機動戦士ガンダム 紺碧の空へ   作:黄昏仮面

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第12話 それぞれの誇り(後編)

 

「おいテメェ!どこ見て歩いていやがる!」

 

 フォン・ブラウンの街に降り、ニナに渡されたメモを頼りに下層ブロックへと向かっている最中、喧嘩と思われる怒声が聞こえるのを確認し目を向けた時、そこにいるのが見知った自分の仲間だと気付いた。

 

「ぶつかっといて謝りもしねぇとは偉そうなガキじゃねぇか!連邦軍の制服着てる所を見れば軍人か?ガキが偉そうに!」

 

 殴り掛かろうとする男を止めようと走って向かうが、その前にレイの拳が相手に襲いかかった。

 

「な……っ……!」

 

「レイ!やめるんだ!」

 

「……っウラキか……!」

 

「チッ……味方かよ……!クソっ、テメェらなんてデラーズ・フリートにやられちまえば良いんだよアースノイドが!」

 

 暴言を吐き、よろけながら去って行く男がいなくなるのを確認して、レイが汗だくになっているのが分かった。

 

「酷い汗じゃないか!」

 

「ふん……ここまで走って来たんだ、汗くらい出るさ。」

 

「ここまで……!?」

 

 少なくとも港からここまではかなりの距離がある、僕でさえタクシーを使ってここまで来たと言うのに……。

 

「取り敢えず水を飲めよ。喉乾いたろ?」

 

「……ありがとう。」

 

 持っていた飲み物を渡すとレイは一気に飲み干す。脱水症状もあるだろうがそれ以上に体調も良くなさそうだ。

 ここに放っておく訳にも行かないし……。

 

「レイ、僕は今から人に会うんだけど一緒に行かないか?」

 

「……っ。アーウィンはそうは言ってくれなかったのに……。」

 

 一瞬レイが小さな声で何か言ったが聞き取れなかった。

 

「どうする?」

 

「あぁ……行くよ。今は行く当ても無いからな。」

 

 不本意そうだけど着いてきてくれそうで何よりだ、このまま一人にはしておけないからこの方が良いだろう。

 

「じゃあ行こうか。」

 

「それでウラキ、何処に行くつもりだ?」

 

「ん……?ああそうだった、言ってなかった。ニナからガトーの同僚だった人がこの近くにいるって言われてさ、デラーズ・フリートに参加するかもしれないから止めて欲しいって言われたんだ。」

 

「同僚……あぁアイツの事か。」

 

「知ってるのかレイ?」

 

「あのなぁウラキ、僕はアーウィンと一緒にアナハイムとEC社を監視してたって前に言っただろ。その時にソイツの事はもう調べてあるんだよ、こっちだ。」

 

 そう言えばニナのスパイ疑惑の時に色々調べていたと言ってたな、そう思いながら迷う事なく歩みを進めるレイについて行く。もうだいぶ前に調べた事だろうにその足並みは止まることなく一切乱れることはない、凄い記憶力だ。

 

「このジャンクの山から見える建物があるだろ?そこでジャンク屋をやってるんだよ。ケリィ・レズナー元ジオン公国軍大尉、一年戦争時はアナベル・ガトーと同じくソロモンの防衛部隊に所属していて当時の乗機はMAのビグロ、チェンバロ作戦の時に左腕を負傷して以後はパイロット資格を剥奪されて終戦を迎え、戦後このフォン・ブラウンでジャンク屋で生計を立てて生活をしている。」

 

「随分と詳しいんだな?」

 

「アーウィンがやたらと気に掛けていたからな、何故かは分からないけど。」

 

「レイはさ、アーウィンさんを本当に慕っているんだな。話している時の顔はホント活き活きしてるしさ。」

 

「当たり前だろ、アーウィンは僕にとって命の恩人なんだ。」

 

「……ん?待てよレイ、その言い方……。」

 

「あぁ、僕とアーウィンに直接的な血の繋がりはないよ。ただ苦しめられていた僕を助けてくれて、その後で兄の様に接してくれたのがアーウィンなんだ。」

 

 確かに兄弟と言うにはあまり似ている様には思っていなかったが、そんな事情があったなんて、……でも一年戦争で大勢の人に色々な事があったんだ、誰にどんな事情があってもおかしくはないんだよな。

 

「何ボヤっとしてるんだよウラキ。用があるならさっさと行こう。」

 

「あ、あぁ。」

 

 先程の不調さを見せなくなったレイと共にジャンク屋と思しき工場の前に着く。

 

「すみませーん。誰かいらっしゃいませんか?」

 

 静かな工場の中で声を出して呼びかけるが返答はない。

 

「すみませーん!」

 

「動くな。」

 

 突然背中に金属の物の様な冷たい感触が押し付けられる……銃か!?

 

「連邦軍が俺に何の用だ。返答次第ではタダではおかない。」

 

「ぼ、僕はニナに頼まれて貴方に会うように頼まれて来たんです……。」

 

「何?ニナさんが……?」

 

 背中にあった感触が無くなる。振り向くと其処には義手をした筋肉質な男性が立っていた。先程突き立てられていたのは銃に見せかけただけで義手だったのか。

 

「ケリィ・レズナーさんですか?」

 

「あぁそうだ。お前ら2人は連邦軍人か?今時の連邦は随分ひ弱そうな連中ばかりになったみたいだな。」

 

「あの、僕は貴方に用があって───」

 

「おい、さっきから思っていたが軍人なら『僕』なんて言葉を使うんじゃあない。そんなナヨナヨした言葉遣いをされたら虫唾が走っちまう。」

 

「は、はい。自分はニナに頼まれて貴方の様子を窺いに来たんです。」

 

「どうしてニナさんが俺を気に掛ける?デラーズ・フリートにでも参加されたら困るとでも思っているのか?」

 

 図星を突かれて一瞬ドキッとするがそういう反応を見せたら怒りそうだ。ここは適切に言葉を選ぼう。

 

「ニナは戦争で負傷した貴方がデラーズ・フリートに参加しないか不安に思っていました。だから自分にそれを確認して欲しいと。」

 

「なら何故ニナさん本人が来ない?それに元ジオン軍人の俺に連邦軍の人間を差し向ける、その理由はなんだ?」

 

「ニナは……自分とガトーは似ている所があるから自分なら貴方がデラーズ・フリートに参加するつもりなら止められるかもしれないと言っていました。だから止めに来たんです。」

 

 ガトーと似ている、そう言った途端ケリィさんが大声で笑いだす。

 

「お前とガトーが似ている?笑わせるな!ガトーはお前の様に生っちょろい男じゃない。」

 

「知っています!自分とは違う信念を持って、それをやり通そうとする強い意志を持っているのも。けど自分だってガトーがやろうとしている事を必死で止めたいんです!」

 

「ほぅ、その言い振りだとガトーと戦ったのか。それで生きてるなら大した奴だがな。」

 

「機体のおかげです、ガンダムじゃなければ自分は今頃……。」

 

 『ガンダム』その単語を発した瞬間、ケリィさんの目が大きく開かれる。

 

「ガンダムだと……?貴様……俺の腕がこうなった理由を聞いてないのか!」

 

「えっ……!?」

 

「ソロモンでの戦いで……俺はアムロ・レイの乗ったガンダムと戦ってこうなったんだ!ニナさんは俺に連邦軍人でガンダムのパイロットを寄越したって言うのか!バカにするのも大概にしろ!」

 

 怒鳴りながら自分に向かって義手を振り下ろそうとするケリィさんだが、何かがおかしい、戦場で感じる様な敵意が感じられなくそのまま棒立ちしているとやはり彼は腕を振り下ろすのを途中で止めた。

 

「馬鹿にしてたが中々肝の座った奴だな。お前もその隣の奴も。」

 

「怒鳴っているのに敵意が感じられなかったからね、元パイロットって言うなら本気でやるつもりだったらもっと殺気がある筈だからな。」

 

 レイも同じ様に思ったらしい、ケリィさんはニヤリと笑うと先程までの印象をガラッと変え話しかける。

 

「試して悪かったな。立ち話もなんだ、中に入れ。」

 

「はい、失礼します。」

 

 工場の中に入る、個人がやっているジャンク屋にしてはそれなりの設備が揃っているし綺麗に整頓されている。素晴らしい場所だ。

 

「さっきは邪険に扱って悪かったな、こっちも今はピリピリしてるもんでな。怪しい人間だったら追い返したかったのさ。」

 

 自分とレイにコーヒーを差し出される。この反応だと彼はデラーズ・フリートには参加しないのだろうか?連邦軍人の僕らがここにいる事を許容しているのだし。

 

「単刀直入に聞きますがケリィさんはデラーズ・フリートには参加なさるのですか?」

 

 遠回しに言うよりは単刀直入に聞こう。下手な小細工を仕掛けてもイラつかせるだけの筈だ。

 

「逆に聞くが、お前らはこの俺の姿を見て参加すると思うか?一年戦争で俺はパイロット資格を剥奪されたんだ、この腕のせいでな。」

 

「けどジオン公国は戦争末期に義手義足の人間でもMSに乗れる様にコクピットの改造とかしてただろう?それを利用すれば乗れると思うけどね。」

 

 レイはそう発言する、確かに昔見た資料か何かには大戦末期に負傷したパイロットすら戦力として活用する為に色々な事をしていたと聞いた事がある。

 

「中々察しが良いな。こっちに来い、良いものを見せてやる。」

 

 金属製の階段を降りると大きなシートを被っている何かを見つける、このサイズ……それにこの形状は……。

 

「MA……ですか?」

 

「そうだ、戦争末期に月で開発されていたらしいが結局完成せずに捨てられていた奴を俺が修理していた。」

 

 見たところ、殆ど外装は完成している。後は内部の細かな接続部のみだろう。

 

「ケリィさんはこれに乗ってデラーズ・フリートに参加するつもりなのですか?」

 

「……正直に言えば迷っている。初対面の連邦軍人の若造に言うのも何だがな。」

 

「迷って……?」

 

「ニナさんがお前を寄越したのも何も無策では無いって事だ。お前でも俺が止められる自信があるのさ。」

 

「それは……どういう事でしょうか?」

 

「……お前、名前は?」

 

「コウ・ウラキ少尉であります!」

 

「よしウラキ、言っておくが何に対してもすぐ人に質問するのをやめろ。自分で考えて自分なりの結論が出てから人に質問するんだ。」

 

 ……成る程、自分が質問ばかりしているのはあまり良い印象では無いようだ。

 なら考えろ……、ケリィさんは何に迷っている?何故ニナは僕でも止められると信じてここを教えてくれた……?

 思い出せ……ガトーの言葉を……。

 

「戦う……意味……、信念ですか?」

 

「そうだ。戦士とは闘争本能が全てだ、目の前の敵をただ倒す。それだけを成し遂げるための存在だ。」

 

「今のケリィさんにはその意志が無くなっていると?」

 

「それは違う。俺の腕をこんなにして、そして戦争に勝ってなお変わらない連邦政府に対しての怒りはまだ残っている。」

 

「なら、どうして?」

 

「それに対して暴力で解決するのが本当に正しいのか、ガトーやデラーズ閣下の様に再び独立戦争を掲げて戦う価値はあるのか、それが分からないのさ。」

 

「……ニナも言ってました、共和国になり自治権の獲得が出来たジオン、ネオ・ジオンの両国に合流する事も出来たのにと。」

 

「そういう事だ。昔と違い対話という路線がそれなりには用意されているし、其処に住む連中の意志を無視して力を奮えば同胞達はどうなる?ただでさえ俺達ジオンはコロニー落としで対外的なイメージは良くない。ザビ家だけのやった事とは言えないんだからな。」

 

「それが迷っている理由なんですね。他にも道があるという事が戦う事に迷いを与えていると。」

 

「理由の一つだ。ウラキ、お前は今連邦軍人をしているな、それは何の為だ?何を理由に戦う?何に誇りを持ち戦っている?」

 

「それは……。」

 

 ガトーが言っていた、信念を持たない者には話す舌を持たないと。

 自分が何の為に戦うのか……か。

 

「正直なところ、自分はガトーと戦うまで信念とは無縁でした。戦争があったから軍人になって、連邦軍に入ったからジオン残党と戦う為に訓練する……それに何の疑問も持っていませんでした。」

 

「ガトーに会ってそれが変わったって言いたいのか?」

 

「はい。ガトーのやっている事、それ自体には共感は出来ません。ただ確固たる信念を持って、それを成し遂げる為の執念……それを間近で見てから自分も決意を新たにしないとガトーを相見える資格が無いと感じたんです。」

 

「それで?どんな決意をしたって言うんだ?」

 

「軍人として、テロ行為を行うデラーズ・フリートを……それに与するアナベル・ガトーも止める。単純な結論ですけど、連邦軍の士官として自分の責務を果たそうと思います。一度は戦う意味さえ介せない男と言われましたが、今度は絶対にそんな事は言わせません。今はちゃんと戦う意味を持っていると自負していますから。」

 

「……成る程な、甘さは見えるが芯は立たせたと言う訳か。」

 

 ケリィさんは納得したのか先程より緊迫した雰囲気は無くなった。

 

「お前の様に愚直でも戦う理由があれば戦士として戦える。だが今の俺はそうじゃないのさ、戦う事に迷いを持っている。それはさっき話した事も含めてもう一つな。」

 

「ケリィ?お客様が来ているの?」

 

 話していると工場に女性が現れる、ケリィさんの知り合いだろうか?

 

「面白い客だぞラトーラ。連邦軍人だ。」

 

「……!?どういうこと、ケリィ?」

 

「なに、知り合いが俺がデラーズ・フリートに参加すると思って焦って遣いを寄越しただけだ。」

 

「そんな……ケリィはデラーズ・フリートに参加なんてしません!出て行って!」

 

 声を荒げ、此方に敵意を向けてくる女性にたじろいでいるとケリィさんがそれを止めた。

 

「落ち着けラトーラ、俺はデラーズ・フリートに参加はしない。その説明をしていた所だ。」

 

「……ケリィさん。失礼な話ですけど、ケリィさんが戦わない理由ってもしかして……。」

 

 ラトーラと呼ばれた女性を注視すると、腹部に膨らみが見える。下衆な勘繰りはしたくないがケリィさんが戦わない理由が何となく見えた。

 

「あぁ、彼女の腹の中には俺の子供がいる。」

 

「だからですか、ケリィさんが戦いに参加しない理由は。」

 

「一年戦争の頃、そして終戦して此処に流れついた時も俺の中にあったのは連邦への復讐心だった。月に潜伏していたガトーと一緒に連邦への恨みを果たす事を誓い、その為にこのMAも直しながら暮らしていたのさ。」

 

 ケリィさんは今までの自分の事を語り始める。

 

「そんな時、頼んでもいないのに俺の身の回りの世話を始めたのがラトーラだった。荒んだ俺を、邪険に扱う俺をそれでも見離さずに見守ってくれたんだ。そんな時、俺のジャンク屋に出資すると言う男が現れた。」

 

「出資?」

 

「あぁ、身元を明かさない足長おじさんとでも言えば良いのか、見返りは求めず金だけ出してただの寂れたジャンク屋だった此処をそれなりの工場にまでしてくれた。会った事すらない人間が何故俺に対してそこまでしてくれたのかは分からない。だがそのおかげで俺は心に余裕が出来て今までを振り返る事が出来た。」

 

「足長おじさんねぇ……。」

 

 レイは訝しみながらもケリィさんの言葉に耳を傾けている。自分もこの工場の設備をケリィさん一人で揃えたにしては怪しいと思っていたが理由を聞いたら納得できた、ただ誰が出資してくれたのかは謎だけど。

 

「考える時間の増えた俺は、牙の抜けた野獣も同然になった。闘争心は萎え、目の前にいてくれる女性を無碍に扱っていた事に恥じた。そして男としてケジメを付けて彼女を生涯護ると誓ったんだ。……そして目の前に俺が本当に戦う為の理由が出来た。」

 

 ラトーラさんのお腹を優しく撫でる姿は、確かに兵士と言うには最早似つかわしくない、優しい父親となる男の姿だった。

 

「と、言うわけだ。俺はもう軍人をやるつもりはない、ニナさんはそれを察していたのかも知れんが確証は無かったからお前を行かせたんだ。ガトーの様に不器用なお前を見せつければ少しは決心が鈍ると思ったんだろう。」

 

「ぶ、不器用ですか……。」

 

「愚直と言っても言いだろう。だがお前もガトーも折れない芯がある。それは兵士としての強さだ、俺にはもうそれが無い。」

 

「けど自分はケリィさんを尊敬します、貴方はラトーラさんやお子さんを護る為の戦士になったんですから。」

 

「ふっ、ありがとよ。……俺にはウラキ、お前もガトーも死んでほしく無いと思っている、お前とは会ったばかりだが昔の自分を見てるような気分になった。だがガトーも死地を共に駆けた戦友だ、どんな道を歩む事を決めてもその道を止めたくはない。」

 

「……。」

 

「だがそれは俺の感傷だ。お前はお前の誇りを、ガトーはガトーの誇りを持って全身全霊を以って戦うだろう。其処に口出しするつもりも無ければ権利もない。だが言っておくぞウラキ、悔いを残す戦いだけはするな。」

 

「悔いを残す……。」

 

「悔いを残せばそれはいつまでも心の中に燻る、『あの時何故こうしなかった』と永遠に解決しない事を考え続ける、そうならない様にこの戦いがどんな結末を迎える事になっても悔いだけは残すな。」

 

「分かりました、ありがとうございますケリィさん。」

 

「ニナさんにはよろしく伝えておいてくれ。俺の事は心配いらんとな。」

 

「はい!失礼します。」

 

 敬礼をし、レイと共に工場を後にする。

 初対面で束の間の邂逅ではあったが、ケリィ・レズナーという男性の心情に触れ、自分が連邦軍人としてどうあるべきかを再確認できた。ニナはそこまで考えていなかっただろうけど今回の件は自分に取っても大きな収穫となったのだ。

 

「……。」

 

「どうしたんだレイ?」

 

 先程からずっと静かだったレイに話し掛ける。何かをずっと考えていたようだ。

 

「何でもない、何でもないさ。」

 

「……?」

 

 そのまま自分の言葉を無視して歩みを進めるレイと共に、アルビオンへと戻って行くのだった。

 

 

ーーー

 

 

「……。」

 

「ケリィ、良かったの?」

 

「何がだラトーラ?」

 

 ウラキとレイという2人の連邦軍人が帰ってから数時間、ヴァル・ヴァロを整備しているとラトーラがそう話しかけてきた。

 

「本当は……今でもデラーズ・フリートに参加したいんじゃないかって……思っていたから。」

 

「さっきも言ったろう、俺にはもう兵士として戦う覚悟は無いってな。お前が気にする事じゃない。」

 

 確かに燻る心はある、兵士としてガトーと共に再び戦場で大義を掲げる……その姿を見たいと思う心もあるが、それは結局本心の大半を占めている訳ではない、中途半端な気持ちでは最早戦えないのは分かっている。

 

「ケリィ・レズナー大尉、いらっしゃるかね?」

 

 工場に男の声が響く。

 

「はい。此処に。」

 

「先日連絡したファルシュ・リューゲ大佐だ、貴官のモビルアーマーを確認しに来させてもらった。」

 

 複数の整備士らしいし人間を連れ、大佐を名乗る男が中に入っていく。

 

「ハッ、大佐自らご足労頂きありがとうございます。」

 

「何、我々デラーズ・フリートにとって大尉のモビルアーマーは貴重な戦力となるのでね。状態は自分の目で確認しておきたかったのだよ。ガトー少佐の為にもな。」

 

「ガトーは此処には……?」

 

「うむ、連邦は既に少佐がアナハイムのスタッフと関係があった事を知っているのでな。月面に降りるのは難しいだろうと来るのを断念した。」

 

「……」

 

 仕方のない事だとは分かってはいる、だがそれでも此処に来て欲しかったと言う気持ちが自分にはあった。

 

「大佐、ヴァル・ヴァロは既に殆ど完成してはいます。しかし内部の精密部品等が欠落しており、恥ずかしい話ではありますが自分では揃える事すら叶わず……。」

 

「構わんよ、……おい。」

 

「ハッ!」

 

 整備士数名がヴァル・ヴァロの確認を始める。

 

「大尉、機体の出来の方は気にしなくとも良い。最悪アナハイムから調達する。」

 

「ハッ……。やはりまだアナハイムとは繋がって?」

 

「そこは君の気にする所ではない。デラーズ・フリートには先日も言っていたが参加はしないのだろう?」

 

「はい。この腕ですから……何とか片腕でも操縦出来るよう調整はしましたが大事な作戦でヘマは出来ないことを考えると無謀だと。」

 

「大尉の実力はガトー少佐からお墨付きが出ていたがね、本人が難しいと言うなら無理強いはせんよ。」

 

「大佐!これなら何とかいけそうです!」

 

「よろしい、偽装した貨物船に積み込む準備をしろ。」

 

「ハッ!」

 

 整備士達が忙しなく動き始める、大佐は此方に向けてアタッシュケースを渡してきた。

 

「これはヴァル・ヴァロの手間賃だと思ってくれたまえ。」

 

「そんな……自分は同胞達のためにこれを組み上げたのです、金は受け取れません!」

 

「大尉、いやケリィ・レズナー『元』大尉。デラーズ・フリートに参加しない以上は君は同志では無く協力者でしかないのだよ。相応の報酬は受け取って貰わねばならない。」

 

「しかし……!」

 

「こんな時代だ、大義だけでは飯も食えないだろう。」

 

 大佐はラトーラの方に視線を向ける、確かに金さえあればラトーラや子供を育てるのに心配はいらなくなる……。

 

「という訳だ、受け取ってくれると此方も気遣いせずに済むのだがね。」

 

「……分かりました。有り難く受け取らせて頂きます。」

 

「うむ、物分かりが良くて此方も助かる。それではな。」

 

 大佐は護衛を連れ戻って行く、入れ替わりで積み込み用の人員が作業を始めていく。

 

「これで……良かったんだ。俺の戦いは……。」

 

 悔いは残る、だが俺にはガトーと共に戦う資格はない。ウラキに言ったように悔いの残る戦いをして生き延びた人間の燻りはこれほどまで人を惨めにさせるのかと自分を責めたくもなる。

 だが、これが俺の道なのだろう。あの時俺に道を指し示した誰かがくれた手紙にも書いてあったじゃないか。

 

「本当に自分を見てくれている人と共に歩め……か。」

 

 この工場に出資してくれた人間、男か女かも分からないが金と共に入っていた手紙にはそう書いてあった。俺の選んだ道は間違っちゃいない。

 大事な者を護る為の戦いはこれからなのだから。

 

 

 

 

 

「良かったのですか大佐?」

 

「何がかな?」

 

「ケリィ・レズナーです、何も金を渡す必要は無かったのでは?」

 

 部下の思慮の浅さに呆れながら、返答をする。

 

「君はもっと先を見るべきだな、確かにこの場のみに於いては使えるかどうかも怪しいモビルアーマーに金を払うのは軽率に見えるかもしれん。だが向こうもプロだ、半端な物は作っていないし先を見据えれば今の内に恩を売っておいて損はないのだよ。」

 

「先……ですか?」

 

「戦いはこの一戦で終わるとは限らないのだよ。後々の為に打てる手は打っておくのが私のポリシーなのでね。」

 

「了解しました。」

 

「それで、本命の方はどうなっている?」

 

「ハッ、アナハイムのオサリバン常務からは偽装が済みいつでも積み込めるとの事です。」

 

「よろしい、支度は早く済ませたまえ。」

 

「了解です!」

 

 此方の荷物さえ受け取れれば、モビルアーマーは物のついででしかない。

 この機体が『我ら』の新しき象徴となるのだから。

 

 

ーーー

 

 

「ケリィ・レズナーはやはり参加はしないか。あの男なら参加するか五分五分であったが……。」

 

 ケリィ・レズナーの工場を見下ろしながら、アーウィン・レーゲンドルフはそう呟いた。

 

「……お前はこんな甘い俺を見たら笑うだろうな。世界を恨み、壊すつもりの男が情をかけるなどとな。」

 

 此処にはいない、誰かにそう語りかける。

 答えは返って来ることはない。今までも、これからも。

 

マルグリット……俺ももうすぐ其処に行く。アイツが作った未来を壊してな……。」

 

 行き場の無くなった怒りは、その終着点のみを求めて動き続ける。

 

 

 運命の刻は迫ろうとしていた。

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