機動戦士ガンダム 紺碧の空へ   作:黄昏仮面

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『星屑の記憶編』
第1話 ガンダム強奪


 

 宇宙世紀0083年10月、地球周回軌道上

 

「ジャブローより入電、アマテラス級高速巡洋艦『曙光(しょこう)』の地球降下を許可する、予定進路を継続し降下せよとのこと。」

 

「了解。総員降下準備に取り掛かりなさい、システムも全て地上用に切り替えて。宇宙とは違い地球には重力があるのを忘れないように。」

 

 艦長の女性がクルー全員に指示する。全員が焦る事なく予め定められた動きを順次こなして行く。

 

「流石は連邦軍の精鋭部隊リング・ア・ベル隊の旗艦だ!EC社製の新型艦も、そして部隊の練度もかなり凄いじゃないか!」

 

 そこに軍人としては似つかわしくない、やや小太りの青年が大きな声でクルーを絶賛する。艦長の女性はやれやれといった感じで彼に喋りかける。

 

「アルベルト様、地球降下前に大騒ぎしては舌を噛まれますよ。貴方は我がリング・ア・ベル隊の客人です、お怪我をされては困ります。」

 

「あぁそうだね、ありがとうアンナさん。やはり優しい人だ貴方は。」

 

「貴方に何かあればアナハイムやビスト財団の方に失礼になりますので。それでは各員降下に備えて器具の固定と降下管制要員以外の者は所定の位置で待機しなさい。」

 

 やがて艦が大気圏に突入して行く、この瞬間だけは慣れている人間がいないので不安そうにしているクルーも多い。

 

「曙光、降下完了。ミノフスキー・クラフトも正常に稼働中。」

 

「各員持ち場へ戻り職務を遂行しなさい。ジュネット、降下地点は?」

 

「予定降下ポイントより若干のズレがあります、現在タスマニア上空を航行中。」

 

「予定航路を修正しトリントン基地に向け最短ルートを取りなさい。……私はしばらく休ませてもらいます。」

 

「ハッ、了解であります。」

 

 自室へと去って行くエルデヴァッサー大佐をクルーが見送る、ジュネットはブリッジから地球を物珍しそうに眺めている客人のアルベルト・ビストに目を向ける。

 

「おぉ、これが青空と言うものか!映像で見るのと実際で見るのとはやはりスケールが違うなぁ。」

 

「お気に入りになされましたかアルベルト様、現在我々リング・ア・ベル隊は予定より数刻遅れてのトリントン基地到着を予定しています。それまでは地球の景色をお楽しみください。」

 

「あぁ、ありがとうジュネット大尉。ん?そう言えばアンナさんはどうされたのかな?」

 

「大佐は自室へと戻りました。」

 

「あぁ……話したい事が山ほどあったのだけど。」

 

「……失礼ではありますが今はそっとさせた方がよろしいかと思われます。」

 

「どうしてだい?」

 

「今よりトリントン基地へ向かう道中、あの方の一族が失われた土地であるシドニーを通ります。」

 

「ジオンのブリティッシュ作戦の……確かに声を掛けるのはデリカシーがないか。ありがとうジュネット大尉、私もしばらく部屋に戻らせてもらおうかな。」

 

「はい、アクセスの許可されている場所であれば艦内の見学も問題ありませんのでそちらもお楽しみ頂ければ。」

 

「ははは、助かるよ。君もこの縁談が上手くいってくれたらと思っていてくれているのかな?」

 

「……。一部隊員の私には上官のプライベートには口を挟む権限はありませんので。」

 

「あぁ、すまないね気を使わせて。邪魔をするのも悪いしそろそろお暇させてもらうよ。」

 

 ブリッジからアルベルトが出るのを確認するとジュネットは大きく溜息を吐く。

 

「客人は去った、各員もう気を張る必要はない。」

 

「助かったぁ〜。」

 

 クルー全員も同じ様に溜息を吐く。まさに招かれざる客と言ってもいい人間が乗艦しているのでいつも以上に緊張していた様だ。

 

「降下地点がズレたようだねジュネット。」

 

 ブリッジにリング・ア・ベルMS部隊長のヨハン・グリム中尉が入ってくる。

 

「あぁ、ズレるならせめて北に向けてズレて欲しかったがな。」

 

「パイロット達も焦ってたよ。シドニーを通過するんじゃどうしても大佐が心配になる。」

 

「いずれにせよトリントンというオーストラリア大陸の基地に向かう以上コロニーの落ちた傷跡は何処かで見るハメになる。どちらかと言えば問題はあの方が大佐の逆鱗に触れないかだ。」

 

「大佐とそこまで年齢が変わらないとは言え、見た限りだとただの親の七光に見える。連れて来る必要があったのか?」

 

「アナハイムの技術スタッフを連れて先刻トリントン基地に到着したペガサス級に一緒に乗って行ってくれていたら良かったのだがな。」

 

 アナハイムに縁が深いビスト財団から親族に新型ガンダムの実地テストの見学をさせたいと申し出があり既に新型ガンダムを積んだペガサス級強襲揚陸艦アルビオンが出航していたのもあり、リング・ア・ベル隊に同行する形となった。

 しかも軍から勧められた縁談も関わっていると聞いた時は余計に苛ついたものだ。

 

「私は既にアンダーセン大尉を亡き者として見て縁談を勧めているビスト財団という所が気に食わない。アナハイムがEC社を乗っ取るつもりであるのが見え透いているからだ。」

 

「同感だ、口に出せば外交問題になるけど。」

 

 あの謎の事件の後、この2年近くまともに軍務を行わなかったエルデヴァッサー大佐を見かねた軍部が半ば強引に勧めて来たのがアナハイム・エレクトロニクスと深く縁のあるビスト財団の当主の息子との縁談であった。

 ただ彼女自身は表舞台に殆ど顔を出さずとも最低限の職務をこなし、部隊運営も常に的確な指示を部下に与え、尚且つ部隊として問題なく結果を残しているので縁談には前向きではない。

 しかし無碍に出来る相手でもないのでせめて話だけは、と言うのが今の状況だ。

 

「それにしても曙光までわざわざ地球に降ろす必要まであったのかな。ミノフスキー・クラフトを搭載した新型艦と言っても既に技術が確立されているペガサス級と比べたらこっちは技術的にはともかく運用面ではまだテストを重ねないといけない実験艦なのに。」

 

「その為のテストの一つだろう、ガンダムもこれも。重力下の運用もいずれはやらねばならないのだから今回はまさに打ってつけじゃないか?」

 

「確かにね。それにしても何でわざわざトリントン基地なんだろう、新型ガンダムの実地テストならジャブローでも良かったんじゃないのかな。わざわざ辺境の基地でやらなくても。」

 

「グリム、トリントン基地がただの辺境の基地だと思っているのか?」

 

「違うのかい?」

 

「……ここだけの話だがあそこには旧世紀からの核貯蔵施設がある。」

 

「……冗談だろ?」

 

「本当だ、アナハイムのガンダムの噂は君も知っているだろう。つまりはそういう事だ。」

 

「戦術核搭載型MS……、噂だけだと思っていたけれど。」

 

「君の言うわざわざ辺境の基地で試験をする理由としては充分だ。噂であればそれはそれで良いがな。」

 

 連邦軍の威光を示す為の新型ガンダム開発計画である筈だが、過度にスペースノイドを刺激するような機体は共和国となったジオンやネオ・ジオンにも良いイメージを与えないだろう。ジオン軍残党やアクシズに向けたパフォーマンスとしてはやり過ぎな所が否めない。

 だからこそ噂であるならそれに越した事はないが、実際に核を搭載するのであればアナハイムやそれを通したコーウェン中将は軽率だと言える。

 

「戦争はまだ終わっていない、軍はまだそう思っているんだろうね。」

 

「事実キシリア・ザビが生きてアクシズで英気を養っているのだからな。残党軍対応も含め仕方のない事なのかも知れないが。」

 

 2人は大きく溜息を吐く。戦争はまだ終わってはいない、その予感があった。

 

 

 

 艦長室の窓から、心地の良い陽光が差す。

 暖かな空間に包まれ、心がいつもより落ち着いているのが分かる。

 父や祖父、そして一族の皆が命を落としたはずの場所であるのに。今の私はまるで皆に抱きしめられるかの様な心地の良さを感じていた。

 

『ごめんなさい……。』

 

 あの日から、幾度となく聞いている少女の声。彼女が謝ることなど何もないと言うのに。

 

『ジェシーを、あの人を、助けてあげてください。』

 

「助けます……絶対に……。」

 

 何処にいるか分からない、けれど助けを求めているのであれば救わなければならない。救いたい。

 

「アンナさーん!今大丈夫かな?」

 

「……?」

 

 ハッとする、またあの夢を見ていたのか。

 

「アンナさん?」

 

「少々お待ちくださいアルベルト様。」

 

 鏡で身嗜みが崩れていないかを確認し、ドアのロックを解除する。

 

「如何なさいましたか?」

 

「あぁ、特に用事は無かったのだけどね。この地は君の親族が亡くなった土地だと聞いて、デリカシーが無いと思われるかも知れないがどんどん心配になってしまったから。」

 

「お優しいのですね。お心遣いに感謝します。」

 

「なぁアンナさん。そんな他人行儀みたいな話し方はやめてもらえないだろうか?一応は縁談相手でもあるのだし……。」

 

「それは軍が勝手に決めた事です。それに私にはフィアンセがいる事はご存知なのでしょう?」

 

「けれど現在行方不明なのだろう?」

 

 敢えて死んだと言わない辺りは元々が優しい生来なのだろう。そこは素直に好感が持てる。

 

「えぇ。生きているのなら戻って来てもらわねば困るのですけれどね。」

 

「……聞いてはいたけれどやはり貴方の中でその人の存在は大きなものなのですねアンナさん。」

 

「はい。私にとっては彼との絆が全てでしたから。」

 

「……ライバルはどうやらかなり手強いようだ。けれどアンナさん、僕だって身内に勧められたからってだけで貴方に好意を持っている訳ではないのを知っていて欲しい。僕も男だ、ビスト財団の操り人形じゃない。」

 

「……わかりました。」

 

 少なくても度胸はある。隊の皆は彼を親の七光として見ているかもしれないが、彼は彼でそういう風に見られたく無いと陰ながら努力しているのだろう。立場的に理解できる所もある。

 

「すみませんアルベルト様、やはり少し気分が優れませんのでしばらく一人にさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

 

「あ、あぁ。やはりデリカシーが無かったみたいだ、僕は暫く景色の方を楽しむとするよ。」

 

「いえ、私の方こそすみません。どうか道中お楽しみください。」

 

 ドアが閉じると同時に息を吐く。本当は気分など悪くは無いのだけど、今は考える時間が欲しい。

 

「ジェシー……貴方の言っていた刻が近づいています。貴方は今何処にいるのですか……?」

 

 

 

ーーー

 

 

「やっぱりザクじゃ新型のジムに歯が立つ訳ないって!」

 

「愚痴るなよキース、ザクだって悪い機体じゃないだろ?」

 

「もう何年も前の機体だぜコウ、やっぱりテストパイロットは新型に乗ってこそだろ?」

 

「確かにそうだけどさ……。」

 

 来る日も来る日も旧型のザクでの訓練、ジムやメガセリオン等の連邦軍機には自分達よりベテランか上官しか乗せてはくれない。

 けれどジオンの機体だって物は古くてもその信頼性と安定性は連邦の機体にだって引けを取らない、いや基本設計だけなら今でも上回ってる部分だって多いんだ。

 

「おーいコウ、また考え込んでるのか?MSの事となるとホントオタクになるんだからなぁ。」

 

「べ、別に良いだろ?それよりもさキース、さっきやって来たペガサス級!新型のガンダムを積んでるんだろ?」

 

「らしいなぁ。だけどこの基地のパイロットに乗らせて貰えるか怪しいし、仮に乗せてもらえたとしても、どうせ乗るのはアレン中尉とかだぜ?」

 

「まだ分からないだろ?もしかしたら俺達が乗る可能性だってあるかも知れないし。」

 

「ないない、思うのはタダだけど無理だぜコウ。」

 

「つまらない奴だなぁ……。」

 

 とは言ったものの確かに実力の高いパイロットから選定されるのは間違いないだろうし先行きは暗いか……。そう思いながら同僚のキースといつのも訓練を再開するのだった。

 

 

ーーー

 

 

「レイ、見えたか?」

 

「あぁアーウィン。あれが例のペガサス級なのかい?」

 

 一つの機体の中で、それぞれ別のコクピットに座る青年が二人。

 

「そうだ。ペガサス級7番艦アルビオン、ガンダムを載せるには打ってつけの艦という訳だ。」

 

「あのアムロ・レイも乗っていたペガサス級にそしてガンダムか、つまりあれに僕達が乗れば同じ様に英雄になれるって事だろう?」

 

「そうだ。俺とお前、そしてガンダムが新しい歴史を作るんだ。その為にこの機体がある。」

 

 鈍く光る黒いガンダムが基地に鎮座するアルビオンを見つめる。

 

「さて、動いてくれるかなアナベル・ガトー?数年待たせた甲斐があれば良いんだがな。」

 

「何か言ったかいアーウィン?」

 

「いいや、何でもないさ。」

 

「そう言えばトリントン基地には別のガンダムも来るんだろう?この機体の『兄弟機』って奴がさ。」

 

「興味はないな、余計な事をしてくれなければ良いが。」

 

 仮面の男が遠くを見つめる。

 

「この感覚……貴様も来るのかアンナ・フォン・エルデヴァッサー……。」

 

 

 

ーーー

 

 

『ブラウエンジェルよりバルフィッシュ、ブラウエンジェルよりバルフィッシュ。』

 

「こちらバルフィッシュ。」

 

『ブラウエンジェルは順調、全て予定通り。』

 

「バルフィッシュ、了解。」

 

 通信を切る、今の連邦がこの通信を傍受するほど警戒しているとも思えないがリスクは最小限に抑えなければならない。

 

「これより予定ポイントへ向かいブラウエンジェルと合流する。各員星の屑作戦完遂の為に死力を尽くせ。」

 

『了解!』

 

 3年もの間、辛酸を舐め続けた。その雪辱を晴らす機会がやっと訪れたのだ。

 この作戦に失敗は許されない。

 

 

ーーー

 

 

「大佐、このままの速度で移動すれば夜にはトリントン基地に到着する予定です。」

 

「トリントン基地へ連絡は?」

 

「既に報告済みです。」

 

「分かりました。総員第二種戦闘配置で待機、気を抜かぬように。」

 

「ハッ……第二種戦闘配置ですか?」

 

「はい。向こうで何が起こっていても直ぐに対処出来る様にしておきなさい。」

 

 まるで戦闘が始まると告げている様だと困惑しているジュネットを無視し、艦長席に座る。

 

「か、各員第二種戦闘配置で待機。繰り返す、第二種戦闘配置で待機。」

 

「客人はどうしていますか?」

 

「既に自室でお休みになられている様です、気が抜けたのでしょう。」

 

「分かりました。このままトリントン基地へ全速前進、運航中も艦の運用データを取る事を忘れない様に。」

 

 慌ただしくクルーが動くのを見る。今の私は冷淡に見えているだろう、自分でも酷い道化だと内心笑うのであった。

 

 

 

 

「第二種戦闘配置ですってグリム隊長。」

 

 MSデッキに待機していたベアトリスがそう発言する。

 

「聞こえていたよベアトリス少尉。」

 

「何で連邦軍の基地に向かうのに第二種戦闘配置なのでしょうか?」

 

「いい質問だね。逆に聞こう、何でわざわざ臨戦体制で向かうと思う?」

 

 隣にやってきたセレナ少尉も加わり、大佐の発令したこの第二種戦闘配置について話を始める。

 

「私が思うには海洋に潜んでいる可能性があるジオン残党軍に対する警戒かと思います隊長。」

 

「良い線を行ってるよセレナ少尉、それもあるだろうね。」

 

「陸地にも残党軍がいてもおかしくないでしょうしねぇ。」

 

「オーストラリア大陸のジオン公国軍は一年戦争でも早期に停戦に応じているから海洋よりは危険性は少ないけどね。ついでに言えば曙光のクルーに敢えて緊張感を与えているんだろう、まだ処女航海中でクルーの練度は高くないんだから何かあった時に使える様にはしておきたいだろうし。」

 

「はぁ〜……流石はグリム隊長。慧眼でありますね!」

 

「呑気にしているがベアトリス少尉、君やセレナ少尉も宇宙戦ばかりで地上での戦いは不慣れなんだから気を抜かない様に。」

 

「了解です!」

 

「既にシミュレーションは済ませています。ご安心ください。」

 

「シミュレーションも大事だけど実戦では状況一つで何もかもが変わるのは宇宙でも分かっているだろう?宇宙の360度全てが戦闘空間というのも対応するのは難しいが地上は地上で天候、地形、時間帯で様々な一面を見せる。決して油断をするな。」

 

「はい!」

 

「了解です。」

 

「こんな時にアンダーセン大尉がいたら『どんな状況でも逃げ回れば死にはしない』って言ってくれるだろうけど、僕は気の利いた事は言えない最善を尽くして生き残れ良いな?」

 

『了解です!』

 

 とは言ったが自分自身もこの第二種戦闘配置には疑問を抱く、大佐は何か焦っているのか……或いはニュータイプと呼ばれるエスパーじみた能力か?いずれにせよこのまま何事もなくトリントンには到着しそうには無い、そう思った。

 

 

ーーー

 

 

「見ろよキース!やっぱりガンダムだ!」

 

「おいコウ……!静かにしろよ、俺達勝手に潜り込んでるんだぜ……!?」

 

 アルビオンのMS整備デッキで二機のガンダムを見つめる、これがアナハイムの造った新型のガンダムなのか……!

 

「こっちはコア・ファイター付きの機体かぁ……それにこっちの重MSタイプもタダものじゃないぜ?」

 

「確かに凄いけどさぁ、やっぱり見るのは明日にしようぜコウ。バレたらマズいって。」

 

「もう少しくらい良いだろー……。」

 

「貴方達!そこで何をしているの!?」

 

 ガンダムを眺めていると突然大きな声が響き渡る。声のする方を見ると女性が立っていた。

 

「おっ、こりゃあ美人……。」

 

「何をしているのかと聞いています!」

 

「ガ、ガンダムの見学だよ、此処にあるって聞いたから。」

 

「見学なら後日連絡します!今はガンダムはメンテナンス中よ、出て行ってちょうだい!」

 

「何だよ、少しくらい良いじゃないか。こっちのガンダムは以前のより反応速度が上がって出力は30%程上がってるのかい?この基地でジムでテストしてたバックパックだと3分の2くらいしか出せてなかったけどこの機体なら100%の性能が出せそうだ。それでこっちの機体は対核兵器用で肩のバズーカは戦術核装備だろ?」

 

「えっ?」

 

「その反応やっぱりそうかぁ、いやぁやっぱり凄いなぁガンダムは!」

 

「すいませんねぇ、コイツMSオタクなもんで。貴方はアナハイムの人?」

 

「えぇそうよ。良いから早く出て行ってくれないかしら?2号機も核弾頭を積んだばかりで調整中なのよ!それに此処は今関係者以外立ち入り禁止の筈よ!」

 

 それを言われると苦しい。これ以上下手に挑発するのもあれだしそろそろ戻った方が良いか。

 

「ごめんごめん、悪かったよ。行こうぜキース。」

 

「えっ?待てよコウ、デートに誘うくらいは良いだろ?」

 

「やめとけって、そんな雰囲気じゃないぜ彼女。」

 

「ったく……帰ったら飲むのに付き合えよな全く……。」

 

 トボトボと艦から出ようとすると、大尉の制服を着た男性とすれ違う。

 すれ違い様に敬礼をする。この艦のパイロットだろうか?

 

「素晴らしい、見事な機体じゃないか。」

 

「自分もそう思います。」

 

「キミ、バズーカに弾頭の装備は済んでいるのかね?」

 

 確かさっき核弾頭を積んだばかりだと言っていたな。

 

「は、はい。」

 

「では試してみるか。」

 

 そう言うと大尉の男性は昇降機で弾頭を装備しているガンダムへと向かう。

 

「えっ……?」

 

 今から乗り込むつもりなのか?呆然としていると先程のアナハイムのスタッフがまた大声を上げる。

 

「そこの貴方!何をしているの!?ハッチを閉めて降りなさい!」

 

「……その声は。」

 

 男は一度振り返るがそのまま機体へと乗り込んだ。

 

「誰……?降りて……聞こえているでしょう!?降りてちょうだい!」

 

「キース、何かおかしいぞ……?」

 

 乗り込まれた機体は接続していたケーブルを強制的に剥ぎ取り歩き始める。

 

「誰か……!誰か2号機を止めて!」

 

 慌てて昇降機へ乗り込みもう一機のガンダムへと向かう。

 

「ちょっとキミ!この機体に乗り込もうって言うの!?」

 

 整備服を着た大柄の女性が警告をする。

 

「自分はテストパイロットのコウ・ウラキ少尉です!この機体で止めます!」

 

「待ってちょうだいウラキ少尉!他の人を呼ぶわ、貴方じゃ……!」

 

「僕だってパイロットだ!」

 

 コクピットに乗り込み起動準備に取り掛かる。

 

「1号機は今給弾中よ!すぐには出せないわよ!」

 

「急いでください!」

 

 その間にも2号機は歩みを進める。

 

「なんて事……2号機のパイロット聞こえているでしょう?今なら罪は軽いわすぐに2号機から降りなさい!」

 

 しかしその通信も虚しく2号機は手持ちのサーベルで艦の外壁を貫く。

 

「この機体と核弾頭は頂いて行く。ジオン再興の為に!」

 

「なっ……この声は……!?」

 

「ジオンだと……!?」

 

 

 

ーーー

 

 

「非常事態発生!非常事態発生!トリントン基地から高濃度のミノフスキー粒子の散布を確認!更に戦闘のものと思われる爆発が多数!」

 

 ジュネットの言葉にクルー全員が困惑する。誰も戦闘が始まるとは思っていなかったのだから当たり前の反応だ。

 

「ジュネット、トリントン基地までは後どれだけ掛かりますか。」

 

「ハッ、最大戦速で30分程となります!」

 

「曙光、最大戦速。MS隊は出撃準備、私も出ます。」

 

「大佐が!?」

 

「ガンダムの出撃準備を、あれなら他の機より先に出撃できます。」

 

「そんな……無茶です大佐!」

 

「艦の指揮はジュネット、貴方に一任します。戦闘エリアに入り次第基地に飽和攻撃を仕掛けている砲撃機の位置を特定し攻撃しなさい。」

 

「くっ……無茶はしないと誓ってください!」

 

「分かっています。MSデッキへガンダムの準備を、私が出ます!」

 

 

 

「大佐が出撃する……!?」

 

「どうして……!?」

 

「それより戦闘準備を急げ二人とも!僕達も出撃するんだぞ!」

 

 慌てている二人の少尉に喝を入れる、前線から離れていた大佐が出撃するのは確かに困惑するのも仕方ない。一年戦争でエースだったとは言え数年は実戦から離れている。ガンダムのテストには参加していたが実戦となると話は別だ。

 

「せめて僕らが支援しないと……。」

 

 とは言ってもあの『ガンダム』の特性上、大佐が一番手として出撃する事になる。それが一番の懸念だ。

 

「クソ……!アンダーセン大尉、貴方がいれば大佐を止められたろうに……!」

 

 死に急いでいる、そんな予感が頭をよぎる。こんな時にあの人がいてくれたら……。

 

 

 

「ガンダムの出撃準備は?」

 

「完了しています大佐!」

 

 紅く塗られた機体に乗り込み起動準備に取り掛かる、全てオールグリーンなのを確認すると機体がカタパルトデッキへと移動を始める。

 

「フライトユニットの接続も良好、滞空可能時間は約40分です大佐!」

 

 整備スタッフの報告を聞き頷く。それだけの時間が有れば問題ないだろう。

 

「大佐!僕達が降りるまで直接の戦闘は控えてください!」

 

 MS部隊長のグリム中尉から警告を受け取る。

 

「分かっています、戦況の確認もしなければなりませんし無理をするつもりはありません。安心して降下してください。」

 

「了解です!」

 

 その間にカタパルトデッキへと昇降が終わり出撃体制が整う。眼前には大きく燃え広がる爆発が連鎖している。

 

『カタパルト接続完了!いつでも出られます大佐!』

 

「了解です。アンナ・フォン・エルデヴァッサー《ガンダム ルベド》出撃します!」

 

 紅いガンダムが空を舞う、彼が示した戦いの幕が今開こうとしていた。


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