機動戦士ガンダム 紺碧の空へ   作:黄昏仮面

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第9話 闇に灯る光

 

「艦長!デブリから敵艦隊出現!こちらに砲撃を仕掛けて来ました!」

 

「総員第一種戦闘配置!MS隊に艦の護衛をさせろ!」

 

 艦内警報が鳴り響く、敵にも優れた指揮官がいるようだ。暗礁宙域でここまで巧妙に隠れながら接近し、迅速に攻撃に移すにはかなりの練度を要するだろう。

 

「艦長!MSデッキより通信です!」

 

「繋げ!」

 

『こちらMSデッキ!シナプス艦長、ウラキ少尉が1号機で直掩に回る為に現在ニナ……ニナ・パープルトン整備主任のいる独房に向かっています、独房のロックの解除を願います!』

 

「何だと!?現在1号機は空間戦闘を行える状態ではない、予備機のジムで出撃させたまえ!」

 

「予備機のジムは敵の攻撃の余波でシステムにエラーが発生中です、出撃にはまだ時間がかかります!」

 

「むぅ……!仕方がない、独房のロックを解除する。ニナ・パープルトンに最小限でも空間戦闘が行える状態に調整し、ウラキ少尉には出撃後突出せず艦から離れず護衛に回れと伝えよ!」

 

『了解しました!』

 

「艦長!敵艦より砲撃!」

 

「ただの脅しだ!この距離からでは当たらん!……艦隊陣形を敷きつつ敵MS部隊への対処を行う、MS部隊にも通達せよ!」

 

 デブリ帯ではお互いにMS隊の動きが肝になる。敵の動きに的確に対応しなければいけない、地の利は向こうにあるのだ。

 

「曙光、ユイリンやナッシュビルはどうか!」

 

「曙光からはMS部隊の出撃を確認!ユイリンやナッシュビルは敵襲撃に混乱し統制が取れていないようです!」

 

「くっ……!戦争が終わったと思い込めば練度不足もやむなしと言うことか……!」

 

 アクシズの脅威が未だあると言う状況でも既に地球圏では残党勢力のみの対応をすれば良いと思っている者も多い、戦争で失われた優秀な指揮官達もその後釜に立つ者がいなければ幾ら物が優秀とてカカシ同然にしかならない。

 

「デブリを避けつつ敵の包囲を崩す!主砲発射用意!」

 

 既に発進しているMS隊の進路を確保する為に邪魔になるデブリを主砲で掃討する。後はMS隊の動きに期待するしかない。

 

 

ーーー

 

 

「思った通り、敵の動きは足並みが揃ってはいないようだ。此方には好都合というもの。」

 

 ファルシュ・リューゲは敵艦隊の動きを見て勝利を確信とまでは言わないが最低限の成果は挙げられるだろうと確信する、ガンダムを載せている二隻は流石の動きだと思うが僚艦のサラミスがそれを台無しにしている。

 

「各艦はサラミスを集中して狙い撃て。連携を崩し敵の攻勢を削ぐ、リック・ドム隊は新型艦を優先して狙い援護をさせぬよう動き、その間にドラッツェ隊がサラミスを仕留めよ。」

 

「了解です!」

 

 作戦は整った、後は敵の出方を窺うだけだ。

 そう思っているとサラミスから緊急発進した後に先行して我々を叩きに来たと思われるジムの改良型が此方へ接近してくる。

 

「ふっ、それは悪手と言うものだ!」

 

 デブリを避け敵機へと急速に接近する、敵はデブリ帯での戦闘行動に不慣れなのか攻撃も移動も動きの悪さが目立つ。

 

『は、早い……!』

 

「もっと先を見たまえ、戦いはこの場だけではないとな。……最早遅いがね。」

 

 大型のビーム・ソードで敵を文字通り薙ぎ払う。その直後敵のサラミスが大きく爆発を起こす、どうやら一隻目を撃破出来たようだ。

 

「やはり大戦で優秀な将兵はお互いに減ったようだな。脆弱にも程がある。」

 

 エギーユ・デラーズのこの計画も、連邦の内情を熟慮した上で行なっている。

 ジオン残党の掃討を目的としたガンダム、それを計画したのは誰か。そしてそれが奪われた場合、派閥闘争で誰が得をして誰が損をするのか。

 

 結局連邦は核を搭載したMSが奪取されてもまともな軍勢を送る事すらしない、それよりも如何にこの紛争を利用し自身の影響力を高めるかに躍起しているのだ。

 であるならば策謀はこちらの方が上手だ。先を見越して厄介となる方を排除する流れに持っていければこの先の戦いで有利となる。

 所詮仮初の平和など維持できる筈がないのだ。私欲を持つ者が大量に蠢くこの地球圏では尚更に。

 

「さて、ガンダムは何処だ……?」

 

 戦場を見渡すがそれらしい機体は見当たらない、味方からも見つけたと報告もない。

 

「出し渋っているのか、それとも出撃できない理由があるのか。いずれにせよ出て来なければ母艦諸共沈んでもらうまでだ。」

 

 作戦通りリック・ドム隊が敵の主力へ砲撃を開始する。碌に援護も貰えなくなった残り一隻のサラミスは最早打つ手無しだろう。

 

「このまま楽に墜とさせてくれれば助かるが、見せてもらおうか連邦軍の新型艦とそのMS隊の実力とやらを!」

 

 

 

ーーー

 

 

「ガンダム ニグレド発進する!」

 

 アーウィン・レーゲンドルフはデブリ帯を苦にせず機体を駆る、敵の陣容を確認しザク・ドラッツェ・リック・ドム・ゲルググを視認するとしばし無言になった。

 

「アーウィン?どうしたんだ?」

 

「……いや、何でもない。」

 

 そう、残党軍の戦力としては特におかしくはない陣容ではある。しかしそれは()()()()()()()()()としてはアーウィン・レーゲンドルフにとっては疑問に感じる所があった。

 

「ゲルググも海兵隊仕様ではない……か。アテにならないものだな。」

 

『敵のガンダムを確認!これより攻撃に移る!』

 

「チッ、ハエがウロウロと。」

 

 デブリを避けながら敵機に砲撃を開始する、幾ら敵に有利な陣地と言えど機体の性能差があれば苦にはならない。

 

「だが、鬱陶しい!」

 

 ビームキャノンを使用するがデブリに妨げられ多数撃墜とまではいかない。挑発的な動きにアーウィン・レーゲンドルフは神経が苛立つのが分かった。

 

「誘っているというのなら乗ってやる、後悔することだな。」

 

「まさか、敵を追うつもりなのかいアーウィン。アルビオンの防衛はどうするんだ!?」

 

「アルビオンには直掩機がいるだろう、俺達は防衛する義理はあっても義務はない。情を移すなよレイ。」

 

 アルビオンの防衛に躍起になっているモンシア達を無視し、ガンダム ニグレドは暗礁の宇宙を駆ける。

 

「さて、挑発したツケは払ってもらうぞ。ジオンの残り滓共……!」

 

 デブリに隠れながら攻撃する敵をビームキャノンでデブリごと破壊していく、しかし撃破できたのは旧式で更に言えば寄せ集めのパーツで構成されたドラッツェのみであった。

 

「チッ、煩わしい指揮官がいるようだな。俺をイラつかせるのが得意だ!」

 

 ガンダム ニグレドは敵の旗艦を狙いに宙域を離れ始める。

 それが敵の策とわかった上で、敢えて挑発に乗ったのだった。

 

 

 

ーーー

 

 

「て、敵襲……!?」

 

 慌ただしくサイレンが鳴り響く艦内に、独房の中で状況の掴めないまま混乱しているのはスパイ容疑で軟禁されていたニナ・パープルトンだった。

 その最中、突然独房内のドアが開く。目を向けるとそこには1号機のパイロット、コウ・ウラキ少尉が汗を流しながら駆けつけていた。

 

「ニ、ニナさん……!1号機を早急に空間戦仕様に切り替えてください!」

 

「え……何ですって……!?」

 

 言っている言葉の意味は分かる、しかし何故この状況で自分にそれを言っているのか彼女は掴めないでいた。

 

「本当は予備機のジムで出撃したかったんだ、でも機体がエラーを起こしていつ直るかすら分からないんです!だから1号機で出撃する為に貴方にシステムの修正を頼みに来たんです!」

 

「む、無理よ!機体のエラーを直すのとは訳が違うのよ!?今の1号機のコア・ファイターは空間戦を想定した仕様じゃないの、本来だったら空間戦仕様のコア・ファイターに換装して出撃しないと、今のままなら旧式のジムにすら劣る機動性でしか動かせないわ!」

 

「艦に張り付いて援護射撃をするくらいの修正で良いんです!お願いします!」

 

「……分かったわ、MSデッキまで案内して!」

 

「はい!」

 

 彼のひたむきさに感化されたという訳ではないが、艦の防衛くらいであれば何とか機能するくらいには持っていける筈だ。独房にいる自分に助けを求めるという程の危機的な状況であるならば断っても意味がないだろう。

 

 急ぎMSデッキまで向かい、鎮座している1号機に辿り着く。地上での戦いの跡かトリントン基地にあった頃よりもかなり痛んでいるのが気になったが今はそれを気にしている場合ではない。

 

「まずは姿勢制御バーニアの設定を……。」

 

 今の1号機はトリントン基地でのテストの為に急ぎ調整したのもあり、地上用の装備がようやく間に合った状態でしか無い為、どれだけ最善を尽くしてもまともに宇宙では戦えないだろう。

 しかし、だからこそやれるだけの事はしなくては。ウラキ少尉のためにも。

 

「……?スラスターも姿勢制御バーニアも設定の数値が変わっている?」

 

 パラメータははっきり言って雑ではあるが、1から修正するよりは遥かにマシな状態になっている一体どうして……?

 

「すみません、僕が勝手に調整したんです。でもこれだとまともに機動出来なくて。」

 

「そうね、ほらここ……数値が間違っているわ。」

 

「あっ、本当だ……。」

 

「センスはあるけれどこういう事は専門の人間に任せて頂戴ウラキ少尉。待ってて、今戦える様にしてあげるから……!」

 

「ニナ!頼まれていた私物、用意しておいたわよ!」

 

「ありがとうモーラ!」

 

 彼女から渡された私の私物の中から端末を取り出し1号機に繋げプログラムの修正を始める。

 数分の後、ようやく最低限の調整が完了した。これなら何とか宇宙でも戦えるだろう。

 

「出来たわ、ウラキ少尉!」

 

「ありがとうニナさん!」

 

 彼が1号機に乗り込むと同時に艦が大きく揺れる、敵の攻勢は並々ならないようだ。

 

「コウ・ウラキ、出撃します!発艦の準備を!」

 

「忘れないでウラキ少尉!1号機は艦の援護が出来るレベルの調整だって事を!」

 

「分かっています!」

 

 1号機はカタパルトデッキへと進み、発進準備を整える。

 

「コウ・ウラキ、ガンダム発進します!」

 

 拙い動きで出撃したガンダムと、それを操縦するウラキ少尉の無事を私はただ祈ることしかできなかった。

 

 

ーーー

 

 

「ユイリン、ナッシュビル轟沈!敵MS部隊が曙光へと向かっています!」

 

「クッ……!此方の連携を上手く崩してくるとは……!」

 

 曙光のブリッジでなす術なく撃破されていく味方を見ている事しかできない事を悔やみながらも、今やらねばならない事を考えて行動に移さねばならない。

 

「敵は我々の連携を崩すのを最優先に動いている。アルビオンとの距離を離してはならない、それでは敵の思う壺だ!」

 

 MS隊を上手く連動させ、防衛を上手く立ち回らなければ僚艦二隻と同じ運命を辿る事になる……。

 

「ジュネット大尉!僕にこれを聞く権限はないと分かってはいる、だけど敢えて言わせてもらう!アンナさんはどうしたんだ!?」

 

「分かっているでしょう……!」

 

 あの事件の後、二年も塞ぎ込んだ彼女の心が未だ癒えておらずアンダーセン大尉のスパイ疑惑が更に心労を増やした。

 そのせいでまた心が揺らいでいる。そしてそれを癒す術を我々は持っていないのだ。

 

「分かっている、あぁ分かっているさ!けれどこれはナンセンスだ、彼女は彼の為だけに生きているわけじゃない!」

 

「私にはどうする事もできないのです!出来るのならこの数年、大佐をあのような状況のままにしておけた訳がない!」

 

 強い絆で結ばれていた二人だからこそ、その繋がりを絶たれて失意の底に落ちたのだ。それを引き上げる事は我々には叶わなかった、同じ様に我々とて強い絆で結ばれていると思っていてもだ。

 

「それでも、声をかけ続ける事は出来たはずだ!」

 

 固定していたシートを外し、アルベルト・ビストはブリッジから退出する。

 

「大尉!アルベルト氏が……!」

 

「放っておけ!今はそれどころではない!」

 

 敵の対処をしなければならない、だが……そこに大佐がいてくれるのならと心の中で思うのは仕方のない事……か。

 

「親の七光と馬鹿にしていたが、期待するだけの男なのかもしれんな……。」

 

 正直未だ好きになれない青年ではあるが、その若さが今は少し羨ましくも感じた。

 

 

ーーー

 

 

「戦いが……始まっている……。」

 

 動かなければ、戦っている仲間の為にも動かなければ……。

 そう思っているのに、動こうとしているのに、身体が言う事を聞かない。

 震えているのが分かる。もしも敵の中に彼がいたら……そう思ってしまってから戦うことへの恐れが芽生えてしまっているのが分かる。

 馬鹿な事だとは分かっている、軍人にふさわしい状態などでは全く無いのだから。ただ皆の優しさに甘えているだけだ。

 

「アンナさん!いるのだろうアンナさん!」

 

「……アルベルト様?」

 

 部屋のドアを叩きながら大声を出しているのは客人のアルベルト・ビストだ。

 

「聞こえていても、聞いていなくとも僕は敢えて言わせてもらう!今の貴方は逃げているだけだ!」

 

「……。」

 

「僕には何も分からない、あぁ分からないさ!君とジェシー・アンダーセンとの関係も、ジュネット大尉を始めとした仲間達との関係も!だけど今彼らは必死になって戦っているんだ!」

 

 分かっている、分かってはいるのに心が折れてしまっているのだ。残された絆が断ち切られてしまわないか不安で仕方ないのだ。

 

「アーウィン・レーゲンドルフが言ったジェシー・アンダーセン大尉のスパイ疑惑が本当なのか、それとも本当は事故で死んでしまっているか、貴方が抱える不安の種は分からない。けどそれは今関係のある事じゃあないだろう!?」

 

「分かっています……!けれど、怖いのです。もしも本当にジェシーが彼の言う通りスパイだったとしたら……!」

 

 彼の予言が私や他の人間が聞いたときに本来の目的を逸らすためのブラフなのでは無いか、疑いたくはない……けれど彼が生きているのなら私の目の前に現れない現実が、アーウィン・レーゲンドルフの言葉が私を惑わせ続けているのだ。

 

「だったら何だ!それなら彼が君の目の前に現れた時に文句の一つでも言ってやれば良いだろう!?それに何よりもだ!」

 

 そう言って、大きく息を吸った後に彼は大声でこう言った。

 

「僕が好いた女性が!誰よりもその人との絆が全てだと言った男が!君を裏切る訳が無いだろう!良い加減に目を覚ましたらどうなんだ!」

 

「……っ。」

 

「それでも信じられないなら、それでも!それでもと言い続けるんだ!」

 

「それでも……。」

 

「僕は貴方が信じた男であるジェシー・アンダーセンを信じる。だから貴方は自分が信じた男を信じ続けるんだ、それでもと!」

 

 部屋のドアを開け、アルベルト・ビストに頭を下げる。

 

「ありがとうございますアルベルト様、お陰で目が覚めました。」

 

「そうみたいだね。良い顔をしていると思う。」

 

「……私は戻ります、私が護るべき者達がいるべき場所へ。」

 

「あぁ、それが僕が好きになった女性の強さだ。さぁ早く行ってみんなを助けてくれ!」

 

「……はい!」

 

 去っていくアンナ・フォン・エルデヴァッサーを見送ると、アルベルト・ビストは座り込み持っていた端末を開いた。

 

「戦争の英雄、戦場の女神……そう、僕が好きになったのはそういう貴方だった。」

 

 メディアの記事に写っているアンナ・フォン・エルデヴァッサーの軌跡、一族を失ってなおも立ち上がり、一年戦争を勝利に導いた若き英雄。

 その姿に人生で初めて心が動いたと思った、ビスト財団という檻に閉じ込められた自分とは違う、自分の意志を確固として持ち動き続ける姿に敬愛を抱いたのだ。

 

「ジェシー・アンダーセン、敵に塩を送るなんてしたくなかったけれど今回は僕の負けという事にしておくよ。……だからアンナさんの為にも絶対に生きていろよ、絶対にいつか見返してみせるから。」

 

 あの絆に勝てるとは思えない、それでも……それでもか。

 いつだっただろう?何処か夢で見た記憶の様に、自分の心に刻まれていた言葉だ。

 

 どこか遠く……いやもしかしたら違う世界かもしれない、誰かが優しく微笑んでくれているような、そんな感覚をアルベルト・ビストは心に感じたのであった。

 

 

ーーー

 

 

「ジュネット!ルベドの出撃準備を!【ホーネットユニット】で出ます!」

 

『た、大佐!?』

 

 艦内の通信機を使いブリッジに通信する。

 

「ごめんなさい、本当は私が道を切り開かねばならなかったのに。みんなに甘えていました。」

 

『いえ……私もかける言葉が見つからず、貴方を助けることから逃げていた。アンダーセン大尉の代わりにはなれないと……。』

 

「大丈夫……もう大丈夫ですから。ありがとうジュネット、それにみんなも。」

 

『はい……。大佐、現在我々は敵の艦隊と交戦中。既に僚艦二隻は撃破され残されたのはアルビオンと曙光のみ、サラミスから発艦されたMS部隊も壊滅状態となり我々とアルビオン隊のみが健在です。』

 

「この地で戦い続けるのは我々にとって地の利もなく不利です、徐々に戦域を離脱し見晴らしの悪いデブリ帯から撤退します!その為にこちらへ向かってくる敵MS部隊を優先して対処しますその間に後退を。」

 

『了解!』

 

 MSデッキに到着すると、既にユニットを交換しているルベドが待機している。

 

「大佐!いつでも出撃可能です!」

 

「ありがとうございます、搭乗後すぐ発艦します。」

 

 機体に乗り込みシステムを起動する、仲間の為に今出来ることをやれねばならない。

 

『システムオールグリーン、発進どうぞ!』

 

「アンナ・フォン・エルデヴァッサー、ガンダム ルベド出撃します!」

 

 

 

ーーー

 

 

 

「くっ……!敵の数が多い!」

 

「グリム隊長!このままじゃ……!」

 

 敵の攻勢に押され徐々に曙光の防衛ラインが押されている、アルビオンすら援護できる状況ではないのが歯痒い。

 

「諦めるなベアトリス少尉!機体のアドバンテージを活かせ!」

 

 少なくとも機体の性能ではこちらは負けていないのだ、しかし……戦いは性能が全てではない。物量や地の利、更には戦術次第で戦局は簡単に崩せるものだ。

 

「くっ……このぉ!」

 

 ベアトリス機がサーベルが敵機を撃破するが、その隙を狙われ別の敵機がベアトリス機に狙いを定めていた!

 

「ベアトリス!3時方向に敵!」

 

「なっ───」

 

 セレナの声も間に合わず、こちらの援護も間に合わない……。ここまでか、そう思った時だった。

 

『もらったぞ連邦のパイロッ───』

 

 突如ビーム攻撃で敵機が爆発する、これは───!

 

「各機!一時曙光まで後退しなさい!ここは……私が引き受けます!」

 

「大佐!?」

 

 ホーネットユニットを装着したルベドだ。それに……。

 

「大丈夫ですグリム、私は……私がやるべき事を、為すべき事を果たします。ここは任せてください。」

 

「……わかりました。ここは任せます、大佐……いえ、アンナ隊長。」

 

 あの戦争後、そういう風に呼び合う事を提案したのはあの人だった……。今の彼女の心にはあの時と同じ強い意志が戻っているのを感じる。

 

「ベアトリス、セレナ!曙光の防衛に戻るぞ!」

 

「えぇっ!?大佐の援護はよろしいのですか!?」

 

 慌てるベアトリスにフッと笑いながらこう呟く。

 

「大丈夫だよ、本気になったあの人は今までよりもっともっと強い。ジオン残党があの人を【ペズンの魔女】と呼ぶのは理由がある。」

 

「行くわよベアトリス、グリム隊長とエルデヴァッサー大佐が大丈夫だと言うのなら、私達にはやるべき事があるでしょう?」

 

「そうね……!大佐!ここはお任せします!」

 

「任されました、さぁ行ってください!」

 

 

 

 散開していく皆を背に、立ち塞がる敵の群れを確認する。

 

「ザクが4機、ドムが3機に……急造のMSと思わしき物が数機……。」

 

 目に見える範囲だけでもこれだけの数の敵がいる、デブリに紛れていれば更に多いだろう。

 

「しかし……ここは通しません……!」

 

 ルベドの機体出力を上げ、高機動ユニットである【ホーネット】が起動する。

 そして機体は一気に加速を始める。

 

「くっ……!」

 

 下手をすれば意識を失いかねない加速に耐えながら、敵機に狙いを定める。

 

『何だ……!あの機体……は、速い!』

 

「そこっ!」

 

『うわぁ───!』

 

 爆散するザクを確認し、次の敵機に狙いを定める。

 

『くそ!何がガンダムだ!幾ら機動性が良くともこのデブリの中で早々動けるわけ……が……なんだ!?あの動きは!』

 

 ユニット内に多角的に配置されている多数のブースターがまるで飛び跳ねる虫の様に縦横無尽に急速に機動しながらデブリを避けていく。

 

『バカな……!まるで虫の様にちょこまかと跳ね回って……!グァッ───!』

 

「くっ……まだまだ……!」

 

 緩急をつけながら、曙光に敵機が近寄らない様に敵を引きつけながら狙い撃つ。

 

『これが……ガンダムだと言うのか!化け物め!』

 

「これで……最後です!」

 

 確認できる最後の敵機をビームが貫く、満身創痍だがこれで曙光の防衛は大丈夫だろう。

 

「後は……アルビオンの防衛……。」

 

 グリム達も状況が確認出来れば其方へと向かうだろう。私も狙撃ポイントを見つけそこから援護を……そう思った時だった。

 

《地球連邦軍並びにジオン公国の戦士に告ぐ、我々はデラーズ・フリート!》

 

「これは……?回線に強制的に割り込んでいる?」

 

《いわゆる一年戦争と呼ばれた、ジオン独立戦争の終戦協定が偽りのものであることは、誰の目にも明らかである!なぜならば協定は、ジオン共和国並びにジオン・ズム・ダイクンの息子を騙る売国奴によって結ばれたからだ。》

 

「これは……エギーユ・デラーズ?ギレン・ザビの直属であったあの……!」

 

 戦後所在が掴めなかった彼が今この演説を行なっている……その理由は……やはりジェシーが予見していた通りの事が起ころうとしているのだろうか……?

 

 

 

ーーー

 

 

「グリム隊長!確認できる敵機の存在はありません!」

 

「流石大佐だ、よしこれより僕達はアルビオンの援護に回る!」

 

「了解です!」

 

 こちらの情勢は落ち着いたがアルビオンは未だ危機的状況だ。直ぐに援護に向かわなくては……。

 

「隊長!待ってください、通信に何らかのノイズが……これは……!?」

 

「何……?エギーユ・デラーズ?これって教本に乗ってたあの……?」

 

 通信機から聞こえて来るのはジオン公国の将官であったエギーユ・デラーズの演説だ。

 一体何が目的だ……今この状況も彼が引き起こしているのか……?いや、それよりもだ。

 

「今はアルビオンの防衛が先だ!急ぐぞ!」

 

「は、はい!」

 

 焦る二人に先駆けて先行する、これ以上仲間を失うわけにはいかない!

 

 

ーーー

 

 

「くっ……!動きが鈍過ぎる……!」

 

 ビームライフルで何とかザクを撃破するも、ザクでようやくと言ったレベルの戦いだ。予想以上に急場凌ぎで調整したツケは大きいみたいだ。

 

「だけど……アルビオンをやらせる訳にはいかないんだ!」

 

 キース達はアルビオンから少し離れた位置で迎撃行動をしている、自分は対応し切れず突破してきた敵を何とか狙い撃つのに精一杯だ。

 

「ハァ……ハァ……!」

 

 目まぐるしく動く敵機を何とか倒そうとするも数が多い……!このままでは……!

 

「諦めるな!ウラキ!」

 

「こ、この声は……!バニング大尉!?」

 

 怪我をしてMSに乗れない筈の大尉が何故……!?

 

「くっ……、無理を押して来てやったんだ。そんな泣き声みたいな声を出すんじゃあない!」

 

「は、ハイ!」

 

「良いかウラキ、今のお前の機体はまともに戦えん。だがそう言う時は……!」

 

 そう喋っているとデブリに隠れていた敵機が死角から姿を表してこちらに攻撃を仕掛けようとしていた!

 

「バニング大尉!」

 

「そういう時は……!身を隠すんだ!」

 

 バニング大尉のジムは近くにあったデブリを1号機の方向へ押し出し敵の攻撃を防いだ。そしてその隙を見逃さずバニング大尉は一気に敵を撃破する。

 

「使える物は何でも使え!分が悪いなら尚更だ、生き残る為の工夫を巡らせろ、良いな!」

 

「ハイ!」

 

 その後も奮戦するが敵の数はまだまだ多い、機体も疲労もそろそろ限界だ……!

 

「ウラキ!動きが鈍いぞ!無理なら一旦後退しろ!」

 

「ま、まだやれます!」

 

『終わりだ!ガンダム !』

 

「なっ───」

 

 巧妙に隠れていたのか!?此方に悟られる事なく接近して来たゲルググに最早これまでかと目を瞑る……。大きな爆発音が響き死を覚悟したが、撃破されたのは自分では無かった。

 

「聞こえますか……?通信が聞こえますか?」

 

 女性の声……?それにあの青い機体は……?

 

「私は()()()()()()()()()、私達はEC社専属アグレッサー部隊です。援軍に駆けつけました、これより援護に入ります!機体にジオンの物を使用しているのでIFFの識別を確認し誤射を避けるよう願います。」

 

「え、援軍……!?」

 

 青い機体は連邦軍カラーのジオン製機体を引き連れ敵に攻勢をかける、その動きは一企業の私有している部隊と言うには勿体無い程の戦闘機動を見せる。

 

「かつての同胞を撃つのは偲び無いが……。」

 

「けど撃たなきゃこちらが撃たれる、やるしかないわよガイウス。」

 

「バネッサの言う通りだ、フィーリウス隊……出るぞ。」

 

 

 

ーーー

 

 

「あの……機体は……!」

 

 ルベドのスコープ越しに援軍に駆けつけたと思われる機体を確認する。

 連邦軍カラーのガルバルディ、リックドムⅡが2機……そして。

 

「青いヴァイスリッター……マリオンさん……?」

 

 機能実証機としてEC社で再度設計されたもう一つのヴァイスリッター……それに乗っているのは『システム』のテストを行なっているはずのマリオンさんだ。

 

『地球連邦軍所属のペガサス級アルビオン、並びにアマテラス級曙光へ。こちらEC社所有艦であるアマテラス級旗艦アマテラス、航行中戦闘を確認したので救援に駆けつけました。』

 

「アマテラス……?どうしてこの宙域に?」

 

 通信をしたいが距離が離れていて難しい、どう考えてもこの宙域に来るなどおかしな話ではあるのだが何か理由があったのか。

 いずれにせよこれなら状況は打って変わる、敵も退却を始めるだろう。

 

 

ーーー

 

 

『見慣れない機体……!貴様が指揮官のようだな!』

 

「黒いガンダムか、やはり手強い!」

 

 幾度かの衝突、激しい鍔迫り合いを起こしながらも状況は一進一退の状況であった。

 

『旧式の機体で!このニグレドと張り合おうなど!』

 

「ギャンをたかが旧式と捉えられて貰っては困るな。」

 

 白兵戦に特化された機体が、新型であるガンダム ニグレドに肉薄しその大型のサーベルでビームキャノンを切り落とす。

 

『イラつかせる……!死にたいようだなぁ!』

 

 重力という枷から外れたニグレドのファングが射出され、ギャン・へーリオスへと接近しシールドを貫く。

 

『ヒャハハハ!さっさと捨てちまわないと中に積んであるミサイルが爆発しちまうぜ!』

 

「……何者だ?何故それを知っている。」

 

 ファルシュ・リューゲは接触回線から流れ出る下卑た笑い声とその内容に一瞬困惑しながらも、必要なくなったシールドを捨て距離を取る。

 

「厄介だな。サイコミュの様な物を搭載しているとなれば強化人間……或いはニュータイプか。」

 

 ここで命を捨てる訳にもいかない。

 敵の援軍は到着し、奇襲によるアドバンテージは最早ない。

 既にデラーズの演説は始まっているし当初の目標は完遂した、これ以上戦う必要もないだろう。

 

「君とのダンスが終わるのは悲しいが私にもまだ役割があるのでね、ここでサヨナラさせてもらう。」

 

『逃す訳がないだろう!!!』

 

「逃げるさ。」

 

 待機させていた伏兵にガンダムを対応させる、その間に全軍に退却指示を出しザンジバルに帰投する。

 

「さて、時代はどう変わって行くか。」

 

 幾重にも張り巡らせられたデラーズの計略が実を結ぶのか、それとも連邦がその計を見破り彼を討ち倒すか。

 

「いずれにせよ地球圏には乱れてもらわねばならない()()()()の為にもな。」

 

 ファルシュ・リューゲは艦隊を引き連れ暗礁の中へ深く潜るのであった。

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