「艦長!模擬戦中のモンシア機達に所属不明機による攻撃!」
通信士がシナプス艦長に現状の報告をする。ブリッジが慌ただしくなるのを肌で感じた。
「クッ……まさか本当に敵が釣られるとはな。ミノフスキー粒子散布!モンシア中尉達を呼び戻せ!」
「私も出撃します、この艦にはまだ本来はバニング大尉の機体であった予備機のジム・カスタムとキース少尉のジム・キャノンⅡが残っています、私がキース少尉を率いてジム・カスタムで出撃します。」
敵は誘いに乗った、しかしそれは敵もまた此方に誘いを仕掛けると言うことだ。
恐らくアナベル・ガトーは宇宙へ上がる。その為に彼らは文字通り発射まで彼を『死守』するだろう。
「アーウィン・レーゲンドルフは何をしている?」
「既にMSデッキで待機中とのこと!」
「通信を繋げ!」
モニターから仮面の男、アーウィン・レーゲンドルフが映る。
「私は先行して敵を叩きますよシナプス大佐。」
「了解した。敵を狙いは恐らく試作2号機を宇宙へ上げることの筈だ、その阻止に努めてもらいたい。」
「分かっている。しかしこのガンダム、複座なのでね、レイがいない分殲滅力は少し落ちる、あまり期待はしないで欲しい。」
「クッ……敵を釣ったは良いが裏目に出るとはな……。」
それでも何もせずにいたよりはマシだっただろう。手を打たなければ敵は悠々と宇宙に向かっていた筈なのだから。
「曙光へ通信を、ジュネットに艦を指揮し敵にHLVなどの打ち上げの気配がないか調べながら戦闘をするようにと、MSはセレナをガンダムに乗せ、ベアトリスにグノーシスに乗り込むよう伝えてください。」
「了解です!」
アルビオンの通信士に伝え終わるとMSデッキへと向かう、既にキース少尉と予備機のジム・カスタムは待機中であった。
「エルデヴァッサー大佐。よ、よろしくお願いします。」
「畏まる必要はありませんよキース少尉。焦る必要も。貴方は教えられた通りの動きをして敵を叩けば良いだけです。」
「は、はい!」
ウラキ少尉も彼も、バニング大尉に鍛えられているだけあって実力は申し分ない。後はどれだけの場数と経験が踏めるかが重要だろう。
「アルビオンへ!アンナ・フォン・エルデヴァッサー、ジム・カスタム出撃します!」
敵の狙いを阻止する、その為に出来ることを……!
ーーー
「アルビオンから通信!大佐はアルビオンのジムで出撃するとの報告!セレナ少尉がガンダムで出撃し、ベアトリス少尉はグノーシスに乗り敵の攻撃をせよとの事です!」
「新米2人にか……大佐も無理を言う……!」
両機ともペズンでのテストで2人はある程度は乗っているとは言え、大佐やグリムほどの動きを見込むのは無理だろうと考える。
しかし大佐が曙光に戻る時間を考えれば慣れない機体でも出撃させた方が得策だろう。
「2人に発進準備を進めさせろ、それとグリム達へ武装コンテナの投下も急げ、丸腰では流石に相手にならん。」
「了解です。ベアトリス、セレナ両少尉はMSデッキへ。整備クルーは武装コンテナの投下準備を──」
敵も奇襲を仕掛けるという事はほぼほぼHLVなど打ち上げの準備は整えているだろう。となると早急に手を打たなければ。
「私がガンダムに……!?」
MSデッキで通信を聞いたセレナ少尉は困惑する、同時にベアトリス少尉もだ。
「ある程度の慣熟は済ませてるとは言っても隊長の調整に合わせてるグノーシスに乗れるかなぁ。」
ここにグリムやララサーバルがいたら恐らく叱られているだろう、それくらい気の抜けた心配をしているベアトリスにセレナも少し呆れていた。
「貴方は気が楽で良いわねベアトリス、カルラさんがいたらゲンコツの一つくらいはあったわよ今の言葉。」
「だってぇ、実際に本当の事じゃない。訓練で散々言われ続けた日々……忘れた訳じゃないでしょ?」
「……それでもよ。それに大佐もジュネット大尉も慣れない機体の私達に大きな期待はしていないわよ。やれるだけやる、分かった?」
「最悪逃げ回れば死にはしないって言ってたのはアンダーセン隊長だったわね……。よし!頑張りますか!」
ベアトリスは心機一転し頬を叩くと先程までの憂いの顔は無くなっていた。
「セレナ・エレス、ガンダム ルベド出撃します!」
「ベアトリス・フィンレイ、グノーシス発進します!」
十全には戦えなくとも、やれる事を最大限に果たす。それが今まであの人達に教えられた来た事なのだ。その教えはしっかりと受け継がれている。
ーーー
「グリム中尉!曙光から武装コンテナが投下されました!」
「確認したウラキ少尉!まずはモンシア中尉達の援護を──」
「その必要はねぇ!」
モンシアから怒鳴り声にも似た声が響く。
「援護は一旦お前達が武装を回収してからだ!残弾は心元ねぇが俺はまだ実弾が残っているしアデルの機体はビーム・キャノンが使える、時間稼ぎくらいはしてやる!」
「……了解!行くぞウラキ、レイ!」
「はい!」
「あぁ!」
実戦になるとやはり気持ちが切り替わるのか、モンシア中尉達は冷静な判断を指示してくれた。
急ぎ装備を回収して状況を整えなければ、そう考えていると上空をガンダム ルベドが飛翔していく。
「ガンダム……!?誰が乗っているんだ……!」
大佐はアルビオンにいる筈だ、となると新米2人の内どちらかだ。
「グリム中尉!3時方向からドムだ!」
レイの言葉に反応し敵を確認する、武装はビームサーベルしかないが……!
『ここから先には行かせんぞ連邦軍!』
「通させてもらう!」
地形を利用しバズーカを回避しながら接近する。
「援護しますグリム中尉!」
ウラキがペイント弾で敵のメインカメラを狙う。そうか、ペイント弾でも視覚さえ塞いでしまえば!
『なに!?ペイント弾だと!』
「もらった!」
ビームサーベルを敵機を貫く、これで武装コンテナまで到着する事が可能になった。
「よし!急いでモンシア中尉達の所に戻るぞ!」
「僕は先行したアーウィンの援護へ向かう。此処は君達2人で問題ないだろう?」
レイは単騎で出撃したアーウィン・レーゲンドルフの援護へ向かうと言い出した。本来ならこの状況でチームワークを乱されるのは迷惑だ……だが。
「止めても行くつもりだろう?そもそも僕には君を止める権限が無いと。」
「あぁ、リング・ア・ベル隊の機体を勝手に使わせてもらうが、これも上層部からの命令と認識してくれて構わない。」
「なら行くと良い、敵を止めると言うなら分かれて行動するのも一つの手だ。」
「判断が早くて助かるよグリム中尉。安心してくれ、機体を傷付けたりはしないよ。」
機敏にメガセリオンを反転させアーウィン・レーゲンドルフの元へ向かうレイを確認して、コンテナの武装を装備できるだけ機体に取り付ける。
「行きましょうグリム中尉、レイの実力なら大丈夫な筈です。」
「あぁ、今はモンシア中尉達の援護が先だ。」
だがこれだけ混乱している状況で、果たして任務を遂行出来るのだろうか。
その懸念だけが脳裏から離れなかった。
ーーー
「大佐!1時方向にドムとザクです!」
「了解です!」
ジム・ライフルで敵機を牽制し、キース少尉が足の止まった敵機を砲撃で撃破する。
……トリントン基地でもそうだったが敵の規模は残党と言うには質が高すぎる。リング・ア・ベル隊が今まで掃討してきた公国軍残党勢力と言うのは物資に乏しく、殆どがザクを使用してそのザクすら碌に整備がなされていないと言うのが実状だった。
だが敵の主力はザクの他にもドム、更にはゲルググすらいるのだ。『何か』がおかしい。
早期に地上戦が終結し、ゲルググの配備は殆どが宇宙であった筈だ。実際に私もゲルググを確認したのはソロモン攻略戦が初めてだ。そのゲルググを何故地上の残党勢力がここまで保持出来ている……?
「大佐!敵機が!」
「……っく!」
岩場の死角からザクがヒートホークで攻め立ててくる。何とか回避し撃破するが、無駄な雑念が多いようだ。隙が生まれ過ぎている。
「一先ずは落ち着かなければ……。」
油断して勝てる相手ではない。更に敵はこうなった場合の対策は十全に取っている筈だ。打つ手を誤れば後手に回ることになる。
考えなければ。敵はHLVを発射させる為に動いている、ならばこの敵の動きは……!
「アルビオン、曙光へ!敵MS部隊は恐らく私達を基地から引き離す為に動いています!敵の動きを推測し、敵基地の所在を──!?」
通信の途中で異質な感覚が過ぎった、機体を急速に動かしビームライフルによるビーム攻撃を回避する。
発射源を辿ると其処にはライトグリーンで彩られたゲルググが佇んでいた。
『優秀な指揮官と見た!我々の動きを気取るとは!』
「ゲルググ……!それにあれは……!」
外付けのブースターが装備されている、陸戦高機動型とでも言えばいいか……恐らくはあれが指揮官機だ。
「ゲルググのパイロット!私は地球連邦軍、独立機動部隊リング・ア・ベルの隊長アンナ・フォン・エルデヴァッサー大佐です!私は無駄な争いをするつもりはありません、貴方達に投降を勧めます!」
相手がギレン・ザビの熱狂的な信者であるのならともかく、話さえ通じる相手であるのなら、せめて交渉だけでも促すべきだ。
無駄な血は流れない方が良いのだから。
『ほう、連邦にしては珍しい。少しは礼儀のある指揮官とお見受けした。私はジオン公国軍地球方面軍アフリカ方面司令のノイエン・ビッター少将である。残念だが現時点では我々は連邦軍に投降はしない。』
「現時点……では?」
『この基地の司令は私だ。私が生きている限りは兵に投降する事を許可していない!』
言葉が終わると同時にゲルググはホバー移動で此方に向かい突撃してくる。ビームナギナタによる変則的な近接捌きに何とか対応し再び2機の間に硬直が生まれる。
「何故投降に応じないのですか!既にジオン公国は敗北し、総帥であったギレン・ザビは既に死亡しています!共和国となったサイド3やネオ・ジオン共和国に帰属する事も可能であるのに、何故!」
『簡単な話だ、ギレン総帥はまだ生きており我々の独立戦争は未だ終わっていないからだ!』
「世迷言を!」
ジム・ライフルを放ち敵の無力化を狙うが難なく回避される。将校でありながらゲルググを駆る時点で油断ならない相手だとは思っていたが、実力もエース級と言っても過言ではないようだ。
『貴官は若いながらも大佐と言う身分だ。それにリング・ア・ベル隊と言えばガトー少佐から聞いたが3年前の戦争でドズル閣下を撃破した部隊の一つだったとも聞いている。だからこそ敢えて問おう、貴官ほどの実力や見識を持っている人間であれば分かるはずだ、連邦軍がギレン総帥を何の損得も無しに処刑すると本当に思っているのかと。』
「それは……。」
あり得ない話ではない。ジオン独立戦争の首謀者であったとは言え、彼の持っている決して表舞台には出せない情報と言うのは多い筈だ。
その情報を得ぬまま、全て知らぬままでギレン・ザビを即刻死刑にするのは確かに早計ではあった。
しかし彼の死を民衆の多くが望んでいた事でもあり、戦争を引き起こしその後の惨劇を招いた大罪は早急に死罪にするのも仕方のない事でもあったのだ。
「しかし……!根拠が無ければ所詮は仮定の話にしか過ぎません!」
『それもその通りだ。しかし貴官は不思議には思わないのか?何故ギレン総帥を失い、瓦解した筈の我ら公国軍がこれだけの軍を維持できているのかを!』
一瞬の油断も出来ない攻防の中、彼は私に疑心の種を植え付けていく。
『我らがこれだけの機体を!これだけの装備を!何故保持できているのか!分からない訳ではあるまい!』
「くっ……!」
考慮していない訳ではない。彼らの装備は真新しく、これらはジオン公国軍の鹵獲機を使用している我々が使っている装備と変わらない。
それが意味する事……それは……。
【リング・ア・ベル隊のジェシー・アンダーセン大尉はこの機体をジオン残党に与えようとしていた。】
アーウィン・レーゲンドルフの言葉が頭を過ぎる。あり得ない、そんな事は決してあり得ないのに……!
「例え内通者がいたとしても!」
そうだ、仮に連邦軍内にジオン公国残党に通じる内通者がいたとしても、私のやる事は変わりない。
より良い未来を作る為に、その為に最善を尽くすのが私の使命なのだ。
『流石は腐った連邦の中でも精鋭と言われるだけある!だが!』
この地を熟知している彼の機体は異質とも言える機動で私の攻撃を避けて行く。アナベル・ガトーを逃すための時間稼ぎ、それが彼の今の役目の筈だ……ならば誘いに乗るのは早計……分かってはいる、しかし。
「大佐!援護します!」
「キース少尉……!?」
キース少尉のジム・キャノンⅡが援護に入る、並のパイロットが相手であるならこの援護は助かるが、今は相手が相手だ。
『動きが甘い!脆弱な者ほど我先に死にたがるものだな!』
ゲルググはキース少尉の攻撃をブースターを使い巧みに避け、徐々に接近して行く。
「キース少尉!後退を!」
「駄目です!間に合いません、迎撃します!」
キース機はサーベルを構えゲルググの攻撃を何度か防ぐ、だが長い時間は持たないだろう。
援護のMS部隊も現在多方面に展開している敵軍の対処で此方まで援護はできない、私がやらなければ……!
「ノイエン・ビッター少将!これ以上はやらせはしません!」
『来るがいい!我らが信念、受け止めて見せよ!』
ーーー
「アルビオン隊!装備を!」
グリムがモンシア達と合流し、実弾装備の受け渡しを行う。
少なくない数の敵がいたはずだがここまで持ち堪えられたのはひとえに彼らの実力の高さもあるだろう。
「旧式のドムやザク程度ならこのジムには相手にもならねえが。それよりも俺達はこれから何処に向かえばいいんだ!」
ベイトが現在の戦況を確認する、ミノフスキー粒子も散布され碌な通信が出来ない状況では下手に部隊を動かせば奪われた2号機をみすみす見逃す事になりかねない。
「上空を飛行している曙光やルベドにレーダー通信を試みます。」
曙光もルベドも、MS部隊との連携を重点的にしているので通信能力は高い、更に現在の戦域ならアルビオンに通信するよりも確実だ。
「ガンダムルベドへ、こちらグリム応答を!」
「グリム隊長!こちらルベド、現在敵機対応中!」
「ガンダムに乗っているのはセレナか!機体のデータリンクを送信してくれ、現在の戦況を把握したい!」
「りょ、了解です!」
状況的に普段猪突猛進気味なベアトリスより冷静なセレナがルベドに乗るのは理に適ってはいるが、それでもベストな配置とは言えない、動きが辿々しくこれではフライトユニットの推進剤も通常飛行可能時間より早く枯渇するだろう。時間との戦いになってくる。
「戦況は……混戦しているか。」
アルビオン周辺は大佐とキース少尉が恐らくは敵の本命と思われる部隊と交戦中だ、曙光周辺にも敵が増えておりベアトリスのグノーシスとセレナのガンダムで援護に回っている状態だ。
こちらもこちらで少なくない敵がまだ潜んでいる、どう対応すれば……!
「隊長!大佐は最後に敵は基地から我々を引き離す為に動いていると言っていました!であるならば敵の基地は!」
「……そうか!敵の位置を逆算すれば……!」
現在の各自軍部隊の情報と、敵の動きから大まかな推測を立てる。かなり雑な計算だが今はまだマシな方だろう。
「各機、ポイント更新!ここにいては敵の思う壺だ、強行突破でも敵基地への進軍を始める!」
「チッ!今はこれしか手がねぇってか!」
愚痴を垂れながらも進軍を始めたモンシア隊と連動しこちらも動き始める、時間が間に合えば良いが……!
ーーー
「ハァ……!ハァ……!」
『くっ……!やはりドズル閣下を討っただけの実力はある……!』
せめて機体がルベドであったなら……、そう言い訳をするように実力の差に歯を噛み締める。
『だが、これが我らが意地の見せ所なのだ!星の屑成就の為にここで斃させてもらう!』
「他のスペースノイドの信用を地に堕とすような真似事の何が意地だと言うのですか!」
『アースノイドには分からぬさ!独立を掲げ生きてきた我らの意志は!』
「時代は変わろうとしています!今もジオン、ネオ・ジオン共和国は連邦政府に頼らない方法で動き始めている、貴方達の独立は成し得て行くのです!」
『連邦の庇護の中での成長だ!今は良くとも再びまた連邦の圧政が始まるのは目に見えている!』
「それをさせない為に私は……!」
『貴官一人で何が出来る!』
私一人で……、違う……!私には仲間がいて……ジェシーが、彼がいてくれる……!
「……っ!あぁぁぁぁ!」
叫びにもならない声をあげ、振り下ろしたビームサーベルがゲルググを貫く。
『くっ……ガトー少佐……星の屑を、ギレン閣下を……頼む……。』
機能を停止したゲルググを見つめ、空虚な思いを抱きながらも今はまだ立ち止まる訳にはいかない。
「……。っ、キース少尉!現在の状況は!」
「ハ、ハイ!モンシア中尉達が敵基地と思わしき鉱山跡を発見し攻撃を開始したとのことです!し、しかし敵のHLV射出の予兆が既にあるとの報告も来ています!」
「私達も急ぎ向かいますよ!」
「了解です!」
時間を稼がれた、彼の真意は最後まで分からなかったがこの計画を完遂する為に敢えて命を捨てたのだ。それにどれほどの価値があると思っていたのかは知らない……けれどこのままみすみす見逃す訳にも行かないのだ。
止めなければ、ジェシーが予期した未来を回避する為に……!」
ーーー
「アーウィン、次の敵機だ!」
「分かっている。」
ガンダム ニグレドのビームキャノンが敵を薙ぎ払う、地表ではビームはその威力が減衰するものだが高い出力はそれを感じさせない程の威力を見せていた。
「キリがないな、何故敵はこんなにも必死なんだいアーウィン。」
「それほど積荷が大事と言う事だ。この戦術核は奴等にとっての希望への布石なのだからな。」
嘲笑うように皮肉を返しながらアーウィンは尚も襲い掛かる敵をその都度倒して行く。
「……そろそろか。」
その言葉に呼応する様に地面が揺れ動く、HLVが射出される準備が整ったのだ。
「アーウィン!」
「ククク……分かっているさ、レイ。」
迫り来る敵をレイに任せ、ガンダム ニグレドはバーニアを最大限に起動し大きく飛翔する。
「必要な事なのだ、本当の未来に辿り着く為のな。」
飛翔を始めたHLVに、ビームキャノンを放つ。
それらは全て、紙一重で当たらない。いや、最初から当てるつもりがないかの様にギリギリの所を掠めていった。
ーーー
「大佐!HLVが!」
キース少尉の言葉の後に、HLVが徐々に打ち上がって行くのを確認した。
「アルビオン……、曙光の主砲は!?」
艦船の主砲なら、当たりさえすれば打ち上げを阻止できる。しかし両艦共に主砲を放ってはいるが距離が離れすぎて当たるには至っていない。
「くっ……!セレナ!ルベドのビームライフルを!」
「大佐……!?りょ、了解です!」
上空からも狙撃を敢行していたルベドから狙撃用のビームスナイパーライフルを受け取ると狙撃体勢に移行する。ルベドと違いジムには狙撃用のアシストシステムはないがやるしかない。
「ここで……止める……!」
しかし、構えた先にはHLVとガンダム ニグレドが重なる様に射線に入り込む。
「なっ……!アーウィン・レーゲンドルフ!どきなさい!」
しかし、通信は聞こえていないのか或いは無視しているのか。こちらの呼び掛けには応じる気配がない、HLVが更に飛翔すると同時にニグレドもまた上昇を続ける。
「お願いです……!どいてください!」
これから先に起こる未来を回避する為に、今ここで撃たなければならない。
その為には、彼ごと機体を貫いてでも……!そう思った時だった。
【駄目……彼を撃たないで。】
かつて、私が命を奪ったニュータイプの少女、彼女の姿がニグレドと重なる。
「お願い……どいて……!
その言葉も届かず、結局HLVを狙撃することすら叶わず、白煙が空を突き抜けて行った。
「私は……私は……!ジェシー……!」
機体の中で、涙を流す事しか出来ずにいる。彼の告げた未来を阻止する事が、あの人と私の最後の繋がりだとずっと思っていたのに。
今はそれが信じられなくなってきている、その無力さにただ涙を流す事しか出来ずにいた。
「泣くな、アンナ・フォン・エルデヴァッサー……。全てはあるべき未来へ至る為だ。その為に今の私がいるのだからな……。」
嗚咽が響く通信を聞きながら、誰にも聞こえない様な声量でアーウィン・レーゲンドルフはそう呟くのだった。