風呂なのですね、カルラがニホンの温泉は凄いと言っていましたが。」

 

 そうだなぁ、基地は何処に行ってもどうしてもシャワー中心ばかりで風呂もあったとしても一人用レベルの物ばかり……だし……?

 

「って……!アーニャ!?何で!?」

 

「何故と言われても此処は私達の貸切なので混浴ですよ?」

 

「それはそうだけど……色々とヤバいだろ!?」

 

「どうしてですか?何も問題はないでしょう?」

 

 こちらの混乱など素知らぬフリをしてそのまま湯に浸かるアーニャ、確かに関係的には何の問題もないけど……。

 

「ふぅ……風情と言うものなのでしょうか、精神的にも肉体的にもリラックスできる場所が多いですねニホンは。」

 

「喜んでくれて何よりだよ。気に入らなかったらどうしようかとも思ったからな。」

 

「……私は貴方といられるなら何処だって良いんですよジェシー?勿論こういう所に連れてきてもらったのも嬉しいですが何処に行くかよりも誰といるかが重要ですから。」

 

「そういう風に言ってくれるのは男冥利に尽きるけどさ、もしも俺がいなくなったりしたら心配するな、そこまで依存してくれると。」

 

「……何処かに行ってしまうのですか?貴方は。」

 

「いや……何処にも行かないけどさ。」

 

 やっぱりアーニャは家族を失った経緯からそういう大切な人がいなくなる事への不安が人一倍大きい、この一言ですらかなりの動揺を見せている。

 

「けど俺もアーニャもパイロットだ、何処でいつ死んだっておかしくない……その覚悟は必要だろ?」

 

「そうですが……それでも……。」

 

 せっかくの旅行でいらぬ水を差してしまった。こんな時にする話題じゃなかったな。

 

「すまん、こんな時にする話じゃないよな。こういう事を忘れる為の旅行なんだ、今はそんな事忘れよう。」

 

「そ、そうですね。あ、せっかくの温泉なので背中を流してあげますね。」

 

「な……良いって!」

 

「ふふっ、照れないでください。カルラが言っていました、温泉に入った時は殿方の背中を流すのが妻の役目だと。」

 

 あ、後で焼きを入れてやらないといけないなララサーバルには……。だが恥ずかしいのは恥ずかしいが男として背中を流してもらうロマンも捨て難い……、有り難く背中を流してもらおう。

 

「大きな背中……それに傷だらけですね。」

 

「ん、そうだな。MSの中とは言え衝撃は受けるしパイロットスーツがあってもどうしても傷は増えるし……。」

 

「私を護ってくれた証です。とても愛おしい……。」

 

「ど、どちらかと言えば守られる事が多かったけどな。」

 

 そういうアーニャだって、恥ずかしくて直視は出来ないがそれなりの傷跡が残っている。パイロットをやっていれば無傷ではいられない。

 

「アーニャだって傷だらけじゃないか。ベアトリスの案で開発してる狙撃仕様の機体も、もうお前が乗らなくたって良いんだぞ?大佐が戦場でパイロットなんてしないでも、これからは艦長職でどっしり構えてくれればさ。」

 

「私は戦いますよ、上の人間が道を示さなければ下の者がついて来てくれませんから。」

 

「お前が俺の心配をするように、俺だってお前の事が心配なんだぞ?そこは少しは気にしてくれ。」

 

「分かりました、考えておきますね。けれどやれる間はやり続けたいとも思っているんです。」

 

 道を示す為に……か。リング・ア・ベルという部隊名も鈴を鳴らす、つまり警鐘を鳴らし続けるという意味や人々に戦争という愚かさを思い出させる為に名付けたものだ。

 彼女はその鈴を鳴らし続けたいのだろう、二度と同じ過ちが繰り返されない為に。

 

「そこまで頑なに言うなら、騎士の俺が護ってやらないとな。」

 

「えぇ、無理難題も押し付けますがこれからも期待しているのですよ?」

 

 ジャブローで誓った事だ、彼女の名誉と誇りを傷付けないと。その為に俺は何だってやってやるさ、例えそれが誰からも認められない方法だったとしても……。

 

 それから露天風呂を出て、再び部屋に戻る。そろそろ夜も更けて来たしそろそろ眠ろう、そう思い寝室の襖を開く……と……。

 

「あら?フトンというのはこうやって隣り合わせで使うものなのですね?」

 

「うーん……そうだけどそうじゃないと言うか……。」

 

 ちゃんと夫婦だと思われていたのかピッタリとくっついた布団を見て頭を悩ます。さっきの風呂の件もあって無駄にドキドキしてしまっているし。

 

「一緒に眠りましょう?」

 

「う……そ、そうだな。」

 

 そっちは気にしてないのか平然としている。こっちが焦ってどうするんだと思いながら何とか気を落ち着かせ布団に入る。

 

「ジェシー……。」

 

「ん?どうした?」

 

「本当にありがとう。いつも一緒にいてくれて。」

 

 此方を見つめ、喋る言葉は普段の上官のしての顔というよりアーニャという少女としての顔だった。

 

「これからもずっと一緒さ、こういうプライベートな時間は少ないだろうけど世界が平和になったらまたこうやって二人で旅行にも行こう。」

 

「はい……。私、貴方を愛して本当に良かったと思います。」

 

「俺もだよ。それはこれからも変わらない。」

 

 二人の距離は身も心も近づき、そして一つになった。

 

 

 

「ん……朝か。」

 

 隣で眠るアーニャ を起こさないように静かに立ち上がる。

 ベランダに向かい大きく背伸びをする、ほんの数年前まで当たり前に迎えていた日本の朝だが、今は逆に別世界のように感じる。

 

 今までの事をずっと考えてきた、この世界に憑依した理由や自分の存在理由、変わった世界やこれから変わる世界に対してどう動くべきなのか。

 だけど思い悩むのはもうやめにしよう、自分にできることを……アーニャの為になる事を全力でやる、憑依とかガンダム世界の未来とか関係なくやれることを。

 

『本日のニュースです、先日何者かにより襲撃された日本の軍研究所への攻撃ですが連邦政府はジオン公国残党軍によるテロ活動と想定して引き続き──』

 

「なんだアーニャも起きてたのか?」

 

「えぇ、貴方は考え込んでいたようなので声は掛けずにいました。」

 

「ん、いつもの悪い癖ってやつだな。そういうアーニャも起きて早々ニュースなのは職業病だな。まだ休暇は残ってるんだしゆっくりするか出歩こうぜ?」

 

 テレビを止めて旅支度をしようとすると何故かアーニャがぎこちなく動いている。

 

「どうした?」

 

「え……えぇと……まだ少し歩きにくいんです、ほら……昨日の……。」

 

 顔を真っ赤にしながらそう呟くアーニャにこっちも顔が赤くなる。

 そ、そうか、そういう事だよな……。

 

「あー……お、お姫様抱っことかした方が良いのか?」

 

「す、少し待ってもらえば大丈夫です……!」

 

 互いにぎくしゃくしながらも何とかその後も普通に旅行を満喫してまたペズンへと帰還する。この数日間は俺の中でかけがえのない記憶としてこれからも残るだろう。

 

 

ーーー

 

 

それから2ヶ月後0081年4月某日、小惑星ペズン周辺宙域

 

『これより新型ガンダムテスト機の評価試験を行います。パイロットへ、通信は問題なく聞こえていますか?』

 

「クロエ技師長へこちら1号機、ジェシー・アンダーセン。聞こえている。」

 

『了解、通信システムの正常動作を確認。……ジェシーくん。今から行うのはこのプロトタイプ機の性能実証よ、本来予定されたルナ・チタニウムなどは今回装甲には使用せず、グノーシスから一部パーツを流用して作られた仮装実験機なのを忘れないで。更に本来装備する筈の武装も同重量なだけなハリボテなんだからね?まともに使えるのはビーム・ルガーランスくらいよ。』

 

「分かっている、あくまで慣らし運転で通常動作に不良が無いかを確認するためのテストだろう?無理な機動はしないさ。」

 

『OK、分かってくれてるなら問題ないわ。まずは機動試験から、プラン通りに宙域を80%の出力で移動してその後はデブリ帯で精密動作の試験、それが終了したら指定ポイントで待機しているベアトリス、セレナ両機のグノーシスと模擬戦を行って。良いわね?』

 

「了解した。問題が無ければ出撃する。」

 

『待ってくださいジェシー。』

 

「どうしたアーニャ?」

 

『帰ってきたら話したい事がありますので無茶はしない様にお願いしますね?』

 

「お、奇遇だな。俺も話したい事があったんだ。帰投したら話そう。……よしジェシー・アンダーセン、プロトタイプ1号機発進する!」

 

 ガンダムフェイスの機体が宇宙を駆る、本来存在し得なかったガンダムが。

 

「機動性は良好……砲撃特化機とは思えないくらいだな。」

 

 今回乗っているのはヴァイスリッターやフィルマメントからある程度の設計を流用できる他の2機とは別の砲撃戦に特化させる機体のテストモデルの黒でカラーリングされたガンダムだ。

 予想されている完成予定の重量とほぼ同等であるが機体に鈍重さを感じさせない。装甲はともかくジェネレーターは本来載せる物と同じなのでやはりガンダムという高性能機さを感じさせられる。

 

「これがガンダム……俺達の新しい力……。」

 

 リング・ア・ベルが頭角を示せればこの先ティターズやエゥーゴの内紛やアクシズの介入も対処は幾らでもできる。その為にこのガンダム達は完成させなければならない、どんな手を使ってでも……。

 

 

ーーー

 

 

「1号機、予定進路を進行中。凄い……80%の出力で想定の数値を上回っていますね。」

 

 開発スタッフからの報告を聞きクロエも満足そうな顔をしながら頷く。

 

「潤沢な予算を与えられればそれに準じた機体が作れるって事ね。アンナちゃん、このガンダム達が完成すればグノーシスにも設計流用出来て完成度も高まるし私達の評価も上がるわね。」

 

「はい。その為のガンダム開発計画なのですからやれる事を精一杯尽くしてより良い機体を作り上げたいですね。」

 

 対抗馬であるアナハイムがどれほどの機体を出してくるかも分からないので自分達は自分達の全力を出して完成させるしかない。それがこの先の連邦軍内での私達の立ち位置を決めるのだから。

 

「ん……これは……!?エルデヴァッサー大佐!ミノフスキー粒子の発生を確認!」

 

「何ですって!?」

 

「レーダーに異常発生!急ぎレーザー通信に切り替えろ!」

 

「ジェシーくん……じゃなくてアンダーセン大尉との通信は!?」

 

「ダメですクロエ技師長!大尉は既にデブリ帯への移動を開始しておりレーダー通信は元よりレーザー通信もデブリが影響して不可能です!」

 

 周りが騒然とし始める、その時の私には今何が起きているのか冷静に考える事が出来なかった。

 

「アンナちゃん!しっかりして!貴方が指揮を取らないとジェシーくんが危険な目に遭うのよ!」

 

「あ……、っ!各員……まずは落ち着いてください!ミノフスキー粒子が散布されている宙域とジェシー……いえアンダーセン大尉の機体の位置、そしてデブリの外で待機しているベアトリス、セレナ両少尉の位置を算出!」

 

 モニターの各情報が映し出される、ミノフスキー粒子はまるでデブリ帯を覆う様に散布されている。……これは。

 

「クロエ、今日の機動テストを知っているのは?」

 

「ペズン司令部には演習内容を報告してあるわ……スパイの可能性があるって事?」

 

「まだ現状の把握が出来ていないので何も言えません、ララサーバル軍曹の出撃用意を!ベアトリス、セレナ両少尉達にもペズンから直接高速機を派遣し現状の報告を!」

 

 未だ騒然とする状況の中、ジェシーの無事を祈ることしかできない自分に苛立ちを感じる事しかできなかった。

 

 

ーーー

 

 

「さて、デブリ帯に侵入するか。……ガンダムには悪いがさっさと仕事を終わらせたいんでね。」

 

 今日は俺とアーニャが出逢った日、ジャブローで誓いを立てた日だ。アーニャもそれを覚えていたようだったし早くこのテストを終わらせるとしよう。

 

「しかし、デブリ帯でも柔軟に動けるのは流石だ……!」

 

 マグネット・コーティングの技術もあれから進歩している、アムロのOSの効果も有り今では柔軟な動きにも混乱する事はなくなっている。

 

「よし……そろそろ新米共に稽古をつけに……──なんだ!?」

 

 異質な感覚、あの戦争の時に幾度と無く感じた禍々しい感情の渦……これは!?

 

「敵……!?」

 

 モニターが不鮮明になる、これは……ミノフスキー粒子!?

 

「モニター出力をレーザーに変更……!まさか、ジオン残党!?」

 

 有り得ない話ではないが連邦軍勢力圏内である此処にジオンが潜んでいる事など考えられない……、そう考えているとビーム光が放たれるのを確認する。

 

「……ちぃ!ビーム兵器だと!?いよいよジオン残党と言うには怪しくなってきたじゃないか!」

 

 ガンダムの機動性能のおかげで何とか回避できたが、敵の位置と数を把握出来ないとまともに使用できる兵器がビーム・ルガーランスだけの俺では多少不利だ。

 

「──!そこかぁ!」

 

 殺気のする方向へビームを放つ、其処に現れたのは……!

 

「なっ……アレックス……!?いや……違う!」

 

 相対するのは俺と同じ黒いガンダム、それもアムロが乗っていたアレックスにとても良く似ている。だが……決定的に違うのは……それは……!

 

『死ね……!』

 

 アレックスが腕部からガトリング砲を放ってくる、何とか回避するが嫌な汗と気持ちの悪さに襲われる……これは……これは……!

 

「アムロの乗っていたコアブロックシステムのあるアレックスじゃない……『本物』のアレックスだって言うのか……!?」

 

『死ね……!ジェシー・アンダーセン……!お前に全てを奪われた者達の怨みを死んで償え……!』

 

「なんだ……!この感覚は……まるで……!」

 

 

ーーー

 

 

「大佐!デブリ帯から大規模な爆発が……!これはMSの……!」

 

「まだ……まだジェシーの物と決まった訳ではありません!早く現状の把握を……把握をしてください!」

 

「……カルラと新米達は何やってるの!報告を急がせなさい!」

 

 辺りは鎮まりかえる、手を打とうにも現状MSからの報告を待つしかない。ペズンの艦隊も事態に気付きパトロール隊を派遣し始めている、今はその報告を待つしか無かった。

 

「エルデヴァッサー大佐、高速偵察機が爆発のあったエリアの映像を送信してきました!」

 

 モニターにその映像が映し出される、そこにあったのは判別不能なMSの残骸が多数漂流している映像だった。

 

「ハァ……ハァ……、こ、これが何だと言うのですか?これでは何の報告か分かりません、ジェシーは……アンダーセン大尉は見つかったのですか!」

 

 気持ちの悪い汗が流れ、血の気が引いて行くのが分かる。

 

『こちらカルラ・ララサーバル……、付近に敵機の反応無し……生存反応無し……アンダーセン大尉の捜索を開始する。』

 

 あのいつも陽気なカルラが、まるで今はそれが相応しく無いと思っているのか普通のパイロットの様に冷静に報告をする、何故……?

 

「ねぇ……クロエ……ジェシーは、ジェシーは……?」

 

「落ち着いてアンナちゃん……あの人がアンナちゃんを置いて死ぬわけがないでしょ?すぐひょっこりと顔を……出してくれる筈よ……!」

 

 クロエもまた震えているのが分かる、一体何が起こっているのか分からない。

 何故、今日という日に作戦宙域にミノフスキー粒子が唐突に散布され、何故その後MSの爆発が発生しそして何故未だ彼の生存報告がされない……?

 

『こちらベアトリス……嘘だ……こんなの嘘に決まってます……。』

 

『ベアトリス少尉!報告はきっちりしないか!アンタは兵士だ!泣きながら報告なんてするんじゃない!』

 

 カルラの怒号が音を割らせながら響き渡る。

 

『うっ……うぅっ……、ララサーバル軍曹……。これが……これが漂流していたんです……!』

 

『……っく、ゥゥゥゥゥ……っ!ペズン司令部、それにリング・ア・ベル司令部へ……っ、宙域の映像を送る。アタシらは付近の捜索を継続、何かあればまた報告する……!』

 

 歯を食いしばりながら声を出すカルラの報告と共に映し出されたのはガンダムがガンダムと呼ばれる所以、その特徴的なガンダムフェイスのみが宇宙を漂っている映像だった。

 

「……嘘だ……こんなの嘘……。」

 

「アンナちゃん……。」

 

「ジェシーが私を置いて死ぬ訳がない……!私は絶対に認めない!こんな事が……こんな事が……!嫌ぁぁぁ!!!」

 

 目の前が真っ暗になり意識が薄れていく──。

 

「アンナちゃん!?しっかりしてアンナちゃん!!!衛生兵!大佐をメディカルルームに!急ぎなさい!」

 

 落ちて行く意識の刹那、かつて私が命を奪ったニュータイプの少女の面影が何かを悔やむ様な表情を浮かべ、そして私の意識と共に消えていった。

 

 

 

 

 0081年4月某日、小惑星ペズン周辺宙域にて原因不明の爆発によりジェシー・アンダーセン大尉のMIA (作戦行動中行方不明)が発表された。彼の遺体やそれに繋がる物は確認されていないが生存は絶望的であるとペズン司令部からの報告がされた。

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