機動戦士ガンダム 紺碧の空へ   作:黄昏仮面

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第13話 運命の刻

 

「ワイアット提督!ですから観艦式の中止を……!」

 

 この数日に渡る再三の忠告、しかし宇宙艦隊司令であるグリーン・ワイアット大将は呆れるように返答する。

 

「エルデヴァッサー大佐、何度も言わせて欲しくは無いのだがね。君の言う通り奪われたガンダム試作2号機が仮に観艦式を狙っていたとしよう。であればそれが単機であれ艦隊であれ、逐次殲滅して行けば良いではないか。観艦式に集まっている戦力は連邦宇宙艦隊の三分の一を占める、それをジオン残党がどうこう出来ると君は本当に思っているのかね?」

 

「しかし……!」

 

「何よりもだ、この事態はコーウェン中将とアルビオンが招いた事態なのだからね。尻拭いは彼らにしてもらわねばならない。良いかなエルデヴァッサー大佐、君の曙光は観艦式に参加したまえ、そしてそこで彼らが本当に奇襲を仕掛けて来るのであれば迎撃すればよろしい。」

 

「……っ。」

 

「納得してくれて何よりだ、それでは観艦式でまたお会いしよう。」

 

 通信が切れると共に私は大声で怒りの声を上げる。

 

「……分からず屋!事態の重さを分かっていないのはどちらなのですか!」

 

「アンナ隊長、部下の手前です。」

 

 ジュネットが言葉を堰き止める、クルーの姿を見ると今の私の大声に困惑したようだ、慌てて普段の冷静さを取り戻す。

 

「すみません、取り乱しました。」

 

「私としては、逆に安心しましたが。」

 

 私にだけ聞こえるように小声で微笑みながらそう返す。

 

「しかし……上層部は楽観視が過ぎますね。」

 

「仕方ないのではありませんか?実際に戦力比を考えればワイアット提督のお考えは何らおかしくはありませんから。」

 

「けれどジェシーの予言が確かであればアナベル・ガトーは奇襲を成功させるでしょう。何とかしなければなりません。」

 

 限られた条件の中で、最善の手を打とうと考えているとブリッジの入り口が騒々しいのに気付いた。

 

「ですから!今アーニャ様はお忙しいと言っていますでしょう!?」

 

「其処を何とか!少しだけでいいんだ!」

 

「この声は……。」

 

 聞き覚えのある声が2つ。ブリッジのドアを開けると見知った2人が現れた。

 身内でEC社幹部のアレクサンドラ・リヴィンスカヤとビスト財団のアルベルト・ビストだ。

 

「サーシャ、それにアルベルト様?どうなされたのですか?」

 

「アーニャ様!聞いてくださいまし、この御仁はアーニャ様は作戦行動中で忙しいと何度言ってもお目通しをさせて欲しいと何度もせがんで来るのですよ!」

 

「落ち着いてくださいサーシャ。アルベルト様、如何なされたのですか?月に降りてそのままビスト財団に戻る筈では……?」

 

「その……、此処だけの話にして欲しいのだけど僕はビスト財団を、いやビスト家を出たんだ。それで恥ずかしい話ではあるけれど少しの間だけEC社で雇って貰えないだろうか!?」

 

「……えっ?ビスト家を離れたと言うことですか……?一体何故……。」

 

「僕なりに色々考えて、ビスト財団やアナハイムのやり方にはついて行けないと感じたんだよ、父達のやり方は間違っている。」

 

「それで路頭に迷っていてはおかしな話ですわ。産業スパイの可能性も有り得るのに我が社で雇うなど言語道断ではありませんこと!?」

 

「何度も言いますが落ち着いてくださいサーシャ。アルベルト様はそのような策略とは無縁の方です。」

 

「むぅ……。であるならば如何なさるのですか?」

 

「その事もですけれど観艦式の方も何とかしなければなりません、はぁ……抱える事が山積みですね。」

 

「観艦式?連邦宇宙軍が執り行う観艦式かな?何か問題が?」

 

「えぇ、敵が奪った試作2号機の所在が掴めず奇襲の可能性もあるので観艦式の中止を再三呼び掛けをしているのですが通らず……結局は曙光も観艦式に参加せよとの通達が来ました。」

 

「アンナさんは観艦式に参加するつもりは無いということかな?それよりも奪われたガンダムを追うつもりなんだね?」

 

「はい。しかし軍規違反を犯す訳にも行きませんし……。」

 

「うーん……、そうだアンナさん。司令部は『曙光の参加』を求めたんだろう?」

 

「……?えぇ、そうですけれど。」

 

「なら『曙光』だけ観艦式に参加させれば良いんじゃないか?」

 

 そう言われて、ハッとする。

 

「成る程……その手があったか。」

 

 ジュネットも同じ発想に至ったようだ。

 今このフォン・ブラウンにあるEC社の艦は一つではない。

 

「曙光をコンペイトウに行かせ、アマテラスで試作2号機の追撃を続行。この作戦で行きましょう。」

 

「中々上手く考えるものですね、少し見直しましたわ。」

 

 機転を利かせた助言をくれたアルベルト氏にサーシャも見直したようだ。

 

「悪意は見えないようですし、一時私預かりでアマテラスに随伴させる事にしましょう。よろしいですねアーニャ様?」

 

「えぇ、アルベルト様もそれでよろしいですか?」

 

「あ、あぁ!願ったり叶ったりだよ!それでだアンナさん。僕はもうビスト家の人間ではないし『様』なんて呼び方はやめてくれないか?」

 

「分かりました。よろしくお願いしますアルベルトさん。」

 

「それで、曙光はコンペイトウに向かわせるとして配置はどうするべきでしょうかアンナ隊長。」

 

「……一度グリム達も含めて話し合う必要がありますね。主だった人間はアマテラスのブリッジに招集します。」

 

 

 

 そして数十分の時を経て、リング・ア・ベル隊のメンバーとEC社に属するメンバーが集まった。

 

「それでは皆さん、現在の我々の状況を説明します。……ジュネット。」

 

「ハッ。我らリング・ア・ベル隊は主任務であった奪われたアナハイムのガンダムを奪還する為に行動していた。そして核を積んだガンダムがコンペイトウで行われる観艦式を強襲すると踏んで、その中止を宇宙艦隊司令であるグリーン・ワイアット提督へと打診したが受け入れられず、曙光を観艦式に参加させよとの命令を下された。その為本来の任務であるガンダム奪還は中止せざるを得なくなった。」

 

「しかし、私達はガンダム奪還を諦める訳には行きません。このままアナハイムの試作2号機を無視すれば大きな災厄を引き起こすのは明白なのですから。ですから私達はワイアット提督の打診通り『曙光』を観艦式に参加させアマテラスを率いガンダムの捜索を再開します。」

 

 説明をしていると、グリムが挙手する。

 

「隊長、よろしいですか?」

 

「構いませんよグリム。」

 

「隊長の理屈は分かりますが、上層部はそれを良しとしないでしょう。曙光にMSが乗っていないと分かれば問いただされる可能性は高いです。」

 

「分かっています。ですから最低限の部隊は置かなければなりません。」

 

「でしたら自分とベアトリス、セレナは曙光に残ります。士官さえ残っていればワイアット提督も深くは追及しないでしょう。それにコンペイトウに奇襲があれば内側から対応もできます。」

 

「しかしグリム、もしも2号機を止められなかった場合は貴方達にも被害が及びます……その時は───」

 

「その時は起こらない。そうでしょう隊長?」

 

「……えぇ。必ず止めて見せます。」

 

「アマテラス隊はアンナ隊長を中心にマリオンさん、フィーリウスさん、ガイウスさん、バネッサさんにお任せします。……隊長をよろしくお願いします。」

 

「この薔薇の紋章に誓って、お任せくださいグリム中尉。」

 

 グリムとフィーリウスさんは互いに敬礼を交わす。

 

「隊長、私も曙光に残り艦の統率を行います。アマテラスにはメルクリウスがありますので戦況分析はそちらの方が優秀でしょう。」

 

「危険な任務になります、みんな……どうか気をつけてください。」

 

『了解です!』

 

 全員が決意を固めた。後は奪われたガンダムを取り戻すか、或いは破壊するだけだ。

 ジェシーが願った未来の為に、必ず核攻撃は止めてみせる……!

 

 

 

ーーー

 

 

 アナベル・ガトーは静寂が身を包む宇宙の中、数日前の事を思い返していた。

 

「閣下、ただいま戻りました。」

 

 ガンダムを強奪し、茨の園に帰還してデラーズ閣下に謁見をする。

 

「うむ、大任を良く成し遂げてくれた。」

 

「ハッ、多くの同胞を犠牲にして掴み取った物です。私1人では成し遂げる事は叶わなかったでしょう。」

 

「同胞達の無念を晴らす為、そして連邦に拉致されたギレン閣下の為にもこの星の屑は何としても成功させねばならない。」

 

「一つお伺いしてもよろしいでしょうか閣下?」

 

「言わずとも分かっておる。ファルシュ・リューゲ大佐の事だろう。」

 

「ハッ……。あの様な身元も分からぬ輩を何故重用なされるのですか?独立戦争の折、あの様な将校の名前は聞いた事がありません。」

 

「フッ、ファルシュ()リューゲ()などと名乗っておるのだ。偽名であろう。だが彼奴がおったからこそ我々はここまでの反抗が出来るのだ、それはお主も分かっておろう。」

 

 補給物資やMSの整備部品、その他多くの資材が彼の手によって供給された。

 茨の園や自身もその恩恵に肖っているからこそ、疑念が生まれているのをガトーは感じるのであった。

 

「閣下……あれだけの物資……揃えられるのは恐らく。」

 

「うむ、女狐が関わっておろうな。本作戦も最終的には多くの人員をアクシズへ逃す手筈になっておるのだからな。連邦軍の鹵獲兵器用の物資が横流しされるのもマ・クベがオデッサから撤退する際に引き連れた連邦軍のエルラン中将が関わっているのだろう、蛇の道には蛇と言うからな、同じ連邦の抜け道などには詳しかろう。」

 

「最終的にキシリアの利になると言うのであれば、我々は……!」

 

「ガトーよ、それは違う。確かにキシリアの女狐の利になろうとも、我らは我らの大義を成し遂げねばならん。連邦がいつギレン総帥を殺すか分からぬ状況では長く時間は掛けられぬのだ。」

 

「閣下……。」

 

「大局を見よガトー。キシリアの思惑など大事の前の小事なのだ。星の屑を以ってギレン総帥の解放を達成させてしまえば後は閣下が再びスペースノイドの独立を掲げてくださる。我らはその人柱となるのだ。」

 

「閣下、心が洗われました。このガトー、全身全霊を以って星の屑を成就させてみせます。」

 

「うむ、頼んだぞガトー。」

 

 

 

 

「ガトー少佐、そろそろお時間です。」

 

 心地よい静寂の時間が終わる。既に多くの人員はソロモンへ向け部隊、艦単位で散発的な攻撃を仕掛けている。

 ……それらは全て我々の為に捨て石となるべく動いている、残党軍は兵力不足だと敵に認識させる事で警戒を薄くさせ包囲網を突破し易くさせるのが狙いなのだ。

 時折一つ、また一つと星が輝く様に爆発が起こる。同胞達の魂の輝きだ。

 

「少佐、作戦が開始されたらまず私のヴァル・ヴァロと共に敵の防衛網の外縁を強行突破致します。その後私が敵の陽動を引き少佐はガンダムで所定のポイントにて核攻撃を。」

 

「了解した。……どうだカリウス、そのモビルアーマーの乗り心地は?」

 

「はい。ケリィ大尉の魂を背負っている様な感覚になります。慣熟も問題ありませんでした。」

 

「うむ。奴もこの場に来て戦いたかった筈だ。ケリィの魂の分も我々はやらねばならん。」

 

「この海に散った同胞達もそう願っているでしょう……。時間です少佐!」

 

「よし、行くぞ!同胞達の無念を晴らす為に!」

 

 

 

ーーー

 

 

「2号機の発見はまだか!」

 

 アルビオンの艦橋でエイパー・シナプス大佐が叫ぶ。

 

「MS隊からは報告ありません!しかし散発的であった敵の行動が急に纏まり始めました!」

 

「エルデヴァッサー大佐の読みが当たったか……!アマテラスの位置はどうか!」

 

「此方からでは確認できません!リング・ア・ベル隊は独自の行動を開始しました!」

 

 ミノフスキー粒子も戦闘濃度となりアマテラスとは通信は出来なくなった。

 恐らくは2号機が行くであろう進路を予測して動いたのであろう、あの艦は高速艦であり先んじて進路を防ぐことも可能な筈だ。であるならエルデヴァッサー大佐が我々に期待していることは……。

 

「現在火砲が集中している所には2号機は来ない筈だ!アナベル・ガトーであれば防衛網の一番厚い所を……自陣の中央を突破するはずだ、エルデヴァッサー大佐達が向かっているであろう場所へ進路を取り敵を挟撃する!」

 

 

 

「バニング大尉!アルビオンからのレーザー通信です!これは……!」

 

 敵の攻撃が始まり、対処をしている最中に新たな通信が入った。

 ポイントが更新されてアルビオンは観艦式の防衛網の一番厚い所に移動する事になっている。つまりは……。

 

「成る程な、艦長はこの地を熟知しているアナベル・ガトーなら敵陣の強行突破も不可能では無いと踏んだようだ!」

 

「此処からでは距離があります!一度アルビオンに戻りますか!?」

 

「……いや、ウラキ。お前は1号機でガトーを追うんだ、お前の今の機体なら俺達やアルビオンより先駆けてガトーを追うことが出来る!」

 

「し、しかし!」

 

 自分の力量では不安だ、そう思った時だった。

 

「今のお前なら根性も腕も一人前だ!行けウラキ!ガトーを止めるんだ!」

 

「……了解です!」

 

 月で宇宙用のコア・ファイターに換装し、更に機動力向上の為に増設した機体各部のブーストスラスターのお陰で今の1号機の機動力は暗礁宙域でエルデヴァッサー大佐が使用していた高機動ユニット使用時と同レベル以上に上がっている。これなら単騎で追う事も不可能ではない。

 

「コウ・ウラキ、突撃します!」

 

 フルスロットルで指示されたポイントへと直行する。

 待っていろガトー、何としてもお前を止めてみせる……!

 

 

 

ーーー

 

 

『コンペイトウの環境データを観測しました、データを表示します。』

 

 AIに高速で読み込まれ分析された宙域の環境データが艦橋のモニターに映し出される。

 戦闘の始まった場所や、観艦式の旗艦であるバーミンガムの位置情報などが羅列され現在の戦況がはっきりと分かる。

 

「敵は……いえ、アナベル・ガトーは恐らく自陣の中央へむかうはずです。」

 

「自陣の中央?観艦式の旗艦であるバーミンガムがいる所か!?流石に無謀なんじゃ……!?」

 

 アルベルトさんが驚愕する、誰もがそう感じるだろう。だが私には彼が動くであろうという自信があった。

 

「彼はこのコンペイトウ……いえ旧ソロモン宙域のエースで、言わばここは彼の庭でもあります。どの様に動けば最適な進路を取れ、尚且つ打撃を与えられる場所へ行けるか知っている筈です。それに彼は私達連邦軍を惰弱だと思っています、敵陣の中央突破など造作も無いという自信もあるでしょう。」

 

「それに対する連邦軍の侮りもあると言うことですわね?残党軍が相手という侮りもあるでしょうけれど、あの大戦から数年、大きな戦乱もなく後方勤務であった艦隊では練度が不足してもいるでしょうし戦力が上回っていたとしても、もしもが起こってもおかしくはありませんわね。」

 

 サーシャの言葉に頷く、そして何より無謀な戦いだと思われても断固たる決意を持った人間の前にはもしかしたら……という可能性もあるのだ。

 それはソーラ・レイを止めた時の私達も同じなのだから。

 

「メルクリウス!敵が核攻撃を行う場合、最も効果的な位置の算出を!」

 

『了解です……算出結果を表示します。旗艦バーミンガムをコンペイトウ上空より砲撃した場合が一番効果的となります。』

 

「アマテラスはコンペイトウ上空へ全速前進!敵を迎え撃ちます!総員戦闘配置!」

 

『了解!』

 

 止めてみせる、彼の願ったより良い世界の為に。……だからジェシー、私に力を……。

 

 

 

ーーー

 

 

「閣下!敵の一部が防衛網を突破したとの報告です!」

 

「焦らず迎撃せよと通達したまえ。敵は所詮少数だ、いずれは疲弊し倒れるだろう。」

 

 グリーン・ワイアットには勝算があった。圧倒的な戦力差、更には性能差もある。これで負けてしまうのであれば滅んで然るべき軍隊と言えるだろう。

 

「ふっ、しかしかつては無敵と謳われたスペイン艦隊も敗れたのだ。盛者必衰になるかも知れないと気を引き締めるべきかな?」

 

 ペズンのリング・ア・ベル隊だったか、アンナ・フォン・エルデヴァッサー大佐率いる部隊が再三の忠告をして来たが、私とて試作2号機を甘く見ている訳ではない。

 この連合艦隊に核が撃ち込まれれば大損害どころではない。連邦宇宙軍そのものが壊滅的な戦力低下となり、宇宙における治安維持活動においても致命的な損害となるだろう。

 

 しかし、それでもこの観艦式は成功させねばならないのだ。

 此処で及び腰を見せればそれこそジオン残党は勢い付くだろう。アクシズに潜伏しているキシリア一派も連邦に兵なしと地球圏への早期帰還を狙うかもしれない。

 更に言えばいつジオン、ネオ・ジオン共和国も反旗を翻すか分からなくなる。そういう意味でも我々は既に退けない状況となっているのだ。

 

 敢えてリスクを冒してまでこの観艦式を強行するのはそれが理由だ。

 我々の力を誇示し、そして敵に気勢無しと内外に示さなければ後の時代の災いがいつ生まれるか分からないのだから。

 

「私はこの一戦を以て、ジオン公国残党を無力化させる。だからこそ何があってもこの観艦式は成功させねばならない。……時間だ、演説を開始する。紳士は時間に正確であらねばな。」

 

 未だ小競り合いが続いている状況だが問題あるまい。そう思いながらグリーン・ワイアットは演説を開始するのであった。

 

 

 

ーーー

 

 

『宇宙暦0079。つまり先の大戦は、人類にとって最悪の年である。 この困難を乗り越え今また三年ぶりに宇宙の一大ページェント、観艦式を挙行できることは地球圏の安定と平和を具現化したものとして喜びに耐えない。 そも、観艦式は地球暦1341年、英仏戦争の折、英国のエドワード三世が出撃の艦隊を自ら親閲したことに始まる。』

 

「始まったか……!」

 

 ガンダム試作2号機は宇宙を駆けながら、耳に障る演説に反吐が出るのを感じオープン回線を閉じる。

 

「ガトー少佐!此処は私にお任せください!少佐はコンペイトウ……いえ、ソロモンへ!」

 

 メガ粒子で近寄る敵を薙ぎ払うカリウスのヴァル・ヴァロが道を開く。

 

「頼んだぞカリウス!」

 

 2号機は出力を更に上げ目標ポイントまで前進を開始する。

 

 

 

ーーー

 

 

「グリム隊長!試作2号機を確認!」

 

 セレナからの通信と共にコクピットにアラートが鳴り響く、試作2号機に赤いMAが随伴している。MAの方は味方の艦隊にメガ粒子砲を斉射し艦船を何隻か撃墜している、凄まじい火力だ。

 

「2号機を追うんだ!敵を前進させてはいけない!」

 

「了解です!」

 

 曙光MS部隊の3機が2号機を追おうとするも、敵のMAからの砲撃に阻まれる。

 

『行かせはせん!ガトー少佐の為にも!星の屑成就の為にも!』

 

「邪魔をするなぁぁぁ!」

 

 ビーム・ルガーランスⅡによる直接攻撃を試みるが敵は狙いに気付くと此方から距離を取った。

 

『あれは……ドズル閣下を仕留めた武器か!閣下の弔いに、貴様らの首を頂く!』

 

 敵のMAは何かの兵器を射出する、回避するがそれらの武器は轟沈した3隻に張り付くと……。

 

『掛かったな!プラズマリーダーを喰らえ!』

 

「なっ!クッ!?」

 

「キャァァァ!」

 

 突然身体に電撃が走る。これは敵の兵器の効果か……!?

 

『これがヴァル・ヴァロだ!その首……頂く!』

 

 身動きすら取れず、敵のクロー攻撃に成す術なく撃破される……と思ったその時であった。ビーム光が敵の設置した内の一基を撃破し、コクピットを狙った敵の攻撃はギリギリの所で回避する事に成功し左腕だけの損失で済む。

 

『新手か……!?あれは……ガンダム!』

 

「グリム!みんな!大丈夫ですか!?」

 

「た、大佐……!」

 

 ガンダムルベドが更に敵にビームで攻撃する、だが何らかのビームコーティングを施しているのか致命傷になり得ていない。

 

「大佐……此処は良いから2号機を……!」

 

「貴方達を見捨てる訳には……!」

 

「アンダーセン大尉の願いを裏切らないでください……!どちらにせよ2号機を止めなければ僕達は死ぬだけです……!」

 

 満身創痍だが、やらなければならない。それが僕達に出来る唯一の事なのだから。

 

「ここは私とバネッサにお任せを!エルデヴァッサー大佐はフィーリウス様とマリオン様と共に2号機へ!」

 

 ガイウスさんとバネッサさんのリック・ドムⅡが援護に回る。先行して2号機を追っているガルバルディと青いヴァイスリッターは二人に後を任せたようだ。

 

「くっ……みんな、死なないでください……!」

 

 ホーネットユニットのフルスロットルで先行した2機を追うルベドを確認する。敵もそれをみすみす逃すつもりはないようだ。

 

『行かせはせんぞ!ガンダム!』

 

「それは……こちらのセリフだ!」

 

『死に損ないにドムが援護だと……!大義無き者にジオンの機体が使い熟せる訳が無かろう!』

 

「生憎だが我々にも大義が……恩義があるのでな!」

 

「どちらの誇りが強いか、見せてもらおうじゃないか!行くよガイウス!」

 

「おうよ!」

 

 ガイウス機とバネッサ機が敵を引きつけ始める。今の内に体勢を整えろと言っているのだろう。如何にあの二人と言えどあのMA相手では分が悪い。

 

「セレナ……ベアトリス、二人とも動けるか……!?」

 

「くっ……、こちらセレナ……何とか……。」

 

「こちらベアトリス……こんなのカルラさんのゲンコツに比べたら……なんとも……ないです……!」

 

 二人とも気力だけで持ち堪えている状況だ。それは自分も同じだが、それでも敵を止めるという気持ちは少しだって無くなっていない。

 

「君達二人を部下に従えられて、隊長として誇らしい限りだ。……行くぞ!」

 

『了解です!』

 

 これで死んでも構わない、そう思えるくらいに全身全霊で僕達は戦う……!

 

 

 

ーーー

 

 

『敵のガンダムが急速に進行しています!』

 

「余りに脆弱な者どもだ。こうも容易く私は貴様達をすり抜けられる!」

 

 敵の迎撃はかつての大戦時より遥かに劣り、まるで子供の遊戯の様に隙だらけであった。

 一歩、また一歩、目標ポイントへと確実に歩みを進める。

 

「待ちに待った時が来たのだ!多くの英霊が……無駄死にでは無かった証の為に……!」

 

 急速にソロモンの上空へと駆け上がる、敵は見失った私に気付く気配すらない。

 余りにも、余りにも弱い。この様な人間達によって多くの同胞が失われた、それに報いる時が漸く来たのだ。

 

 アームに保持されたバズーカの基部がシールド裏に格納されていたバレル部と接続される。

 

「再びジオンの理想を掲げる為に……。」

 

 シールドを固定しバズーカの発射工程を済ませて行く。

 

『アナベル・ガトー!やらせはしない!』

 

『間に合え……間に合えーーー!』

 

 トリントン基地で相対し、幾度となく邪魔をしてきたガンダム達が遠方から姿を見せた、間に合わないとは思うが機動力は恐ろしいものがある、早く砲撃終わらせなければならない。

 

「星の屑、成就の為に……!」

 

 

ーーー

 

 

「クッ……!既に砲撃体勢が整っている……!」

 

 ホーネットユニットの最大機動で追っているのにギリギリ届くかどうかだ、何としても止めなくてはいけないのに。

 

「エルデヴァッサー大佐!」

 

「ウラキ少尉!」

 

 ウラキの試作1号機が此方に追従する、宇宙戦用に換装され多数のブーストスラスターを付けた事により今のルベドよりも高速で動ける様になっているようだ。

 後続にマリオンさんの青いヴァイスリッターとそれに少し遅れてフィーリウスさんのガルバルディが続く。

 

「間に合え……!」

 

 焦るウラキ少尉の言葉に私の手にも汗が流れるのが分かった。狙撃用のビームライフルを構え、先に攻撃を敢行しようとしたその時であった。

 

『行かせはしない、アンナ・フォン・エルデヴァッサー。』

 

 私の行く手を遮ったのは、黒いガンダム……ガンダムニグレドであった。

 

「アーウィン・レーゲンドルフ!?何故邪魔をするのです!」

 

『あるべき未来へと辿り着く為……、2号機には核攻撃を成功させて貰わないと困るんだよ……!』

 

「レイ!アーウィンさんを止めるんだ!このままじゃガトーが!」

 

『ダメだ……ダメなんだウラキ……!アーウィンは僕の操作をロックしている、やめてくれアーウィン!こんな事を許す為に僕達は戦って来たんじゃ無かっただろ!?』

 

『ククク……、これが俺の本当の願いなんだよレイ!業火に燃える連邦艦隊、そしてこの後で始まる悲劇!それが俺が本当に待ち望んだ、本当の未来なんだ!!!』

 

 アルベドの砲撃は更に増し、此方は後少しの距離を詰められずにいた。

 

「やめて!乱暴な事は……!そんな事()()()()()()さんだって望んでいないわ!()()()()さん!……!?私、今何を……!?」

 

『ニュータイプ!マリオン・ウェルチか!俺の心を読んだ所でもう遅い!』

 

 ヴァイスリッターと鍔迫り合いを起こすニグレド。その通信に、その内容に困惑し一時操縦桿を握る手が緩む。

 

「ジェシー……!?」

 

「エルデヴァッサー大佐!2号機が!」

 

 フィーリウスさんの声で現実に戻され、急いで狙撃を試みるが敵は既に砲撃の準備を終えていた。

 

 

 砲撃用のバズーカの連結、発射体勢の固定、構えられた冷却用のシールド。

 そう、核攻撃に移る全ての攻撃動作が()()()()()()

 

『アハハハハ!さぁ、あるべき未来へと至ろうじゃないか。その力を見せろガンダム!』

 

 アーウィン・レーゲンドルフの下卑た笑いが、コクピットの中で響く。

 

『ソロモンよ!私は帰ってきた!』

 

 そして……

 

 

 

 

 

 宇宙に、静寂だけが残った。

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