機動戦士ガンダム 紺碧の空へ   作:黄昏仮面

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※今回原作キャラへのアンチヘイト的なかなり発言が多いです、この0083年編の2部は基本的に原作へのアンチヘイト要素が多くなりますので予めご了承しておいて欲しいのですが、今回はその中でも特に酷いと思うので気に食わないと感じたらブラウザバックを推奨します。




第4話 暴かれた真実

 

 奪われたアナハイムのガンダム試作2号機の追撃に失敗し、トリントン基地へ帰還した追撃部隊は疲労困憊の中、状況の整理と基地の修繕に取り掛かっていた。

 

『すまない大佐。こちらからはこれ以上の援軍は送れない、ジャブローはこの事態の重要性を軽視しているのだ。』

 

「ハッ、ご安心ください。我々アルビオンが敵の追撃を続けます。しかしコーウェン中将、あのアーウィン・レーゲンドルフと名乗る男とペズンのリング・ア・ベル隊は如何なさいましょう?」

 

『彼らの意志に任せたまえ、アーウィン・レーゲンドルフはジャブローから特命を受けている暗部の人間だ。それにリング・ア・ベル隊は独自の権限を持っている、私と言えど彼らの動きを制限出来はしないのだ。』

 

「分かりました、この件については彼らと協議し対応します。」

 

『頼んだぞ大佐、今は君だけが頼りだ。』

 

 通信が切れる、ジャブローの上層部は先の大戦の勝利で傲慢になりつつある、良識派のコーウェン中将が幾ら説得した所で無意味だろう。

 しかしどうするべきか、同じく新型ガンダムのテストに来ているリング・ア・ベル隊はともかくあのアーウィン・レーゲンドルフと名乗る男はあまり協力的には見えないが……。

 

 

ーーー

 

 

『という訳で打ち上げられたコムサイは全部ダミーだったよ隊長。連中は最初(ハナ)から宇宙に逃げるつもりは無かったみたいだ。』

 

「ありがとうカルラ、けれど敵がまだ宇宙に上がる可能性が無いとは言えませんよ。敵は我々の動きを線密に把握している可能性があります、となれば周回軌道にアマテラスを待機させていた事も知っていたかもしれませんから。」

 

『ってぇなるとアタイらがいなくなった後でパトロール艦隊の層が薄くなった時にでも宇宙に上がる可能性もあるって事か……そうなるとアタイらも手を出しようがないね……。』

 

「そうですね、敵がいつどのタイミングで宇宙に上がるかなど敵しか知りようがありません。アマテラスは所定の日時まで念のため待機してからペズンへ戻りなさい。」

 

『了解だよ隊長、他の連中にもそう伝えておくよ!』

 

 通信が切れる。結局打ち上げられたコムサイには最低限の人員だけが乗っていただけで奪われた試作2号機は恐らくは潜水艇での脱出をしたのだろう、今更それが分かったところで最早捜索は不可能だ。

 

「グリム、トリントン基地の状況は?」

 

「施設の大半がやられてしまってます、基地の機能は殆ど使えないと言っても過言ではないでしょうね。司令官だったホーキンズ・マーネリ准将も戦死されていますし壊滅状態です。」

 

「大佐、ジャブローのマルデン少佐から通信が届いております。」

 

「繋いでください。」

 

 通信手の言葉に応えるとモニターにウッディ・マルデン少佐が映る。

 

『エルデヴァッサー大佐、どうやら大変な事になっているらしいな。』

 

「はい。トリントン基地はジオン公国軍残党と思わしき軍勢により基地司令のマーネリ准将を始め施設も含めて大きな損害が発生しています。更にアナハイムで開発されていた核搭載型MSであるガンダム試作2号機が奪われアナベル・ガトーを名乗るパイロットと共に恐らく海中深くに身を潜めています。」

 

『アナベル・ガトー……ソロモンの悪夢か。すまないな、本来であればジャブローを始め連邦海軍総出で事に当たらねばならぬのだが上の連中はあまり乗り気では無い様だ。』

 

「そうでしょうね、事態の大きさよりもコーウェン中将の失態に対する批難をどうするかの方が重要でしょうから。」

 

 私から見ても戦術核を使用するというコンセプトは早計に思うところがある、それを責めるつもりはないが軍の幕僚達はこれを期にコーウェン中将の勢力を削ぐつもりなのが目に見えている。

 

『やれやれ、お偉方の思惑など現場には関係ないと言うのにな。』

 

「それで、敵の逃走経路について何か分かった事などはありますか?」

 

『恐らくはアフリカ大陸だろうとしか予測は出来なかった。あの地域は未だ多くの公国軍残党が潜んでいるし合流するのであればそこが無難であろう。勿論ジャブローの警戒もしてはいるが君の推測している様にこの広大なジャブローで敵が司令部を正確に探し出せるとるも思えんし、戦術核を装備しているとは言え残党の勢力で落ちるほどジャブローは防備は薄くない。』

 

 それはそうだ。敵がどれだけの規模かは分からないが当時の公国軍の規模を上回る事など不可能であるのだからジャブロー攻略は夢のまた夢の筈だ。

 となると彼らが狙っているのはジャブロー攻略ではなく、それ以外の何かだ。

 

「参考になりましたウッディ少佐、我々に通信する事すらリスクを負う行為ですのに。」

 

『なに、構わんよ。我々はあの戦いを共に駆けた同志だ。君達の困難は私の困難でもある、やれる事は惜しまず協力するつもりだ。』

 

「ありがとうございますウッディ少佐。それともう一つお聞きしたい事が。」

 

『例のアーウィン・レーゲンドルフと言う男についてか。すまないが私にも仔細はあまり伝わっていないのだが、どうやら連邦政府高官に雇われた機密諜報員ではないかと言われている。』

 

「機密諜報員……。」

 

『彼らは何らかの特命を受けて其処にいる筈だ、となれば労せず彼の目的は自ら告げるだろう。』

 

「了解しました。重ね重ねありがとうございます。」

 

『私は君達の武運を祈る事しかできない、厳しい状況だがリング・ア・ベル隊の健闘を祈る。』

 

 通信が切れる、ジャブローの中では派閥に属さないウッディ少佐ではあるがあの戦いで共に戦った私達には何かと手助けをしてくれる。有難いが権謀渦巻くあのジャブローで無理に私達を助け彼に不利な事にならなければ良いが……。

 

「大佐、これからどうしましょうか。」

 

 グリムの問いに考える。普通であれば奪われた試作2号機を追うべきではある、ただジェシーの予言通りであるならば敵はアフリカのキンバライト鉱山跡地を基地にし其処からHLVで宇宙に上がると言っていた。

 しかしキンバライト鉱山跡地などアフリカ大陸には至る所に点在している、そこから巧妙に敵の基地を探し出すのはまさに砂の中から金を見つける様なものだ。

 それを解決するには敵のスパイであるというアナハイムのスタッフを問い正すのが一番だろう。

 

「まずはアルビオンのシナプス艦長、それに奪われた試作2号機を開発したアナハイムのスタッフ達にも話を聞く必要があるでしょう。」

 

 そこで敵のスパイを炙り出せば良い、必要があるなら尋問すれば良いだけだ。

 

「エルデヴァッサー大佐、トリントン基地より通信。アーウィン・レーゲンドルフというジャブローからの特使がアルビオンとアナハイムのスタッフ、そして我々リング・ア・ベル隊に報告する話があるそうです。こちらへの会合を求めています。」

 

「アーウィン・レーゲンドルフが……?応じると伝えてください。」

 

「了解です。──、会合はアルビオンで行うとの事です。」

 

「了解しました。グリムとジュネットにも同行してもらいます。」

 

「ま、待ってくれアンナさん!アナハイムの人間も参加するのであれば私も行かせて欲しい。」

 

 アナハイムという言葉に反応したのは客人のアルベルト・ビストだ。確かにアナハイムに縁が深い彼は会合に参加できる立場ではあるが……。

 

「アルベルト様、これは軍の話し合いになります。幾らアナハイムに縁の深いビスト財団の貴方と言えど場違いとなる可能性があります。」

 

「むぅ……しかし聞かない訳にもいかないだろう。父や叔母にも報告しなければならないのだし。」

 

「御曹司としての役目を果たしたいと。」

 

「意地悪な言い方はやめて欲しいなアンナさん。そういう立場なんだよ僕は……。」

 

 彼の虚しそうな顔を見て、皮肉を言った事に反省する。

 自分でも変に苛ついているとそう感じている。原因はあのアーウィン・レーゲンドルフと名乗る男なのは間違いがない。

 彼には謎が多すぎる、存在そのものが怪しく感じてしまう何かがある。

 

「……申し訳ありませんでしたアルベルト様、不躾な言葉を放ってしまいました。」

 

「いや良いんだ。逆にそうやって媚びずに本心を告げてくれる方が僕は嬉しく感じるよ。……今まで僕の周りにはそういう人間はいなかったからね。」

 

 彼の言葉の意味を理解できる自分がいた、高い地位にいる者の子にかけられる言葉の多くは相手が意図せずともどうしても自分ではない誰かを意識した言葉になる。

 彼がビスト財団の御曹司として今までどれだけ俗人から下卑た言葉を聞かされていたかは想像するのは容易い。

 

「ではご同行しましょうアルベルト様。しかし軍の会合と言うのはお忘れなく、貴方はあくまで軍属では無いのですから。」

 

「あぁ、分かっているよアンナさん。」

 

 アーウィン・レーゲンドルフは私達を集めて何をするつもりか、それが今から分かる。私達はアルビオンへと向かった。

 

 

 

ーーー

 

 

「基地の混乱も収まらぬ中、皆様にはお忙しい中わざわざ集まって頂き感謝します。」

 

 そんな気遣いを微塵も感じさせない口調からアルビオン内での会合が始まった。

 

「アーウィン・レーゲンドルフ。特使と呼んだ方が宜しいか。何故我々をここに集合させたか伺おう。現在我々は奪われた試作2号機奪還の為に急を要している、ここで無駄に時間を取られたくはないのでね。」

 

 シナプス艦長もそれを察したのか早々に話を打ち切りたく思っている。それだけ彼が人を小馬鹿にした態度を取っているという証左ではあるが。

 

「まぁ待ちたまえエイパー・シナプス大佐。まず私と弟が何故このトリントン基地に来たか、それこそ急を要する案件があったからなのですよ。」

 

「ほう、それは一体何か聞こうではないか。」

 

「まず第一に、何故昨夜このトリントン基地がジオン公国軍残党と思わしき軍勢に襲撃されたか、シナプス大佐やエルデヴァッサー大佐はどうお考えかな?」

 

「敵が何処からか我々の情報を入手し奇襲を仕掛けた、それだけでは無いと?」

 

「シナプス艦長、その情報を敵が何処から入手したかを彼は恐らく知っているので無いのですか。そうなのでしょう?」

 

 そう問いただすと彼の弟であるという緑髪の少年、確かレイ・レーゲンドルフと言っていただろうか、彼が喋り出す。

 

「僕達は数年前から連邦軍やそれに関連する企業や財閥などの内偵を行なっていた。勿論連邦軍からのお墨付きでね、ジオン公国はギレン・ザビの拘束、そして死刑によって事実上は壊滅したがキシリア・ザビがアクシズで新生ジオン公国を立ち上げ、更に連邦軍との共闘をしたとは言えザビ家であったガルマ・ザビがネオ・ジオン共和国を立ち上げている、戦争が終わったとは言え戦争の火種となる要因は多すぎる、それは分かるだろう?」

 

「えぇ、ギレン・ザビのシンパは未だ存在しているしアクシズに呼応する残党勢力も少なくは無いでしょう。」

 

 実際にジオン共和国やネオ・ジオン共和国に帰属しない軍勢は多く存在する、先の戦争での犯罪行為が理由である者もいれば、ザビ家の狂信者であったり連邦軍の支配を嫌う者であったり平和と言うには未だ遠いのが現実だ。

 

「こう言っては癪に触るかもしれませんがアナハイム・エレクトロニクスやEC社も調べさせてもらっている。両社ともジオニックというジオン公国の企業を買収しているのだから下手をすればジオン公国に起因する勢力と関わりがあってもおかしくはないとね。」

 

「……。」

 

 連邦政府がそれを懸念するのは理解できる、一企業がMS開発分野に参入すれば軍とのバランスに大きく揺らぎが発生するからだ。

 連邦軍に味方している内ならともかく、仮にもしも反連邦勢力と組めばそのパワーバランスはいとも簡単に崩れ落とす事が可能なのだから。しかし……。

 

「アナハイムとEC社の監視……!?幾ら連邦軍から許可を得ていると言ってもそれは許される行為ではないだろう!?」

 

「……すみませんが彼はどなたですかな?」

 

 アルベルトの怒号にアーウィン・レーゲンドルフが苛立った声をそう言った。

 

「私はアルベルト・ビストだ!アナハイムと縁のあるビスト財団の現当主カーディアス・ビストの息子だ!」

 

「軍属でない者に口を挟んで欲しくはないのだがな。まぁ良い、アルベルト氏よ確かに我々の行動は軍とアナハイム、EC社の関係にいらぬ亀裂を生む行為だ。しかしそれは両社とも()()()()()()()()()()()()()の話だがな。」

 

「何が言いたいんだ……?」

 

「簡単な話だ、アナハイム・エレクトロニクスもEC社も調べれば埃が出るという事だ。……レイ。」

 

「あぁ。」

 

 アーウィン・レーゲンドルフがレイ・レーゲンドルフに何かの指示を送る。

 そしてレイと呼ばれる少年がアタッシュケースを取り出し机の上に置いた。

 

「僕達が数年かけて調べ上げた機密がこの中にある。その前に……アーウィン。」

 

「あぁ。まず一つ言っておく、我々がこの基地に来た理由……それはこの基地をジオン残党軍が襲う可能性があったからだ、残念ながら到着した時には既に手遅れだったがな。」

 

「何だと……!?つまり君はこの基地が攻撃を受けると事前に分かっていたと言うのか!?」

 

 アーウィン・レーゲンドルフの言葉にシナプス艦長が驚きの声を上げる。

 私も驚いていた、ジェシーの残した記録からそうなる可能性があると思っていた私ですら半信半疑であったのだから。それを突き止めていた彼の情報源とは一体……。

 

()()()()()()()()。」

 

「……!!!」

 

 彼の発した言葉に、同席していたアナハイムのスタッフが1人、異様な反応を見せた。

 

「嘆きの天使とはジオン残党軍が使うにしてはチャーミングなネーミングセンスだな。ロマンチストでも残党軍にいたか?ニック・オービル整備技師。」

 

「オービル……!?まさか貴方……!」

 

 女性のアナハイムのスタッフが驚きの声を上げる、ニック・オービルと呼ばれた男はパニックとなり部屋から逃げ出そうとした。しかし……。

 

「おっと、逃がさないよ。」

 

 レイ・レーゲンドルフが片手で彼の腕を掴む、オービル整備技師は引き剥がそうと暴れるが掴まれた腕は全く離れない。異常な程の力で掴まれている。

 

「な、なぜ……!俺のことを……!」

 

「簡単な話だ、言っただろうアナハイムもEC社も連邦軍の許可を得て調べていたと。頻繁に月で怪しげな連中と会っていた貴様の会話を盗聴させて貰っていたのだよ。肝心の襲撃日時までは掴めなかったがね。」

 

「くっ……!クソ……!そ、そうだ、俺はスパイとしてアナハイムに潜入していた。」

 

 諦めたのか項垂れる様に頭を下げて彼は自分がスパイだと認めた。

 

「賢いなニック・オービル、そうやってちゃんと罪を認めれば情状酌量の余地も与えてやれると言うものだ。」

 

「まさか……アナハイムから情報が漏れていただなんて……!」

 

 同僚であった女性スタッフもこれには驚きを隠せなかったようだ。それもそうだろう、今まで一緒に働いていた同僚がスパイだったと分かれば誰でもそうなるだろう。

 

「……?何を他人事の様に言っているんだニナ・パープルトン整備主任、貴様も同様のスパイではないか。」

 

「え……!?」

 

 アーウィン・レーゲンドルフの言葉にニナ・パープルトンと呼ばれた女性が驚く。

 

「ここにいる者は既に知っているでしょう。今回奪われたアナハイムのガンダム試作2号機、そのパイロットがソロモンの悪夢と呼ばれたアナベル・ガトーだと言うのは。」

 

「……っ。」

 

「我々の調査でニック・オービル以外にもスパイがいる事が判明していたのだよ。これを見たまえ。」

 

 彼がアタッシュケースを開くと其処には幾つかの資料が入っていた、その中の一つにニナ・パープルトンと呼ばれている女性と親しげに写っている男が1人……この顔は……。

 

「軍属なら一度は手配書などで見た事があるでしょう、この男こそがアナベル・ガトーなのですよ。」

 

「そんな……!嘘よ!確かに彼とは以前交際していたけれどある日突然いなくなって……!」

 

「そんな言い訳が通用するとでも思っているのか?情報によればこの試作2号機は本来様々な弾頭を使用するコンセプトで専用のバズーカを開発していたのが、いつからか核弾頭の運用に特化された機体に変更されたとなっている。君達2人がジオン残党軍の為にそうさせたのではないのか?」

 

「違うわ!私はそんなことは知らない……!」

 

「それにだ……今回奪われた機体に搭載された核弾頭がMk.82核弾頭だと言うのも仕組まれた意図を感じる。」

 

 Mk.82核弾頭……!?あれは形式上では戦術核ではあるが、その威力は戦略核レベルの筈……!

 

「知らない……!本当に知らないのよ!」

 

「それを信じると本当に思っているのかな?お前達2人は拘束させてもらう。」

 

 レイ・レーゲンドルフがニック・オービルを拘束すると、その後ニナ・パープルトンも拘束する。

 アナハイムから情報が漏れていた、これは確かにジェシーの言っていた話と合致する。しかし確かこのニック・オービルという男だけの筈だ。

 

「この件に関してアナハイムの罪は大きいぞアルベルト氏、まぁ貴方はビスト財団であるから責は問われぬだろうが、叔母であるマーサ・ビスト・カーバイン氏は連邦軍に事情聴取されてもおかしくない。」

 

「くっ……うっ……!そ、そもそもだ!新型のガンダムに核弾頭が装備されるだなんて、あんな機体を何故アナハイムが開発していたんだ!?僕は父から何も聞いていない!」

 

「アルベルト様、これ以上の発言は見苦しいだけです。口を慎んだ方がよろしいですよ。」

 

「しかしアンナさん……!僕は……本当に何も知らされていなかったんだ!」

 

「だから貴方は御曹司だと言うのです!今ここにある真実が全てなのですよ!目の前の現実を受け入れなければならないのです!貴方がビスト財団だろうとアナハイムと縁が深かろうと、その現実は変わりはしません!」

 

 目紛しく様相を変える場に、シナプス艦長が大声を上げる。

 

「痴話喧嘩と変わらぬ政治闘争は他所でやりたまえ!今は軍事行動中だ!」

 

「……申し訳ありません。」

 

 一度場が静まり返る。

 

「結論を言えば、今回の件はアナハイムに紛れていたスパイによる計画され犯行であったという訳だ。しかしながらシナプス大佐、貴方にも非がないとは言えませんよ。」

 

 アーウィン・レーゲンドルフはシナプス艦長にも食いかかる。

 

「どういう事だ?」

 

「そもそも艦のセキュリティさえしっかりしていれば奪われる心配なんて無かったって事さ、そうだろアーウィン?」

 

「そういう事だ。すまないが艦の監視カメラを見させてもらった。昨夜のガンダムが奪われる直前のね、見たまえ。」

 

 そこにはトリントン基地のパイロットと思わしき青年が2人、ガンダムの前で何かを話している映像が映っていた。

 

「本来同じ連邦軍と言えど、管轄下ではない部隊の人間がこうも容易く機密の塊である新型機まで到着するのは……すまないがザル警備と言っても良いレベルだ。新造艦とはいえクルーの練度が足りていないのではないか?」

 

「ぬぅ……!」

 

 シナプス艦長が歯を食いしばってる。確かに幾ら情勢が安定しているとは言えこうも簡単に核搭載機に近づける状況だったのならその責任は大きいだろう。

 

「そもそもこのアナハイムとEC社の新型ガンダム開発計画自体がジオン残党軍に対する兵器供給なのではないかと言う疑問すらこちらは抱いているのですよ。アナハイムもそうだがEC社にも疑いがある。」

 

「……どういう事ですか。」

 

「待ってください、それなら僕達リング・ア・ベル隊も貴方に疑問があります。貴方達2人が乗っているガンダム、あれはペズンで数年前に開発されていたガンダムニグレドじゃないですか!貴方達が何故あの機体を!」

 

 疑問を呈した私の言葉の後にグリムが続く。

 

「グリム!口を慎みなさい!」

 

「……っ!すみません大佐。」

 

「いやいや、彼の疑問はもっともだ。我々の乗っているガンダムニグレドは正しく彼の言ったように数年前に君達が開発していた機体に間違いは無いのだからな。」

 

「……!それは一体どういう事なのですか……!」

 

「先程も言っただろう?この新型ガンダム開発計画自体がジオン残党に対する兵器供給ではないかと。この機体も同様だと言っているのさ。」

 

「何が言いたいのですか!」

 

「そう怒るな大佐殿。簡単な話だ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだよ。」

 

 彼の言葉の意図する事……それはつまり……。

 

「もっと簡単に言おう。『リング・ア・ベル隊のジェシー・アンダーセン大尉はこの機体をジオン残党に与えようとしていた。』我々はそれを止めさせてもらったがね。」

 

「嘘を……嘘をつかないでください!彼はそんな事をする人ではない!」

 

「数年前のペズン周辺宙域にて、プロトタイプであったこのガンダムニグレドが襲撃された事件があっただろう?あれは彼による自作自演だと判明したのだよ。レイ。」

 

「あの時僕らはこの事件について詳しく調べていたんだ、あの宙域に漂流していたガンダムフェイス、あれはガンダムニグレドの物ではなく別の機体の頭部を使用した物だった。」

 

「馬鹿な、我々とてあの事件の事は事細かに調べた。あの当時現存するガンダムタイプは全てルナ・チタニウム合金の使用された機体ばかりで、あの時使用していたガンダムニグレドは実証検証の為のテスト機で使用されていた装甲の素材はチタン合金セラミック複合材だ。あの時発見されたガンダムフェイスは間違いなくチタン合金セラミック複合材が使用された物だった。」

 

 ジュネットが間に入り反論する。そうだ、仮に別の機体のガンダムフェイスだとしたらその装甲はルナ・チタニウム合金になる筈なのだ。

 

「そんなものは予備パーツで何とでもなるだろう?調査ではあの事件の前後に機体の設計図が一部ハッキングされていたとも聞く。ジェシー・アンダーセンが工作を行うには十分だ。」

 

「何を根拠に!証拠があるとでも言うのか!」

 

 激昂するジュネット、私もまた怒りを隠さないでいた。

 あのジオン公国……いや、ザビ家のやり方を憎んでいたジェシーが彼らを信奉する残党軍に与するなど有り得ないのは私達が一番良く知っている。

 

「ある。でなければ言うはずも無いだろう?すまないが意味もなく怒鳴らないで頂きたいな。苛つくのでね。」

 

 そういうと次は電子端末を取り出す、部屋のモニターに映像を投影させると其処には……。

 

 

 

『レイ!敵機と遭遇した、敵はジオン製MS……機種照合、ケンプファーと呼ばれる機体だ。カラーリングが既存の物と違う、応援を頼む。』

 

 恐らくはアーウィン・レーゲンドルフが乗っている機体のコクピットからの映像と音声、そこにはジオンの物と思われるMSとの戦闘が繰り広げられていた。

 

『分かったよアーウィン……っく!ビーム攻撃……!?ゲルググタイプもいるのか!?』

 

 間近に移るカスタマイズされたジムは弟のレイ・レーゲンドルフの機体だろうか?ビーム攻撃を受けるもまるで先読みしたかの様に綺麗に回避に成功している。

 

『待て……あの機体はなんだ……!あれは……黒いガンダムだと!?何故連邦軍の機体がジオンに味方を、ガンダムのパイロット!何故ジオンに味方をする!』

 

『……俺は過ちを正さなければならない……例えそれが誰からも認めなられなくとも……!』

 

 この……声は……。

 

『貴様は何者だ!』

 

『俺は……俺はジェシー・アンダーセンなんだ……!俺が……!』

 

 そこで通信は途切れ、その後の映像は彼ら2人とそれに対するガンダムニグレドを含めた敵機の2機との対決が続く。

 最終的にガンダムニグレドはその後彼ら2人のコンビネーションに耐え切れずに最終的に機体を捨てケンプファーと共に去って行く姿を最後に戦闘記録の再生が終わった。

 

「と、ご覧の通りだ。この戦闘はペズンとルウムの間にある宙域で起こったものだ。我々が推測するに彼は自作自演で事故を演出し、ガンダムフェイスを捨てる事で自分の生死を偽装した。その後仲間と合流して新型機と共に逃げ去ろうとした所を偶然にもジオン残党の調査任務中であった我々と遭遇したと判断している。」

 

「嘘よ……そんな……。」

 

「認めるしかないでしょうねアンナ・フォン・エルデヴァッサー大佐、彼は連邦軍の裏切り者でジオン残党軍と内通していた。我々はその後この機体を報酬として連邦軍から譲り受け改造させてもらったのだよ。」

 

「な、なら何故大尉が連邦軍を裏切っているとリング・ア・ベル隊に報告が無かったんですか!それはおかしいですよ!」

 

「ヨハン・グリム中尉、我々がジェシー・アンダーセンというリング・ア・ベル隊のエースがこの事件に関わっていると知った時にまず判断したのはこの事件が彼個人を原因に発生したものか、或いはEC社やリング・ア・ベル隊も含めた連邦軍への背信行為であるのかだ。リング・ア・ベル隊やEC社も関与しているのであれば連邦軍の大スキャンダルになる、精密に対応する必要があった訳だ。」

 

「くっ……。」

 

「安心したまえ。調査の結果、その後のリング・ア・ベル隊やEC社には連邦軍を裏切る素振りは全くなく、ジオン残党に対しても並々ならぬ成果を上げていた君達は連邦軍を裏切るとは判断されなかった。つまりはあの事件は彼個人が起こした物だと──」

 

「それ以上はやめてください!!!」

 

 嘘だ、そんな事は絶対に、彼は絶対に私を裏切る訳がないのだ、彼が残してくれた記録だって……。

 ……その記録も彼がわざと残していた物だとしたら……?彼が自作自演であの事故を起こし、私にあの記録を見せて……彼の予言だってジオンと手を組んでいれば蜂起の知りようはいくらでも……。

 

 違う……!彼は絶対に、絶対にそんな事をする人じゃない。仮にこの映像が事実だとしても、何かの理由がある筈だ。

 彼は私のフィアンセで、私の騎士なのだ。彼が私の名誉と誇りを傷つける真似は絶対にする筈がない。私がそれを信じないで誰が信じると言うのだ。

 

「アンナ・フォン・エルデヴァッサー大佐、フィアンセがスパイだったと言う事実は受け入れ難いものかもしれないがこれが真実だ。」

 

「……。」

 

 私は大きく手を振って彼の顔に平手打ちをする、彼の仮面は取れその素顔が明らかになる。

 

「……挑発が過ぎたようですな大佐殿。謝らせてもらおう。」

 

 その素顔は顔面の上半分が焼けた跡を残す酷い姿だった。

 

「君のその顔は……。」

 

 シナプス艦長も驚きの声を上げる、私もその素顔が気になっていたがまさかこんな素顔だとは思いもしなかった。

 

「ソロモン攻略戦での名誉の負傷だ。一年戦争中は私もパイロットであったのでな。」

 

 あの戦いの……、あの戦争では多くの負傷者が出た。彼もその1人だったのだろうか。

 

「さて、色々と本題が逸れたがこの事態を引き起こした要因の説明は理解してもらったかな。アナハイム、EC社の一部のスパイがジオン残党軍と結託し新型ガンダムの強奪を目論んだと言う事だ。つまりこれ以降の追撃もスパイに情報が筒抜けになる可能性がある。」

 

「君の言う事実の真偽は正確に調べる必要性があるが確かに情報の漏洩は常に気を配る必要があると言う訳か。君はこのガンダム強奪事件に関してどう動くべきだと判断するのだね?」

 

「シナプス大佐、貴方達アルビオン隊は連邦軍の命令でガンダム試作機のテストに来た。機体のセキュリティの問題はあったが情報漏洩という点では危険性はないと私は判断する。このまま奪われたガンダム試作2号機の追撃をして頂けると助かるが。」

 

「無論だ。」

 

「しかしリング・ア・ベル隊に関しては容認し難く思う。先程も言ったが私はジェシー・アンダーセンがジオンと内通していたと判断している。この数年で動きが無かったとは言え生きていれば何か事を起こす可能性がある。そうなればかつての隊であるリング・ア・ベル隊に何かアクションを起こしてもおかしくはないのでね。」

 

 彼は……生きている。それが事実であるのなら嬉しいが、そうであるなら何故私の所に姿を現せてくれないのか……胸が締め付けるように痛くなる。

 アーウィン・レーゲンドルフの言葉が事実なのか、それとも嘘なのかは分からない。しかし私は軍人で、今やるべきことは彼の生存確認ではない。

 

「私達リング・ア・ベル隊はガンダムの追撃を再開します。これは貴方に止められようと我が隊単独でも行いますよ。」

 

「ジェシー・アンダーセンの件はどうするつもりで?彼がもしも生きて貴方に刃を向けたら、貴方は彼を討つ覚悟があると?」

 

 彼が私に刃を向ける、そんな事はあり得ない。しかしそんな事は誰も信じはしないだろう。

 

「その時は私が討ちます。それが隊を率いた私の責務ですから。」

 

「よろしい、ならばアルビオン隊とリング・ア・ベル隊でガンダムを追撃すると良いでしょうな。私には貴方達に指示する権限まではない。だが私も特命を受けているのでね、出来ればアルビオンと行動を共にしたいのだが。」

 

「私は問題ない。君はどうかなエルデヴァッサー大佐。」

 

「問題はありません。」

 

 完全に問題が無いとは言えないが今は奪われた機体の捜索が先だ。敵の狙いがジェシーの予見していた数週間後の観艦式であるのならその前に防がなければならない。

 

 私は彼を信じる、彼が私を信じてくれているように。


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